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政策委員会議長記者会見要旨(11月29日)

2003年12月1日
日本銀行

―平成15年11月29日(土)
午後10時30分から約20分

【議長】

既に私の談話をお配りしている。ほとんどそれに尽きていると思うが、先程、午後9時から預金保険法第102条に基づく金融危機対応会議が総理官邸で開催された。足利銀行に関することである。足利銀行に対して預金保険法第102条第1項第3号に定める措置を講ずる必要がある、との答申を総理に対し行った。総理は直ちにそれを受けて、その措置を適用する旨決断されたということである。

今後、足利銀行は特別危機管理銀行として適切な業務運営に取り組んでいくということである。預金保険機構による資金援助を前提として、なるべく速く受皿金融機関への譲渡等を行い、最終段階にもっていくということになる。

日本銀行は、日銀法第38条の規定に基づく金融庁長官および財務大臣からの要請を受け、先程の政策委員会において、足利銀行に対して、今後、資金繰りの状況等を勘案しながら、預金保険法第102条第1項第3号に定める措置を終える日までの期間、必要と認める間、足利銀行の業務継続に必要な資金を供給するという方針を決定した。

今後、足利銀行は国の管理の下に通常通りの業務を継続するということである。預金あるいはインターバンク取引を含め、足利銀行の全ての債務の円滑な履行が確保されるということである。日本銀行としては必要に応じ特融を行うということであるが、こうした今回の措置により、足利銀行の営業地域を中心に広く金融の安定が確保されると考えている。

【問】

今回の足利銀行の処理は、りそなグループと異なって破綻処理というかたちとなった。これには2つの側面があると思う。1つは、結果として株主責任を厳しく問うことになり、これは総裁の持論にも近いものがあるのではないかと思う。その一方で、他の地銀の経営に対する市場の選別の目が厳しくなる契機になる、という指摘も出てくるかと思う。その両面について総裁のご見解と、そうしたことが市場等に影響を与えた場合の日銀としての対応方針があればお聞かせ願いたい。

【答】

りそな銀行は預金保険法第102条第1項第1号措置。今回は第3号措置。いずれの措置を採るかについては、責任を厳しく追及することを判断基準にしたわけではない、ということは当然のことである。今の質問でも、結果として今回の措置のほうが株主責任等をより厳しく問うことになったとご理解頂いていると思うので、それはそういうことである。

今回の足利銀行の場合には、9月期の中間決算が金融庁の検査を踏まえて最終的にまとめられた結果、債務超過であった。従って、今後、業務の安定的な継続を行っていくためには——特に栃木県を中心とした地域で非常に重要な機能を発揮していかなければならない銀行であるので——、3号措置が適当だということになったわけである。

結果として、それだけより財務状況が悪い状況に立ち至っている銀行ということであるので、株主および経営者の責任はより厳しく問われることになる。法律の規定するところに則って、そういう措置が採られていくだろうということである。

そのことが他の金融機関に直ちに跳ね返りをもたらす、とは私は考えていない。それぞれの金融機関は経営内容、財務内容に違いがあり、また、特色もあるわけなので、それぞれの銀行を見る目——特に市場が見る目——はより正確になっていくだろうが、ことさらこれを理由に厳しく見るということではない。市場が金融機関を見る目がより正確になっていくと、客観的かつ冷静に、今回の件は判断していくべきことではないかと思っている。

【問】

特融の必要性について総裁はどのようにお考えか。また、特融は直ちに実施することになるのか、実施の時期──例えば月曜日にも実施するとか──についても伺いたい。

【答】

これまでのところ、足利銀行の資金繰りは非常に安定して推移しており、格別の不安感を伴っていない。手許流動性の用意も出来ているということなので、明後日以降、同行の通常の営業が始まった後も、急に資金繰りの不安が予想されるというような状況では全くないと思っている。特別融資については、あくまでも予期せざる不測の事態に備えるということであって、そういう意味では、週が明けたらすぐに、いつでも対応できるが、具体的な必要性は当面感じていない。

【問】

総裁談話の中では、「今回の措置により、同行の営業地域を中心に広く金融の安定が確保されるものと考える」と述べられている。他方で、総裁はかねてより、ペイオフ全面解禁後は、金融機関の体質により新陳代謝が常態化するような状況になるというようなこともおっしゃっている。本日の措置は、結果としてこうしたかたちになったわけであるが──今後、厳しく株主責任を問うとか、不良資産と正常債権を区分して営業譲渡するということになるかと思うが──、長期的にみた金融システムの健全化とか強化という観点からみて、本日の措置は全体の流れの中でどのように位置付けられるとお考えか。

【答】

今回の足利銀行のケースは、あくまでも非常に不幸なケースであり、我々の目からみても非常に残念なケースであったということに尽きると思う。金融機関全体としては、大手行、地域金融機関ともに健全化への動きが少しずつ加速されながら進んできている。そうした中で、このような個別行の問題が出てきたことは遺憾ではあるが、こうしたことが出たか出ないかにかかわらず、約1年半後のペイオフ完全解禁に向かって、さらに経営健全化、金融システム全体の健全性強化の努力を強めていかなければならない。金融機関の自主的な努力がさらに強まること、また、当局としてはさらにいろいろな知恵を働かせながら、システム全体としての健全化促進に努力していくこと、こういう大きな流れは変わることなく続けていかなければいけないと思う。

今回の不幸なケースをきっかけに、市場あるいは市場関係者の、個々の金融機関や金融システム全体を判断する目がより正確になっていくという効果はあるだろうと思う。しかし、今回のことを契機に不安感が一層広がるとか、自信が失われるとか、そういう心配はないと思う。

【問】

先程、財務内容、経営状況は銀行によって違うのだ、ということをおっしゃられたが、今回、足利銀行がこういう事態に陥った原因をどうお考えか。それは足利銀行だけのものなのか。

【答】

現在、日本の金融システム全体が大きな問題を抱えて改善努力中だということからすれば、日本の金融機関全体に通じる共通の問題が存在するということは否定し得ないと思う。しかし、実際、個々の銀行がどの程度不健全になっているのか、あるいはどの程度健全化への努力の困難さが増しているのか、ということになると、やはりこれまでの経営の差ということも非常に大きいと思う。業務を前進させる中で、リスクを1点に集中してきたとか、あるいは全体のリスク管理の厳しさ、甘さの差といったようなことが、現在の金融機関の経営内容、財務内容に差をもたらしているという部分も非常に大きいと思う。結果として、今回のような措置を採らざるを得なくなった金融機関について、経営責任が厳しく問われるということは、そういったところからくるということになると思う。

【問】

今後、足利銀行は新経営陣の下で経営再建を図っていくと思うが、日銀が中央銀行として、人の面でそこに貢献していくというお考えは今のところあるのか。

【答】

本日、国の管理の下──具体的に言えば預金保険機構の管理の下──に経営を続けていくということだけが決まったわけであって、具体的にどういう人が担うかというところはまだ何も考えが進んでいない。

【問】

今回3号措置が適用されるということで、足利銀行に投入された公的資金1,300億円程度が毀損すると言われているが、金融行政の責任についてどのようにお考えか。

【答】

今回の場合には、公的資金の価値が希薄化するという部分が出てくると思うが、そのこと自体は、第一義的にはやはり経営者の責任であると思っている。金融システム全体として、金融当局の健全化努力が十分であったか否かについては、客観的な判断が必要であると思うが、個別銀行のケースについて第一義的に問われるべきは、やはり経営責任であると思う。

【問】

今回の足利銀行の破綻が景気に与える影響について、どのようにお考えか。

【答】

足利銀行の場合、栃木県という地域を中心に業務展開を図ってきた金融機関──地域の経済の動向と非常に密接に絡む活動をしてきた金融機関──であるので、今回、こういう不幸な事態を迎えて3号措置が採られたわけである。3号措置による業務の運営が──1日たりとも欠かさずに──円滑に行われる限り、地域経済に対して大きなダメージを与えずにすむのではないか、さらには、日本経済全体に対してのダメージも、最小限にとどめることができるのではないかと思う。

【問】

今お話があったように、地域経済に大きな影響を与えるので3号措置になった、ということは理解できるが、一方で、国民負担の観点からは、3号措置は非常に大きなコストがかかる、とも言われている。総裁は、この点についてどのようにお考えか。

もう1つは、いわゆる出口論に関することである。最終的には、一括譲渡と分割譲渡という選択肢があるわけだが、総裁は、どちらの方が望ましいとお考えであるのか。

【答】

月曜日以降、公的管理の下に、業務の体制がいかに新しく、上手く組み立てられていくか、そしていかに速く、今おっしゃった出口の段階にもっていけるか、ということが鍵だと思う。出口の中身、あり方というものは、今の段階では全く想定できないと思う。また、一定の想定を持つ必要はない。月曜日以降の業務を円滑に運営していく、そして最終的な出口の段階で、公的管理の下にはあるけれども、この銀行のバリュー(価値)というものが客観的にきちんと認識できるものとして再構築できれば、結果的に国民的コストはミニマイズ(最小化)されるものと思う。最終的に公的支援額がいくらになるかはわからないが、金額の大きさが国民負担の大きさ、ということには必ずしもならないのであって、仕上がりの内容次第だと思う。つまり、価値ある金融機関として再出発できるかどうかという点に、本当の評価基準というものが置かれていくのではないか、と思っている。

【問】

総裁は、講演などでも、金融システムを安定化させるための新たな枠組みが必要である、との見解を示しておられるが、今回の3号措置、破綻処理を機に、その必要性を一段と強く感じておられるか。

【答】

私は、一貫して、新しいフレームワークは必要だと申し上げており、そうした考え方は全く変わっていない。今回の件が起こったか、起こらないかにかかわらず、考え方は同じである。

以上