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藤原副総裁記者会見要旨 ( 9月 6日)

平成13年 9月 6日・松江市における金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年 9月 7日
日本銀行

―平成13年 9月 6日(木)
午後 2時30分から約30分間
於 ホテル一畑(松江)

【問】

地元財界人と懇談し、山陰両県の景況についてどのような印象を持たれたか。

【答】

山陰地方の景気情勢は、大きな方向としては、全国とほぼ同様といえる。日本銀行では、全国の景気情勢について「調整が一段と深まっている」と判断しているが、それと同一である。ただ、当地はIT関連産業のウェイトが高い分、全国と比べても、世界的なIT関連分野の調整の影響をより強く受けているように思う。

本日、当地の経営者の方々とお話をした中でも、そうした厳しい環境の下で、当地の企業が大変なご苦労をされておられることを実感した。

当地経済の先行きを展望する上では、やはり、世界的なIT関連需要の動向や構造改革の影響が鍵になってくるように思う。こうした留意点も全国と同様であるが、IT関連産業および公共事業のウェイトが高い当地では、これらの点はより大きなファクターとなるように思う。加えて、このところ第三セクターを含め倒産が相次いで発生していることも、松江支店から報告を受けている。こうしたことが今後どのような影響を及ぼしていくかも、もう一つの留意点となろう。

日本銀行としては、マクロ経済指標の分析などに加え、支店などを通じて得られる生の情報も十分に活用して、各地の経済情勢を綿密に分析・検討し、経済情勢全般の的確な把握に努めてまいりたい。

【問】

「中小企業の多い山陰両県の実情から考えると、日本銀行が行っている量的緩和は、当地の景気回復に直接的な影響を及ぼさないのではないか」との見方があるが、これについてどのように考えられるか。

【答】

日本銀行が行う金融政策は、マクロ的な政策効果しか及ばないかもしれないが、ミクロ経済全般が、構造面での改革とも相俟って、安定的で持続的な成長につながり、地方経済の立ち直りにも資するよう、肌目細かい政策運営に努めてまいりたい。

【問】

金融経済懇談会における挨拶の中で、「消費者物価の上昇率がマイナスの間は、現在の思い切った金融緩和の枠組みが変更されることはないと確信できる。こうしたことが金融市場に強力な緩和効果をもたらす」とあったが、日本銀行に対して「CPを買え」とか「国債を買い切れ」とか市場の声が出てきている中で、今後さらに景気が悪化した場合でも、現在の枠組みを崩さずに、今後もしばらくは運営していくという考えでよいか。

【答】

私がスピーチで述べたある部分を取り出して、その確認をしたいとの質問だが、当該部分はインフレ・ターゲティングに関する説明の中での発言であるので、この際、もしお許しいただけるのであれば——おさらいのようになるが、今非常に関心を集めているところなので——インフレ・ターゲティングに関する私どもの考え方を、再度包括的に説明させていただきたい。

インフレ・ターゲティングについての私たちの考え方は、変わっていない。すなわち、高めのインフレ率の目標を設定し、その実現のためにあらゆる政策手段を動員するという「調整インフレ政策」を採るつもりは全くない。今ご質問にあった、何でもかんでも買う云々というのは、こういう範疇に入ると思う。しかし、一方で金融政策運営の透明性を高める手段としての「インフレ・ターゲティング」については、去年10月に出した物価リポートでも述べているように、一つの検討課題として位置付けている。しかし、そのインフレ・ターゲティングも、現時点ではこれを採用することは適当ではないと考えている。なぜなら、金融政策は、あくまで金融機関や金融市場を通じて、経済主体の行動に間接的に影響を与えるものである。現在、日本銀行は金融市場に対し、文字通りジャブジャブに資金を供給しているが、さまざまな構造問題が残っている状況の下では、そうした金融緩和の効果が、経済になかなか波及していかない状況が続いている。そうした状況の下で仮にターゲットを設定しても、それを金融政策だけで達成していくことは難しいと思う。また、現在、需要の弱さに加え、技術革新とか、規制緩和、流通合理化など、さまざまな要因が物価に複雑な影響を及ぼしている下で、ある程度の期間にわたって妥当性を持つ目標値を設定することは難しいと思う。しかし、勉強だけはずっと続けていきたいと考えている。

先程、調整インフレ政策を採るつもりはないと言ったが、インフレ・ターゲティングと調整インフレ政策の違いを考える上で、——時々質問を受けるが——「目標が何%以上なら、あるいはこうした手段を使えば、調整インフレ政策になる」と割り切ることはできないし、適当でもないと思う。我々が勉強中と言っているインフレ・ターゲティングと、調整インフレ政策の違いは、つまるところ、経済の健全な発展と整合的な、持続的な物価の安定を目指すのか、それとも、副作用やリスクに目をつぶってまで、どんな手段を使ってでも、インフレを起こそうとするのか、という弁別の仕方だと思う。将来の成長期待や生産性が高まらないまま、インフレを引き起こそうとすることは、とりもなおさず、経済の健全な発展という観点からみて危険な方法であり、日本銀行として、そういう政策を採るつもりはない。

今採っている政策は、消費者物価の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで、今の方式を続けると規定しているが、それはコミットメントである。このコミットメントは、いわゆるインフレ・ターゲティングとは異なる方法であるが、物価の安定に対する中央銀行の強い決意を示すという点では、共通の狙いを持っていることは否定しない。すなわち、インフレ・ターゲティングとは、中央銀行が示すインフレ率の見通しが目標値を上回れば引き締めを行う、といった政策運営のやり方だといえる。したがって、現実のインフレ率が目標値を下回っていても、先行きのインフレ率の見通しが高まれば、引き締めが行われることになる。これは先程のスピーチで申した通りである。これに対して、日本銀行は現在、インフレ率の実績値を用いたコミットメントを行っている。このため、市場参加者は、「消費者物価の上昇率がマイナスの間は、現在の思い切った金融緩和の枠組みが変更されることはあるまい」というふうに確信できることになる。こうしたことが、金融市場に強力な緩和効果をもたらすと、私たちは考えている。なお、インフレ・ターゲティングを採用するかどうかについては、まず第一に、日本経済にとって中長期的に望ましい物価上昇率はどの程度であるか、第二に、それを確実に達成できるような金融政策発動の余地が十分あるかどうか、といった点を慎重に検討する必要があると考えている。

【問】

消費者物価上昇率の目標値は、実際の上昇率が現在の目標値である「ゼロ%以上」を達成するまで——マーケットや一部エコノミストが言っているような2%とか、1%とかに——変更しないと判断して良いか。

【答】

「ゼロ%以上」以外の具体的な目標値を、明確にピンポイント——例えば2%とか3%とか4%とか——で設定することは、今はできないであろうというのが、私たちの物価安定リポートの研究成果の一つである。つまり、日本の物価が目標数値として使えるかどうかという問題に関して考えてみると、日本の物価は世界の他の国に比べ、比較的長い間——相対的に──低い上昇率で推移してきた。それから、例えばバブルの時代——資産インフレと言われた時代——の消費者物価上昇率を振り返ってみると、平均で2%であった。その2%という消費者物価上昇率の時に、実態としての経済状況はもっとバブリーであった。つまり、経済の状況を適切に表しているかどうか分からない消費者物価に対して目標を設定してよいかどうかという問題がある。それから、最近の物価動向をみると、需要の弱さからくる物価下落もあるが、一方で供給サイドによる物価下落もある。良いとか悪いとかという価値判断は別にして、流通の合理化、科学技術の進歩による製品の高度化、ユニクロ現象のような要因もある。そういったファクターによっていろいろ変わる消費者物価を、大事な金融政策のターゲットにポンと据えていいのかどうか、その辺が疑問なので、具体的な数値目標として採り得ないと申し上げている。

【問】

しかし、「ゼロ%以上」という目標は既にある訳で、時間軸の目標を変えることは考えられないのか。

【答】

「ゼロ%以上」というのは、物価の持続的な下落——デフレ——から脱出しようという私たちのコミットメント、つまり物価上昇率のマイナス傾向が続いているので、上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで現在の思い切った金融緩和の枠組みを続けるという決意を明示したものである。それはもちろん時間軸であるのだが、時間軸の時間を取り出して物理的にどのくらいかということは、はっきりとは申し上げられない、というのが現状である。

【問】

目標値である「ゼロ%以上」を変えることは考えられないのか。

【答】

繰り返しになるが、現時点では、ある特定の数値を持ち出してターゲットにすることは如何なものか、と考えている。

【問】

先程、ムーディーズが日本の国債について格下げの方向で見直すと発表し、それを受けて長期金利が1.4%台になったり、為替も円安方向に振れているようである。ムーディーズのこうした判断や市場の反応について、どのように考えているか。

【答】

ムーディーズの件については、どういう説明で格付けを見直すのかなど詳細を承知しておらず、私の立場からはコメントできない。

【問】

講演の中で、「仮にインフレ・ターゲットを設定したとしても、金融政策だけで達成していくことは難しい」、「金利が殆ど下げ余地のない中で金融政策の効果には多くを期待できず、むしろ需要を直接つけるような政策が有効である」、さらに、「財政支出の量より質」と言われている。仮に政府がそのような方向で動き出して、中長期的な成長期待が生まれた場合には、インフレ・ターゲティングを導入しやすい状況になると考えられるのか。つまり、政府の対応によっては、インフレ・ターゲットを設定することもやぶさかではないのか。

このように景気が悪くなり、株価も下落している現状では、財政支出の質の見直しだけでは、短期的には、デフレギャップを縮小できるとは到底考えにくい。目前の対策としては、ある程度需要を追加し、それなりの需要刺激が必要と考えているのか。一方、財政支出を追加することに対しては、日本国債の格下げ圧力が一段と強まると思うが、その絡みについてどう考えるか。

【答】

金融政策だけでできないと正直に申し上げたが、さりとて、財政政策も合わせればできるのか、と言った簡単な事ではない。金融政策だけではできないと言った背景には、財政のほか、構造改革などさまざまな問題があり、あれがなければこれができないといった、簡単な選択のできる性質の話ではないということがある。財政支出の質の見直しだけでもできないと思うが、これまであまりにも質の見直しをやらないできていた。例えば、公共事業でも、単にお金を数量的に追加するとか、単にハードな物を作るとか、そうしたものが中心となってきた。しかし、そうでない分野があるということが認識されてきており、量的な側面だけでなく、質的な側面、付加価値の高い工夫により、財政の効率的な資源配分および景気に対する刺激策を考えてよいのではないか。

しかし、経済学的に、このファクターを入れればどうなるんだという検証をしている訳ではないので、今のご質問に対して単純な回答はできない。

【問】

8月に金融政策が変更された後も、株価は軟調に推移し、為替も円高方向に振れているが、8月に決めた金融政策の内容で十分であったと考えているか。

【答】

金融政策は、その時々の経済情勢を注意深く点検して、それを政策決定会合の場で点検・検討・議論し、追加的な手段をとる必要があるのかないのか、どういうふうにすべきかの議案について、9人の委員が投票し、決定している。こうした決定は、経済情勢の判断如何である。勿論、株価、為替といった資本・金融市場の動向も十分にウォッチしながら、情勢判断する訳であり、無視するということでは勿論ない。どういう金融政策を採るか採らないかは、その時々の経済情勢の判断如何である。

【問】

不良債権問題について、今まで日本銀行は、「痛みを伴ってでも最終処理を断行すべき」とのスタンスであったと思うが、今日の講演では、「(企業を)できる限りサポートしていくことは、金融機関に対して本来期待される役割のはず」とトーンダウンしているように感じるが、そういう認識でよいか。

【答】

不良債権処理に対するスタンスがトーンダウンしたということは全くない。「痛みを伴ってでも最終処理を進めるべき」という態度に変わりはない。ただ、特に地方の中小企業の状況や中小企業の取引金融機関の状況を考えると、債務者と債権者の間にさまざまないきさつがあり、できるならば助けたいという気持ちがあるのも事実である。現実の金融取引においてその辺の話し合いを怠りなくやるのは、——不良債権問題の解決をやらなければならない、というのが大前提であるが、——その中にあっても、銀行と取引先との関係はそうあってしかるべきものであると思う。

【問】

株価が1万円割れ目前となっている状況下、「株価だけで金融政策を決めない」というのは、世間の理解が得られないのではないか。「日本銀行は逃げている」との印象を持たれかねないのではないか。

【答】

今後の金融政策について、具体的にコメントすることは差し控えたいが、日本銀行としては、物価の継続的な下落を防止し、経済が安定的かつ持続的な成長軌道に復帰するということを支援するために、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けていく方針である。

【問】

今後、金融政策の対応が必要な状況となった場合に、当座預金残高の目標値を積み増していくのが最も考え得る対応なのか。あるいは、他の手段も考えているのか。

【答】

今、日本銀行が採っている金融政策の方式は、リザーブ・ターゲティング方式であり、政策決定会合の度に情勢を判断し、政策を議論している。リザーブ・ターゲティング方式を未来永劫続けるかどうかは、その時々の政策決定会合において議論の上、決定するマターである。

以上