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春審議委員記者会見要旨(11月27日)

2002年11月28日
日本銀行

―平成14年11月27日(水)
広島県における金融経済懇談会終了後
午後4時から約30分間

【問】

本日行われた金融経済懇談会の内容に対する委員の印象は如何か。

【答】

本日は、広島市長はじめ広島大学学長、経済団体や金融機関のトップの方々など、総勢14名の当地の経済に関する責任ある方々にお集まりいただき、1時間半ほど懇談をさせていただいた。私の方からは、日本経済の現状認識および本行のこれまでとってきた金融政策の運営についてご説明をさせていただき、その後、ご意見・ご質問、コメント等をいただいた。

経済の状況については、全体として厳しい状況が続いているとの評価であった。特に中小企業の現況が苦しいとの発言があった。また、個人消費についても思わしくない状況が続いているとの声もあった。輸出関連の産業の方からは、為替相場の安定を強く望むとの声もあった。政策面の要望としては、需要の喚起に繋がるような政策を是非とって欲しいとの声があった。

また、私の方からは、中小企業金融あるいはベンチャーについてのお話をさせていただいた訳であるが、これについて色々なご発言もあった。広島県では、既存の企業が独自の技術をさらに発展させる努力をされている。一方で、産官学が連携して、大学の持っている研究シーズを企業のニーズに結び付けて新しい産業を育てていく動きをしている。来年4月には広島TLOの設置も決まり準備を進めていると聞いた。また民間企業や地域の金融機関とでベンチャー企業を助成する仕組みを作りつつあるなど、様々な試みを聞かせていただいた。ただ一方で、シーズとニーズのマッチングや、リスクマネーの供給の難しさもあり、ベンチャー企業育成の環境は必ずしも楽観を許さないとのご指摘も受けた。私としても、いただいたご意見等を良く考え、今後の活動に活かしていきたい。

【問】

中小企業金融に関して、例えば、売掛債権の流動化などのスキームの具体化、現状等について、お聞かせ願いたい。

【答】

本件については、金融市場局を中心に色々な検討をしており、関係機関とも協議をさせていただいているというのが現状である。先日、本行としては、「企業金融の円滑化について検討したい」と申し上げた訳であるが、その内容についてはもう暫くお待ちいただきたい。

【問】

金融経済懇談会で議論された結果、管内の景気に対してどのような印象を持たれたか。また全国と比べてどうであったか。

【答】

懇談会の出席者の方々から多数ご意見を伺い、また広島支店からも説明を受けた。広島県経済については、「輸出や生産が持ち直しているなど下げ止まりの状況にある。こうした中で、海外経済の先行き不透明感に対して、依然懸念する声が聞かれている」と聞いている。当地でも慎重な設備投資スタンスを崩しておらず、住宅投資も弱含みの状態にあるほか、個人消費も一部耐久消費財を除けば、弱くなっている。こうした中で、雇用・所得面でも依然厳しい状況と伺っている。ただ主力の自動車産業では久々の新型車効果により輸出が増加し、これを受けて、生産も持ち直し、企業の景況感も製造業中心に改善の動きがみられており、景気全体では「下げ止まっている」と認識している。ただ先程申し上げたとおり、海外経済の先行き不透明感に対して、依然その影響を懸念する声が聞かれるなど、今後の回復に向けたはっきりとした動きはみられていない状況にあるということで、全国の景気とほぼ同様の状況と申し上げても良いのではないか。

【問】

中小企業金融についてお尋ねしたい。97~98年の流動性危機いわゆる信用不安が起きた際、日銀が金融機関に資金供給量を増やすことで、銀行のクレジットクランチに関して、流動性の問題については解決できたと認識している。しかしながら今回の場合には、流動性リスクではなく、信用リスクが問題であるように認識しているが、この点について、日銀としての見方、対処の方法をどのように考えているのか。

【答】

97~98年と現在との違いについて、本行の中でも議論されているところである。今後どのような事態が発生するかわからないが、97~98年当時の経験も踏まえて、その時の状況に応じて、金融システムが安定するよう最善の努力をしていくということである。

【問】

それは流動性を増やすことによって、今問題とされている信用リスクの問題にも対処できるという理解で良いのか。

【答】

現在、本行は前例のない金融緩和を推進している。その中で、金利はやや長めのものまで含めて、ほぼゼロにまで低下している。マネタリーベースなどの資金の量も経済活動との対比でみて、きわめて高い水準になっている。物価は経済の体温と言われているが、過去の例をみても景気が良くなって、暫くして物価も上がるもので、デフレ克服のためには経済を活性化して、需要を高めるということが不可欠であると思う。今後ともできるだけ早目に持続的な経済成長に復帰させて、物価がマイナス基調から脱却できるような状況を実現するために最大限の努力をしていくということである。

【問】

先程開催された懇談会の挨拶要旨をみると、今、市場等で言われている非伝統的な金融政策に関しては悲観的というか、反対の意見を持っているような印象を持たれるが、もし何がしかの場合には、流動性すなわち長期国債の買い入れを増額することによって、量を拡大することが、日銀として望ましい政策とみているのか。

【答】

挨拶要旨の中で「慎重な検討」との言葉を使用したので、否定的との受け止め方をされたのかもしれないが、私は決してそのような可能性を否定するつもりはない。その時の状況に応じて、色々な要素を考えて、最善の努力をしていくべきということである。基本的に、これまでやってきた政策——これを伝統的というかどうかは色々な見方があるが——を続けるのがベースであるが、さらにそれを上回る政策が必要となった時には、やや極端なことを言えば、あらゆる可能性を視野に入れ、検討し実施していくことである。

【問】

  1. 二点伺いたい。まず企業金融について、あくまでも一般論で結構であるが、日銀がオペの対象となる債券に設けている適格基準を引き下げることが、企業金融に関する諸問題の改善に資するのかどうかお聞かせ願いたい。

  2. もう一点は、「非伝統的な金融政策についてあらゆる可能性を視野に入れて」としているが、その前提として「量的緩和を進めるためのオペの対象として国債等リスクフリーの資産で十分可能な状態にある」と指摘している。ただ、長期国債の買い切りオペでも上限がある訳で、その上限についてどのようにお考えになっているのか。上限を取り払うことのメリット、デメリットをお話いただきたい。

【答】

適格基準の問題については、本行のバランスシートの健全性の観点から、現在の適格基準が設けられている訳である。本行のバランスシートの健全性は非常に重要なことであり、その点については、これからも重視していかなければいけない。ただ、適格基準をさらに引き下げることが必要な状況になってきた場合には、引き下げることもあり得るということである。要はほかの手段と、実効性と副作用を総合的に勘案したうえで、必要があれば実施していくことであると考えている。

量的緩和のためのオペ対象としては、現在担保として受け入れているものなどを勘案して、現状は特に拡大する必要はないと申し上げた次第である。これも将来の情勢の展開によっては、国債購入額のさらなる増額も視野に入れて考えなければならない。買い入れ額の上限は、財政規律の観点から設けられている重要な基準であり、この基準を取り払うあるいは拡大することが良いのか、あるいはほかの手段が考えられるのか、やはり、その時に総合的に考えたうえで決めていくことになると考えている。

【問】

今の「将来の情勢によっては買い入れ額の増額も視野に入れて考えていく必要がある」というのは、国債の買い入れオペのことなのか。そのうえで、上限というのも取り払う、もしくはさらに違う上限を設けることは、その時の総合的な判断が必要であるという認識でよろしいのか。

また、上限を取り払うことと、ほかのETFやREIT、個別の株式あるいは外債購入、どちらかを求められた場合にはどのような判断をされるのか。

【答】

  1. 一つ目のご質問についてはそのとおりである。

  2. 二つ目のご質問については、外債とETF、個別株式など色々な比較が可能だと思われるが、色んな要素があって現状では何とも申し上げられないとしか言わざるを得ない。そのようなことを考えるのか、国債をもっと買っていくのか、そういう選択肢の中から選択していくということである。

【問】

銀行の中間決算が出揃ったが、不良債権処理の進捗状況、収益基盤の強化の2点について、どのように評価されているか。

【答】

銀行の収益環境としては、不良債権の新規発生が続いていること、貸出の利鞘の確保が引き続きなかなか難しいこと、あるいは保有株式の含み損など、厳しさを増した状況が今回の決算にも現われていると受け止めている。こうした中で、各行とも不良債権処理を促進されると同時に、思い切った収益構造の改善策を打ち出しており、是非今後ともこのような努力を続けていただくよう期待している。

【問】

「基本的にこれまでやってきた政策を続けることがベースであるが、さらにそれを上回る政策が必要となった場合には、あらゆる可能性を視野に入れて実施していく」とのことだが、長期国債の買い入れ額の上限枠を取り払うということは、これまでのやってきたことの延長なのか、いままでやってきた基本を上回る政策ということに当たるのか。

これに関連して、外債あるいはETFなど現在の量的緩和のベースとなっている以上の政策と、長期国債の買い入れ額のシーリングを取り払うことは総合的に選択していくとのことだが、審議委員個人としてはどのような順位付けにあるのか。

【答】

これまでのところ、長期国債の買い入れ額の上限を設定している状況が続いており、上限枠を取り払うということは、ある意味延長線上ではないと言えるが、国債を保有することはこれまでもずっと続けてきたわけであり、延長線から大きく離れるというよりむしろ、限界的なところだと思われる。いずれにしても、状況次第、色々な条件を考えてのことである。

外債やETF等とどちらを先に考えているのかというご質問についても、その時の判断ということである。

【問】

「これまでやってきた政策を続けることがベースであるが、さらにそれを上回る政策が必要となった時」とは、具体的にはどのようなイメージをお持ちなのか。

【答】

具体的な状況というのは特定できないし、特定すべきではないと思う。

【問】

外債購入に関して、最近は議論がみられないようであるが、9月中旬の政策決定会合の議事要旨には、一人の委員が外債の購入を提案している。審議委員の個人的な意見として、日銀法第40条での資金供給のために外債を購入することが可能とみているのか。それとも手段がどうであったとしても、その結果として為替円安を招くことを考えると、政策委員会の議論だけでは決められず、事前に財務省との折衝が必要ということなのか、お聞かせ願いたい。

【答】

議事要旨にあった「外債購入を検討すべき」との発言は、一つの問題提起であったのではないかと認識している。為替管理政策というのは、政府の権限というか義務であり、それとの関係を整理することが必要だと思われる。

【問】

それは財務省に事前に了承が必要だということなのか。

【答】

了承という表現が適当なのか判断は難しいが、いずれにしても政府に関係なくというのは、私個人としては出来ないのではないかと思っている。

【問】

本日の懇談会では、ベンチャー企業の育成についてご発言されているが、ベンチャー企業育成で障壁となっているのが資金調達面だと思われる。この点について、制度面や政策面などで現状を打開するような方策があるとお考えか。

【答】

広島では、公認会計士を中心としたNPO組織が存在しているし、広島大学とある電機メーカーとの間で共同研究を実施しているといった協力関係も出来ていると伺った。そういう意味で広島は、技術的な蓄積はあり、ものづくりのシーズはかなりお持ちになっているように感じた。あとは、それをマーケットのニーズに繋げて、どういう商品を作り出していくか、そして、どのようにリスクマネーをベンチャー企業に利用可能な状態としていくか、といった問題がある。事実、本日の懇談会でも、皆さんはこの辺にご苦労されていて、なかなか難しいというご意見を伺ったところである。もっとも一方で、政府も色々と新制度を創っており、こうした地域でのご努力が実を結んでいくことを是非期待したい。また、中小企業の資金調達のスキームについても、本行も議論に加わって色々と研究しているが、例えば、コミュニティクレジットというものが広く利用されるようになっていくことが望まれる。

以上