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須田審議委員記者会見要旨(4月21日)

平成16年4月21日・沖縄県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2004年4月22日
日本銀行

―平成16年4月21日(水)
午後1時30分から約30分間
於:沖縄ハーバービューホテル

【問】

本日の金融経済懇談会において、当地の経済についてどのような話や意見があったのか、お伺いしたい。

【答】

本日の金融経済懇談会については、沖縄県の各界を代表する方々にご多忙の中をお集まり頂いたうえ、大変有意義なお話をお伺いすることができ有り難く、かつ光栄に思う。

本日の懇談会の席上では、沖縄のリーディング産業である観光が非常に好調である一方、この好調さをどのように持続させていくかという悩みをお聞かせ頂いた。例えば、観光客の殆どが国内からであり、今後どのようにして海外から観光客を呼び込むか、等についてである。

また、当地を含め全国において「緩やかな景気回復」とはいえ実感が伴っていないが、市場の判断と日本銀行の判断にギャップが生じないようにし、また景気回復が確認できるまでは量的緩和政策を続けて欲しい、といった要望があった。

さらに、「金融特区」については、アイディアはあるものの、推進母体を明確にして取り組む必要があるとの意見や要望が出された。そのような状況の中で、自分としては特区構想をもっと推進してもらいたいと感じたところである。

このような意見を受けて個人的に感じたことを述べると、観光については、私自身も抱いている沖縄の「健康で幸せなイメージ」を大切にして、海外客やシニア層を取り込めるよう、より魅力ある地域づくりにさらに取り組んで頂きたいと思っている。

また、金融政策については、挨拶要旨でも述べた通り、足許の金融経済情勢では、量的緩和政策の解除の条件が揃うような状況は予見できていない。今後とも、金融経済情勢の分析や日本銀行の行動について、誤解を生まないような情報発信を心がけ、景気回復の芽を摘まないために低金利政策を粘り強く続けていくことが必要だと考えている。

最後に、「金融特区」についてであるが、望ましい地域活性化策の中で、金融サービス業がどのような役割を担っていくのかという点をきちんと認識をして、その上で「特区」の活用を含めた様々なアイディアを一つ一つ着実に具体化していくことが重要だと感じた次第である。また、このような点について沖縄県全体で取り組み、成果をあげられることを熱望している。

【問】

「金融特区」に関して、2月に当地で開催された「沖縄金融専門家会議」において、福井総裁がTV会議を通じメッセージを寄せられ、その中で「日銀としても支援できるところは支援していきたい」との発言があったが、須田審議委員としての「金融特区」の活性化に向けた具体的な意見や見解をお伺いしたい。

【答】

現在、「金融特区」の活性化に向けた具体的なアイディアを個人的には持ち合わせているわけではないが、日本銀行ができることというのは「知恵を出すことだ」と考えている。また、「特区」に関しては、先程も申し上げたように「誰が責任者で、誰が推進していくのか」という点をきちんと決めていかないと、物事が上手く前に進まないと考えており、そのような仕組みを整えることで、初めて問題点や改善点等について議論をすることができると思っている。

個人的には、景気を少しでも回復させるには規制緩和が重要で、そういう意味では「特区」という舞台を有効に活用しない手はないと考えている。そのためにもまず、誰がリーダーとなって推進していくのか、という点が重要ではないかと思っている。

【問】

沖縄の地域金融機関の動向について、何か認識や見解があるかのかお伺いしたい。

【答】

個別金融機関についてのコメントは差し控えさせて頂きたい。ただ、当地に出向くに当たり、特別気にしなければならないような話はなかったとだけ申し上げる。

【問】

沖縄県内における企業の殆どは中小企業が占めており、さらに中小企業の過半は零細の建設業者である。そのため、現在、政府が推し進めている「三位一体改革」の影響により公共事業が先細りにある中で、県内に5千社あると言われる建設業界の再編を含めた取組みの重要性に関して様々な方が指摘しておられるが、この点について何かご見解をお持ちであるかお伺いしたい。

【答】

この問題については、先程の金融経済懇談会の席上でも意見が出されたが、政府が財政再建に注力している中で公共投資を減らすことは、これまで公共投資を通じて所得が再分配されていたものが抜けつつあるということであり、地方経済にしわ寄せが出て大変だという認識は持っている。

このような状況の中で、再編への動きがあることは望ましいのではないかと考えている。また、そもそも建設業界というものは、決して規模が大きければ良いというものではなく、小さくても存在し得るものであると思っている。このため、零細業者であっても収益が上がる体質の構築を心掛けていく必要がある。一方では再編の方向に進み、もう一方では小さくても生き残れるという形を求めていければ良いと考えている。今後の経済情勢がどのような形になるかによって変化するものではあるが、建設業界における再編の動きに関しては前向きに捉えていけば良いのではないかと考えている。

【問】

金融経済懇談会における挨拶要旨の中で須田審議委員は、「景気回復の芽を摘まないためには、低金利政策を粘り強く続けていくことが必要なことは言うまでもないが、実体経済の回復度合いに見合った僅かな金利や資金需給を映じた僅かな金利の変動を現時点でも容認することが必要なのではないか」と述べておられるが、量的緩和政策が導入された当初はそうした狙い、思想があったと思われる。しかしながら、現実には数か月までのターム物金利は殆どゼロに近い水準で、押し潰されている状況にあり、市場機能の低下ということで須田審議委員も副作用として指摘されているところである。ただ、僅かな金利変動を容認するということは、これほど日銀当座預金残高という「量」が積み上がっている中では、非常に限界的なものに止まると思われる。金利機能をある程度復活させるには、一つの方法として、30兆円~35兆円に積み上がった「量」を減らしていくこともあり得るのではないかと思われるが、この点についての須田審議委員の考えをお伺いしたい。

また、もともと、量的緩和政策は「金利」ではなく「量」をターゲットにするのが目的であって、「量」を減らすことは必ずしも量的緩和政策の解除に結び付かないと思われる。量的緩和政策の枠組みの中で「量」を減らしていくことについて、どのようにお考えかについてもお聞きしたい。なお、昨年10月に日銀当座預金残高のレンジを27兆円~32兆円とした際に、会見で福井総裁は「27兆円以下に引き下げることは当面はないのではないか」という趣旨のことを言っていたと記憶しているが、日経の「経済教室」への寄稿で須田審議委員は、「『量』の効果はそんなにないのではないか」と指摘されており、であるとすれば「量」を減らしても悪影響はないのではないかと考えられる。金利機能を重視するのであれば、「量」を引き下げることもあり得ると思われるし、須田審議委員が「量」の引き下げを金融政策決定会合の場で提案しても何らおかしなことではないと思われるが、その点について如何かお伺いしたい。

【答】

私が「金利機能を復活させることが必要」と申し上げたのは、2001年3月19日の量的緩和政策への移行は、「ゼロ金利」ではなく「量」をターゲットにするということで、信用コスト等に見合った金利が付く状況もあり得るのではないかとされていたが、そういう状態に戻っていけば良いと思ったためである。一方、なぜこれまで「金利機能を復活させることが必要」と発言してこなかったかといえば、金融システム不安がある中で金利機能を復活させることは、金融システム不安に拍車をかけることになりかねないと判断し、その限りにおいては、なるべく金利を低くする方が政策効果は大きいと考えたためである。しかし、金融システム不安が遠退いていく過程では、もともとあった量的緩和政策移行時の考え方に戻っていくことが望ましいと考えている。一方、30兆円~35兆円もの当座預金残高を積んでいたのでは、どのようにやっても金利が付かないという意見があるのも承知している。ただ、このような状況の中でも、ターム物に少しずつでも金利が付けば金融機関はそこに資金を振り向けようとする動きがみられ始めると思われる。私としては、大量の当座預金をそのまま置いておくのではなく、個々の金融機関がそこから動かそうとする状況になることが大事だと思っている。量的緩和政策により大量の当座預金残高が積み上がっている中にあって、金利機能復活の芽を潰さない、換言すれば、ほんの僅かでも金利が付く状況を潰さずに、これを出発点にしていければと考えており、そう申し上げた次第である。

次に、「『量』の引き下げを提案しないのか」との質問についてであるが、私は1月20日の金融政策決定会合において、当座預金残高目標の引上げに反対票を投じた。これは、(1)景気は標準シナリオの概ね範囲内であるが上振れていること、(2)短期金融市場が安定していること、(3)金融システム不安がかなり後退していること、(4)金融市場調節上のテクニカルな問題がないこと、等から、追加的な金融緩和は効果よりも副作用が大きいとの理由で反対したわけである。ただ、政策決定会合で一度決定した当座預金残高目標を引き下げるとなれば、「量」と「緩和」を世の中が結び付けている状況の中で、「量」を引き下げることは量的緩和政策の解除、あるいは引き締め政策への転換との思惑を呼ぶ可能性がある。足許の金融市場動向をみる限り、単にターゲットを引き下げるということ以上のコストがかかると思われるため、当面は現状維持をサポートしていきたいと思っている。

【問】

実体経済に景気回復の動きが広がる中で、株価上昇に連れて長期金利が上昇する場面も徐々にみられ始めているが、実体経済と比べ長期金利はどのように動いていくか、また、実体経済の動きに沿っていれば、長期金利の上昇は容認できるのかお聞きしたい。

【答】

金利については、景気動向等を踏まえ、市場参加者の取引において形成されるものであるため、私が具体的な金利について言及することは適当でないと考えている。もちろん、急激な金利変動や現実の景気動向等からかけ離れた金利水準となることが好ましくないことは明らかである。いずれにしても、市場動向には注視していきたいと思っている。

【問】

挨拶要旨の中に「実体経済の回復度合いに見合った僅かな金利や資金需給を映じた僅かな金利の変動を現時点でも容認することが必要なのではないか」とあるが、「僅かな金利」とはどの程度のものか。

【答】

具体的な数値を私からコメントすることは差し控えさせて頂きたい。ただ、私としては、手数料を賄えないような金利水準よりはもう少し金利が付いていた方が良いと考えている。つまり、当座預金から動かすインセンティブ、要するに当座預金残高として置いておく方が、金融市場に資金を出すよりも諸コスト等をネットアウトしたら収益が上がるような水準ではなく、当座預金から他の運用に振り向けた方が、収益が上がるという程度の金利というイメージしか持っていない。

【問】

最近、他の審議委員の方から量的緩和政策の解除について、「日銀が望ましい物価水準を示した方が良いのではないか」との意見が聞かれ、望ましい物価水準として「1%から2%」との数字が挙げられている。また一部の委員に、CPIが「0%以上になるまで」としている時間軸を、「1%以上になるまで量的緩和を続けるべき」として、コミットメント自体を変更した方が良いのではとの意見があるが、須田審議委員はこれら2つの意見についてどのようなスタンスにあるのか。また、その理由をお聞かせいただきたい。

【答】

私は、コミットメント自体を変更する必要はなく、今の条件、すなわちCPIが「0%以上になるまで」で良いと思っている。量的緩和政策の解除については、必要条件と十分条件ということがよく言われるが、私としては、物価上昇が景気の拡大を伴ったものであるか否かを判断すべきと考えており、物価の条件が満たされたからといって必ずしも解除するとは限らないと捉えている。

「望ましい物価水準」については、現在、正常な状態にない金融・経済が正常に戻った時に、それは一つの選択肢になると思っている。ただ、イングランド銀行等では資産価格の高騰とインフレターゲッティングの間にかなり難しい問題を抱えている。また、物価にあまりにもコミットメントしすぎると、実体経済のところが疎かになりがちであるということも踏まえたうえで、望ましい物価水準については、これまでの経験を踏まえつつ、金融・経済が正常な状態になってからその採用を考えた方が良いかどうかについて考えれば良いと思っている。

以上