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総裁記者会見要旨(2月13日)

2002年2月14日
日本銀行

―平成14年2月13日(水)
午後3時から約55分

【問】

市場では株式、為替、債券などの低迷が続き、年度末にかけて日本経済が危機的状況に陥るのではないかという懸念も出ている。一部には公的資金の再注入が行われなければこの危機を乗り切れないのではないかという意見もあるが、総裁ご自身は、現在の日本の経済、金融システムの状況についてどのようにみているのか。また、公的資本再注入の必要性についてはどのように判断しているのか。

【答】

昨日公表した「金融経済月報」でご覧頂いたと思うが、景気の現状については「引き続き悪化している」とみている。また、景気の先行きについては、今後も悪化は続くと思うが、輸出や在庫面からの下押し圧力が弱まってくる──下へ押す力が弱まってくるということは上へ上がるということだと思うが──につれて、そのテンポは徐々に和らいでいくと予想される。

金融面については、企業破綻の増加などを背景に、民間銀行や投資家の信用リスク・テイク姿勢がさらに慎重化していることが目立っているように思う。また、金融市場では、長期金利の上昇、株価の下落といった動きがみられるほか、わが国金融システムに対する市場の評価も、極めて厳しい見方が維持されているように思う。

景気の脆弱な地合いが続く中で、内外の金融・資本市場の動きが実体経済に悪影響を及ぼすリスクは、引き続き細心の注意をもってみていく必要がある。

日本銀行としては、潤沢な資金供給を通じて市場の安定と緩和的な金融環境の維持に最大限努力を続けていく考えである。

また、万が一、金融システム全体の安定について疑問が呈されるような事態が生じれば、公的資本注入などセーフティネットの活用と併せて、流動性供給の面から適切に対応していきたいと思っている。

公的資金の再注入が行われなければ、当面の危機を乗り越えることができないのではないかという見方が広がっているということであるが、金融機関は、中間決算発表時に打ち出した不良債権処理方針等の具体化に向けて、努力を傾けているものと認識している。市場の信認回復のためには、こうした努力を通じて、金融機関自身が収益力の強化を図ることが最も重要だと思うし、彼らは今、その方向で懸命に動き始めていると思う。

ただ、各金融機関の取組みが実際の収益力の改善というかたちで実を結ぶまでには、しばらく時間を要するものと思われる。仮にその過程で、万が一、金融システム全体の安定について疑問が呈されるような事態に陥った場合には、総理も述べられているとおり、金融危機対応会議──これは改正預金保険法に書かれている──の議を経て、タイミングを逸せず「大胆かつ柔軟に」対応していくことが必要であろうかと思う。

【問】

小泉総理は施政方針演説等で「政府・日銀は一致協力しデフレ阻止に強い決意で臨む」とおっしゃっているが、日銀としては今後政府とどのような形で協調を図り、どのようなデフレ克服のための政策対応を図っていくお考えか。

【答】

日本銀行は、すでに昨年3月に、デフレ阻止の強い決意を表明し、極めてアグレッシブな資金供給を実施してきている。

金利は1年物の国債金利が0.001%と、ほぼゼロ近くまで低下している。ベースマネーも、1月には前年比23%アップと、第一次石油ショック当時──1974年、例の狂乱物価といって大騒ぎした時であるが──その時以来の前年比の伸びになっている。

政府は「改革と展望」において、集中調整期間中はゼロ近傍の成長を甘受せざるを得ないが、構造改革を進めていくことで経済がデフレから脱却していくシナリオを明確にされて、小泉総理もこの点に関して断固たる決意を表明されている。このように、デフレ脱却の決意は、政府と日本銀行でしっかり共有されていると思う。

デフレ脱却のためには、「構造改革が力強く進んでいけば、その結果として、やがてデフレからも脱却できる」というメッセージを、国民に明確に伝えていくことが必要だと思う。そのためには、税制、公的金融の見直し、改革の具体化といったような具体的な政策論議を、一刻も早く本格化させていくことが重要であると思う。

一方、日本銀行としては、今後とも粘り強い資金供給を続けて、金融市場の安定と緩和効果の浸透に努める所存である。また、金融システムが不安定化する惧れがある場合には、政府と協力しつつ、中央銀行として断固たる対応を講じてまいりたいと思っている。

【問】

総裁は先週末にカナダ・オタワのG7に出席されたが、G7の席上では日本の金融政策運営を巡ってどのような意見が飛び交い、総裁からはどのように説明をされ、理解を得たのか。特に、為替相場についてどのような議論が出たのか、その辺をお聞かせ頂きたい。

【答】

G7というのは、ご承知のように7か国の財務相と中央銀行総裁が集まる訳であるが、これは非常に長い間続いている会議である。いま世界全体で起こっていることに対してG7がどうやって対応していくかを議論するのが本当の会議の目的である。

メンバー国の中で何が起こっているかとか、メンバー国の何がおかしいとか、どこをどうすればいいということを議論するのが本来の目的ではないし、そういうことが時にこれまで行われたために、皆様がそういうことを期待しておられるのかもしれないが、G7というのは、そういう会議ではない。従って、他の国の方々はおそらくマスコミもそんなにたくさん本国から出てこられて取材したりはされないのだと思う。

例えば、今回の場合でも、金曜日に現地に着いて、ワーキング・ディナーでロシアの問題、それからその後夜遅くまでテロ資金対策、それから翌日朝早くからやったことは、まず開発問題である。世界全体のグローバリゼーションの中で遅れている国にどうやって開発を行っていくのか、IDA(International Development Association)を中心にして、どういう手の打ち方があるのかということを極めて活発に議論した。次はアルゼンチンの問題であった。アルゼンチンに遠い国、近い国、関係のある国、ない国、為替の面で色々心配のある国、そういう国々が非常に熱心に議論をし、討議した。更に続いて、所謂PSI(Private Sector Involvement)という、民間セクターが経済危機に陥った国の救済にどういう救いの手を差し伸べられるか、また差し伸べるべきか、ということを議論する会議がお昼まで開かれた。そこで漸く一休みして、記念撮影をし、ワーキング・ランチに入る。ワーキング・ランチは1時間50分であるが、その間がサーベイランスである。サーベイランスとはメンバー国の情勢をアメリカ、ヨーロッパ、日本という順に報告して、それで質問があれば質問を受ける。そこで何があったかと、皆さん聞きに来られるでしょうが、サーベイランスだけが本来の会議の目的ではない。そこのところを良くご理解して頂きたい。

1973年に日本は初めてG5に入れてもらった。これは、当時の蔵相や日銀総裁が色々骨を折られて、米仏の金問題──神学論争と当時言っていたが──で妥協がつかない、翌日にG10があるのに4か国で話がついていないのでは困るというので、日本が中に入って、米仏を夜大使公邸にお呼びして、妥協してもらったのである。それで翌日のG10では上手く議論が進められた訳であるが、その時を契機にして、そういう調整も全部日本でやって、初めて5の意見が一致したのである。要するに、1973年というのはニクソン・ショックの後のフロートが始まった直後のことであるから、ヨーロッパ側は皆自分の国がなるべく金本位制に戻りたい、あるいは固定相場制に戻りたいと思っている。アメリカ側はそんなことはできないと思っている。そういうものがあった。それをどうやってまとめていくか、というのが最大の問題であった。そういうことを議論するために、日本も入れてG5というのがその時からできて、年に2~3回、場所も示さないでやっていた。

そういうことを議論するのが会議の中心であって、各国の話はするけれども、それはおかしいじゃないか、こうしなさいとか、ああしなさいということはメンバー国同士でやるべきことではないし、そういうことは今まであまりなかったことなのである。そういうことがあったでしょ、と書くのは、ちょっと最初からお考えになっていることが違うということだけ申し上げておきたい。

そういうサーベイランスをやって、その後何があったかというと、またアルゼンチン問題を含めグローバル・ガバナンス、どうグローバリゼーションをリードしていくかという話し合いである。これも非常に大事なことである。いずれも非常に大事な問題ばかりであるから、そういう問題は随分議論された。しかし、どこの国で何が悪いということについては、殆ど議論はなかった。私どももしゃべりっぱなしというようなのが現状である。塩川財務大臣はよく説明をなさったし、私はそれを受けて金融だけを簡単にお話した。そう詳しい話をした訳ではなく、「日本銀行は、昨年末に流動性供給のテンポを更に加速させた。ベースマネーの伸びというのは、昨年の9月に10%を超えた後、この1月には23%という高率を記録している。こうしたアグレッシブな資金供給が市場の安定確保に大きく貢献しているが、金融機関や企業の行動はこれに十分反応する兆しがまだ見られていない。日本銀行は引き続き構造改革に向けた政府の決意をサポートしていく方針である。その過程においては、短期的な痛み、即ち低成長や物価低下圧力は避けられないと思われるが、改革を通じて民間のコンフィデンスが強化されれば、金融緩和の効果は目に見えてくるはずである。日本銀行の政策運営は、景気回復及び構造調整の進捗に十分貢献するところがあるものと考えている。しかも、小泉内閣は今や「改革なくして成長なし」ということを掲げて改革を進めていくと言っておられるので、「金融としてはそれを後ろから支えて行きたい」ということを申したが、それを聞かれた人は誰も皆肯いて下さって、「それで良い」という感じであった。

こういうことであるから、G7で何があったかということを聞かれても、ステートメントに簡単に4~5行でメンバー国の動きのことは書いてあると言うしかない。為替のことも極めて簡単に書いてあったと思う。

【問】

このところ資金供給オペの札割れが続いており、このままでは当座預金残高目標の達成を維持していくのは困難になるのではないかとの見方が一部で出ているが、この辺りについて総裁はどのようにお考えか。特に国債の買い切りオペや外債購入など、色々と外野から案が出ているが、その辺の方法を見直すお考え等も含めてご意見を伺いたい。

【答】

先程も申し上げたように、マネタリーベースは潤沢に出ており、23%アップである。それに対して、マネーサプライは3%くらいで、貸出はマイナスであるし、実体経済の方はほとんどトントンのところで、消費者物価も1%程度の下がり方である。

このような状態で更に金融緩和をしてみても、それが実体経済を動かすには至らない。私どもとしては、やはり今は粘り強く資金供給をしながら、構造改革の政策が打ち出されていく税制とか特殊法人の整理とか、あるいは色々な規制の撤廃など今やろうとしていることがリストにずらっと書いてある。今は医療問題で大騒ぎしているが、こうした一つ一つの政策を実行に移していくことによって、それに伴う民間の需要が頭をもたげてくるのを待っているというのが現状であり、ここで私どもが資金量を更にたくさん出したからといって、民間の需要が頭をもたげるかどうか、おそらく疑わしいところがあると自分は思っている。

長期国債についての、金融政策運営に関わるコメントはここでは差し控えるが、いずれにしても日本銀行としては今後とも粘り強い資金供給を続けて、金融市場の安定と緩和効果の浸透に努めていきたいと思っている。

札割れが続いていることについては、日本銀行がいかに潤沢な資金供給を行っているかということを、端的に表していると思う。現在、日銀当座預金を10~15兆円程度とする操作目標を実現していくうえで、直ちに支障が生じている訳ではない。

日本銀行としては、12月および1月に決定した調節手段の拡充措置も活用しながら、引き続き潤沢な資金供給を行い、金融緩和効果の浸透に努めてまいりたい。

ただし、その間に何かが起って金融システムに不安が生じるようなことがある場合には、直ちに対応の手を打っていかなければいけない。その為の準備は十分できていると思う。

【問】

金融機関の資金繰りを支援するために、金融庁などからは日銀特融を柔軟に実施すべきだとの意見が出ているようだが、一方で4月からペイオフ凍結が解除され、日銀特融の実施の判断については、今まで以上に厳格さが求められる状況であると思う。日銀特融には4原則があるが、総裁はこの条件について強化あるいは見直しを行うお考えをお持ちか。

【答】

見直す必要は全くないと思っている。LLR(レンダー・オブ・ラストリゾート)の4原則というのはご承知だと思うが、一つはシステミック・リスクの惧れがあるかということ、二つめは日銀特融以外に打つ手はないのか、他に方法がないのかという不可欠性、三つめはモラルハザードを与えるようなことにならない、四つめは日本銀行の財務の健全性が崩れないかということである。このような4つの原則を以前から持って、今までもLLRは折りに触れて活用している。その場合、いずれもこの4つの原則に則っているかどうかをみて貸している訳である。

【問】

4月からペイオフが解禁されるということで、生きている銀行に貸した場合、後々日銀特融が返ってこない危険性は十分考えられると思うが、これに関連して政府保証が必要なのではないかとか、あるいは公的資金注入とセットで行うべきではないかという議論も聞く。総裁も先程、金融システム不安定化には政府と協力して日銀として断固として対応するとおっしゃっていたが、その辺の考え方について伺いたい。

【答】

政府と協力してというのは、勿論、特融を実施する場合には金融庁や財務省とも十分話し合いをした上で、私どもの政策委員会にかけて決めることになるだろうと思う。公的資本の注入と一緒にやるかどうかということは、その時々の情勢で決めるべきことで、「これが出ればこれも出るんだ」というものではないと思う。何が起こるかは分からないので、仮定の質問にお答えすることは非常に難しいが、あくまでも一般論として申し上げるならば、金融システム全体の安定について疑問が呈されるような事態に陥れば、金融危機対応会議が開かれると思う。そこで公的資本注入などの適切な対応を講じる仕組みが整えられていると思う。日本銀行としては、現段階で具体的な事態とか、方策を策定している訳ではないが、万が一の場合には、公的資本の注入を含む政府の対応と併せて、その時点で状況を見極めた上で、金融システムの安定を確保すべく、流動性供給の面から適切に対応していくというのが、今の私達の気持ちである。

【問】

繰り返しになるが、4月以降、特融の運用において政府保証を求めていく可能性はあるか。

【答】

今まで出している特融は預金保険機構の資金援助により返済が保証されている。山一証券は政府が返済を確約している。先程申し上げた第四の原則が守られるか、どうやってカバーできるかという問題にかかってくると思う。日銀の財務の健全性ということである。

【問】

政府保証も一つの選択肢になるか。

【答】

それは、財務の健全性を議論する時に、どういう保証がかかるのかということは問題になると思う。

【問】

長期金利は2月7日に1.56%と、1か月前の1.3%台からかなり早いピッチで上昇したが、これを新たな景気下振れのリスクとして見るのか、またその場合にどう対処していくのか伺いたい。

【答】

長期国債については、期末越えで買うのが、比較的少ないこともあったのではないかと思うし、円安が進んだことで、外国の投資家が売る動きをしたこともあったかもしれない。ここへ来て、トリプル安も一応は片が付いたかというように私は見ているけれども、もう少しよく様子を見ていないと分からない。今後の政策運営については、まだ何もコメントできない立場にある。またそんなことをやれということを私は頼まれた覚えもない。

【問】

物価目標について伺いたい。閣僚の一部から、総裁もメンバーになっている経済財政諮問会議の中で決められた「改革と展望」の中で、2年以内にデフレを脱却するということが明示されたことについて、これは日本が緩やかな形での物価目標を持っていることを意味するとの意見が出ているが、これに対してのお考えを伺いたい。

【答】

中期計画というが、私どもは、計画というのは社会主義の計画経済なら別だけれども、日本で中期計画というのは良くない、これは展望にしてくれということを言って、「中期展望」という名前で出ているはずだと思う。計数も「目標」ではなくて、「目標」と明言してもらっては困るのであって、これまた「展望」なのである。デフレ克服に向けた決意は政府と日銀で共有されている。しかし、それをもって目的と手段云々という解釈を私どもはしていない。

【問】

政府は経済対策としてデフレを止めることに知恵を絞っているところだが、金融政策がこれから先、踏み込んだとしても、デフレを止めることに何らかの効果があるのか、あるいは殆んど効果はないのか、総裁の認識を改めて伺いたい。

【答】

私どもの考え方は先程から申しているように、量的緩和を十分に行って、短期金融市場では非常に大きな効果を挙げている訳だが、それが貸出を通じて企業に回る、あるいは家計に回っていくといったようなところまでは効果が出ていない訳で、それを起こすことこそ、まさに政策なのである。今、構造改革をやってくれれば、民間の需要は必ず出てくる。それは、サッチャーやレーガンの例でもそうであった訳で、規制を緩和、撤廃し、補助金その他をなくして競争原理でどんどん新しい仕事ができていくようになれば、必ずや民間の新しい需要が出てくる。特に日本人はそういう点では以前からクリエイティブな性格を持っているし、今までも、戦後50年の間に、ゼロからスタートして日本経済を世界第二位の経済大国にまで育て上げてきた国民だから、想像力もあり、組織力もあり、競争力もある。

世界が東西南北に分かれていた時は、市場性や自由競争よりも、官の指導あるいは業界のルールが頭の上に重く圧しかかっていて、フリーハンドで内外の市場で戦うようなことは比較的少なかった。規制も残っているし、色々な補助金や保護も残っているし、金融機関で言えば護送船団方式──そういうものが、ベルリンの壁が崩れて世界全体が一つのマーケットになって10年以上経っているのに、まだ完成していない。そこに問題があるということを小泉内閣は強く意識され、昨年の春頃から動き始め、漸く実りが出始めているのが現状である。そういうものが実っていけば、小泉首相の言うように、「改革なくして、成長なし」、われわれに言わせれば、「成長なくして、物価は上がらない」ということが言えると思う。今までの経過を調べてみても、とにかく需給関係が変わって需要が増えて、供給がそれを追いかけて初めて色々と設備投資も起こり、消費も伸びて、物価は上がっていく、それと共に金利も上がっていく、といったものが、私どもが描いているこれからの中期的なコースではないかと思う。そういう意味で、今やられている政府の方針をなるだけサポートしていきたいと思っている。そのことは、経済財政諮問会議などでも皆、承認して頂いている。

先に金利を上げるという理論もあるようだが、先に金利を上げて、あるいは先に物価を上げて、実体経済が後からついて行くということは、まずあり得ないと思う。そういうことは極めて単純なことだが、とにかく金を出せばモノも出てくるという理論もあるし、そういう理屈をおっしゃる先生方がおられるかもしれないが、私どもはそうとは思っていない。むしろ、今は「流動性の罠」に入っているので、資金だけ出したのでは、実体経済に浸透していかないと感じている。

【問】

今日、ムーディーズが国債の格付けの更なる引き下げ方向の見直しについて発表したが、それについての総裁ご自身の印象と、国債の信認が低下することによって日銀の資産に影響があるかという2点を伺いたい。

【答】

ムーディーズがどのような判断で下げるのか私どもは知らないが、国債の残高がGDPに対して大きいということは一つのマイナス要因になるのかもしれない。1,400兆円もの預貯金等を持った家計の金融資産が投資先を捜している訳だし、銀行でも余裕資金で国債を買う動きもある訳だから、どういう観点で格付けをしているのか知らないが、金利負担だけでも大変なので、財政のサスティナビリティに対して市場が厳しい目を向けていることは事実かもしれない。

国債相場の安定のためには、中長期的な財政構造改革に対する市場の信認を確保することが不可欠である。最近、本行の長期国債買い入れに関する議論があるようだが、このような点にも十分注意する必要があると思う。国債市場の動向については、今後とも、私どもとしては最も注意を払っていく必要があると思っている。

【問】

先程、改革なくして成長なし、成長なくして物価は上がらず、とのお話があったと思うが、政府が取り纏めをしようとしているデフレ対策を巡って、インフレ目標導入の議論が出ていると思うが、これについての考えを改めて伺いたい。

【答】

インフレターゲットについては、この席で私も何回か反論したつもりだが、今物価はデフレ状態であって、インフレターゲットというものは、インフレで困っている国がそのインフレに限界を付けるためにインフレ目標を作るというのが普通のケースだと思う。これでやっている国がヨーロッパでも数カ国あると思う。今、我々は物価を正常なところに持っていくために、前年比ゼロ%以上で安定していくまで、今の政策を続けるということを言っている訳で、これはターゲットではないが、我々の政策の目的というか目標をその辺に置いてあるということは申し上げることができると思う。

【問】

先程、長期国債の買い入れについて十分考慮する必要があるとおっしゃったかと思うが、これは長期国債買い入れの増額について、十分考慮する必要があるということか。

【答】

考慮というか検討と言った方がいいだろう。長期国債の市場における動きをよくみていく必要があると思う。

【問】

場合によっては、増額も検討するということか。

【答】

そういう意見が出てくるかもしれないが、これは決定会合での討議事項であり、まだ、ここで具体的なコメントはできないが、長期国債の買い入れについては、所要の資金供給を円滑に行っていく上で必要だと判断されれば、銀行券発行残高という明確な歯止めが付いていることから、その下で増額することは可能である。現在、日銀当座預金は10兆~15兆円程度という操作目標を実現していくうえで、なにも直ちに増やして使わないと資金の供給ができないということではないので、その必要は今のところないだろうと私は思う。

【問】

確認だが、その増額に当たっては金融市場の動向をよくみて判断するということか。金利がどう動くかを判断して考えるということか。

【答】

今はまだ供給量を増やさなければいけないという判断は、この時点ではないと思う。あれだけ札割れが出てきて、期末越えの札割れもかなりある訳だから、資金は十分に出ていると考えて良いと思う。

以上