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総裁記者会見要旨(9月9日)

2004年9月10日
日本銀行

―平成16年9月9日(木)
午後3時半から約35分

【問】

本日の金融政策決定会合の結果について、総裁より趣旨を伺いたい。

 また関連して、先日、総裁は大阪で強気な景気認識を示されたわけだが、本日公表された「金融経済月報・基本的見解」を踏まえて、その認識に変わりはないのか伺いたい。

【答】

 まず、本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、量的緩和政策をしっかり継続していく方針を確認したということである。こうした決定となった背景である経済物価情勢についての私どもの見方は、「基本的見解」で既にお手許にお届けしていると思うが、一言で言えば、「景気は回復を続けている」という判断を継続しているということである。仔細にみると、海外経済が拡大を続けるもとで、輸出や生産は、伸びがやや鈍化しつつも増加を続けている。そして、企業収益の改善が続いており、設備投資も引き続き増加している。家計部門では、生産活動などからの好影響が雇用面にも及んでいて、個人消費もやや強めの動きを続けている。これが現状判断である。

 先行きについては、景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくものとみられる。この点をもう少し細かく見ると、輸出や内需の増加が続き、生産も増加基調を維持していく可能性が高いということである。また、企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、そうした中でも生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響の波及は、次第に明確化していくと考えられる。

 物価面については、従来から申し上げていることとあまり変わっていない。内外の商品市況高や需給環境の改善を反映して、国内企業物価は上昇している。先行きについても、原油高の影響もあって当面上昇を続けるという判断であるが、国内企業物価上昇の影響は、川上段階から川下段階にいくにしたがって、企業部門の生産性上昇や人件費抑制によってかなりの程度吸収されている。このため、生鮮食品を除くベースでの消費者物価の前年比変化率は小幅のマイナスとなっている。先行きについても、こうした生産性上昇の影響に加えて、需給環境が、改善方向にあるとはいえ、当面なお緩和した状況が続くもとで、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想される。もちろん、原油価格の上昇については、経済および物価両面への影響を引き続き注意深く見ていく必要がある。

 大阪で強気な見通しを述べたというご指摘については、特に強気、弱気というバイアスをかけて申し上げたつもりはない。ただ、日本経済の回復の基本的なメカニズムは、当面出てきている経済指標の強さ、弱さが入り乱れている中であっても、損なわれていない。そういう判断については強気だということを申し上げたわけである。

【問】

 海外経済、特に米国景気について、減速懸念というのが頭をもたげているわけであるが、先般の雇用統計等の発表で若干後退したとはいえ、そういった米国景気についての総裁の認識を伺いたい。

【答】

 米国経済の動きないし先行きの展望ということと日本経済の先行きとが密接に絡んでいるから、そのような質問があると理解している。米国経済については、ご承知の通り、去る4−6月の成長率は少し鈍化した。個人消費の伸びが低下したことが含まれて鈍化したということだと思う。しかし、その後の経済指標を見ていると、例えば、自動車販売が持ち直すなど、やはり米国において、個人消費は増加傾向を維持していると判断して良い状況にあると思う。また、企業収益が高水準で推移するもとで、設備投資は引き続き増加している。従って、4−6月は、少し拡大ペースが鈍化したが、米国経済の拡大モメンタムそのものは維持されていると私どもも見ている。米国経済については、雇用が問題含みではないかと見られ続けているが、6、7月に雇用者数の増加が大幅に鈍化した後、8月は増加幅が拡大したということで、基調的判断としては、なかなか難しい点も含まれているかもしれないが、春先以降はっきりしてきた雇用の増加ペースが、幾分スローダウンしてきているということは否めないのだろうと思う。また、米国経済については、他の国と同様であるが、原油価格が高止まっていることの影響が引き続き要注目事項ということである。

 そうしたことから、今後の動きももちろん注意深く見ていかなければならないということであるが、現在までの状況から判断する限り、米国経済の拡大モメンタムは維持されているというのが、私どもの判断である。

【問】

 郵政民営化の政府案が決まり、基本方針がほぼ固まった。一方で、先週、保険業界や銀行業界のほうから、郵貯・簡保の拡大を懸念する見解が出ている。総裁は経済財政諮問会議のメンバーでもあるが、民業圧迫になるのではないかという民間からの声を踏まえて、今回の政府案をどのようなものとご覧になられているか。

【答】

 私も経済財政諮問会議の一員として、郵政民営化は日本経済の将来に関わる非常に重要な問題であるという認識のもとに、できるだけ望ましい方向への貢献をしたいと努力をしてきたつもりである。

 すなわち、郵政民営化の中でも、特に郵貯、簡保の民営化の話が、資源の再配分機能を市場メカニズムの中にしっかり取り入れて、将来の日本経済の活力増進ということにつなげていくという非常に重要な命題であるがゆえに、そのような認識を持つわけである。このような立場から、極力客観的な判断に基づいて、私自身は議論をしてきたつもりである。

 そうした議論の中で、いつも感じていたのは、ご質問にあったような点について言うと、見る側によって受け止め方に非常に大きなギャップがあるということである。つまり、競争相手である民間の金融機関、保険会社側から見れば、巨大なモンスターが民営化の後も猛威を振るうのではないかという発想がある。しかし、一方、郵政公社の側から見ると、民営化ということは、一切の政府の保護措置なしに収益性を上げて、十分に民間企業と対抗していかなくてはならない。郵政公社にとっては、新規に競争力を築いていかなくてはならないという部分が非常に強く意識されるわけで、そこのところが本当に可能かという、言わばゼロからのスタートという意識があるような感じを受ける。従って、一方はゼロからのスタートで懸命になって築いていかなくてはならないという意識で、他方は巨大なモンスターが引き続き暴れるのではないかという意識、この間のギャップが非常に大きいという感じを持っている。

 従って、郵政民営化の設計に当たっては、市場メカニズムの中できちんとした独立の存在としての経営主体、運営主体を整えるために客観的な条件は何かということを、しっかりと押えて議論しなければならないと思う。それは、私だけではなくて、経済財政諮問会議のメンバーが皆共有しながら議論してきたことだろうと思う。

 とにかく大事なことは、民間金融機関とのイコール・フッティングをしっかり確立することである。政府保証はもちろんのこと、税制、その他の面での完全なイコール・フッティングである。それから、民営化した郵政公社は「自分で稼げ」ということであるので、新しい郵貯・簡保事業は、十分なリスク管理体制を整えた上で、収益性をしっかり確保してもらわなければならない。3つ目には、民営化した郵政公社の場合には、郵便、窓口ネットワークといったところで新しい事業展開も行っていくので、各事業間のリスク遮断が明確になっているということが、求められる条件である。そうした視点に立って議論が進められてきたし、私自身も進めてきた。

 それに加えて言えば、民営化にはまず準備期間、その後に移行期間というものがあり、金融・保険業務が最終的に完全な民有、民営に移行するまでの間、政府出資の傘の下に存続し続ける期間が長いということもある。事実上の政府保証があるかのように受け止められかねない移行期間において、業務制限を一挙に取り払っても良いかどうかという問題は、慎重に吟味する必要がある。そのような視点を加えながら議論が進められたと思っている。

 前回の経済財政諮問会議で、残された論点についても明確な結論が出たわけであり、それらを踏まえた現時点での経済財政諮問会議からの提案は、今申し上げたような原則に則った方向の結論にかなりの程度なっているのではないかと思っている。

【問】

 ダイエーとダイエーホークスの件について伺いたい。ダイエー再建の件があるがゆえに、現在ダイエーホークスと他球団の合併が押し止められており、合併の話が進まないという状態になっているが、それについてどのような感想をお持ちか。また、9月11日には選手たちのストライキが始まるかもしれないということだが、全体の状況についてどのような感想をお持ちか。

【答】

 ダイエーの問題は、企業再建を巡って引き続き取引先金融機関とダイエー自身との間で詰めの議論が行われている。問題を先送りしないで、最終的に企業再建につながるような透明性の高い結論が得られるように、日本銀行の立場からは、そのように期待し見守っている。

 ダイエーホークスという野球チームの問題と、ダイエーという会社の再建問題とがどのように絡んでいるかという細かいところまでは、私もつぶさには承知していない。おそらくダイエーホークスというのは、ダイエーというビジネスの一環の中にあるので、企業再建のプログラムが合理的であり、かつ最終的に透明性の高いものに仕上げられていくとすれば、ダイエーホークスの件についても、おそらくそれは企業の世界だけでなく、国民一般から見ても納得のいくものになっていくのではないか、また是非そうなって欲しいと思っている。

 野球全般ということになると、これは普通の企業の場合と違い、ステークホルダーというか、関心を持っておられる方の層が非常に広い。野球ファンというのは少年、チビッ子にまで至るので、そういった種類のビジネスであるということは、普通のビジネス以上にサービス産業としての特殊な性格を、経営者の方は十分織り込みながら判断するべきではないかと思う。

 ストライキの問題が良いかどうかは、私は全く分からないが、プレーヤー自身が毎日グラウンドで声援を浴びながら、老人からチビッ子に至るまで、おそらく熱い声援を受けながら行動しているので、そうした部分は彼らの行動の中に体現されているであろう。もちろんプレーヤーのエゴといった側面もあるかもしれないが、経営者としては、層の広いサービス産業だという意味がプレーヤー達の要求の中にどれぐらい入っているか、しっかりと汲み取ることが、上手に経営をやっていく場合の重要な要素ではないかと私は思っている。

【問】

 球団の数が減ることについてはどうお考えか。

【答】

 数の問題はなかなか難しい。将来また増えるかもしれない。やはり野球界といえども、そういったサービス産業としてチビッ子に至るまで国民のニーズをきちんと汲み上げていく企業家が、野球の世界に参入したいということであれば、参入制限をせずにやるべきであるというのが私の個人的な意見である。

【問】

 金融庁は先頃、検査先をホームページで公表することにしたが、日本銀行は考査先を開示する考えはないのか。

【答】

 考査は取引先との契約に基づいて実施しているものであり、個々の取引先の機密を保持しなければならないということと、取引先の経営が透明性を持つように、経営の段階では強く開示を求めていかなければならないということを、両立させるバランスが非常に大事だと思っている。考査そのものを開示するかどうかということは、そうした一環の中で考えていけば良い。考査そのものをするかしないか、いつどこでやっているかということを開示することが、今申し上げたような取引先の機密と経営の透明性向上との正しい解を求める方程式の中で、どういう位置付けを占めるかということを良く考えなければならないが、私どもは直ちにそれを開示するという考えを今は持っていない。

【問】

 市場では景気減速感が出てきたのではないかとの認識があり、また電子部品等で在庫調整などの動きがあって、長期金利も低下傾向にある。日銀と市場の景気認識には非常にギャップがあるような気がするが如何か。

【答】

 先日、大阪でも同じようなご質問があって、既にお答えしたことでもあるが、市場の判断と私どもの認識とにそんなにギャップがあるとは思っていない。私どもは、ある期間出てくる指標を全部総合的に判断し、分析し、基調的な流れとしてどうか、というところまで解きほぐしてご説明しているわけであるが、市場は、毎日毎日出る指標に対する反応を繰り返しながら、しかしそれをベースに判断を築こうとする努力を毎日繰り返している。そういう意味で、我々は個々の指標に反応することによって皆様に判断をお示しするのではなく、まとめて、分析した結果としてご報告しているが、最終的な判断にそれほど大きな差はないであろうと思う。

 昨年の夏の終わり以降の、いわばポジティブ・サプライズの連続というような──つまり指標が出る度に良い方向に皆が驚くような──時期は過ぎて、次第に経済が巡航速度に向かって収斂していく過程になると、刻々と出てくる指標は、引き続き良い方向で驚くものと、意外に期待を裏切るというようなものが入り乱れて、綾なすように出てくる局面に変わってきていることは事実である。そういう意味では、今のところは市場は良い方向にも悪い方向にも強めに反応しながら、しかし基調的な流れは何かということをつかもうと模索している段階であろうと思う。我々も、心の中では出てくる指標に対してある意味で一喜一憂しながら、しかし冷静にそれを分析して最終的に持っている判断をお示ししている。振れの大きい指標もあるので、そうした指標は均してみる必要がある。特にGDP統計とか、本日出た機械受注統計などは、日本においては振れの大きい統計の部類に属するので、数か月あるいは数期均してみる必要がある。

 今、ご質問の中にあった電気機械、IT関連で一種の在庫調整の動きが始まっている点については、景気のサイクルをある意味で決定づける重要な動きだと我々も認識している。ITのサイクルがどのように変わるか、転換点がいつか、もしサイクルに変調をきたしたらどれくらいのマグニチュードで、どれくらいの期間それが続くのかというようなことは、非常に大事な課題である。現在、世界的にIT関連の在庫調整が始まったと我々はみているが、多くの識者と同様に我々も、企業家がブームをとことん追っかけてから慌てて調整に入っているというよりは、今回は比較的早めに調整に入っている、予想よりも早い段階から始めているという感じを持っている。従って、在庫調整に共通の性格として、企業が早めに調整すれば、調整の深度が浅く早く終わる可能性があり、IT関連の調整についても同じだと思う。しかし、過去の経験則では、IT関連の調整は動いていくうちにやや強めに振れるという性格を持っている。従って、その点について楽観視ばかりするのではなくて、調整が予想以上に大きくなる可能性も一部念頭に置きながら、今後の推移を見ていきたいと思っている。

【問】

 CPIについてだが、先程、総裁がお話になられたように、CPIがマイナス基調を続けている状況に変わりがない。今後もプラス要因として原油高がある一方で、マイナス要因として米の豊作等が影響してくる。そういった状況を見て、市場ではCPIがプラスになる時期というのは遠のいたのではないか、量的緩和政策からの出口というのは遠のいたのではないのかといった見方が出ているが、どうお考えか。

【答】

 私どもは、以前から「出口」という言葉は嫌いだと散々申し上げているのであるが、出口政策はそんなに至近距離で考えていない、かなり遠い先の話である、CPIが安定的にプラスになるまでにまだ相当な時間的距離がある、という点は、私の記者会見でも他の項目に比べて、より安定的に同じ表現で申し上げてきたと思う。今も同様の心境でいるということで、私どもには一切振れがない。米や原油の要因とか、確かにCPIにおけるその時々の指標に振れをもたらす要因というのはあるわけであるが、私どもはより基調的に生産性の上昇とか、景気回復の中にあっても企業所得が雇用者所得に循環するスピードが、今回は世界共通の現象として遅いとか、そういうベーシックな要素をもとに判断している。家計所得の面にも好循環は波及していくという基本的判断は変えていないが、なかなか波及速度は目先目立って急速に上がるわけではないという従来の予想もそのまま維持している。今回も同様である。

 例えば、夏のボーナス等の状況を見てみると、企業収益は、法人企業統計等を見てもいわば一つのポジティブ・サプライズだと言っていいぐらい伸びているが、雇用者所得への還元という意味では、ボーナスでさえ予想を少し下回るというぐらいの還元振りだということだ。このことは上手くいけば景気の回復を長引かせる要因だということでもあるわけで、必ずしも悪い面ばかりではない。

 日本経済の将来にとって必要な労働市場の流動化という大事な構造変化が着実に進んでいることの反映として、雇用者所得への還元は今回は景気回復に対してずれている。従って、CPIへの上昇圧力も短期間には出ない。しかしそこを我慢強く見ていけば、景気回復を長引かせながら構造調整もさらに進展するという良い成果を得られるだろうと期待している。そういうことで、私どもは量的緩和政策から早く脱却したいという気持ちはあっても、実際にはここは我慢強く、構造調整の面でも循環的な景気を長持ちさせる意味でも、粘り強く頑張り通したいという気持ちでいる。人間なのでなるべく早く卒業したいという気持ちはあるが、それはうんと抑えて我慢するということである。

【問】

 UFJの統合問題に関して、住友信託が、三菱東京とUFJの統合交渉差し止めの訴訟を起こし、最高裁まで行って決着をみたが、金融機関の再編を巡って金融機関同士が最高裁まで争うという極めて異例な事態だったかと思う。これについて、一連の裁判、司法判断も含めて総裁の見解を伺いたい。また、現状ではまだ三井住友と三菱東京がUFJを巡って争っている状況だが、この問題についてどう考えているか。

【答】

 UFJについては、不良債権問題の最終処理——最終という言葉が適当かどうかわからないが——に近い段階にきて、大口債権先の問題をきちんと整理したいというだけではなくて、将来に向かって新しいビジネスモデルを築いていくこともしっかり視野に入れながら、合併再編へ動いているということだと思う。三菱東京の場合には、UFJとの関係でみると、より前向きのビジネスモデル、あるいは競争力構築という視点が強く入っているだろうと思う。それに対抗する三井住友にしても、従来とはかなり違って、後ろ向きな発想ではなく、合併再編の中に将来に向かっての新しいビジネスモデルの構築、競争力の向上という前向きの要素が入ってきている。そういう意味で、これらの動き全ては、日本経済の将来にとって過去10年ぐらいなかった大変エンカレッジングな(元気づけられる)動きだと思う。

 もう一つは、それらの動きが誰の目から見ても——投資家、株主、監督当局、あるいは国民一般の方々の目を代表する記者の皆様の目から見ても——相当に透明度の高いプロセスの中で進んでいることも、これからの日本経済のダイナミズムを築いていく上で非常に大事な透明性向上という大原則のもとに、新しい動きが出ているという点で評価している。

 司法手続きによる地裁、高裁、最高裁の判断については、コメントする立場にはない。三菱東京、三井住友の間のコンペティションについては、フェアにやってほしいということだけで、立ち入ったコメントはできない。

以上