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総裁記者会見要旨(11月18日)

2004年11月19日
日本銀行

―2004年11月18日(木)
午後3時半から約30分

【問】

本日の金融政策決定会合の結果について、改めてご説明頂きたい。また、政府は月例経済報告で景気判断を下方修正しているが、日銀の景気見通しを伺いたい。

【答】

本日の金融政策決定会合の結果は、現在の金融調節スタンスを、次回の金融政策決定会合までの間、据え置くということである。

具体的には、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。消費者物価に基づく明確な約束に従って、日本銀行としては引き続き金融緩和政策を堅持していく方針である。

本日の判断の背景としては、既に金融経済月報の基本的見解で示している通り、日本経済の動きを見ると、足許は輸出、生産の増勢に少し一服感が見られるものの、全体として回復を続けている。輸出や鉱工業生産の増勢には、このところ一服感が見られるが、設備投資は、足許のペースは緩やかながら、企業収益が改善するもとで引き続き増加している。家計部門でも、生産活動や企業収益などの好影響が雇用面にも及んでおり、雇用者所得は下げ止まっている。こうしたもとで、個人消費は底堅く推移している。

先行きについては、景気は回復の動きを続けていくと見られるというのが私どもの判断である。海外経済の拡大が続き、内需も増加を続けるもとで、輸出や生産は、今は少し足踏み状態であるが、基調的には増加していくと見ている。企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできているし、企業の人件費抑制姿勢は引き続きかなり根強いが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高いと判断している。

物価面では、前回の金融政策決定会合以降、あまり新しい材料がない。国内企業物価はご承知の通り上昇しており、当面なお上昇を続けると見られる。ただ、国内企業物価の上昇の影響は、川下段階に行くに従って、企業部門の生産性上昇や人件費抑制によってかなりの程度吸収されている。このため、消費者物価の前年比変化率は、小幅のマイナス基調で推移している。先行きについても、基調的にはなお小幅のマイナスで推移すると予想される。

本日の政策決定の判断の基礎はこうしたところであるが、私どもとしては、IT関連需要や原油価格の動向とその影響について、引き続き注意深く見ていく必要があると考えている。

【問】

為替相場について伺いたい。円高ドル安が進んでいるが、これについて、市場では米国の双子の赤字などへの懸念があると言われている。米国経済の現状と為替相場の動向について、総裁はどのように見ているのか、また日銀はこれに対してどう対処していくのかについて伺いたい。

【答】

為替相場は、つい最近まで相対的に安定した動きを続けてきたが、ご指摘の通り、ごく最近は少し円高方向に振れる動きを示している。市場の地合いは日々変わるのでわからないが、かなり短期筋の商いあるいは思惑によって振れているところがあるとも聞いており、為替相場そのものの方向性についてコメントできないが、引き続き注意して見ていきたい。

展望レポートの中でも、我々が持っている経済の見通しに対して様々な不確定要因がある中で、金融為替市場の動向は不確定要因の1つであると明確に記述しているが、その中に為替相場の動きが当然含まれており、今後の為替相場の動き、その影響は十分に注視していく姿勢である。

【問】

本日の金融政策決定会合では当座預金残高目標を30~35兆円に据え置いたが、金融調節が非常に難しくなっているのではないかとの見方から、上限を35兆円にとどめても、下限をいずれ30兆円から下げるのではないかとの見方がある。緩和の方針は維持しつつ、金融調節上の自由度を高めるために、下限を20兆円台に下げる可能性もあるのではないかとの見方も市場では出ており、プライス面では出ていないが、心理面では多少のたじろぎがあるように見受けられる。今後の選択肢として、そういうことがあり得るのか伺いたい。

もう1点、全く目先の違う話ではあるが、地方の景気を見た場合、特にシャッター街などに表れているように、なかなか景況感が上向かない状況が続いている。地方からすれば、いつになったら都市部並みに景況感が盛り上がってくるのか期待しているのではないかと思う。この先いつ頃になったら、地方でも総じて都市部並みの景況感が達成できるようになるか、ご見解を伺いたい。

【答】

まず、第1のご質問のほうであるが、もちろん金融調節の現場では、その時々の資金需給の状況、そして市場の地合いの変化に合わせて調節しようと様々な工夫を凝らしながら、流動性供給目標を日々達成していく努力をしている。私が聞いている限り、調節が困難に逢着しているというようなことはない。様々な工夫を凝らしながら円滑に必要な流動性を供給するという目的は達成し続けているということであって、お尋ねのような点については、私どもは何も今念頭に置いていない。その必要は今何も感じていないということである。

中央・地方で景況好転を感じられる度合いの差というものは、引き続き引きずっていると認識している。地方からも数々の情報を頂いているし、支店長会議その他で各地の支店から来る情報を総合判断してそのように思っている。

やはり、従来と異なり、今の構造改革のプロセスの中で、公共事業等のみに大きく依存するかたちでの地方への所得還元メカニズムは変わってきているということが大きくあると思う。もうひとつは、どの地方もおしなべて景況感の回復の割に雇用者所得の回復が遅れを伴いながら動いている。また、地方においても、おそらく企業の業況感に差があれば、個人所得の面でも場合によってはそうした差があるのではないかと思っている。

一方で、全国の景況感の前進とともに地方の景況感も少しずつ上向いてきていることも事実である。また地域毎にみると、地域の特性を活かしながら、あるいは地域的・文化的な特色を織り込みながらの新しい工夫、いわゆる地域興しの新しい動きが始まりつつある。観光事業などについても、地域毎にかなり特色ある動きが出てきている。経済全体を動かしていく場合に、地域毎に新しい仕組みを作っていくという動きは前向きの動きであるし、時の経過とともにさらに幅を持って定着していく可能性があると見ている。

やはり、全国的な景気回復の持続性ということが重要なポイントであって、今のように構造改革を前進させながら景気回復の持続力を強めていくというプロセスさえしっかり持っていけば、中央・地方の経済の良い回転メカニズムというものが新しく築き上げられていく可能性があると思う。一朝一夕にできるものではないし、手品のような手法があるということでもなく、地道に粘り強く、今の景気回復を持続性のあるものにしていくということが一番大事な点ではないかと思っている。

【問】

量的緩和政策を解除するという場合、一般的にイメージするひとつのあり方は、当座預金残高目標を今の水準から徐々に減らし始めて、ある段階で操作目標を金利に戻すという姿が想定できる。この場合、量的緩和政策の解除とは、当座預金を減らし始める時点を言うのか、あるいは減らした後に、操作目標を金利に戻した時点を言うのか、その点を伺いたい。

【答】

今の緩和政策のフレームワークの修正プロセスということについては、具体的に何も詰めていない。従って、正確にはお答えできないとしか申し上げようがない。言えることは、私どもが申し上げている3つの条件、すなわち、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで今の量的緩和の枠組みを堅持する、市場にとって非常に過大とも思えるような流動性を供給し続けるという、この基本的なフレームワークを堅持し続ける、ということである。それ以外に、量的な意識とかそのようなところまでは、まだ何も詰めた話ではない。

【問】

政府と日銀の景気判断の現状に差はあるのか。

【答】

今回の月例報告で、政府は「堅調に回復している」という場合の「堅調」という表現を落とされたかと思うが、主として輸出、生産が今一時的に足踏み状態になっているということを主たる理由として修正されたと理解している。

そういう意味では、先程申し上げた通り、私どももそうした認識を共有している。これはおそらく、米国を中心とする海外経済で、この春先から夏場ぐらいにかけて、ソフト・パッチという表現が適切かどうかは別であるが、少し景気の動きが軟化した余波がある。また、IT関連の在庫調整の進展の影響もあり、経過的に日本経済も踊り場的な現象を示している。このことを政府はあのようなかたちで表現されたわけである。我々のほうは、先程申し上げた通り、「輸出、生産の増勢に足許一服感がみられる」という表現にしており、その点では一致していると思っている。

【問】

先程の量的緩和の枠組みの説明として、「過大とも思える流動性を供給することだ」というご指摘であった。そうすると、例えば、25~30兆円というレベルが市場にとって過大ということであれば、そうした範囲で当座預金残高目標を減らすこともあり得るのか。

【答】

先程は少し文学的に表現したのであって、市場が過大と思うかどうかといったことは認定できないことだと思う。現在は、所要準備額の約6倍という多額の流動性を供給しているわけであり、その数字の大きさからみて「過大とも思える」というような表現をしたまでのことである。

いずれにしても、極めて潤沢な流動性を供給し続けることによって、時間軸効果をしっかりキープしていく。そして、市場の中で資金繰りへの不安感を起こさせない。つまり、量の大きさが浸透することによってそのような効果を保ち続けるという意味での枠組みの維持ということである。

【問】

「所要準備額の6倍ある」ということであるが、これを5倍にしても「過大」かどうかという議論もあるかと思う。審議委員の中には、当座預金残高目標を減らすことはやはり「引き締め」と取られる可能性があるから、それはなかなか難しいという意見もあるが、総裁はどうお考えか。

【答】

今の時点でそのようなことは、およそ議論の対象にはならないと思う。具体的な状況を前提にしないで、量を減らしたらどうかというのは、およそ金融政策の議論にならない。全くお答えできない質問だと思う。

【問】

10月29日に発表した展望レポートで、「金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針である。具体的な説明の内容や方法については、さらに工夫を重ね、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考になる基本的な判断材料を適切に提供していく」、と書かれている点について伺いたい。今後、量的緩和政策が解除された後も、日銀の政策に関して市場が誤解をすることはマイナスだと思うが、市場の安定化を念頭に置きつつ金融政策の運営をしていく──主眼としては、政策変更にあたっての市場の安定を維持する──という目的で、今後もこうした情報を提供していくということなのか。

もう1点、量的緩和政策解除の3つの条件のうち、仮に1つ目と2つ目の条件をクリアしつつも弊害というか歪みが生じたような場合でも、適切に対応していくという理解で良いか。市場が政策の解除を予想していようが、あるいは反対に予想していない場合でも、日銀としては金融政策に影響するようなものに関しては丁寧に説明していくという理解で良いか。

【答】

まず後者の質問に関して、3つの条件というものは個別ばらばらの条件ではないということを前回の会見でも申し上げた。消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上というただ1つの条件を、強いて因数分解して3つの側面から見ればこうなるということで申し上げた。従って、3つがばらばらに理解されることによって、2つは満たしたけれども1つは満たしていない、といった組み立て方のものではない。あくまで3つの側面から見て1つのことを判断していくということであるので、「経済に歪みが出ても金融政策は放っておくのか」という議論は成り立たないような性格のものだと思って頂きたい。

それから、どういう状況のもとであれ、金融政策を運営していく場合には、市場および広く世の中の方々の理解を求めて、期待の安定性ということを十分確保しながら政策効果の浸透をより良く図っていくという原則に変わりはない。従って、如何なる状況のもとにおいても、我々は政策変更する場合にもしない場合にも、状況説明は十分やっていきたいということである。展望レポートの中であえてそこのところを強調したようなかたちで書かせて頂いた。消費者物価指数のマイナスの動きがもう何年も続いており、量的緩和政策も既にかなり長い期間やっているといういわば異例の事態から次の局面に移っていく過程においては、様々な期待の不安定性というものが出てくる心配がある。そうした局面においては、なおさら我々が取ろうとする行動について正しい理解を求める努力をしていく必要がある。そうした認識で、あそこのところをあえて強調させて頂いているというふうにご理解頂きたい。

【問】

山一証券向け特融の件について伺いたい。この前、金融庁が日本投資者保護基金という証券会社で作る団体に特融の返済を求めたのに対し、この団体が19億程度しか負担できないとする旨の報道が出ているようであるが、日銀の本年9月末の山一証券向け特融残高が1,191億円であることを考えると、焼け石に水でしかないと思う。年明けに山一証券の最終処理、破産手続きが終了する見込み──まだ手続きが進んでいる最中──ではあるが、今後、特融の扱い、損失を巡って、日銀としてどう対応していく考えなのかを伺いたい。

【答】

具体的なことを最終的に申し上げられる段階までには、まだ時間的距離があると思う。おっしゃる通り、山一証券の破産手続きというのは、そのこと自体は、ほぼ最終段階を迎えていて、破産管財人からは、本年末頃に最後の配当が支払われる予定であると聞いている。しかし、実際に特融がどこまで最終的に回収されるか、つまり、逆に言えば回収不能額がどのぐらいになるのか、現時点ではまだ完全に確定しているわけではない。

一方、政府からは日本投資者保護基金に対して、法律の規定に基づいて、つまり「金融システム改革法」──これは平成10年に施行されたものであるが──に基づいて、特融債権の譲り受けの要請が行われたと伺っている。同基金からは、政府の要請を受けて譲り受けを承諾するのかどうか、今、検討中だと伺っている。

私どもとしては、まだそのように動いている状況なので、現在ただ今の姿勢は、いずれ最終処理をしなくてはならないが、特融発動決定時──平成9年11月──の大蔵大臣の談話や、その後の国会等において関係閣僚から数次にわたりご答弁があったということなので、その趣旨に沿って、破産手続きの終結状況等を見極めながら、これは主として政府の方で適切な対応がなされるものと考えている。

【問】

これまでの総裁会見──調べたところ、速水総裁時代の2002年4月や、99年の記者会見時──でもいろいろ質問が出ているが、山一証券向け特融については、政府が返済を確約しているということだったと思う。返済というのは、補てんという意味なのかもしれないが、あくまでも、福井総裁としても、政府に対して返済を求めていくという考え方なのか。

【答】

これまでも財務省、金融庁との間では、特融の最終処理のあり方については、いろいろな相談をしてきている。この特融が最終的に毀損することによって、日本銀行に支障が生じないようにすべく政府に引き続き検討して頂いていると受け止めている。

山一証券の破産手続きがいよいよ最終段階を迎えたということを踏まえて、この特融の最終処理について、適切な対処をして頂くよう、引き続き財務省、金融庁とよく相談していきたいと思っている。

【問】

来週、大手銀行は、揃って9月の中間決算を発表するが、不良債権の処理はあらかた政府目標である半減を達成する見通しになっている。大手行の不良債権処理は峠を越した、解決したと考えて良いのか、総裁はどういう状況にあるとご覧になっているのか。また、不良債権の処理に目途をつけた後の、大手行の最大の経営課題は何であるとお考えか。

【答】

私どもは、この問題について引き続き真剣に取り組んでいるが、幸い大口債務者の再生問題も最終局面を迎えていると言って良いと思うし、地方においても、個別の企業再生の取り組みが成果を上げてきている状況にある。こうした中で、景気が回復しつつあるということから来る恩恵などと相俟って、企業財務の改善はかなり明確になってきた。従って、金融機関の信用コストが総じて低下してきているということはご指摘の通りだと思う。その意味では、金融機関の不良債権問題への対応は相当程度進捗してきた。つまり、不良債権処理に自己資本を大きく割り当てなければならない状況から、次第に脱却しつつある。近々発表される各金融機関の中間決算も、そうした状況を反映したものになることは間違いないと見ている。

ここから先は、今から——より厳密には来年の4月のペイオフ全面解禁以降ということになるかもしれないが——、各金融機関が、更なる経営改善と収益力強化、競争力の新しい構築という方向に向けて——既に少しずつギアチェンジが始まっていると思うが——、取り組みを加速していかなければならない段階だと思っている。ビジネスモデルの再構築と一言で言われているが、種々の合併や提携、M&Aといった様々な展開も加えながら、なんと言っても収益力を強くしていく。そのことは、経済全体として資源の再配分機能を活発化するという金融機関として最も重要な役割を強めていくということなので、今後の日本経済がよりダイナミックなかたちで回復を遂げていく、さらには成長力を強めていくことに、前向きに貢献できるような金融機関になっていくことが課題だと思っている。

以上