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政策委員会議長記者会見要旨(10月10日)

2003年10月14日
日本銀行

―平成15年10月10日(金)
午後3時から約45分

【問】

今日の決定のポイントをまずご説明頂きたい。

【議長】

本日、金融政策決定会合を開催した。いくつか新しい決定事項がある。また経済情勢について確認したこともある。

まず、経済情勢についての私どもの判断であるが、少し判断を上方修正した。輸出環境が好転して、企業の業況感も改善しているということで、緩やかな景気回復への基盤が整いつつあるという判断をした。これが現状判断である。先行きについても、輸出・生産が増加することを通じて、次第に前向きの循環が働き始めるであろうという判断である。もっとも、多少リザベーション(留保)が付いていて、過剰債務や過剰雇用などの構造的な問題がなお根強く残っている中では、国内需要の自律的な回復力が高まるには、なお時間がかかる。これが現状および先行きに対して、今日確認した私どもの情勢判断である。

一方、引き続き私どもの金融政策の基本スタンスとして、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上となるまで、現在の量的緩和を続けるという固い約束をしているわけだが、今般、情勢判断を多少上方修正したという状況の下においても、今申し上げた量的緩和を堅持するという方針はいささかも変わらないということを強調させて頂きたい。それのみか、今日は、ようやく出かかってきた景気回復の新しい芽をしっかり育てていくということを念頭に置きながら──最近の景気回復に向けた動きをより確実なものとするという趣旨で──、いくつかの措置を決定した。

第1は、当座預金残高目標の上限の引き上げ。具体的には、「27~30兆円程度」となっていたものを、「27~32兆円程度」とするということである。これは、流動性供給の枠の上限を引き上げるとともに、枠の幅を広げて、今後、様々な経済の変動、市場の変動が起こりうるということを念頭に置きながら、金融調節の柔軟性を高めていく──流動性供給面から一層機動的に対応していく条件を整える──という趣旨である。

2つめに決めたことは、国債買現先オペの期間延長。これは前回の政策決定会合から宿題となっていたものであるが、本日、執行部からその答案が出てきた。それを決定会合で正式に採択したということである。国債買現先オペの最長期間を、現在の6か月から1年に延長した。これは、先程申し上げた、今後金融市場において柔軟かつ機動的にオペをやっていくという場合の重要な道具立ての1つを追加した、という位置付けにもなると思う。

3つめは、金融政策の透明性の強化という点である。これも、去る3月以降、一貫して研究を進めかつできるものは実施してきている。今日は、その大きな宿題のさらなる答えを出したということである。既にお手許に資料をお配りしているので、おわかり頂いていると思うが、まず「経済・物価情勢に関する日本銀行の判断についての説明の充実」という点では、3か月毎の「中間評価」を公表するということである。ご承知の通り、4月、10月に「経済・物価の将来展望とリスク評価」──いわゆる「展望レポート」──というかたちで私どもは見通しを出しているが、それが、どう上振れているか、逆にどう下振れているか、3か月毎の決定会合で検討し、「金融経済月報」の「基本的見解」の中で公表していきたいということである。それから、「金融経済月報」については、これまで、政策決定会合が行われてから少しタイム・ラグをおいて公表していたが、これからは、月報の中の「基本的見解」部分について、即日公表するという扱いにさせて頂く。また、総裁記者会見については、政策決定会合の都度、当日中に行う。決定会合が月2回ある場合にも、会見を2回行う。政策変更がなくても、会見を行う。ご迷惑であろうが、ひとつよろしくお願いしたい。

透明性の強化の2つめは、量的緩和政策継続のコミットメントの明確化。再三申し上げているが、日本銀行の現在のスタンスは、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上となるまで、量的緩和政策を続けるという約束である。このコミットメントについて、さらにわかりやすくするために、いくつかのことを決めたということである。つまり、「安定的にゼロ%以上」とはどういうことか、さらに具体的にご説明することにしたということである。すなわち、第1に、直近公表の消費者物価指数の前年比変化率が、単月でゼロ%以上となるだけでなく、基調的な動きとしてゼロ%以上であると判断されること。第2に、消費者物価指数の前年比変化率が、先行き再びマイナスとなると見込まれないこと。より具体的には、政策委員の多くが、今後の見通しにおいて、消費者物価指数の前年比変化率がゼロ%を超える──ここは、ゼロ「以上」ではなくて「超える」──との判断を有していることと定義した。かつまた、これら2つの条件は必要条件であって、この2つの条件を満たしたら即、量的緩和を解除するというのではない。それが十分条件になるためには、経済・物価情勢が量的緩和政策の継続をもう必要としないという総合判断が加わってくる。逆に言えば、経済・物価情勢によっては、今申し上げた2つの条件が満たされている場合であっても、なお、量的緩和政策を継続することが適当だと判断される場合もあるということである。今日決めたことおよび確認したことは、以上である。

【問】

当座預金残高目標の上限について30兆円から2兆円引き上げたということであるが、目標枠の引き上げについては、従来どちらかというとリスク対応というか、景気の下支えという観点が強かったように思う。今回景気に対する認識を上方修正されているということもあり、これまでの枠組みと多少違うという感もある。現実の金融調節をみると、30兆円に収めるのがなかなか難しいといったテクニカルな面もあるかと思うが、このところの円高の急伸も踏まえ、なぜ今2兆円の上限引き上げを決めたのか、ご説明頂きたい。

【答】

まず最初に申し上げたいことは、これまで何回か日本銀行が流動性供給枠の増加を含め、緩和政策の措置を決め、この席で発表してきたが、いずれも、一言で言えば「経済の下振れリスクへの対応」であった。

しかし今回は、経済の下振れリスクへの対応という観点に立った追加緩和ということではない。情勢判断は上方修正しており、基盤はまだ脆弱かもしれないが、景気回復の新しい芽が出てきている。これをしっかり育てていこうと、より前向きな視点に立っている。つまり、経済の回復をより確実にしていくために、私どもの金融政策のフレームワークを見直しながらやっていく。今日は、まず金融調節方針、金融調節に使う道具立て、そして、将来にわたる我々のコミットメントの一層の明確化という3つの側面から、今申し上げた趣旨の措置を講じた。

従って、お尋ねの目標枠の引き上げについては、経済が落ちよう落ちようとしていたものを何とか引き上げたいということで、これまでは、常に経済の下振れリスクに対応してきたものである。わかりやすく言えば、流動性供給の枠を拡大した場合には、常に上限一杯の流動性を注ぎ込むという視点に立った運営になっていたと思う。

しかし、これからは、経済が上向き始めて、さらにその上向きの動きを強めていってもらいたい。経済の局面がそのように変わると、きっと様々なことが起こってくる。世界経済、あるいは日本経済の持っている様々な不均衡や、新しく起こってくる様々な事象が、マーケットの中でどのような幅をもって理解されるかという点でも、経済が一方的に沈む局面とはかなり違った反応が市場を通じて出てくると思う。

従って、これに対しては、日本銀行は単に流動性を多額に供給して、供給尻をきちんと合わせるというところに力点を置くオペよりも、ある幅をもって、市場が激変しているか否かに拘わらず、この先市場がどのように変化するか、地合いがどう変わるかを十分読み取りながら──市場の一番基底となる地合いの整備ということにかなりのウエイトを置きながら──、機動的な金融調節をやっていきたいという趣旨である。

そういった意味では、残高目標の枠の性格が基本的に変わったとはまだ言えないと思う。引き続き、必要以上に目一杯流動性を供給していくという姿勢は些かも変わっていないが、その上に、市場の中でより機動的で幅のあるオペレーションをやっていきたいということが1枚加わってきている。そのようにご理解頂ければと思う。

【問】

これまで量的緩和について、総裁は副作用についても言及されている。副作用がこれまで以上に膨らむ懸念との対比という意味で、今回は、どのような比較考量をされたのか。

【答】

現在物価の見通しが急激に好転しつつあるとは、私どもは思っていない。引き続きデフレ脱却のためには全力投球をしなければならない。量的緩和はやはり思い切って続けなくてはならない。そういう意味では、量的緩和の副作用を是正することに大きく気持ちを切り替えるにはあまりにも時期が早すぎる。そのような考えは、今、一切持っていない。引き続き副作用ということは十分飲み込みながら、量的緩和は推進していかなくてはならないと思っている。

しかし同時に、経済が上向き局面になってくると、様々なリスク・プレミアムがマーケットの中で顕現化する──従来のように経済が沈みっぱなしで、凪のようなマーケットが普通だという状況とは変わってきている──という展開に対しては、やはり機動的なオペで対応するという意味である。

【問】

為替との関係で伺いたい。この1か月でドル・円相場は8~9円変動している。そうした観点から言うと、輸出主導という今回の回復の芽において主役であるようなところの収益悪化を通じて、設備投資などが、経済に悪影響を与える懸念がやや拡がってきているが、それと今日の政策変更とは関連があるのか。

【答】

最近やや急速に進んだ円高の影響──特に企業の収益とかあるいは今後の企業活動に及ぼす影響──については、私どもはまだ引き続き情報収集中であり、現在のところ、確たる判断を持つに至っていない。

ただ、私どもは、現在始まっている景気回復の動きが大企業製造業を先頭に始まっている──海外経済の回復と相まった国内経済の動きというかたちで始まっている──といった意味では、円高が限界的に強いリスクをもたらす心配というものは、やはりあると思っており、非常に注意深くその影響をみていく、という立場に立っている。

しかし、私どもの金融政策は、円高だけをみて対応しているわけではなく、経済全体の根っこを強くしながら、これからのリズムを良くしていきたいという観点から行っている。我々も円高のことは十分念頭に置いているが、それだけに直結して金融政策を決めるわけではない。それも重要な要素として頭の中に置いているが、経済全体の動きを強くサポートしていきたい。市場の様々な変動に対して、金融政策が可能な限り、市場の地合いをならす効果を発揮するようにやっていきたいという意味合いである。

【問】

本日の当預残高目標上限の引き上げについては賛成多数による決定ということだが、可能であれば、何対何だったのか、投票結果を教えて頂きたい。また、終了時間が2時に近いかなりロングランの議論であったかと思うが、可能な限りでどのような議論があったのか、異論も含めてご紹介頂きたい。

【答】

まずご質問の金融調節のほう、つまり当預残高目標の枠を広げながら弾力的な金融調節を行うというほうについては、賛成多数の決定である。私を含めて総勢9名であるが、反対票が3票あった。つまり6対3である。透明性の方の議論は全員一致である。前者については、情勢判断を上方修正しながらの対応ということで、先程もご質問頂いたように、ここのところは考え方を良く整理しなければこうした判断に至らないわけであるので、議論に相当時間がかかったということがある。それから透明性の方は、従来から半年以上かけて勉強してきていることではあり、ここでかなり広い範囲にわたって一応の結論を出した結果、項目が非常にたくさんになったわけである。それから、金融政策のコミットメントの意味、すなわち「CPIが安定的にプラス」というのは一体どういうことかという部分については、どんなに懸命に議論して詰めようと思っても、詰めきれない部分というのは残りかねない。しかし、今日はそこを徹底的に議論して、ここはクリアカットな議論を全員一致で出しているわけである。現状においてはベストと思える結論を出そうということで必死になって議論した。従って、全体として時間がかかったということである。

【問】

コミットメントの明確化に関することであるが、この項目は見方を変えると、量的緩和政策の解除の前提条件というものをかなり具体的に示しているかと思うが、一番最後には「こうした条件は必要条件であって、これが満たされたとしても、経済・物価情勢によっては、量的緩和政策を継続することが適当であると判断する場合も考えられる」と書かれている。そうなると、景気回復がかなり進まない限り現行の枠組みを続けるのだというようにも読めるのだが、その辺りの意味合いについて、もう一度ご説明頂きたい。

【答】

取りあえず本日のところは、「安定的にゼロ%以上となるまで」という意味をさらに具体的にご説明申し上げたわけだが、我々はこれをもって出口が近いということを示唆したつもりは全くない。次回以降展望レポートを出す──経済についても物価についても将来見通しを出す──段階でまたきちんと議論をさせて頂きたいのだが、私の感じではおそらくこれから出していく日本銀行の見通しについては、量的緩和政策の終了を手前に引き寄せるような情勢判断を近い将来出せるとは想定できないと思っている。むしろこうした条件について具体的に今日皆で議論して、最終的にこういう文章にして眺めてみると、この条件を満たすにはなかなか時間がかかるというのが私どもの共通した率直な印象である。従ってそういう意味では、今日の発表は、私どもの緩和継続ということを、よりしっかりお約束するという意味のほうが強いと私どもは思っている。

【問】

2つ質問したい。まず「27~32兆円程度」という枠について、当面は上限の32兆円を目指して金融調節を運営するのか否かということ。もう1点は、「機動的に弾力的に」ということを繰り返し強調されているが、このことは量的緩和継続のコミットメントが達成される以前でも、実際の残高を例えば27兆円まで落とすということもありうるというように理解して良いのか。

【答】

流動性の供給残高がある日増えた、あるいは減ったということでインプリケーションを持たせるということではないということである。つまり、もう既に1か月以上も前からかなり長めのオペを使っているという状況の下では、毎日確実に同じ流動性供給残高にしようと思うと、長めのオペで資金を供給すれば短めの資金は吸収するというようなことになる。しかし、毎日毎日どういう長さの期間の資金をどれくらいマーケットの中で必要としているかは刻々と変わるわけである。従って、期間の長短等その時々のマーケットのニーズに合わせて資金を過不足なく供給していくと、場合によっては長めのオペをたくさんやった時に短めの資金の供給というものが少なめにとどまる日もあれば、短めの資金を吸収して終わる場合もある。そういう意味で、最終尻が多少上がったり下がったりすることもある。しかしそれは、きめ細かいニーズにより良く答えた結果であって、マーケットを毎日締めたり緩めたりというふうな弾力性という意味ではない。あくまで超緩和を維持するという前提の下で、きめ細かく、長短資金のニーズにもれなく対応していくために、きめ細かくオペをやっていくということが基本である。また、先程申し上げたように、景気が上がっていく局面においては、マーケットの中に様々な思惑も入ってくる。沈む一方の経済の下では、マーケットの中に思惑の入れようなどないのである。ところが経済が上向いてくると、マーケットの中には様々な思惑が入ってくる。こういった思惑に対しても、市場調節上できる限りそれを封じ込めるというと言葉は悪いが、期待の安定化を図れるようなオペも加味していかなければいけないかもしれない。しかしそれは手段という意味ではなく、あくまで資金ニーズへのきめ細かい対応と、過不足なく資金を供給していくということの結果であり、事後的に毎日毎日の供給残高をみると、いくらか従来よりは振れが大きくなってくるという意味である。

【問】

まだ少し今の質問に正確には答えていらっしゃらないが、私たちの理解としては、27~32兆円の間で、それなりに27兆円の時もあれば、32兆円の時もあるという理解で良いのか。

【答】

そういう意味では、おそらく日々多少上下すると思うが、ならしてみると大体30兆円前後が中心になるだろうということである。

【問】

「量的緩和政策継続のコミットメントの明確化」の2番目に、「展望レポート」で「政策委員の多くが、見通し期間において、消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%を超える見通しを有していること」を必要条件に挙げているが、「政策委員の多く」とあるのは、いわゆる「大勢見通し」のことと解釈して良いのか。

また、これを素直に読むと、例えばある10月に出した展望レポートで、CPIの大勢見通しがマイナスであるということになった場合には、対象期間、つまり翌年4月までは量的緩和の解除はないと解釈して良いということなのか。

【答】

まず、「政策委員の多く」ということについては明確に定義していない。おっしゃった通り、展望レポートで委員方の物価に対する見通しが出た時に、大勢見通しがかなりの程度「政策委員の多く」の見通しに当てはまることになる可能性はあると思うが、大勢見通しが現実に政策変更に直結するかどうかについては、もう少しその時の状況を踏まえて鋭い目でご覧になられれば、見分けがつくケースが多いだろう。政策変更をしようと思えば政策委員会で多数決が必要なわけであるから、最終的に多数決を満たすだけの人の判断が一致してこないと、実現しないからである。そこのところは立体的にみていかざるを得ないのではないかと思う。

【問】

先程の質問の後段についてはどうか。

【答】

10月に展望レポートではっきりと数字をお出しする。そして、今後3か月毎に点検をして、標準的な見通しに比べてより望ましい方向に経済や物価の情勢が動いているとみるのか、より望ましくない方向に振れているとみるのか、それはなぜかという分析と判断をきちんと出していこうということである。3か月毎に点検していくということである。

【問】

ということは、10月の展望レポートにおいてCPIの見通しがマイナスであれば、向こう3か月間については量的緩和の解除はないということなのか。

【答】

ゼロ%を超える見通しが少なければ、3か月以内に政策変更がある蓋然性というものは非常に小さいのではないかと思う。

【白川理事】

まず、展望レポートは半年に1回必ず公表する。それから、中間的な評価は3か月毎に行っていく。もちろん政策の変更はその間にもありうるわけであるから、いずれにせよ仮に将来政策変更を行う場合には、また見通しを出すということである。

従って、今のご質問は、政策変更は四半期毎にしか行わないのかという趣旨かと思うが、そういうことではない。

【問】

2点伺いたい。まず、期間が延長された国債買現先オペのオファーは週明けの火曜日からありうるのかという点と、当座預金残高の目標上限について32兆円という数字が出てきた理由について伺いたい。

【答】

週明けに現先オペをオファーするかどうかについては、金融市場局がその時の市場動向をみて決めるので、今の時点では何とも申し上げようがない。

【問】

可能性として、もしやろうと思ったら火曜日からできると理解して良いのか。

【白川理事】

実は、今日から実施できる体制になっている。発効する日という意味では今日からである。実際に、実施するかどうかは先程総裁がお答えした通りである。

【答】

それから、なぜ32兆円かという点については答えにくいが、枠の幅を広げて機動的にオペを実施しようという趣旨で、幅は5兆円という刻みの良い幅にしたということだ。

【問】

景気も上昇基調であるし、金融情勢も安定している中で、なぜ当座預金残高目標を引き上げなければならないのか。引き上げたことがどうして景気回復の芽を育てることになるのか、もう1度ご説明頂きたい。

また、今、政府当局による為替介入がある中で、今回当座預金残高目標を引き上げたことによって、「不胎化論」、「非不胎化論」の論議が再び出てくるのではないかと思うが、それについてはどうお考えか。

【答】

何か特定のマーケットの動きと結び付けて政策判断を行ったわけではない。それよりももっと広く捉えている。先程から繰り返し申し上げている通り、経済が単純に沈んでいくような状況の下では、マーケットを変動させるような要素、リスク・プレミアムも発生のしようがないが、このような凪のようなマーケットという局面は脱した。これは、景気回復の新しい芽が出て、世界経済も上向きに動いている中にあって、必然的に起こってくる現象である。そうすると、我々のオペレーションについても、「単純に毎日同じ残高を維持するだけで良いのか」という疑問が出てくるが、それに対して我々は、「機動的に、よりダイナミックな対応でマーケットのコンディション作りをやる」というふうに、転換をしたわけである。

しかし、情勢判断は上方修正しているので、ダウンサイド・リスクに対応した、従来通りの意味での緩和措置を追加したわけではない。従って、枠の下限というものは操作していない。オペレーションの余地を広げるために上限を広げたのである。なぜならば、上限一杯のところまで既に流動性を供給しているからであって、そこは非常に技術的な理由である。

円資金の需給調節は、経済全般、あるいは物価情勢を含めた日本銀行の情勢判断に忠実にやっていくということであって、為替市場の動きのみを捉えて円資金の調節に振れをもたらすという考えは一切ない。

【問】

前回の当座預金残高目標の引き上げ後に行われた経済財政諮問会議において、総裁は「経済の下振れリスクと共に為替への対応ということも1つの狙い」と明確におっしゃっていたことが議事録等で公開されている。今のお話からすると、今回は為替の部分については強く考えていないということか。

【答】

経済財政諮問会議で申し上げたことも、今日申し上げたことも全く同じである。経済には様々なリスクが──直接の場合もあれば、為替市場あるいは債券その他の市場を通じての場合もあるが──降りかかってくる。そういうリスク要因を──かつリスク要因の高まりということを──十分念頭に置いて、我々は金融調節を行うということを申し上げたわけである。そういう点では、今日の措置も全く同じである。ただし、「為替が動いたからそこに向かってもぐら叩きのように対応する」ということではない。我々はもっと根幹の地ならしをしっかりやっていく。こういうコミットメントである。

【問】

政府当局の介入の増加と共に、日銀の当座預金残高が膨れ上がったことについて、岩田副総裁は外債を買っているようなものだとおっしゃっていたが、それについてどう思われるか。

【答】

これは岩田副総裁の個人的見解とご理解頂いたほうが良いかと思う。また、岩田副総裁の個人的見解については、私はコメントする立場にない。ただ、全般的に言うと、金融緩和政策というのは、金利低下の場合であれ、流動性追加供給の場合であれ、そのこと自身は為替相場に対して、理論的には円安の方向に影響を及ぼす力があると思う。しかし、そのことと、具体的に為替相場を直接意識しているとか、あるいは政府の介入政策と直結して考えているということとは全く別の話である、とご理解頂きたいと思う。

【問】

当座預金残高目標の上限引き上げの理由について、少し確認したい。まず、技術的な話として、介入資金がかなり市場に出ているわけであるが——これで吸収オペがかなり窮屈になっていると思うのだが——、そうした資金の吸収が難しくなっているという側面が、上限の引き上げに関係しているのかということが第1点。また、景気判断を上方修正すると、当然、量的緩和の解除という思惑が市場に出てくるので、上方修正しつつも、その一方で、量的緩和を継続するという意志を強く示すために上限を引き上げたという意味合いがあるのかどうか、という点についてもお伺いしたい。

【答】

資金の吸収、供給が技術的に困難になっているから枠を操作したということは全くない。

現在、資金の吸収、供給とも極めて円滑に行われていて、金融市場局において、技術的に困難を感じているということは一切ない。従って、今日の措置はそうしたこととは全く関係がないということである。

それから、枠を広げた理由というのは、先程から申し上げているとおり、機動的にオペをやっていく、これに尽きるわけであって、私どもはそれ以上のインプリケーションをこれに付与しているというつもりはない。

【問】

金融経済月報の「基本的見解」を、金融政策決定会合当日に発表するという方式に改めるのであれば、いわゆる政策委員会内部で申し合わせた「ブラックアウト・ルール」も、前倒しでその日のうちに切れるということか。

【答】

毎回、政策決定会合があった都度、政策決定の有無に拘わらず記者会見をやらせて頂くということであるので、そこはそう理解してもらって良いのではないか。

【白川理事】

ブラックアウト・ルールについては、改めて議論をして、その上で最終的にどういうルールにするかということについて、またご説明させて頂こうと思っている。

【問】

今回の情勢判断を上方修正した上での当座預金残高目標の上限引き上げについて、今、「機動的に運営するということに尽きる」とおっしゃったわけであるが・・・。

【答】

それは同時に、景気の回復をより確かにするという意味を持つとも申し上げた。

【問】

その上で、今後、機動的に運営していく上で、この27兆円という水準が、時間軸の切れる前に——つまりCPIが安定的にゼロ%を上回るという条件が達成される前に——、引き下げられるということもありうるのか。

【答】

現在、既に30兆円前後というところで流動性の供給が行われているわけであるので、オペをいくら機動的に行ったとしても、下限が邪魔だということは通常は想定されないのではないか、と私は思っている。また、技術的な理由でこれを下げるという必要を、もしも仮に感じても、そのことは政策的な意味合いを強く持つリスクがあるだろうと思う。そうした場合には、あえて引き下げはしないだろうと私は思う。

【問】

確認だが、つまりCPI上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、27兆円以下にはしないというふうに受けとって良いのか。

【答】

私は政策委員の1メンバーなので、その点についてのコミットメントを私一人でやるわけにはいかない。そうした蓋然性は小さいだろうと申し上げるが、これ以上の言葉を引き出そうというのは少し酷ではないか。

【問】

今日、衆議院が解散して、1か月にわたる政治的な空白期間が実質的に生じるわけだが、今日の議論の中では、そのこととの関係についての議論があったのか。また、総裁はそれに関連してどのようなご発言をされたのか。

【答】

経済政策に空白があってはならないというのはご指摘の通りだと思う。やはり、内外経済とも、いわば様々な構造問題を引きずりながら、非常に揺れ動きながらの回復歩調であるから、経済政策に隙間があってはならないということは事実だと思う。しかし、衆議院が解散されても内閣は続いている。また、我々日銀の方は、それに関係なく継続的に政策を打っていけるということであるから──我々が政府の代わりを務めることができるということではないが──、少なくとも金融政策の面からは、十分注意しながらやっていきたいと思っている。

【問】

コミットメントの明確化について、公表文では「政策委員の多くが、見通し期間において、消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%を超える見通しを・・・」ということになっている。これについて、「ゼロ%以上」ではなくて「ゼロ%を超える」としたことには何か意味があるのか。量的緩和政策の解除条件のハードルを一段と高めたということなのか。

【答】

先行きの見通しが「ゼロ%ちょうど」ということで揃ったとした場合──全員がちょうどゼロと言った時──、「安定的にゼロ%以上」とは多分言えないだろうと思う。従来の「安定的にゼロ%以上」という条件のレベルを変えたという意識はないが、手前で刻々と出てくる前年比上昇率が基調的にゼロ以上でなければ、先行きの見通しが「安定的にゼロ%以上」とはなかなか言えないのではないか。つまり、手前について基調的にゼロ%以上ということになれば、先行きについてはやはり何がしかのプラスではないか──普通の安定的なプラスの状況というのはそういう意味ではないか──、とごく自然に理解して頂ければ良いことだと思う。

【問】

そうすると、物価はもうプラスになる見通しがついた時ということになるわけか。

【答】

先行きについてのことだが、平たく言えばそういうことだ。

【問】

量的緩和のコミットメントについて、本日徹底的に議論されたということだが、本日の発表以上に、もう少し具体性を持ったコミットメントが必要ではないか、というような考え方は示されなかったのか。

また、これからさらに具体的なコミットメントをされていくと、最終的に将来の金融政策の手足をいろいろ縛ることになるのではないか、という懸念もないわけではないと思う。この点について、総裁はどのようにお考えになっておられるか。

【答】

今日、政策委員会でいろいろ議論が出たが、やはりそのポイントとしては、我々のコミットメントをよりわかりやすく、より明確にし、より輪郭もはっきりさせるという点と、あまりにも機械的に、我々の将来の判断や行動を縛りすぎないようにするという点とを、如何に上手に両立させるかということに、議論の焦点が絞られた。その議論の結果は、全員一致というかたちが示すように、今の時点で考えれば「これがザ・ベストの答えだ」ということで、これは我々としてかなり自信を持って、今日、世の中に提示したということだ。またこの先、事態の進展の中で考えて、こういった我々のコミットメントがなお不十分かどうかということを検討するような状況にならないように──なる可能性が全くないとは言えないが──、我々は、少なくとも今日の時点でお示しできるベストの答えとしてお出ししたつもりだ。

以上