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総裁記者会見要旨(8月29日)

平成13年8月29日・大阪経済4団体共催懇談会終了後の記者会見要旨

2001年8月30日
日本銀行

―平成13年8月29日(水)
午後4時30分から約30分
於 リーガロイヤルホテル(大阪)

【問】

地元からは様々な要望や意見が出されたと思うが、関西の経済界との懇談を終えての感想如何。

【答】

先程皆さんより熱心なご質問・ご意見を聞かせて頂いたほか、午前中には泉大津のカシミヤ・メーカーの大変立派な工場を見させていただいた。輸出はあまりないのかもしれないが、内需向けでは外国ブランド向けにも出しておられると伺った。その他にも非常に良い製品を作っておられるのをみて、──ここは中小企業の範疇に入らないかもしれないが──非常にしっかりしていて良い製品を作っておられるところはちゃんと業績も伸びているなと感じた。

しかし、繊維というのは関西の中心的な産業であったのが、全体としてみれば国際的な競争力がなくなっていたり、あるいは海外に出ていって工場を作るとかいう対応をしており、こうしたことが足許の景況に非常に暗い影響を与えているのかもしれない。構造改革というものはそういう色々な痛み、悩みを越えていかないといけないのではないかと感じた。

これまでの私どもの一連の金融緩和措置によって、金融市場では資金がジャブジャブになっているほか、貸出金利も含めた長短金利はゼロ金利政策時を概ね下回る水準まで低下しているので、金融環境は極めて緩和的になっていると思う。ただし、こうした強力な金融緩和が十分効果を挙げるかどうかは、民間の中からこのような金融環境を利用するような前向きの動きがどの程度出てくるかということに依存するのではないかと思う。

この点については、当地は──私も当地で働いたことがあるが──もともと進取の気性に満ち、これまでも民間の力で柔軟な発想と技術力を活かして、多くのビジネスを切り拓いてこられた土地柄と認識している。現在、当地を取り巻いている経済環境は、先程も申し上げたとおり、大変厳しいものであるが、民間の力を活かそうとする構造改革の進展とも相俟って、前向きな動きが、中小企業も含め広範に起こってくることを強く期待しているということを感想として申し上げたい。

【問】

追加的な緩和措置の決定から2週間が経過したが、一部で更なる金融緩和を求める声もある。今後の金融政策の見通しについて伺いたい。

【答】

追加措置を講じてから、この2週間の株価や為替相場の動向は必ずしも良くないが、その効果をどうみているのかということについていえば、今般の緩和措置に期待される効果は三つあると思われる。

一つは、下げ余地が限られているとはいえ、ターム物の期越えの金利で一層の低下を促す効果が出てきたこと、二つめには、ノーリスク・ノーリターンの日銀当座預金の供給を増やすことが、市場参加者の社債とかCPを含めた資産選択の多様化を促す効果が出てきていること、三つめには、物価の下落を防いで景気回復の基盤を整備するという日本銀行の断固たる決意を改めて示すことの、マインド面へのプラス効果があると思われることである。

ただ、こうした金融緩和の効果が十分に発揮されて、経済が持続的な成長経路に復帰するためには、金融システム面や経済・産業面での構造改革が不可欠の条件であるということは、あのときのステートメントにも書いた通り、大事なことだと思う。

追加緩和措置を講じてからまだ2週間しか経っていないが、すでに金融市場では、9月末越えの市場金利の低下といったかたちで効果が現れ始めているように思われる。今後、構造改革の具体的な取り組みが進められる中で、民間の前向きの活動が促されていくということになっていけば、これと強力な金融緩和とが相俟って、徐々に経済にプラスの効果が及んでいくのではないかと期待している。

【問】

総裁は高い物価上昇率を目標とする調整インフレは採るべきでないと述べておられるが、高いインフレ率とは大体どのくらいを想定されているのか。また、インフレ目標策との違いを分かりやすく、具体的に説明してほしい。

【答】

インフレ・ターゲティングと調整インフレとの違いということであるが、これは、目標の水準はどこなのかということとともに、その実現のためにどのようなリスクや副作用を伴う手段を使うかということも重要になってくる訳で、こうしたことを踏まえると、機械的に目標が何%以上なら調整インフレ政策といった割り切った考え方、やり方はできないのではないかと思う。

通常、インフレ・ターゲティングと呼ばれる手法は、中長期的に望ましい物価上昇率を目標として設定して、先行きの物価上昇率が望ましい物価上昇率から乖離すると予想される場合に政策変更を行うという方法だと思う。

一方、本行が3月に行った決定は、インフレ・ターゲティングではないかという声もあるが、あれは金融市場調節の操作目標を日銀当座預金残高に変更するとともに、この新しい金融市場調節方式を消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続することをコミットしたものである。従って、所謂インフレ・ターゲティングとは異なるものである。しかし、物価が継続的に下落することを防止し、持続的な経済成長のための基盤を整備するという日本銀行の断固たる意思を示したものだととって頂きたい。但し、こうした金融緩和だけで物価の下落を防止できるものではない。これに合わせて、金融システム面、経済・産業面での構造改革が着実に進展していくことが不可欠だと考えている。お答えになっているかどうか分からないが。

調整インフレというのは、日本で70年代に出た言葉ではなかったかと思う。欧米でインフレ・ターゲティングという場合には、主として、インフレの国が使っており、インフレが行き過ぎないように抑えていくためにインフレのターゲットを作るのであり、デフレの国でこれを採用していることは、私の知る限りでは未だかつてないと思う。同時に、やっぱり物価が上がるということは、──今、私どもは前年比マイナスをゼロのところまでに持っていくことを一所懸命やっている訳であり、この段階で、先になると何%だと言うことは(できない)──債務者の立場から言えば返しやすくなるということになるかもしれないが、債権者── 特に金融資産1,400兆円の家計部門──にとっては、今でも金利が非常に安くて運用益が少ない訳であるが、更に元本が目減りすることになる。インフレとはそういうことであるが、政治的にも、社会的にも、これはなかなか難しい問題だと思う。まして、金融政策の立場で、こういうインフレ・ターゲティングを今の段階で決めるということは適当でないと思うが、将来の課題としては十分に勉強、検討していきたい。

【問】

本日、平均株価が1万1千円を割り込んだが、今回の株価下落についてどういう認識を持っているか。また、これによって金融機関の含み益の状況はさらに厳しくなってくると思うが、金融機関経営に及ぼす影響について、どうみているか。

【答】

株価については、何とも申し上げかねる。株価動向について具体的にコメントすることは差し控えたい。

株価というのは、日本経済や企業収益の先行きに対する市場の見方を反映するものであるし、逆に、株価の動きが経済に様々な影響を与える面も大きい。従って、株価の状況については引き続き十分注意してみていきたいと考えている。

株安が金融機関に与える影響については、金融機関の経営体力は、公的資本の投入等によって資本基盤が補強されてきており、また、業務純益もまずまずの水準を維持している。こうした状況に照らすと、私どもとしては、このところの株価動向が金融機関経営の安定を大きく損うとは考えていない。

日本銀行としては、今後の株価動向や、それが金融システムに及ぼす影響等について、引続き注視していきたい。

【問】

2点伺いたい。まず1点目は、昨日、竹中大臣が閣議後の会見で、日銀の独立性について触れていたが、イギリスの中央銀行の例を出して、イギリスでは政策目標は政府が決め、手段の独立性だけを認めているということを述べた上で、日銀の独立性に関しても、政策目標の独立性と手段の独立性を分けて考える必要がある、これも議論していく必要があると述べていた。これについてどのようにお考えか。

また、先程の講演を伺っていて、──個人的な見解で恐縮だが──ここまで景気が悪化してきている中で、総裁の景気悪化に対する強い姿勢というのがあまり感じられなかったような気がするが、この点についてはいかがか。

【答】

日銀の独立性については、98年4月から施行された新日銀法の中に、はっきりと独立性と透明性ということが書かれている訳で、どこまでが政策で、どこからが手段かということを区分することは、非常に難しいことだとに思う。いずれにしても、政府の政策や方針も十分に理解して、話し合ってやっていくということは、これまでと同じように続けていきたいと思っている。昨日も経済財政諮問会議があったが、いろいろな議論が出ている中で、皆さんの話も聞き、決定にも加わるし、また意見も言わせて頂く、ということが大切ではないかと思う。

それから、第二の質問の、景気対策に熱心でないのではないかという質問だが、私どもとしても、景気はもちろん大切なことである。ただ、物価の安定を通じて、経済の安定的な成長を図っていくということが、はっきり書かれた理念であるから、その意味で、今、大事な物価を安定させるべく、前年比若干マイナスとなっている物価をゼロのところまで持って行くようにする努力──そのために政策を決めた──をやっている。しかし、それが効果を現すためには、やはり構造改革といった、実体面での政策が早く採られていくことが大事だと思う。3月、8月に採った政策についても、構造改革が進んでいくことによって、その金融緩和効果が益々発揮されるのではないかと思っている。

【問】

塩川財務大臣は、為替の問題について、「産業の空洞化が進んでデフレがかなりひどくなっている」との観点から、その対策として為替政策の重要性を強調している。昨日も大臣は円安を志向していると明言しているが、今日の総裁の発言を聞いていると、「円安になってはいけないとは言っていない」と、どちらかというと円安志向の発言に対して消極的な感じを受ける。この辺について、大臣と総裁で考え方に違いはあるのか。

【答】

大臣の発言は直接聞いていないから、どういう風におっしゃったのか、どういうコンテクストで、どういう理解の中でおっしゃったのかは分からないが、(日頃から)大臣とは為替の問題の話はしている。

私が今日特に申し上げたかったのは、為替というのは相対関係なのだから、円だけを考えて、相場を動かすということはなかなか難しいということである。やはり市場に任せて、市場が決めていくことが大事だと思うし、今、そんなに大きく為替が跳んだりはねたりしているものではないと思うので、もう少し市場を眺めてみていいのではないかと思う。それと、海外の情勢──米国経済が減速したことによって、ドルが安くなったために、ドル対ユーロ、ドル対円のいずれでみてもドルが弱くなってきている──こういう流れの中で、円がどういう状況になっているのかということを、よくウォッチしていきたいと思う。大事なことは、国内だけをみて、為替というものは決められないということである。

【問】

先程のインフレ・ターゲティングの話であるが、総裁はインフレ率をゼロにするよう努力すると言われたが、例えば、インフレ率ゼロをインフレ・ターゲットに掲げるということについてどう思うか。

【答】

3月に決めた政策──日銀当座預金の目標残高を5兆円から6兆円にしていくという政策の変更はその後あったが──というのは、インフレ率がゼロになるまで続けていくということを言ったものである。金利主導の政策がある程度限界があるので、それよりも当座預金を通じて量の緩和をしていく方が効果があるとの判断で、3月に決めて、今回、またそれを5兆円から6兆円に増やした。先程も申し上げたように、この効果が本当に出てくるのは、やはり実体経済の政策が動き出した時だと思う。それが動き始めていくことを期待している。

【問】

総裁任期はあと2年余りあるが、任期まで全力でやられると理解してよいのか。

【答】

2年余りでなく、あと1年半余りである。任期というのはやっぱり任期であるから、何か起これば別だが。先のことは分からないが、かねて申し上げているとおり、いまここで辞任をするかどうかと聞かれても、何とも答えようがない。

【問】

度々で恐縮だが、国民からみて、日銀が何を考えているか、速水総裁が何を考えているか、これが全く分からないという声もよく聞く。改めて、今、日銀は何を考え、総裁は何を考えているのか、この辺をコンパクトにお答え頂きたい。

【答】

先程も申し上げたが、やはり物価の安定を通じて経済の安定的な成長を図っていくということが、今の私どもの目標である。そのために必要な措置を次々と手を打っている訳であるから、全く何を考えているのか分からないと言われても、答えとしては今申し上げたようなことしか申し上げられないのではないか。もう少し具体的に何か聞かれれば、それにお答えすることはできると思う。

以上