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田谷審議委員記者会見要旨(3月6日)

平成14年3月6日・神奈川県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2002年3月7日
日本銀行

―平成14年3月6日(水)
於 横浜ロイヤルパークホテル
午後1時30分から約40分間

【問】

金融経済懇談会の内容如何。また、その中で、審議委員と懇談メンバーとの間で金融政策や経済の現状認識について一致した点あるいは一致しなかった点があれば併せてご説明頂きたい。

【答】

神奈川県内の経済動向については、色々な方が色々なことを話されていたが、4点ほどに絞られる。

  1. 1つは、中小・零細企業が非常に苦しいということであった。その理由は、物価が下がっており、売上が落ちている。その一方でコストの調整が追いつかないということで、大変苦しい状態が続いているという話を頂いた。資金繰りが厳しいという話があり、また金融機関としてもそれに対応するのがなかなか難しいという話を伺った。そうした中で、担保主義というものが復活しているという話もあった。また、神奈川県は大規模な市が多いが、大都市型、つまり個人消費のウエイトが非常に大きいことから、賃金も下がっているし、倒産が増えているので消費者心理も悪化している状況下、不況感が大変強いといった話もあった。京浜臨海部では、地盤沈下が進んでおり、最盛期に比べて事業所数で58%、従業員数で30%、出荷額で56%のレベルにまで下がったという話があった。工業等制限法といった規制もあって、たとえば大学の誘致なども難しいということであった。しかし、そうした中で地域の活性化を図るために、中小企業のモノづくりを集積しようとの動きがあるとのことであった。こうした動きは、東京の大田区などでもみられるが、川崎市やその他地域でそういった努力をしているといった話をお聞きした。

  2. 2つ目は、不良債権処理の問題に関連した点である。出席者の中から色々な意見が出されたが、どうやら不良債権については3つに分類することが出来るのではないかということであった。一つはバブル後遺症型とでも呼ばれるようなもので、たとえば、バブル期に本業以外のところに投資をしてそれが焦げ付いてしまった場合、本業の方は依然として好調ではあるものの、その後遺症によって全体が悪くなってしまったということである。2番目はグローバル化などの構造変化に伴って発生したものである。3番目は景気循環型のものである。問題はこういった3つのものが色々と絡み合っていて、なかなか金融機関の側からしても画一的に取扱うことが難しいという話があった。また、それに関連して、金融庁の検査などで、融資条件を変更すると、直ちに要管理債権になってしまい、15%の引き当てを積まなければいけなくなることから、なかなか柔軟な融資対応が取りにくいという話があった。これは、一人だけではなくその他の出席者からも同様の意見が聞かれた。こうした中で、不良債権処理は賛成だが、不良債権が全く出ないガチガチの貸出態度になってしまうのはどうかと思う。金融機関に対しては、中小企業向けの貸出を伸ばすようなやり方で不良債権処理を進めてもらえないものかという要望もあった。この点は得てして逆になりやすい訳だが、実際のところ県内の金融機関で、このところ預貸率がかなり下がっているという話もあった。以上が不良債権処理に関するものである。

  3. 3つ目は、株価が2月入り後戻してきており、良かったとか少し安堵感が持てるようになったとの話が聞かれた。これは、時価会計の導入に伴い経営者がかなり株価を意識されるようになったということだと思う。一部には不況の中で時価会計を導入することについては、なかなか厳しいという話もあった。また、最近、私がどこに参っても、昨年、一昨年あたりから中国の問題がどうしても出てくる。日本の生きる道は何であろうか、日本の競争力を高めるためには何をしたらよいのかといった議論がなされた。

  4. 最後に、日本銀行に対する要請があったかどうかであるが、これは特になかった。ただ、叱責、要望といったところでは、もう少し財政当局だけでなく金融当局も経済の実態をよく知って欲しい。報道等を見ていると本当に自分たちの苦しさ、厳しさは分かっていないのではないかという意見があった。

【問】

昨日、自民党のデフレ対策特命委員会で、4月にも日銀法の改正案を国会に提出する意向を固めたという動きがあるが、こうした動きについての感想如何。

【答】

インフレターゲティングそのものに対する考え方については講演で申し上げたので繰り返さないが、一言で言うと効果が確実な手段を持たない下で、インフレターゲットを約束することは出来ない。また、仮にそういった約束をしてもなかなかクレディブルではあり得ないのではないかということが、私の申し上げたかったエッセンスである。只今言われたような動きがあるということだが、国会でご審議いただいてお決めいただくもので、私がどうこう申し上げることではないと思う。

【問】

先日、財務大臣は国会で日銀特融に対しては政府保証を付ける考えはないと明言されていたが、ペイオフ解禁以降、日銀特融が返済されるということを担保する体制を確保するということは、日銀特融発動の4原則の4番目を考えるうえで非常に重要となってくると思われるが、その点についての見解如何。

【答】

講演の中でも申し上げたとおり、4原則というものは現時点で変更する必要はないと思っている。そうした中で、特融を要請された場合に政府保証を求めるかどうかということについて、実際まだ具体的なことを話し合ったり方針を決めた訳ではない。これは、実際のケースに応じて考えることだとは思うが、今の時点で申し上げるのは、4原則に則って考えていくということしか申し上げようがないと思う。4原則中の第4番目の日銀の財務の健全性に配慮するということが、直ちに、政府の保証を求めるとお読みになったのであれば、必ずしもそうではないと私は解釈している。

【問】

4番目の原則を考える上で、支援対象となる金融機関が、収益力の向上などをタイムリーに実行できるかどうかということを考慮する、という意味で捉えているのではないかと思うが、一時的な支援をすれば、金融機関が持ち直す可能性があるかということを総合的に判断するといった意味でとって良いのか。

【答】

然り。

【問】

長期国債について4点ほど伺いたい。1点目は先程の講演の中で「場合によっては長期金利に働きかけることも完全には否定しない」とあるが、これは要するに長期国債相場を下支えすることが狙いなのか、何が目的なのか。2点目以降は先日の決定会合についてのディレクティブに関する点であるが、「年度末に向けた資金供給に必要」ということで長期国債買い入れオペが2,000億円増加したが、これは年度末を越えて4月以降に資金需要が落ち着いてきた時には、1兆円を8,000億円に減らすのか減らさないのか。3点目は、「年度末に向けた資金供給」という名目が外れたにも拘わらず、仮に長期国債買い入れを減らさないということであれば、次の中間期末前にその対応として資金供給が必要ということで、1兆円から1兆2,000億円に増やすということも行われかねないと思われるが、この点についてどう考えているか。最後に、総裁は、決定会合直後の会見で、「2,000億円の買い入れは、まだ大した額ではない」という主旨の発言をしていたが、量的緩和に効果があるとすれば、長期国債があと2,000~4,000億円で上限に達する可能性があり、量的緩和と長期国債の買い入れは非対称的だと思われる。そうすると、長期国債の買い入れの上限については量的緩和の効果を無くしてしまうことになりかねないのではないか。そういった点からみて、この上限についてどのように考えているか。

【答】

第1点については「場合によっては長期国債相場に働きかける」と確かに申し上げたが、これは2年前から申し上げており、場合によっては、相場動向によっては直接的に市場に働きかけることも完全には否定しないということを申し上げている訳である。必ずしも、下支えとは限らないと思う。第2点目の長期国債の買い切りを8,000億円から1兆円にしたのは年度末対策であるから、年度末を越えたら8,000億円に戻すのかといった主旨の質問と思われるが、私の理解する限り長期国債の買い切りを1兆円に増やしたことが年度末対策の一環であるということはどこも言っていないと思っている。今後、長期国債の買い切りをどうするかということについては白紙の状態である。第3点目の質問の回答についても同様である。第4点目については、今後量的緩和を進めていった時に、仮に、それと軌を一にして長期国債の買い切り増額をしていけば長期国債保有のシーリングにぶち当たってしまうため、困ることになるのではないかという主旨の質問であると思われるが、量的緩和といっても日銀当座預金残高目標をこれから引き上げていく時に、長期国債の買い切り増額がどうしても必要であるかどうかというのはその時々で判断していくものと思っているので、今の時点で困る事態になるのではないかという質問に対しては直接的にはお答えできない。

【問】

下支えではないとすると、どういった効果を狙っているのか。また、長期国債の買い切りを1兆円に増やしたのは、年度末対策ではないのであれば、何を目的にしているのか。

【答】

下支えあるいは長期金利が急騰していった場合にそれを抑えるなど、色々な場面・状況が考えられるため、そういった意味で下支えとは限らないと申し上げた訳である。もう1点については、今回当座預金残高目標は変えていないが、そうは言っても短期インストルメントを使ったオペは未達が続いていることから、少しでもそうした短期インストルメントを使ったオペ負担を減らすために、長期国債の買い切りを若干増額した訳であるから、必ずしも年度末に向けて何らかの効果を狙って実施したという訳ではない。

【問】

長期金利に働きかけることを否定しないという点とターム物の金利を更に引き下げることに関して何かやり残したことがないかどうかを考える余地がまだあるかもしれないということであるが、日銀の今までの守備範囲であった短期金利市場から更に長目の金利に対して、日銀がマーケットを壊さずに有効に働きかけることができると考えているのか。

また、国債の買い切り増によって財政規律の緩みが指摘されているが、それに対する審議委員の考えは、政府の財政規律に関する強いコミットメントからして、まだこうした議論が実際の国債価格に反映されている度合いはそれほど大きくないと言っていると思うが、この意味がよく分からないのと、将来的にもこの政府のコミットメントがしっかりしていればそれほど財政規律の緩みに繋がらないと考えているのかどうか伺いたい。

【答】

ターム物金利を引き下げる際、もう少し考える余地はあるかどうかと言うことを私は言った覚えはない。超短期金利の所でも何かやることがあるのか、あるいは私共オーバーナイトの金利をコントロールすることが中心になってきていたが、消費者物価変化率がプラス以上になるまでこうした緩和姿勢を続けるということによって、将来の短期金利に影響を与えて足許のターム物金利などにも働きかけをしてきた訳である。そういう意味でターム物そのものをマーケットに出ていってコントロールしようとしたことはなかったが、いろんなやり方で比較的短期の期間の金利を低く抑制しようとはしてきた。

また、小泉内閣では新規国債発行を30兆円に抑えるとの方針の下で財政運営を行っておられる。それに対していろんな要望があるが、この方針は堅持されておられる。こういった状況の下で、確かに色々なマーケット参加者が財政規律についてのコメントをしているが、基本的に現在の財政政策の規律に対して大きな疑念が生じてそれが強まっている状況ではないと思うし、過去においてもそういう展開にはなってきていなかったと思う。そうした中で、実際に財政規律に絡む議論が国債価格に反映されてきた度合いというのは、仮にあったとしても比較的小さいのではないかということを申し上げたかった。今後についても、そういったスタンスの動向によって国債価格というのは決まっていく訳であるから、私の立場から、将来について、そういった思惑なり懸念というのがどう展開していくかといったコメントは差し控えたいと思う。

【問】

金融緩和追加策について、場合によっては何ができるか考える必要があるとのことだが、どのような状況を念頭に置いているのか、また、追加策が必要となる条件については今後どの程度蓋然性があるのか。

【答】

デフレスパイラルに陥る蓋然性が高まった時としか申し上げようがない訳だが、本日は、景気認識についてのコメントは一切しなかったが、何故かというと、私の景気認識が今多くの方が持っておられる認識とあまり変わらないから触れなかった訳である。現在、デフレスパイラルに陥る蓋然性が高まりつつあるのかというと、必ずしもそうは思わない。簡単に私の景気認識を申し上げると、アメリカの経済は景気底入れを示唆する指標が増加してきたことは間違いない。その一方で、年後半以降の展開については依然として不透明感が強いと思う。欧州については、景気は減速中であるが、一部景況感指標に改善の動きがみられる。東アジアについては、IT関連財の輸出が増加に転じつつある中で輸出全体としても底入れ気配が出てきたように思う。こうした海外の状況を踏まえて、日本の輸出から来る景気下押し圧力が小さくなってきているし、在庫調整の進展とも相俟って生産の底入れを探りつつある段階である。そうした中で、景気循環的にみればどこかで底打ちをするということだが、最終需要についてはアメリカもそうだが日本についても、消費について、あるいは設備投資について、こういうシナリオでいつ頃から回復していくという確たる証拠は依然としてみられない。そこのところを目を凝らして今みているところである。少なくともここしばらくは急に景気が悪化の方向に転じるとは思っていない。先ほども申し上げたとおり、現在はデフレ的状況が続いているがデフレスパイラルに陥る蓋然性が高まりつつある状況でないと認識している訳である。

【問】

デフレスパイラルに陥るようなリスクが高まらない限り、追加金融緩和策を検討する必要はないということか。このまま緩やかなデフレ状況が続いた場合、追加金融緩和策を出すということを考えなくても良いということか。

【答】

その都度、経済、物価、あるいは金融資本市場の状況を見ながら最大限できることをしてきたし、これからもそうしていきたいと思っている。たとえば、2月28日の決定については、景気認識の点ではそう大きく変化した訳ではなかったかもしれない。しかし、金融資本市場の状況といった点からすれば社債市場、あるいは銀行間資金市場であるとか、あるいは株式市場もまだ神経質な状態であったと思うし、そういった金融資本市場の状況が、年度末に向けて不安定化する惧れがあるということもあって、ああいうことを決めたと私は思っている。だから、デフレスパイラルの蓋然性が強まらなければ今後何もやらないのかと言われても、その時々の情勢でその時アヴェイラブルな手段を最大限とっていく努力を続ける、ということを申し上げたいと思う。

【問】

まだ健全とみなされている金融機関が風評により流動性不足に陥った場合に、特融によって対応すべきであるとの考えを持っているとのことだが、そうした場合、破綻前に金融機関に特融を出す条件として、審議委員が考えているのは不良債権のところをまずきちんとやってほしいという点であると感じた。そういう意味では、公的資金注入も含め不良債権処理が抜本的に進むことが日銀特融の条件になるのか、そこら辺をもう少し整理して教えて欲しい。

【答】

特融というものは、これがなければ出ないといったことではなく、システミックリスクがあるという大前提の下で、その他の原則に照らして動く訳である。これは、突然必要になることもある。その際大事なことは、その時の金融システムを巡る環境、マーケットの状況、あるいは経済の状況がどういうものであるかということだと思う。たとえば、安定化した状態の下では、特融が必要でないケースであってもシステムの状態、市場の状態、経済の状況によっては、特融が必要不可欠であると判断するかもしれない。だから、特融が、たとえば金融危機対応会議を絶対的な前提条件としてしか考えられないということはないと思う。

【問】

金融機関は財務体質を自ら充実する努力を強める必要があり、その努力の成果が不十分であれば公的資本の注入も躊躇すべきではないと話されたが、現状どの程度切迫性があると考えているか、大手行と地方銀行以下についてそれぞれ伺いたい。

【答】

現在ある会計ルールに則った繰延税金資産だとか、公的資本のカウントということは、私は全く問題にしていない訳である。時々、コアキャピタルということが言われる訳だが、これは、金融機関の中長期的な課題だと思っている。公的資本というのは、いずれ株式に転換されようがされまいが民間資本に置き換わるべきものであって、民間が出資に応ずるためには収益力がなければならない。繰延税金資産についても講演でも申し上げたが、無税化が生じるためには見合いとなる収益が必要であるから、中長期的に見れば我が国の金融機関は内外市場からの信用を回復するために、収益力の向上とそれによるコアキャピタルの更なる強化を図ることが基本原則である。そうしたことを申し上げた上で、今、金融庁は特別検査に入っていて、その結果が近々出る訳である。その結果を見て、公的資金注入といったようなことも含めた対応が必要であるかどうかという判断が下される訳である。そうした状況の中、私の立場から、金融機関がこういう状況で私はこう思うとはなかなか言える立場にはない。ただ一点だけ申し上げれば、今の全体としての状況下では公的資金の導入というものを決断される蓋然性が高い、あるいはそういうことが必要であるというのであれば早ければ早いほど良いと思う。

【問】

米ドルと米ドル債購入の話の中で、如何なる状況下でも考えない訳ではないと話されたが、先程デフレスパイラルという話もあったが、審議委員が想定する状況というのはどういうことが考えられるのか。

【答】

それをお答えするのは非常に難しい。ここ2年ほど長期国債の点についても色々な方からご質問を頂いたが、それも含めて「これはやらないということは絶対に言わない」と言ってきている訳である。まったく経済・金融情勢というのはどういうことになるか分からないし、その時になって絶対に必要ということであればその時点で考えるという主旨である。

【問】

15兆円の当座預金残高を目指した上で未達が起きたということであるが、ディレクティブ自体は10~15兆円となっていて、15兆円にピンポイントでディレクティブを作った方がすっきりするし、そうでなければ今のディレクティブというのは非常に矛盾があるのではないかと思うが、この点どうか。

【答】

税揚げの日、例えば3月4日などは、如何に努力しようとも14兆ギリギリくらいしか達成出来なかった。10~15兆円の当座預金残高目標を掲げた時も、議論の中では、少なくとも私が理解する限り、なるべく高い所を目指そうという一般的な合意があったと思う。そういった理解の下でオペレーションが行われてきた訳である。しかし、実際の動きをご覧頂ければお分かりになると思うが、15兆円近辺まで供給できるとは、私は個人的には思っていなかった。しかも、期末を越えてからの状況も考えなければいけなかった訳だから、ああせざるを得なかったと私は思っている。少なくともなるべく目標レンジの高いところを目指すためには、短期インストルメントを使ったオペ負担というものを出来る限り軽減することが望ましいという判断の下で、長期国債の買い切りを増額した訳である。

以上