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政策委員会議長記者会見要旨 ( 8月14日)

2001年 8月15日
日本銀行

―平成13年 8月14日(火)
午後 2時15分から約55分

【議長】

今日の新しい政策を決めた背景、その狙いについて、説明させて頂きたい。皆さんも公表文をご覧になったと思うが、これを若干敷延するような形でお聞き頂ければと思う。

最近の日本経済の動きは、輸出、生産、収益、設備投資、これらの動きに見られるように、IT関連を中心にして企業部門の悪化が一段とはっきりしてきている。これらの動きは先般の支店長会議でも各支店長から報告があったところである。また、賃金や雇用の面でも、企業部門の調整の動きが家計部門に影響を与えつつあるということも注目される。

景気の先行きを展望する上で大きな鍵を握るのは、申すまでもなく、海外経済である。これもいわゆる「調整」が長期化していく様相が強まっているように窺われる。米国経済については、IT関連分野の調整完了時点が更に先にずれていく可能性が高まっているし、その後の回復のテンポについても、慎重な見方が増えてきているように思われる。欧州諸国、アジア諸国、これらも景気減速が一層明確化している。世界的な経済の減速ということかと思う。

日本の金融面でも、株式市場で不安定な地合いが続いている点が、懸念材料として挙げられている。業種別にみると、IT関連株に加えて銀行株の下落が目立っている。最近における銀行の格下げの動きと併せ、わが国の金融システムが抱える問題が根深いということを物語っているようにも思われる。

次に、金融政策運営についてであるが、我々は先行きの経済についてかなり厳しい足取りを想定して、その上で様々なリスクを念頭において3月19日に思い切った金融緩和措置を実施したわけである。また、そうした厳しい見通しは4月の展望レポートにおいても示されているところであるし、最近の経済の展開を見てみると、これらのダウンサイド・リスクが徐々に現実化しつつあるように思わざるを得ない。

こうした情勢を踏まえて、追加的な緩和措置を講ずることが適当な段階に来ていると判断をした次第である。その際、3月に採用した金融調節の枠組み、これに対応することが基本になるわけである。具体的には、金融機関の当座預金需要や、金融機関のオペへの応募ニーズ等を勘案すると、日銀当座預金残高の目標額を1兆円増額して6兆円程度とすることが適当と判断した次第である。また、その際に、日銀当座預金を円滑に供給する上で必要と判断される場合には、長期国債の買い入れを増額するという3月に決めた方針に沿って、中長期国債オペの増額をすることとした。具体的には、市場の反応等に留意しながら、月6千億円──今までは4千億円であったが──のペースで買い入れを行っていきたいと思う。

このような追加緩和措置の効果は、既に長短の金利水準が非常に低いものになっているだけに、必ずしも確実に出てくるとは限らないが、経済の厳しい状況を考えると、効果は確実ではないにしても、3月の枠組みの下でなにがしかの効果を期待できる対応の仕方としては、これが適当だと思った次第である。

その効果としては、3点が挙げられる。第1に、既に下げる余地は限られているとはいえ、ターム物などの短期市場金利の一層の低下を促していくことができること。第2に、日銀の当座預金というノーリスク・ノーリターンの資産の供給を増やしていくことで、市場の参加者が資産選択を多様化させることができるのではないかということ。第3に──これは私は大事なことだと思うが──物価の下落を何としてでも防いでいく、そして景気回復の基盤を整備していくという日本銀行の断固たる決意を示すことによって、人々の期待とかマインド面を明るくしていくということを狙ったものである。

これまで繰り返し申し上げたように、こういった金融緩和の効果を発揮するためには、構造改革の進展によって前向きの経済活動が活発化していくことが不可欠だと思う。この点、私が従来に比して心強く思うのは、いわゆる「骨太の方針」が決定され、その改革の第一歩として、概算要求基準が策定されて30兆円という国債発行枠が定められたこと、それから今月末を目処に改革工程表が作られることになっているということである。これらによって、ようやく具体化への動きが見られたといって良いのではないかと思う。

経済の持続的な成長を確保し、物価の下落を防止していくためには、日本銀行の金融緩和措置だけでなく、政府の努力も不可欠だと思う。振り返ってみると、我々の3月の措置は、改革への動きを後押しする上で大きな役割を果たしたと思う。今回の措置は、言わばようやく具体化し始めた改革の動きを側面から支援していくものである。すなわち、構造改革への取組みが政府と民間双方において、着実に進められていくことを期待したいと思っている。

【問】

総裁はつい最近まで、3月の決定は現在の景気状況を先取りしたものであったと説明されていたが、ここにきてその判断を変えなければならなかったのは、どうしてなのかという疑問がなお残る。何が最たる要因であったのか、お答え頂きたい。

【答】

先ほど申し上げたように、世界経済全体の下降スピードが思ったよりも大きいというのが、ひとつの変化だと思う。それから、国内においても株価が下がったり、特に銀行株が格下げなどもあって下がっていくといったようなことがあり、9月決算を控えてみんなが心配し始めている。消費の方は強いとは言えないが、そう弱くなっているわけではない。一方、設備投資、機械受注、生産の数字は、今まで出てきているところでは、あまり明るくない。これは、海外へ製造業が出ていって、それでマイナスになっている面もかなりあると思うが、それはそれとして、企業収益は必ずしも良くないといった、景気に関わる新しい材料も出てきている。

ちょうどここで、小泉政権がスタートしてから1ラウンドして、構造改革のこれからの方向性、来年度予算の規模──33兆円くらいの積み上げが出てきたのを5兆円減らし、2兆円は総理が選んで予算を付けていく──こういったようなことが、諮問会議でも決まった。9月には、これからの工程表を具体的に決めていくということで、8月一杯は無理なのかもしれないが、なるべく早くこういうことが決まっていくことを強く願っているが、大体目処がつきつつあると思う。こういう時期に、人の心を豊かにしていくというのが大事だと思う。

雑談になってしまうが、「景気」という言葉は日本古来の言葉である。「景気」という言葉に該当する正しい英語はないと言っていい。鴨長明が800年前に書いた方丈記の中に、「梟(ふくろう)が鳴いて山中の景気が明るくなった」といった表現がある。人の心が明るくなっていけば、景気というものは良くなっていくと思っている。

色々な景気動向を示す数字があるが、それぞれの人が将来に向かって前向きに動き出せば、景気は動いていく。そういう意味もあって、私どもはこの時期に、3月に決めたことからもう1歩前進して、(日銀当座預金残高を)5兆円から6兆円に増やし、これを実現するために中長期国債の買い入れ額を毎月4千億円から6千億円に増やしたわけである。

これがどれだけプラスになるか、資金が緩和されることは間違いないが、それがどれだけ需要を喚起して企業が金を借りて仕事を始めていくか、需要が増えて物価が上がっていくというところまで行くかどうかはまだ判らないが、私どもが当面できる措置はこれではないかということで、この時期を選んで決定した次第である。

【問】

構造改革支援、それから具体的な改革が動き出したということへの評価を、今回追加措置を決めた理由の一つに挙げておられるが、具体的な構造改革が本当に始まるのはまだこれからではないかという見方の方がむしろ一般的ではないか。これはそういう意味では先取りと言えるのか、それとも早すぎる支援ではないのかという気もするが、どう見ているか。

【答】

3月に行った私どもの、世界の歴史に前例のないような当座預金残高をターゲットにした金融緩和というのは、確かにずいぶん思い切った措置であったと思うし、これによって構造改革が出て来ないと、この緩和措置も意味がないのだということを、あの時の発表文としても、かなり生意気なことを書かせて頂いたのだけれども、やはりそれがそのとおりになって動き出したということは、私どもとしては非常に喜ばしいことだと思っている。もっと早く色々なことが決められていったら良いなとは思っていたけれども、新内閣で、外交問題やサミットその他色々なことがある中で、8月10日までに来年度予算の概算要求基準が決まった。これなども、普通なら水増しして膨らんでいくものを逆に減らして、減らしはするけれども構造改革の予算はその中にプラスしていくのだと。それで30兆円の国債発行でやっていけるのだと、やっていかなくてはならないのだと、そのような決断が出来たというのも一つの大きな進歩であるし、諮問会議がまた動き出すのだろうが、工程──これから何月に何をやっていくかということ──を具体的に決めるのが、恐らく今月一杯か9月になって決まっていくのではないかと思う。それから、7つの改革の方向というのは決まっているわけだし、それぞれが今案を作っているところである。それに加えて、金融機関の不良貸出をどうやって消していくかということが、これからの課題だと思うけれども、これについても色々な意見も出され、銀行サイドも借入サイドも色々動き始めていることはご承知のとおりである。

そういうものが、どういうふうに展開していくのか、それを見ながら私どもとしても金融サイドから支援していきたいということで、今回決めたわけである。

【問】

政府や自民党を始め、国の内外から追加金融緩和策に対する声は非常にたくさんあった。また自民党の日銀法改正研究会というような動きもあったが、こういった周りの動きというものは、いわゆる圧力として、影響を与えたのか。

【答】

別に圧力を受けたとは私は思わないが、色々石が飛んできたことは確かだ。財政はやるだけのことはやったのだから、次は金融を緩めなければだめじゃないかといったような声は聞いたが、それは今に始まったことではないわけで、いつでもそういうふうな立場に中央銀行というのはある。私どもとしては、この時期に今までやった3月から始めたこの制度を更に一歩進めて、金融緩和の道をつけるということがタイミングとしても方法としても適当ではないかという政策委員会のほとんど大多数の決定で決まったわけである。

【問】

竹中経済財政政策担当大臣は決定会合後の会見で、「これで十分であるとは思わない」といった趣旨の発言をしたようであり、また日本銀行の発表文にも「今後とも、中央銀行としてなしうる最大限の努力を続けていく方針である」と書いてあるが、今後も金融政策は柔軟に対応していく方針であると読み取って良いのか。

【答】

これから何が起こっていくか。今のところは、様子を見ていることが、私どもにとって、最もプロパー(適切)な政策ではないかと思っている。

【問】

市場では、中長期国債の買いオペを増額すると、長期金利の上昇にも繋がっていく懸念があると言われているが、その辺についての見通し如何。

【答】

それは、私どもも十分に気をつけて見ていかなければいけないところであると思う。日本の場合は、中央銀行の保有する国債のウェイトはかなり高いが、それでも3月に決めたように、日銀券の発行残高が限度であって、それ以上国債を持つことはないので、毎月2千億円を仮に増やすとしても十分ゆとりはある。その過程でどのようなことが起こっていくか分からない。先行きどうなっていくか、もう少し見ていないと良く分からない。

【問】

これまでの会見の中で、日銀がいくら資金を供給しても需要が乏しくてなかなかうまく回らない、ということを再三説明していたが、ここにきてその状況に変化が出ていると考えているのか。

【答】

以前にチャートで説明申し上げたが、過去5年でベースマネーは平均+7.9%増えたが、M2+CDは年平均+3.3%、貸出は−0.4%であった。それでいて、GDPは1%前後しか増えていないし、物価はほぼ横這いである。いくらお金を出しても、需要が増えず、実体が上がってはいかないということをご説明した。その状況は今でも変わっていないと思うが、これから構造改革で民間が動き出し、あるいは政府が規制をはずしたり、政府でやっている仕事を民間に移したり、そういうことが次々と行われていけば変わってゆくだろう。特に、日本の非製造業部門の活動は、他国に比べてかなり低いと思う。製造業を新しくすると同時に、非製造業ももっと民間が──ベンチャー的なものもあるかもしれないが──新しい発想で仕事を増やしていくと、それによって雇用を吸収していくといったようなことがこれから行われていけば、需要が増えていくと思う。そういう場合にも、とにかく資金はいるわけであろうから、今市場でだぶだぶになっているが、新しい事業を始めたり、あるいは海外で日本の技術を使って物を作っていくといったような場合に、私どもの方で資金を出していくということは間違っていないと思っている。市場の動きや金融機関の動きや、新しい企業の動きを良く見ていきたいと思っている。

もう一つ、デフレのプレッシャーがかからないようにしてくれというのが、政治家の方々のご期待ではないかと思う。家計は、元本の減価が起こらないで、むしろ購買力を増やしているわけであるが、やはり企業の立場から言えば、物価があまり下がっていったのでは収益が出ないという不満もあるし、金を借りている人達にとっては返しにくくなるということもあるので、やはり物価は少しでもゼロに近い方に持っていく、あるいは場合によってはゼロよりも少し上がることがあってもかまわないというわけである。これから色々な金融政策をうまく打ち出しながら、物価の安定を維持して、経済の成長を伸ばしていきたい。そのためにはどうしても構造改革が必要なので、それを支援していくことは私どもの当面の課題であり、かつこれからの大事な仕事の一つだと思っている。お金だけでは出来るものではない。実際に色々需要が出てくるように、民間主導で、政府の方でも規制を緩和し、民間で出来ることを民間に譲っていく、新しい仕事を増やしていくということが必要であろうと思っている。

【問】

3月に緩和措置を講じた際に、構造改革が必要だということと並んで、企業の過剰債務問題と不良債権問題を表裏一体の問題として解決しないと、民間に資金は流れないと、総裁は言っていたが、この部分に関しては掛け声は聞かれても、実際の進展はまだ見られない。このままでは、いくら日銀が緩和してもお金が流れないという状態は変わらないのではないか。

【答】

不良貸出で償却しなければならないものがまだ償却されていない、償却した後にまた予備軍が入ってきて残高が減っていかないというのが過去10年の歩みだったと思うが、金融庁が熱心に整理を考えているし、予備軍についてもそれぞれ必要な引当金を積ませて、将来に備えるということが進みつつある。債務者の方が今後の再生への道をどうやって作っていくのか、そういうことは民間が話し合って決めていかなければいけない。先般、銀行協会と経団連が中心になってガイドラインの中間取り纏めが公表されたが、そういうものが、これから民間で決めていく場合の一つのベースになっていくのではないかと思う。これもまだ最終的に決まったわけではないが、大体今出ている線で固まっていくのではないかと思う。これなどはかなり厳しいものだから、出血が起ることも十分あり得ると思うが、それはやはり仕方のないことで、再生の道のないものはどうやって処理していくかということも含めて書かれいるので、その辺もこれから進んでいくのではないかと思っている。海外でも、日本の金融機関の不良貸出は最も注目されていることの一つだと思うので、これはかなり手が付けられているとは思うが、政府だけでなく民間ベースでも適切な処理が早く行われていくことを私どもは期待している。

【問】

再度確認であるが、当座預金残高を5兆円から6兆円に増やしたということだが、3月に今の仕組みを作った際は、いわゆる実質ゼロ金利となるための預金残高という経験値から5兆円程度という目標を設定された。5兆円までは金利面において意味があったように思うが、1兆円足したことの意味合いというのは何か。市場に対する期待だけなのか、もっと他に何かあるのか、質的に変換があったのかどうかを含めて、もう一度ご説明願いたい。

【答】

5兆円にして初めのうちは若干札割れがあったりしたが、今は殆ど5兆円かっきりで収まっている。世界全体でこれだけ経済の減速が起りつつある中で、構造改革を始めようとする時に、景気減退の色々な数値が出始めているというのは、やはり心配である。6兆円にするということは、それだけ市場には資金が出ていくわけだから、新しく起ってくる民間需要にその金が流れていくことが望まれる、今まさにそれをするタイミングではないかと判断しているわけである。構造改革を進める時に、どういう痛みが出るか分からないが、痛みだけでなくて、やはり前向きの資金需要に対してどうやって資金を供給していくかということが大事である。3月に量的緩和を採用してから既に5か月経っているが、貸出はそんなに増えていない。銀行は貸出に対して非常にコーシャス(慎重)であるし、資金需要があまり強くないということもあるのかもしれない。しかし、社債市場や、コマーシャル・ペーパー(CP)市場は、あれが採用されてから大きくなってきた。家計にも、預金だけでなくて、直接間接に社債を買ってもらうとか、あるいはベンチャー・キャピタルに金を出すとか、いろんな形で金が出ていって始めて新しい企業も出来ていくわけだから、構造改革が動き始めた時に資金の供給を進めることは、決して無駄ではないと思う。

【問】

今の質問に補足して伺いたい。今回5兆円から6兆円に増やされたが、なぜ6兆円なのか、あるいはなぜ7兆円ではなく6兆円なのか伺いたい。

【答】

いっぺんに7兆円まで増やす必要はないと思ったわけである。6兆円にしてみて、また、5兆円にした時の様に若干の札割れが出てくるかもしれない。そういうものを良く見た上で、どうしても必要なら、また上げることもありうるだろうし、今のところは6兆円にして、中長期債を月2千億円ずつ増やして買うということで十分だというように思っている。

【問】

ということは、その先に7兆円に増やすこともありうるということか。

【答】

それは、まだ、この段階では何とも言えない。これでやってみて、どういう需給関係が起こっていくか、──我々としては何としてもここで構造改革に成功してもらって新しい民間の需要が出てくることを望んでいるわけだが。

輸出が伸びなくて、むしろ輸入がどんどん増えているというのは一つの動きだが、日本の企業が海外にどんどん出ていくというのもグローバライゼーションの下ではあたりまえのことである。日本は恐らく賃金は一番高いだろう。世界中でもパー・キャピタル・インカム──1人当たりの所得──で3万何千ドルというのは、スイスに次いで2、3位だろう。そういう賃金の高いところでやれる仕事というのは、かなり付加価値の高い、技術の進んだものであるか、あるいは、今まで進んでいなかった介護などを含めたサービス産業。そういうものを民間でどんどんやっていくといったようなことが、少しずつ起こりつつあるように思う。そういう話をずいぶん聞くが、そういうことについては需要も良い。だから構造改革というのは前向きの製造業だけでなくて、やはりコンシューマー(消費者)のコンフィデンス、安心感を持ってもらえるようにしていかないと、1,400兆円のような資金が動きださない。「これなら大丈夫だ」と思った時に、皆、投資をやるのであって、そういう投資ができるようなチャネルや仲介機能を作っていく必要があると思う。そういった意味で、金融サイドでも構造改革が起こりつつある。日本は今まで護送船団で、「どこに預けても同じで、郵便局でも近くの銀行でも、大銀行でも潰れることはない」というので安心して預けていたものが来年からペイオフが始まるわけだし、今のような安い金利でなくて、多少リスクがあっても株や債券、国債など直接投資を行って利回りを良くしようというような動きが出てくるのは自然である。日本にいては賃金が高くて商売ができないけれども、アジアに持っていって工場を作ればそれで儲けが出て、返ってくる。

国際収支をみてもおわかりだと思うが、国際収支の経常黒字が減った減ったといって、新聞が大きく書いており、確かに減ってはいるが、中をみれば貿易やサービスは減っているが、輸入はものすごく増えている。だけれどもバーっと増えてきているのは所得である。所得というのは、日本が1兆2千億ドル海外に対して債権超過で、これほど大きな債権を持っている国は他にない。債務を差し引いたネットで150兆円である。これには3,600億ドルの外貨準備も入っている。そういう海外で買った国債などの利回り・収入などのほかに、どんどん直接投資で民間の中小企業までが海外に工場を出し、仕事をして儲けているわけである──安い賃金でやれば儲かるに決まっているし、技術も持っているから。そういうものが日本へ送られ、その所得収入が経常収支の8割を占めている。1-6月でみれば、5兆円位の黒字だが、そのうち4兆円程度が所得収入である。こうした動きは非常に大きな構造改革である。そういうようになっているのも、グローバライゼーションの下では当然あり得ることだから、それを規制する必要もないし、出て行くものは出て行って儲けてこちらに送ってくれば良いわけだから、その送ってきて入って来るのが所得で、それだけでも4兆円程度だから。国内では、出て行ったら失業が起こったり、工場がなくなって新しい工場を作らない限り経営者は儲からないということが起こるかもしれないが、そういうことはそういうことで、雇用の流動化や雇用の創出をやりながら、出て行くのは出ていって、私はちっともかまわないと思う。ただし、そういうものはちゃんと日本に金を送ってきており、そういうものが円買いドル売りになっている。皆さん市場だけでどうしてこんなに円が強いのかということを考えているかもしれないが、そういう半年だけで4兆円以上のネットの儲けがドルで日本に入って来ているわけだから、ドル売り円買いで円が強くなるのは、そういう背景もあるということを頭の中に入れておいても間違いはない。その辺も大きな構造改革である。

【問】

塩川財務大臣が金融緩和を期待する発言の中で、一段の緩和によって円安が促されることを容認すると受け取れる発言をしているが、政府サイドからそうした円安容認と受け取れる発言が出ていることを総裁はどうみているか。また、今回の緩和措置が為替に対してどのような影響を及ぼすのか。

【答】

それはちょっと市場がどう受けとめるかわからない。理論的には金融が緩んで金利が下がれば為替が安くなるが、これは市場の動きで決めることであって、私は為替については一切コメントはしない。今回の措置はそうしたものを狙ってやったものでもない。

【問】

これまで総裁は、追加緩和の必要がない理由として、資金需要がないことを挙げられていたにも拘わらず、今回、追加緩和に踏み切る理由として、将来の資金需要を挙げておられる。今回の措置が景気にどのようなメカニズムで影響を与えるのか、分かり易く説明して頂きたい。先程のお話を伺っていると、今時点では理論的には効果はないが、「気は心」でやっているのかという印象を受けてしまうが。

【答】

景気が悪くなり、金融を緩めていって企業がやりやすくなる、あるいは借金を返しやすくなるというのが、ひとつの金融緩和のメリットであろうが、今特に大事なのは、先ほどから繰り返し申し上げているように、構造改革が動き出したということだ。それと、下がっている物価を、需要を喚起することで上げていきたいということである。

【問】

それによってインフレ期待を醸成したいという狙いがあるのか。

【答】

そういうことは考えていない。ただ、デフレをなくすということは考えている。

【問】

インフレ・ターゲティングやインフレ目標の設定については、日銀の内部でも「検討の余地あり」との声があったと思う。インフレ目標の設定について、改めて総裁のご意見を伺いたい。

【答】

インフレ目標というのは、調整インフレという——あれはクルーグマンが言ったのか、知らないが——インフレの目標レートを設定して、そこへ何がなんでも持っていくというものであるが、このような制度は私どもは問題にもしないし、このような、ばかな金融政策はあり得ないと思う。将来の問題としてインフレ・ターゲットというのは、私の知る限りインフレの国が採用しているのであって、デフレの国がやっているというのは聞いたことがない。今の日本の物価情勢や金融政策を取り巻く環境を考えると、金融緩和だけで物価の下落を防止することはかなり難しいことであり、そういう意味からも、現段階でインフレ・ターゲットを設けることは考えていない。これは、私どものひとつの勉強課題でもあるわけだが、調整インフレなどと間違えないで欲しい。そのようなことを言われると、家計は本当にびっくりしてしまう。一生かかって積み上げてきた預貯金元本が減価するのかと、それを聞いただけで家計はびっくりしてしまう。

【問】

先ほどからご説明いただいているが、我々としては、どうしてこの時期緩和に踏み切るのかという疑問が消えない。その点について、決定会合で相当激しい議論があったと考えて良いか。

【答】

この議論は、いままでもずっと続けてやってきたわけで、このタイミングがいいじゃないかということについては、ほとんど皆、同意見であった。ただ、何をどこまでやるかについては、多少の意見の違いはあったが。今日決めたことについては、ほとんどの方は、これなら今日やろうということで、採決が行われたわけである。

【問】

当座預金を6兆円に増やすことで、短期のオペレーションでかなり札割れが発生することが予想されるが、今のオペの状況で6兆円の目標がかなりの期間達成できるとの自信がおありか。達成できない場合は、何らかの策を考えておられるのか。

【答】

毎日毎日のことであるから、たまには札割れも起きるかもしれないが、そのようなことを考えて4千億円の中長期国債買入を6千億円に変えたわけである。ご承知のように今、国債はかなりよく売れて、買い手が多いわけであるから。

【問】

今、中長期国債買切りオペで札割れに対処するとのお話であったが、市場の反応等を重視しながら6千億円に増やしていきたいということは、札割れが相次いで、それでも6兆円のターゲットが達成できない場合、この6千億円という増加のペースをもっと増やす可能性があるということか。

【答】

それはないと思う。

【問】

それでは、札割れが頻発した場合、先程の質問と同じであるが、どのうように対処されるのか。

【答】

それは、その時の様子をみないとわからないが、札割れが起きるとは思わない。

以上