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山口副総裁記者会見要旨 ( 7月 5日)

平成13年 7月 5日・宮城県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年 7月 6日
日本銀行

―平成13年 7月 5日(木)
午後 4時10分から約40分間
於 ホテル仙台プラザ

【問】

宮城県で金融経済懇談会が開かれるのは、およそ2年半ぶりと聞いているが、先日発表された短観では、東北地方の景況判断の悪化が鮮明となった。本日の懇談会では、参加者からどのような意見が出され、それに対して副総裁はどのように答えられたのか。

【答】

当地の代表の方々から実情に則した話をうかがい、私自身大変参考になった。東北地方は、かねてIT分野のウェイトが高まっていた地域だが、本日は、IT分野のみならず広く製造業全般について、「輸出の減少が引き金となって生産が大幅に減少している」というお話を承った。日本銀行では、全国ベースでの経済情勢の判断として、「経済の調整が深まりつつある」という認識を持っており、こうした判断は、製造業なかんずくIT分野の調整がかなり大きくなってきている点に着目したものである。本日承った東北地方の製造業に関するいくつかのお話も、全国ベースで私どもが持っている判断と符合している、整合的である、という感想を持った。

このほか、製造業の方々から、「工場の海外移転が一方的に進むと、日本の技術力や雇用の維持・確保といった点について、将来愁うべき事態が起こるかもしれないので、そういうことを念頭に置いて、できる限りの対策を考えていく必要がある」とのご意見もあった。日本銀行では、一般的な経済に対する判断の中で、「構造調整が持つ意味合いが重要である」ということを従来から申し上げているが、当地の方々のお話の中にも、このように構造調整に対する様々な問題が触れられていた。例えば流通業において、「いわゆる中抜きの動きがなかなか止まらない」という発言があった。これには、一般的な理解を持っていたが、具体的な話を聞くことができ、とても参考になった。

全体として、東北地方は、質問にもあったとおりここ数か月経済情勢の悪化が進んでおり、特にIT部門のウェイトが高い地域だけに、大変厳しい状況に置かれているという印象を受けた。

【問】

政府の中には、物価の上昇をポイントにした政策を求める声があるが、これについてどのようにお考えか。

【答】

従来からわが国の消費者物価は緩やかな低下傾向を辿っており、今もそれが続いている。消費者物価の内訳をみると、わが国の場合、「モノ」の価格、すなわち「財」の価格は、若干下落しており、前年比1%弱の下落となっている一方、サービスの価格については、ほぼ安定状態、ゼロインフレの状態にある。わが国の消費者物価では、両者のウェイトがほぼ接近していることから、両者を平均して0.5%程度の下落が生じている。他方、米国や英国等の場合、「モノ」、「財」の価格は近年ほぼゼロインフレで極めて安定しているが、サービスの価格が年間3%程度上昇している。これが日本との大きな違いである。その一番大きな理由は、米国や英国等では賃金が上昇を続けており、これがサービス価格の上昇に撥ね返ってきているためだと思う。

このように、いわゆるグローバリゼーションの中で貿易関係が益々重要になってくる下で、世界的に「モノ」、「財」の価格が上がりにくいという状況が生じている。日本の場合は、それが若干の下落という形になっているが、「モノ」の価格がゼロインフレ、あるいは若干のマイナスになるのは、多くの先進主要国における共通の現象ではないかと思う。その中でも、特に日本の場合は、輸入消費財の流入傾向が、近年、一層明確になってきており、海外の比較的安い消費財を日本の消費者が使えるようになってきた結果、消費者物価の中でも、輸入品あるいは輸入品と競合する商品の価格の低下が明確になっている。

こうした「モノ」の価格の低下傾向はそう簡単には変わらないので、仮に消費者物価の下落を止めようとすれば、サービス価格が上がる必要がある。この点、わが国でも、今のところ極めて安定している賃金が、欧米諸国のように上がるような状況になれば、サービス価格に変化が生じる可能性があろうかと思う。

要するに、「労働市場の状況が改善する。その背景として、経済成長率が上昇する。景気が改善する」という事態が起こらないと、物価の動き全体に変化が生じるということは、なかなか考えにくいということである。「資金の供給量を増やしさえすれば、物価の動向に変化が出てくるはずだ」というような論調もあるが、やはり、物価は経済全体の動きの中で決まってくると考えるべきではないかと思う。

【問】

政界の一部には、「日本銀行は、インフレ・ターゲティングについて改めて検討するべきではないか」との声も聞かれるが、現時点での副総裁の考えをお伺いしたい。

【答】

インフレーション・ターゲティングの是非については、昨年、私どもが「物価の安定について」というレポートを出す過程において、政策委員会メンバーの間でかなり議論した。そして、「これを見送ろう」、「しかし、引き続き検討を続けていこう」とした経緯がある。私自身の考えは今でも変わっておらず、インフレーション・ターゲティングを採用するには問題が多いと思っている。

第一に、インフレーション・ターゲティングを採用している国が先進国の中では多数であると言われることもあるが、実際はそうではない。アメリカのFRB、ユーロ圏のECBという世界の二大中央銀行は、そのような方法論──インフレーション・ターゲティング──を採用していないし、採用していないのはそれなりの理由があるからだと理解している。

第二に、これは「物価の安定について」の中で詳しく論じているが、構造調整が日本経済の中で進行しつつある状況の下で、場合によっては、更にこれが大きなスケールで起こる可能性が出てきている時に、「一体どのような物価の変化率であれば、経済の健全な発展と一番整合的であるのか」という問題に対して適切な答えを見つけるのが難しいということがある。この状況は、昨年も今年も変わっていない。昨年、私どもは、「物価だけをみるのではなく、経済活動全般、特に企業収益とか賃金といったところにどのような動きが出ているのかを総合的に眺めながら判断する」という姿勢を選択した訳であるが、現在もそういう姿勢を変える必要はないと思っている。

第三に、もう一つ理由を挙げるとすれば、残念ながら金融政策においては、通常採り得る政策手段は既にギリギリまで発動してきており、金融政策の運営によって一定の物価上昇率を実現していくということが極めて困難と考えざるを得ない状況にあるということもある。以上の理由から、私はインフレーション・ターゲティングについて慎重な考えを持っている。

【問】

先日発表した短観では、足元の企業の景況感はかなり悪化したが、先行きについては、大企業の製造業などで若干景況感が良くなる方向にあった。また、日本銀行の見通しでも、年度後半に向けて米国の景気が上向き、この影響が日本にも及ぶという考えが示されていたと思うが、現状において、日本経済の先行きの動向、米国の景気の状況についてどう考えておられるか。

【答】

年度後半から来年度にかけての日本経済の動向は、米国経済の動向如何でかなり変わってくる可能性があるとみている。従って、米国経済の回復がいつから、どのように始まるのかということが、日本経済をみる上でも一番大事なポイントだと思っているが、もう一つ、構造改革がいつ、どのような形で具体的に実施に移されるかも大事なポイントであると思っている。この二つの大きな、まだよく読めない要素があるので、年度後半以降の日本経済の動向については、なかなか明確な答えを出しにくい。

まず、構造改革の動きについては、これから来年度予算を編成していくプロセスにおいて、一つずつ具体的な各論が明らかになってくると思うので、それを十分みた上で考えたいと思っている。

次に米国経済については、今年の初め頃には、年の後半になるとボチボチ回復の動きが始まってくるのではないかとの見方が多かったと思うが、その後の歩みをみると、少しずつ回復の時期についての見方が後ずれしつつある。すなわち、当初、米国IT産業の在庫調整から始まった動きが、その後、IT関連を中心とした設備投資の削減にウェイトを移しつつあるように思う。今のところ、金利の大幅な引き下げに支えられる格好で、米国のオールド・エコノミーと呼ばれる部門はよく持ちこたえており、意外に健闘していると思うが、IT関連に代表されるニュー・エコノミーと呼ばれる部門は、なかなか明確な展望を持ちにくい状況にあるように思う。従って、米国経済の動きについては、従来より慎重にみていく方が良いと思っている。

日本経済には、米国のIT投資にみられたような「投資の行き過ぎ」は、あまり生じていないと思うので、国内的に何か大幅な調整を強いられるという可能性は大きくないと思う。しかし、わが国の内需が自律的な成長軌道に移っていくほどの力強さもないため、米国経済の回復のタイミング如何によって、わが国経済の動向もかなりの影響を受けると考えざるを得ない。

【問】

6月2日の一部報道機関とのインタビュー記事をみると、山口副総裁は、3月19日の量的緩和後の金融政策に関し、長期国債の買い増しや当座預金の残高目標の上積みなど政策の追加余地について、「現時点では白紙である。現状、3月時点で描いた経済情勢で推移しており、追加策の検討が必要な状況ではない」と、述べておられる。この点について、現時点で考え方に変化があればお聞かせ願いたい。

【答】

特に変化として申し上げることはない。

【問】

竹中経済担当大臣は、「時には金融政策で構造改革が動くことがある。金融政策・量的緩和をまず行うことによって構造改革が引き起こされる」という見解を示されているが、この点についてどのように思われるか。

以前の速水総裁の会見において、仮に、当座預金の残高目標額を増やしたとしても、銀行は国債を買い増し、実際には貸出に回らないといったことが述べられていた。そういうメカニズムの下では、ここで一段の量的緩和政策を打ち出してもあまり意味がないと見ておられるのか。

次に金融システム面で、日本の不良債権問題が国内外から非常に注目されているが、不良債権の現状をどのように認識しているのか。また、どの程度まで処理すればよいと考えておられるのか。

さらに、現状、大手行が抱えている破綻懸念先以下の12兆円の不良債権を処理したとしても、自己資本比率が8%を下回ることはないという見方の一方で、今後、産業再生を起点とした本格的な構造改革が起こった場合、非常に厳しいことが起こり得るのではないかとの観点から、公的資本の再注入論も国内外で非常に根強い。この辺りについて、どのようにみているのか。

【答】

金融政策をさらに緩和する方向に運営することが、構造改革を促進するはずだという点について、竹中大臣が具体的にどのようにおっしゃったのか分からないので、大臣のご発言とは切り離して申し上げたい。

日本銀行は、3月19日にかなり思い切った緩和措置を決定した時に、「構造改革がもっと本格的に進展するならば、日本銀行の金融緩和政策の効果もそれによって強まる。逆に、構造政策の援護なしに金融政策だけでもって経済情勢に対応し続けるということは難しい」と申し上げた。これが、その後の構造改革の議論にどの程度誘い水になったのかは、おそらく私どもが自分で言うべきことでなく、客観的にご評価いただいた方が良いのだと思う。私どもは、3月の発表文だけでなく、それ以前から、構造政策の重要性を機会あるごとに強調して参ったつもりであり、金融政策の運営に当たっても、その援護射撃が早く実現して欲しいと願いながら対応してきた。そういう意味では、金融政策の方が少し先に登板したと思っている。

量的緩和については、まだまだいくらでも余地があるとの前提で、例えば構造政策との関連において、あるいは財政政策との関連において、一層の金融緩和が必要だというご意見もある。しかし、ここまで来ると、そうした一般論で片付けることが難しい段階にあると思う。

金利の引き下げ余地について、短期金利は限界に達しているほか、長期金利も極めて低い水準まで低下しているのはご存知のとおりである。それと裏腹をなすように、金融市場の中では、量的にも、俗な表現で言えば「ジャブジャブ」という状態が実現している。それでも、様々な理由で、信用拡張的な動きは起きていない訳である。日本銀行から資金の供給量をさらに追加すること自体、ある種、技術的な難しさに近付いてきているし、仮に技術的な難点を乗り越えて量的追加ができたとしても、それがどのような経済的な意義を持つのかということについて、私の理解では理論的にも、学界の中でも、諸説がある状況にあると思う。

以上のような点をすべて総合した上で、どのような施策があり得るのかということを議論していただきたいと思っている。

次に、不良債権問題について申し上げる。ご承知のとおり、大手行を中心に日本の金融機関は、膨大な金額の不良資産の処理を懸命に実行してきた。しかし、残念なことに、不良債権の残高が減少に転ずるというところにはまだ至っていない訳である。幸い、政府の方でも最終処理を急ぐという方針を明確にされたが、日本銀行としては、わが国の金融機関が内外の金融資本市場において一日でも早く、より高い評価、より高い信用格付を得るようになって欲しいと願っている。民間金融機関においては、内外のマーケットにおける厳しい評価に十分応えられるような措置を是非とも採っていただきたいと考えている。いわゆる要注意債権についても、経済状況あるいはマーケットの状況が随時変わってくるので、これを十分踏まえた上で適切な評価と引き当てをしていただく必要があると思う。

公的資本の再注入が必要か、という質問については、以上のようなプロセスをキチンと潜り抜けてみないと、イエスかノーかという答えは出せないのではないかと思う。

【問】

確認になるが、現時点では、追加的な緩和策を考える必要はないということか。

【答】

はい。

【問】

デフレ状況下では、現在の実質金利は一般に思われているより少し高いのではないかという議論もあるが、実質金利についての考え方を伺いたい。

【答】

実質金利という言葉を使うかどうかはともかくとして、実質金利についての議論は、政策委員会の中でも継続的に行ってきたと理解している。

実質金利というのは、申し上げるまでもなく、名目金利から物価の上昇率あるいは期待インフレ率を差引いたものであり、名目金利の低下がゼロというフロアにぶち当たってしまうと、実質金利を下げる手段としては、インフレ期待を引き起こすということになっていかざるを得ない。先程の質問にもあったが、インフレーション・ターゲティングを議論するということは、その中に実質金利についての議論も含まれており、改めて政策委員会で議論するまでもなく、私どもは常に実質金利のことを意識しながら議論してきたと思っている。

以上