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総裁記者会見要旨(1月24日)

2003年 1月27日
日本銀行

―平成15年1月24日(金)
午後3時から約40分

【問】

まず初めに、最近の経済情勢に関して伺いたい。昨日発表になった日銀の金融経済月報では景気判断が据え置きになっているが、ここへ来て一般には若干現状について弱気な見方というか、あるいは先行きについて不確実性を重視する見方も出てきている。政府は月例判断を3か月連続で引き下げ、少し景気が当初のシナリオよりも下振れしているという感じもするが、総裁はその辺の景気情勢についてどう判断されているか。

【答】

昨日金融経済月報を公表したが、経済情勢については、「全体として下げ止まっているが、回復へ向けての不透明感が強い状態が続いている」と判断を据え置いた。

これは、輸出と生産が総じてみれば横這い圏内の動きにとどまっていることに加え、国内需要面でも、設備投資がほぼ下げ止まる一方で、個人消費が弱めの動きを続けていることなど、状況にほとんど変化がみられない、という点が根拠になっている。

今後、米国など海外経済の緩やかな回復を前提とすれば、いずれは輸出・生産が再び増加に転じ、底固さを増していく姿が一応展望される。

こうした基本的なシナリオは変わっていないが、海外経済の回復テンポや不良債権処理の加速の影響、不安定な株価動向など、不確実な要因がまだ残っていることは間違いない。また、イラク情勢などもあるため、先行きは引き続き注意してみていく必要がある。

【問】

今般の金融政策決定会合では政策変更はなかったが、当面の政策運営に対するスタンスについてはどうお考えか。

【答】

当面は、日銀当座預金残高を「15~20兆円程度」とする金融市場調節方針のもとで、潤沢な資金供給を続けていく。また、万が一金融市場が不安定な動きとなるおそれがある場合には、従来から調節方針に含まれている「なお書き」で、一層潤沢な資金供給を行う万全の体制ができている。

景気の先行きについての不透明感がいまだ強い──海外要因もそうであるし、国内の不良債権問題の不透明感もそうであるが──中で、このような思いきった金融緩和は、金融市場の安定と、これを通じた景気の下支えに大きく貢献するものである。

ただ、金融緩和が一段と強力な効果を発揮するためには、構造改革を通じた経済活性化と、不良債権処理を通じた金融システムの機能強化とが必要であることはこれまでと変わりはない。

日本銀行としても、経済の持続的な成長の基盤を整備するため、今後とも、中央銀行として最大限の努力を継続していきたい。

【問】

先週ぐらいから改めてインフレ目標についての議論が、与党を中心に官邸や政府からも出てきている。昨日の発言等を聞く限り、総理は明確な数値目標については慎重という感じがするが、一方で、与党サイドの一部には、目標を立てて政策運営をしないとデフレの克服はできないのではないか、という意見もある。たまたまタイミングとして総裁の任期ということがあるため、場合によっては、新総裁に政策転換を図って欲しいという思惑もあると思う。与党の一部には、新総裁の条件という感じで受け取っているような期待感というか、次の日銀総裁に対してインフレ目標を求めたいという期待感があるような気もする。そういった議論も踏まえて、総裁ご自身として──日銀として明確な数値目標を設けるか否かはともかくとして──、インフレ目標等についてどのようなことができるのか、あるいはできないのか、この点について改めて整理して頂きたい。

【答】

インフレ・ターゲットが次期総裁人事と関係があるような書き方をされたりしているが、そのことに関するコメントは一切差し控えたいと思う。

日本銀行はデフレ克服のため、世界の歴史にも前例のないような金融緩和を推し進めてきているわけである。その過程では、さまざまな政策手段についても、考え得る効果や副作用などを含めて真摯に検討を重ねてきている。確か前回の会見だったと思うが、各国中央銀行がどれだけの総資産を持っているか、資金、流動性を供給しているかという点について、表で見て頂いたかと思う。あの時にお示ししたように、98年度末には日本銀行の総資産は約80兆円であった。4年近く経った現在では約125兆円であるが、約5割も総資産が増えているということは、それだけ資産を買って、流動性を出したということであり、銀行券や当座預金その他になって負債も増えているということだ。資産・負債がこれだけ大きく膨らんでいるということは──その分だけ資産を買うというかたちで資金が供給されているということだから──、毎年10兆円以上の資金を出している計算になる。これは大変なことだと思う。こんな前例は他になく、これほどのことをやっている、ということを忘れないで頂きたいと思う。

もちろんインフレ・ターゲットについてもいろいろな角度から議論を行い、海外の例などもつぶさに調べている。

しかし、今の日本の状況の下でインフレ・ターゲティングを導入することは、経済を著しく不安定化させるなどの副作用やリスクが大きいし、必ず目標に達することができるという自信も持てないわけであるから、今ここでターゲットを設けてしまうことは、経済にとって「無謀な賭け」をするようなことになってしまうと思う。

私は、やはりこうした「賭け」に頼らなくても、現在のデフレは必ず克服できると思うし、日本経済はそうした力を十分にもっているというふうに思っている。

今の物価下落の一つの背景は、エマージング諸国の工業化などに伴って世界的な物価の低下圧力がみられることであり、もう一つは、日本経済が長期にわたる停滞を続けて、需要不足が大きくなってきているということである。

したがって、規制の改革、税制の改革などを通じて、日本経済の本当の力を引き出していく——すなわち、「インフレ予想」ではなくてむしろ「成長予想」というものを高めていく──ということが大事だと思う。そういう取組みが進められて、前向きの経済活動が高まっていけば、デフレも必ず脱却できると思っている。成長があってはじめて物価も上がっていく、ということである。

もとより、そうした取り組みの中には、民間企業による力強い取組みが求められる分野、あるいは政府の対応が不可欠な分野、そういうものがあると思う。日本銀行としても、経済の本格的な回復とデフレ克服を実現するために、今後とも中央銀行として最大限の努力を行っていく方針である。

【問】

いわゆる政府サイドでは、現職の閣僚を含めて、政策アコードというものを結んだ方が、デフレ克服に向けて、政府と日銀の決意が最も強まるのではないかという議論もあると思う。この点について、総裁がかねがね会見で、「米国の事例とは今全然情勢が違うので、それをそのまま当てはめるわけにはいかない」とおっしゃっていることは良く存じ上げている。しかし、例えば政府の財政政策と金融政策とをうまく調和させていくような手法を含めて、何か総裁ご自身の頭の中で、政府サイドとの政策協定的なことを考えられる余地はあるのか。それともそれは完全に譲れない一線というか、日銀としては一切それには応じられないというお考えか。

【答】

政府と日本銀行の関係については、日本銀行法に非常にはっきりと書いてあるわけであり、明確な枠組みが決まっているわけである。

日銀法の第3条ないしは第5条には、金融政策運営は、あくまでも政策委員会の判断と責任において行うべきだということ、自主性は十分配慮されなければならないということが書かれている。その一方で、政府の経済政策の基本方針との整合性をとるために、政府と十分な意思疎通を図るべきことが、第4条に定められているわけである。

また、現在の政策運営姿勢について申し上げれば、デフレ克服に向けた決意というものは、政府と日銀でしっかりと共有されていると思う。日本銀行は今後とも、日銀法の規定を踏まえて、政府と十分な意思疎通を図りつつ、物価の安定とこれを通じた経済の健全な発展という目的の達成のため、政策運営に誤りなきことを期していきたいと考えている。竹中大臣がおっしゃっているのも、そういうことではないかと思っている。

【問】

日本の金融システムに対して総裁は、従来より「盤石ではない」というような認識をお持ちであったかと記憶している。昨年末以来、大手銀行の方でも、自力増資といった努力がみられるが、そういった金融機関サイドの動きも含め、最近の金融システムに対して、総裁はどのように評価しておられるのか。

【答】

金融システムに関しては、ここへきて、かなり大きな動きが始まったと、私は思っている。ずっと待ちに待った動きが出始めたという感じがする。

金融システムは、不良債権問題を主たる背景として、引き続き厳しい状況にあることは変わりない。

金融機関保有株式の価格変動リスクも経営の不安定要因となっているが、これについては、私どもが始めた銀行保有の株式の買い入れ措置も、かなり順調に進んでいる。

こうした状況下で、金融機関では、不良債権処理の加速(スピード・アップ)、保有株式の早期売却、これとともに、資本面の備えを強化していくために自力増資に前向きに取り組み始めた。これが新しい動きであり、私どもは非常に注目をしているところである。私どもとしては、今後とも、こうした金融機関の自助努力が着実に進んでいくことを強く期待している。

よく新聞を賑わしているが、例えば、みずほでは増資の話が進んでいるし、UFJにしても、外資を使った増資の話が出てきている。三井住友についても、わかしお銀行との合併のほか、増資の動きが出てきている。東京三菱については、公的資本が入っていないので話は別だと思う。りそなについても、いろいろ考えておられるに違いないと思う。このように、それぞれ道は違えども、自助努力で自己資本を充実していこうという、今までみられなかった動きが出てきている。私はこうした新しい動きをみて、「皆、本当に自分の問題として考え始めたな」という気がしている。

それでは、公的資本注入はどうかというご質問になるだろうと思う。もちろん、公的資本注入についての私どもの考え方は変わっていない。金融機関が不良債権の処理を加速していく過程で、資本が毀損されたとしても、財務内容の透明性や収益力強化という経営方針について、市場の信認が得られるならば、市場での資本調達が可能だということになるはずだ。しかし、何らかの事情で市場調達が困難であり、かつ金融システムの安定確保のために必要な場合には、政策的な対応を行うこともあり得よう。

公的資本の注入は、以上述べたような一連のプロセスの結果、政策的な対応のひとつの選択肢として検討されるべきものだと思う。ただし、公的資本の注入は、金融機関の自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すものとすることが重要であると思うし、あくまでも強制によって入れるべきものではない。金融機関の意思に反して資本注入するということは、困難だと思う。預金保険法の第102条には、政府の認定を受けた後、金融機関側から申請を受けるというプロセスを経て、注入する仕組みと書かれていたと思う。

以上が最近の非常に目立った動きであり、私どもとしては、非常に注目して見ている動きである。

【問】

債券相場で代表的な長期金利である新発10年物国債の利回りが、昨今0.8%前後まで低下してきている。一部では、「国債バブル」という見方も出てきているが、どのようにみておられるか。それに関連して、日銀が月に1兆2千億円、流動性の供給という目的で買っているが、これが国債相場を下支えしているのではないかという見方も出てきているが、どのようにお考えか。

【答】

それらの点は私もわからない。ただ、国債が非常に買われているということは、買われないことに比較すれば──買い手が多くて価格が上がり、金利は低くなるということだから──決して悪いことではないと思う。

銀行も、貸出が増えない──むしろマイナスであるが──中で、預金は増えているから──預金が増えた分だけ貸出を増やせれば良いのであるが、まだそうした状況ではないので──、国債を買うことが多くなっているというのが実情ではないかと、私は思っている。

そういう状況の中で、価格が大幅に下がったり、金利が急に上がったりすることにならないように──金利は少し下がりすぎとは思うが──、今後の成り行きについては、よくみていきたいと思っている。

【問】

先程、総裁は、インフレ目標について、「インフレ目標の採用は経済を著しく不安定化させる」、「目標を掲げても必ず達成できる自信はないし、無謀な賭けをすることになる」との発言をされた。どういう理由でインフレ目標が「経済を著しく不安定化」させ、どういう理由で「必ず達成できる自信はない」のか、したがってどういう理由で「無謀な賭け」なのか、もう少しわかりやすく教えて頂きたい。

【答】

私どもは、公約というか、メッセージとして、量的緩和を始めた際に、「この量的緩和は、CPI──消費者物価──が前年比で安定的にゼロ%を上回るまで続けていきます」ということを宣言している。それは一つの宣言であるのだが、まだ、それは達成されていない。原因はいろいろあるだろうが、前年比でマイナス0.8%程度下がっている。

そういう状態の中で、それではカネだけ出して、物価が上がっていくかといえば、決してそうはいかないと思う。やはり、構造改革をはじめとしたいろいろな政策手段が打たれ、需要が増え、成長があってはじめて物価が上がっていく、デフレも消えていく──「改革なくして成長なし」、「成長なくして物価の上昇なし」──、ということを私は常に申し上げている。そういう状況を作っていくのが筋であって、先にインフレの目標を作ってみて、カネだけ先に出しても、それができるかできないかは、これは本当に「賭け」であって、分からない。政府の方がどれだけ構造改革を進めていくか、スピードアップしていくか、その辺りもまだわからないわけだから、そういったものを全てみながら、今後の政策を考えていく。とりあえず、私どもが量的緩和を通じて潤沢な流動性を供給しているのは、必要な資金を、特に経済、需要が伸び始めた時に、それを下支えしていく資金を十分供給しておこうという考えによるもので、実際に相当な勢いで──先程年間10兆円以上と言ったが──、資金を出しているわけである。私どものバランスシートを見て頂いたのでおわかりだと思うが、これは世界一だ。そういう数字をみても、やはり政策面で改革が行われ、成長が行われていって、はじめて物価は上がっていくのだと思う。

しかも、この前も表をお示ししたかと思うが、物価の上昇というのは、成長が起こって1年ないし2年経って生じる。日本だけでなく、他の国でも今まで大体そういう動きを示している。こうした状況をどこまで操作していけるのか、今の段階で約束したり、宣言したりすることは、できないのではないかと思っている。「無謀な賭け」と言ったのは、インフレ目標を設けることで、先程申し上げたように国債の価格が下がるというようなことが起こったりすると──日本銀行しか国債を買わないのでは仕様がないではないか、というようなことが言われて、国債価格が下がり、金利が上がるといったようなことが起こったりすると──、大変だということだ。そこまでして手を打つこともないのではないかと思っている。

【問】

「アコード」という言葉から入るとなかなか議論が進まないように思うが、政府のさらなる踏み込んだ財政政策と日銀の一段の金融緩和という組み合わせのかたちで、デフレ克服のために日銀としてもう一肌脱ぐ、というお気持ちは総裁としてお持ちか。そういう前向きの議論を、これから政府としていこうというお気持ちはおありか。

【答】

持続的な経済成長を実現する上で、支出内容の見直しと税制改革などを通じた適切な財政運営がもたらす効果というものは決して小さくないと思う。日本銀行としては、その時々の財政運営のあり方、その影響も含めて、金融経済情勢を総合的に点検しながら今後とも自らもっとも適切と考える政策を機動的、弾力的に実施していく、というのが、私どもの考えていることである。

「アコードをとるかとらないか」という点については──アコードというのは昔米国で使われた言葉であるけれども──、今何もここで「アコード」、「アコード」と言わなくても、実態として十分アコードができているというふうに思っている。

【問】

例えば戦時中の米国政府とFRBがやったように、国債の価格支持政策に、中央銀行が協力するといったようなことも、その柔軟な対応の中には入ってくるのか。

【答】

それは、その時の情勢によって決めることであって、そういうことを決めるには、まだ早過ぎると思う。

【問】

先程事実上のアコードがあるようなものだとおっしゃったが、例えば米国であると、中央銀行の総裁と財務大臣が2人きりで週に1、2回、じっくり話し合うため会合が持たれた時期があった──その一方で、敵対関係にあった時期もあった──ようである。日本で、中央銀行総裁と財務大臣が例えば、差しで官僚の人達抜きでじっくり話し合うことがあまりないというのは、物足りない気もするが如何か。

【答】

話し合いがないとなぜ言えるのか。電話もあるし、話をしようと思ったらいくらでもできる。諮問会議にも毎回出席しておられるし。

【問】

インフレ・ターゲットの議論は、日本経済の先行きを左右する極めて重要な問題だと我々マスコミも考えているが、この問題が、今例えば政府あるいは与党の間で、政局に絡めた議論として戦わされてしまっている。決して人事のことについてお伺いするつもりはないが、政局の中で語られてしまうという現状について、総裁はどういうふうにお感じになっているのか。

【答】

先程から申し上げているように、インフレ・ターゲットまで一気に飛んでいく必要はないのではないか。今、私どもは、物価がゼロ%以上になるまでは十分に流動性を供給して、政府が打っていくいろいろな政策を支えていこうということを決めている。まだそこまで物価は動いていないので、そうした動きがはっきりしてから次の手を考えても遅くはないと思う。デフレの中にいるときから、インフレは何%が適当だなんていうことを考える国は他にはないだろう。たまたまそういう状況になった──為替相場等の関係でそういう状況になった──国があったかもしれないが、そうした考えがどれほど大事なのかということについては、人によって意見は違うのではないかと思う。

【問】

為替市場の関係だが、やや円高が進んでいて──米国の経済スタッフが交代した頃からこんな感じで動いている気がするが──、今の日本経済もあまり目に見えて良くなったとは思えない。こうした動きは、経済のファンダメンタルズを反映しているというふうにご覧になっているのか、あるいはやや円高気味なのか、その辺の総裁のご認識は如何か。

【答】

為替というのは相手のあることで、円とドルの関係、そして同時に第三国通貨との関係があって動くものだ。

為替相場がドル安方向に推移しているということについて、市場では、中東情勢の緊迫化を材料だとみる見方があるのではないかと思うが、そういう為替相場の動向や水準について、これ以上、私が具体的にコメントすることは差し控えたいと思う。

為替相場については、経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいという基本的な考え方に変わりはない。

私は半世紀の間、為替市場──ロンドン、ニューヨーク、東京──の中で働いてきたが、為替というのは、今は24時間、世界中で市場が開かれていて、1日に1兆何千億ドルの取引があるところだ。そう簡単に相場が大きく動いたり、相場を動かしたりできるものではないと思う。

今後とも、為替相場の動向やその経済への影響については、十分注意してみていきたいと思っている。

【問】

先程、人事については一切コメントしないとおっしゃられているので恐縮ではあるが、次の会見が2月18日ということを考えると、将来の日銀がどうあってほしいということも踏まえて、どういった方が新総裁になったら良いかということを、今少しでもお示し頂ければ大変有り難いのであるが。

【答】

そこまでお話しできるところまでいっていないのではないかと思う。

【問】

では、次の会見の時もまだ決まっていないということか。

【答】

分からない。私が決めるわけではないから。

【問】

今1月であるから、任期はあと2か月ということになる。2年前に掲げられた「CPIを前年比ゼロ%以上にする」との目標は、残念ながら任期中の達成がきわめて難しいのではないかと思われるが、せっかく掲げた目標が達成できないまま任期が来てしまうということについて、総裁は現時点でどうお考えか。

【答】

先程も申し上げたように、金融だけで物価を動かすことは難しい。政府の諸政策と私どもの金融政策とで、これまで、むしろ私どものほうがいつでも先にボールを投げる立場にあったと思う。流動性を先に出して、それで政府の政策が効果を挙げてくるのを待ちわびていたというか、期待していたといっても良いと思う。そういう状況でここまできているわけだから、やるだけのことはやってきたと思う。

しかし、構造改革というものは──長年続いてきた国の中でのやり方なり、慣行なり、癖なり、そういうものを基本から変えていくということは──、非常に時間のかかるものである。中央、地方のそれぞれに官庁があるわけだし、行政機構もあるわけで、そういったものが、民ができることには手を出さないということを掲げて始まったわけだが、それがそう簡単に実現するものでもないということは、ここ2年経って皆さんもお分かりになってきたと思う。

思い切ったことをやっておられることも間違いないと思う。郵政の民営化もそうだし、道路の問題もそうだ。随分思い切ったことはやりつつあるが、そういうものが本当に実を結んでくるにはもう少し時間がかかるという感じがする。そういう意味で、あと2か月の間に、その実りが出てくることは、少し無理かもしれない。したがって、残された期間、できるだけのことを、良く市場を見ながらやっていきたいと思う。

【問】

日銀総裁人事にしつこくこだわっているわけではないが、内外の市場も次期総裁人事に非常に注目しているところがあるので、是非お聞きしたいと思う。歴代の日銀総裁で、例えば森永さんが後継総裁に前川さんを指名されたように、総裁としては──もちろん任命権者からどういうふうな格好で総裁に意見を求められるのかは分からないが──、後継総裁にはこういう人が相応しいということを推挙されるのか。その際に、新日銀法6年目以降の日銀に大きな課題がたくさんある中で、どういった総裁像を求められるのか。

もう一つは、先程の金融システムの問題に絡めて、最近の動きに非常に注目しているとおっしゃったので、質問したい。例えば、固有名詞を挙げるのはあまり良くないかもしれないが、みずほが不良債権処理を加速して、結果として1兆円という巨額の増資をすることについては、当然大きな配当負担が伴い、これからどこまで業務純益を上げてやっていくのか、なかなかみえてこない。一例として、国際基準の8%の自己資本ではなくて国内基準にレベルを落としていく、そういうかたちで新しい銀行像を作っていくというのも一つの考え方かと思うが、総裁ご自身はどう思われるか。

【答】

今までの総裁方が、後継者をこういう人にするとかしないとか言って動かれた時代とは、法律が変わっているから、そこは良くみて頂きたいと思う。新しい法律の下で新総裁が選ばれるわけだから──両院の同意を得て、内閣が任命するということになっているから──、これはそう簡単に決まるものでもないと思う。

それから、個別行についてのコメントは、ここでは控えさせて頂きたいと思う。まだどういうことになっていくのか、それも良く分かっていないわけだから。ただ、自己資本を増強していくということを皆さん発表しておられるわけで、自助努力でやっていくというところを私どもは非常に高く評価したいと思う。

以上