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総裁記者会見要旨(11月21日)

2002年11月22日
日本銀行

―平成14年11月21日(木)
午後3時から約47分

【問】

まず最初に、景気の認識と金融政策について伺いたい。政府は月例経済報告で景気の判断を1年振りに下方修正した。日本銀行の金融経済月報でも景気の判断が下方修正されたが、総裁は、今、景気の現状をどう認識しているのか。

また、それと共に、一昨日の金融政策決定会合で「レンジの上限の20兆円程度を目標に」と、高い水準を目指すことが了解されたと伺ったが、これは実質的な金融追加緩和と受け止めて良いのか。この2点について伺いたい。

【答】

経済情勢については、「全体として下げ止まっているが、回復へ向けての不透明感が強まっている」と判断した。

私どもはここ数か月、景気の全体感について、「下げ止まり」と言ってきた。上向きでもなければ下向きでもないとの評価をしてきた。今回、この点についての認識は基本的には維持しつつも、景気を取り巻く不透明感をより慎重に見るという点では、幾分下方修正したといって良い。

今後日本の景気は、海外景気の緩やかな回復を前提とすれば、いずれは輸出、生産が再び増加に向かうことを通じて、底固さを増していくと考えられる。ただし、当面は、景気回復への動きがはっきりとしない状態がしばらく続く可能性が高い。

米国をはじめとして、欧州──ドイツ、フランス、イタリア、イギリスなど──でも生産が低迷し、株価が下落している。こういった状況の中で、不透明感が一段と強まっているのだと思う。それに加えて、国内面でも、不良債権処理が今後どのように進められ、株価や企業金融、実体経済にどのような影響を及ぼすか、注視していく必要があると思っている。

【問】

先程の質問の後段の部分について、一昨日の金融政策決定会合で「20兆円程度を目標に、できるだけ高い水準を目指す」ことが了解されたとのことであるが、これは実質的な追加緩和か。

【答】

追加緩和という言葉は適切でないように思う。一昨日の金融政策決定会合では、日銀当座預金残高の目標値を、「15~20兆円程度」とする、これまでの金融市場調節方針を継続することを決定した。

そうした金融市場調節方針の大枠のもとで、日々の金融調節に際しての目途を議論したわけだが、最近の金融市場の状況を踏まえ、「レンジの上限の20兆円程度を目標に、できるだけ高い水準を目指すことが適当」との認識が、委員の間で多数であった。

したがって、これは実際の金融調節に当たっての目途を調整したということであり、金融市場の安定に寄与することを期待している。

20兆円程度の目標は達成可能か、あるいは、先行き、当座預金残高を引き下げることはあるのか、ということについて、先を読んでいる方々もいらっしゃると思うが、日々の金融調節に当たり、「15~20兆円程度」というレンジの上限の20兆円程度を目標に、できるだけ高い水準を目指すということに尽きる。

【問】

政府が先に打ち出した金融再生プログラムを受けて、現在「工程表」が作成されているが、総裁は、今の不良債権処理加速の流れをどう評価しておられるか。

【答】

早く不良債権処理の動きが、具体化し、現実化してくることを、私は予てから願っている。政府が近く工程表を発表すると聞いている。それを見てからでないと何とも言えないが、なるべく早く持続的かつ安定的な成長軌道に復帰させていくためには、不良債権の早期処理が絶対に必要だと思う。

ただ、不良債権処理は、構造調整の進展と裏表の側面がある。それだけに、不良債権問題の克服に向けては、民間金融機関の自助努力──これは自らの問題である──を強めるということ、それから、借り手の企業サイドの経営改善努力──これも自らのことである──が必要であるということ、それに加えて、当局による対応など、関係者の総力を結集してなるべく早く処理を実現していく必要があると思う。

こうした中で、政府から資産査定の厳格化、企業再生、公的資本注入などを含む包括的な「金融再生プログラム」が、先日、示された。現在、その順番をどうしていくのかという「工程表」を作成中であり、私どもはそれを見守っているわけである。早期に適切な成案が得られて、不良債権処理の加速に一刻も早くつながっていくことを期待している。

日本銀行としても、今後とも政府と連携しながら、中央銀行の立場から、金融システムの安定化に向けて努力していきたいと思っている。

【問】

金融再生プログラムの中で、産業の再生に向けて新しく「産業再生機構」が設けられることになっているが、この組織について、日銀として、どのような貢献が考えられるのか。またその機構が債権買取りで、二次的な損失を出した場合のリスク分担について、総裁はどのようにすべきだとお考えか。

【答】

産業再生機構という考え方は、私は非常に適切だと思うし、タイミングとしても、今、やらなくてはならないと思う。銀行の不良債権問題と企業の再生とは、正に裏腹の関係である。企業の再生のためには、その再生の可能性について、政府の方でも、厳正な判断と再生を確実なものとするためのしっかりとした対応が必要だと思う。こうした企業再生に関するプロセスの中で、産業再生機構が、重要な役割を果たすことを期待している。

ただ、現時点では、まだ、仕組みが明らかになっていないので、日本銀行としての貢献などについて、具体的なお答えをするわけにいかない。

【問】

債権買取りに絡む二次ロスの問題はどうか。

【答】

産業再生機構がどういうものになっていくのか、その辺が今一つわからないので、二次ロスをどうするのかという点も、まだちょっと具体的には言えない。

一方で、産業再生機構とRCCとの役割分担などについても、現時点で、日本銀行として、具体的なイメージを持つわけにはいかない。

どのようなかたちになるにせよ、再生可能な企業はなるべく早い段階で、スピードを重視して再生させていくということが、重要ではないかと思っている。

【問】

政府の金融再生プログラムが先頃打ち出されたが、この1か月半とか2か月近くの間に、銀行株が急落して、それが相場全体を押し下げるということで、投資家の間には個別の金融機関の先行きに対する不透明感が急速に拡がっている。現在の金融機関の経営の状況、また今後の不良債権処理の加速──特にこの下期にも予想される特別検査も含めた不良債権処理の加速──が金融機関の経営にどのような影響を与えるおそれがあるのかについて、総裁の認識を伺いたい。

【答】

銀行の株価が不安定だということは、私どもも非常に気になるところだ。こんなに下がったことは、銀行として──私も1947年に銀行に入って、もう半世紀以上(55年)になるが、その間17年位は借りる立場になったり、あるいは財界としての立場に立たされたりしたけれども──戦後の日本の歩んだ道の中で、初めてではないかと思う。これはやはり、不良債権問題を巡って、銀行の経営の改善、改革、経営の状況というものに、市場や株主が、いまひとつ不安を持たざるを得ないということがあり、こうしたことが株価の値下がりになって現れているのではないか、というふうに想像される。

いずれにしても、日本の不良債権問題については、一つは経済の構造調整に伴って、なお不良債権の新規発生が高い水準で続く可能性があるとみられていること。一方で、二つ目には金融機関の貸出の利鞘がきわめて薄い状況が続いている──他の国、特に米国などに比べて、この点は非常に経営状況が異なるのである──ということ。三つ目は、ずっと右肩上がりの経済成長の過程──90年までと言っても良いのかもしれないが──では、経営のバッファーとして機能してきた株の含み益を使って償却をしたり、引当を積んだり、いろいろなことができていたのだが、株価が下がってきて、それと同時に時価評価に切り替わって──昨年、簿価から時価に切り替えたといったようなことを契機として──、含み益が含み損になって、それが自己資本を圧縮してきているということ。こうした三つの点を踏まえると、不良債権問題は、これまで以上に厳しい状況に直面しているということが分かるはずである。

不良債権問題というのは、金融機関が直面する最大の経営課題であることは間違いがないし、一番最初に早く解決すべきことであることも皆さんご承知のとおりだと思う。

金融機関としては、不良債権処理を加速させると同時に、収益改善のための様々な努力を傾けていくことによって、自らの信認の改善を図っていくことが必要ではないかと思う。

いつも申し上げていることだけれども、日本も民間には力が十分残っていると思う。蓄積したものもたくさんあると思う。銀行がこの時期にしっかり立ち上がれば、経済も生き返ってくるのではないかと思う。改革や再編が行われて、大手銀行にとっても非常に大きな変革が、ここ2、3年の間に起こっているわけだが、経営の方も、そうした新しい体制あるいは構造改革の中で、言ってみれば時間軸というものを間違えないようにして頂きたい、というのが私の期待である。早く立て直して対処していくということが必要である。セ−フティネットも従来に比べたら、かなり十分に設けられているというふうに思う。この時期を失することなく、やるべきことを早くやっていく、その時間軸を間違えないということが大切ではないかと思う。

日本銀行としても、不良債権処理を加速していく過程において、金融システムの安定が損われることのないように、政府との連携を図りつつ、適切に対応していきたいと思っている。

【問】

先程、一昨日の金融政策決定会合で、金融調節上の目途を変えた理由として、金融市場の状況に鑑みて、というふうにおっしゃったが、もう少し具体的に金融市場のどのような状況に着目したのか、どのような状況に危機感を深めたのか説明して頂きたい。

【答】

まず第一に株価ではないか。これは、金融市場の非常に大きな──誰でも分かる──変化である。先程もご指摘があったように、株価があれだけ急激に下がる、特に銀行株が下がるということは、今まで私どもが経験したことのない状況である。これが今後どういうふうに動いていくのかはわからないが、先程も申し上げたように、経営に対する信認を確保するとか、不良債権の処理や収益力の向上を早く進めて、銀行に対する株主、市場の信認が厚くなっていくようにすることが必要だと思う。株価については、行き過ぎた低下ということもあったかもしれないし、動きがかなり激しかったことは確かだと思う。そういうものが、どういうことを通じて正常化していくのか、あるいは元へ戻っていくのか、この辺は先程私が期待を込めて申し上げたが、銀行自身も早くそういった情勢の変化の中で、やるべきことをやっていく必要があると思う。また、当局の方も今言った工程表の作成とか、あるいは借り手である企業のための産業再生機構を早く作り上げて、手を打っていくことが必要だというふうに思っている。

こういう株価の急低下というようなことが、一つの大きな経緯だったと思うし、海外でも米国がイラクに対してどういう手を打っていくのかといったような不安も非常に強かったと思う。米国の株価は、一時下がった後、少し戻してきている。米国では、生産性は落ちているが、企業収益はそれほど悪いわけではないので、株価の下落はそういつまでも続くものではないと思う。米国の株価が下がって、それによって世界全体の株価が──日本の下がり方以上に──下がっているということは、やはり異常な事態だと思う。そういう状況を見て金融市場、特に短期金融市場が動くということは十分あり得たわけで、私どもはその点を心配して、先般15~20兆円に引き上げるということを行い、また今回はレンジはそのままにしつつも、潤沢な流動性の供給を続けていくということを決めたわけである。流動性の面で不安があるといったようなことは、今は全くないと思う。しかし、世界中がこういうふうに動くと、市場の端々にまでいろいろな影響が出てくる──それが金利に現れてきたりする──ことは、十分に考えておかなければならない。私どもは最後の流動性の供給主体として、いつでも流動性を潤沢に出すと申し上げて、実際にも出しているわけである。そうした姿勢を維持しながら、これからどういう情勢変化が起こるかということを考えて、政策を決めているつもりである。

【問】

「流動性には全く不安がない」と総裁はおっしゃられたが、短期市場では一部金利が上昇するといった動きも見られる。ここへきて、株安なども含めていろいろな影響が市場で既に出ているのではないか、との見方もあるが、総裁のご認識、ご分析は如何か。

【答】

日本銀行が15~20兆円のレンジに引き上げる前には、そういう金利の動きが少しみられた。これだけの内外の情勢変化があったわけで──不良債権の問題もそうであるし、海外の株価低下のこともそうであるし──、そういう情勢変化に対して何も手を打たない──見ているだけ──ではすまない。やはり金融市場で多少とも何か起こっているのなら、それに対応しなければならない。ただ、こうした状況は流動性の不足によるものではないと思う。

【問】

日本の地価は下がり続けて久しいが、それが企業の資産の劣化を招き、企業の活動を抑制し、資金需要が伸びてこない一因になっているとの指摘がある。また、不良債権の処理を加速すれば担保不動産の売却等を通じて、さらに地価の下落を招くという懸念もあるかと思う。

総裁は、今現在の地価の現状を適正とお考えか、また今後の見通しについて、さらに下がるという見通しをお持ちか。さらに、地価の下落に対して対策があるのか、あるいは放置しても構わないとお考えなのか。

【答】

資産価格というものが高すぎるか、安すぎるかということは非常に難しい判断で、簡単に言えるものではないと思う。株と不動産というものは、日本の場合も、バブルが膨らんだ時のひとつの要因であると同時に、はじけた時の非常に大きな材料であったことはご承知の通りである。今の水準がどうなのか、と言われてもこれはなかなか難しい。私が聞いている限りでは、地価についてはやはり上がる所と下がる所、両極に分かれているのではないかと思う。やはり需要の多い所は値段も上がっていくのであろう。それに対して、下がっていく所が出てきていることも確かであろう。こういうことをどう考えるべきか、ということは一概には言えないと思う。ただ、金融サイドで言えることは、株についてはリスク・テイクというか──ご承知のように、家計が約1,400兆円の金融資産を持ちながら、そのうちの半分以上が銀行預金であり、あと3割が保険・年金で、直接投資は12~13%に過ぎないというのも、先進国では珍しいケースであるが──、リスク・キャピタルの供給がもっと進んでいく──あるいは今だったら、これから新しく興っていくベンチャー・キャピタルといったようなものに対し、一般の資金がつながっていく──ためのツール──流動化というか証券化というか──ができていくということが必要なことだと思う。証券化の推進と言っても良いのかもしれない。不動産についても同じだと思うが、家計がこれだけの余裕資金を持っていながら、それが必ずしも企業の方に、あるいは資金を必要とする人達のところへ流れていかないというところに、これから私どもがいろいろ手を打っていく、あるいは新しいルールなりチャネルなりを作っていくことの必要性があるというふうに思っている。

企業金融といったようなことが、今また言われ始めているが、こういうことも含めて、短期金融市場に潤沢に供給されている資金を、どうやって資金を必要とする人達のところへ動かせるのか──あるいはそれが経済を盛り立てていく資金として動くのか──、ということを考えていく必要があると思っている。

【問】

今、総裁が言及された企業金融の円滑化策については、前月の会合後の会見を聞いた限りでは、今月にでもすぐに出て来そうな期待を抱いたが、今回は出てこなかった。具体化に向けてかなり作業は進んでいるのか、あるいはまだしばらく掛かりそうなのか。

【答】

それについては、私どもの課題として、今、事務方で非常に研究し、勉強しているところだと思う。

潤沢な資金供給により金融市場では強力な緩和効果が発揮されているが、それが企業などに波及しにくい状況というのが、先程申し上げたように、今の日本の一つの問題点だと思っている。政府も不良債権処理を加速する方針であるし、短期的には企業金融がここに来て一層厳しさを増す可能性もあるわけで、日本銀行としては今後、不良債権処理の加速策といったようなものがどういうふうに具体化され、それが企業金融にどういう影響を与えていくのか、注視していく必要がある。

そうした点も踏まえながら、企業金融の円滑確保に向けて日本銀行として工夫を講じていく余地がないかどうか、また関係者が改善を図っていく余地がないかどうか、検討を続けているし、今後も続けていきたいと思う。

ただ、現時点ではその具体的な内容を申し上げられる状況ではない。

【問】

日銀による銀行保有株式の買い入れが29日から始まるということだが、現時点では、株が非常に安い。先般、情報公開された9月17、18日の議事録によると、「誰も使わないのではないか」との声もあったようだが、当面、どのように活用されるおつもりか。

【答】

「誰も使わない」かどうかということはわからない。今まで信託銀行の入札を行なって、一行が落札し、その信託銀行といろいろな手続きの論議を重ねてようやくこれから始めていくというものなので、何も29日に始めたから、すぐその日に使われるというものではない。銀行としては、今後保有株がどのように変わっていくかということを勘案しながら、市場に売って更に株価を下げるということを嫌って、一定の部分を日銀に買ってもらうという話が出てくる可能性は十分あると思う。

それが今年中に出てくるのか、来年の決算、2月、3月のような時期に出てくるのか、それは私にはわからない。「29日に始めたはずなのに、その結果が出ていないではないか」と言われても、これはそういうものではないし、道を付けたということに意味があるわけだから、今後の情勢の変化によってどうなっていくか、私どもも関心を持っている。銀行にとっては、一つの安心のルートであることは間違いないと思う。

【問】

今日の衆議院内閣委員会で、小泉首相がデフレ克服に向けて、「金融政策の重要性は認識している。今後更に日銀にひとふんばりしてもらう」と期待を込められたようだが。

【答】

それは私は知らない。諮問会議でも十分説明しているが、我々はできるだけの緩和、流動性供給を行っているということを言い続けている。財政の方もこれからやってもらわなければならないわけだから、金融だけではない。税制、財政、これらはこれからの問題である。

【問】

先程、銀行に対して情勢に応じた経営改革が必要だということをおっしゃられたが。

【答】

情勢に応じてというよりも、情勢の変化に対応するための経営を打ち出していってほしいということだ。

【問】

先般の衆議院の委員会等でも、4大メガ・バンクに対して、4大メガ・バンク全部が国際業務をやる必要はないのではないか、いろいろ撤退等を考えていくべきではないのか、そういった質問が出ていたのだが、総裁はどのようにお考えか。

【答】

私は、バンキングにとって、インターナショナルなバンキングができないというのはおかしいと思う。これだけの経済大国であって、何行かはやらなければいけないし、それを外国銀行に任せたら、日本の大銀行の活動場所というのはなくなっていくことになるわけである。それが必ず儲かるものなのか、損するものなのか、それはわからないが、取引の需要が非常に大きいことは間違いない。国際収支をご覧になってもおわかりのように、貿易関連だけではなくて、所得収支というものもかなり大きいが──経常収支のうち、黒字の約8割は所得収支であり、年間10兆円近くである──、こういう対外受払いは、必ず銀行を経由するはずである。そういうものを、日本の銀行が全然やらないということはありえないと思う。しかし、どことどこがおやりになるのか、それはご自分でお決めになることであって、私どもが、特にどこはやるべきではないとか言う立場にはないと思う。

【問】

先程、今後は財政、税制に注目されるというご発言があったが、今まさに補正予算を巡って政府・与党の調整が大詰めを迎えていると思う。補正予算については、総裁は、その内容とか規模などについて、どのようなものが望ましいとお考えか。

【答】

これは随分諮問会議でも議論が出て、今まだ議論の真っ最中なので、どれだけが良いかという点は私にもわからないが、今後仮に景気が下振れしていった場合に、財政政策は、景気の自動安定化機能──ビルト・イン・スタビライザーとも言うが──というものを持っているので、そういった機能が発揮されていくような運営がなされていくかどうかが、私は重要なポイントだと思う。日本経済の持続的な成長を実現していく上で、税制、支出の構造、こういうものを見直していくということが、今非常に大きな課題とされて議論が進んでいる。こういう議論をこの機会に是非進めてもらいたいと思っている。財政運営について、政府、国会で適切な判断がなされることを期待している。

税制のほうでも、いろいろ議論があって、私などが注文をつけたりするのはおかしいと思うが、経済の活性化とか、民間の需要を引き出すことが今一番大事である。構造改革の最大の目標はその点にあるはずで、それによって初めて経済は成長する。「構造改革なくして成長なし」と小泉首相がいつも言われているが、私はその通りだと思う。政府などによる規制とか、税制とかいうようなものでブレーキがかかっていることがいっぱいあるということが、諮問会議の議論を聞いていてもわかるが、そういうものを直していくような規制の緩和・撤廃と、税制の改革がどうしても必要ではないかと、私自身非常に強く感じている。

金融や企業活動に関連した分野のポイントでいうとすれば、三つぐらいあると思う。一つ目は、企業や金融機関等の不良債権処理、償却・引当の場合の税制をどうするか。これは先般非常に大きな議論になって、銀行界の方々が大きな声でおっしゃったことだと思う。こういう不良債権処理に関する税制に加えて、リストラの促進とか、リスク・テイクの活発化をいかに実現していくかということだ。

二つ目は、先程も申し上げたが、株式市場を通じたリスク・キャピタル──例えばベンチャー・キャピタル、あるいは直接金融──を、いかにより多くしていくかということだ。家計やいろいろな団体が、こういったリスク・テイクに活発に資金を出していくということが行われていくためには、規制や税制の改革が必要になってくると思う。

三つ目が、これも先程出た不動産の流通とか、その証券化をどうやって促進していくかということだ。こういう問題意識は政府も共有しておられるし、今度公表された「改革加速のための総合対応策」の中にも、そういった観点からの施策が数多く盛り込まれていることはご承知の通りである。こういうことが、今後、具体策として結実していくことを期待したいと思う。

【問】

毛色の違う話で申し訳ないが、これだけの激動の時代にあって、今4年半余り総裁をお務めになり、来年春に任期がくるわけだが、これまでのご経験から、日銀総裁にとって必要な資質という点についてどういうふうにお考えか、お聞かせ頂きたい。

【答】

その質問はまだちょっと早い。今一番大事なときであるし、これから何が起こるかわからない。本当に、世界全体がかなり大きく揺れているから。日本も長年の課題に向けてようやく行動が始まっている段階である。中央銀行としても、是非構造改革を進めて、不良債権を早くなくしていくということを、一緒に力を注いでやっていかないといけない時期だというふうに思っている。

以上