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総裁記者会見要旨(12月17日)

2004年12月20日
日本銀行

―2004年12月17日(金)
午後3時半から約50分

【総裁】

ご質問を受ける前に、私から一言だけ申し上げさせて頂きたい。

昨日発表した日本銀行券の取扱いについてである。日本銀行の発券部門の職位者および担当者が、日本銀行券の取扱いについて極めて不適正な扱いを行ったという報告をした。まさに、日銀マンとして、あるべきでない行動であった。私自身も大変遺憾に思っているし、国民の皆さんに本当に深くお詫びしなければならないと思っている。神戸支店の場合、特に職位者が関与していたという点も、非常に重く受け止めている。

従って、昨日ご報告した通り、厳重に処分をすると同時に再発防止のプログラムをきちんと立て、発表したわけであるが、本店では再発防止体制の構築を既にスタートしている。我々として、名誉挽回、そして国民の皆様方の信頼回復のために、これから全力を挙げ、必ずやそれをやり遂げたいと思っている。

私自身から改めて国民の皆さんにお詫びを申し上げたい。

【問】

本日の金融政策決定会合の結果について、総裁より趣旨をご説明頂きたい。また、今週公表された12月短観や、本日公表された「金融経済月報・基本的見解」の内容を踏まえ、現時点での日銀の景気認識や今後の景気見通しを伺いたい。

【答】

本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、いつも申し上げているが、消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策をしっかりと継続していくという方針を確認した。

その背景となる経済・物価情勢については、景気は、踊り場的様相をもって年を越しそうであるとみている。本日の金融経済月報の基本的見解の中でもお示しした通り、生産面などに弱めの動きがみられる。これは、海外経済が引き続き成長しているものの以前に比べて少し成長率が減速したことが、タイムラグをもって日本経済に影響しているという部分と、IT関連分野の生産・在庫調整が引き続き進展中であること自体が日本経済に影響していること。これに加えて、鉄鋼その他の分野において供給面のネックが生じていることから来る影響、といった要因がいくつか重なっており、そうしたことから日本経済は、今、踊り場的な局面に入っている。

しかし、さらに経済全般をよく分析してみると、回復のモメンタムそのものは決して失われていないというのが私どもの判断である。企業収益が引き続き改善を続けている状況のもとで、設備投資は増加傾向を辿っているし、家計部門では、雇用面での改善傾向が続き、雇用者所得も下げ止まるという状況にまで漸くなり、個人消費は底堅く推移していると認識している。

先行きについては──これは年明け後のことになってくるが──、景気は回復を続けていくという見通しを維持している。もちろん、当面はIT関連分野の生産・在庫調整の影響がなお残ると予想されるが、海外経済の拡大が続き、内需も増加を続けるもとで、今は少し弱い感じになっている輸出や生産も、基調的には増加方向を辿っていくと見込まれる。何よりも、過去10年以上の長きにわたる努力の結果として、企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力が相当和らいできている状況にあるので、先行きの景気の基調そのものについての判断は、今、変えていない。

一昨日公表された日銀短観には、様々な指標がそこに含まれており、確かに一部に企業の景況感が少し慎重化しているというものもみられる。しかし、短観の結果と、今申し上げたような景気回復のモメンタムが維持されているという基本的な情勢判断とは、多くの部分で整合的なものとなっていると思っている。

物価面については、前回の記者会見の時にご説明申し上げたところとあまり変わっていない。国内企業物価は引き続き上昇している。これは、内外の商品市況高や需給環境の改善を反映したものである。原油の値段の動きはまだはっきりしていないが、少なくとも直近の動きをみると、原油高は多少一服感が出ている。国内企業物価の上昇テンポは年明け後、多少緩やかになっていく可能性があるとみているが、今のところ断言できるところまでは行っていない。

一方、消費者物価については、国内企業物価の上昇の影響が川下段階にいくにしたがって、企業部門の生産性上昇や人件費抑制によってかなりの程度吸収されているという状況が続いている中で、指数の前年比は小幅のマイナス基調で推移している状況である。先行きについても、同様の背景のもとに、小幅のマイナスで推移すると予想される。

このような状況のもとで政策判断を据え置きとしたわけであるが、年明け後、またいろいろな経済の動き、指標の出方、マーケットの反応の仕方等を注意深くみていかなければならないと思う。とりわけIT関連需要の動向については、現在の日本経済の踊り場という局面が年明け後も長く続くかどうかを判断する上で非常に重要な要素であるので、特に注意したい。それに加えて、原油価格の動向についてもなお目を離せないと思っている。当然のことながら、金融・資本市場の動き、なかんずく為替相場の動きについては、引き続き注意深くみていきたい。

【問】

今般の税制改正大綱原案では、定率減税の縮小等の方向性が盛り込まれているが、こうした税財政改革の一連の論議の内容やそれが景気に与える影響等について、総裁はどのような見解をお持ちか改めて伺いたい。

【答】

今お尋ねの定率減税の縮小であるとか、その他税・財政に絡む具体的な対応策について、個別具体的に立ち入って私どもの立場でコメントすることが適当かどうかは難しい問題がある。

ただ、今後の財政再建は、日本経済にとって長期的にみて最も重要な課題であるということを念頭に置くと、日本銀行として財政再建についての基本的な考え方はしっかり持っていて、その考え方は十分政府においても汲み取って頂きたいと思っている。先般、財政制度等審議会で意見を述べる機会を頂戴したが、その時にも、基本的には今申し上げたようなことで、財政再建に当たっての日本銀行の基本的な考え方を申し上げたつもりである。

繰り返しになるが、財政再建は「透明性」と「継続性」を確保しながら、息長く国民の生活リズムに上手く取り入れられていくかたちで確実に進めていくことが大切である。

強いて言えば、第1に、財政再建の道筋や手段について、今後の長期的な方向性を透明なかたちで示した上で、歳入・歳出両面にわたる見直しを行っていくこと、さらに言えば、社会保障制度の根本的な改革もこれと整合性の取れるかたちで実施されていくということが重要である。

第2に、財政再建は、政府が抱えているプライマリー・バランスの改善、これをプライマリー・サープラスまでもっていこうということであるが、そのためには10年以上かかるということになっている。とにかく、財政再建は日本の今の財政の状況から言えば、長い時間がかかるプロセスであることは間違いないので、そのことを政府も国民も強く認識した上で、きちんとプログラムを着実に実施していく。但し、その際のスピードについては、日本経済が持続的な発展の軌道に復帰することを確かめながら、一歩一歩着実に進めていくことが非常に重要であると考えている。財政再建プログラムができたからといって、経済の状況に目をつぶってまっしぐらに走るということではなく、経済は生き物であるので、その時々の経済の呼吸というものを良く組み込みながら、緩急自在にやっていくことが重要だと考える。

今お尋ねのあった定率減税の縮小等については、これから国民全体の理解を得ながら、国会・政府において決定されていかれる事柄である。日本経済は、先程の私どもの情勢判断で申し上げた通り、構造調整のプロセスを経由しながら、ショックに対して脆弱性が伴っていた経済という点ではかなり欠点を是正してきた段階にあるが、来年以降、本当に持続的な回復過程にしていく上で非常に大事な時期である。

その過程で、一時的だと私は認定しているが、景気は踊り場的な様相にあるので、来年できるだけ早くこの踊り場的な局面を脱却し、成長率はそれほど欲張れなくとも、着実に持続的な回復軌道に近づけていく、この経済運営を崩さないで、財政再建の道筋を次第に確かなものにして頂く、是非そういった立体的な議論が、これから国会審議の中できちんと進められていくことを私どもは期待している。

【問】

今回の日銀券の取扱いに関連する素朴な疑問について、総裁の認識を伺いたい。日銀券というのは、番号とか記号の並び方によって価値が変わってくるものなのか。

【答】

日銀券は、額面どおりの価値である。つまり、一万円券であれば一万円、千円券であれば千円の価値である。強制通用力をもって効果を発揮する価値としては、額面そのものである。

ただ、記番号によって特別な興味を示される方が存在するというのは事実である。それは外国の銀行券の場合でも全く同じである。特別に興味を示される方たち相互間で特別な価値を持つということはあっても、それは銀行券一般の価値というものとは別次元のものだと考えている。

おそらく、今のような情報化社会以前の社会においては、特定の記番号の銀行券について、特別の価値を認めている人が世の中に存在したとしても、相互にコミュニケートして価値を確認しあう機会は、現在の情報化社会のもとでよりも少なかっただろう。従って、その分だけ、特別の番号の銀行券についての特別の価値を確認しあう機会も少なかったのだろうと思う。

今、ネットオークションに代表されている通り、情報化社会のもとでは、そうした特殊な銀行券について、特別な価値を見出す人同士が価値のレベルを確認しあう機会が増えていると言えると思う。一般的な価値についてはなんら変わりはないが、特殊な価値を確認しあう機会は増えている点は、以前と違ってきていると理解している。

【問】

日銀法で役割が認められている日銀券の発行の現場で、日銀職員が特定の番号のお札を自らのお札と取り替えた。これは日銀マンが、日銀券は番号によって希少価値がある──額面以上の価値がある──ということを認めたことになるのではないか。

【答】

一般論としてそのようなことにはならないと思う。

先程、「日銀マンとしてあるまじき行為」と申し上げたが、これには二重の意味がある。

公正に、公平に、国民のすべての皆様にセントラルバンク・サービスを提供するのが我々日本銀行員の任務である。従って、仕事を遂行するプロセスで、自分の特殊な価値観──あるいは特別の趣味、特別の好み──を何らかのかたちで実現するという行為は介在し得ないはずのものである。これが基本原則である。そのために、職場でいろいろなルールとか確立したプラクティスがある。

もっとも端的なものとして、銀行券を取り扱う現場部署──発券の現場──には私物を持ち込まないという大原則がある。私自身も若い時、かなり長く支店で発券業務を担当していたが、私物は一切持ち込まないと厳しく躾られたし、実際、持ち込んだことはない。私物を持ち込まなければ交換もできないわけである。そうした服務準則による、セントラルバンク・サービスを提供する上での基本的な精神と、具体的な仕事運営上の行動ルール、この二重の尺度で、日銀マンは、人間としては特別の興味を持つことは否定できないと思うが、これを遮断する。そういう精神構造とルールが出来上がっているわけで、そのところが侵されたというのが今回のケースだと思う。

【問】

日銀券の事件に関して、昨日の説明では、経済的な損失はないとのことだったが、このように内部の規律が緩んでしまっていることについて、総裁自身は何が原因であり、また何故こういうことが起きたとお考えか。

【答】

まず事実を確認して、すべてご報告した通りである。

日本銀行全般に規律が緩んでいるということではないと思っているが、発券の現場において、複数の支店ではあるが限られた部署において、規律の確認、ルールの確認が十分なされていなかったという事実があった。複数の支店にまたがっていたということを我々は重く受け止めているので、全般的な再発防止体制を敷いて、これを強力に実施していく。セントラルバンク・サービスを提供していくプロとしての服務準則というものをもう一度確認し合い、それだけでなく職場の中のルールを確認する。もしルールを読み直してなお不十分だということがあれば、そこはきちんと見直す。それから、実際の現場管理においての監視体制あるいはチェック機能——相互にチェックしながら仕事を進める機能——の強化というように、多面的な対応をしたいということである。

もう一つは、非常に多くの人間で役割分担をしながら仕事をしているが、自分の仕事だけわかっていて、周辺の動作がわからないで仕事をしている人は誰もいない。自分の仕事をきちんとやっていても、周辺で何かイレギュラーなことが起こっていると思った場合には、それはおかしいのではないかということを率直に伝え合える仕組みというものを持つことが重要である。それを上手に整備するということまで含めて対応しようということになっている。

【問】

日本銀行の場合、一般の銀行と違って、国民と直接触れ合う機会が非常に少ないわけで、こうしたことが起きてしまうと、信頼の回復が非常に難しいと思うが、具体的にどのようにして信頼回復を図っていく必要があるとお考えか。細かいプランは別に、日本銀行の精神としてどのようなことをやっていくのかということと、総裁自身の今回の件に関する責任について考えを伺いたい。

【答】

私自身は今回のことについて、国民の皆様に広くご心配をおかけした、あるいはご迷惑をお掛けしたということに深い責任を感じている。しかし、私は日本銀行を、正しくより強い金融サービスの提供母体として築き上げていく責任を負っている。日本銀行の大部分の人は、高い規律で仕事をし続けているということに強い確信を持っている。今回の事件で強い衝撃を受けていることも事実であるが、ここで皆が元気を失ってはならないと全員を激励しながら、我々は新しい金融サービスを堂々とやっていけるんだ、という精神構造と仕組みを早く築き上げたい。我々が自信を持って仕事をし、そのことに対して皆様の信頼を頂戴できるということが、言ってみれば信頼回復の正攻法である。我々は正攻法で信頼の回復をしたいと強く決意している。

【問】

長期金利だが、このところ景気の減速を示す指標が相次いでいるということもあって──本日は少し反発したわけであるが──、1.3%台まで低下してきた。こうした長期金利の動向についてどのようにご覧になっているか。

それと本日、市場では長期国債の買い切りオペがあるのではないかという予想が強かったが、予想に反してなかったということで、市場は長期金利が上昇する、債券相場が下がるという反応を示した。そもそもどうしてこういうことが起るのかということを考えると、現在、月1兆2,000億円となっている長期国債の買い切りオペは、もともと金融政策決定会合のディレクティブ(金融市場調節方針)には何も書かれておらず、現場の金融市場局の裁量で動かしうるものだという不安というかそういう認識があるためで、もしかしたら今月は1兆2,000億円やらないのではないかという不安も市場にあると思う。量的緩和政策を解除するまでこの1兆2,000億円というのを引き下げることがないのか。

もう一つ、3条件が達成されて量的緩和政策が解除される前に——技術的な理由かもしれないし、あるいは副作用ということを懸念してという理由かもしれないが——、市場では当座預金残高が30~35兆円から引き下げられるのではないかという不安というか懸念というか予想も一部である。そういうことが起りうるのかどうか、お聞きしたい。

【答】

長期金利が落ち着いている事情というのは多岐にわたっていると思う。まず世界的に長期金利が不安定になっているかというと、非常に安定している。米国において、あれだけステップを踏んで短期金利の政策的引き上げが行なわれても、長期金利が極めて安定しているということがあるし、米国以外の欧州やアジア諸国をみても相対的に長期金利は安定している。長期金利というのは、国境を越えて完全連動ではないが相互に裁定を働かせながら動く性格を持っているので、そういった面からくる安定化効果というのがひとつ働いているだろうと思う。同時に、国内的には経済の先行きの景況感が、足許踊り場局面にあり、かつ踊り場局面からいつ脱却できるかが今のところいくらか不透明になっているということで、先行きの長期金利につき強めの市場心理が形成されにくいということがあるだろう。一方、物価のほうも、先程申し上げた通り消費者物価指数が引き続き小幅の下落基調で推移しているし、当面そういう基調で推移しそうだという認識は、日本銀行だけのものではなく市場の認識でもある。おそらくそうしたことだろうと思う。加えて、日本銀行の現在の緩和姿勢の維持ということに対する強い信認がある。別の言葉で言えば、時間軸効果が揺らぐことなくしっかりと信認を得ている。大要そんなようなことの合わせ技ではないかと思う。

個々の長期国債のオペをいつ具体的にやるかというのは、短期のオペレーションと同様に金融市場調節担当者が、資金需給の状況や市場の地合いを見ながら機動的に決めていっているものである。従って、本日、長期国債のオペをやったかやらないか、私自身は知らない。金融市場調節担当者の責任でそこは運営されているということである。ただ、金融市場調節担当者には、政策委員会から「30~35兆円という流動性供給ターゲットの中で安定的な市場地合いの形成に努めるように」というマンデートが与えられている。これに違反しない範囲内でマーケットとの会話を交わしながら適切な地合いを築いていくというオペレーションをやっていると思う。

それから金融政策の枠組みの変更というのは一体何を意味するか、どういうイメージで問うておられるか確認できていないが、いずれにしても最終的に伝統的な金利政策というか、金利を中心とする金融調節のフレームワークに辿り着いた時が、今の枠組みの修正が完了した時点と考えることができると思う。それ以前にどういうステップを踏むか、いつからどういうステップを踏み始めるか、踏み始めた後どういう内容でどういうテンポでそれをやっていくかということは、今は全くオープンだとこの前もお答えした。従って、その過程で長期国債のオペをどうするか、あるいは流動性供給量をどうするかということは全くオープンである。オープンであることが直ちに市場に不安を呼んでいるかどうか、私は呼んでいないと判断している。将来の状況変化の中で市場に手の内を完全に読ませるというのとは少しわけが違うが、市場に予見性を与えながら、我々は十分コミュニケーション・ポリシーを果たすだろうということも、既に10月の展望レポートを出したときに約束したことである。その中で責任を果たしていきたいと思っている。

【問】

来年度の国債発行計画についてお伺いしたい。先日、財務省から要望があった日銀保有短期国債の再乗換えは受けることに決まったのか。

【答】

財務省から、2005年度および2008年度に国債償還額が集中しているが、これをマーケットを均す意味で平準化を図りたい、その意味で、今年度中に乗換えで取得した短期国債の再乗換えおよび買入消却の実施について、なにがしか応じて欲しい旨の要望がきているのは事実である。

これについては、政策委員会できちんと審議をして決めて、政府にご返答をする必要があるわけである。昨年もそうであったが、この件に関しては、今年度の場合には、平成17年度予算にかかる財務省原案の内示および国債発行計画が公表されるタイミング──多分来週になるのであろう──に合わせて発表を行う予定である。今しばらくお待ち頂きたいと思う。

私どもは政府に対するファイナンスという意識ではない。マーケットの償還のコブを平準化するということはわかるが、我々のほうは、今後の金融調節を円滑にやっていく、我々として自由自在にやっていくための日本銀行自身の最適ポートフォリオというものがある。これを崩さない範囲内でなければ応ずることはできないわけであるので、そこのところを慎重に吟味して答えを出していきたい。

【問】

再乗換えに応じるとなると、例外的な措置ではあると思うが、日銀に安易に頼ることによって財政規律が歪むのではないかという危険もありはしないのかとも思われる。それについてどう思われるか伺いたい。

また、今おっしゃたように2006年度以降も借換え債の発行が2008年度まで毎年増えるので、2006年度以降も再乗換えの要請が来かねないと思うが、その場合それでも応じていかれる可能性があるのか。

さらにもう1点、これはあくまでも1年物のTBでの乗換えであるが、1年物のTBとはいえ、毎年乗換えていれば中長期債に乗換えているのと実質的に同じだと思う。実際、中期債や長期債で乗り換えるということをかつてはおやりになっていたが、それを復活させる可能性はあるのか。その場合、「日本銀行が保有する長期国債残高は銀行券発行残高を上限とする」というルールに引っかかると思うが、その変更もいずれはする必要もあるのではないかとみる向きもマーケットにあるが、それについてどうお考えか。

【答】

日本銀行は財政のファイナンスのために何か要請に応ずるということは、基本的な考え方の中には入っていない。国債の償還のコブが集中するというのは一種のマーケットのディストーション(歪み)をよぶ要因であるから、政府の立場から見ても中央銀行の立場から見ても、これを均すことができるのであれば均したほうが、マーケットに対してより望ましい条件を作ることができるというのが共通の認識になるであろう。これはどこの国においても、国債管理政策上、中央銀行と政府とが協力しうる一つの典型的な場面である。さらに、もう一つ重要な点は、何よりも日本銀行自身が今後市場の中で有効にオペレーションをやっていくために、日本銀行自身のポートフォリオの最適バランスを崩してはならないということである。そういう観点からいけば、期間の長いものを持つというよりは、短い国債で持っているほうが何回でも考え直す機会がある、いつでもノーと言えるということで、最適なポートフォリオを我々が常に構築していくのにより望ましいということが言えると思う。基本的にそういうスタンスで今までも臨んでいるということである。

【問】

今「マーケットのディストーションを均すことができるのであれば均したほうが良い」とおっしゃったが、この点をもう少しわかりやすく教えて頂けないか。

【答】

償還のコブがあるということは、大量の発行、償還が市場に対して行われるわけであるから、それをなるべく平準化すれば、マーケットがある時期固まって発行、償還に応じなければならないということがなくなる。つまりマーケットの中でしわが寄らないで済むという普通の常識的な意味である。

【問】

定率減税の縮小等で、これから家計の負担が増えることになると思うが、これは明らかにデフレ圧力を強めることになるかと思う。一方で、日本銀行としてはデフレ克服を最優先として金融政策を行っているわけだが、こうした財政政策との整合性をどのようにお考えか。

【答】

日本銀行はもちろんデフレ克服ということを最優先に政策を行っているが、そこだけを見ているわけではないこともまた事実である。現に、デフレ克服の過程で民間部門の構造調整の進展ということを非常に重視しながら、デフレ脱却へのパスというものを想定して、着実にそれを実現する努力をしてきた。ようやくこの点ではトンネルの先に明かりが見えてきたので、必ずこの明かりは灯したい。しかし、より長い目で見れば、日本の構造問題は、公的部門に、特に財政赤字の累積というかたちで大きく残っている。ここから先は、この公的部門の構造問題と格闘しながら、より望ましい均衡のとれた経済の実現を目指していかなければならない。従って、今後の金融政策を考える場合には——金融政策というのは所詮比較的短い時間的距離でより良いものを実現していく政策ではあるが——、公的部門の構造改革と表裏一体のものとして、より望ましい経済パフォーマンスを実現していくという視点を次第により強く取り入れていかなければならない。

金融調節の場面に翻訳してそれを言えば、望ましい長期金利の形成ということ一つを取り上げてみても、公的部門、特に財政収支バランスの長期的な回復に対する国民の信認が強まっていかなければ、金融政策でいかにアクロバット的に演技してみても、望ましい金利形成はできないということは前もってわかっていることなので、そこはしっかり視野に入れていく。しかし、機械的に財政再建を進めると、ごく短期的にはかえっていろいろと逆の問題が出てくるのではないか、ということはご指摘の通りだと思う。従って、財政については、長期的なプログラムを国民の皆さんにしっかり理解しておいて頂く必要があるが、実施のプロセスは相当フレキシブルに経済の実態に合わせてやっていくという最も難しい宿題がある。金融政策に比べ、財政をフレキシブルに運営していくのは難しい課題だが、これから10年位の期間はこの難しい課題に皆でチャレンジしていかなければならないと思っている。

【問】

今回の取り組みを見ると、財政当局としては、デフレ克服を最優先課題にはしなくなったのではないかとも受け取れるが如何か。

【答】

そんなことはないのではないか。政府のほうでこれから出していくプログラムの中には、引き続き、政府の言葉で言えば「デフレ克服のために、政府・日銀一体となってがんばろう」と入っている。その言葉は今後も入るだろうし、言葉だけではなくて、それは本音だろうと思う。我々のほうも、デフレ脱却は大事だが、その先に望ましい経済の姿につなげていかなければ何もならないとも思っているし、その接続詞をこれからどう用意していくかということだと思っている。

【問】

金融庁のほうで金融重点強化プログラムの策定が進んでいると思うが、ペイオフ解禁後の金融行政のあり方について、総裁の見解を改めて伺いたい。

【答】

政府あるいは金融庁のほうでご検討になっておられる金融重点強化プログラム──本日も一部報道があったようであるが──については、今年の6月に発表された「基本方針2004」の中で、来年度以降、ペイオフ全面解禁後の金融行政の方向性を示すものとして打ち出されて、その後、その具体的な検討が進められているものだと承知している。

まだ、このプログラム自体、金融庁においてどこまで固まったのか、いつ発表されるのか、ということを承知していないので、内容について私からコメントすることは差し控えたいと思っている。経済財政諮問会議では、伊藤大臣から大きな方向性について既に1回ご説明があって、委員会のメンバーで一度議論したことがあり、私も発言させて頂いた。

不良債権問題が峠を大きく越えて、金融機関は押並べて自己資本を前向きに使えるようになってきており、ペイオフ全面解禁後、金融機関は、新しいサービスで企業の前向きな活動を十分後押しできるような姿でサービスを提供していかなければならない。その場合の金融機関の行動原理というものは、相互の競争を重んじながら、質の高い金融サービスを提供していくということにポイントが絞られていくと思う。従って、金融行政あるいは私どもの考査・モニタリング等の機能を通じた個々の金融機関へのアプローチの姿勢というものは、これまでとペイオフ解禁後とでは、かなり変えていかざるを得ない。金融機関自らの競争力構築のための努力、イノベーションの努力、また競争力構築のための一つの系となりえると思う合併再編等──本日の記事によるとコングロマリット形成という話もあるが──、新しい競争のメカニズムを個々の金融機関がどうやって作っていくかということの一環として、そうした努力を金融行政あるいは日本銀行のアプローチが後押しできるように視点を切替えていかなければならないと思う。

これはつい先般、名古屋においても確か記者会見でご質問があった点かと思うが、私の認識は、ペイオフ全面解禁後の日本の金融の姿というのは、不良債権問題に悩んだ以前の、昔の金融の姿に戻るのではないということである。この点が非常に重要である。以前のように金融機関は一行といえども破綻しない、凪のような金融市場に帰るわけではない。企業が新しいビジネスに積極的にチャレンジしていくことに対して、寸分違わぬ質の高い金融サービスをいずれかの金融機関が提供していくということになれば、金融機関は様々な新しいリスクを取りながら、投資もし、サービスの提供もしていくということであるから、金融機関の破綻は、今後は個々にはあり得る。ここに大きな認識の変化が必要である。但し、システミック・リスクは起こさない。この点が非常に大事で、金融行政も、レンダー・オブ・ザ・ラスト・リゾート(最後の貸し手)機能を持っている我々も、システミック・リスクを起こさないという点では相当緊張感を持って臨んでいかなければならないと思う。しかし、だからといって個々の金融機関の経営に深く関与するというやり方は急速に修正していかなければならない。経営の自己責任に大きく委ねていくということになると思う。

報道各社の皆様方にも、この点は是非お願いしたいのだが、ペイオフ全面解禁後、もう金融機関は一つも壊れないような、凪のような静かな世界に戻るのだという認識が、国民の皆様方の中に少しでも残っているとしたら、非常に難しいことではあるが、ここのところは是非修正してもらわなければならない。一行たりとも壊れてはならないという感覚があまり強すぎると、金融行政などが、引き続き経営に深く手を入れながらそうならないようにしていくというような行動をとることにつながりやすい面が残る。国民の皆様方の認識の大きな変換と、金融行政の構造の大きな変換、そして日本銀行のアプローチの仕方の大きな変換、この3つを表裏一体になった整合性のとれたものにしていかなければならない。来年のペイオフ全面解禁までに、そうした意味でのご説明を、我々ももう少しわかりやすくきちんとやっていきたいと思っている。

【問】

お札の問題に関連して伺いたいが、総裁として自らの報酬の返上とか何らかのけじめをつけられるお考えはあるのか。また、処分では諭旨免職が行われているが、行政機関の場合だと、今は大抵ある程度処分をした上で、本人が自主的に辞めるという、より明確なかたちの責任の取り方が一般的になっていると思う。その辺りについて、公務員並みの倫理が求められる日銀としての今後の処分のあり方についても伺いたい。

【答】

今回、二人の職位者を諭旨免職とした。日本銀行の職員に対する処分の課し方として非常に重い処分をしたと私どもは認識している。本人もその処分を非常に重く受け止めて、深く反省していると聞いている。

私自身は非常に重い責任を感じているということを申し上げた。私自身その責任をどういうふうに国民の皆様に示していくかということになると、先程申し上げたように、まず調査を急いで完結したいと思い、これは完結した。問題のあった行為──これは行為責任と監督責任の両方あるが──については、それは現場にしっかり権限委譲してやってきたことであるので、きちんと罰すべきものは罰する。そして、将来に向かって職員──大半の職員は、非常に規律正しく仕事をしているということを皆様方に是非認識して頂きたいと思うが──の皆を激励しながら、規律の高いより強い職場に作り上げていく。これは私の責任である。この仕事をやり遂げたい、こういうかたちで責任を全うしたいと思っている。

【問】

給与なり報酬の一部自主返納などについては、検討していないということか。

【答】

私の責任の取り方は、今申し上げたことですべてである。

以上