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三木審議委員記者会見要旨(9月13日)

平成13年9月13日・新潟県における金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年9月14日
日本銀行

―平成13年9月13日(木)
午後1時50分から約40分間
於 オークラホテル新潟

【問】

本日の金融経済懇談会の話を踏まえ、今の新潟県経済をどのようにみているか伺いたい。

【答】

金融経済懇談会における出席者の方の意見を少しお話させていただくと、一つはやはり実体経済の動きは依然として後戻りを続けているということ、しかも新潟県については、まだまだ悪くなるリスクが非常に大きいということであった。IT関連、——とくに新潟の場合は、部品産業であろうと思うが——その影響が大きかったのではないかということである。もう一つは、新潟県は公共投資依存度の高い県として今日に至っているため、やはり今の小泉内閣の構造改革、——財政赤字対策からくる一連の財政支出について乗数効果のある"質の財政出動"に変えていくという構造転換であるが——その影響がもろに出てくるのではないかということである。

一方、金融面では新潟中央銀行破綻の影響を心配していたが、金融面の地域経済に対するサポートは、きちっと行われ、その後遺症を十分にクリアしているのではないかという感じがした。この点は行政を担われる平山知事、そして何よりもこの地域を支える金融機関の果たした役割が大きい。そしてそれをサポートする形で産業界も、とくに雇用を中心に十分に協力されたことによると思う。この点は私どもとしても非常にありがたく思っている。

その他に出された要望、意見として1、2点申し上げると、一つは中小企業対策。新潟県は中小企業が大きなベースとなって支えていることから、中小企業対策を念頭に置き、とくに金融の問題についても考えてもらいたいというのが、非常に切実な意見であったかと思う。また、公共投資依存度が高い県であるため、これからの財政再建のなかでも、この点をよく念頭に置いた財政出動を考えてもらいたい、といった点も切実な意見の一つであった。

日本銀行に対する意見ということでは、アカウンタビリティーが足りないのではないかというご意見があった。新日銀法の施行から3年以上経過しているが、改正のポイントは独立性と透明性ということであった。透明性、つまりアカウンタビリティーとは、日本銀行として言うべきことはきちっと言うスタンスであり、もっとわかりやすく国民にわからせる努力をする必要があるのではないかということである。しかもそれは金融の世界に閉じこもり、それ以外の例えば国の政治の問題や財政の動き、あるいは為替の問題には発言しないということではなく、今の日本経済、これからデフレから脱却し、景気回復に持っていこうという過程のなかでは、財政・金融・民間の合せ技で解決する必要があるのだから、その中で整合性は持ちつつ、日銀として提案すべき時はする、言わなければならないことはきちっと言う、これがアカウンタビリティーではないかとの意見が出された。

【問】

先程の講演の中で、金融政策として「健全な手法による資金供給には限界があり、程度の差こそあれ不健全な領域が目の前に迫ってくる可能性が一切ないとは言い切れない」とおっしゃったが、ここでいう「不健全な領域」というのは具体的に何か。また、ここでおっしゃりたかったことは、不健全な手法による資金供給というものが、今後検討課題になっていくということか。

【答】

デフレからの脱却、物価の下落を止めるということが日本の最大の課題であり、とくに日銀に問われていることだと思う。そして、これだけの構造改革と不良債権処理を含めた大きな構造問題を抱えているなかで、どうやってそれを止めるかと言えば、金融政策だけでは十分ではなく、色々な意味で合せ技にならざるを得ない。ただし、この場合、政府の財政と日銀の金融政策とは常に整合性のとれたものでなければならないと思っており、世間でもこのことが今求められている。

こういう中で物価下落を止めるための金融政策は何かということになれば、マネタリーの面で日銀が物価の安定という一つの役目を担い、流動性について万全の供給をしていくということである。そしてそのお金が実体経済においてモノとサービスに使われ、初めて物価に影響が出るということであり、こうしたことを整合性をとった中で合せ技でやらなければならない。ただ金融政策だけでは非常に限界が出てくるものだと思う。

調整インフレは問題外として、本来のインフレターゲット論のような物価目標ということではなく、どのような手段でやるのかということが、今日銀として一番大きな問題になる。所詮、お金を出すということは民間と銀行が持っている資産を我々が買い取って、あるいはそれを担保として、お金を出す訳であるから、この時一番大事なことは何かといえば、これはやはり国の信認とバンク・オブ・ジャパンのセントラルバンクとしての信認と銀行券、円の信認、これを大きな原則として念頭に置いた健全性のある金融政策ということが根本にあるべき性質のものであると思う。

そういうスキームのなかでこの3月に今までの金利ターゲットから——金利は殆どすでにゼロまで持ってきていることから—— 量的ターゲットに切り替えて、万全の流動性の供給をするという金融スキームでやってきた訳であるが、その前提は健全性である。

3月に実施したスキームをこの8月に補完する形で推し進めた訳であるが、やはり健全性を念頭に置いたスキームには金融政策だけでは限界があり、この点は日銀としても頭の中に入れておかなければならないと思う。そして、それから先は一体どのようにやるかというと、多かれ少なかれ不健全なスキームということを念頭に置かざるを得なくなってくるのではないかと思う。したがって、この問題は外に対していちいち言うべき性質のものではないが、金融政策を司る日本銀行としては、こういった問題についてもきちっと検討しておかなければならないということだと思う。

このことは、今後すべて不健全なものになってしまうとか、そういう画一的なことを申し上げているのではなく、今の健全なスキームにおいて限界に近づきつつあるなかで、なお取り得る手段として何があるかということだけは我々として常に追求しておかなければならない。また、不健全といっても程度がある訳であり、しかも経済は流れている。9月11日の米国のテロ事件も予想のつかなかったものであり、これがまさに経済の動きである。今は政治と経済は不可分であるため、事態の変化によりそこから出てくる考え方は、当然変わってくると思う。そして、実際にそういう局面になって政策を発動しなければならない場合、一番大事なのはスピードとタイミングであり、その場合、政策委員会できちっと検討してやっていくということになるが、政策当局としてはいかなる事態にも備え、常に検討しておかなければならないと思う。

【問】

多発テロ事件が実体経済へどのような悪影響を及ぼすかお考えをお聞きしたい。

【答】

多発テロ問題については、許し難い問題であることは間違いない。米国国民にとって誠に不幸な事件であったと思う。もう一つ、背景としてあるのは、結局、20世紀の終わりにベルリンの壁が崩壊して、イデオロギーの対立の世界が消え、残ったのは民族と宗教の対立となった。それが今回のような形で火を噴いたのではないかとの個人的な感想をもっている。これは政治の問題だから経済は知らないということでは済まないと思う。今度の問題で一番大事なのは、ブッシュ大統領が、これは米国に対するテロというよりも、米国に対する戦争だといった、ここが最大のポイントである。今の欧州、日本、その他、米国を中心とする安全保障体制が敷かれるなかで、テロと戦争では、ガラッと異なる。ブッシュ大統領が戦争と受け止めると言われたことは、これから民主主義世界を巻き込む形で影響が出ることを念頭に置かざるを得ないのではないかと思う。

そこで、政治・経済が不可分であることから出てくる問題は、2つに絞られる。一つは原油高の問題である。原油の値段が大幅に上がった時、日本経済は一体どんなダメージを受けるのかということが、実体経済の最大の問題であろう。

もう一つの問題は株式市場の問題である。すでに日経平均は9,400円台まで下がり、トピックス(TOPIX)も990ポイントまで来ている。

いずれにしても、株式というのは企業のファンダメンタルズの反映であり、経済のファンダメンタルズの反映であるということであるが、需給バランスの問題もある。だからこそ、金庫株解禁の問題や自己株消却をせよといった形で需給バランスをとっていくということは、当然企業として考えなければならないし、税制も含め大事な問題だと思う。それと株式はやはり、期待と投機(スペキュレーション)で動くものであることを考えると、株が下がるということは、当然長期金利に影響が出る。株が安くなれば、当然銀行もこれ以上国債を持っておく訳にはいかず、売りに出る可能性があり、長期金利は上がる。今後、株安、長期金利高のリスクが大きい。その意味で株式市場を注視していかなければならない。金融機関はこの9月期からすべて時価会計になるため、株は下がるは国債は暴落するはということになれば、大変なことになると思う。金融システムのなかで一番ケアしていかなければならないことは、長期金利が上がるかどうかというリスクであると思っている。今は幸いにして安定しているから良いが、そういうこともあり得るので株の相場というのは、相当慎重にみておかなければならないと思う。

【問】

講演の中で金融機関の引当不足問題にも触れられたが、委員は現在の大手行の引当不足問題や公的資金を注入する必要性について、どのようにお考えか。

【答】

不良債権の最大の問題は、如何に引当を積んでいても、米国を中心とするデファクト・スタンダード、米国の会計基準ではオンバランスの間は問題が残るということである。国際会計基準はすべてそれで判断される。だからこそ、これだけ株式で打たれ、格付けの引下げに繋がりかねないということだと思う。日本からみれば、「そうではないでしょう。引当もきちんと積んでいます」ということでやっておけば、オンバランスでも、それだけの体力がきっちりとできていれば問題ないと思うのだが、この考え方が通らないのであろう。米国の基準は、プロジェクトファイナンスの世界のものであり、日本のように「担保主義で、引当をきちんと積んでおけばよいのではないか」という概念が、米国にはない。そのため、オンバランスになっている以上は米国の基準では意味がないという形になってしまう。我々も世界の国際会計基準のなかで生きていかなければならないとすれば、やはりそれに合せた考え方をどうしてもとらざるを得ない。だからこそ不良債権の処理というのは、最大の問題として、今やらざるを得ないということに繋がると思う。

そこで、ファンダメンタルズを反映するのは銀行であれば自己資本ということになる。体力を表わすのは自己資本であるため、結局、最後にその自己資本に行き着く訳で、もし自己資本に問題のある金融機関があり、自己資本の増強を一体どのようにするのかとなれば、私は今で言えば公的資本の注入しかないと思う。これは私個人の意見であり、柳沢さんの考えとは大きく違うが、自己資本の増強が必要な銀行には、公的資本注入は必要だと思っている。そして、体力をつけて、それが自己資本という形から銀行の信用創造機能をもう一度取り戻すことに繋がるのではないかと思う。今日も中小企業云々という意見がたくさん出たが、この中小企業の問題こそが銀行の信用創造機能、リスクテイク能力に繋がると思う。やはりこのことを考えておかないといけない。

日本経済が戦後50何年、ここまで伸びたのは何故かというと、金融の役目で言えば、やはり信用リスクテイク、要するに生きられる企業か、生きられない企業かということをきちっと銀行が見分けて、生きられる企業であれば、今赤字であっても「よし助ける、いくらでも金を出すから事業を伸ばせ」と言う形でやってきた、それがソニーであり、松下電器であり、本田技研である。だからこれだけ伸びた。ところが、これだけ不良債権の処理を迫られ、信用リスクというものに問題が出てきて、金融システムの不安に繋がってしまったため、そういうがんじがらめの中では、なかなか銀行としてはリスクテイクできにくいと思う。そこで必要となるのが自己資本であり、必要な自己資本は出すべきとなる、そのためにあの70兆円のスキームを作り、金融再生法ができたのだと私は思う。

【問】

金融懇談会の場では、地域の金融機関の方と不良債権処理についてのやり取りがあったかと思うが、具体的にどのような話しがあったか。また、大手行並みに地域の金融機関も引当て等不良債権処理を進めていくべきか見解をお聞きしたい。

【答】

金融懇談会の場では、むしろ中小企業の方々から、中小企業対策についての意見が出された。かつて貸し渋りというものがあり、今後もその可能性が強いことから、中小企業対策として、日銀として銀行に対し行うべきアドバイスは行ってもらわなければ困るとする意見が強かったと思う。

それともう一つ、不良債権処理からみた場合、本日出席いただいた地域金融機関はこの点は十分にやってもらっている。今大事なのは中央の論理をそのまま地方へ当てはめるなと、これが地方行政に携わる人を含めての意見だと思う。

さらに、「痛みを耐えることは分かるのだけれども、いつまで耐えればよいのか、それを明示してくれ」という意見があった。これはやはり国民の切実な意見であろう。やはり物事には「いつまで」が大事であり、今日このことを痛感した。そのスケッチを明示し、道筋を明示すればやることはやる。ところが「そのスケッチが今何もない、そのことが最大の不安だ」ということを言われ、なるほどと思った。日銀の金融政策もその意味では、3月にCPIがゼロ%以上になるまでは、政策を続けるということをコミットした。初めてこういう期限を我々も付けた。アカウンタビリティーというのはそういうことなのだと思う。

【問】

「新潟中央銀行破綻の後遺症については十分サポートされている」旨の発言があったが、産業界の話を聞いてみると、実際に雇用面で未だ再就職先が決まらない方もいるが、地元経済界としてのバックアップについてどのように感じられたか。

【答】

最初の新潟中央銀行の問題は、確かに未だ再就職先の決まらない方がおられるというお話は伺っている。しかし、全体をみてみると私はやはり第四銀行、大光銀行など地元金融機関を含めて、この問題については比較的後遺症というものがあまり残らないかたちで処理して頂いたのではないかと思っている。新潟県、金融庁、それにおこがましいが日銀を含めて、よく対応したのではないかと思う。営業譲渡を受ける側としての地元金融機関に対して、雇用の問題は最終的には産業の問題にもなってくる訳であるが、そういう雇用の受皿の問題も含めて地元において比較的よくやって頂いたのではないかと思っている。

【問】

「米国のドル高政策修正」について先程の講演で触れられていたが、今後の為替の見通しについて伺いたい。

【答】

為替の問題であるが、為替には必ず相手があることから、自国内だけの問題として解決できないものである。そうでなくとも、現在はメガコンペティション、ワールドワイドな時代であり、会計的にも連結経営となっている。そういう時代であることから、為替の急激な変動は企業に大きな影響を及ぼす。例えばヨーロッパにある連結会社が1年間稼いで前年比3割増の利益を出したとしても、期末になって為替が3割変動したら、あっという間にチャラになってしまう。その意味で、為替は「安定させてくれ」、これが産業界の声である。ではどの程度のレベルで安定させてくれというのかというと、国際競争力、海外と戦えるコストにするということでないと意味がない。これは企業の問題である。そのために皆必死になってリストラを行っている。企業がコスト対応力を備え、そこで為替を安定させてもらえれば海外と戦えることとなる。それがある日突然急激に上がったり下がったりすると、これが一番問題である。急激な乱高下は避けなければならない。為替がファンダメンタルズを反映したレンジのなかで安定しているということであれ市場原理に任せる、政策当局がいちいちコメントするものではない。

ただし、急激な乱高下、これは為替政策で対応しなければならない。現在、わが国の為替の所管は財務省である。為替の安定は産業界からの最大の要望だと思う。先程の基調説明では、「外貨資産購入による意図的な円安誘導は、金融調節の一つの手段としては問題である」と申し上げたが、為替政策というのはこれとは別の問題である。この点は誤解のないようお願いしたい。

【問】

非常に厳しい景況感を示されたが、現時点において追加緩和の必要性についてどのように考えているか。

【答】

金融政策の問題については、これはあくまでも政策委員会決定会合の場で9人のメンバーがきちんと議論して決めるべき性質のものであり、私からコメントすることは差し控えたい。

以上