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総裁記者会見要旨(9月20日)

2002年9月24日
日本銀行

―平成14年9月20日(金)
午後3時から約45分

【問】

まず初めに景況感について伺いたい。金融経済月報が昨日公表されたが、日本経済持ち直しの傾向が依然として続いている反面、あまり力強さはない状況だと思う。他方、米国が失速する懸念が依然として残っており、今秋あるいは来年初頭に日本経済は減速の方向に向かう可能性もある。そういった状況がどのように推移していくかを含めて、総裁の現在の景気認識について伺いたい。

【答】

一昨日の決定会合でも議論があったところであるが、わが国の経済情勢については、「国内需要が依然弱く、世界経済を巡る不透明感は強いものの、輸出や生産は増加を続けており、全体としてはほぼ下げ止まっている」との意見で一致した。

今後、海外景気の緩やかな回復が持続する中で、景気は下げ止まりが次第に明確になっていくと考えられる。ただし、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強い中で、景気回復への動きがはっきりとしてくるまでには時間がかかると思う。

また、米国をはじめとする世界の株価動向、情報関連需要の先行き、さらには国際政治情勢や原油価格の動きなど、輸出環境には強い不透明感が存在している。こうした中で、国内株価も軟調に推移しており、その影響が金融システムや実体経済に及ぶリスクについても、十分注意して見てまいりたい。

【問】

経済を映す鏡である株価の問題であるが、中間期末を控えて、先日来、日銀の政策等を受けて、上がったり、また今日は少し下がったりしているが、いずれにしても水準はかなり最安値圏で推移している。こういった状況で、さらに株価が下落すれば銀行の中間決算にも大きな影響が出るとの懸念もある。総裁はこうしたかなり厳しい株価水準の状況下、わが国の金融システムの現状をどのように評価されているのか。

【答】

わが国の金融システムは、内外からの信認を十分に回復したとは言えない。その基本的背景には、不良債権問題がある。さらに、不良債権問題の克服に着実に取り組める環境を整備するという観点からみて、金融機関の抱える株価変動リスクを軽減することは、喫緊の課題である。

金融システムの安定を確保していくためには、各金融機関が、単に目先の決算の問題としてではなく、より長い目でこうした課題にさらに前向きかつ粘り強く取り組み、内外からの信認を早期に回復していくことが重要である。

先般打ち出した私どもの「金融システムの安定に向けた日本銀行の新たな取り組みについて」も、こうした観点を踏まえたものである。

【問】

その取り組みの中で問題となるのが不良債権問題であろうと思うが、従来総裁は、RCCへの売却に際しての価格の引き上げであるとか、あるいは公的資金の注入等で、銀行の抱える不良債権の処理をどんどん加速すべきであるというお考えであったかと思う。今回、不良債権処理をそういう指示等でさらに加速するという方向にあるわけだが、今後はどういう措置が──今まで出てきているもの以外に、あるいはそれをより強めるのかもしれないが──必要であるのか、その点をどういうふうにお考えか。不良債権処理の具体的なやり方、考え方も含めて伺いたい。

【答】

それは私が教えて頂きたい所だが、不良債権問題については、今後早急に基本的な考え方を取りまとめることにしており、先般来、何回か会議を行っている。現時点で詳しくコメントすることはまだできない。

ただ、現時点での私の気持ちを申し上げれば、大体次のようなことになると思う。現下の不良債権問題を克服していくためには、まず、不良債権の価値をより適切に把握すること、これが出発点になると思う。そうした価値を把握して、それに見合った十分な備えを行っておけば、その債権を処理したとしても追加的な損失は発生しないと思う。

こうした状況になると、不良債権の早期処理が可能になるし、また不良債権問題を巡る不透明感も解消されていくのではないかと思う。

こうしたところを基本にしながら、さらに検討を進めていきたいと思う。

【問】

本日官邸で総理にもご説明されたと聞いている、民間銀行保有株の一部を買い上げるという方針についてであるが、市場の反応、あるいは政府の反応といろいろ出ているけれども、それらも含めて、総裁は今どんな反響が出ているかについて、どういうふうに評価しているのか伺いたい。

【答】

総理がお留守であったこともあったから、お帰りになったところで、総理官邸において、「金融システムの安定に向けた日本銀行の新たな取り組みについて」という先日の公表文の趣旨等をご説明申し上げた。

株価の方は、皆さんの報道も随分市場には響いたのだと思うけれども、やはりこれから不良債権問題を含めて、政府の方もいろいろ手を打つのではないかといった見方が市場にあって、そういうものが市場の取引を増やし、株価を押し上げたのだと思う。

しかし、これは短期の対策ということではない。やはりTier Iをかなり上回る保有株──これは日本の民間銀行の戦後半世紀も続いている伝統の中で積み上げてきたものだ──を、そう簡単に減らせといっても減らしにくい面があるだろうと思う。まして株価が下がってきているときには、時価評価の下では損が出る。そういうようなことも響いているだろうと思う。やはり時間をかけて保有株というものを減らしていく方向に、各行が努力をしていく必要があると思う。

この間も申し上げたと思うけれども、海外の主要国で、民間の銀行が株を持っているのはドイツと日本だけである。ドイツの方はかなり前から減らせという指導をして、かなり減ってきているように思う。日本の場合は、この間も申し上げたと思うけれども、銀行だけで、Tier Iを数兆円上回る金額の株を保有しているが、これを持っている限り、やはり株価の変動に収益が左右されるということがあるわけだから、中長期的に考えてもこれを減らしていくべきではないか、と私は思う。

【問】

ペイオフの問題が依然として残っている。方向としては、決済性預金の全額保護ということで、まとまっているやに聞いている。総裁は、ペイオフ延期──我々は事実上延期とみているが──に関して、どのような評価をしているのか。

【答】

私も、金融審議会の答申以外に、あまり情報を持っていないが、答申では、決済機能の安定を確保するための措置の実施にあたって、金融機関におけるシステム対応等への配慮や預金者への十分な説明等が必要である、と提言されている。こうした観点から、当局において適切な検討がなされているものと思っている。

ただ、現時点では、お尋ねのようなペイオフ全面解禁延期といった方針が決定されたとは認識していない。

【問】

今日の10年国債の入札で初めて「未達」になり、それがきっかけとなって市場でトリプル安が生じている。その主な要因として、日銀が先日発表した株買取り方針についての意図が十分読み切れないということがあるようだが、まず、「未達」になったことについて、どのように思われるか、また、その要因として、日銀の株買上げが主な要因だと言われていることについて、何か反論はあるか。

【答】

長期国債の入札「未達」というのは、あまり聞いたことがなく、おそらく初めてではないかと思う。現在は長期金利が1%近くまで低下した後の調整局面であるので、多少不安定な動きが出るのはやむを得ないところかと思う。本日の10年債「未達」については、こういった市場の状況が影響しているのではないかと思う。今後とも市場の動向を良く見ていきたい。

本日の入札結果は、シ団引受分を除いて、入札予定額が1兆3,500億円に対し、応札は1兆1,852億円であったと聞いている。

このように、発行の方も金額が大きいし、期末でもあるので、こういった多少の混乱が起きたのではないかと思うが、そう心配したものではないと思う。

【問】

日銀の株買上げが原因との見方については、特にそれが原因だとは思わないか。

【答】

私はそのようには思っていない。どのように見ているのかについて、まだ市場の声も聞いていない。

特に投資家の国債に対するアピタイト(投資意欲)は、変わっていないのではないかと思う。

【問】

今日、総裁は総理のところに行って直接説明を行ったとのことだが、その説明の内容を詳しくお伝え頂けないか。また、不良債権の処理について一段の加速が必要だというようなことを伝えたと理解しているが、公的資金の再注入については総裁から総理にどのような説明をしたのか。

【答】

公的資金の話まではしていない。今日は主として「私どもの方でできることをこの時期に出しました」ということで、「具体的なことはこれから協議して決めるが、こういう方向で民間の銀行の株式保有をできるだけ減少させていくように持っていきたい」ということを申し上げただけである。

それに対しては、総理もこういうことが不良債権の対応にもつながっていく、そういう関連が出てくるものだ、というように理解して下さったと思う。というのは、やはり、銀行の保有株が非常に多いので、含み益が右肩上がりで膨らんでいる時は良いが、下がり出すと手元の自己資本が減っていくことになる。そういう状態の中で、不安を持ちながら不良債権を償却あるいは減らしていくということは難しい。今、まさに私どもがもう少し活発に増やして欲しいと思っているのは、新しい貸出で、銀行が本来持つべき信用仲介の機能を今こそ発揮して、新しい事業に資金を貸していくというようなことをやってもらわない限り、経済は伸びていかない。これをやれば必ず伸びていくものだと私は思っている。

日本の経済というものは、いつも申すことだが、十分再生する力を持っていると思う。

経済力──国際収支にしても、外貨資産、対外資産にしても、家計の預貯金の額にしても──がこんなに豊かな国は他にないわけだから、私どもができるだけの努力、全力を尽くして政策を打ち出していくということが、そういったポテンシャルズを動かしていくことにつながっていくと思う。

銀行は、これまで戦後一貫して、貸出政策で株や不動産を担保にする、あるいは持ち合いをしてメインバンク制度を設け、取引先の株を持ち、自分の株を相手に持ってもらうといったシステムを慣例として続けている。こういうものを少しずつ変えていかないと新しい経済構造には進んでいかないのではないかと思う。そういうことは長年続いてきた慣行であるから、そう簡単になくせと言っても、銀行がすぐにできるものではないかもしれない。しかし方向としては、そういう方向で進めていかないと、これだけ変動するグローバリゼーションの中で──今、ご覧になっておわかりのように、欧米、アジア、日本で株が一斉に下がっている。米国が下がり出せば、そういう影響が一斉に各国に響いてくる──、日本だけがかつてのように波打ち際を全部閉めて、外からそういった流れが入ってこないように、国内だけで景気を保ったり、株価を維持したりといったことはできなくなる。

そういう点からも、日本の銀行だけが大量の株式を保有しているということには無理があると私は思う。そういう構造を変えていくということは、資本力を付けるという意味でも、あるいは企業との取引という面でも、新しい金融構造を作っていくことにつながっていくのではないかと思う。

そういう意味で、私どもが今度やろうとしていることは、これまで考えていたこととはかなり違っているかもしれないが、これだけ民間の銀行が株を持っている現状の中で、早くこれを修正していくためには、日本銀行もできるだけの手を打っていくことが必要であるという判断に至った。先日ステートメントを出したわけだが、できるだけ早い時期に具体的な方針、政策を打ち出していきたいと思う。そういうものが全体としての金融構造の改革、あるいは不良債権の対応にもつながっていくと思っている。

【問】

先程総裁は、不良債権の処理・克服のことで、不良債権の価値を適切に把握し、それに見合った十分な備えをしておけば、追加損失は生じないだろう、とおっしゃった。このくだりだが、これは、金融庁が前に行なった特別検査とはまた別に、日銀としても特別に考査を実施して、改めて不良債権の額を把握するとか、あるいは、それに見合った準備ということで、貸倒引当金とかそういう準備金の水準を、金融庁がやっているよりももっと高めるとか、そういうことを意味されているのか。

【答】

特別検査はこの間金融庁がおやりになったわけだが、これは1回限りで問題はないと思うし、日本銀行でも考査局が考査に入って、貸出先の話も──いろいろなかたちで取引先の調査をして──十分調べてきている。大事なことは非効率的な貸出というものをなくすことだと思う。

儲けもない、借入が返せるかも分からない企業が破綻して、再生できるかどうかも分からない、こういったところに巨額の貸出がまだ残っているケースもあるが、こういったケースについては、早く効率化を──資金の効率化を──やっていかないと、金融機関は営業収益というものが上がっていかない。非効率的なものを貸出から排除して、償却していくといったようなことは、今からでもすぐできることではないかと思う。

今後、構造改革の中でいろいろな変化が起こっていくことは十分予想される。今でもまだバブルのときの不良債権というものが残っているが、それに付け加えて、構造改革でいらなくなった設備投資、あるいは工場、そういうものに対する企業への貸出金というものがまだ残っているケースもある。また、新しくそういうものが出てくる可能性も非常に大きいわけだから、そういう意味で引当金を十分積むとか、あるいは日銀考査においても、現行のルールに則して引き当ての適切性をチェックしていくとか、というようなことをやっていく必要があるだろうと思う。

そういうことは、不良債権への対応と一言で言われているが、これはかなり広い範囲でいろいろな手が打たれていかないといけないわけだから、当局の方でも──私どもも含めて──、そういった態度で銀行の指導をしていく必要があると思う。銀行は銀行で、競争社会の中で生き延びていくために、どうやって儲けを増やしていくか、取引先を増やしていくか、ということが課題なわけである。デフレ、デフレという騒ぎの中で、なかなか今まで前向きに動けなかった面があったわけだが、金融機関──大銀行──の再編も大体一巡したと思うし、これからまさに競争社会・グローバライズされた経済に入っていく中で、金融機関のあり方というものが競争上のポイントになっていくと思う。そういう過程で、資金がどうしても不足すれば、そのときには公的資金が必要になるかもしれない。そういったことは、その時、その時の情勢の変化で対応していくべきもので、何と何と何のお皿を揃えて下さいというものではないと思う。

【問】

確認だが、今の話は日常の考査業務の心構えのような一般論なのか、それとも期限を決めて──例えば何月から何月の間と決めて──、集中的にもう1回不良債権を把握するといった特別なことなのか。

【答】

いや、特別なことは考えていない。

【問】

株式の買取りは、これまでとはかなり違っていると意識した上で決断されたとのことであるが、やはりかなりの飛躍というか転換だったのであるから、転換することについて、総裁は抵抗感をお持ちだったのか。また、それをどのように乗り越えられたのか、心境を伺いたい。

【答】

金融システムを、これからどういうふうに打ち立てていくかということは、ひとつの大事な問題だと思うが、私どもの方で、政策を転換したつもりはない。金融緩和で十分な資金供給を行いながら、銀行に対しては考査を行ったりしている。変わってきた銀行収益の構造、あるいは自己資本の健全化の方法というのは、皆一斉に考えているところだと思う。他の国と異なる日本の銀行の特異な点というのは、先程も申し上げたように、株を非常にたくさん持っていることである。そのため、昨年の秋以来時価評価に変わってきたという体制の中で、今後どうやって今持っている株を減らしていくのか、あるいは持ち続けていくのか、そういったことを、銀行は銀行でいろいろ研究し、考えていると思う。私どもとしても、金融システムを健全化していく方法として今回方針を決めたように、なるべく銀行の保有株を減らしていく方向で指導していく、そして必要な政策を打ち出していくということを決めたわけである。もちろん日本銀行、中央銀行としての資産の健全化ということはまず第一に考えるべき点であるから、そのことは十分考えた上で、どういう手が打てるのかということが、これから決められていくと思っている。

【問】

今回適用した日銀法第43条を、今回は信用秩序の維持という意味でお使いになったわけであるが、今後日本経済の悪化などの事態によっては、金融政策にもこの第43条を適用する選択肢というのはあるのか。

【答】

まだ43条を使っていない。まだ、方法も決めたわけではないし、方向を決めただけである。そういう難しいご質問にはちょっとお答えのしようがない。

【問】

金融政策については(決定会合の議事要旨を)毎回公表して頂いているが、これだけ重大な決定をした時──ルビコン川を渡ったとか、清水の舞台から飛び降りたとか言われているが──の(政策委員会の)議事録もぜひ公表して頂きたいのだが、総裁のご決断で如何か。

【答】

政策委員会のルールであるから、そう簡単に変えるわけにはいかないと思う。もともと、金融政策決定会合のマターではないから。

【問】

日銀による株の買取りについて、今日の自民党の部会では日銀の姿勢を評価する一方、金融システムの安定化を日銀に任せるのではなく、金融庁にもさらに踏み込むよう厳しい注文が相次いだ、ということである。また霞が関からは、金融庁は宿題を突き付けられた、といった発言も聞かれている。総裁はこういった流れについてどう受け止めているのか。

【答】

自民党のどこでそのような発言が出たのか。

【問】

今朝の自民党のデフレ対策特命委員会合同部会である。

【答】

まだ政策自体が固まっていないが、その方向で良いから考えてみろと言って下さるのは、私どもにとっては大変元気づけられる。いろいろ議論が行われているので、近いうちに発表できると思うが、先程も言ったように何分新しいことであるので、間違いのないよう良く議論して政策を決めていきたいと思っている。

【問】

今回株の買取りを決めたことは、ある意味で、かなり金融システムに対して危機的な認識を持っていることの裏返しのように感じるのだが、総裁は、今の金融システムに対して危機的な状況にあるという認識を持っているのか。

【答】

金融システムが危ないとかいうことは、判断が難しいが、現状は危機であるとは認識していない。金融機関の体力の低下とか、この所の株価の動きとかが、金融システムの安定を脅かしているわけで、不良債権処理の加速を基本として、できるだけの措置を講じていくことが必要なのではないか、というふうに思っている。

以上