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総裁記者会見要旨(8月16日)

2001年8月17日
日本銀行

―平成13年8月16日(木)
午後3時から約40分

【問】

昨日の金融経済月報で一段と厳しい景況感が示されていた。そういう認識に基づいて一昨日の政策変更もあったのかと思うが、改めて総裁の景況感を概観して頂き、それに基づく今後の金融政策運営姿勢を伺いたい。

【答】

一昨日政策決定後にしゃべったことと多少重複するかもしれないけれども、始めに私どもの判断を申し上げたい。ちょうど昨日は8月15日で、昨年は昔を振り返った話を少しさせて頂いたが──今回も金融政策をここ2、3年、私が来てからの話を振り返ってさせて頂く。

まず景気の現状については、一昨日の政策変更に当たっての公表文および、昨日の金融経済月報でも示したとおりであり、「輸出と生産の大幅な減少を主因に、調整が一段と深まっている」とみている。前月に比べて、判断は更に慎重化したということである。

それから、海外の方は、これは先行き展望の鍵になるわけだが、海外経済、世界的な情報関連需要の動向に関して、やはり回復時期および回復テンポ両方ともこのところ慎重な見方が増えてきているように思う。内外株式市場でみても、IT関連株などを中心にして不安定な動きが続いているように思う。

こうした中で、生産の減少が内需の減少を誘発しながら、調整の広範化に繋がっていっていく可能性があると思われることと、株を中心にした内外資本市場の動きが実体経済に及ぼす悪影響なども、一段と留意が必要な局面になってきているように思う。また、今後、需要の弱さに起因する物価の低下圧力が更に強まっていく懸念がある。

我々は、本年に入って先行きの経済についてかなり厳しい足取りを想定した上で、3月に思い切った金融緩和措置を採った。そうした厳しい見通しは、4月の「展望レポート」でも示したところであった。しかし、最近の経済の展開をみてみると、残念ながら、「展望レポート」でも指摘していた経済のダウンサイド・リスクが、徐々に現実化しつつあると言わざるを得ないように思う。

日本銀行は、このような厳しい認識を踏まえて、3月に決定した金融政策の枠組みのもとで、金融面から景気回復を支援する力を更に強化することが必要であると判断した。また同時に、構造改革への取組みが、仮に短期的な痛みを伴うものであっても、それを乗り越えてたゆまず進められていくことを強く期待しつつ、一昨日一段の緩和措置に踏み切ったものである。

ここ2、3年を少し振り返って、私どもの採ってきた色々な政策について、さっと復習をしてみると、日本銀行は、ここ数年来、経済情勢の厳しい展開に応じて、かなり機動的にかつ弾力的に、政策対応を図ってきたと思う。例えば、98年に企業金融の支援措置を行った。CPオペを拡大したり、企業金融支援の貸出制度を創ったりしたわけである。翌年の99年2月にいわゆるゼロ金利政策を採って、いずれも、これまで前例のなかった果敢な金融緩和策を始めたわけである。

その後、日本経済は緩やかに回復に転じて、昨年すなわち2000年の8月にはゼロ金利政策を解除できる状態に至ったと思う。ゼロ金利政策の解除については、色々な意見があるが、GDPや生産など実際のデータを確認しても分かるように、昨年中は日本経済は回復傾向を辿っていたわけであり、10-12月はGDPもプラスであった。今年の1-3月についても、今朝の数字でプラス0.1%という数字が出ている。

しかし、残念ながら、今年に入って海外経済の急激な減速が起こり、日本経済は再び悪化に転じることとなっていった。こうした中で、我々は本年に入って2月にはロンバート型貸出を創設したが、これも新しいことである。日銀当座預金という「量」を操作目標とする思い切った金融緩和措置といった新たな手段を次々と採ってきたわけである。いわゆる3月のリザーブ・ターゲティング──金利ではなくて量を目標にして金融の緩和をしていくということ──を始めた後、一昨日には、この間の情勢の悪化を踏まえて、新しい枠組みのもとで、一段の緩和を進めることを決定した次第である。

このように、我々は金融政策運営面で、経済情勢の変化に機動的・弾力的に対応してきたつもりである。この点は本来、財政政策とも違ったもので、金融政策の持つ特色ではないかと思う。また、同時に金融政策だけで景気回復を確実なものにすることは難しいということはご承知のとおりであり、そのためには構造改革の推進が不可欠であることも訴えてきたつもりである。

このような、我々の政策運営の背後にある一貫した考え方をぜひともご理解頂きたいと思う。手を拱いていたわけではない。世界で最も果敢な中央銀行であり、これ程果敢に手を打ってきた中央銀行はないのではないかと思う。にもかかわらず、経済が明るくならないという現実は直視していかなければいけないと思っている。

【問】

一昨日の金融政策変更以降、その当日も含めて、株式市場、為替市場、債券市場それぞれが今日までに色々な反応をしている。まず、トータルとして、それぞれの市場の反応についてどうみているか伺いたい。

【答】

今回の措置を講じた後は、夏休み、お盆の時期でもあるし、市場は通常なら閑散としている時だと思う。しかも、まだ2日しか経っていないので、こうした極めて短期の市場動向の中で評価を下すということは適切でないと思う。

日本銀行としては、今後とも、各種の市場動向を注意深くみて参りたいと思っている。具体的には、株式と為替の動きが気になるところではあるが、具体的な為替相場の動向についてコメントすることは差し控えさせて頂く。金融緩和は為替相場に影響を与える要因の一つであることは間違いないが、同時に、これ以外にも為替相場に影響する要因は多く存在するわけで、市場動向を注意深く見守っていきたいと思っている。特に為替というのは相対関係であるため、日本だけでなく、アメリカの情勢の変化や景況の動きによって、円ドル相場というのは変わってくるわけだから、その辺のところはこちらサイドだけでの判断というのは非常に難しいところだと思う。いずれにしても、為替相場については、経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいという基本的な考え方に変わりはない。今までのところ、この程度のことしか申し上げられない。

【問】

今後の金融政策運営について、これまでも柔軟に機動的に果敢にやってこられたという話があったが、先日も機動的に対応する旨おっしゃっていた。今後、この間決定した当座預金だとか長期債の買い入れオペなどの方策の強化であるとか、あるいは市場では時間軸の強化であるとか、翁金融研究所長がおっしゃった外貨購入の方法など色々なことが次のオプションとしてはあり得るという議論はされているかと思う。特に外貨購入については、いわゆるマーケットへのインターベンション(介入)とどう違うのか、法的に財務省との関係においても可能なのかどうかという基本的な論点整理も含めて、こういったオプションについてどう考えておられるのかご意見を伺いたい。

【答】

2日しか経っていないので市場の変化というのははっきり説明できないが、今度の措置の効果をどういう風に期待しているか、もう一度まとめて話をした上で、今のご質問に答えたいと思う。

今回の措置に期待される効果というのは、三つの経路があると思っている。まず一つは、下げる余地は限られているとは言え、9月の期末越えのターム物の金利は、かなり下がってきているし、一層下がっていくだろうと思っている。第二は、今度の6兆円にしたことで、ノーリスク・ノーリターンの日銀当座預金の供給を増やして行くということが、市場参加者の資産選択を多様化していくという、ポートフォリオ・リバランスといったようなことがある。余裕を持たせることによって新しい市場が出来ていく、あるいは取引が出来ていくといったように、これまでもCPとかあるいは社債の取引が非常に大きく膨らんできているということは、今申し上げたようなことの資産選択の多様化が起りつつあるということの例だと思う。そういうものが更に広がっていくことを期待している。三つ目は、物価の下落を防いで景気回復の基盤を整備していくという日本銀行の断固たる決意を改めて示すことで、マインド面にもプラスに作用するものと期待している。

こういったことの効果は、新たな調節方針の下で潤沢な資金供給を続けていくうちに、構造改革の具体的な進展とあいまって効果が発揮されていくと思っている。特に市場動向との関係で言うと、当面は構造改革の工程表が市場の信認を得られるような形で策定されていけばよいと思っている次第である。

それから、これからの金融政策運営──何をやるのか──について、一昨日決めたばかりなので、これからのことを具体的にコメントすることは難しいし、差し控えたい。ただし、お尋ねの外貨資産の購入についていえば、日本銀行法上、外国為替の売買は、円相場の安定を目的とするものについては、「国の事務の取扱い」として行うこととされている。 したがって、私どもが、単独で、特に為替介入といったようなことを意味するのだと思うが、そういうことはしない。

もっとも、今回の調節方針を達成するうえで、資金供給の為に外貨資産を購入しなければならない状況になるとは考えていない。世界中が不況で、しかも、なんとかして輸出を伸ばしたいと思っており──どこの国もそうであるし、アメリカも非常に大きな経常収支の赤字をもっているわけであるが、ヨーロッパも不況の中で8.3%の失業を持ち、成長2%の中で物価が3%のインフレだと、しかもユーロは必ずしも強くない──そこで金利を下げるかどうかという、皆似たような状況の中で、経済を立て直して拡大していきたいという点では同じだと思う。特に、私どもの近隣国の国々は非常に日本の円ドル相場には注目をしているのではないかと思う。外貨の売買というのは世界全体に影響を与え、自国だけではなかなか独断で決めたりすることも難しい領域であるだけに、そういうものを使って日銀が資金を供給するといったようなことは、難しいことでもあるし、今のところ必要のないことだと思っている。

【問】

先に自民党議員の一部の人達が、日銀法改正の研究会を立ち上げたが、その中には日銀総裁の解任権を付与するなどの考え方も入っているようだ。特に臨時国会で議員立法を目指すとまで方針を明らかにしているが、そのような動きをどのようにみておられるのか。

【答】

ご指摘のような動きについて、具体的にコメントすることは差し控えたい。

ただ、現在の日本銀行法は98年4月から施行されているわけだが、この法律は中央銀行の独立性と政策運営の透明性の確保という観点から、様々な検討を経て委員会で色々と議論をした上で、抜本的に旧法が改正されたものであり、主要先進国と比べても遜色のない、立派な中央銀行制度をお作りいただいたものと考えている。

私としては、日銀法に盛り込まれた中央銀行の理念を実現すべく、引き続き職務の遂行に全力を尽くしてまいりたい。

【問】

先程の質問のフォローアップで1つ伺いたい。為替のことで、具体的なコメントを控えられるということは分かるが、金融緩和を追加的に行った後、一般的に円安は景気回復の下支えをすると言われる。昨日、今日と円高が進んでいるが、こういう状況が続くと、せっかくの一昨日の金融緩和の効果が相殺されてしまうのではないかと心配する声がある。そういう意見にはどのようにお感じになられているか。

【答】

ドルの相場を見ると、円だけでなくて、ユーロとの関係でも安くなっている。これはドル安ということではないか。米国も夏休みの最中で取引の少ない時期ではあるが、IT関連等の動きや収益状況が、かなり相場にも影響を与えているのではないかと思う。

従って、円のサイドで円ドルの関係が強くなったということも多少はあるのかもしれないが、全体として判断すると、ドル安の影響だと思っている。今後の動きを注目してみていきたいと思っている。

【問】

先程、中央銀行の理念に沿って引き続き職務の遂行を全力で尽くしたいとおっしゃったが、これは、今回の政策をきっかけに、自らの進退について、何かしら判断されるといったことはないと受け止めてよいのか。それに関係する発言と受け止めてよいのか。

【答】

日銀の総裁として任命を受けて、5年間の任期をもってやっているわけであるから、新日銀法の下で、フルに、微力ではあるが、働いていきたいと申し上げるしかお答えはできないと思う。

【問】

日本経済をこれまで辛うじて支えてきたのは輸出であり、微妙な円高への振れでも、景気への影響を気にする意見が多いと思うが、今の120円を割れた円高が景気に与える影響をどう考えているのか伺いたい。

【答】

輸出産業にとってはあまり望ましくないかもしれない。今日も自動車などの輸出産業は円高で多少株価も下がっているが、この辺の相場をどう考えるかというのはなかなか難しい。

この間も申し上げたが、7月にヨーロッパでセミナーがあって、世界中がやはり不況で困っているという話があった。アメリカも景気が減速して、物価は3%台のインフレになっていて、経常収支がGDPの4%を越える赤字となっている。これはアメリカにとってかなり頭の痛い問題であるに違いないと思う。何とか輸出を伸ばし、海外からの資金の流入も増やしてファイナンスをつけていかなければいけないと思っているに違いないと思う。要するに、まだ在庫の正常化がいつ終わるかということについてはっきりした見通しがつかない──在庫の数字というのは、IT関連の数字は非常に難しいようであるから、日本の場合もそうだと思うが──ということで、これからFRBがどのような政策をとっていくか注目したいと思う。ヨーロッパのECBについても、先程申し上げたように成長が2%で、失業が8.3%で、インフレが3%で、公定歩合は4.5%である。このまま行けば、経常収支はユーロ(エリア)も赤字である。何とか輸出を伸ばして景気を良くしていきたいという気持ちは私どもと変わりないところだと思う。このまま放っておいて、下手をするとスタグフレーションになるかもしれないといった声さえそのセミナーでは耳にしたわけで、なかなかヨーロッパも厳しいな、と思った。

日本も非常に厳しいが、ここにきて新内閣が構造改革をかなり厳しい不況の中で打ち出して、これが出来なかったら日本経済は成長しないと、しかも民間で出来ることは政府は手を出さないで規制を緩和、撤廃してどんどん民間にやらせるという方針を決めて、その方向で動き始めた。明年度の予算の概算要求も、33兆円という国債発行が原案にあったものを、5兆円を減らして、2兆円は新しく構造改革部門に回すという総理の決断で、30兆円の国債発行で経済を立て直していきたい、ということを決めている。これは明らかに新しい方向に動き出しているので、そういうところをみて、「これからの買いは円だな、日本だな」と非常に有名な国際人がおっしゃっていた。そのような見方もあるのだなと思ったわけで、それを新内閣にはうまく築き上げていって欲しいものだ。そのために、金融サイドも出来る限りの後押しをして参りたいと思っていることは、先般来申し上げている通りである。

それと、特に為替については、近隣諸国は非常に日本の市場をあてにしている。特に中国、韓国、台湾、その他アジアの近隣の国々は日本の市場を頼りにしているわけであるから、あまり円が強くなると彼らが困ることは確かであると思う。半年前と比べて、あるいは昨年の後半と比べて、円はかなり安くなってきていて、彼らはそれで助かってきたということは確かなことだと思う。

【問】

先程、総裁自身の任期について、「フルに、微力ながら」と言われたが、以前は「任期はまだ2年先ですから」と、任期を全うするかどうか明言していなかった。これは、「5年あるから任期一杯やる」という意味で受け取ってよいのか。

【答】

新しい日銀法では、総裁の任期は5年と書かれている。何か事情があって任期途中で辞める時には、それを補欠する人は残任期間をやるんだと。日銀法第24条で、「総裁、副総裁及び審議委員の任期は5年」と書いているし、「総裁、副総裁及び審議委員が欠員となった場合における補欠の総裁、副総裁及び審議委員の任期は、前任者の残任期間とする」と書いている。

5年間は総裁は任期を果たすというのが一応前提になっているから、何か特別なことがあれば補欠に代わることがあり得ると思うが、今のところはそういう動きにはなっていない。

【問】

総裁は政策変更にあたり、三つの狙いがあるとおっしゃったが、長期金利の低下は狙いのひとつではなかったのか。長期国債の買いオペということは、長期金利の低下を考えるのが自然ではないかと思うが、これをはっきりおっしゃらなかったのはなぜか。もう一点は、総裁は「通貨は高い方が良い」というのが持論だと思うが、米国は為替相場がずっと下がって、繁栄している。その辺はどうか。

【答】

長期国債の今日の利回りは10年物では1.300%かと思うが、これが上がった方がよいか、下がった方がよいかは、投資家、発行者、私どもと、それぞれ立場は違うのであろうが、今年も30兆円の国債を出さなければならないのであるから、あまり国債の価格が下がって金利が高くなってしまうということは、日本の信認にも関わることであるから、1.3%あるいは1.5%というところが、これまで歩んできた道だと思う。金額が特に増えることではないのであるから、今程度の金利が続くことが出来ればよろしいかと考えている。当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合に、長期国債の買い切りオペを増額するということを今度決めたわけである。これまで毎月4千億円買っていたところを6千億円買うことになり、これで6兆円の当座預金残高目標が大した札割れもなく守られていって、先程申し上げたような三つの効果が出て行けば、今回の政策決定の効果が出てくると思っている。

もう一つの為替については、どちらに行くかは、これは市場に聞いて欲しい。為替というものはファンダメンタルズを反映するもので、どの国も皆そういう考えでいるはずだ。大きな市場であり、市場が判断して相場が動いているわけであるから、これはどちらが良いとか、どちらの方向へ進むだろうという推測をする立場ではないので、ノーコメントとさせて頂きたい。

以上