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総裁記者会見要旨 ( 7月17日)

2001年 7月18日
日本銀行

―平成13年 7月17日(火)
午後 3時から約30分

【問】

短観結果を踏まえた景気の現状判断、並びに金融政策の運営スタンスについての認識を伺いたい。とりわけ、景気は後退色を強めているように思われるが、日銀が4月に公表した経済の将来展望とリスク評価と比べ、現状の景気判断が下振れていることはないか。

【答】

景気の現状については、昨日公表した金融経済月報でもお読みになったと思うが、「輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まっている」という表現で、前月に比べて判断を幾分慎重化させている。

すなわち、海外経済の減速(スピード・ダウン)やIT関連需要の減退を背景に輸出の減少が続いており、生産も大幅に減少している。企業の収益環境は製造業を中心に悪化しており、設備投資も減少している。

この間、家計の所得環境は比較的底固さを維持していると思うが、労働時間などを通じて、生産減少の影響が家計部門にも及びかねないと思う。このため、わが国の景気は、当面、生産面を中心に調整を続ける可能性が高いと思う。

こうした動向を踏まえると、「展望レポート(経済・物価の将来展望とリスク評価)」を作成した4月当時と比べ、経済の足取りはダウンサイド・リスクが幾分強まる展開となっているように思う。ただ、「展望レポート」では、そうしたリスク評価も含めて、経済の先行きの展開を厳しくみていたし、3月の緩和措置は、ある程度の情勢悪化の可能性も念頭において採った決断である。今回の決定会合でも、こうした厳しい情勢判断に立って、その上で、現在の思いきった金融緩和政策の継続を全員一致で決めた次第である。

今後とも、(1)IT関連分野を中心とする世界経済の動向、(2)調整圧力の家計部門への波及度合い、(3)構造改革の進展に伴って予想される影響、などを注意深く検討しながら、適切な金融政策運営に努めてまいりたいと思っている。

「展望レポート」のリスク評価部分をもう一度読み直してみたが、リスクについてはかなり慎重に書いていると思う。海外経済の減速に伴う影響が続く可能性があるということ、それから構造調整の影響が出てくるかもしれないこと、当面はダウンサイドに出る可能性があるということ──この辺をもう一度読ませて頂くと、「金融機関の不良債権処理や企業のリストラの動きが一段と進展する場合には、企業倒産や失業の増加などを通じて、短期的に実体経済にマイナス・インパクトを及ぼす可能性に、留意しておく必要がある。ただし、構造調整の動き自体は、中長期的な経済発展の基盤を整備する上で不可欠であり、これを下方リスクとしてのみ認識することは適当でない。また、構造問題の解決に向けた取り組みが金融資本市場で前向きに評価される場合には、この面から経済にプラスの効果が先行して表れる可能性も考えられる。さらに、構造調整の進展に伴って生産性が上昇する展望が得られ、経済に上向きのモメンタムが生じれば、金融政策がきわめて緩和的に運営されているだけに、景気の回復力が強まり、物価の下落傾向にも早めに歯止めがかかる可能性もある。」とある。また、「構造問題の解決や財政再建に向けた取り組み姿勢が明らかとなり、国民の将来に対する不安感が後退することがあれば、家計支出に好影響が及んでいくことも考えられよう。」というように、良い面も悪い面も両方良く考えての措置であったと思っている。

【問】

次に株式市場の動向について伺いたい。景況感の悪化を背景に、平均株価は今日も下落傾向が続いているが、最近の株価動向について総裁はどのようにお考えか。

【答】

足許の株価動向について具体的にコメントすることは差し控えたいと思う。

ただ、株価は、日本経済や企業収益の先行きに対する市場の見方を反映したものと考えるべきであり、逆に、株価の動きがまた経済に様々な影響を与える面も大きいと思う。したがって、株価動向については、引き続き重大な関心を持って見守っていくということである。

【問】

金融政策について補足的に伺うが、財務省などからは、「景気とは切り離して、物価の下落を回避するために、一段の金融緩和を望む」という声が出たり、また自民党の一部からは、「インフレーション・ターゲットを導入すべきだ」という声も出ているが、これについて総裁はどのような見解を持っているか。

【答】

個別の、財務大臣などの発言は聞いていないので、具体的にコメントすることは差し控えたい。先程申し上げたことと重なるかもしれないが、日本銀行としては、今後とも、IT関連分野を中心とする世界経済の動向と、調整圧力の家計部門への波及度合い、それから構造改革の進展に伴って予想される影響、こういうものを注意深く検討しながら、適切な金融政策運営に努めていく方針である。

また、インフレ・ターゲティングについては、我々の考え方は変わっていない。すなわち、日本銀行としては、「調整インフレ政策」を採るつもりはまったくない。検討の対象となり得るのは、金融政策のアカウンタビリティを高める手段としての「インフレ・ターゲティング」であると思うが、現在の日本の物価情勢や金融政策を取り巻く環境を踏まえると、現段階で採用することは適当でないと考えている。

【問】

構造改革を進めるに当たって、まず金融政策が動くことで構造改革が進めやすい環境を作って欲しいとか、金融政策と構造改革の調和が必要だという意見も一部で聞かれるが、こうした論点についての考え方如何。

【答】

大きな問題であると思うが、現在の強力な金融緩和措置の効果が十分発揮されて、日本経済の持続的な成長軌道への復帰が実現するためには構造改革の進展が不可欠の条件である、という私どもの考えは非常に固いものがある。日本銀行としては、構造改革に伴う短期的な悪影響の可能性は十分意識している。総理は「no pain, no gain」という「gain」が実現するためには、ある程度の痛みは仕方がないということを言われている。この点についても、後でもう少し詳しく説明するつもりである。こういう可能性も意識してかなりの情勢悪化にも対応し得るような強力な金融緩和措置を3月に講じたわけで、その後もこの政策を継続し、その効果が浸透しつつあるところである。

我々としては、構造改革に向けた政府の取り組みや企業経営の面で、強力な金融緩和効果をうまく活用するような前向きな動きが出てくることを期待している。日本銀行としては、構造改革の進展度合いとその影響も含めて、経済全体の状況を見極めながら適切な金融政策運営に努めていく方針である。

今回、7月4日から一週間足らずであったが、欧州に出張した。その目的の一つは、BISの7月の総裁会議に出席することである。ここでは、小生より、構造改革に新内閣が動き始めた基本方針について説明した──例の「骨太の方針」である。これに対して、ほとんどの総裁は今回の決断を高く評価し、今後とも動向を注目していくと言っておられた。「no pain, no gain」の「no pain」という点に質問もあったが、一般的に申せば、消費者のコンフィデンスをしっかり持っていくことがまず必要だと思う。それには年金とか、健康保険とか、介護とかあるいは雇用の創出と流動化──これは非常に大事な問題と思うので後でもう少し申し上げてもいいのだが、失業が一挙に増えないように雇用の流動化を図っていく。アメリカの場合もイギリスの場合もそうであるが、構造改革を行い、初めは多少painが起こったのであろうが、結果としては雇用はぐっと増えている。そういうふうにうまく持っていけば、プラスになっていくと思っている。BIS総会に行く前にギリシャで、昔からの友人であり、有名なゾンバナキスというロンドンにいるバンカー、60年代〜70年代に縦横無尽に飛び回って大きな業績を残されたバンカーにお会いしてきた。この方が、1970年代の終わり頃から、年1回夏の今頃、自分の親しくしている中央銀行の幹部とか、あるいは大臣、あるいはそのOB、学者といった方々30〜40人をメンバーとして集めて、非公開であるが、自由討議をギリシャでするので、私もずっと出ていた。民間に出ている間、ちょうど株主総会とぶつかる時期なので出席できなかったが、今回は記念の式典もあったので出席した。その席でも、構造改革のことを説明もし、それに対する金融政策の出方についても説明をした。いろいろ質問もあったが、アメリカから来ている、金融機関の業界団体の専務理事をしている、日本のことも良く知っている有名な、名前を出せば皆さんも良くご存知の方だと思うが、この方が、「日本の構造改革というのは、よく決断して出されたが、なるべく早く、出来ることから実行していかないと、その間に皆が何だということになる可能性がある」ということをおっしゃられた。今、選挙で、なかなか実行に移すというところまで行っていないのであるが、彼は、「日本の構造改革を評価して注目しているが、日本人は非常に温泉が好きで、せっかく温かい温泉がある旅館の前まで行って、冬の門前の寒い夜空の下で震えているだけで温泉に飛び込んでいかないということがあるのではないか」と言われた上で、「日本人はどうもシャイなのではないか」とおっしゃった。「構造改革の方向性を打ち出しながら、すぐには具体的なことが進んでいないということも当初の期待からすればやや残念に思っている」とも漏らしていた。私は、方向づけはどんどん出来ているわけであるし、これから一つ一つ実行していきます、ということを申し上げた。彼は、結論としては、「アメリカも減速状態、EUも景気があまり良くない。失業は減ってきたが、物価がかなり大きく上がっているし、ユーロはご承知のように、為替は非常に弱いということも見られるわけで、そういう状況の中で、日本がこれから構造改革の船を乗り出していくという決意を知って、やはりこれから買うとすれば、改革の入口に立っている日本だなと思っている」と皆の前で言っていた。良く世界中のことを知っている人の発言だけに、私も心強く思った次第である。そういうことで、対策としては、年金、健康保険、介護、それから失業対策、雇用創出、雇用の流動化といったことを、諮問会議はかなり議論している。こういうものが実現されていけば、painを最小限にして、構造改革の良い面が出ていくようになるのではないかと思う。アメリカの場合を見ると、失業率は1982年、ちょうどレーガノミクスが始まった直後であるが、10.8%と非常に高かった。それが、最近は4.5%まで下がってきている。イギリスもそうであったが、アメリカの場合は、1995年当時1億1700万人という雇用者数──これは非農雇用者数であるが──これが昨年では1億3200万人となり、約1400万人、12%程増加している。その間、特に非製造業部門が700万人、その中でもソフトウェアとか人材派遣業とかの分野で、300万人の人達が雇用を得ている。クリエイティブ・ディストラクションであるから、古い部分はどんどん切り捨てていく。それに伴って、当時レイオフで仕事がなくなった人が、西に行って、シリコンバレーなどでベンチャー・キャピタルなどの支援を得て、小さい会社をどんどん作って、新しいIT産業などを作り上げていった。こういうアメリカの例を見ても分かるように、構造改革が早く規制をなくして、新しい産業がどんどん起こっていくと、雇用は新しく作られていくし、そんなに失業は心配しないで済むのではないかと思う。そういうpainをなるべく少なく、しかも短い期間で済ませることを考えながら、政策を打ち出していく必要があると思っている。

【問】

不良債権の処理について一つ伺いたい。不良債権に絡む金融機関の経営問題は、資産査定を厳しく行っていく動きが広まると、自己資本が毀損されるところが出てくる惧れもあり、公的資金の再注入が避けられないという見方がある。その一方で、国際基準を下回ることがなければ公的資金は必要ないという見方もある。総裁は、これまでもリスクに見合った引当てを進めるべきだと、たびたびおっしゃっているが、現時点で、公的資金の再注入は全く必要がないとお考えか。それとも、その可能性は排除すべきではないとお考えか。

【答】

イエスかノーかという答えでなく、私は、やはり現状では、金融機関の体力という面から言えば、各行とも公的資本の投入などで資本の基盤はかなり強化されていると思う。それから、業務純益についても、相応の水準が確保されていると思う。

従って、現時点で直ちに資本不足の先が出てくるとは考えていないが、私どもとしては、今後の不良債権処理の動向や、株価変動の影響、それから日本の金融機関の収益状況──収益を増やそうとして懸命になっているわけだが、──また体力面の動向などを引き続き注視していくべきというふうに思っている。

【問】

インフレ・ターゲットについては、「採る考えはない」と明確に話して頂いたが、一段の金融緩和については、「今後の展開をみる」との話であった。そうすると、金融政策運営をさらに効果的に進めていくために、インフレ・ターゲットにいかなくても、まだいろいろな対策が金融政策としてありうるという考えか。

【答】

今のところは、ご承知のように、短期資金市場はじゃぶじゃぶである。それが銀行を通じて企業に回る、あるいは家計から企業に直接投資して回るといったような流れが少しずつ出つつあるようには思うが、まだ企業サイドでの需要がそれほど強くないというのが現状だと思う。そういう意味では、やはり構造改革の第一歩がなるべく早く打ち出されていくということが必要だと思う。需要サイドが強くなっていって初めて、金融も次は何をやるべきかということになるのだと思う。

3月にリザーブ・ターゲティングの当座預金残高5兆円という目標を決めて、今のところはそれで十分間に合っているから、これがどの程度使われていくかということをもう少し見定めて、その上でなお必要であるということならば、その時に考える方法はあり得ると思う。これをいつからやるか、いつから必要となるか、というような切羽詰まった必要性はないと思っている。むしろ、構造改革の前進── 一つ一つ進められていくこと──を期待している、というのが今の、私どもの立場である。

【問】

円安が輸入物価を支え、物価下落に歯止めをかけると思う。また、今後の日本の頼みの綱は輸出であり、そうなれば円安の方が好ましい環境ではないか。総裁はかねてから円安誘導はされないとおっしゃっているが、自然なかたちでの円安環境については容認されるとのお考えか。

【答】

為替相場については、この間も申し上げたと思うが相互の関係である。日本のファンダメンタルズ、米国のファンダメンタルズ、そしてまた日本のエクスターナル(対外的)なファンダメンタルズというものがある。これは、ご承知のように1兆2千億ドルの対外債権超過による利益がいろいろなかたちで日本に入ってきているわけである。それに経常収支がGDP比2%以上の黒字であるということ。そういうエクスターナル(対外的)なファンダメンタルズが、自ずから無茶苦茶な円安を止めていくであろうということを、私は前々から思っている。そういう意味でも市場が決めることであり、良く知っている方はそういうことも知っておられると思う。相手側がどう動くか、こっち側のファンダメンタルズ、構造改革がどういうふうに進んでいくのかといったようなことで需給関係が決まっていくと考えている。

以上