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総裁記者会見要旨(5月20日)

2004年5月21日
日本銀行

―平成16年5月20日(木)
午後3時半から約30分

【問】

本日の政策決定会合の結果と、「金融経済月報・基本的見解」について総裁からご説明頂きたい。

【答】

本日、ご報告申し上げることは極めて簡潔である。現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、引き続き、消費者物価に基づく明確な約束に従って、量的緩和政策をしっかり継続していく方針である。

背景となる経済・物価情勢については、既に「金融経済月報・基本的見解」で皆様方に公表しており、お読み頂いたかと思う。先般お示しした「展望レポート」の情勢判断に沿った見解を、今回の政策決定会合においても確認した。景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増しているというのが基本的判断である。引き続き「前向きの循環」が働いている。先行きについても、この前向きの循環が次第に強まっていくとみられる中で、景気は当面緩やかな回復を続けるだろうという見通しに立っている。

先般の1—3月期のGDP統計の発表で、2004年度の経済の発射台を高くしたという感じを持っているが、現時点での私どもの2004年度全体を見渡す展望は、前回の「展望レポート」の通りである。内容的にも、先般のGDP統計で個人消費が我々の事前の予想よりは少し強く出ている印象があるが、今後、生産活動や企業収益からの好影響が雇用・所得面へ徐々に及んでいくという裏打ちを伴いながら、さらに個人消費がしっかりしていくということを期待しているし、おそらくそうなるであろうと考えている。

物価面では、本日改めて特別なことを申し上げる材料を持ち合わせてはいない。国内企業物価については、川上段階の商品市況の動き等が波及してきており、上昇傾向がさらに明確化してきている。先行きも当面上昇を続けるとみられる。

一方、消費者物価は、そのベースにある需給ギャップは着実に縮まってきていると判断しているが、消費者物価指数そのものの前年比変化率という点では、なお当面、ゼロ近傍ではあるが、若干のマイナス幅をもって推移するという見通しを変えていない。

日本も含め、世界経済全体として、拡大シナリオがより明確化してきている。連れて、物価全般の大きな流れも少しずつ変化してきている中で、金融資本市場がこれに適応しようという動きがいろいろなかたちで出てきている。目下のところどの指標をみても、格別ディスオーダリー(無秩序)な状況になっている感じはないと思っている。株式市場の面で、多少調整が強く出てきており、日本だけではなくて、世界的にそのような動きが出ているが、全体として今までのところは、大きな混乱はなく調整が始まっていると思っている。

日本経済について言えば、これから持続的な回復パスにより確かにつないでいき、デフレ脱却のパスをより明確化していく、非常に重要な時期であるので、こうした金融資本市場の動きについては、我々としては、注意深くみていきたいと思っている。

【問】

原油価格が湾岸危機以来の水準を付ける一方で、市場には米中の金融引き締め観測が広がっており、世界的な過剰流動性の修正が近いという予想が出ている。こうした原油価格の動き、マーケットのセンチメントが、当面の日本経済にどのような影響を与えていくとお考えか。

【答】

本日の「金融経済月報・基本的見解」の中でも、物価に絡んで原油価格の上昇について短い文を入れている。原油価格の今後の動向およびその影響については、非常に慎重にみていきたい重要な項目の1つである。

諸々の動きをみていると、今、ご指摘の通り、物価の方向性が少しずつ変わっていく中で、金融政策の今後の方向性についても、市場がいろいろ織り込み始めている。例えば、米国の金融政策についても、米国の連銀そのものはまだ1つも具体的なステップは踏んでいないが、市場はある意味で先取りするかたちで織り込みを始めているという段階にある。それが、債券市場や為替あるいは株価等にいろいろな影響を及ぼしている。

原油以外の一般的な国際商品市況については、ある程度影響が出始めており、従来のように一本調子で右上がりにいくというよりは、少しブレーキがかかるような感じが出ていると思う。ただ、原油市況については、経済的・市場的要因で理解し尽くせる以外に地政学的リスクの影響や、それ以外の要因がより強く影響して原油価格というものを決定付ける側面もある。そのような原油の価格が今後どうなるかという点について、予断を持たずにきちんとフォローしていく必要がある。

また、その影響ということになると、価格面、実体経済面、両面に時として非常に強い影響がある。特に、日本経済の場合には、エネルギーの海外依存度が非常に高い──8割方海外にエネルギーを依存しているし、中でも、油ということになると、中東の油に大きく依存しているという実情がある──という本質的な問題があり、そういう意味では、日本経済にとって基本的な脆弱性につながる部分を原油価格の動きというものが持っているので、通常の経済・市場の枠組みからの理解を越えて、より慎重にこれをみていかなければならないと思っている。

【問】

最近、審議委員が講演等でインフレ参照値についていろいろ意見を述べられるケースが相次いでいるが、インフレ参照値について、改めて総裁のご意見をお伺いしたい。

【答】

何人かの審議委員が、「インフレ参照値」というように具体的に銘打ってお話しをされているかどうかについては、私も正確にはわからない。しかし、少なくとも私が理解している限りは、審議委員の話しておられることは、ある意味で非常に時間的距離の長い、日本経済の均衡のとれた姿、その中における物価の姿ということをイメージしながら議論をしておられる。言ってみれば、お話しをする時の焦点のあて方というのは、そういうところにあるのではないかと私は理解している。

これをもっとずっと手前に引き寄せて、「インフレーション・ターゲッティングというものを、具体的に金融政策の組み立て方としてはどうか」というのが今のお尋ねだと思う。そういうお尋ねだとすれば、私どもは「消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまでは今の枠組み」とお約束している中で「消費者物価指数の前年比変化率がゼロ%以上」と言っているのは、ある意味で準インフレーション・ターゲッティング的な色彩を持っている。インフレーション・ターゲッティングそのものではないが、それに準ずるような性格も一面備えているというような意識を持っていて、その達成に全力を上げているという段階である。今それ以上のことを考える必要もないし、考えることはかえってプラスにならないと思う。

【問】

審議委員の間では、例えば、CPIが安定的にゼロに近づいた時、その間際にあたっては、ゼロ金利とインフレ参照値を組み合わせたらどうかといったアイデアも出ているかと思う。それは時間軸の強化という観点からも理解できるかと思うが、そのようなアイデアについてどのように思われるか。

【答】

政策委員会、あるいは政策委員のメンバーの間で相互に具体性を持った議論を交わしたことはまだ一度もない。今、お尋ねの点については、私も別の機会に何回か既に申し上げている通り、「消費者物価指数の前年比変化率がゼロ%」というところは1つの通過点である。そこから先の金融政策の方式については、いずれ将来、透明性のあるかたちでお示ししていく必要がある、というのが共通の認識である。しかし、その中身を具体的に詰めるとか、お示しするのは現時点ではあまりに早すぎるという状況である。

【問】

本日の決定会合の中で、望ましい物価の具体的な数値を提示するということに関して議論があったのか。その場合、具体的にどのようなやりとりがあったのか。

【答】

決定会合の中身は、少し期間をおいて議事要旨というかたちで公表する。それでご覧頂くのがルールになっているので、中身に踏み込んでどういう議論があったのかは、本日はコメントできない。

【問】

緩やかな景気回復が続いて──4月の展望レポートでも、政策委員の大勢見通しの中央値は、実質GDPで3.1%であったが──、昨年度同様、今年度も3%近い成長を達成するようなことになれば、潜在成長率を超える実質成長率が実現し、需給ギャップが縮小するかと思う。また、昨年度のCPIは-0.2%であったので、景気回復を前提にすると、今年度から来年度にかけてCPIがゼロ近傍に近づくことが見込めると思う。

昨年10月に発表されたCPIの3つのコミットメントをクリアしなければ量的緩和政策を変更しないということはわかるが、総裁が「CPIが安定的にゼロ%以上というのは1つの通過点」ということを強調されるのは、金融市場は先行きの景気や物価、将来の日銀の政策を見越して反応するわけで、そのような中において市場が不安定化する恐れがあるからなのか。「CPIゼロ%は通過点」ということの真意をもう少し伺いたい。

【答】

まずGDPの数字が予想より高めの数字が出たことは歓迎すべきことだと思っている。悪い数字が出るよりは良い数字が出たほうが良いに決まっているし、現実の経済見通しの上では、いわゆる「発射台」が高くなったということだ。しかし、この間出たのは2003年度の最終四半期、つまり1—3月の数字である。私どもは、この4—6月以降、来年3月に終わる2004年度の見通しを展望レポートでお示ししたわけだ。これは2004年度を通じてどれぐらいの勢いで経済の回復ないし拡大テンポが目の前に見えてくるかという見通しなので、ゲタも大事だが、今後の実際の推移──経済拡大ペースの高まり方──のほうがより重要だという認識に立っている。

いずれにしても、この前の展望レポートの示すところは、物価見通しで言えば、年度平均で見てまだ僅かなマイナスの変化率が残る──需給ギャップは着実に縮まる中で、平均で見てごく僅かなマイナスが残る──だろう、ということだ。「平均で見て」ということだから、本当に年度を通じて景気回復ペースが安定的に続く、あるいは尻上がりになるということであれば、年度後半に行くほどゼロとマイナスとの差はどんどん縮まっていくことは論理的に読めるだろうが、そこのところは全て今後の情勢次第であり、今の時点で明確な予想はできないと非常に正直に申し上げている。

今回、ゲタが上がったが、下がるよりは──悪いGDPが出るよりは──上がったほうが、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上に到達する蓋然性という点からいけば、より望ましい展望を持ちうる可能性がある。しかし、このゲタが高くなったということは、今後の経済のペースを保証するものではないので、そういう意味ではあの数字を見ても、私どもの消費者物価指数に対する展望については、比較的慎重な見方をいささかも崩していない。従って、何もひた隠しすることなく、正真正銘、現在の緩和の枠組みを続けるということである。何かを隠すためにそういうことを言っているということは一切ない。

【問】

総裁は、最近「CPIゼロ%は通過点」だと言われているが、これは市場が先行きの景気、物価、政策を織り込んで不安定化することを防ぐ目的で言われているのか。「CPIゼロ%は通過点」ということの真意をもう1度伺いたい。

【答】

私のほうは正直に申し上げている。多少私のほうから逆に疑っているのは、市場の皆様が、CPIがゼロになった途端に、何か日本銀行が態度を豹変させる、芝居で言えば、舞台ががらりと回って全然違った世界が展開するようなセリフで、いろいろと市場条件を探り合うということがもしかして行われる可能性があるのかな、と思うものだから──市場はそのように想像しておられないと思うし、私の疑いが間違っていればそれは全く良いわけで、むしろ良いケースなのだが──、そういう心配はないのではないかと素直に申し上げている。

つまり、経済というものは、消費者物価指数の前年比変化率がゼロの時点でそんなに屈折するものではない。やはり経済は悪い状況から良い状況へ連続線上で変わっていく。市場も連続線上で変わっていってほしいという気持ちはある。従って、CPIゼロ%で何か急激にびっくりするようなことが起こるという想定の下で事前に市場条件の形成にいそしんで頂く必要はない、ということを極めて素直に申し上げている。

【問】

今、CPIについての議論をいろいろ伺ったが、1—3月期のGDPが名目ベースで前期比年率3.2%という数字が出た。政府が2006年度の日本経済の持つべきイメージとして名目成長率2%を目標に掲げており、4月26日の経済財政諮問会議でもそのところが論点になったと思うが、総裁がイメージされる名目成長率の2004年度の推移のイメージを伺いたい。言い換えると、CPIゼロ%よりも名目成長率2%が先に達成されてしまうというような事態が可能性としてあるのか、その辺りのイメージも伺いたい。

【答】

なかなか難しい話だが、直近に出たGDPがそういうことをイメージさせるような数字になっていることは事実だと思う。従って、そういうことが全くイメージできないわけではない。つまり政府は2006年度に名目で2%ないしはそれ以上という見通しというか目標を置いておられるが、そうした姿がそれよりも前に実現する蓋然性が全くないとは言えない。そういうイメージにつながるような数字が今回出ているということだと思う。しかし、やはりこれからの実際の経済の動き——ラップタイム、物価の動き、ゲタを除いた実勢としての今後の経済の回復の仕方と物価上昇率の変化——をもう少し確認させて頂かないと、今の段階ではどういう蓋然性があるか、その蓋然性がどれくらい強いかということは申し上げられない。まだ少し早すぎるという気がしている。

もちろん、そういう姿はより早く達成されることが望ましいし、我々の政策目標——CPIの前年比変化率がゼロ%以上になること——というのは、結果的にはそういった良い状態が一刻も早く訪れることを狙っているので、それがずっと先だとはあえて申し上げない。しかし、それを手前に引き寄せて考えて良いのだというところまで言えるほどの材料は、まだ揃っていないのではないかと思っている。

【問】

最近の総裁のご発言の中で、「これから重要なのは金融政策の透明性とともに財政規律である」と言及されるケースがあったと思うが、これについての真意を伺いたい。また、明日の小泉総理との会談でどのようなことを話されるのか伺いたい。

【答】

財政規律は今後長い時間的距離を置いて、また時の経過とともに多くの人々がそこに重きを置いてものを考えるようになるだろうという意味が第一である。それは、経済が本当に持続的な回復パスに近づく、あるいは乗っていく、物価についても、デフレの状況から脱して経済の動きと併せてより均衡のとれた経済に向かって進むという中にあっては、当然クローズアップされてくるのは、日本経済において最大の不均衡──その段階およびそれ以降も相当の努力で解決していかなければならない不均衡──として、財政の不均衡がある。この問題にいや応なしに焦点が当たっていくと思う。そこに焦点が当たった時に、改めて金融政策運営との関係で言えば、ダイナミックな経済をよりダイナミックにしていくという観点からは、その不均衡にあまりにも市場が強く焦点を当てて、民間経済活動のダイナミズムをむしろ削ぐというようなマイナスの反応を引き出してしまうことがないようにしなければならないが、その角逐は相当長い間続くということだと思う。これはひとえに、長期にわたって財政規律が時の経過とともに、より明確に強められる、しかもあえて言えば民間部門への負担をより軽くするかたちで、財政収支の改善を図っていくシナリオが次第に明確になっていくことが非常に重要であるということを申し上げている。目先何かに引き寄せてというよりは、ロングランであり、時の経過とともにより重要になる課題として申し上げているつもりである。

第2の質問については、昨年私が就任して以降、定期的に会合をやりましょうという会合の1つである。定期的にという割にはあまりスケジュールが前もって決まらず、定期的にやろうと言いながらお互いにスケジューリングがなかなか合わず、結局アドホックにやっているような感じになっている。たまたまスケジュールが明日合いそうだということで、昨年の夏以来久しぶりである。経済財政諮問会議その他でしょっちゅうお目にかかる機会もあり、お互いにものの考え方がわかっているものだから、無理矢理やる必要もないということで、少しインターバルがあいたが、あまりインターバルがあいては定期的ではなくなるので、明日やりましょうということになった。特に特定の話題はない。いろいろなことを話すと思う。

【問】

インフレ参照値の件について1つだけ確認させて頂きたい。インフレ参照値の値が1%とか2%とか何人かの政策委員の方からコメントが出ているが、それを債券市場の参加者の中では、量的緩和の解除の条件の実質的なハードルの引き上げを模索しているのではないかと、そういう議論を始めているのではないか、という向きも一部にいるようである。総裁の先程のお話を伺う限りだと、そういうふうにとる市場参加者は誤解しているという考えで良いか。

【答】

今のところ、お約束しているコミットメントを修正しようという意図は全くないし、そういう議論は一切していない。おそらく、審議委員のご発言がそのように理解されているとすれば、そう発言された方の真意にも反するのではないかと私は勝手に推察している。

以上