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総裁記者会見要旨(6月14日)

2002年6月17日
日本銀行

―平成14年6月14日(金)
午後3時から約25分 

【問】

1~3月期のGDPがやや強めの数字で出たが、総裁は、それを踏まえて、景気の現状について、また、最近日米の株価はやや軟調気味であるが、そういった意味で今後の景気動向について現時点でどうみているのか。

【答】

昨日公表した金融経済月報をご覧になったと思うが、現在の経済情勢については、「国内需要は依然弱いものの、輸出がはっきりと増加し、生産も持ち直すなど、下げ止まりに向けた動きがみられる」と概況に書いてあったと思う。

第1四半期のGDPの前期比1.4%(季節調整済速報値)については、輸出が大きく増加する一方で、設備投資が減少を続けるなど、今述べたような経済の動きに概ね沿ったものであったと思う。

今後、景気は全体として下げ止まっていくと予想される。当面、米国をはじめとする海外経済の回復テンポがどうなるか、国内では、輸出・生産面の前向きの力がどこまで非製造業や家計部門に拡がっていくか、といった点を中心に、情勢を注意深く点検してまいりたいと思っている。

米国の株価が下がり、日本株もそれに連れて若干このところ動きが心配されている。米国については、いろいろなファクターがあると思うが、特に昨日は小売統計が悪かったということで、大分株価が下がったりしている。ただ、私の感じでは、米国は、基調として労働生産性が非常に高い国である。当面循環的な要因として色々なことを、特に設備投資の回復テンポの強さがどの程度のものになるのか──その辺が良く読めないが──、個人消費等の家計支出の底固さが維持できるのか、といった点を中心に引き続き注意深く見守っていく必要があると思う。

政治課題、その他も重なってくるので、先は読みにくいということはあるが、米国経済は引き続き回復基調にあるとみて良いのではないかと思っている。

【問】

税制改革の論点の一つとして、外形標準課税の導入、それに伴う法人課税の実効税率引き下げ等が議論になっているが、こういったものが銀行経営に与える影響についてはどうみているか。

【答】

私も経済財政諮問会議のメンバーであり、ずいぶん税制の問題については議論を聞いてきたけれども、まだ現段階では、この外形標準課税の導入とか法人税の実効税率の引き下げといったような具体的な枠組みまではいっていない。こういうものはまだ明確ではないし、その銀行経営への影響といったことについては、まだまだお答えできる段階ではないと申し上げなければならないと思っている。

【問】

仮に法人税の実効税率が引き下げられると、銀行の繰延税金資産、ひいては自己資本の劣化につながるのではないかと思うが、その辺についてはどうか。

【答】

これについてもかなり技術的な点もあるし、はっきりしたことは分からないけれども、一般論として申し上げるならば、法人税の実効税率が下がっていくということは、他の要件を一定とすれば、納税額の減少になるから、収益を増加させるといったプラス要因があると同時に、一方では、過去に計上した繰延税金資産が減少していくということで、間接的には自己資本が減り、損失が出て、収益を減少させるといったような具合で、増益の方向と減益の方向の二つの面がある。

繰り返しになるけれども、まだ具体的なことが明らかではないので、銀行への直接、間接の影響については、現段階で今述べたくらいのことしか申し上げられないと思う。

【問】

金融システムの強化に向けて、銀行の収益に数値目標を設けるべきとの議論も一部にあるが、総裁はこうした意見について、どのようにお考えか。

【答】

最終的には収益が上がっていかないと、不良債権の償却、あるいはオフバランス化もできない、ということは、みなさん大体分かってきていると思うし、先月末の講演でもそのことはかなり強調したつもりである。そういう意味で、金融機関が収益力を向上させることは、非常に重要なことだと思う。

ただ、わが国の金融機関の収益はここ数年低迷しているが、その背景としては、やはり不良債権処理コストが嵩んでいることがかなり大きなファクターではないかと思う。

したがって、依然として不良債権問題が大きな課題である状況の下で、一律に、収益に関する目標値を定め、そうした目標の達成を性急に迫ることは、あまり現実的ではないように思う。

諮問会議などで、そういった意見をおっしゃった方もいるが、直接これが広く行き渡っているところまではまだいっていないと思う。

【問】

みずほフィナンシャル・グループに対する金融庁と合同の考査が終了したと聞いているが、日銀は考査結果を公表するのか。また、金融庁は業務改善命令を発動するとされているが、日銀としてもなんらかの処分を検討しているのか。

【答】

従来から日本銀行の考査というものは、個別行の考査結果を公表しないというのが、私どものルールであり、伝統でもある。

ただ、みずほグループは、自ら今回のシステムトラブルに関する認識を説明しており、これは、金融庁検査および本行考査の結果を踏まえたものと承知している。

みずほグループに対する日本銀行としての対応については、現在、考査やモニタリング等の結果を整理しているところであり、その結果を踏まえて、これから考えて参りたい。

【問】

あと20分後に日本対チュニジア戦もキックオフになるが、サッカーワールドカップの経済効果に対する見方如何。

【答】

私も、それは非常に関心を持っている。こうしたイベントは、経済効果を定量的に、どういう結果になって出てくるのか、予測するのは難しいが、せっかく経済活動に明るさが出始めている時であるので、景気を後押ししていく一つの要因になることは間違いないと思う。

本日も、たまたまこの時間になって、私もこれをどうしたら良いかと思うのであるが(笑)。ただ、この間の日曜日のロシアとの夜の戦いでも、視聴率が平均66%、多い時は82%までいったそうである。これは少し驚くべきものだと思うが、日本中が見ている時に、プレスメンとして皆さん見れなかったということにならないように、本日はなるべく手短にご質問にお答えして、必要以上にはお引き止めしないようにしたいと思っている(笑)。

【問】

みずほグループに対するモニタリング結果を今整理している段階で、これを踏まえて対応を考えていかれるということであるが、具体的にはどういうことを考えていかれるのか。何か指導をするのか、改めて日本銀行として報告を求めるのかなど、できれば具体的に教えて頂きたい。

【答】

日本銀行では、みずほグループのシステム統合の進捗状況などについて、事前にみずほホールディングスを通じて情報収集を行ってきていたわけであるが、現時点で振り返ってみると、みずほグループの中での連絡体制にかなり問題があったということが、私どもが十分情報を把握できなかった一つの原因であったのかもしれない。いずれにしても、どうやっていくかということは、これから検討するつもりであるので、今この段階で申し上げることはできないと思っている。

【問】

景気が下げ止まってきて、良くなってきたと言われるが、銀行の貸出は53か月連続での前年比マイナスが続いている。いつになったら、金融収縮というか、貸出の減少が止まるのか、見通しを持っていれば伺いたい。また、公的資金問題というものがこの3月にかけてあったが、あの時に公的資金を入れていなかったからまだ貸出の減少が続いているのか、もし入れていれば今ごろプラスに転じていたのか、その辺りの考えも聞かせて欲しい。

【答】

なぜ貸出が増えないか、私どももこれは非常に疑問に思うし、問題とも感じている。一つは当然のことながら、民間の資金需要が弱いということ。これは今までの景気情勢の中で、民間がなかなか思い切って新しい設備投資を行なったりすることがなかったことや、個人も消費についてはかなり先行きをみながら、大きく増やしていくというようなことがなかったということで、民間のそうした需要が小さかったということが一つの要因だと思う。

もう一つはやはり銀行の側で、これだけの不良債権を持ち、それを消していかなければいけないという懸念があるわけだから、その点は銀行もそちらの方にかなり傾いて、新しい借入先を開拓していくとか、見つけていくといったことについては、今までは再編・統合の問題もあったし、比較的できにくかったということがあるのだと思う。信用仲介機能という金融機関の本来の機能を十分に果たせなかったということが、銀行サイドでの問題としてあったと思う。

こうした需要が弱い、銀行のほうでも他にやるべきことがいっぱいあった、ということが原因となって貸出が増えなかったと思う。ここまで、かなり思い切った不良債権の償却あるいは引当を行なってきたが、このところ、これまで持っていたバッファーというか、積んできた余裕資金というものが無くなってきている。そこへ持ってきて昨年の9月からご承知のように保有株についても時価評価をしなければいけないということで、あいにく、株価が特に2月、3月の初め頃まで非常に弱かったといったようなこともあって、銀行としては手元の資金がない。これから不良債権を消すには、やはり収益を増やすことによって余裕資金を作って、それで償却していくということになるのだろうと思う。そういうことを考えると、これからはかなり積極的に、前向きに、銀行は貸出競争をやるのではないかと期待している。

【問】

お尻に火がついたので貸出競争をやっていくであろうとのお話だが、もし、2月なり3月なりに公的資金を入れていれば、もっと良かったのか。あの頃のことはどう総括しているのか。万が一の時が来た時は、糧とすることができるのか。

【答】

あの時やっておいたらどういうことになっていたかということは、どういうやり方があったのかということもあろうし、それは難しくて言えないと思う。いずれにしても、銀行も十分分かってきたのは、とにかく市場の信認が薄いということと、それを厚くしていくには自助努力で貸出を増やす、あるいは新しい仕事を始めて収益を増やす必要があるということ。そのことによって株価も上がるし不良債権の償却もできる。今は前向きに動き出しているところだと思う。再び、株でも下がって含み損が出たりすると大変かもしれないが、一方でRCC(整理回収機構)などの新しい組織も動き出しているので、不良債権を売却して整理を早めるというような道が開かれていくと思う。そういうふうに空気が変わっていけば、銀行の貸出も前向きに増えていくのではないかと思う。いずれにせよ、構造改革により民間の需要を増していくというのが、私どもがこれまで金融を緩めて待ちに待っていることであって、そうやって民間需要が頭をもたげて来ると、私どもの緩めた効果が出てくると思っている。小泉政権が最初から言っておられるような構造改革なり構造調整というものは、新しい時代ではこれをやっていかない限り、日本経済全体が取り残されていくという感じがしている。その辺のところはこれからの課題、期待されるものだと思っている。

【問】

ペイオフ完全解禁について延期を求める声が、一部の金融機関から、その取引先や与党にも広がっていることについて、ご所見を伺いたい。もう一つは、定期性預金から流動性預金に資金がシフトしてきていることについて、金融機関の貸出態度が慎重にならざるを得ないとの声も聞かれるが、ペイオフを予定通り解禁することに弊害があるとの意見について、ご見解を伺いたい。

【答】

どこの団体がどう言っているかということは、直接聞いていないが、ペイオフ全面解禁の考えについて申し上げると、日本の金融機関は不良債権問題の克服をはじめ、なお多くの課題を抱えていることは確かである。

来年4月からの全面解禁を展望していけば、金融機関はこういった課題に全力で取り組んで内外の信認の早期回復に努力していくことが必要だと思う。こういったかたちでかなりの預金の保証・保護をやっている国は、少ない金額ではあり得ても、あまり例がない。バンキングというものは、そういったものではないはずで、リスクがあって儲けも出てくるということであるから、内外の信認回復のためにも私は予定どおり来年4月に実行していった方が良いと思う。そのために今から10ヶ月近くあるが、その間に銀行が体制を整えていく必要があると思う。

【問】

もう一点、流動性預金の比率が高まることで、金融機関の貸出態度に影響があるのではないかとの見方について、総裁はどう思われるか。

【答】

私は逆ではないかと思う。銀行というのは、将来性があるところにどんどん金を貸していく一方、貸して危ないと思うところには金利を高くとっていくということをやっていかないと成り立たない。

いずれにせよ、まだ(統計の公表は)4月分が終わったところであるから、定期性預金からどのくらい資金が出ていくか分からない。また、地方の金融機関については、この前の講演でも申し上げたが、ある意味オーバーバンキングということが存在しているわけであるから、どうしても債務超過になっていくところは破綻しかないわけで、そういう危ないところと良いところが一緒になって再生を図っていく、あるいは統合を図っていくということがもっともっと行われて良いと思う。金融機関の数は既に地方でも減ってきている——数字ではおそらく3割近く減っている——と思うが、まだまだこれからも統合再編が行われていって良いのではないかと思う。

以上