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中原眞審議委員記者会見要旨(11月22日)

平成13年11月22日・石川県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年11月26日
日本銀行

―平成13年11月22日(木)
午後2時30分から約30分間
於 日本銀行金沢支店会議室

【問】

本日の懇談会の意見交換で、どなたがどのような発言をされたか、また、それに対してどのようにお答えになられたのか。

【答】

会議中ご発言された方の個別のお名前や(発言の)中身は差し控えさせて頂きたいが、全般的な議論のポイントや私の受けた印象を幾つか申し上げさせて頂く。

第一は、やはり、ここまでの不況が、石川県あるいは北陸の経済にも相当大きな影響を与えている、ということである。循環的な影響はもちろんのこと、それに加えて、繊維関連などで、中国との競合といった構造的な影響も相当受けている、という印象を改めて持った。また、それに対する危機感を、経済界あるいは県の政界の方々が非常に強く持っておられる、という印象を持った。

こうした意識は、全国的にどこの地方でも同じであるが、特に石川県の場合には、伝統工芸、美術、その他の伝統的な技術に非常に強いものがあり、(そうした伝統の上に積み上げた)「モノ作り」に対する大変なこだわりを感じた。当県の場合には、あるいは北陸の他の県も含めて、(企業が)技術的に大変優秀なものを持っている。シェアで全国ナンバーワンという製品を持っておられる企業もかなりある。やはり、伝統的な「モノ作り」というものに対して、その技術の上に新しい何かを作っていかなくてはならないという、地元の皆さんの意気込みというものを感じた。

中々明るい話題はないが、石川県の場合には、観光資源というものが、県としての大変大きなアセットになっている、という感があった。観光関連の色々なご説明も頂戴したが、特に来年から大河ドラマで「利家とまつ」が始まることもあって、観光にかける石川県の方々の意気込みというものを感じた。緑化フェアが、目標は確か百万人という話であったが、百二十数万人入ったというお話もあった。実は私も特別に見させて頂いたが、五十間長屋や菱櫓などを見て、大変な技術であると思うとともに、ああいうものを梃子にすれば、観光都市としての当地の発展の余地が色々あるのではないか、と心強く感じた。

それから、何人かの方に、「もう金融だけ、あるいは財政だけ、あるいはある種の特定の政策だけで、現在の状態を脱却していくのは中々難しいのではないか」というご意見を頂いた。私の懇談会における発言原稿を見て頂いたと思うが、今や日本経済は、全方位、総力戦だ、というようなことを書いた。同様に、「金融政策、財政政策、税制、あるいは労働政策というものの総合的なパッケージの上に、新しい日本経済の発展の方向を形作っていかないと駄目なのではないか」というご発言を何人かの方から頂戴した。その関連で、「日銀は、金融政策以外についても、遠慮しないでどんどん発言しろ」というご意見も頂戴したが、いずれにしても、「特定の分野の政策だけで解決できる問題ではない」という問題認識については、皆様共通のものをお持ちだ、という気がした。

今日の懇談会を通じて、皆様方のご発言、それから私の印象を纏めて申し上げると、そういうところである。

【問】

懇談会の冒頭のスピーチの中で、デフレスパイラル等経済の悪化が深刻化した場合の、政府と日銀が一体となった通常では採り得ない手段について話があったが、これについてもう少し詳しく説明して頂きたい。

また、本日、イギリスのフィナンシャルタイムズが「日銀の外債の購入について金融政策決定会合で検討された」と報道したが、外債購入については本格的に検討されたのであろうか。

【答】

経済の危機ということが具体的にどういう状態を指すのか、想定している訳ではない。また、通常では採り得ない手段については、いわゆる非伝統的な金融調節手段と広くとっていただければ結構だと思う。ただ、伝統的と言った時にどこまで入れるのか。例えば、金利政策までが伝統的であって、量的緩和は既に非伝統的と言えるのかもしれない。その線引きは良く分からないが、いずれにしても、量的緩和についても効果を確認しつつ、また、何がしかの染み出し効果を狙いながら、進めている訳である。政策の限界的な効果が薄れていく中で、将来、デフレスパイラルが本当に生じるような状況になった場合には、政府だ、日銀だ、とは言っていられない。総合的な政策パッケージが必要となるかもしれない。政府と日銀が一体となるということは、何か特定の政策についてお互いに相談するという訳ではなく、「一体感を持って」という意味である。

良く言われている政策として、CP、社債の購入、あるいは、外債、株、連動投信などの資産を購入するといった議論が出ている。土地の購入については、個人的には難しいと考えているが、その他の非伝統的な手段については、当然、デフレスパイラルの激化に備えて、何が問題なのか、政策発動には何が必要なのか、どういった副作用があるのか、そういった点をよく詰めておく必要があるだろう、といった趣旨で申し上げた次第である。

外債の購入についての報道は見ていないので申し上げにくいが、個人的な考えを申し上げると、国債を中心とした現在の調節手段は、流動性の供給において基本的に量の面では何ら問題ない。現に(日銀当座預金の残高が)9兆円、場合によっては10兆円近いところまで供給されていることから、「外債の購入をしなければ、どうにもならない」といった状況ではない。ただ一般論として、あるいはある種の理論として、外債の購入の可能性は、当然ながら、論理的にはあり得る。特に、準備資産として、「国債、日銀当座預金との代替性が小さいという意味においては、調節の効果は、国債以上にあるのかもしれない」と経済学者などは言っている。そういう意味では、外債購入の方式、シナリオを排除する必要はない、と考えている。もっとも、外債については、「調節で必要ならば、日銀が購入すればそれで済む」というものではなく、為替政策を担う財務省との問題、購入対象の外債を発行する外国の政府当局の国債管理政策との関係等もあるので、こういったところの十分な詰めが必要であることは間違いない。

【問】

デフレスパイラルとは何か。日銀は、「今はデフレスパイラルではない」と言うが、具体的にどのような状態をデフレスパイラルと考えているのか。例えば、1997~1998年には物価の急落は起こらなかったし、失業率も今よりは低かったが、そのような意味では、何をもってデフレスパイラルというのか。

【答】

何をもってデフレスパイルと判断するかは難しい。失業率の上昇、物価の下落が具体的に何%になったらデフレスパイラルなのか、ということについて答えることはできない。ただ、デフレスパイラルについては、二つのことが言えると思う。一つは、各種指標の悪化がスパイラル的に、急速に起こるということ。もう一つは、1997~1998年のように —— 今はこの点が違うのであるが —— 信用収縮が急激に起きるということであり、この二つがデフレスパイラルの条件であると思う。現状において、不良債権処理の進展とともに、銀行の貸出態度が厳しくなっていることは承知している。また、中小企業における倒産の増加が今後の大きなデフレ圧力の一つとなることは否定できない。しかし、今は、急激な信用収縮は起きていない、と判断している。そういう意味では、(今の日本経済は)デフレスパイラルではない。ただ、将来についてはこの辺を注視していく必要がある、と思っている。

【問】

懇談会での挨拶の中で、「国債買切り増額について、今後考えても良いのではないか」といった趣旨の話をされたと理解しているが、増額に踏み切るシチュエーションとしては、今後いかなる場合が想定されるのか、そのイメージを教えて頂きたい。

【答】

国債買切りの増額というのは、3月の政策レジームをご覧頂くと分かるとおり、あくまで調節の一手段ということで考えている。その意味で、「現在、直ちに長期国債の買い付けを増やしていかないと調節ができない」という状況ではないように思われる。長期国債の買切りについては、8月の状況を覚えておられると思うが、買切りを2,000億円増やしたものの、マーケットは逆に反応し、長期金利が上昇した。私は、あの時の金利上昇の原因は、期末接近に伴う益出しの動きに加え、30兆円(に新規国債発行を抑制する)という財政の問題がどういう風に着地するのか中々読めなかったために、マーケットが非常に不安定な心理状態になっていた、ということだと思う。いずれにしても、長期国債の買切りを増やすと、むしろ、結果として中長期金利を低位に安定させようという考え方と逆の方向にマーケットが動いてしまう可能性もあるのだと思う。そのような意味で、その発動のタイミングは、中長期の国債のマーケットがどういう心理状態か、財政の方の動きはどうか、調節手段とはいえ、そういうことを判断しながら決めていく必要がある、と思っている。

【問】

現在の北陸地方における金融機関の経営の現状をどのように認識しているか。また、今後予想される展開について、北陸銀行の件も含めてお伺いしたい。

【答】

個別銀行については、発言を差し控えさせて頂く。来年3月のペイオフ解禁を控え、地方金融機関、系統・中小金融機関等で、非常に不安を感じておられる先が多いことは、認識している。金融機関としては、一般論であるが、来年3月に向けて、預金者がどういう行動に出るのか、流動性の問題、財務力の問題を常にチェックしながら、基本的には自己資本の増強、収益力のアップを心掛けていかなくてはならないと思う。そういう意味で残された時間が少ないとはいえ、まだまだ努力していく、その結果として、ペイオフ(解禁)の3月末までに、今生じているような金融システムへの不信感、不安感を払拭していく必要がある、と考えている。金融庁も特別検査を行って、不安感の除去のために、改めて要注意債権を中心とした資産の精査をしている訳である。その上に立って、3月までに金融機関としてやるべきことはやる、それがある程度進むことによって、ペイオフそのものが持つ全体的な不安感をかなり取り除くことができる、という気がしている。

【問】

委員は、10月30日の参議院財政金融委員会において「インフレ参照値があってもいい」という発言をしたが、この点については政策委員会の中でどれくらいのコンセンサスがあるのか。また、インフレ参照値を、先日の「経済・物価の将来展望とリスク評価」と合わせて出す、ということを考えているか。

【答】

質問に答える前に、「インフレ参照値」という言葉が一人歩きをしているので、この点についてご説明したい。欧州中央銀行は、M3、つまり通貨の量について参照値を設けており、物価上昇率については2%をある種の政策のレファレンスとして持っている、ということである。従って、参照値とは、厳密には通貨量についてである。

参照値の話は、政策委員会で出た議論ではなく、私個人がある通信社のインタビューの中で答えたものである。ただ、政策委員会としては、昨年の10月に物価についてのレポートを発表した。その中で、中央銀行の政策の透明性、説明力の向上という趣旨で、ある種のインフレターゲットというか、物価上昇率の目標値を政策に取り入れることは、意味のあることかも知れないので、「今後十分に検討していく」という結論になった。私の発言はその検討結果を先取りして言ったものである。私が「何らかの安定物価の定義という形で数値的なレンジを示すことができないか」ということをインタビューで言ったことが、インフレ参照値として報道され、参議院にも呼ばれたものである。実情を話せば以上のようなことである。

以上