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総裁記者会見要旨(1月19日)

2005年1月20日
日本銀行

―2005年1月19日(水)
午後4時から約50分

【問】

 本日の金融政策決定会合の結果をご説明頂きたい。また、本日発表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の中間評価で、わが国の景気について「幾分下振れて推移した」という表現と、消費者物価について「やや下回って推移する可能性がある」という表現があったが、いわゆる出口論議を含めて総裁の見解を伺いたい。

【答】

 本日の金融政策決定会合では、当面の金融政策の運営方針について、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策を今後もしっかりと継続していく方針を確認した。

 またお尋ねの通り、昨年10月に発表した「展望レポート」で示した日本銀行の経済・物価見通しについての「中間評価」を行った。一言で言えば、私どもの基本的な判断は変更していないということである。

 景気については、足許の動きは少し下振れており、足許修正をしているが、先行きについては、10月の見通しに概ね沿った動きとなるだろうということである。

 物価面でも、基本的な見方は修正していない。国内企業物価は、10月の見通しに沿って推移するとみられる。消費者物価も、基調としては10月の見通しに沿って推移するとみられるが、質問で言及のあった点は、固定電話通信料や電力料金の下落などが指数面に影響を及ぼす可能性があり、他の条件を一定とすれば指数的には少し下回って推移する可能性がある、ということである。

 景気面で足許修正をしている理由は、繰り返し申し上げている通り、輸出が横這い圏内で推移する中で、IT関連分野の在庫調整などから生産面などに弱い動きがみられている点を取り入れたということである。

 先行きについては、海外経済が拡大基調を続ける——これは我々の想定通りである——中で、春以降、IT関連財の調整が一巡すると見込まれる。企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできている。そうした状況のもとで、景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくというシナリオを維持している。

 物価面については、国内企業物価は、足許内外商品市況高や需給環境の改善を反映して上昇しており、先行きも今申し上げた通り10月の見通しに沿って推移するとみられる。

 消費者物価についても、基調的な判断は10月の見通し通りである。今申し上げた通り、他の条件を一定とすれば、指数的には、新たな要因あるいは特殊要因——そのように言って良いのかわからないが——である固定電話通信料等の引き下げが影響を及ぼす可能性がある。

【問】

 偽造券の発見が相次いでおり、日本銀行は今月17日から支払いを全量新券で対応することにしているが、こうした措置を急遽決定した背景あるいは考え方についてご説明頂きたい。また、今後の更なる対応についてお考えがあればあわせて伺いたい。

【答】

 そもそも、今般新しい銀行券を発行するに至った最大の動機は、偽造券対策にあったわけで、新券切り替え後、旧一万円券の偽造券が大量に発見されたということは、新券発行を急いだ理由がしっかりと存在したということであるが、同時に、非常に遺憾なことであると思っている。

 新券の発行というのは、偽造に対する対策を眼目に据えてやってきたことであり、対策としては、昨年11月より発行を開始している新券の流通を一段と促進する必要があるということに尽きる。従って、それに見合った対策として早速今週から取引先金融機関に対して全量新券による支払いを実施している。

 ご承知の通り、新券が円滑に流通するためには、市中において、自動販売機その他機械対応がしっかり進むということも、最近の機械化の世の中では非常に重要なことであり、その点についても関連業界に対してお願いしているところである。

 機械化対応が遅れているということであれば、旧券のニーズもある。このように、一部旧券の利用ニーズもある中で新券の発行を急ぐということであれば、現実的にはその辺の相克があると思うし、国民の皆さまにはご不便をお掛けすることもあるかと思うが、偽造対策というのは社会的な目的に照らして非常に大事であるという点について、ぜひご理解頂きたいし、できる限りご協力をお願いしたい。

【問】

 今日、偽造キャッシュカードのスキミングによる窃盗団の摘発が行われている。ここ最近、キャッシュカードの偽造で銀行の自分の口座から勝手にお金を引き出されるという被害が相次いでいるが、銀行側と引き出された個人の方との間で補償の問題等でこじれているケースも多々あるように見受けられる。これだけいろいろな銀行が提携し合うと、預金している銀行の口座からでも、他の銀行からでも引き出せるのが実情で、個別銀行ごとの対応では対策が不十分ではないかとの指摘もある。金融庁は、来月中に銀行に対し対応策を作成するよう求めるとともに、自らも対応策をまとめる予定のようだが、日本銀行としては、どのような対策もしくは指導ができるのか。対策の予定もしくは総裁ご自身の所見を伺いたい。

【答】

 従来から、クレジットカードなどを巡る犯罪については、様々な対応がとられてきており、世の中において、経験と対応策のノウハウの蓄積もそれなりに進んできていると思う。しかし、今お尋ねのキャッシュカードの偽造による犯罪は、かなり金額的にも大きな犯罪になっており、日本銀行としても少し新しい側面からの物の考え方、対応が必要であると思う。クレジットカード、キャッシュカードを問わず、こうしたカード社会の中での犯罪というものは、全体の金融秩序維持という観点から日本銀行としても重大な関心を持って受け止めざるをえない。また、現に受け止めている。

 このキャッシュカードを巡る犯罪に対しては、ICカード化という更なるハイテクをもって対応する。あるいは生体認証というような、これまたハイテクをもって対応するといった道がありうると思う。また、ATMの引き出し限度額の引き下げといったような現実的な対応もありうると思うし、既にそうした具体的な取り組みを開始した金融機関も存在している。問題の重要性に鑑みれば、銀行界としてこれだけで足りるかどうか、より幅広い観点から対策を検討していくことが重要と考えている。

 日本銀行は必ずしも犯罪対策のプロではないが、金融システムに対する信認の維持、安全性確保という点では、我々も全力を尽くさなければならない課題である。金融のセキュリティの一層の向上という見地から、金融機関との対話の中で必要な対応策を更に検討していきたい。非常に幅広い検討が行われると思うので、日本銀行としてもしっかり議論に参画していきたいと思っている。

【問】

 2点伺いたい。現状の量的緩和のフレームワークに関して、2003年10月に決められたコミットメントをクリアしなければフレームワークの変更はされないということかと思う。一方で、当座預金残高目標に関しては、今までの引き上げの過程の中でもすべてが追加的な緩和ではなかったと思うが、当座預金残高目標の引き下げに関しても、コミットメントの条件をクリアすることが必要なのか。

 次に、総裁は以前から、景気が回復すれば金融緩和の効果が増してくると言っている。現在、一部で、金融緩和で狙っていた効果としてポートフォリオ・リバランスとか、クレジット・スプレッドの縮小ということがみられるかと思うが、今後、景気が回復してくると、金融緩和の効果と副作用の両面が増してくると思う。その辺について総裁の考え方を伺いたい。

【答】

 量的緩和に踏み切って以降、ターゲットとする流動性の目標を数次にわたって切り上げてきた。全体として、流動性の供給枠の追加は、信用秩序というか金融システムの安定化を図るということも包摂しながら、究極的には、デフレ脱却という目的を最終的に念頭に置きながら実施してきたものだ、とまとめることができる。従って、量的緩和の枠組みとは、所要準備額を超えて市場に対して思い切った流動性を供給する枠組みのことを言っている、と思って頂きたい。

 こうした措置に対しては、常に効果と副作用の両面がある。これは量的緩和に限らず、金利政策にも常につきまとっている問題であるが、効果と副作用とをいつも比較考量しながら、最適な政策の遂行パスというものを判断していくのが我々の役割であり責任である。そういう意味では、量的緩和に踏み切って以降も、金融緩和の過程で、常に効果と副作用とを比較考量しながら今日まで来ていると思う。現在は、景気が以前に比べて回復過程に入っている一方で、金融システムの不安定性というものが大幅に後退してきている。このように金融政策の実施の舞台が変わってきている以上、効果と副作用についても常に両面で変化がある。従って、両方突き合わせた場合のメリット、すなわちネットでのメリットの大きさはどう変わっているかということにも変化があるので、そこのところは毎回きちんと議論を詰めて結論を出していくということになっている。おっしゃる通り、景気が回復過程に入れば、量的緩和の景気支持効果が強まる一方で、副作用の面も大きくなる可能性もあると思うので、その点については、両方を比べて差し引きどういうことになるのか、よく注意していきたいと思っている。

【問】

 今、財務省が、国債の販売先を海外の投資家にも拡げようとしている。長期金利が上がれば、財政をさらに逼迫させるということにもつながると思うが、国債の販売先を拡げることによって、長期金利が今後急騰する可能性はあるのか、総裁の見通しを伺いたい。

【答】

 日本の国債については、従来から、国内の市場の発展を促しながら、国債の安定消化、そして国債市場における価格形成が円滑に行くように非常な努力が払われてきた。日本銀行も市場整備には一役も、二役も買ってきているが、これだけの大国の国債発行にしては、消化層が狭すぎる。特に海外投資家による消化ウェイトが非常に小さいというのが特徴である。財政制度等審議会における議論においても、この点について、経済および金融市場のグローバル化の中では、もっと広く海外にも投資家層を求めて、グローバルにも価格裁定が効くようなかたちで、より適正な国債の金利が市場において形成される条件を作っていくほうが、長い目でみて金利が経済全体の実勢に沿うように形成されやすくなるはずだ、という考え方の上に立っている。

 海外の投資家層の参入が厚くなれば、価格形成が歪むリスクが大きくなるとは必ずしも言えないのではないか。市場に与えられる条件に急激な変化があったときに、価格のボラティリティーが高まるという意味では、現在の市場でもそうだと思うし、海外の参加者が増えた場合にも、同じだと思う。海外参加者が増えれば、余計にそれが鋭角的に出るかどうかは、一概に言えない。むしろ長い目でみれば、投資家層の範囲が広いほうが金利裁定がより的確に働く、あるいはショックが起こったときにも次の均衡に早くシフトすることができるという効果があるのではないかと思う。

【問】

 先程の効果と副作用の話であるが、都心の不動産の取引価格が一部では高騰しているようである。資産価格の上昇ということについては、総裁はどのように目を配っているのか。金融政策の観点でお答え頂きたい。

【答】

 特に東京都区部の土地の値段が、全用途ベースでみて少しプラスに転じてきている。用途別にみると、住宅用の土地の値段が商業地・工業地と比べてもより高い上昇を示し始めているということは、私どももよく承知している。

 日本の不動産価格の形成メカニズムが、かつてのような価格形成メカニズムから、収益還元価格的な世界共通の価格形成のメカニズムに大きくシフトしてきている中での動きと、私どもは目下受け止めている。

 金融緩和との関連で、この価格の変化、特に上昇の動きが行き過ぎたものにならないかどうかという点は、ご質問の通り、我々も十分注意してみていかなければならない点だと思っているので、目を離さないでみていくが、目下のところ、これが非常に警戒的なシグナルを出しているとは判断していない。

【問】

 先程の偽造キャッシュカードの件だが、様々な対応策の検討の一環として、被害に遭った方への何らかの補償のあり方等も必要であるとお考えか。

【答】

 これは、むしろ日本銀行の役割というよりは、金融庁の役割、あるいは政府の役割ということであり、伺ったところでは、政府において実態を踏まえて検討される方針と聞いている。補償の問題について、私どもから今の段階でコメント申し上げることはない。

【問】

 為替相場が非常に不安定な動きを続けているが、この背景について総裁の見解を伺いたい。

 また、2月4・5日とロンドンでG7が開かれ、総裁もご出席される方向だと思うが、過去のG7、例えば、一昨年のドバイや昨年のボカラトンでは、為替調整に関するワーディングが非常にポイントになったわけだが、久しぶりに為替のワーディングという部分を注目しているとの声が市場で多い。今回のG7はどのような角度で議論が進んでいくのか、また、どのような点に主要議題が絞られていくのかについて、総裁のお考えを伺いたい。

【答】

 為替相場の動きそのものは、おっしゃる通りこのところ少し不安定になっていると私どもも見ている。従って、むしろ今後の動きが心理的にあるいは実体的に経済にどういう悪い影響をもたらすか、もたらす心配があるのかという目でしっかりとみていきたいということに尽きる。

 なぜ為替が不安定になっているのかということは、なかなか本当の理由はわからない。グローバルな不均衡という構造的問題を出発点にして様々な議論が市場においても行われているというのが現状だと思う。一方で、市場の議論は、循環的な内外の景気局面の差、あるいは金利の動きの差も強く反映して動くときもある。あるいは、双方が綱引きになるというときもある。このように様々に局面が変化するので、現時点でどうかということを、なかなか断定して言えないところがある。

 市場が不安定になるときは、そのような見方のギャップをついて資金を動かそうとする人たちの力が、非常に強めに反映する瞬間もあるということであり、なかなか複雑であると思う。為替については、各国経済のファンダメンタルズに沿って安定的に推移して欲しいというのが、各国共通の願いである。できるだけそのような方向に沿って市場が安定化するように、各国のマクロ経済政策について、経済の持続的回復や物価の安定という軸をしっかり見据えて適切に運営されていくということが一番大事だと思っている。

 2月のG7については、年初ということもあるので、改めて今年の世界経済の展望、そして、やや長期的な観点から様々な不均衡の問題ということも当然議論の対象になると思うが、当面、今年、来年にかけて、安定的でより持続的な経済の拡大をどうやって確保するかということが基本的な命題になると思う。そうした中で、為替の安定については、昨年あるいはそれ以前からG7を重ねる都度、国際的なコンセンサスになっている「不規則な為替変動は好まない、経済のファンダメンタルズに沿った為替の動きこそ歓迎される」ということを、より強く確認していくということになると思う。

【問】

 本日の金融政策決定会合でも、前回会合の議事要旨の承認手続きがあったかと思うが、議事要旨について伺いたい。

 米国のFRBが今年1月からFOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨の公表時期を早めて、従来次の会合の後に公表をしていたものを次の会合前に公表することとした。その結果、市場参加者にとっては、次の会合の金融政策決定の予想をしやすくなるという効果があると言われている。そうしたことをFRBが行った背景には、昨年来の低金利政策の解除というものを、あまり大きな混乱もなく進めるため、市場参加者との対話を円滑化しようという狙いがあると理解している。日銀も来るべき量的緩和の解除という大きな課題を控えた中で、昨年10月に市場参加者との対話を円滑化するための工夫を考えていくと言っていたと思うが、日銀も今後、金融政策決定会合の議事要旨を次の会合の後ではなく、次の会合を待たずに出すという工夫もしていくということも考えているのか。その点についてどのような考えがあるのか伺いたい。

【答】

 今、お尋ねのあった通り、米国のFRBは、前回からFOMCの議事要旨を次回の会合の前に公表する、つまり公表時期の早期化を行った。日銀と同様、FRBのほうも、様々な努力の一貫として、政策運営の透明性向上がなされたと私どもは理解している。

 公表を早めたことについて、どんなメリットがあり、逆にデメリットがあるか、まだ1回だけなので、FRB自身も十分つかんでいないと思う。先日、米国に行った折──ちょうど、公表時期の早期化後、初めての公表があった直後の訪米であったが──この点についてどうかと聞いてみたが、「利害得失を論じるには、まだ1回目だから早すぎる」ということであった。コミュニケーションが早くなるというメリットがある一方で、次回の金融政策決定会合における議論の妨げになるような過剰な市場の反応を呼ばないかというデメリットも考えられ、これら両方について、まだ十分には検証できていないということである。

 日本銀行としても、金融政策の透明性向上ということが非常に大事な課題ということは繰り返しお話している。現に、これまでも様々な取組みを進めてきている。量的緩和政策継続の約束の明確化、3か月毎の中間評価の公表、金融経済月報(基本的見解)の即日発表、記者会見を金融政策決定会合の都度行うといったことも、こうした取組みの一環である。

 ご指摘のあった議事要旨についても、少し遡るが、2000年9月に公表時期を早期化した。次々回の会合で決めるとしていたものを、「概ね1か月程度を目途に次回または次々回の決定会合で承認のうえ、公表する」ということに踏み切ったわけである。日本銀行の場合は、日銀法で、金融政策決定会合の承認を経て公表するということが定められているので、与えられた条件はFRBとは少し違うということがある。従って、日本銀行として政策運営の透明性向上を図っていくという場合、FRBと同じように、即、議事要旨を次回会合までに公表するというやり方ではなく、別の方法を組み合わせながら対処していくことになるのだろうと思う。

【問】

 先程、2003年10月に決定したフレームワークに関する質問への回答で、「流動性の枠の追加というのは、信用秩序の安定化を"どうしながら"究極的にデフレ脱却を念頭において、所要準備を超える流動性を市場に思い切って供給すること」とおっしゃったのか、その点についてもう一度わかりやすく説明して頂きたい。

 また、本日の中間評価についてであるが、CPIの先行きについて、「基調としては10月の見通しに沿って推移するとみられるが、固定電話通信料引下げの指数面への影響等によっては、やや下回って推移する可能性がある」と書いてある。量的緩和継続のコミットメントである3つの条件を判断する上で、基調のほうをより重視されるのか、それともコアCPIの指数面に表れた数字そのものをより重視していくのか伺いたい。

 最後に、効果と副作用についてであるが、先程のお答えでは景気が以前に比べて回復過程に入っている一方、金融システムの不安は後退してきているとのことであった。こうして環境が変わってきている以上、効果・副作用の両面に変化があるので、ネットのメリットも変わってくるであろうし、それをきちんと議論されていくとのことであった。このネットのメリットが減って逆にネットの副作用が増すような状況になれば、量的緩和の枠内で所要準備を超えて非常に思い切った流動性を供給する考え方の中で、現在の30~35兆円という当座預金残高目標を引き下げる可能性はあるのか。あるいはコミットメントである3つの条件自体を反故にするというようなこともありうるのか。

【答】

 最後の反故とはどういう意味か。

【問】

 条件を変えるという意味である。

【答】

 それはない。

 初めのご質問であるが、量的緩和というか90年代以降ずっと一貫して行っている日本銀行の金融緩和政策というのは、煎じ詰めればデフレ経済からの脱却を目標にしている。デフレには様々な要因がある。特に企業行動の面、金融機関行動の面、消費者心理の面等、非常に幅広い要因からデフレというものが形成されている。

 特に日本経済の場合には、バブル崩壊後、その後遺症として金融機関が多額の不良債権処理という問題を負担した。これを処理する過程においては、金融不安というものが起こりやすい状況であるということをいつも抱えながら、デフレ脱却への苦しいプロセスを歩んできたということである。従って、市場において金融不安が人々の行動を大きく縛りつけるようなかたちで現出しないように、金融政策面で極力対応するということも、経済をデフレから脱却させるための対応の中で非常に大きな要素になっていた、という意味のことを申し上げたわけである。つまり、わかりやすく言えば、金融不安を暴発させないということを含みながら、デフレ脱却という究極の目標に絞って緩和政策を運営してきている、ということを申し上げたわけである。特に、量的緩和政策という新しいフレームワークに移ってからは、市場における金融不安の増幅ということに対しては流動性の供給というものが強い対応策になり続けてきたということを含みながら、そのようにご説明申し上げたということである。

 2つ目の質問であるが、デフレから脱却したか、あるいは一見デフレから脱却したように見えても再びデフレに逆戻りしないか、というように物価に対する判断を最終的にきちんと固めるためには、CPIだけ見ていては不十分なので、その他様々な物価指標は当然であるし、その他の経済指標、企業行動等も含めて判断しなければならない。そういう意味で最終的に重要なのは総合的な基調判断ということになる。おっしゃったコミットメントとの関係では、あくまでもコアCPIの足許の指標がゼロ以上になるか、先行きの見通しがプラスになるかについては、数字的に非常に明確な話である。3つの条件に照らしてお考え頂ければそのように整理して頂けると思う。

 3つ目の質問であるが、当座預金残高目標の引き下げについて予言的なことは何も申し上げられない。これはその都度政策委員会が決めていくことである。ただ、効果と副作用の点について言えば、景気が安定的な回復過程を辿るとすれば、量的緩和の時間軸効果が効いて、長期金利を含め金利が比較的低水準で安定している限りにおいて実質金利は下がるということなので、マクロ的に明らかに効果は強まるということであると思う。

 一方で、ある意味でそれは金利機能というものを少し抑えている面がある。従って、資源の再配分機能をフルに発揮させるという点では次第に物足りなくなるという副作用も出てくる。この兼ね合いをどう考えるかという問題は常にあるわけであるが、私どもが事前に考えていたこと、そして今も考えていることは、CPIでみて前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまでの間に、副作用がメリットを上回るほど大きくなるとは想定していない。今もそういうことは予見していないということである。従って、デメリットが大きくなったから量的緩和に大きな修正を加えなければならないというようなことは予見していないということである。

【問】

 景気認識について、春以降、次第に調整が進み持続性のある成長軌道に移行していくという表現がある。景気を何で見るか難しいが、GDPベースで見れば2004年4−6月期からやや停滞感があるわけで、春以降に回復がはっきりしたとしても、1年ほど停滞が続いたということになる。そうなると必ずしも微調整ではなかったのではないかという感もあるが、その辺りのご認識はどうか。

 もう1点は、前回の政策変更からちょうど1年ということで、前年比で見た数値等ではいろいろ見え方が違ってくるものも出てくるかと思う。1年経ったということで説明に対して何か付け加えるようなことがあるか。

【答】

 GDPのベースでは、まだ4−6月期、7−9月期までしか数字が出ていないので、1年をもって論ずるというのは少し早過ぎると思う。GDPの数字を離れて、特に生産面の指数を中心に見る限り、まだ足踏み状態が続いている。刻々と経済の動きを示す生産を中心に見た場合には、春以降、いずれかの時点で再び安定的な回復の動きを見せるようになるのではないかというのが私どもの見通しだが、振り返ってみて調整がどれぐらいの深度であったかということは、もう少し経たないと評価できないと思う。しかし、2000年から2001年にかけてIT絡みで世界的に大きな調整が起こった影響——日本自身もその重要な一翼を担っており、その中で日本経済もかなり強い打撃を受けた——と比べれば、調整深度は浅く終わる可能性が高い。この見方は今も変わっていない。IT絡みの調整については、何回も申し上げているが、事前に正確に読めないという悩みがあり、今回も同様である。現に、足許若干調整させて頂いたように、当初の予想よりは若干長引いているということは事実であるが、それでもなお、2000年、2001年のような深い調整にはならないだろうというシナリオは崩れていない。

【問】

 本日の金融政策決定会合で、金融政策は現状維持ということであった。結果的に、昨年1月に変更してから1年間現状維持が続いたわけである。何もしていないということにはならないと思うが、外から見て、結果的にそう見えるところもあると思う。結果的に1年間政策変更がなかったことに関して、総裁はどう評価しているか。また、今回の展望レポートの中間評価を見ると、CPIの先行きに関して多少下向きのことも書いており、量的緩和政策の解除は先延ばしになるのではないかとの見方もできるかと思う。その点についてどのようにお考えか。

【答】

 我慢強く量的緩和政策を続けているが、量的緩和政策が、企業のリストラ、金融機関の不良債権処理といった民間部門の構造改革をしっかり後押ししてきたことは非常に明確だと思っている。経済全体の動きとして、今、海外の影響も受けて生産面を中心に少し足踏み状態にあると申し上げたが、企業マインド、金融機関の今後を巡る経営姿勢というのは次第に前向きになってきている。そういう意味では、こういう政策を我慢強く続けていくということに我々はかなり自信をもってやっている。今後もやり続けると申し上げて良いと思う。

以上