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総裁記者会見要旨(9月6日)

平成14年9月6日・名古屋での各界代表者との懇談後の記者会見要旨

2002年9月9日
日本銀行

―平成14年9月6日(金)
午後3時15分から約25分
於 ウェスティンナゴヤキャッスル(名古屋)

【問】

本日の中部経済界との懇談会において、比較的堅調といわれていた東海地区の経済界からも、だいぶ厳しい意見が聞かれた。特に、この地区のみならず日本の経済を支える自動車関連からも厳しい意見が出たようだが、改めて、全国の他地域と比べて、東海地区の経済の現状についてどう思われたか、所感を伺いたい。

【答】

限られた時間ではあったが、今回も、当地経済界を代表する方々から地域経済の現状、金融政策運営に関する貴重なお話、ご意見を数多く頂いた。また、お昼には、当地経済界の幹部の方々とゆっくりお話をする機会もあった。

当地経済の現状に関しては、自動車を中心とした輸出の増加に支えられて、生産の増加も続いており、全体としては、全国と同様、「概ね下げ止まっている」との印象を持った。一方、国内需要が弱い中で、特に中小企業の業況が引き続き厳しいとのご指摘が少なからずみられた。また、先行きに関して、海外経済の動向や為替相場の動きが、輸出ウエイトの比較的高い当地経済にどのような影響を与えるか、心配する声も聞かれた。

ただ、そうした中にあって、当地企業経営者の方々からは、「蓄積された生産技術を活かして厳しい状況を打破していく」とか、「難局を乗り越えるためには企業のチャレンジ・スピリッツが不可欠である」といった、非常に前向きなご発言も多く聞かれ、このことが私にとっては非常に心強く感じられた。このように多くの企業経営者が、自ら現下の厳しい経営環境を打開していこうとされておられる姿に接し、勇気づけられた。日本銀行としても、そうした前向きの企業努力を、金融面から精一杯サポートしてまいりたいと思っている。

【問】

旧東海銀行が合併してUFJ銀行になり、貸出金利の引き上げ要請を強めるなどの動きがみられる中で、金融機関同士の競争が激しくなっている。そうした状況にある一方、当地では、特に首都圏に比べて、地銀や信用金庫の再編がだいぶ遅れているのではないかという指摘がある。こうした点を中心に、当地の金融情勢をどのようにみておられるか、また、どうあるべきと考えておられるか、伺いたい。

【答】

先程、私は、企業経営者や金融機関経営者の皆様に、わが国金融システムは、その信認を十分に回復したとは言えず、個々の金融機関の一層の努力が必要であると申し上げた。こうした現状認識は、東海地区の金融機関経営の現状についてもあてはまると思う。

金融機関再編については、もとより金融機関自身の判断に委ねられるべきものであるということを、私は前々から申し上げているが、経営基盤を強化するための方法の一つとして、統合あるいは合併というものも検討されるべき選択肢であると思う。

【問】

日経平均株価が一時9千円を割り込むなど、株安がここ一週間で進んでいる。先程、総裁も、金融機関を取り巻く環境は依然厳しいとおっしゃったが、こうした株安が、金融機関の経営をさらに圧迫することは間違いない。このままのレンジで中間決算期末を迎えた場合、どのような影響が生じると考えられるか。

【答】

株価については非常に心配していたが、今日のところは9千円台を維持したので、よかったと思っている。最近の株価の下落で、金融機関の経営が直ちに揺らぐとか、金融システムの安定が損なわれるといったことはないと考えている。いずれにしても、株価の状況や、その変化が金融機関経営に与える影響については、今後とも細心の注意を払ってみていくべき問題の一つであると思っている。

【問】

東海地区の金融システムに関してお聞きしたい。ペイオフの議論はいろいろとなされているが、このままペイオフを迎えて不安はないのか、東海地区の金融システムは安定していると言えるのかどうか、といった点についてお伺いしたい。また、本日の懇談会でも経営トップの方々から指摘があったが、このデフレ経済の下では、なかなか経済の再建は難しいとの声も聞かれる。インフレに誘導するための施策はやはり難しいのかどうか、総裁の今のお考えをお聞かせ願いたい。

【答】

東海地区の金融システムに関しては、他の地域とそう違わないと思う。当地では、旧東海銀行が合併して動き出したばかりであり、その取引先であった企業との関係がうまくいっているかどうかということは気になるところだが、あまり問題は起こっていないと聞いている。ただ、中小企業の問題、それから中小金融機関の問題は、ご承知のようにどの地区にもあるわけで、こういった問題が今後どのように展開していくかという点に関しては、金融システム全体の問題の一部として、私どももよく注意を払っていきたいと思っている。

インフレへの誘導に関しては、私どもは、消費者物価が安定的にゼロを上回っていくところまで、今の量的緩和を続けていくということを昨年3月に決めて、その後ずっとそういう方向で運営してきている。インフレにすべきである、あるいはインフレ政策をとるべきであるといったようなことは、今のところ考えていないし、そういう議論も内部で出ているわけではない。

【問】

先程、今の株価水準が金融機関に与える影響についてお話し頂いたが、世界全体の株式市場が不安定な動きを続けており、とりわけ東京市場は株価の値下がりに歯止めがかからない状況に陥っているように思う。この影響についてマクロ的にどのように捉えておられるかお伺いしたい。

【答】

日本の株は非居住者による売買が非常に多く、半分以上がそうだということだが、そうした関連もあって、世界全体の株式市場が上向いていない中で、日本の株価も1万円を割って9千円台というところで動いている。これからどういう方向に動いていくのか、これはもう少しよくみていかなければならないと思っている。ただ、日本の景気は、幸いにして、今のところ輸出財を中心に生産が比較的上向いているし、一時のデフレ懸念あるいはデフレスパイラルになるんじゃないかといった懸念は、下げ止まったというか、底を打ったというように感じている。

株価の今の水準が高いのか安いのかということは、非常に難しい問題である。日本では、80年代のバブルのときにかなり自社株を増やす動きがみられた。企業は、長年借入過多で非常に苦労していたが、80年代中頃から円が強くなり、海外で比較的容易に起債ができるようになったほか、非常に大量の株の増加が生じた。そういうことがあって、90年代に入ってバブルがはじけ、それが未だに尾を引いていると言える。また、昨年からは、持ち合いをなるべく減らしていくという動きがみられ、さらには、銀行も、持っている株が値下がりすれば時価評価をしなくてはならず、含み損が出ると期末の収益に響き、自己資本に影響することも起こり得るといったようなことが問題になってきた。こうした点は一つの変化であるから、そういう新しい条件の下で、なるべく持ち合いを減らしつつ、株主に心配をかけないように、配当や株価の安定化を図っていくことが必要ではないかと思っている。

また、日本の家計は、1,400兆円という世界一の金融資産を持っているが、その半分以上が預貯金であって、株や債券を含めた直接投資には10%程度の運用しかしていない。こうした日本の家計の特異な資金運用というものが、今後、債券や株式、あるいは投資信託といったもので、ある程度リスクを取ってでも有利に運用していく、リスクをよく評価しながら資金運用を図っていくといった方向に、これからどんどん変わっていくのではないかと思っている。また、そうならないと、日本の金融市場の正常化は進んでいかないのではないかといった考え方を私は持っているし、そういうことをここ数年言い続けてきたつもりである。

【問】

8月下旬あたりから、日銀のオペで札割れが頻発するような状況になっている。これは、ある意味で潤沢な資金供給によって金融システムを支えている結果とも評価できる一方、ゼロ金利制約のもとでトランスミッション・メカニズムが働かないという限界を感じさせるものでもあると思うが、この点どのようにお考えか。

【答】

札割れがここへきて時々起こっているようだが、これだけ資金を潤沢に供給していれば、起こるのも自然であるし、その時その時の情勢によって売買を調節していけばよいわけで、この点は、金融市場局が毎日毎日よく市場をみながら調節しているところである。

このように、金融市場には非常に潤沢な資金が流れているが、金融機関の信用仲介機能がもう少し働いて、それが貸出の増加に繋がっていくことが必要である。そのためには、民間の需要が起こってこなければいけないわけで、設備投資の需要とか、こうしたことをやってみようとか、リスクをとって新しい仕事をイノベートしていくという動きが出始めて、初めて経済というものが前向きに動く。小泉総理がよく言われる、「改革なくして成長なし」という言葉は、私は正しいと思っている。その改革に関しては、税制についてもこれから議論が進むだろうし、規制の緩和・撤廃についてはかなり進んできている。そういった改革が進むにつれて、民間の需要が膨らんでいき、そのことがあって初めて資金の需要が起こってきて、銀行は貸出先を選んで貸していくことができるようになっていく。金融機関の信用仲介機能というものを正常化していく一つのファクターとして、やはり、貸す側としては、不良債権を早く整理していかなければならない。そちらにばかり気を取られて、新しい貸出をしていくのにどうしても手が引けてしまうということがこれまでみられた現象であったと思うが、構造改革が起こって、需要が出てきて、そして初めて成長が起こり、借入需要も出てくるものと考えている。

多少札割れになったところで、そう大騒ぎすることはないと思う。

【問】

株価の下落を受けて、総理が本日、金融を中心としたデフレ対策を取りまとめるという表明をされた。これに関連し、既に与党の間では、ペイオフの延期や金融機関への公的資金投入、あるいはRCCに不良債権を大規模に買い取らせてそこに公的資金を入れるなどの意見が出ているようだ。総裁は、金融システム対策と金融政策の両面で、今どういう取り組みが必要とお考えか。とりわけ、今月の金融政策決定会合で追加緩和を検討する必要があるのかという点についてお答え願いたい。

【答】

私は、今、これ以上資金の供給を増やしていく必要はないと思っている。問題はやはり金融システム対策であり、金融システムが安定化していくということが第一だと思っている。

【問】

週明けには、経済財政諮問会議も開催される予定だが、そこでもデフレ対策が検討されると思われる。与党内では、一部補正予算についてもいろいろと発言が出てきているが、デフレ対策および補正予算について、何かお考えはおありか。

【答】

経済財政諮問会議では、明年度予算についてはいろいろ議論が行われているところであるが、補正を出すという話は私は全く聞いていない。また、デフレ対策といっても、今まで私どもは随分手を打ってきたつもりである。金融市場の資金量を増やすことがデフレ対策なのかということになると、いつも申し上げているように、あれだけの資金を供給してもマネーサプライのほうはあまり増えていない。こういった現状を踏まえて、金さえ出せばデフレはなくなるんだという考え方は、私はとるつもりはない。

以上