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総裁記者会見要旨(4月28日)

2005年5月2日
日本銀行

―2005年4月28日(木)
午後3時半から約55分

【問】

 本日の金融政策決定会合の結果について、趣旨をご説明頂きたい。また、本日、春の展望レポート(「経済・物価情勢の展望」)が発表されたが、ここで示された情勢判断を踏まえて、現時点での日銀の景気・物価見通しならびに金融政策運営のスタンスについて伺いたい。

【答】

 本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、消費者物価に基づく明確な約束に従って、金融緩和政策を引き続きしっかりと堅持していく方針である。

 また、本日、展望レポートを決定・公表した。そのポイントは以下の通りである。

 日本の景気は、IT関連分野の調整の影響が弱まるにつれて、年央以降、回復の動きが次第に明確になり、2005年度は、潜在成長率を若干上回る成長が実現するとみられる。また、2006年度は、現時点においてはかなり幅をもってみる必要があるが、緩やかながら持続性のある成長軌道を辿ると予想される。

 こうした先行きの経済の姿は、海外経済が拡大基調を続けることに加え、企業の様々な取り組みによって企業収益が高水準を続けること、このような企業収益の好調が様々なかたちで経済の各部門に及んでいくこと、さらに、慎重な企業行動を背景に設備投資、在庫投資などの面で行き過ぎは回避されていくこと、を基本的なメカニズムとして想定している。

 物価面については、国内企業物価は、2005年度、2006年度とも上昇を続けるとみられる。一方、消費者物価についてみると、原材料コストの上昇は企業部門における生産性の上昇によってかなりの程度吸収されるとみられ、目立った上昇は想定していない。前年比変化率では、2005年度は、米価格の下落や電気・電話料金引き下げの影響がなお暫く残ることもあって、前回見通しより幾分下振れ、ゼロ近傍での推移にとどまると予想している。2006年度にかけては、これらの特殊要因の影響が剥落する中で、前年比変化率がプラスに転じる可能性が高いと判断している。

 こうした見通しのうち、経済活動についての上振れ・下振れ要因としては3点ほどある。すなわち、エネルギー・素材価格の動向、米国および中国の景気動向、国内民間需要の動向、が挙げられる。

 また、物価面では、上振れ要因としては原油価格をはじめとする内外商品市況の上昇やそれに伴うインフレ心理の台頭が挙げられる。一方、下振れ要因としては規制緩和などに伴う競争環境の強まりの影響が引き続き挙げられる。

 以上が展望レポートの主たる内容であるが、先行きの金融政策運営については、今回の展望レポートが対象とする期間において、量的緩和政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かはなお定かではないが、今回の経済・物価見通しが実現することを前提とすると、2006年度にかけてその可能性は徐々に高まっていくとみられる。金融政策の枠組みの変更やその後の金融政策運営については、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって、物価がなお反応しにくい状況が続いていくのであれば、余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられる。

【問】

 先に公表された「地域経済報告」をみると、全国9地域のうち3地域で景気判断が3か月前対比で悪化しているが、こうした結果や先の支店長会議の報告も踏まえて、日銀として地域間の景況感に格差が生じていることについて、どのように考えているか伺いたい。

【答】

 日本銀行では以前から、地域経済の状況について、支店長の報告に加え、本店でもかなり肌理細かい調査を行い、実情把握に努めてきている。

 今回、「地域経済報告」というかたちでまとめてみて、改めて中央と地方の違いを確認した。今おっしゃった通り、全国9地域のうち、近畿、中国、四国の3つの地域において、景気判断がやや下方に修正されている。またあえて言えば、全国の景気が緩やかな回復基調にある中にあって、北海道、東北の2つの地域において、景気が横這い圏内の動きに止まっていることも確認された。

 繰り返しになるが、全国的な景気は基調として回復を続けているが、企業間や地域間の格差は根強く残っている。大企業・製造業は、顕著に拡大を続けている世界経済の好影響を受けやすいというポジションにあるほか、自らも有利子負債の削減などを積極的に進めてきたということもあり、全般に業況の改善が進んでいる。一方、非製造業・中小企業等では、そこまでの回復感が伴っていない。従って、大企業が多く立地する東京などの大都市に比べて、地方の景況感の回復が遅れている面が引き続き確認されたということである。日本銀行では、こうした地域による格差の存在を十分認識したうえで、粘り強く金融緩和を続けているところである。

 なお「地域経済報告」は、日本銀行の支店・事務所のネットワークによる調査結果をより効果的に活かすことを狙いとして作成されたものである。金融政策の前提となる情勢判断において、従来以上に肌理細かく地域経済の状況をフォローすることができるようになったといえる。レポートの中身をこれからさらに充実していければと思っている。

 今回の金融政策決定会合においても、各政策委員は、先般の支店長会議における各地からの報告や、新しく作成された「地域経済報告」を十分踏まえた上で議論された、と議長として感じたところである。

【問】

 今日の会合の結果は賛成多数ということであるが、賛成と反対の内訳を伺いたい。また、2回続けて、全員一致ではなく賛成多数ということであるが、全員の意見が一致しないという点について、総裁はどのように考えているか伺いたい。

【答】

 今日は賛成多数による決定ということであり、7対2である。

 経済の状況について大きな認識の相違があったわけではないと思っている。ただ、金融市場における流動性需要の後退、それに対する対処の仕方について、前回同様、意見が分かれた部分があったということである。

【問】

 今の質問との関連で伺いたい。前回の記者会見では、総裁自身、少数意見に関してどう受け止めるかについて、もう少し様子を見たいという考えだったと思うが、流動性需要の減少について現時点でどう評価すべきと考えているか。特に、前回の金融政策決定会合の時との違いがあればお聞かせ頂きたい。

 次に、展望レポートの記述で、量的緩和の枠組みの変更について、2006年度にかけてその可能性は徐々に高まっていくと、あえてその可能性に言及している。昨年10月よりは踏み込んだ書き方にも読めるが、その辺の含意、真意についてもう少し詳しく伺いたい。

【答】

 まず最初のお尋ねだが、私自身というよりも政策委員会のメンバー多数の判断について、前回と今回とで特に大きな違いがあったとは思っていない。引き続き経済の状況の推移、金融システムの安定化度合いの深まり、金融市場における流動性需要の出方とその変化、そして市場のイールド・カーブの形成のされ方などを注意深く見ながら判断していこうということであって、このことは毎回の金融政策決定会合できちんと判断している。前回もそうであったが、その点には変わりはないと思っている。

 私自身、前回の記者会見でも申し上げたが、少数意見の中に将来物事を判断していく場合に価値ある部分というのが必ず含まれているはずである。政策委員会の議論というのは一種の創造的な過程であるので、そういう目で少数意見をみて、意見が分かれて困るという見方をせず、将来に価値あるものでうまくつなげられる部分をきちんと活かしていくことに、議長として責任を感じている。

 第2の質問だが、今回は、2006年度にかけてその可能性は徐々に高まっていく、と申し上げた。前回は、政策委員会のメンバーの多数の見通しは、2005年度について物価がごく僅かのプラスになるという見通しを出したが、今回も似ていると言えば似ている。つまり、2005年度に電話料金、電力料金などの公共料金が規制緩和によって下がるという部分が出てきたため、数字の上で下方修正しているが、物価の変化率の形成のされ方、つまり経済全体の動きの中でいかに物価が形成されているかという基幹的な部分についての判断は、ほとんど前回のまま維持されている。物価の基調の変化についての見方は、あまり大きな修正を加えておらず、ほぼ同じだと言って良いと思う。

 2006年度までさらに延ばしてみると、目立った景気回復ではないにしても持続性のある景気回復につながり、物価が上昇しやすいという経済にはなかなかならないにしても潜在成長率を少し上回るような成長が続いていけば、デフレからの脱却ということが少しずつ着実に実現していくだろう。従って、2005年度から展望をさらに1年延ばしてみれば、自然とここに書いたように可能性は徐々に高まっていくということになる。素直な気持ちで表現しているつもりである。

【問】

 この展望レポートの採決は全員一致だったのか。

【答】

 その通りである。

【問】

 展望レポートの中で示されている消費者物価指数の2006年度見通しの数字だが、これは総務省が来年度に行う消費者物価指数の基準改定は織り込まれていないと考えて良いか。また今回の展望レポートの中で、昨年10月まであった「持続的成長とデフレ克服に向けて」という表現がなく、デフレのデの字もないことには違和感を持つが、この点について伺いたい。

【答】

 現在の消費者物価指数を前提に経済分析を行っているし、見通しをたてている。まだどういうものが出てくるかわからないものを前提に見通しをたてることはできない。そういう意味では、現在の物価指数をもとに現状判断及び見通しをたてている。

 また、特に意識的にデフレという言葉を今回避けたということはない。経済の実体判断、特に経済の回復メカニズムは、これまでと基本的に同じように作動しつつあり、前回レポートと比べ基本構造は変わっていないと思っている。デフレという言葉をあえて意識的に避けたという作為的なことは一切ない。

【問】

 今の質問との関連で伺いたい。消費者物価指数の見通しを今回から翌年度分まで出されたが、これに対する評価は如何か。先程の話にもあった通り消費者物価指数の基準改定が2006年度中に予想される。数字自体の不確実性について総裁はどうお考えか。さらに、数字の出し方についてであるが、海外ではレンジだけを示し、中央値の公表はしていないという例もあるが、このような点について政策委員の間で検討されなかったのかどうか伺いたい。

【答】

 物価の見通しとおっしゃったが、私どものお示ししているのは、経済と物価の見通しであって、物価だけを単純に見通しているわけではない。

 展望レポートの主たる中身は、現在および将来につながる経済と物価の分析に重点を置いている。どのようなメカニズムで経済が変化し、物価の動きが変わっていくかという分析内容に主たるポイントを置いている。数字そのものは政策委員会のそれぞれのメンバーの持っているイメージを出したということなので、あくまで参考的なものである。数字が先行して計画経済的な意識でこれを読み取られないようにぜひお願いしたい。数字はあくまで従たるものであり、分析のほうを中心にぜひお読み頂きたいと思っている。

 将来物価見通しが改定されるか、されないかということは極めて技術的な問題である。新しい物価指数が出ればその時点でその新しい指数を念頭に置きながら参考的な数字は出していくと思うが、消費者物価指数の指数を算出する基準が変わったからといって、私どもの分析内容がそこで屈折するというものではないと確信しているので、ぜひそうした読み方をして頂きたい。

 見通しの幅だけを出すか中央値も出すかということは、これもまたあくまでも参考である。中央値というものも参考になると思われる方は、それを参考としてお読み頂ければ良い。参考のところはお好みによって自由にお使い頂きたい。

【問】

 展望レポートには上振れリスク、下振れリスクが含まれているが、メイン・シナリオ実現の蓋然性は、こうした上振れシナリオ、下振れシナリオに比べて最も高いと理解して良いのか。

【答】

 標準的な見通しを前提に将来の政策運営のコースを描き、さらに新しい材料を消化しながら前進していこうということなので、初めから下振れリスクなり上振れリスクにウエイトを置くのであれば、当然のことながら最初から標準シナリオを書き直すべきであり、それを基準にさらに上振れリスク、下振れリスクを出していけば良いと思う。

 従って、現時点での標準的なシナリオは、私どもの中心的な見通しであって一番確率が高いシナリオと見ている。ただし、これは四半期毎にレビューするということも約束しているわけで、その時に標準シナリオそのものがシナリオ通りであるか、あるいは上に振れたか下に振れたかということを申し上げる。下に振れたら下に修正したシナリオをベースに、さらに追加的にどういうリスクがあるかということを申し上げていかなければならない。現実的な政策のプロセスはそのようにダイナミックに塗り替えられていくと思うが、今のところ、私どもとしては標準シナリオに確信を持っていると思って頂きたい。

【問】

 今回の見通しでは2005年度、2006年度と潜在成長率を若干上回る数字が出ているが、これは日銀が理想としている景気回復の姿だと理解して良いのか。例えばもう少し意欲的な景気回復の姿を描いて、政策もそれを支えていくべきだという考え方もあると思うがどうか。

【答】

 理想像を描いて、差額は政策で埋め尽くして実現できるというようなモデルの世界で論じられるほど、日本経済に与えられている条件は生易しくない。厳しい条件がたくさん与えられているので、企業、金融機関などの民間部門は与えられた困難な条件を克服しながら、一方で政策はそれを後押しし、さらにその効果を最大限発揮させながら、結果として実現しうる最善のコースを確保していく、これが現実的なやり方である。日本のように厳しい条件を与えられている状況においては、なおさらそれしか選択肢はないのではないかというぐらいの厳しい認識に立って、現在までのところ私どもは行動している。従って、理想像であるかどうかわからないが、与えられた条件の中でのベスト・シナリオを実現しようということで間違いないと思う。

【問】

 ペイオフ全面解禁から約1か月経つが、この間の金融システムや預金者の動きについて改めて見解を伺いたい。

【答】

 ペイオフ全面解禁ができたから安心しているということではなく、その後も、かなり肌理細かく金融機関、預金者、市場の動きをフォローしてきているが、非常に幸いにも、今日までのところ心配されるような不規則な資金の動き等は出ていない。極めて平穏にペイオフの全面解禁が実現していると思っている。金融機関の資金繰りも個々に肌理細かく見ているが、引き続き安定的に推移している。全体として、日本の金融システムが健全性、安定性を回復してきているということが、事実をもって裏付けられつつあると改めて思っている。

【問】

 総裁は常々消費者物価指数のコミットメントは必ず守るとおっしゃっているので、あえて伺いたい。先程2006年8月の消費者物価指数の改定は技術的なものだとおっしゃったが、常識的に考えて、5年前の改定同様、指数が2006年1月に遡って下方修正される可能性が高いと見られている。展望レポートでは、2006年度にかけて量的緩和の枠組み変更の可能性が徐々に高まると書かれているが、これをそのまま読めば2006年に入って以降、半年の間に量的緩和の枠組みが変更されるということも十分あり得ると思う。消費者物価指数を判断する時に、2006年8月の改定で下方修正されて、例えばプラスからマイナスにひっくり返るというような状況で量的緩和を解除するということは、おそらくしないのではないかと思うが、その点についてどのように考えているか伺いたい。

【答】

 技術的改定と申し上げたが、物価の改定というのは毎年のようには行われておらず、かなり長い間隔をおいて行われる。従って、あえて言えば、現在の物価指数よりも新しい物価指数のほうが、その時点における経済活動の実態をより正しく表すであろうということなので、私どもは新しい指数が出たら、それを基準に物事を判断させて頂きたいと思っている。

【問】

 2006年1月に遡って改定されるわけで、例えば2006年の3月や4月で小幅のプラスになり、改定があった後にそれがゼロになり、あるいはマイナスに転じるということも起こり得ると思う。そうした小幅の消費者物価指数のプラスであれば、量的緩和の解除はやはりやらないと考えて良いか。

【答】

 新しい指数が出るまでの間は、どういうものが出るだろうという想定のもとに私どもが行動することは、極めて無責任なことになると思う。そうするよりは、まずは古い指数で判断していく。しかし、私どもは古い指数がプラスになったら直ちに政策行動を起こすとは言っていない。コミットメントの3条件のうち、3つ目の条件を見ても、経済の実勢、物価の変化の実勢というものを正しく判断していこうということである。従って、物価指数の技術的な改定によって数字の上で屈折が生じるであろうということは前提として置きながら、その前々から実勢判断の中に相当加味して判断していけるのではないか。そこで新しい数字が出たから腰を抜かして驚くような対応をとる必要は、多分ないようにもっていけると思っている。

【問】

 経済・物価の見通しは、基本的に2005年度、2006年度にかけて上向きのシナリオと受け止めて良いという印象を持った。その一方で、ここ1~2週間、日本の長期金利は逆に低下傾向にあると思う。これはおそらく市場の経済全般に対する受け止め方が、日本銀行のシナリオと少し齟齬をきたしているような印象を受けるのだが、この点についての見解を伺いたい。

 また、2006年度の見通しについて、政府は名目成長率2%を目標にしている。一方で、日本銀行は今日示された政策委員の方々の見通しを出している。政府の見通しと日本銀行政策委員の見通しの整合性について、どのように考えたら良いのか伺いたい。

【答】

 2つとも非常に重要な質問だと思う。最初の質問であるが、私どもが今回出した2005年度、2006年度を通じた経済・物価の見通しについて、上向きか下向きかと言えば、おっしゃる通り上向きの方向で出させて頂いた。しかし、上向きという意味が、世の中の人々の期待成長率がどんどん上がっていくというほど強い見通しを出しているということではないと思っている。政策委員の多数の判断ということで出した数字をご覧になっても、実質成長率が2年間で年率1.5%前後と、潜在成長率をごく僅かに上回る見通しであり、人々の期待成長率が加速度的に右上りになっていくような見通しにはなっていない。

 これについては、高水準の企業収益を前提に、企業は新しい付加価値創造を求めて設備投資をしっかりやっていくだろうが、キャッシュフロー対比では、やはり投資のコミットメントはそれほど強くはなく、慎重にやっていくという見通しにたっている。景気は長もちするが、大きな振幅を起こすような、そして人々の期待成長率を一時的に強く押し上げるような姿にならないのではないかという見通しをたてている。

 従って、市場の中、特に株式市場においては、右肩上りの経済というほどの強い成長を織り込むといった株価形成はしにくいという状況になっているのではないかと思う。株式市場が決して弱気になっているわけではないと思うが、将来の経済の織り込み方というのは常に前進しては後退し、新しい材料をその都度消化しながらでなければ前進できない、またすべきではないと、市場が自らブレーキを掛けているような状況ではないかと思う。

 政府の見通しとの関係については、確かに政府も少し長い目で経済をご覧になっており、経済の中で構造改革が着実に進展していくことを前提に一つのシナリオを描いている。日本銀行の今回の展望レポートでは、企業の様々な取り組みによって企業収益の水準が今後も高水準を続け、それがじわじわと経済の各部門に良い影響を及ぼしていく。しかしそれでも期待成長率がどんどん上がるということではなく、極めて地味なかたちで、しかし成長軌道は持続性のあるものになっていくだろう、という想定をたてたわけである。政府の「改革と展望」の中においても、私の承知している限りでは、構造改革への取り組みがさらに進展することや、雇用の改善に伴って消費が安定的に拡大することを背景に、展望を作っておられるように思う。これらを背景に、2006年度にかけて名目および実質の成長率が高まっていくという姿を想定していると理解している。

 日本銀行の展望レポートで描く経済のメカニズム、それから政府の「改革と展望」の中に示された経済のメカニズム、それらはあまり相違がないのではないか。従って、日本経済は間もなく踊り場を脱して、2006年度にかけて持続性のある成長軌道を辿っていくという点について共通していると思っている。

 成長率や物価についての政策委員の見通しはかなり幅があるものであるし、今後ともぜひこれは幅を持って見て頂きたいと思っている。特に2006年度については、現時点ではかなり幅を持って見る必要があるとご理解頂きたい。

【問】

 地価と不動産取引の動向について、先日発表した「地域経済報告」でかなり詳細にレポートされていると思うが、緩和効果による低金利の継続や、不動産ファンドからの資金流入によって不動産市場が活況を呈しており、一部の地域では過熱気味といった指摘もあったと思う。不動産については、以前から量的緩和の副作用として資産バブルの懸念が挙げられていると思う。金融政策の判断においては、あくまで消費者物価指数に基づく約束があるが、地価あるいは不動産の動向を今後の政策判断にどう活かしていくのか、あるいはどう位置付けていくのかという点について、考えを伺いたい。

【答】

 資産価格の動向については、従来、地価が下落している過程においても注意深くフォローしてきた。最近もまだ地価が下がり続けている所が結構多いが、都心部などにおいて、下げ止まりあるいは上昇が始まっているということは良く承知している。土地の値段の形成のされ方は以前とは随分違っており、ある意味で、より健全な価格形成が行われるようになってきている。土地の利用価値というものをしっかりと見据えながら、その割引現在価値というものをきちんと価格表示していこうという感じに変わってきている。このように、新しい評価方式で決まっている値段が、都心部の一部で上昇し始めているというのが現実だろうと思う。

 従って、土地の利用価値が経済実勢に見合って上がり、それに見合って収益還元法的な地価の形成が行われていくということであれば、これは景気の回復と平仄のとれた地価の上昇であり何の心配もないと思うが、それを超えた不動産価格の上昇が出てくるかどうかは、将来の懸念材料として十分見ていかなければならない。現在はそこに強い懸念を持ちながら、これからの政策を考えなければならないところにはきていないと思っている。

【問】

 先程の景気に関する発言で、間もなく踊り場を脱却するという政府の認識と同じだという話だった。これまでは春以降に踊り場的な状況を脱却すると述べられてきたわけだが、踊り場脱却の時期は年央ということで認識しているのかどうかというのが1点目。2点目は、量的緩和の解除までのプロセスにおける当座預金残高目標の扱い等について、改めて現在の考えを伺いたい。3点目は、「解除を余裕をもって進める」という点については、前回の記述と同じとなっているわけであるが、これをもう少し噛み砕いて教えて頂きたい。

【答】

 踊り場的な経済の動きからの脱却については、今回の展望レポートの中で「年央以降」という表現を使わせて頂いている。年央以降には違いないが、かなり「年央」というところにポイントを置いている。そういう意味では前回よりは少しタイミングを絞って出している。ニュアンス的にはそういうふうに言えると思う。IT調整の進捗状況が、「春以降」と言っていた時点よりはもう少し進展しているというバックグラウンドを踏まえて、私どもはそういう判断をしているということである。

 緩和の枠組みの修正についてであるが、かねてより申し上げている通り、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで修正には踏み切らないという点は全く変わらない。そもそも量的緩和の枠組みは何かということであるが、今回の展望レポートでも改めて書かせて頂いているかと思うが、要するに所要準備額を大幅に上回るような流動性を供給し続けるということ、そして、それを先程申し上げた消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるための条件——3つの条件に噛み砕いて理解頂いているかと思うが——が満たされるまでは続けるというコミットメント、この2つから成り立っている。しかも、この2つのコミットメントは非常に堅い約束だとご理解頂ければと思う。

 「余裕をもって」ということについては、普通、金融政策というものは、状況を先取りしながら早目早目に対応するというのが基本原則である。先々を読みながら、引き締めの場合も緩和の場合も、やはり先手を打ってやるというのが常道だと思う。しかし、デフレ脱却という大変難しい仕事、しかも脱却を妨げる条件が必ずしも短期間のうちに一挙に消え去るものではないという前提に立てば、景気が回復しても物価が上がりにくい状況が続く限りは、金融政策の本来の姿は早目早目であるという原則よりも、緩いペースで物事を考えていくことで間違いはないのではないかと思っている。

 もちろん、物価だけ見ていて良いのか、資産価格やその他あらゆることを良く見ないでゆっくりし過ぎるという心配はないのか、というのはご指摘の通りで、そこのところの点検を怠るわけではもちろんない。ただ、基本はやはり、今回は早目早目という金融政策の大原則よりは少しゆっくりしたスタンスで物事に対処させて頂きたい。これをベースにしている。目を瞑って危険なことをやるというわけでは決してない。全てのことを良く見た上で、しかし早目早目という大原則よりは少しゆとりをもって、ということである。

【問】

 当座預金残高目標を引き下げることは金融引締めとは直接関係ないという説明をされてきていると思うが、この説明は市場参加者も含めて外部でかなり浸透してきていると見ておられるのか。また、先程おっしゃった金融システムの安定が事実として確認されていて、流動性需要も少なくなっているという状況の中で、今の当座預金残高目標の水準を維持しているということは、もう少し様子を見るという意味なのか、それとも実体的に何らかの意味を持ってやられているのか伺いたい。

【答】

 毎回の政策委員会で今おっしゃった点についても正確に判断していきたいということで、既に過去2回、あるいは3回になるかもしれないが判断を繰り返してきている。今後もそうした判断を繰り返していきたい、正確を期したいということである。

 流動性需要が後退しつつあるということは事実である。そうでなければ札割れというような現象は起こらないわけである。しかし、札割れが起こっていても、即座に対応するというほど軽々しく判断はしない。いくら技術的な対応と言っても、流動性供給目標そのものについて何がしかの修正を加えるというのは、やはり金融政策上は非常に重要な判断であることに間違いないので、そこはしっかりすべての材料を繰り返し点検しながら、誤りなきを期させて頂きたいと思っている。

【問】

 2006年度の経済見通しについては、持続的成長が続いていくし、物価見通しについても、委員全員がプラスの見通しをされている。そういうことであれば、2006年度は量的緩和政策の解除をできる環境が整うということになるのか。

【答】

 その可能性が徐々に強まる、という以上には現時点ではまだ申し上げられない。要するに、2006年度についてかなり幅を持って見てほしいということは、レポートの中にもしっかり書き込ませてもらっている通りである。一筋道で全てを理解して、それしか道がないかの如くに私どもが将来を設計するというのは、やはり誤りの原因になるだろうと思う。これよりも上振れたシナリオもあり得るし、逆に言えば、なかなかここまで来ないケースも十分あり得ると思っている。標準シナリオとしてはこれしかないと思えるものだが、やはり同時に相当幅を持ってみる必要がある性格のものだ。

【問】

 この標準シナリオが現実のものになるという確信が持てたときには、解除時期になるのか。

【答】

 確信が強まり、かつ現実にそのシナリオが実現していくということでなければ、政策変更には結びつかないと思う。

【問】

 以前にも伺ったが、例えば消費者物価指数がプラス0.5%では足りないとか、デフレに後戻りしないための幅についての認識は如何か。

【答】

 それはその時の物価形成メカニズムがどのように変わっているかによると思う。数字の裏にある経済実態の変化を解きほぐさないで、表面的な数字が0.3%か0.5%かということで判断することは絶対ないと思う。

【問】

 金融コングロマリットという言葉が最近よく使われているが、日本の金融界をご覧になって、金融コングロマリット化がどのように進展していくというイメージをお持ちか。また、それは日本の金融界にどういう影響を与えて、中央銀行としてどのような対応が必要となってくるのか、意見を伺いたい。

【答】

 なかなか一直線に描き難い世界に入ってきていると思う。こういう新しい時代に入って、企業や家計の金融ニーズはどんどん変わっていくし、非常に複雑化している。そのニーズにきちんと応えられるような新しい金融サービスを提供できるようにして、しかもその中からきちんと収益を上げられるような金融機関になっていってもらわなければ困るということを言っている。

 しかし、個々の金融機関がそれを経営に反映して実現していくということについては、一つのテキストブックがあってこうすれば良いという問題ではない、非常な難しさがあると思う。つまり、新しいニーズを的確に捉えて、自分のビジネスモデルを作り上げて収益を上げていくということになると、やはり相当経営資源を戦略的に、最も有効と思えるところに集中しながらでなければできないという一つの原則が働くと思う。

 それは「選択と集中」ということになると思う。しかし、集中をすればするほど、いろいろな顧客のニーズに対応していこうと思うと、的が合うところはぴったり合うが、合わないところは逆に外れていくということになる。基本は「選択と集中」と言っていても、そうしたニーズを満たしていくためには、今度は逆に提携やM&A、あるいはコングロマリットというかたちで、多面的なビジネスモデルを組むというような戦略と組み合わせて、如何なるかたちで同時に多面性を持たせて顧客ニーズに寸分の隙間もなく対応していくか、ということになると思う。

 結果として、リスクがきちんと金融サービスによって吸い上げられて、投資家が円滑にリスクを受け取っていくというメカニズムが最終的にできるか、この構図の中に金融コングロマリットと言われているような動きが正しく位置付けられるのだろうと思うが、これをパターン化して「こういうものだ」という時代ではもうないと思う。個々の金融機関がダイナミックに動く過程で、如何にそういうものを使っていくかということだと思う。その際には、経営上のガバナンスを如何に上手く効かせるかということが一番難しい課題になってくると思うが、金融コングロマリットという言葉に代表されるような「選択と集中」と「ビジネスの多面性」との両立、その上にどういうガバナンスを乗せるか、この課題を上手く解いた金融機関は成功すると思う。どこかで上手くいかない部分を持った金融機関では、プランは良くても実行の途上のどこかで大きな誤りが起こるというリスクも出てくると思う。

【問】

 郵政民営化法案が閣議決定されているが、これに対する考えを伺いたい。

【答】

 郵政民営化の閣議決定がようやく行われて、法案が国会に提出された段階だ。昨年の秋、経済財政諮問会議で一応議論を終結して、基本方針というものを閣議決定してから随分時間が経ったわけであるが、私どもの立場から言うと、民間金融機関とのイコール・フッティングはしっかり確保してもらいたい。そして、いろいろな事業との間のリスクはきちんと遮断して欲しい。特に金融ビジネスに余計なリスクが被ってこないように遮断して欲しい。この原則が今後ともきちんと守られていくことが非常に大事だと思う。

 小泉総理、竹中大臣はその点の問題意識がしっかりしておられると確信している。これまでの過程でも、そのポイントをずらさないように最大限の努力をしてきておられると理解している。ここから先、法案成立までの過程で、さらには実際に運営していく過程で、この点は最後まで貫いて頂きたい大事な点だと思っている。

以上