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政策委員会議長記者会見要旨(5月17日)

2003年5月19日
日本銀行

―平成15年5月17日(土)
午後8時から約25分

【議長】

お手許に談話をお配りしている。
──(「総裁談話」を読み上げ)──

何かお尋ねがあったらお答えしたいと思う。なお、技術的なことについては、三谷理事からお答えしたい。

【問】

二点ご質問したい。まず、今の状態を金融危機と認識しているのか。次に、りそな銀行はこの3月に合併で発足したばかりであるが、その経営内容については、合併に際して金融庁が精査しているはずであるし、日銀も考査を通じてよくわかっているはずである。それにも拘わらず、合併した月末の決算において、自己資本比率について、いきなり2%台前半という数字が出てくることをどう理解したら良いのか。

【答】

まず、日本の金融システムの現状であるが、不良債権処理はまだ道半ばである。最近は、株価の下落を主たる背景として、金融機関の経営にも様々な影響が及んでいるということもあり、日本の金融システムは引き続き厳しい状況にあると認識している。しかし、今直ちに危機的状況に直面しているとは考えていない。

昨年来、不良債権の経済価値の適切な把握に基づいて、不良債権の処理は加速しつつある。また、ごく最近では産業再生機構が発足し、産業・金融一体となった対応も始まっている。金融機関の株価変動リスクの軽減などの面でも様々な努力が進められているし、最終的な目標である金融機関の収益力強化に向けての努力も払われ続けている。こうした何重にもわたる課題に対して関係者が力を合わせて取り組んでいるという段階で、危機的状況に直面しているとは考えていない。しかし、今後とも、危機を未然に防止するという観点から、政府と十分緊密に連絡を保ちながら、私どもも中央銀行の立場で、金融システムの信認確保に向けてさらに万全の努力をしていくつもりである。

二点目の質問については、私どもも1年ぐらい前に考査に入っているし、確かにりそな銀行は合併・再編というプロセスを経て直近の3月期決算を迎えている。しかし、不良債権の認定が厳正に進んでいること、最近は株価の変動による影響も非常に大きかったこと、繰り延べ税金資産を巡っての会計監査人との協議が進展したことなどから、最終的な決算の姿が固まるにつれて、自己資本の水準が想定よりもかなり低いと認定されるに至ったということである。

【問】

日銀がこの事態を知るに至った経緯については──この談話によると、表向きは今日連絡があったということであるが──、いつ頃、どんな連絡があったのか。

【答】

りそな銀行の状況については、当然のことながら、常時、実態把握に努め続けてきた。直近の状況については、三谷理事からご説明する。

【三谷理事】

正式に連絡を受けたのは今日であるが、その前からかなり厳しい状況になりそうだとの連絡を受けていた。ただ、具体的な数字が固まったのは、本当に直前である。

【問】

総裁は、かねてから民間金融機関の活力ということを会見の場でも何回かおっしゃっていたかと思う。今回の措置により、りそな銀行については、国が大株主になるのであろうが、こうした措置で金融機関の強いビジネスモデル、活力を生み出すことができるのか。あるいは、こうした対応を金融機関の本当の再生につなげていくためには、逆に何が必要なのか、お考えを伺いたい。

【答】

おそらく、金融担当大臣は──あるいは総理も──、今回の措置について、りそな銀行に対する一種の国有化とか国営化という色彩でものを考えているのではなく、経営の自主性をきちんと保って、健全で、競争力のある銀行を目指して進んでもらうように、公的サポートを強めようとの考え方で臨まれるものと思う。そのような考え方で、政府も臨むべきだし、我々も当然、そう臨むべきだと思っている。

しかし、資本基盤が弱過ぎるということでは、すべての問題の解決の出発点が整わないということであるので、この際、必要な条件は、まず何と言っても、資本の充実ということをしっかり行うということだ。それに加えて、場合によっては、この銀行が自主的な経営体として、健全でかつ強力な競争力をつけていくということがより重要であるので、経営の刷新ということがやはり一番大事である。すなわち、しっかりとした経営者が経営者としてのリーダーシップをとられるということと、そのリーダーを支えるコーポレート・ガバナンスの仕組みというものが、きちんと構築されていくということが一番大事ではないか。それを前提として、政府および日銀は、経営に干渉するのではなく、経営の自主性を十分尊重していくということでなければ、りそな銀行は、これからの時代に我々が望む金融機関としては発展していけないと考えている。

【問】

どのくらいの公的資金の注入が必要か、あるいは、何%くらいの水準が必要とお考えか。りそな銀行自身は、先程の会見で、明確には言えないが10%が目安かというような説明をしていたが、その点について、どのようにお考えか。

【答】

どのくらいの公的資本を注入するかについては、これから政府のほうで、きちんと検討して決めていかれることだと思う。おそらく、自己資本比率が10%を上回るようにということが、1つの目処になっていくのではないかと、私も考えている。

【問】

法律には、特別支援行に対して、株主の責任を明確化するということも書かれているが、その対応についてどのようにお考えか。また、週明けの金融市場──株式市場も含めて──への影響について、さらには、仮に混乱が生じた場合にどういう対策をとるお考えなのか、お聞きしたい。

【答】

日本銀行が、仮に今後必要があっていわゆる特融を実施していく場合にも、やはり当該金融機関──この場合は、りそな銀行──に対しては、モラル・ハザードが生じないようにするということは1つの大きな条件になると思う。また、今回の公的資本注入を受けて、りそな銀行自身がこれから新しい経営健全化計画を立て、中身を整えていく中で、株主の責任をどのように全うしていくのかという点については、具体的に検討されて、いずれ何らかのかたちで答えが出されていくのではないかと思う。

それから、週明けの市場については、私どもは国民の皆様にご心配をおかけしないように、十分目配りしながら対応していきたいと考えている。

【問】

今の点に関連して──総裁は減資を示唆されたのだと思うが──、同行はつい最近増資をしたばかりで、それに応じた先もある。このこと自体は銀行自身の責任であるとは言え、金融当局である政府・日銀の責任──経営内容をみる目がなかったのではないかなど──についてはどのようにお考えか。

【答】

増資というものは、経営者の100%自主的な判断でなければならないわけで、市場経済における金融機関のこうした具体的な行動について、当局がいちいち干渉するということ自体がおかしな姿である。先般の増資自体については、金融機関の経営者の自主的な決断であり、増資手続きそのものについては正当な手順を踏まれている、と私どもは理解している。

【問】

先程総裁は、危機的状況に直面しているわけではないというご認識を示された。にも拘わらず、金融危機対応会議という一種の危機対応の枠組みが発動されたわけであるが、その要因としては、総裁がかねてからおっしゃっていた予防的注入の枠組みが整備されていない、ということが1つあるのではないかと思う。今回の事態を受けて、総裁が主張されていた予防的注入の枠組みの整備が進むという期待や、これを機会に進めるべきというようなお考えはあるのか。

【答】

念のため繰り返して申し上げるが、今回は、危機が起こったからということではなくて、危機が起こる心配を未然に防ぐというための対応会議であった、と私どもは明確に考えている。将来にわたって、今よりさらに前の段階で──さらに予防的な措置という意味で──、おっしゃったような公的資金の投入のフレームワークを作る必要があるか否か、ということについては、これから国民の皆様のご意見等を踏まえながら議論が行われていくと思う。私自身は、前々からそうした予防的なフレームワークがあったほうが良いのではないかと考えており、その点についての考え方に変わりはない。

【問】

本日の総裁談話の2.の所要資金というのは、流動性に限ったものという理解で良いのか。また、今日は預保向け貸付については何か話し合いは行われたのか。

【答】

今日は、りそな銀行の問題だけが議論された。談話の中にある所要資金というのは、りそな銀行の資金繰りを今後フォローしながら、その資金決済が滞ることのないようにきちんと対応するための資金ということである。

【問】

先程、週明け以降の市場の動きについて、十分目配りをしつつ対応したいとおっしゃったが、市場の動向次第では、りそな銀行の問題に限らず、短期金融市場でいろいろな不安が生じる可能性もあるかと思う。たまたま月曜日と火曜日には金融政策決定会合も開かれるわけだが、市場に不安感が広まった際には、いわゆる金融政策面からも何らかの新たな対応をお考えになるのか。

【答】

金融政策決定会合には予断をもって臨まないということは大原則であり、今回もその点は全く変わりない。私が申し上げたのは、金融市場局の最前線において日々のオペレーションを行っているので、個別行の資金尻だけではなくて、市場全体の地合いというものも綿密にみていくということだ。特に今回のように個別行の資金繰りの問題に焦点が当たっているマーケットの状況というものを考えると、こうした観点を十分念頭に置きながら目配りの効いた調節が必要だという意味で申し上げた。

【問】

今回はりそな銀行がこういうことになったわけであるが、国内の他の大手行も資本基盤が弱いということで、今回はりそな銀行だったが次はどこではないか、という不安が生じる可能性もあると思うが、そういうことはないと言えるのか。

【答】

私どもが承知している限り、他の銀行について、同様の問題が連鎖的に起こるという懸念は今は全くないと思っている。そういうルーマーが市場に流れるということは、もしあれば大変困ることであり、我々は、そういうルーマーの芽が出ないようにきちんと対応をしたいということである。

【問】

りそな銀行は、地域によっては貸出先の9割以上が中小企業ということであるが、りそな銀行が復活してくれないと、総裁も気にかけている中小企業にとって、金利の上でも非常に影響が出てくるかと思う。これで本当にりそな銀行は再建できるというご認識をおもちであるか。

【答】

りそな銀行は、もともと合併再編前の個々の銀行をみても、中小企業金融というものを地盤にして発展してきた銀行であり、現在のりそな銀行もさらに大きく広域的なリージョナル・バンクとして発展しようという戦略をもった銀行である。従って、中小企業の今後の発展と、この銀行の発展とは、非常に強い相関関係をもっていると思う。この銀行が健全な発展を遂げるということは、日本の経済全体にとっても、非常に重要な意味をもっているわけで、そのため、この段階で強力な公的サポートをし、我々は資金繰りの面でも万全の体制をとろうということである。必ず成果は挙げたいと考えている。金融機関自身のさらなる努力ということが大前提である、ということは申し上げるまでもない。公的サポートだけで全部全うできるわけではないので、先程申し上げた通り、経営の刷新ということが一番大切だと考えている。

【問】

公的資金に関しては、98、99年と注入されているが、今回と98、99年との明確な違いというもの──今回は金融再生プログラムを受けたかたちで注入されたというような部分はあるかと思うが──はあるのか。あるとしたらどういう違いなのかという点について、改めて教えて頂きたい。

【答】

金融システム全般としてみた場合、現在のほうが、不良債権処理の努力も──未完成とは言え──進んできているし、金融機関それぞれの経営も、新しいビジネスモデルの確立に向けて、1つの大きな方向性というものを見出しつつあるということだと思う。また、全体の雰囲気も、危機が起こってというよりは、危機が起こらないようにと、ある意味で予防的に対応するという段階で措置がとられている──「金融危機対応会議」という名前ではあるが──といった点で非常に違うと思う。

取りあえず今の段階で重要なことは、対象金融機関であるりそな銀行自身が前向きな考え方で経営を新しくすることであり、ここに力点が置かれるべきである。今回は公的サポートを受けても、経営の自律性ということは強く意識して前進してもらいたい。世の中の人々の認識も、そういう方向に変わってきていると思う。そこが一番違うのではないかと思う。

【問】

先程、「国有化ということではない」というお話があった。談話を読む限り、今回の措置はりそなホールディングスではなくて、りそな銀行への支援ということであるが、国有化ではないということであるから、普通株での出資比率については、半分に満たないということになるのか。

【答】

比率については、三谷理事からお答えするが、仮に、りそな銀行単体でみて、結果として資本構成上の公的ウエイトが高まったとしても、おそらく政府は、国有化を通じて直接マネージしようという意図をもって動くことはないのではないか、また動くべきではない、と私自身は思っているということを、申し上げたかったわけである。

【三谷理事】

比率については、資本注入の詳細が決まっていないわけであるから、まだなんとも申し上げられない。10%を上回るということになり、仮にこれを全部普通株で注入するということになれば、当然、相当なウエイトをもつことになり、過半数は超えるであろうと思うが、注入の仕方、議決権をどのようなかたちで行使するかということも含めて、まだ決まっているわけではない。

国有化というと、以前の日本長期信用銀行なり、日本債券信用銀行のように、本当に破綻して国有化されたというイメージがつきまとい、ついそうしたものが連想されるわけであるが、それらとは明確に違うということを、はっきり申し上げておきたい。

以上