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総裁記者会見要旨 ( 1月20日)

2004年 1月21日
日本銀行

―平成16年1月20日(火)
午後3時半から約55分

【問】

本日の金融政策変更の理由について説明を頂きたい。

【答】

今年初めての記者会見である。本年もよろしくお願い申し上げる。

本日は本年最初の決定会合であるが、皆様にご報告申し上げる点が2点ある。

1点目は、金融市場調節方針について、日銀当座預金残高の目標値を従来の「27〜32兆円程度」から「30〜35兆円程度」と、3兆円の幅を持って引き上げたということである。

2点目は、昨年12月の金融政策決定会合において、執行部に検討を指示した点であるが、資産担保証券の買入基準について、本日執行部から報告があり、これを受けて買入基準の一部見直し——買入基準の緩和——を決定した。既に皆様方のお手元にその内容をお届けしているが、例えば、資産担保証券の裏付資産に占める中堅・中小企業関連債権の比率に関する要件を「金額ベース」から「金額ベースまたは件数ベース」に変更する、裏付資産に金融機関の貸付債権が含まれる場合に、各貸付債権の債務者を自己査定上の「正常先」に限定している要件を撤廃する、などを主な内容とした見直しを行った。

このうち、当座預金残高目標値の引き上げは、デフレ克服に向けた日本銀行の政策スタンスを改めて明確に示し、今後の景気回復の動きをさらに確かなものとすることを目的とするものである。

資産担保証券の買入基準の見直しは、これまでの買入れを通じて様々な知識や経験を積んできた。さらには、市場関係者から様々な意見を頂戴して、それも十分に参考にしながら必要と判断したものを今回一括して採用したものである。今回の見直しによって私どもが期待していることは、資産担保証券市場が今後長い目でみて、裾野が広く発展可能性の高い市場として成長することを、我々の措置がサポートしていけるのではないかということである。

【問】

当座預金残高目標値の引き上げについて伺いたい。本日発表された金融経済月報の基本的見解でも、経済・物価動向については標準シナリオ通りに沿って動いているという判断を示しているが、そうした中で、なぜ、当座預金残高目標値の引き上げが必要なのか、また円高けん制の狙いがあるのかという点について、説明を頂きたい。

【答】

経済あるいは金融情勢についての私どもの見方は、本日発表した金融経済月報の基本的見解の中で示している通り、現状、景気は緩やかに回復している。また、先行きについても景気は回復を続けると見込まれるが、引き続き企業の過剰債務など構造的な要因が根強いことを踏まえると、景気の回復テンポは緩やかにとどまる可能性が強いと考えている。現在のところ、米国、中国を始めとした海外経済が、事前の予想よりやや強めに推移しており、これを大きな背景として日本からの輸出が順調に増えている。さらに、生産の増加、企業所得の増加、企業の支出——設備投資の増加——というような前向きの循環メカニズムが既に働き始めている。むしろ、こうした循環メカニズムはやや強含みで作動し始めている。そうした中、今後、こうした動きが持続的な回復につながり、デフレ脱却の目途をつけるところまで行くかどうかという点については、不透明要因が多い。特に、大企業・製造業を中心に始まった景気回復の動きの裾野が、非製造業さらには中堅・中小企業の分野においても——それぞれの企業におけるさらなるリストラ努力の成功を伴いながら——、広がっていくかどうか、そして経済全体としてみれば、需給ギャップの縮小が順調に進み、デフレ脱却の目途が見えてくるかどうかという点がなお不透明ということである。

昨年10月に発表した展望レポートの中で示した標準シナリオとの関係では、概ね標準シナリオの通りに経済は動いているが、先行きこれをさらに良い姿につなげていく必要がある。そうした意味で、現在比較的良い方向に経済が動き始めていることは、極めて歓迎すべきことであるが、これで満足してはならない。おそらく、民間企業や金融機関におかれては、構造的な改善を伴いながら、こうした好循環をより確かなものに持っていこうという努力と決意を固められつつある段階ではないかと思う。金融政策の面でも、こうした民間の決意と努力をさらにしっかりとサポートしていきたい。今回の措置の真の狙いはこの点にある。

【問】

円高けん制の狙いがあるのかという点については如何か。

【答】

本日の発表文(「金融市場調節方針の変更について」)の中では、「金融・為替市場の動向には注意を要する」といった趣旨の文章を加えさせて頂いた。また、金融経済月報の基本的見解では、経済は標準シナリオ通りに動いていること、昨年10月の展望レポートで示した4つのリスク要因が、上振れリスク、下振れリスク両方に向かって引き続き存在することを述べた上で、海外経済の要因については、下振れリスクという意味では少し縮小の方向に動いている感じがあるという評価を加えている。それと同時に、金融・為替市場の動きについては注意を要する状況であると申し上げている。金融・為替市場の動きが直ちに下振れリスクを増している、というところまで判断は進めていないが、為替市場を中心とする市場の動きが人々の心理状態をどのように巻き込んでいるかというところまで考えると、下振れリスクになりかねないという感じが伝わってくるので、政策運営上十分注意していきたいということをあえて申し述べている。

【問】

先般の会見で、総裁は「歓迎すべきマネーサプライの縮小もある」というご指摘をされた。ただ、竹中大臣など政府のほうからは、「マネーサプライを増やす努力をすべきだ」といった発言が相次いでいるようだが、こうした発言についてどう思われるか。また、マネタリーベース自体の伸び率が縮小しているという指摘もあるが、こうした声が、今回の政策変更に影響したのかどうかを伺いたい。

【答】

竹中大臣のご発言と私自身の見解に、基本的なものの考え方の相違が存在しているということはない。竹中大臣ともそうした点について十分意見を交わしてみても、やはり相違はないと認識している。私どもの金融政策は、かなり思い切って緩和を進めている。しかも、その枠組みについてかなりしっかりとしたコミットメントをしながら緩和を続けており、最終的にこれがデフレの脱却に結びつくような効果を発現していく過程においては、いずれ、ある程度のマネーサプライの増加に結びついていくことは間違いないと私どもも思っている。そういう意味では、私どももマネーサプライの増加ということを視野の外に置いているということでは全くない。

しかし、非常に短期的に、マネーサプライの増加というものをあたかも1つのターゲットのように取り上げるということは、今の経済・金融の状況、そして私どもの金融政策の枠組みの作り方からいってそぐわないと思う。先程も申し上げた通り、私どもの金融政策は、企業のリストラや金融機関の健全化努力をしっかり後押ししながら、企業・金融機関ともに前向きの行動がとれる段階へ早くもっていこう、というようなプロセスを想定している。このプロセスが中途半端なままで続いていくのではなくて、きちんとそのプロセスが踏まれていかなければ、需給ギャップも縮小しないし、新しい付加価値創造のための企業・金融機関の前向きな行動も始まらないので、デフレ脱却の糸口もなかなかつかめないということになると思う。

もし、私どもの想定通り、企業および金融機関のリストラ努力、構造改善努力、健全化努力がさらに加速されていくとすれば、その過程においては、企業は借入金をさらに返済し、金融機関は不良債権処理により、バランスシートを小さくするだろう。こうした過程に次いで、さらに前向きの努力として、金融機関が新しい金融の仕組みの展望を持ちながら、新しい行動に出ていく中で、過去の日本の金融の姿と違って、資産の流動化なども図りながら新しい金融展開を遂げていく。こうした動きは、いずれもマネーサプライの減少要因である。また、このようになってくれば、企業や個人も、従来のように単に預金というかたちで資産を持ち続ける状態から、多少リスク性をはらみながらも、様々な利回りを狙った多様な金融資産を持つような展開を始める可能性がある。

こうしたことは、狭い意味で定義したマネーサプライの伸びという点では逆に働く要因である。しかし、これは日本経済の将来につながる姿であり、こうした良い意味でのマネーサプライあるいは金融機関のバランスシートの収縮という過程を通り抜けながら、最後にネットでマネーサプライが増える姿に持っていくことができれば、我々の進めている金融緩和政策は段々と成功の過程に入っていくということだ。まだ、この難しい過程を暫く経なければならないが、その間に、マネーサプライだけが、非常に短期的な金融政策のターゲットであるかの如きの考え方を採用することはできない。もしそういう考え方が一般化すれば、金融政策に対する正しい理解が、この日本の世の中から欠落するというリスクもある。ここら辺のプロセスについては、正しく──と言うかより正確に──理解して頂きたいと思っている点である。

【問】

そうすると、政府側からの「マネーサプライを伸ばせ」、「マネタリーベース伸び率が縮小している」といった声は、今日の金融政策変更とは関係ないということか。

【答】

政府の多くの方がそのように言っておられるというふうに私どもは思っていない。政府の一部の方、学者の一部の方は、あるいはそのように言っておられるのかもしれないが、私どもの説明が分からないとか、それは間違っているという反論は一度も聞いたことがない。我々としては、冒頭に申し上げた通り、デフレ脱却への強い決意をベースにして、さらに今後とも知恵を出しながら金融緩和政策の効果がより多く上がるように努力していきたい。この一念から出たものである。

【問】

昨年10月に政策を変更した時に、金融調節の機動性を高めるという狙いから、目標を27〜32兆円とし、平均的には30兆円近辺に誘導するという運用方針を決めた。そのような金融調節の機動性を高めるという姿勢は依然変わらないのかどうか。もし変わらないとすると、この新しい30〜35兆円の中間近辺に誘導していくという方針になっていくのか、その辺をご説明頂きたい。

【答】

新しい枠は先程申し上げた通り、下限が30兆円、上限が35兆円であるが、金融調節の実際の運営方針としては、そのほぼ中間の33兆円くらいを中心点として、引き続き機動的な金融調節をやっていきたい。つまり、上限との間にも、下限との間にも、通常余裕幅をもって運営していきたいという点に変わりはない。

昨年の10月以降の、上下に少し余裕をもたせながら機動的にオペをやっていくというやり方は、ようやく定着してきたように思う。我々のマーケット・オペレーションの部隊もこのやり方に相当慣れてきたし、マーケットのほうもかなり慣れてきた。マーケットの隅々までモニターしながら、本当に必要な資金需要はどれくらいの額か、そしてどれくらいの期間のお金が必要かということをきちんとリサーチしながら、時にはかなり思い切って長いお金を供給するとか、必ずしも資金をその日のうちに吸収しなくても良い、といったかたちで、幅をもった調節ができるようになったと思っている。

実際に、金融調節の日々のネットベースの残高に関するグラフをお作りになられると、10月以降、心電図のような絵の上下の振れ幅が非常に大きくなっていると思う。それに伴って、結果としては、市場の中のセンチメントとして、資金の充足感というものが一層満たされているようになっている。足利銀行のようなケースが起こっても、オペの対応が非常にやりやすくて、金融市場の不安感が静まるまでの時間的距離が非常に短くなっている。

年末・年始についても、金利の振れがほとんど出なかった。あるいは、どの金融機関を探ってみても、資金の取り入れに不安感を持つ向きはなかった。そういう状況で推移してきているので、当座預金残高の目標値引き上げ後も、引き続きオペレーションの部隊に腕を磨いてもらいたいと思っているところである。

【問】

企業と銀行がバランスシートの構造調整をしている中、銀行の外になかなかお金が出て行かないということで、マネーサプライが伸びないのだと思う。そうした状況の下、量的緩和を拡大し、銀行の構造調整をサポートすることにより、どのような具体的な効果を期待されているのか、教えて頂きたい。

【答】

まず抽象的なことから申し上げれば、金融緩和環境というものを万全な上にも万全な状況で用意して、企業・金融機関がリストラ努力をする場合の金融環境を最も恵まれた状態にし、それをキープしていくということだ。

金融緩和環境と抽象的に申し上げたが、より具体的に言えば、まず、短期金利が非常に低いところで安定し、かつできる限り期間の長い金利についても低位で安定するように──長短ともなるべく金利が低いところに安定的に抑制されているように──する。2番目には、金融市場に様々なニュースとか、場合によってはショックが持ち込まれてきた場合にも、金融市場で不安感が増幅されて、人々がリストラや前向きな努力に対して素直な気持ちでこれに取り組めない──心配が先行する──というような状況をなくすということだ。

今までも、量的緩和を進める過程で、オペレーション上の工夫等も含めて、我々は金利に頼らずに量に頼る金融緩和手法についてそれなりに腕を磨いてきたつもりだし、市場との対話のやり方についても──十分ではないかもしれないが──成果が上がるように努力を積んできているつもりである。そうした努力、あるいは幾ばくかの蓄積した自信の上に、今回さらに追加緩和を施すことによって、景気回復の芽を本物にしなければいけない、これからの一番大事な時期──日本の全ての企業・金融機関が同じように意識しているこの大事なタイミング──に、我々もしっかりとした金融緩和の環境をより明確に整えたいということだ。我々は従来よりもさらに完ぺきなものにしていく自信があるということである。

【問】

本日の金融政策決定会合の当座預金残高目標の引き上げについて、標準シナリオに沿った動きであるにも拘わらず、今回追加緩和を採られた。先程のお話からすれば、デフレ脱却に目途がつくところまでいっておらず、まだ不透明であるということが一番の理由であるかと思う。そうであるならば、デフレ脱却の目途がつくまでは、当預残高目標を例えば50兆円、100兆円までどんどん増やしていくという考えはあるのかどうか。また、もともとこの標準シナリオを発表したのは10月末であったが、今日、追加緩和をやるのであれば、標準シナリオを出した段階で、既にデフレ脱却はまだ展望できていなかったわけであるので、なぜその時に追加緩和に踏み切らなかったのか。金融緩和というものはいつも遅い、もっとやるべきではないかという批判というものは常にあると思うが、そのような批判に対してどのように答えるのか。最後に、今日反対されたのは何人か、その反対理由も含めてお答え頂きたい。

【答】

まず、2番目の点から答えさせて頂きたい。経済は生き物である。今日、このような政策措置を採っても──あるいは10月の時点で我々が描いた標準シナリオでも──、明日以降の経済がどうなるかということは、経済が死に体でない限り──経済モデルの中に計数的に織り込まれて、算術的に計算できるような経済でない限り──、基本的には誰にも予測不可能である。これが本当に生きた経済である。

従って、私どもは、前回標準シナリオを描いて、もうその瞬間からその後の経済・金融の姿を克明にフォローしてきているわけである。そして、毎月政策決定会合でそれを吟味している。今日の政策決定会合で吟味した結果、幸いにも標準シナリオから下振れるという動きはない。標準シナリオ通りに動いているということは極めて歓迎すべきことである。このままじっと見ているという考え方も1つあり得るわけである。

そこで第1番目のご質問の点になるが、標準シナリオとは何かということであるが、デフレ脱却が予見し得る──将来必ず実現できる──という標準シナリオに残念ながらなっていないわけである。

ということは、私どもは、消費者物価の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで、現在の緩和の枠組みを基本的に維持すると申し上げてきているが、インフレ率が安定的にゼロ以上ということは、よく考えてみると、将来より望ましい均衡の取れた経済の姿ということとの想定で言えば、ひとつの通過点であるかもしれない。その通過点に向かって経済が確実に動いているという確信をもてるようなシナリオよりも、もう少しモデスト(緩やか)な標準シナリオ通り動いているということである。

しかし、標準シナリオの通り動いており──海外の要因等は、この標準シナリオよりも少し上振れの方向に行くかもしれないという良い動きすら見えているということであるから──、こうした中で、民間の努力がさらに強まっていくということは間違いないので、それをサポートする政策というものは、ある効果をしっかり持っていくだろうという判断に至ったということである。これは、10月にはできなかったということである。

従って、将来をある程度先読みしながら、今日、判断した。後から振り返ってしまったと思って、今日、情勢判断をし、追加的に措置を採ったという点は微塵もない。

最後に、第3の質問の今日の評決がどうであったかであるが、7対2である。2票の方は、「標準シナリオ通り動いているのであるから、なお暫くみる余地はあるのではないか」──これも非常にもっともな見解だと思うが──との見解であった。この見解と「やはり先を読んでもう一歩出よう」という見解との間で、票が分かれた。政策委員会の姿としては、ごく自然な姿として票が割れたと私は思っている。

【問】

標準シナリオの見直しや検討については──3か月毎が目安とはいえ──おそらく毎回の会合でされているのだと思うが、これまでは毎回標準シナリオ通りであったので、金融政策について現状維持としたのか、もしくはそうではないのか。今回、あえてこのタイミングで緩和を進めたことには何か別にきっかけがあったのか否か、伺いたい。

【答】

最大のきっかけは、はじめて中間評価の時期を迎えたということだと思う。昨年10月に、中間評価を行うという前提付きで、より透明性の高いかたちで標準シナリオを発表し、その最初の評価を行ったということがある。それから、経済そのものが、昨年10月と今とでは、世界経済も日本経済もリズムが違ってきている。その違ったリズムをどのように捉えながら、今後の経済をさらに望ましいかたちにしていくかということを考えた時に、1つの重要な判断の時期にきているということで、政策委員会のうちマジョリティー(多数)の方々は意見が一致したということだと思う。それ以上でもなければ、それ以下でもない。

今後とも、政策決定会合の都度、毎回同様な点検作業を繰り返していくが、標準シナリオと対比して、どちらに振れているかということを、毎月判定できるかといえば、この前にもお話した通り、それはデータの蓄積なども毎月の場合と3か月の場合とでは随分違うものなので、厳密にできるかどうかは分からない。意識としては常にそう意識しながら、情勢判断を繰り返していくということになると思う。また、どういう政策をとるかということについては、既往の政策の効果の出方も考慮しながら考えていかなければならないので、何かゲームのように、標準シナリオからずれたら必ず政策を打つとか、機械的なかたちで金融政策をやるつもりは全くない。あくまで、判断に忠実にやっていくということである。

【問】

東京都は、今度の予算に1,000億円を計上して、新銀行を具体的に立ち上げようとしている。聞くところによると、日銀からも役員が入ると伺っている。新銀行に対して、日銀はどのようなスタンスで臨まれるのか伺いたい。一般的には、民業圧迫とか行政の守備範囲とか様々な問題がありうると思うが、総合的判断から石原知事が都という機関を使って2兆円規模の銀行を作るということをどのようにお考えか伺いたい。

【答】

東京都の銀行と言って良いのかわからないが、今お話された銀行の構想については、まだ具体的にどういうビジネスモデルの銀行として出発するのか、十分に私どもはつかんでいないところもある。実際にどのようなビジネスモデルをもって、市場の中でどのような行動をしながら、銀行としての活動実績をあげていこうとしているのか、私どもも、もう少し理解を深めてから具体的なコメントをしていきたいと思う。

いずれにせよ、日本の金融資本市場は、これから新しい発想をどんどん注入しながら発展していく必要がある。企業のほうでも、新しいリスクに挑戦しながら、今までにないようなビジネス展開を図っていく先が増えていかなければならないし、また増えていくのだと思う。新銀行がこうしたニーズにも応えていくためには、それにふさわしいビジネスモデルを、新しい銀行の経営者がどういう発想で組み立てていかれるかということが大事である。私どもがどう評価するというよりは、市場そのものがその銀行をどう評価するかということを、私どもは拝見していきたいし、市場の中で重要な機能を発揮していく銀行であれば、当然、私どもは暖かく見守っていこうと思う。日本銀行が、役員を派遣するということはないと思う。

【問】

その件については、東京都のほうから、日銀から人が来ると伺っている。それから、市場が判断するとのお話だが、本件は当局が市場に参入していく── 1,500億円の資本規模のうち、1,000億円を都が注入すると言っている──ことになり、そのスキームは既にパンフレット等でも明らかにされている。一方では、郵政民営化が叫ばれているときに、東京都という巨大な自治体が銀行業に参入していくことについて、日銀はどのようにお考えか改めて伺いたい。

【答】

先程お話したことに尽きているが、市場メカニズムを阻害する存在としてではなく、仮に東京都出資の銀行であっても、市場メカニズムをより広げ、活用する方向での活動が、ビジネスモデルにきちんとビルトインされているということが前提条件である。この銀行を認可するか否かは、私どもの権限ではないが、認可された場合には、私どもが望む姿はそういうものである。日本銀行からの人の派遣云々ということについては、誰か日本銀行を辞めた方がリクルートされたかということならば、ありうると思うが、日本銀行から誰か人を派遣したということはないと思う。

【問】

標準シナリオについてもう一度お伺いしたい。現状では、経済は標準シナリオ通りに動いていると判断されており、長・短期金利についても、——先程、万全を期したいと指摘されたが——現状をみれば安定している。また、市場にショックが持ち込まれた時もあったが——金融機関の破綻があったけれども——、特融も出さずに今のところ落ち着いて動いている。今回は、事実上、景気回復局面での金融緩和ということになると思うが、デフレ脱却シナリオというものがあって、それを基に判断するということになれば、マーケットからは非常に読み難い、透明性に欠けるような金融政策と受け取られないか。

【答】

そのリスクは全くないと思う。デフレ脱却後の正常な経済の回転の中で——好況・不況の波の中で——動いている場合に、景気回復が進んでいる時には追加緩和はあり得ないということと、構造改革の推進を伴いながらデフレ脱却のプロセスを歩んでいる現在の状況とでは、前提条件が全く違うということだと思う。従って、我々は標準シナリオ通りに動いていても——あるいは標準シナリオから上振れる条件が幾らかあるにしても——必要に応じて追加緩和はあり得るということは、前から申し上げている。その通りのことを今回判断したということである。

量的緩和の場合には、金利が生きている時の経済とは違って、金融市場における金利の動きというものを、緩和効果である程度封じ込めているというところもある。従って、追加緩和の有無を読めないというのは当然のことであり、ここを読めるように機械的にやっていくということはほとんど不可能なことだと思う。我々も金融政策決定会合に臨んであらゆる材料を点検し、ディスカッションをして始めて結論の出る話である。

【問】

為替について伺いたい。「金融・為替市場の動向には注意を要する」というご見解だと思うが、現行の為替水準は、輸出を起点に好循環を生み出している我が国の景気の腰折れなどにつながる水準なのか。あるいは、そういう懸念を今の為替市場から多少なりとも受けておられるのか。また、欧州の通貨当局からユーロ高の是正を求める発言が相次いで出ているが、この辺りは2月のG7でどのように取り上げられていくことになるのか、見通しをご説明頂きたい。

【答】

これは非常に複雑な観測が必要だと思う。円高が日本経済に直接的なダメージを与えるという一昔前のストーリーだけではないと思う。今、多くの人が指摘しているように、米国の双子の赤字がベースとなったドル安——従ってユーロ高・円高——という作用が働いているわけであるが、経済全体のグローバル化が非常に進んで、実体経済でも相当程度、同時的な動きを示すようになっている。世界景気の回復が、直ちに日本の景気回復につながるわけではないが、良い影響を受けている。欧州も、少し遅れているとは言え良い影響を受けて動いているし、中国経済も例外ではない。実体経済だけでなく、株価や長期金利の動きを見ても、かなりシンクロナイゼーションの動き(同時的な動き)が出ている。

世界経済が回復局面に入り、どこの国の経済を見ても多かれ少なかれ良い方向に動いている時に、為替市場は、その中でもあえてどこかに不均衡がないかという目で見て、その不均衡を従来以上に強くえぐり出す傾向がある。これはグローバリゼーションの1つの特徴だと私は思っている。従って、こうした為替相場の動きが、何がしか好ましからざる影響をどこかにフィードバックするとすれば、円高が日本経済に直ちにダメージを与えるという狭い範囲の中だけで捉えるのではなく、グローバルエコノミー——世界的な資本の流れ——というようなものにどういう影響を与え、資本市場等を通じて各国経済にどういう影響を及ぼすかという広い分析と把握がまず大きな背景として必要である。そういう意味で、私どもは今後ともかなり幅広く奥深い分析を加えながら、この問題は追跡していきたいと思っている。

今回の金融経済月報(基本的見解)の表現も、海外経済は少し良い方向に動いておりリスクファクターが薄れているという表現と比べて、「金融・為替市場の動きとその影響には注意が必要である」ともう少し抽象的な表現にしているのも、この問題の難しさがあるからである。ただし、日本国内での円の動きだけを見ていると、心理的にこれを心配の要因として捉える傾向が強い雰囲気があるので、その面についても我々は十分注意をしていくということである。

【問】

グローバルエコノミーの中ではその影響も良いところだけ、悪いところだけではないということが非常に良く分かるが、G7に臨むにあたっての政府・日本銀行としての為替問題に関する方針はどうお考えか。

【答】

まだG7までには時間がある。また、私は海外の政策当局者とも不断に会話しているので、何か急に違った会議に出席して新しい議論をするという雰囲気はない。自分なりに分析を進めながら——彼らも一生懸命勉強しているので——勉強の成果を持ち寄り、シンクロナイズして(同時的に)良い方向に向かっている経済をいかに上手に維持していくか——政策当局者の間で等しく、為替市場の心配がこれ以上募らないようなものの考え方とか政策対応というものを、短期だけではなく長期的にもシェアできる範囲をいかに広くするか——という点が重要だろうと思っている。

グローバル経済という非常に大きな、しかも長生きしてもらわなければならない経済なので、一晩の手術で為替市場の空気が一変するというような幻想を人々が抱かないようなものの考え方が出せるかどうか、という点は知恵の勝負だと思っている。

【問】

今回の政策変更の1つの意味は、経済が標準シナリオ通りに動いていてもそれだけで日銀としては満足することなく、デフレ脱却に向けて動くことを示すということがあったかと思う。そうだとすれば、蓋然性が高いと政策委員がみなす1つの見通しに過ぎない標準シナリオではなく、日銀として望ましいと考える1つの理想のシナリオを示され、それとの対比で足許の経済を分析されて、政策の背景を説明されたほうが普通の人々にはわかりやすい気がする。そういった手法をとられるお考えはないのか。

【答】

問題の難しさから言って、そういうことをやるとおそらく瞬間的に「なぜ絵にかいた餅をかくのか」と言われかねないなと率直に思う。やはり問題の根深さからいって、我々は着実に消費者物価上昇率が安定的にゼロ%以上になるという最低限の目標の到達にこぎつけるため──しかも、数字の上で見ればゼロ・コンマいくつかの数字──にいかに苦しんでいるかということである。この苦しみを乗り越えるために絵にかいた餅を描いて、人々に必要以上の安心感を持って頂くというつもりは私にはない。我々以上に民間経済で努力しておられる方々は日々苦闘しておられる方々ばかりである。そういうふうに苦しんでおられる方々にあまり気楽なシナリオは示したくないというのが率直な気持ちである。

【問】

デフレ脱却する本来望ましいシナリオというものがあるはずであるが、それに向けてそういう姿を描かずに、政策委員の蓋然性の高いというシナリオに沿って政策をしているというのが現状だと思う。さらに、日銀が望ましいシナリオを示していないということは、望ましいシナリオに向けて日銀が必要な政策を採っていない、採ることができないということの現れではないかと思う。望ましいシナリオに向けて日銀がやるべきこと──できること──があるのであれば日銀はもっとやるべきではないかと思うが、例えば、当座預金目標を引き上げることに何らかの効果があるのであれば、35兆円に引き上げるのではなく、なぜ50兆円なり100兆円なりもっと速いペースで引き上げようとしないのか。

【答】

経済をマネージしていくのにコンピューター・ゲームのように操らない、ということに尽きると思う。あくまで着実に、どんなに苦しくとも、「消費者物価上昇率が安定的にゼロ%以上」という目標をもっとも早く確実に達成するために100%以上の汗をかき続けるというシナリオを崩す考えはない。

【問】

量的金融緩和を始めて3年近くなるが、その過程でいろいろな議論があった。まず、景気回復へのトランスミッション・メカニズムは明確に確認されていないが、金融システム対策としては効果を発揮したという議論が審議委員の中からあった。その後に、議事要旨などにも、「日銀がブローカー機能を果たすようになった」というふうにも言われた。今回、総裁はお話の中で、市場の隅々をくまなく見て、必要な資金を供給するとおっしゃっていたが、これは日銀のブローカー機能をさらに強化する、もしくはブローカーとして完ぺきな存在となるという理解で良いのか。

【答】

「ブローカー機能」という言い方は、表現として本当に適切かどうか私は自信が持てないので、その言葉を使ってお答えすることはできないと思う。おっしゃるように本来の市場の中で、市場の自律的な作用による資金配分機能が万全でない部分を日本銀行は補いながらやっていくということを申し上げているのであって、市場の方々から無理に商売を取り上げて、「我々がブローカー機能をやるのだ」という表現をしてしまうとそれは少しオーバーだと思う。我々はあくまで最終的に短期金融市場、あるいはさらにその外側にある各種の金融資本市場の機能をきちんと生き返らせる。そこまで持っていかないと我々の政策の目的は達成されないので、その過程において市場機能が不足している部分は徹底的に補いたいと思っているが、「とりあえず市場は退いておいて下さい、我々がすべてやる」という発想とは随分距離感があるのではないかと思う。従って、お言葉はお返ししないが、我々はブローカー機能を代わりにやるというような大それた考えを持っているわけではない。

【問】

市場の機能低下を補っていくというお話であるが、そういうかたちで日銀のプレゼンスというのは大きくなっていると思う。今後市場の機能が円滑な状況に戻ることにマイナスになるとの不安はないのか。あるいは不安があったとしてもそんなことを今言っている場合ではないのか、その辺のお考えをお伺いしたい。

【答】

当面、市場機能が十分でないという認識の下でこの政策を続けている。いずれ市場機能を復活させなければならない。今のような量的緩和を長く続ければ続けるほど、市場機能の復活という段階でさらに苦労が伴うということは明らかだと思う。それは覚悟の上でやっていかざるを得ない。そのことが心配だから今手を止めろという意見はおそらくないのではないかと思っている。

【問】

量的緩和政策については、日銀幹部の方をはじめとして、「金融システムの安定については効果があった。しかし、ポートフォリオ・リバランスは上手く起きないし、デフレ対策にはならなかった」という趣旨の説明を受けてきた。今回、デフレ脱却に向けて当座預金残高目標を引き上げるということについて、どのように理解すれば良いのか。

【答】

市場に金融不安心理がある時に、流動性を十分供給していれば、金融システム不安を鎮める直接的な効果が目に見えてあるということは過去何回か経験しており、明らかである。その他に、先程から繰り返し申し上げているが、企業・金融機関がリストラ努力や経営健全化努力をしていく時に、資金コストを低いところに下げ、アベイラビリティー・リスクがないようにしていくことで、リストラ作業を早く進め、次の行動段階に早く移れるようにしている。

現に、金融機関も前向きの融資姿勢に段々入りつつあるわけだし、企業のほうでもリストラが進行した先から順次強い設備投資姿勢が出てきているので、最初に実体経済を下支えする力をかなり持っていた。実際、あれだけの経済情勢の下で、戦前の恐慌期のように経済がデフレ・スパイラルに陥らなかったということだけを捉えても、経済を支える力は非常に大きかったと思う。従って、経済がこれから立ち上がっていくときに、下支えの力がより前向きに働いていく可能性が強いと私は思っている。もちろん、金融政策だけで全てやり遂げられるような仕事ではない。民間の努力、そして政府による構造改革政策の努力を、手綱を緩めることなく続けてほしいと思っている。こうしたことを前提として言えば、引き続き量的緩和政策というものは、金融システムの面だけではなくて、実体経済をサポートしていく力も相応に発揮していくのではないかと考えている。

【問】

デフレ対策として一定の効果はあるということか。

【答】

おっしゃる通りである。

以上