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総裁記者会見要旨 ( 8月30日)

平成13年 8月30日・名古屋での各界代表者との懇談後の記者会見要旨

2001年 8月31日
日本銀行

―平成13年 8月30日(木)
午前11時から約20分
於 ウェスティンナゴヤキャッスル(名古屋)
(時間の制約上、地元経済界との
懇談会の場で引き続き実施。)

【問】

8月14日の追加緩和の効果について、お伺いしたい。その後、株価が随分下がってきているようにみえるが、これは、マーケットが日銀のメッセージを取り違えているのか、あるいは効果がまだ現れていないのか。

【答】

8月14日の追加的な緩和措置については、──期末を越えるターム物の金利がどうなるのか心配していたが、その心配がとれて──期末越えのターム物金利が一層低下するといった効果をもたらしている。それから、ノーリスク・ノーリターンである日銀当座預金の供給を増やすことで、市場参加者の資産の選択(の多様化が促され)、社債とかコマーシャル・ペーパーの市場が大きくなってきているのも一つの効果である。もうひとつ、マインド面からも、もう少し明るくなってほしいということも私どもの狙いであった。株価が下がってきているということで、これはなかなか難しいところだが、構造改革が一歩一歩進んでいくことによって、内外の日本経済を見る目が少しずつ変わっていくのではないかと思う。総理も(構造改革の具体的なスケジュールを)早く発表していくことが景気を支える道だということをおっしゃっている。

また、株価についてはコメントするのが非常に難しい。株価というのは、日本経済や企業収益の先行きに対する市場の見方を反映するものであるし、逆に、株価の動きが経済に様々な影響を与える面も大きい。従って、株価の動向については引き続き十分注意していく方針である。ただ、海外の市場でも株が下がっており、(日本の株価が)そういう動きを受けている面もあるが、日本の場合、私が長年みていて感じるのは、持ち合いの中で、銀行が株を持ち過ぎているということである。また、企業の中でも、伝統的な取引慣習として、取引を始める時に取引相手の株を持ち合うということがあって、非常に株式の保有が多い訳だが、そういった企業が期末を控えて株が上がってくれば売りを出すということで、せっかく株が上がってきてもすぐ下がるということになりがちである。銀行の(保有する)株については、先行き自己資本の金額まで持ち高を落としていくことが法制化されていくことになろうと思う。持ち合い構造の問題については、取引の国際化を進めていくと同時に、個人の持っている金融資産が銀行預金だけではなくて直接投資の方へも流れていくような税制その他の環境の整備を早急にやっていく必要がある。そうしないと、売りだけが出て安定した買いがないということになる。その意味で、個人の金融資産が株の方へ流れていくことが一番重要だと思う。それと同時に、必要に応じて自社株を買って、必要に応じて金庫株──これは近いうちに実現していくことになると思うが──を利用するといった形で、──企業の自己資本もかなり高いので──ROEといった株主への条件を良くしていくような程度に資本金を合せていくことがこれからの一つの課題ではないかと思う。

【問】

昨日の大阪の記者会見で、総裁は、このところの株価下落が金融機関に与える影響はそれほど大きなものではないといった趣旨の発言をされたと聞いているが、その理由をもう一度説明してもらいたい。また、株価がどのあたりまで下がれば金融機関に影響が出てくるとお考えか。

【答】

株価が金融機関に与える影響について申し上げると、金融機関の経営体力は、公的資本(の投入)等によって資本基盤が増強されてきており、また、業務純益もまずまずの水準を維持していると思う。こうした状況に照らすと、私どもとしては、このところの株価動向が金融機関経営の安定を大きく損なうということはまずないのではないかと思う。日本銀行としては、今後の株価動向やそれが金融システムに及ぼす影響等について、引き続き注視していきたい。構造的(な問題)には、先程申し上げたようなことを順次実行に移していくことが必要だと思う。

【問】

当地では輸出産業がかなりのウエイトを占めていて、為替相場に大変な関心があると思う。先程からドル安という言葉が聞かれているが、円の適正な水準について総裁はどのようにお考えか。また、今後どのような方向に向かうのが望ましいとお考えか。

【答】

為替相場については、経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと思っている。それ以上に具体的な為替相場の動向についてコメントすることは差し控えたいと思うが、我々としても、為替相場の変動が企業収益など経済全般に影響を及ぼすものであることは、十分に認識している。今後とも、為替相場の動向とその影響について注意深く点検していく方針である。あまり上がったり下がったり(するよりは)、安定させていくことが必要だと思う。円高と言われるが、現在どちらかというとドルが安くなっているということは、世界の市場でユーロとの関係をみてもわかる。アメリカの経済が減速していることが、これまでドルの足を少し引っ張っているという感じがする。そういった点も含め、為替相場は、相手があって、相対的な関係で決まってくるものである。日本だけをみて、今、円高になるのはおかしいと思われる方が確かに多いとは思うが、それと同時に、相手国の側、国際為替市場の動きをみる必要がある。この点は十分ご認識頂けると思う。いずれにせよ、市場をよくみていきたいということに変わりはない。

【問<財界からの出席者より>】

現在の日本の経済、今後の方向について思うところを申し上げたい。私は、日本経済が良くなるには高度加工立国として生きる以外にはないと思う。バブルがはじけて以降の日本の金融問題の処理の仕方がきちっとしていなかったということが、現状につながる原因の一つと思うが、一方で、高度加工立国としての日本のファンダメンタルな技術力が非常に落ちている点も大きな問題である。先般、APECに出た際、ヒューレット・パッカードの会長から、「日本からのMITへの入学者は以前はすばらしい成績をおさめていたが、ここ7〜8年はレベルが落ちている。日本の技術はどうなってしまったのか」と言われた。また、先日も経団連のパネルディスカッションで東大の前学長と議論したが、安保闘争世代は我々の世代──総裁も私と同世代であるが、我々の高等学校時代は精神的問題や哲学をよく勉強したものだ──とは違い、デジタルな考え方ばかりで精神的な哲学が全くないということを痛感させられた。最近の官僚の不祥事をみても、基本的な哲学がないということを感じる。さらに、最近、文部大臣が教育法改正の関係で7か条を出したが、デジタルな考え方だけが示されており、日本人として基本的にどういう哲学で進めるのかということが全く伝わってこない。これでは日本経済は救われない。日本の技術の低下や論文の質の劣化も、デジタル教育がもとになっているように思う。確かに金融面のリカバリーも必要だが、日本人が「高度加工立国でやっていくんだ」というコンセンサスをもたないと日本の将来はないと思う。

【答】

ごもっともなご指摘で、私も全く同感である。構造的改革で一番最初に言われることは、民間で意欲を持って新しいものに取り組んでいく、いわゆる創造的破壊──シュムペーターの言うcreative destruction──が重要だということである。日本の場合、destructしなければならない部分は、確かに賃金が高く競争力がないことから縮小している面もあるが、新しいものをcreateしていくという部分がまだこれから始まるという段階だと思う。海外でも同じものが作れるようになってくれば、どうしても日本の賃金は高いのだから、──一人当たり国民所得が最高なので賃金が高いのは当たり前だが──同じものを作っていたのではコストが合わないし競争にならない。その意味で、海外に持っていったり、輸入品に取り替えたりということになっていく、そのこと自体は自然な流れであると思う。ただ、同時に、新しい方向に向かう方が進んでいかないといけないと思う。これこそ私自身の民間への期待が非常に強いところであるので、宜しくお願いしたいと思う。また、技術が落ちているのかどうか、そのあたりのことは私もはっきりとは申せないが、大いに新しい技術を開発していく力は日本人はまだ持っているのではないかと私は思っている。なお、精神的な哲学に欠けるといった教育の問題に関しては、私自身も総裁になる前に7〜8年、古い日本の女子大の理事長を勤めていたことがある。そういう古い大学では建学の精神のようなものを持っているが、公立大学の在り方に関しては、その中での個性教育の方向性、おっしゃるような哲学や自分の考え方をしっかり持つような教育にしていかなければならないということは、諮問会議などでも議論が始まっている。早く変えていく必要があると私も思っており、ご指摘の点は私も全く同感である。

以上