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総裁記者会見要旨 (12月21日)

2001年12月25日
日本銀行

―平成13年12月21日(金)
午後 3時から約65分

【問】

先日発表された12月の金融経済月報では、99年以来の悪化という表現で景気の一段の落ち込みを強調されていた。すでにデフレ・スパイラルに入ったという指摘もある。景気全般の現状認識について伺いたい。また来年の日本経済について、どのような展望を持っているのか、総裁のご見解をお聞かせ頂きたい。

【答】

まず足許であるが、昨日公表した「金融経済月報」でお示ししたとおり、景気の現状については、「輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるなど、広範に悪化している」と判断している。前月に比べて、さらに判断を慎重化させたと言ってもいいと思う。12月の短観も、先日出たばかりであるが、一部に思ったほど悪くない──在庫とか中小企業の設備投資等──面もあった。しかし、全体として、やはり経済情勢の厳しさを裏付ける内容であった。

金融面をみると、企業破綻の増加などを契機にして、民間銀行や投資家の姿勢が慎重化していると思う。一部の企業では資金調達環境が厳しくなる方向にあると言える。現状、97〜98年のような広範な企業金融への影響はないが、金融面の動きが実体経済や物価を過度に下押しするリスクには十分注意をする必要があると思っている。

先行きについては、10月末の「展望レポート」でお示ししたとおり、(1)今年度下期中は厳しい調整局面が続く、(2)来年度は、海外経済の回復が年度前半になるとみれば、下期にかけてわが国景気も下げ止まりに向かう、という姿を標準シナリオと考えている。現状、このシナリオから大きく外れている訳ではないが、引き続き、不確実性が高い状況にあると認識している。

物価面では、政府の「改革と展望」の素案にも示されているとおり、わが国が構造改革に取り組む過程で低成長を甘受せざるを得ないとすれば、その間は、ある程度の物価下落は避けられないと見ている。そうした状況では、何らかのショックを契機にして、デフレ・スパイラルに陥るリスクがあることは否定できない。政策運営の力点としては、デフレ・スパイラルの防止ということに置かれるべきであると考えている。

以上、足許と来年度の展望という意味で、申し上げたつもりである。

【問】

一昨日の金融政策決定会合における、追加緩和の決定を受けて、昨日は銀行株等も反応を見せたが、本日はその点で言えば、再び下落をみている銘柄が多い。マーケットのこうした反応を今の段階で総裁はどのように受け止めているか。

【答】

今回の措置を講じてからまだ2日しか──特に一昨日は市場が終わるギリギリのところで公表ができたので、あまり市場には影響が及ばなかったと思っているが──経っておらず、いずれにしても、こうした短期の市場動向について評価を下すことは適切ではないと思う。

しかし、例えば、昨日実施のCP現先オペ4千億円を見ると、落札金利は0.043%と、その前の0.071%からかなり下がっていると思う。年末、また明日からの連休、正月の連休を控えているので、多少皆さんご心配があるかと思うが、これだけの準備を進めておけば、それほど心配することはないと思う。

日本銀行としては、今後とも、各種の市場動向を注意深くみてまいりたいと思う。私としても、年が変わって構造改革の更なる実施を待って、民需の高まりが生じてくれれば、今回も含めて今まで打ってきた緩和措置が、十分効果を発揮していくものと楽しみにして、年を越したいと思っている。

【問】

昨日小泉総理が、ペイオフ凍結解除について予定どおり来年4月に実施するという方針を表明した。総裁も一昨日の会見で金融システム不安再燃への懸念を非常に強調されていたが、現状のままでペイオフを解禁した場合、金融システムに新たな動揺を招くおそれはないか。その辺りについてのお考え、また公的資金再注入をめぐる議論についても、改めて総裁の見解をお聞かせ願いたい。

【答】

公的資本再注入にせよ、ペイオフ解禁再延期にせよ、大事なポイントは、金融システムの安定度合いをどうみるかということであると思う。

この点、主要行は、中間決算発表時に、思い切った不良債権処理や自力増資等の方針を打出しており、こうした金融機関の自助努力の成果に強く期待している。

また、そうした努力などの結果、金融システムが信認を回復し、ペイオフ解禁を予定通り進めることができればよいと思っている。

なお、セーフティー・ネットは、金融システムが動揺した98年当時と比べ、格段に充実している。万が一、システミック・リスクの発生が懸念される場合には、日本銀行としても、そうしたセーフティー・ネットの活用と併せ、金融システムの安定を確保すべく流動性供給の面から適切に対応していきたいと考えている。

万が一、システミック・リスクの発生が懸念される場合には、金融危機対応会議が開かれ、その議を経て内閣総理大臣の認定により公的資本注入が可能な仕組みとなっている。

仮に、各金融機関が以上述べたような自助努力を続ける過程で、中央銀行として流動性供給の面でサポートすべき事態が生じた場合には、セーフティー・ネットの活用と併せ、金融システムの安定を確保すべく適切に対応していきたいと考えている。いずれにせよ、金融システムの状況については、慎重に見守って参りたい。

【問】

為替相場についてだが、マーケットでは円相場が本日3年ぶりの129円を超える水準まで進んでいるが、日本経済にとっては輸出の促進とかデフレ解消といった面からプラス効果を指摘する声もある一方で、「日本売り」ということで日本経済への信認低下を懸念する声も根強いと思う。現在の相場動向について総裁のお考えを伺いたい。

【答】

ここへ来て急に円が弱くなっている背景は何なのかまだはっきりしないが、今おっしゃったように銀行株が急落したりして金融システムは大丈夫なのか、あるいは問題企業の破綻が起るのではないかという懸念が内外の市場で動いているのではないかと思う。特に銀行の株価が急落したことが為替にも響いたのではないかと思う。

しかし、昨日、今日のところは銀行株もやや持ち直してきているように思うし、アメリカの方も来年中頃から立ち直ってくるかどうかその辺もまだはっきりしない。現在の円/ドルレートが行き過ぎなのかどうか、ここで私はコメントはしたくないと思う。ファンダメンタルズに比較してどうなのかということだが、ただ下がり方がやや急であるということは言えるのではないかと思う。

昨日今日、あるいは今日明日、レートがどうなるかということよりも、もう少し長い中長期の目で日本の国際的な資金の流れ──それは経常収支もあるし資本収支もあるし為替レートの動きもあるし──を見て頂きたいと思う。その資料を皆さんにお配りしてこの機会に説明させて頂く(別添資料を配布)。

私は海外の方が来るたびに、これをお見せして、日本の国際的な金融、資金の関係というのはこういうことであると示すと、皆さん非常に安心して、こういう面があったのですかとおっしゃられる。古い話を聞くのは嫌だという方がおられるかもしれないが、これが現在の市場を動かしているということを忘れて頂きたくないと思うので、この機会を使って、私がいつも説明している3つの表をご覧頂きたい。

この表の他に日本経済のポテンシャルズ(潜在力)という表現を使って説明しているのだが、その第一が、なんといっても家計の金融資産が1,400兆円──GDPが500兆円としてその2.7倍以上──ある国は他にない。そのうち55%が間接金融(預貯金)で、13%が直接金融に流れている。あとの30%は保険である。

アメリカの場合はそれが逆で、直接金融が50数%、銀行に預けているのが12〜13%ということで、その辺に大きな違いがある。しかし、それは日本が今まで間接金融中心でやってきたということを積み上げた結果である。それも一つのポテンシャルズには違いないと思う。

一番上の表は円ドル相場で、1971年のニクソンショックから2001年に至る30年の間に、360円が128、129円と約3倍近く上がっている。

それから、そういうものをもたらす背景に、二つめの経常収支がある。皆さん貿易収支ばかりおっしゃるが、金の流れとしてはこの経常収支が大事である。太い線が日本の経常収支の黒字であるが、左右の数字はGDPに対する比率である。ご覧のように1981年から20年間、日本は概ね2〜4%の経常黒字を保っている。去年は2.4%ぐらいであったが、今年もおそらくそれぐらいである。貿易収支の黒字が減ったと新聞はお書きになっているが、それは確かに減った。輸入が増えているのだから。しかし、経常収支で貿易にインビジブル(サービス収支)を入れ、かつ今一番増えている所得収支を入れれば、経常収支になる訳だから、2.4%、約10兆円を超えるだろう。GDPの2.4%の黒字という国もない。過去20年経常収支がずっと黒字が続いている国というのは他にないと思う。貿易収支が少なくなっていったら経常収支が赤字になるのではないかとご心配される方がおられるが、経常収支の中身を見てみると、確かに貿易収支の黒字は減少してきているが、それに代わって所得収支が経常収支の黒字の約8割を占めている。おそらく年間で10兆円くらいいくだろう。

次にアメリカの経常収支もご覧頂きたい。経常収支の赤字は今やアメリカのGDPの4%を超えてきている。そこのところに、国際通貨の基軸として今一つ不安を残すところがあると私は思う。

それからその背景にある日本の対外純資産残高(net external assets)が、86〜87年からずっと増えだして、昨年末で1兆2,000億ドル(約150兆円)である。経常収支の黒字を積み立てて、それをどんどん海外に出している訳である。この中には4,000億ドルの外貨準備も含まれている。それは運用されているから、ドルの預金や外債を買っている。1兆2,000億ドル、すなわち約150兆円の対外債権があるという国も他にはない。

この対外債権が金利、収益を持ち込んでくる。ご承知のように、対外直接投資として中国の上海近辺に日本の中小企業がどんどん出ていっている。そういうところはみんな儲かっている。それはたしかに国内には空洞化を起こしている。しかし、中国の例では、出ていって儲けた分をドルに変えて日本に送金し、税金もかからない。彼らは直接投資が来ることを歓迎しているからであろう。そういうものはここへ来てぐっと増えている。年間の運用益というのが先程申し上げた所得収支になるが、約10兆円くらいになる。それが経常収支の黒字を支えている。

下の表をご覧頂くと、逆にアメリカは約2兆2,000億ドルの対外収支の負債超過である。我々はドル債務と言っている。アメリカが海外で持っているドル残高といった方がいいかもしれない。これはアメリカの中長期の弱みである。これは相場にも当然影響がある訳で、経常収支で海外直接投資をしたものの金が入ってくる、預けている預金の金利が入ってくる、あるいはドル債権の利払いや配当金が入ってくる、そういうものはほとんどドルで入ってきて、ドル売り円買いで交換されている。そういうものが円ドルの相場を作っているのだということを記憶に残して欲しい。

一日一日株を売った買ったで相場は動くが、そこに流れているネットの動きというのはそういうものがある。だから、色々外資が外へ流れたとかいう動きがあって弱くなったりすることがあっても、一遍に弱くなることはない。昔はほとんどそれで相場は決まっていたが、最近は資本の売り買いが色んなかたちで行われているから、全体として、日本の経済が今まで積み上げてきたポテンシャルズが必ず相場には出てくるはずである。そういう中長期の流れをよく頭にいれて、相場のことを言って頂きたいと思う。そのことだけ申し上げて、私が現在の相場がどうだということは控えさせて頂きたい。

【問】

今年一年の回顧という意味でお伺いするが、政策変更だけで今年6回されたということで、日銀としても過去の歴史の中でもなかなか異例の年だったと思う。また春には総裁ご自身の去就も話題になったりして、いろいろあった年だったということで、一年を振り返って率直な感想を伺いたい。それとご自身のことも含めて、来年の抱負を聞きたい。

【答】

この一年はあまり愉快な一年ではなかったことは容易にご想像できると思うが、ゼロ金利を8月11日に解除した後、昨年の暮れ辺りまでは、かなり株も上がってきたし、経済も成長を続けていたと思う。これからいよいよ市場性を持った金融市場を作り上げていきたいといった気持ちを持ちながら年を越した訳だが、どうも年の暮れから、ご承知のIT面での世界的な供給過剰──アメリカから始まったが──が起こって、それが世界全体の景気を年初から春にかけて非常に引き降ろしていった。アメリカが金利を下げ始め、それにつれて主要国も金利を引き下げた。いつ頃までこれが続くのかなといった気持ちで皆見ていた訳で、アメリカは引き続き生産性は非常に強いから需給の調整が進み、在庫が調整されていったら、また景気が良くなるのではないかという、短期にV字型に上がるだろうという見方もあったし、U字型だというのもあったし、L字型だというのもあった。どれになるだろうかということであったが、アメリカでもどれ位IT関連の在庫が減っているかという計算が出来なかったのである。連銀の人たちでも、在庫が減りつつあるという人と、まだまだ時間がかかるという人とに分かれていた。

そういう状況で夏を越す訳だが、日本はその間、国内の不況があったし、物価の下落があったし、特に輸入品関係で物価が一時下がっていくことはかなり顕著だったと思う。それと同時に、小泉内閣ができて、構造改革なくして景気はよくならないということをはっきり言い出されて、経済財政諮問会議などで、構造改革の順序や骨太の線を議論したり、何から始めてどうするか、いつ頃までかかるかといったような議論が春頃から始まった。秋にはかなり具体的な案が出来るということであった訳だが、ご承知のように、9月11日に同時多発テロが起こって、それが大きな変化であったことは、これはまた間違いのないところだと思う。

この二つの大きな出来事を中心にして、世界景気全体の流れが、やはり大きく揺さ振られたと思う。実体経済の面では、世界経済全体がかなり急激な減速をみる中で、日本の景気も今日に至るまで、厳しい調整局面が続いてきたということが言えると思う。

こうした情勢の下で、我々は短期金利がほぼゼロに達する中で、世界の中央銀行の歴史に例のない、思い切った金融緩和を推し進めてきた訳である。3月に量的緩和ということで、──今まで金利でやっていたのを日銀の当座預金残高の目標値でいくということで──4兆円位であったのを5兆円にし、8月になってさらに6兆円まで引き上げた。9月11日にあの事件が起こって、急遽12日の朝、2兆円流動性の供給を行い、それ以降9月18日に「6兆円を上回る」ということとした。11月の平残で見ると9兆2千億円位の当座預金残高となった訳である。

物価の問題についても、物価安定のコミットメントというか、現在の金融緩和の枠組みを、消費者物価の前年比が安定的にゼロ%以上となるまで、量的緩和を継続するということを宣言した。国債買い入れについても、最初は、年4兆8千億円、月4千億円であったのを、8月に6千億円、年7兆2千億円にし、今回またそれを8千億円、年9兆6千億円まで増やしている。その他に、いざという時に、急遽、取引先銀行に資金不足が起こった時に、それを救うためにロンバート貸出制度を作った。そういったことで、一年でかなり激しく金融政策の補強というか前進というか、政策を変えてここまで来たが、その間景気が一向に良くなっていかない。しかし、構造改革の面で、特にこの一月以内の間に具体案が次々と出てくると同時に、補正予算、来年度予算についても、構造改革の推進を主体とした予算が作られていくことになっている。構造改革については、私自身はかねてからその重要性を訴え続けた。財界にいた頃から、これをやらなければグローバライズされた世界の中で日本は取り残されると、特に規制の緩和撤廃を早くやらなければだめだということを言い続けてきたので、小泉内閣のこういった案については私としては、是非これを早く実行に移したいという気持ちがあった訳である。それがテロ事件の発生で、若干遅れたが、ここへきてまず銀行の不良債権の整理、大銀行だけで本年度中に6兆4千億円の処分をするということが決められたのを一つのきっかけにして、銀行の方もそのためには貸出を上手く使って、収益を増やして、自己資本を増やして、それによって償却をしていくという方向がはっきり出されてきている。そのために、銀行も動き出してきているが、その他の特殊法人の整理が、方向だけでもかなりはっきりと打ち出されて、民でやれることは官はなるべく手を引くという構造改革の第一の看板が、少しずつ具体性を持ったかたちで政策として打ち出されてきているのが現状だと思う。ただ、そういうものが出てくるということは、景気の面だけから言えば、やはり景気を下押しする可能性の強いものであるだけに、一方で景気を支えながら構造改革を推進していってもらいたいという、この複雑な気持ちで年を越すということになっている。しかし今の内閣で、しっかりその点を理解して進めていってもらいたいというふうに思っている。いろいろ妥協もあると思うが、なるべく初志を貫徹してもらいたい。日本経済は、今までこうやって戦後積み上げてきた世界第二位の経済大国なのだから、その立場を強くしていくためには、通貨もしっかりした通貨を持たなければいけないし、経済構造も世界に負けないだけの、世界と並べる構造を持っていかないといけないというふうに思う。そういう市場経済、自由経済への衣替えというのは、政治問題、社会問題に繋がっていくだけに難しい問題だと思うが、来年はこれがどの程度進められていくかというところに期待を持ちながら、年を越したいと思っている。

【問】

金融のシステミック・リスクが万一起こった場合、セーフティー・ネットの活用とあわせて、日本銀行としても流動性供給の面で適切に対応していくという説明があったが、それは特融なども含めて、取り得る措置を全て含むものであると理解してよいのか。

【答】

それもあるし、一昨日決めた10〜15兆円に当座預金のターゲットを増やし、それだけの資金を出していくということも、そういう状況の中で特に金融問題を考えて、緩和措置、流動性供給の道をつけたと思っている。その他、CPの現先オペを活発に行って市場を大きくしていく、それからABSもABCPもそうだが、そうした直接金融市場を育てていくことによって1,400兆円の資産を持つ家計が銀行だけではなく、うまい具合に流れていく道をつけていく。そうした市場を大きくしていくことが、今、銀行で止まっていてなかなか外へ流れていかない私どもの資金供給を横から支えていくことになっていくと思う。

途中で万が一、金融機関の破綻が起こるというようなことも、十分あり得ることだと思う。預金というのはご承知のように不特定多数の人から資金を預かっている訳である。預金者にとっては貴重な資産だから、預けているところに何か問題がありそうだとなれば、自由に引き出して他に持っていけばいい訳だから。そういうことが波を打って起こっていくようなことになれば、金融システム不安は十分起こり得る訳である。そういうものが起こらないように、事前にこういった防衛措置をたくさん打つと同時に、政府の方でも98年の頃に比べて預金保険を始め色々なかたちでセーフティー・ネットが設けられている訳で、そういうものを使っていく。日銀としても、ロンバート型貸出もそうだし、場合によってはLender of Last Resort(「最後の貸し手」)というかたちで特融を出すということもあり得ると思う。私どもでは四つの条件というものを特融に付けているが、その四つの条件を満たすのであれば特融を出すことはあり得ると思う。

そういった緊急に備えた措置というものは98年の時よりもずっと進んでいるから、それ程心配をすることはないと思っている。

【問】

昨日、財務省原案が提示され、来年度はマイナス予算となっている訳だが、金融政策でデフレ・スパイラルを防ぐことに重点を置き、金融緩和を進める一方で、財政がマイナス予算になっていることをどう評価するか。また、今後財政面でどういったことが行われるのが適切だと思うか、お考えを伺いたい。

【答】

来年度予算については財務省原案が決まり、その具体的な中味について経済財政諮問会議などでも色々議論を進めてきているが、まだこれは確定ではないのでコメントは差し控える。

予算案の作成については、限られた財源の中で歳出の効率化を進めていく一方で、重点分野への予算配分をむしろ構造改革中心に増やしていくということが考え方として取り入れられている。そういう意味で、財政の健全化と構造改革の推進の両面が意識されていると理解して良いと思う。

特に、私は特殊法人で、民間でやれるものは民間に移していくということが大事だと思うし、そういうことを通じて、サッチャーやレーガン改革の時に言われた「小さい政府」も実現していく──必ずしも人が減るということではないかもしれないが──。民間でやれることは、民間にやらせる、譲っていくことが歳出の削減にもなるし、場合によっては歳入にもなり得るということだから、公共投資その他、今までやってきたようなかたちで景気を支えることはなかなか難しいと思う。民間の需要をクリエイトしていくような配慮を行った減税措置であるとか、あるいは民間企業への刺激とか、そういうものが構造改革にはなくてはならぬものだと思う。それと同時に、一方で、やはり国民に、「この政府ならついていける」といった安心感を与えることが絶対に必要だと思う。そういうことによって消費も増えていくだろう。その二つのことは十分考えて政策を決めていく必要があると思う。

このことは、経済財政諮問会議などでも良く出てくる議論なので、議論の上で政策が決まっていくと思うが、構造改革ということは政策だけでなく、政治のあり方あるいは社会的な認識の変化も起こっていかなくてはならないことだと思う。それだけに、今年の間にできるといった類のものではなく、基礎を固めて一歩一歩、実践、実施していくことが必要である。口だけの宣伝ではなく、実際に実現していくということが必要だと思う。それがやはりここ10年遅れていたのではないかと思う。

【問】

予算規模がマイナスになること自体は構わないのか。

【答】

規模が小さくなるのは、それは必ずしも構わない。

構造改革がマイナス要因を持つと同時に、財政削減がデフレ効果を持つことはご承知の通りである。総需要に対する財政の影響というものは、かなり大きいものがあると思う。そういう財政の影響も含めて経済全体の動きを見ながら、金融がそれを後押ししていくということは今後も続いていくのではないかと思う。

【問】

自民党の一部の国会議員に日銀法を改正する動きがある。今日もその会合があって、総裁が「外債購入は日銀法40条2項でできない」とおっしゃっていることに対し、「それは可能である」との見解をまとめた。これは、内閣法制局、財務省の専門家の意見を参考にしてそういう認識に至ったということであるが、総裁は、「外債購入は現行法ではできない」というこれまでの主張を改めるつもりはあるのか。あるいは検討する余地があるとお考えか。

【答】

今日の「緊急アピール」については、私はよく知らないが、今の日銀法というのは、各界の英知を集めて国会で色々議論を重ね、国会でお決め下さった法律であって、私は世界に誇る中央銀行法だと思っている。私の使命はこうした日銀法の理念を実現するために精一杯努めることだと思っている。

ご質問の外債の買い入れというのは、私は今その必要はないと思う。外債を買うことには二つの狙いがあるが、一つは、ドルの需要を起こすことによって円安にすること、もう一つは、円資金の供給を増やすことだと思う。私は、あの法律をみて、ドルの需要を起こすような円売りドル買いをやるというのは、明らかに介入の一種であると思う。そういうことをやれば、これは法律違反になる可能性は十分にある。そんな危ないことをやる必要はないと思う。それだけのurgencyがあれば、それなりに動かなければならないかもしれないが、今その必要は全くない。それでは、どこかの特別な機関なり、あるいは政府、中央銀行に頼んで、特定の取引をやるといっても、出ていった円は市場に回るものではない。そのようなことを考えれば、この政策というのは恐らく今急いでやるようなものではない。先ほど申し上げたように、中長期でみた時に、ドルだってどのようになっていくか、先は読めない。現に、最近でも米国の長期国債の金利は上がっている。公定歩合は下げているのに、長期金利は5.0%に上がっている。日本は今1.3%である。それはやはり、中期長期には、投資家も国民も読めないでいるということだと思う。そういう長期の国債について、私どもが出す銀行券──手形を出すようなものであるから、それは私どもの負債であるが──の見合いの資産として、ドルの債券、外貨の債券を持つということは、私は健全な政策ではないと思う。

それと同時に、この間もCPや社債を買えという話もあったが、それなども、今度やっているように現先のCPオペでやるのであれば、銀行から買うのであるから、銀行が責任を持ってだめな時にはカバーしてくれるが、直接買うというのはそういうものではない。その辺も誤解のないように書いて頂きたい。CPは現先のオペであり、社債も担保として入るのであって、買ったりはしない。そのようなことをやっている中央銀行は他にない。それぐらいのことは中央銀行の常識である。

【問】

3月以降の量的緩和策を振り返って、その効果はあったとお考えか。効果はないという声もあるが、どうか。

【答】

量的緩和は、金利を低下させるし、資金量も増やすので安心感を与える。それはやはりプラスだと思う。問題は、銀行の貸出がずっとこのところマイナスであって、そこのところに問題がある。銀行は、信用仲介機能という銀行が持つべき機能を十分に発揮していなかったと言えると思う。やはり、恐かったからではないか。需要もなかったし、そこへもってきて、また不良債権を作っては困るとの気持ちもあったと思う。それを今、銀行は貸出の効率化について極めて積極的に考え始めている。いいところにはどんどん貸すが、悪いところには金利を高くするのは当たり前だと、それはその通りだと思う。場合によっては、貸すことを止めることもあろう。そういうふうにして、はじめて収益は上がっていく。この前も申し上げたが、日本の銀行の利鞘は0.5%、米国は3.2〜3.5%である。それではバンキングは成り立っていかない。儲かることを——貸出の効率化と同時に、もう少し新しい仕事も——どんどん作っていって、新しい業務をやっていくことも、ひとつの方法だと思う。世界の銀行は色々な新しいことをやっているようである。私も話を聞いてびっくりしたが、最近日本の銀行は海外店を引き揚げて、あまり外で何をやっているかを良く見て真似をする余裕がなかったのだと思うが、これから、そういうことももっとやっていかなくてはならない。外銀、外証が入ってきてどんどん刺激をしてくれることは良いことだと思う。せっかく日本も金融市場を作ろうとして、橋本龍太郎元総理の時にビッグバンをやった。あれが途中で止まっていたが、入る方も、もう少し入ってきていいと思う。日本は、資本が入ってくるのが非常に少ない。それでネットの債権超過が1兆2千億ドルにもなっている。もう少し入ってくれば、日本の雇用の稼動にもなるであろうし、入って来られてはかなわないということで止めていたということも今までずいぶんあったと思うが、そういうこともオープンにしていかないと、世界にはついて行けなくなる。

【問】

確認だが、先程の外債購入の話のなかで「 urgencyがあれば別だが、今はやる必要はない」とのお話であったが。

【答】

今はそういう問題の多い方法を取り上げる必要はないと思う。

【問】

危機的な状況になれば選択肢になり得ると。

【答】

状況によってはなり得るかもしれないが。それは、今考えなければならないような手ではない。

【問】

アルゼンチンの経済危機について、かなり深刻な状況が伝えられているが、世界の金融システムやわが国にどのような影響があるとお考えか。サムライ債も結構あるが。

【答】

8月の終わりにBISの会議から帰ってきて、アルゼンチンの話をした覚えがあるが、それ以来、私はアルゼンチンを最も心配していた。その間IMFも色々と手を打ってきたが、今はアルゼンチンについてはどちらかというと冷たい感じになっているのではないかと思う。政治がこれだけ無政府状態のようなことになって、銀行が全部窓を閉めてしまっている訳で、情勢が大変緊迫していることは間違いない。国際金融市場への影響については、隣国のブラジルでも多少影響はあったものの大丈夫だとの返事を聞いていたが、欧州、米国の中央銀行も大変注目していた。これからも何が起こるか分からないので何とも言えないが、隣国のブラジルとか、スペインの銀行——スペインは歴史的にも長い繋がりがあるが——の資産がどうなるのかということは、前から心配していた。政治がこういうふうになってしまうと、カバロとか、今までずいぶん長くやっておられた人がみんな辞めていかれる訳で、どうなっていくのか、今のところ何とも言えない。出ていった金がどこに流れていくのか。出しているお金がどうなるのか。日本でもサムライ債を政府が出したり、ユーロ円債を出したり、色々あるようだから影響があることは間違いない。比較的個人の問題が多い。日本の政府や企業、銀行が大量に貸しているという訳ではないから、その辺のところは、今後の動きをよくみていかないと分からないが。

以上


別添

  • 円ドル相場のグラフ 1970年~2001年の推移 1970年から1990年にかけて円高がすすみ、以降は1ドル80円~160円で推移している。
  • 経常収支のグラフ 1970年~2000年の推移 日本は1981年以降黒字で推移している。米国は1982年以降赤字で推移している。
  • 日米の対外純資産残高 1970年~2000年の推移 日本は資産超で推移している。米国は1989年以降負債超で推移している。