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政策委員会議長記者会見要旨(10月30日)

2002年10月31日
日本銀行

―平成14年10月30日(水)
午後4時から約60分

【議長】

本日決定会合で決めた公表文を、頭を整理する意味で初めから読ませて頂く(公表文<「金融市場調節方針の変更等について」>読み上げ)。

15兆円ないし20兆円程度にしたので、レンジが5兆円と──今と同じだが──かなり広いわけである。当面の対応については、レンジの中程ぐらいの水準を一応の目途として運営していく方針である。今後、どういう情勢の変化が起こるか、また何が起こるか分からないが、当面の目標として中間の水準を目途にして、金融市場局で調整していくことになろうかと思う。

今日3つの政策を決定会合で決めたわけだが、1.(1)と(3)については全員賛成である。長期国債の買入については、9人の政策委員のうち2人から、1兆4千億円にしてはどうかといった意見が表明された。それだけ付け加えておく。

【問】

政府のほうでも、本日デフレ対策を発表する予定だが、小泉総理は、政府・日銀一体となって取り組む姿勢を強調されている。今回の金融政策の変更が、デフレ対策の中でどういった位置付け、役割なのか、その辺を含めて、狙いと効果について伺いたい。

【答】

私どもは、まだデフレ対策の内容は全然聞いていない。デフレ対策と不良債権処理の加速化についての案が、今日の諮問会議後に発表されると聞いているが、私どもはこの日に特に合わせたわけではない。ちょうど決定会合が今日開かれ、政府の動きを十分感じているから、政府の動こうとしている方向に一致した──合った──方向で、こういったことを決めたということである。

【問】

続いて、総裁のおっしゃった不良債権処理の加速策について、日銀は「不良債権問題の基本的な考え方」を発表し、引当強化の重要性を指摘したが、金融庁は竹中大臣のもと、銀行の税効果会計の資本算入についての議論にも踏み込んだということで、それに対して銀行界から反発があったわけだが、この辺の議論を踏まえて、総裁の税効果会計についての考えを伺いたい。

【答】

不良債権処理を加速化することについては、私どもも全く賛成であるし、なるべく早く、日本経済を持続的かつ安定的な成長軌道に復帰させていくためには、不良債権の早期処理が大事であるということは、前々から私も申してきたつもりである。

ただ、不良債権問題は、構造調整の進展と表裏の関係を強めつつある。それだけに、不良債権問題の克服は、民間金融機関の自助努力、企業サイドの経営改善努力、当局による対応など、関係者の努力を結集していく必要があるし、特に金融機関がその方向で一生懸命やって下さることを、私どもは期待している。

政府が、現在、検討を進めている不良債権処理の加速策が、金融機関や企業双方の取り組みに資するものとなるよう期待している。日本銀行としても、中央銀行の立場から最大限の努力をしてまいりたいと思っている。

この不良債権処理加速策というものの内容については、私どもはまだ良く聞いていない。

【問】

総裁はテレビのインタビュー等で、金利はゼロだがまだ打つ手はある、といった趣旨のことを発言されたが、今日の金融市場調節の変更をみると、量的緩和の拡大ということで、従来の政策の延長を選択されたようだ。この他にも、別の踏み込んだ政策に関する意見等があったのかを含めて伺いたい。

【答】

量的緩和というのは、金利政策とはかならずしも一致していないし、まだまだやれることはある。それから、6か月であった手形買入の期間を1年にしていくのは、銀行にとってはやり易くなっていくのではないかと思っている。担保は前から60兆円ぐらい入っているわけだから、銀行は手形さえ持ってくれば、借入ができることになっている。こういったことを十分使ってもらえるだろうと思っている。

これから大事なことは、企業金融について、非常に良いところとあまり良くないところが二極化しつつある現状の中で、こういったものを上手くさばいていくことではないか。どういった手が打てるのかについては、技術的に──例えば市場をもっと使うやり方とか、ABCPの利用度をもう少し高めていくにはどういうことをしたら良いのかとか──いろいろなことが十分あるわけである。そういったものをその都度考えて適切な対応をしていくなど、これからまだまだやれることは十分残っていると思っている。

【問】

内容はもちろん聞かれていないということだが、今夜発表される政府の総合デフレ対策に対する期待なり、総裁が今思っていらっしゃることをお聞かせ願いたい。

【答】

これは私もまだ良く聞いていないが、時間の関係もあって、こちらの方が先になった。私どもはなるべく市場が閉まらないうちに決めたいと思ったが、いろいろ議論もあり、2時半をちょっと過ぎたところで決まったので、市場にはまだ影響が出ていないように思う。

政府のほうは、夕方諮問会議をやって、それを経た上で発表されるのだと思うから、おそらく8時過ぎになるかと思う。同じ日にこうやって出せたのは、私は非常に良かったと思っている。政府のほうの内容はまだ見ていないし、どういうものが出てくるのか、それこそ期待をしている次第である。

【問】

先程総裁は今回の政策変更について、政府の動こうとしている方向に合った方向で決めたというようなことをおっしゃったのだが、過去2、3年を考えてみても、例えばゼロ金利解除のときだとか、あるいは最近でも長期国債を2千億買い増したらどうかとか、そういう声でも動かなかったこともあるわけである。

そういうときと今回の政府の方向に合ったというときの違いというのはどこにあるのか。常に政府の向く方向に日銀が合わせるということでは、多分、ないのだろうとは思うが、その辺の違いというのはどう考えれば良いか。

【答】

それは後で、今日同時に決めた「経済・物価の将来展望とリスク評価」(以下、展望レポート)をご覧頂けば見当が付かれると思うが、やはりここへ来て、かなり先が読めないし、しかも海外の暗い事情がある。不良債権の対応を加速するということがいろいろな意味にとられて、市場をかなり暗い方向に少し揺すったようなことがあった。日本は確かに今まで輸出が伸びて、生産も伸びて、じわじわと内需に移りつつあったところだったように思うけれども、景気そのものが今後このままずっと底を打ったまま上がっていくかどうかということになると、ちょっとまだ先が読めない。

そういう情勢の中で、やはりここで少し量的緩和を進め、しかもいろいろ打てる手を打てば、政府のデフレ対策、それから構造改革──構造改革の真っ先に入るのが不良債権の早期対応だと思うのだけれども──にとって、プラスの方向になっていくと思っている。そういうことで、今回この時期にこういう手を打ったわけである。

今まで量的緩和は効かないということを、私どもは言ってきたけれども、マネタリーベースでみて前年比20%も日銀からの金が出されているにもかかわらず、なかなか銀行、金融機関の貸し出しの増加を通じて、企業や家計に入っていくというところまでいってないということは事実である。それはやはり、私がずっと言ってきたように、お金だけ出してもなかなか変わっていかないということである。しかし構造改革などが一歩一歩進んでいって、あるいは不良債権の償却、克服というものが動き出してくると、こういうものは必ずや景気の上昇にプラスになっていくのだというふうに思っているから、そういう意味ではやるべきことをやっておくということで、今回決めたわけである。

私どもはこの量的緩和というのは、デフレが深化していくことを止めるという意味では貢献してきたというふうに思っているし、間違っていなかったと思っている。

【問】

今、金融界では税効果会計についていろいろ議論があると思う。そんな中、大手銀行の頭取たちは、いわゆる竹中案というものに対して反対声明を出した。この辺の一連のいきさつについて、総裁のお考えを伺いたい。

【答】

税効果としては、日本の海外などと取り引きしている銀行──自己資本8%というBIS規制の適用を受けている銀行──にとって、TierIと称する中に相当部分の──本当の意味でのコア・キャピタルよりも多い位の(8兆とか6兆という数字が出ているけれども)──繰り延べられた──先払いした──税金というものが、資本金にカウントされている。この水準は米国などでは10%だが、日本では現実には今44%である。こういうことはやはり海外でも知ってる人は皆知っている。日本の銀行の自己資本というのは10%で、なかなか数字は悪くないのだけれども、内容的には自己資本としてふさわしくないものが随分入っているじゃないかということを、知っている人は皆言うのである。

それが日本の銀行に対する不信認のひとつの種になっているのである。そういう意味ではなるべく早い機会にこれを正常化していくことが必要だと思うし、米国式に10%まで下げるというようなことが噂されていたけれども、そこまでいっぺんにやるのが良いのかどうかは別として、いずれなるべく早い時期にこれを国際的に恥ずかしくないベースに切り替えて、自己資本の質が本当に良くなっていくようにすべきじゃないかと思う。こういうのはやはり銀行は収益がないと、いくら繰り延べといっても、繰り延べをした年に収益が上がっていないのでは効かないから、そういう面でも、今の繰り延べ税金資産というのは、あまり適当であるとは思わない。そういう意味では、なるべく早い機会に国際的な──皆に納得してもらえるような──コア・キャピタルにしていくべきだと思う。

ただ、ちょっとこの時期にそれをやるのは非常に難しいという感じをもった方々が強い反対をされたのだと思う。それは税制の問題でもある。例えば、引当をして償却をするのには、税金をかけないとか、米国などもそういうことをやった上で、今言ったような10%というのをやっているわけだから。税制なども含めて、少し見直していけば良い制度だなと私は思っている。いつどうやってこれをやるのかということは、政治が決める問題なので、何とも申し上げられない。

【問】

先程総裁は企業金融の円滑化ということに言及されており、発表文の5.に「企業金融の円滑確保のため、一段の工夫を講じる余地がないかを検討していく」ということが記されている。この「検討」というのは、具体的に次の金融政策決定会合が11月にあるが、それに向けて検討して、11月に決めるということなのか。

【答】

必ずしもそうとは限っていないけれども、今、企画室その他で一生懸命検討を続けているはずだから、それがまとまり次第、金融政策決定会合に上がってくるものと思っている。来月、間に合って出てくれば良いがと思っているけれども。おっしゃるように、これから企業金融──今すでに両極端である──が、良いところへは皆貸していくけれども、悪いところへはなるべく避けるという傾向を強めていくと、やはり痛みが大きくなる可能性がある。不良債権の償却を急いで経済の足をまた強く引っ張るようなことになると困るから、企業金融をどうしていくのかということ──これから悪くなっているところを再生していくためのうまい選択をしていくということ──は、金融機関のかなり大事な仕事だと思う。

そういう制度を作ったり、あるいはそういうのに適した人を選んで仕事をやらせるということは、私は今やるべきことじゃないかと思っている。日本銀行としても、どういう手があるのかということを、企画室などで検討してくれているところだと思うし、今日、こうした政策を決めた上で、改めて、企画室などにこういうことをやってくれと言ったところである。

【問】

先程長期国債買い切りで1兆4千億円という意見もあったと伺っているが、市場では1兆4千億円となると銀行券発行券残高という上限がそろそろ近付いてくるという見方もある。その上限に対する議論があったのかということと、もうひとつは、長国買い切りオペの位置付けで、資金供給の円滑化ということではなく、ある程度需給にコミットするべきではないかというような議論はあったのか、それらに対する将来的なものも含めたお考えを伺いたい。

【答】

1兆4千億円という意見もあったが、一方、ここでやる必要があるのかといったような意見もあった。そうした中で1兆2千億円ということで案を出したところ、それに対してお二人の方は自分たちは1兆4千億円をやるべきだと言い、それに対してノーとおっしゃった方もいたわけである。今ご指摘のように、銀行券発行残高、これはまだ13兆円位余裕があるから、1兆2千億円ずつ積んでいっても、期日が来て返ってくる分もあるから、まだまだ余裕がある。これがあまり金額が増えてくると、ご指摘のように銀行券発行残高という限度の天井にぶつかってしまう可能性もあるから、1兆2千億円位が私は適当なところだと思っている。

【問】

当座預金目標の引上げで、今回15~20兆円程度を目標として、レンジの中頃を目処に調節していくということであるが、これまでは10~15兆円で、ほぼ上限の15兆円を出してきたかと思う。そうすると今回は15~20兆円であるので、20兆円を狙うのかなと思ったが、何故、中頃なのか。

【答】

それは、何が起こるのか分からないので、取り敢えず、17、18兆円のところまで、資金を供給しようということである。長期国債を増やしたりしたのも、そうやってオペの玉として買ったら当座預金が増えていくわけであるから、様子をみながら、必要であれば、また増やせば良いのであって、当面の目標として、レンジの真ん中くらいが良いのではないかと思っている。そこで固定しろと言っているわけではない。

【問】

このペーパーの中に、追加緩和の大きな理由として、「ターム物金利の一部が強含む」という表現があるが、確かに、そういうことが起きているのは事実だと思う。ただ、一方で、これまでの調節方針でも、不安定化した場合には、「なお書き」で対応できるようになっており、「なお書き」で十分対応可能なのではないかという気がするが、どうして「なお書き」では駄目なのか。

【答】

「なお書き」を使ったのは、例えば、この間のみずほの件の時とか、あるいは、昨年9月のテロ事件の時とか、年度末にぱっと膨らんだり、そういう特別なことがあった時には、「なお書き」で良いが、普通の情勢の下で、「なお書き」が常態化してしまうというのは、おかしいと思う。

最初に申し上げたように、色々情勢が変わりつつあるわけであるから、それを前提にして、ここで当座預金の目標額を増やしたということだ。

【問】

情勢が変わりつつある一つとして、不良債権処理の加速策のことに触れている。加速策の中身については、まだ良く聞いていないと、先程、総裁はおっしゃったが、中身について聞いていないのに、どうして加速すると思うのか。どうしてそれで、金融市場に不安定さをもたらすと思うのか、伺いたい。

【答】

「政府の案が不安定さをもたらす」などとは言っていない。市場自体がそうなってきているから、ということだ。それで、政府もデフレ対策を、今日、打ち出すということであるし、中身はまだ聞いていないが。

【問】

ここ(公表文)に、「不良債権処理加速の影響など」不確実性が云々とあるが、どのように加速するのか。まだ決まっていないわけであるから、どうして影響があるということが分かるのか。

【答】

不良債権処理対策ということも入ってくるのか分からないが、いろいろな税制も含めて、構造改革を加速させていかないと、経済は前向きに進んでいかないと私は思う。

銀行の信用仲介機能というものは、今、活発に動いていないが、やはり、銀行自ら不良債権を持っているし、自己資本も沈んできているため、先行きに対して、これは危ないと思ったら、リスクを取って貸そうとはしないということがあるのだろうと思う。このようなことを変えていかなければならないわけであるから、一番大事なことは、構造改革を一歩一歩進めていくと同時に、それに伴う痛みをなるべく少なくしていくことだと私は思う。その場合、構造改革の中で、当面、やはり一番大切なものの一つは、不良債権の対応の加速だと思う。デフレ対策と不良債権の対応加速という、おそらく二つの問題について、今晩ペーパーが出るのであろうと思う。

こちらはこちらで、企業や家計の需要を引き出すために資金を出す。と同時に、今の構造改革その他で痛みが出てくるものについて、痛みを少なくしていくためにも、こういったことが役に立つだろう。今底を打っている経済が上がっていくためにも、やはりこういうことが必要だと判断している。

【問】

この発表文にある「金融機関の貸出態度も、厳しさを増すことが予想される」という点だが、昨今の税効果会計あるいは査定強化等の自己資本問題──4大メガバンクで90兆円貸出を削減しなければならないとのレポートもあったが──で、貸し渋りがこれから強まる予想があるということか。

【答】

「貸し渋り」、「貸し剥がし」といった言葉が流行っているわけだけれども、今のところ金融機関は優良企業に対しては貸出を増加させようとしているが、信用力の低い企業に対しては貸出姿勢を非常に慎重化させていると思う。こういった動きというのは、金融機関が健全化を進める過程ではある程度やむを得ない面もある。「貸し渋り」とか「貸し剥がし」とかいった表現が適当とは思えないが、企業金融面で企業信用力に応じた格差が生じていくのは確かだと思う。

今後、不良債権処理が加速されていくことを踏まえると、企業金融の動向については、これまで以上に良くウォッチしていく必要があると私どもは考えている。そういうことで、今回の措置もそうした今の金融機関の動きをみた上で決めた措置であることも確かである。

【問】

日銀としては9月の株の買入方針表明、あるいは10月の「不良債権問題の基本的な考え方」公表と、不良債権処理を加速する方向にかなり音頭取りというか率先してリーダーシップを発揮してきたと思うが、それを株式市場などのマーケットでは、悪く受け止めている。この受け止め方について、総裁は、予想に反して、当初発表する前に考えていたよりも悪く受け止められているという思いはあるか。

【答】

私は悪く受け止められているとは思わない。現に今日辺りまた銀行株は少し上がっているから。今まで下がっていたのは何だったのかということは、皆さんの方が良くご存知だと思う。銀行は喜んでいると思う。

銀行が株をたくさん持っていることについては、何回も申し上げたと思うが、日本の銀行は右肩上がりの時には確かに持ち合いで随分株を持ち、それが含み益になり、不良債権の償却などは全部それを充ててきた。今、昨年の9月から時価評価に変わったし、その時価評価が決まった頃から株価が下がり出した。株価が下がるのは──国内の需要やその企業自体の事情もあるかも知れないが──、世界的な株下落の影響であり、全世界の市場が一斉に下がっている。しかも下がり方が非常に極端であり、欧州などでも年初に比べて4割近く下がっているわけで、アジアから欧州、米国、日本と皆下がっているというのは珍しいが──やはり米国で最初にいろいろなことが起こったことがマイナスになったきっかけになったと思うが──、それだけ世界の市場が一つになっているということである。日本の国内で仮にきちっとやっていても、海外でこういうことが起こると株は下がってしまう。だからそういう怖さというものは皆感じていると思うし、大銀行は私どもが株を減らす途を付けたということを喜んでいると思う。これは、決して市場にマイナスであったとは私は思わない。どっちみち売れば安くしか売れないし、売ったらまたそれだけ株の値段が下がるわけであるが、われわれが銀行と話し合って来年の9月末までに2兆円買いますよと言っているのである。信託銀行を中に入れて売買の一切の取引をやって頂くので、その信託銀行を今、入札で決めるところである。もう近い内に決まると思うが、それが決まって、その信託銀行とよく話し合ってやり方を決めていくということである。もう少し時間は掛かるが、買取りが始まったら、市場で売ったら明らかに損になるし、しかもそれ程たくさん売れないと思うから、そういう途を付けてあげたということは銀行に喜ばれて良いことだと思う。現に喜んでいると思う。私どももうまくやらないといけないが、間もなく取引が始まってくると思うから、その上で評価して頂きたい。

【問】

今日の総裁の話を聞いていると、量的緩和政策に対して今までにないような前向きな意味を見出しているように聞こえる。先程の質問に対して、需要を引き出すという効果、不良債権加速に伴う痛みを防ぐ効果、それともう1つ、経済が底を打ってそれが上がってくることに役立つ効果、と3つの点について政策の効果を期待しているようだが、論理的に、本日行なった政策がどうしてこの3つの点に役立つのか、ご説明頂きたい。

【答】

3つとは何か。

【問】

最初に言われたのが、需要を引き出す、おそらくここで言われたのは国内の需要だと思うので、内需を引き出す点、もう1つが痛みを止める点、最後が底を打った経済が上がってくることに役立つという点の3つである。

【答】

内需を引き出す点については、やはりいずれは企業の設備投資資金、家計の消費を増やしていくようなお金につながっていくことは間違いないと思う。お金は外に出たわけではないから、内需にプラスになっていくことは間違いないと思う。

痛みを止めるという点についても、やはり構造改革というものは、痛みを乗り越えて一つ一つ進めていくもので、税制にしても規制の改革・緩和あるいは補助金、福祉、そういうもののいずれも痛みがなるだけ少なくて済むようにしていくわけだから、それにお金が潤沢に出ていくというのはやはり悪いことではないと思う。

痛みを止めるという点についても、やはり構造改革というものは、痛みを乗り越えて一つ一つ進めていくもので、税制にしても規制の改革・緩和あるいは補助金、福祉、そういうもののいずれも痛みがなるだけ少なくて済むようにしていくわけだから、それにお金が潤沢に出ていくというのはやはり悪いことではないと思う。

経済については、申すまでもなく、今すぐこれが日本経済を底打ちから上昇に転じさせられるかどうかは分からないが、少なくとも更に底へ下がっていくことを防ぐだけの機能は果たし得るものだというように思っている。これで構造改革が実り始めたら、きっと需要が出てくると思うし、その時には私どもが出している資金が活きてきて、効果を上げてくるのだと──いつも言っていることだが——今でも思っている。

現に、ここへ来て──輸出が伸びて生産も伸びて少しほっとした感じが出始めていたところだが──、米国でいろいろなことが起こったり、株が下がったり、今度の不良債権問題などでかなり騒ぎが大きくなったりしたことで、また少し暗さが増していることも事実だし、経済はこれからが大事だと思う。今日発表した年2回の「展望レポート」の中に、私どもの出した数字も発表されているから、それを見て頂ければ分かると思う。物価が下げ止まってきたのはやはり資金が潤沢に出ていたからだと私は思う。そこは、あまり効果がなかったとおっしゃるが、私はそういった意味での目に見えない効果がかなりあったということを誇りに思っている。

【問】

そうであれば、物価はまだ1%下がっているわけであるから、なぜもっとお金を出すということをやらないのか。

【答】

需給のインバランスということがあるし、一方で輸入関連財価格の下がり方というのはやはりかなりあったから、それが、物価を下げていたということは間違いのないところだと思う。民間需要が出始めて、需要が出てきて経済が伸び始めれば──私は、小泉首相のおっしゃる「改革なくして成長なし」というのは確かだと思うし、「成長なくしてデフレの解消はない」という信念を持っている──、だいたい1年ないし1年半ぐらい経って物価が上がってくるのは、今までの各国の例でもそうであるし、日本でもそうである。公共投資をやっても、その時はプラスかもしれないが、やはり民間需要を引き出すような規制の改革とか、税制の改革が行われていかないと駄目だと思う。そうした動きが少しずつ出始めているのではないかと思っている。

【問】

マネタリーベースの伸びが今年の4月をピークに低下傾向にあるということも、今回の判断の背景にあったのか。

また、まだ最終的に政府の不良債権処理策が決定していない段階かつ抵抗勢力も幅広くいる中で、もし政府の対策が骨抜きになった場合に、今回の決定がやや日銀の勇み足になってしまうリスクについて、決定会合の中で指摘はなかったのか。

【答】

マネタリーベースは、少し下がっているが、それまでが高すぎたのだと思う。今でも20%近い伸びであるから、そんなに減っていることはないと思う。

政府の対策がなくなったらどうするか、ということであるが、これは今、まさに今晩どういうものが出てくるのか私も楽しみにしている。やる気は十分お持ちになっているわけであるから、これは必ずや日本経済の再生というか──かつてのような高度成長などはとても期待できないが──、少しずつ成長していくような経済にもっていくためには、やはり構造改革をここで進めていく必要がある。先進国では日本だけが遅れていたわけであるが、英米では90年代初めになって経済が伸び始めて、財政赤字がなくなっていったということは、やはり構造改革が成功したことによるのである。レーガノミクスとか、サッチャリズムというものが、10年掛かったが非常にうまくいって、それが経済の持続的成長をもたらした。それから生産性を伸ばし、民間の需要を増やしていった。このことは明らかな歴史的事実であるが、私どもはその時期にバブルがはじけるという痛いマイナスがあって、そういうことができなかった。90年代初から95、96年ぐらいまで、むしろ緩めるほうに進んでいって、95年に公定歩合0.5%という事態が起こってしまった。他の国が伸びている時に日本はバブルがはじけて経済は萎縮していって、それを当局が一生懸命、赤字国債を出して公共投資をやったり、私どもが金利を下げて金融を緩和したり、そういうことをやっていたというように、外と内とに非常に大きな違いがあった。まさにグローバリゼーションになり、ベルリンの壁がなくなって、東西南北が一つの市場になって競争しようという時に、日本経済はそういう状態であったということを非常に残念に思う。それがここへきて、日本もやるぞと言って、動き出しているわけであるから、これはぜひ皆さんも応援をして頂きたいと思う。私どもが、こうやっていろいろ緩和をして経済を成長させたい、需要を増やしたいと思って動いているわけであるから、その点はご理解頂きたいと思う。

【問】

「展望レポート」の来年度のGDP見通しが今年度よりも高めになっている。総裁が先程からおっしゃるように不良債権処理が加速するならば、当然それを織り込んだ上での見通しであると思うが、不良債権処理が加速しても経済成長は今年度よりも高くなるというシナリオになっているという理解で良いか。

【白川理事】

技術的な面からのお答えをする。今回の「展望レポート」で、標準シナリオとリスクファクターの両方について、いつもと同じように書いているわけである。まず不良債権については、標準シナリオで出てくる部分と、それから今後のリスク要因として出てくる部分と両方あると思う。今回の発表文にもある通り、現時点では不良債権処理をどういうかたちでするのか、必ずしも具体的に細かいところまで分かっているわけではない。ただ、そうしたことについて、ある程度の将来のことを想定すると、いろいろな要素が──プラスとマイナスとがあるが、どちらかというとマイナス方向にはあると思うが──、主としてリスク要因の方に反映されるというふうに思う。それから、標準シナリオの数字であるが、GDPを年平均でみると、どうしてもゲタの影響なんかも出てくる。去年の年末から今年の1−3月期にかけてずっと下がってきて、それがだんだん下げ止まって、また上がっていくというかたちに今なっているわけであるが、全体の経済のイメージはこの数字に表れているということである。実際には、もちろん大勢見通しは「幅」であるし、また、この中で個々の委員の見通しがある。従って、なかなか幅だけで見ていくのは難しい面もある。そういう意味で私どもがいつも強調していることは、「展望レポート」については、もちろん数字も参考として考えているわけであるが、主として本文のほうの基本的なロジックを中心に見て頂きたいということである。GDPの数字自体も、去年もそうであったが、実は作り方を変えた結果、随分とイメージが変わったわけである。そういう意味では、数字自体についてあまり拘泥されるよりは、イメージを中心に見て頂きたいというのが私どもの気持ち である。

【問】

補足して伺うが、リスク要因として出てくる不良債権処理のマイナス影響というものであるが、それはある程度どれくらいかという、何か数字としてイメージがあるのか。

【白川理事】

不良債権処理についても、「展望レポート」の文章に即して申し上げると──5ページをみて頂きたいが──、そこに不良債権処理が経済に与える影響について書いてあり、そこの下のほうのパラグラフだが、「不良債権処理を加速した場合、そのマイナス効果とプラス効果がどのようなタイミングと規模で顕現化するかによって、経済情勢の展開は異なってくる」とある。その上で──その後に書いてある通り──、例えば不良債権処理の進め方について、対象となる債務者の範囲であるとか、あるいは金融機関の取引や付利の方針、企業再生努力の成果如何などによっても変わってくるし、企業金融あるいは雇用の面で、どのようなセーフティーネットが整備されるかなど、こういう要因によっても左右されるわけである。現在、政府においてこういう問題についてまさに議論しており、これからまたさらに各論、具体的な議論が進んでいくというふうに思う。

従って、いろいろケース分けをすると、このケースについてはこうだと、いろいろな計算は一応できるのかもしれないが、多分今重要なことは、精緻にマトリックスを書いてどうかというようなことではなくて、やはり、こういうふうな要因を意識しながら先行きをみていくということにとどまらざるを得ないのだろうと思う。

【問】

今のリスク評価の関連で伺いたい。下期回復シナリオが明確に修正された──下期ははっきり回復しないので、来年度上期に回復時期が遅れる──というふうに、委員の皆さんがシナリオを変更されたと受け止めて良いのかという確認が一点。それと、その最大の理由というのは、やはり国内需要の立ち上がりが予想よりも弱かったということなのか、それはどういうことからなのかという点につきコメントを頂きたい。

【答】

今年春に発表した「展望レポート」では、今年度下期にかけて期待をかけていたわけだから、そういう意味で、今年春の「展望レポート」に比べると、下振れしているということはその通りである。

それから、先行き経済がはっきりと回復していかないということについて、原因は何なのかということだが──この文章の中にもあるし、それから月々の基本的見解(金融経済月報)にも書いてあるが──、基本的にはまず海外の動向──IT関連財を中心として、在庫の積み増しというのがあって、その影響が一巡して、取りあえず最終需要がどんどん増えてくるという状況ではない──が、日本の輸出に、従って、日本の内需のほうにも影響しているということだと思う。変化としてはこれが大きい。

不良債権問題をはじめとして、過剰雇用の問題、あるいは過剰債務の問題がもちろん根っことしてあるが、変化としてはやはり海外の動きが影響しているというふうに思う。

以上