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田谷審議委員記者会見要旨(10月4日)

平成13年10月4日・静岡県における金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年10月5日
日本銀行

―平成13年10月4日(木)
於 ホテルセンチュリー静岡
午後2時から約40分間

【問】

本日の金融経済懇談会の場において、地元経済界の方々からどのような意見・要望が聞かれたのか。また、今の静岡県経済をどのようにみているのか伺いたい。

【答】

先日の短観の結果でもそうであったが、静岡県経済というのは非常に日本全国の平均値に近いという印象を持っている。色々なご意見を頂戴したが、意見はかなり日本全体の問題とほぼ軌を一にしたものであったという印象である。どのような意見があったかということであるが、まずは、中小企業が実態面、金融面からみても、かなり厳しいという話があった。金融機関側からは、そうした状況の中で、貸出を伸ばせない、伸びないという問題があり、その一方で預金はかなり集まってきている。従って、運用が課題であり、努力を続けているといった話があった。また、仮に不良債権処理を早急に行う場合には、セーフティ・ネットを考えて頂きたい、特に中小企業サイドはそういう意見が多いという話があった。

第2に、静岡は、「モノづくり」という点ではかなり集中している県であり、輸出企業の方々からは、米国経済についてどうかという質問を受け、意見も出された。テロ事件の発生以来20日前後しか経っておらず、なかなか先行きについて具体的に議論できないということであったが、ただ一点、米国経済を語るうえでは、クリスマス商戦がどうなるのかということが非常に大事である。クリスマス商戦用に通常は、夏場辺りから在庫を積み上げ、生産を増加させていく訳であるので、そうした足許の動きを見ながら、クリスマス商戦、ひいては消費全体のことを考えていきたいといったものであった。また、静岡県に限らないが、最近では中国経済の問題が出てきており、コスト面だけではなく、技術面からも短期間の間にかなりキャッチアップしてきており、中小企業も含めて中国に既に進出している企業も多く、現在進出を考えている企業も多いといった話があった。その場合、国内の雇用の問題が出てくることになり、なかには、——ある会社では、これを「社内空洞化の問題」と呼んでいるそうだが——社内で人の異動をどうするのかといった対応を考えている方もいた。こういう中国の問題にも絡むが、最近では「デフレ」が問題であると言われているが、暫く前に言われていた日本経済の問題である「高コスト構造の是正」というものはどういうことになっているのか、といった意見もあった。従って、国際競争を展開していくうえでは、こうした「高コスト構造の是正」という視点も重要であるということであった。

  1. あと2点ほどあり、1つは消費の問題である。私は最初の話の中で、消費というのは数字の上では、強い指標も一部あるが、弱いものもある、非常にミックスした状態にあると申し上げた。消費がなかなか活発化しない理由としては、3つの不安があると、1人ではなく何人かの方々から異口同音にあった。それは、1つは株価が安いことである。この結果、例えば、百貨店売上げの外商でかなり響いているとのことである。

  2. 2番目に老後の問題である。これは、年金の問題でもあり、医療保険等の問題でもあるので、なんとか先行きが見えるように政府に対応してもらえないかといった意見があった。

  3. 3番目は雇用の問題である。これは特に私から申し上げることはないが、やはり雇用不安というものが高まっていて、それが消費の低迷に結びついているのではないかとの意見があった。

ただ、その一方で、ツボにはまればかなり売れるものもあるとった意見もあった。確かに高額商品の一部にはそういった傾向がみられるとのことであり、これは他のところでも聞いたことがある。

最後に要望として承ったのは、日本の地価は下がり続けていることは皆さんご承知のとおりであるが、都心のマンション用地とか、一部の地価は上昇してきているという現実もある。そういった現実であるとか、東京あるいは日本の家賃などを国際比較した結果を外部に発表すれば、地価が下げ続けているばかりでもないという現実がわかるのではないかといった要望があった。昼食時も含めて米国とか中国の経済などグローバルな視点からの意見も多々あり、大変参考になった。

【問】

県内金融機関の経営の状況をどうみているのか伺いたい。

【答】

先程冒頭に申し上げたように、貸出というものは伸ばしたいとは思っているが、貸すだけが金融機関の役割ではないとの意見があった。その一方で、預金が増えている。これは業態を越えて金融機関全体の問題として言えるのではないか。都銀であれ、地銀であれ、信用金庫であれ、信用組合であれ、同じ問題に直面していると思う。静岡県という特定の地域に拘わらず、同じ状況に金融機関の方々は直面しているとの印象を強く持った。

【問】

9月18日の金融政策決定会合で決められた「当面、6兆円を上回る資金を供給する」との表現の中の「当面」とは、どういうことを指しているのか。

【答】

「当面」といった場合、次回の金融政策決定会合までということである。その理由は、前回の決定会合時では、米国におけるテロ事件の直後ということもあって、日銀の当座預金に対する予備的需要はかなり高まっていたが、私どもとしても事前にどのくらいにまで高まるのか分からなかった。一方で、そういう予備的需要に当面対応して、十分な流動性を供給した場合、特に中間期末を過ぎた後、どの程度の予備的需要が剥落していくのかについても分からなかった。従って6兆円以上ということで金融市場の不安定化に対応しようとしたし、期末前後に起こるかもしれない金利の上昇を抑制しようとして、そのような表現にした。

【問】

金融経済懇談会の冒頭挨拶の中で、「中間期末も過ぎ、金融市場が安定化してくれば、どの程度の供給が可能で、また、望ましいかを探って行くことが出来る」との発言があったが、中間期末が過ぎた現段階で判断は可能なのか。それともまだ時間が必要なのか。

【答】

中間期末が過ぎた次の日から、マーケットの状況をみながら、例えば、売出手形に対する需要がどれくらいあるのかについてマーケットにヒアリングしたり、実際に売出手形オペを実施することによって需要動向を把握しようとしている。まさに現在進行形の形で事態が推移しているという状況であると思う。

【問】

当座預金残高目標を7兆円、8兆円、あるいはそれ以上に引き上げようという議論に対する回答の中で、「当座預金残高目標を引き上げることは出来るかもしれないが、何のインパクトも期待できない」との発言があったが、金融機関の資金需要が低下した状態の後は、当座預金残高を引き上げても何もインパクトが期待できないということか。

【答】

ここでは、当座預金残高目標を引き上げることはできても、仮に金融機関がそういった余分の当座預金を日本銀行の勘定に放置して、何もアクションを起こさないということであれば、何もインパクトはないということを言おうとしたものである。私どもとしては、マーケットの需要がどうあれ、何か目標を決めればそれが実現できるとも必ずしも言えない。仮にそういった目標が実現できない場合、長期国債を買うと言っているのではないかと聞かれるかもしれない。その場合、長期国債買い切りを増額したとしても、期待した効果は得られないかもしれないということを申し上げた訳である。

【問】

不良債権処理問題について、「施策の具体化の過程で、いかなる貢献ができるか、考えていきたい」との発言であったが、日銀として何ができると考えているのか。

【答】

現在、整理回収機構の機能強化に関して何ら具体策は出ていない。仮に整理回収機構で、短期間に多額の資金が必要となった場合、何らかの日銀の出番があるかもしれないといった意味で申し上げたものである。これに関連しては、一部で日銀の考査機能を活用してはどうかといわれることがある。これまでも金融庁と密接な協力関係を持っており、要請に応じて情報交換なども行ってきた。こうした延長線上で何ができるのか、具体的なアイデアが出てきた時に、その時の状況を踏まえて考えていきたい。現在、この問題はかなりの部分現在進行形であるため、そういった動きを注視して、まさに何ができるのかを考えていきたい。

【問】

長期国債の買い切りに関して「より踏み込んだ財政出動と一体となったものであれば、そうしたリスクを踏まえた上で、長期国債の買い切りの増額を検討することは可能かもしれない」との発言をされたが、「より踏み込んだ財政出動」とは、どのようなイメージのものを指しているのか。また、それに関連して小泉内閣の新規国債発行額30兆円の枠をどのように考えているのか。

【答】

小泉総理は、経済情勢によっては大胆にかつ柔軟に対応すると発言されているが、これは必ずしも30兆円枠と直線的にリンクしたものではないと思っている。ただ個人的には不良債権の早期抜本処理に関連して、仮に公的資金の注入が必要となった場合、この枠内、あるいは枠外で考えるといった議論が出てくるかもしれないと思っている。

次に「踏み込んだ財政出動」であるが、ご承知のように補正予算が通っていない訳であるし、来年度の予算編成といったものも当然まだ決まっていない。最初に申し上げたとおり、小泉総理のスタンスが何らかのアクションに結びついた場合、これは理屈から言えば国債発行に結びつくことになる。そうした場合、国債の発行というものをマーケットがネガティブに捉えて、(長期)金利が上昇するかもしれない。(長期)金利が上昇した場合、日本銀行が国債をさらに余分に買い取ることによって、マーケットの状況を変えることができるのかと言われると、私はわかりませんといつも申し上げている。それはその時のマーケットの状況次第だからと思っている。ただ、可能性として、マーケットを安定化させることに結びつくように、私どもの長期国債の買い切りを使うことができるかもしれないと思っている。従って、そうした財政出動があれば必ず日本銀行が長期国債の買い切りオペを増やすことには直線的には結びつかないが、可能性として考えている。

【問】

先程、講演の最後に不良債権処理について、公的資金の問題に触れられたが、まず、第一点は、そもそも今の不良債権の状況と今の金融機関の経営状況からみて、公的資金は必要なのか必要でないのか。特に政府では、今のところ(小泉総理の昨日の国会発言をみても)、業務純益を基本に償却原資とするべきだという発言があったり、どうも公的資金の問題に踏み込んでいないようだが、日銀として、あるいは審議委員の個人的見解として、どうみておられるのか。

第二点は、仮に必要だという場合には、ロス資金という形でつぎ込まなければいけないという発言があったが、単にそれだけではなくて、前回の公的資本注入の時にも随分問題になったが、銀行の経営が必ずしも十分に経営責任を取っていないという中で、つぎ込むだけの議論が先行するのはいかがかと思うが。その辺の条件整備の問題も含めて、どうみているのか。要するに公的資金を必要とするのであれば、投入するにしても、ただそれはロス資金として投入すればいいという訳ではなくて、その一定の条件、例えば経営責任を明確にするとか、色々条件があると思うが、その辺の条件整備についてどう考えているのか。この2点について伺いたい。

【答】

第一点については、先日、金融庁が現在考えられる不良債権処理についてのシナリオというものを公表した。その中で、公的資金の注入は必ずしも必要ではないといっている。その一方で、公的資金の注入も辞さずに、もっと早期に抜本的にすべきだという意見も強い。私は、こういった二つのシナリオに基づくと、今後、金融機関、あるいは日本経済というのはどのようになるかという帰結を考えて、結局は政治の判断、決断になると申し上げた。私の立場はどうかと言われれば、金融政策を有効足らしめるためにはこの問題を解決することが必要条件の一つだと申し上げた。その観点からは、早い方がいい。早期抜本処理のために、公的資金の注入は必須という立場に必ずしも立つ訳ではないが、政策を有効足らしめるには、早ければ早い方が良いのではないか。

もう一つの、公的資金を注入する条件ということは、一般的に今言われたような点も含めて、当然、皆さん、考えられていると思う。

【問】

地元の方から不良債権処理のセーフティ・ネットを考えて欲しいとの意見があったが、それ以外に、例えば輸出の関連等でこのようなことをして欲しいとか、中小企業に対する政策として、こういうことをやって欲しいとか、もう少し具体的な要望は出たのか。

【答】

具体策としてという訳では必ずしもないが、やはり厳しいという話は随分承った。要望については、中小企業の景気、活動を活発化させるためにも、金融改革が必要であるとの意見はあったが、具体的に何かをして頂きたいという話はあまり出なかったように思う。

【問】

長期国債の買い切り増額について、「より踏み込んだ財政出動と一体となったものであれば検討可能かも知れない」といったくだりと、それから一つの可能性としての金融機関への公的資金の注入といったことも言われた訳だが、そのより踏み込んだ財政出動というのは、一つの大きな可能性としては、公的資金の注入ということを念頭に置いているという解釈でよいのか。

【答】

それも可能性としてはあるが、それ以外にもやはり景気対策というか、そういうことも可能性としては考えられると思う。私どももそうであるが、やはり経済の状態、景気の状態がかなり先行き悪くなりそうだということは、皆さんご承知のとおりで、それがどのぐらい悪くなるかということは、必ずしも国内要因だけではなくて、海外要因に依存するところが大きい。従って可能性として、一つには、金融機関の不良債権処理に絡む可能性、そしてもう一つは、それとは必ずしも結び付かない、景気対策としての財政出動というものも考えられるのではないかと思う。

【問】

これまで3月以降、日銀は、当座預金残高を5兆円、6兆円という形で、需要がなかなかない中でも頑張って供給をして工夫をして、それを経済全体に染み出すということをトライしてきた。今、緊急避難的なところで、6兆円を上回るということで流動性対策という、別の格好になっているかも知れないが、先程言われたように、当座預金残高目標を引き上げて、染み出し効果を狙っていくという従来の枠組みというのは、もう限界であると思っておられるのか。

【答】

ご承知のように、6兆円というように、目標額を引き上げた時、未達問題に対応するという目的のためにも、金利の刻みを1000分の1にした。言ってみれば、こういう表現が適当かどうかわからないが、縦軸に短期金利を取って、横軸にマネタリー・アグリゲート(通貨量)を取った場合、需要曲線が0.01%以下でも右下がりであったということを発見したと思う。ちょっと難しい言い方になったかも知れないが、要するに、昨年までとっていたゼロ金利の下では、金利の刻みというのは100分の1単位だった訳で、その時は0.01%に張り付いた。6兆円に目標を引き上げた時、その未達問題というのが生ずるかも知れないという懸念は持っていた。そこで、金利の刻みを1000分の1にすることによって、ひょっとしたら5兆円を上回って6兆円の準備預金を供給できるかも知れないということでやってみたら、かなりスムーズにできた、これも一つの発見である。ある意味で、現在私どもがやっているのは一つの実験であって、事前には分からなかった部分だと思う。そういう意味で、そういう実験をしてO/Nの金利が0.002%、あるいは0.003%というように平均値としても下がった訳である。これ以上下げられるのかというと、私はもう限界であると思う。この水準では、運用を諦めている金融機関もかなり見受けられるし、この面から現在の政策は限界に達した可能性があると思う。

【問】

先程、地元から具体的に要望が少なかったと、ただ厳しいという話があちこちからあったということであったが、厳しいという点に対して、どういう業種で具体的にどのように厳しいという話があったのか、一つ二つ具体例があればと思う。

【答】

特に厳しい産業としては、繊維が挙がった。繊維とか、金属とか、あるいは代表的な輸出産業である輸送用機器、こういうものも厳しいとの話があった。その関連で、「厳しいという現状は致し方ない、ただ問題は、このトンネルがどのくらい続くのか、先行きがわからないところが問題である。その点に関連して今後経済というのはどのように進むのか」という質問とか、それに纏わる議論が随分あった。私としては二つのシナリオというのがあり得ると申し上げた。一つは、今までの延長線上のシナリオ、この場合は、なかなか先行きそう急激に悪くはなることはないかも知れないが、先行きがなかなか見えないというもの。もう一つは、やはり様々な構造改革を短期間に進めることによって、短期的なマイナスのインパクトは、大きいかも知れないが、先行きトンネルの出口が見えるシナリオ。そのどちらのシナリオになるかというのは、そう遠いことではないのではないか。

一つには金融機関に関連しては、来春にはペイオフ解禁ということがある訳で、そういうデッドラインというものが、金融だけではなくて、いくつかのところで存在している。従って、どちらのシナリオでいくのかということが分かるのも、そう遠い将来ではないという意味で申し上げた。

【問】

先程講演の中で、かなり詳細に日銀がこれまで取り得る手段について述べられているが、今後デフレ圧力が強まる可能性も非常に高く、政府サイドからも日銀の更なる緩和について圧力が強まる可能性もあるが、これだけ、所謂現在の政策が限界に達していると言っているが、今後緩和の圧力、あるいは必要性が強まった時に、日銀としてどういう対応を取っていかれるのか。

【答】

だからこそ、一般的に言われているような手段について私はこう思いますということを、鏤々申し上げた。そう申し上げた上で、やはり金融政策を有効にするには、不良債権問題の処理が一つの必要条件になる。ただ、それ以上のことはここでは申し上げなかったが、当然のことながら、不良債権処理をするためには過去のそういう問題を解決するだけではなくて、やはり金融機関がいかに利鞘を稼げるような状態になるかということも大事である。それは、金融機関に努力を要請するということだけではなくて、やはりそういう努力が報われる環境を整備することも必要である。そういう中には、特殊法人改革なども関連するだろうし、様々なことが関連すると思う。だから、単に、日銀の当座預金をもっと積め、等という方向ではなくて、今までの延長線上でないところに、私どもができることがあると思う。

以上