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総裁記者会見要旨 ( 5月20日)

2005年 5月23日
日本銀行

―2005年5月20日(金)
午後3時半から約55分 

【問】

 本日の金融政策決定会合の結果について、「なお書き」部分の修正という点を中心に趣旨をご説明頂きたい。併せて、賛成多数ということであるが、反対票はどの程度あったのか、その反対票がどのような方向のものであったのかについてもご説明頂きたい。

【答】

 本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標(30〜35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策をしっかりと継続していく方針である。

 なお、今回、現在の金融市場調節方針のいわゆる「なお書き」に加え、新たに「資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、当座預金残高目標を下回ることがありうる」旨を追加することとした。

 「なお書き」に新しい文言を追加したことに関してであるが、金融市場の状況をみると、金融システム不安が後退しているもとで、金融機関の流動性需要が減少しており、資金余剰感が強まってきている。こうしたもとで、短期の資金供給オペにおいて「札割れ」が引き続き発生している。また、目先は、税揚げなど財政資金の動きに伴う極めて大幅な資金不足が見込まれている。

 今回の決定は、こうした情勢を踏まえ、「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持したうえで、金融機関の資金需要が極めて弱いと判断される場合には、当座預金残高が一時的に目標値を下回ることがありうることとしたものである。

 次に、全体の決定の背景となる金融経済情勢についての私どもの判断は、景気については「踊り場」的な局面からの脱却に向けた動きが確実に続いているが、現時点においては、調整が終了したというまでには至っていない。

 より一般的に今回の決定の背景となった私どもの判断について申し上げると、経済・物価情勢の現状については、景気は、IT関連分野における調整の動きを伴いつつも、基調としては回復を続けている。

 海外経済が拡大を続けるもとで、輸出は持ち直しつつあり、IT関連分野の在庫調整が進むもとで、生産は緩やかに増加している。設備投資は、高水準の企業収益を背景として、製造業を中心に増加傾向にある。また、雇用面での改善が続き、雇用者所得もはっきりと下げ止まる中で、個人消費は底堅く推移している。また先行きについては、IT関連分野の調整の影響が弱まるにつれて、年央以降、回復の動きが次第に明確になり、緩やかながらも息の長い回復が続くとみられる。もちろん、IT関連需要や原油価格の動向と、その内外経済への影響については、引き続き留意する必要がある。

 物価面をみると、国内企業物価は、原油価格の上昇などを受けて、足もとは大幅に上昇している。先行きについては、そのテンポを多少鈍化させつつも、当面、上昇を続ける可能性が高いとみている。消費者物価については、規制緩和等に伴う電気・電話料金引下げの影響もあって、前年比変化率が小幅のマイナスとなっており、先行きも、小幅のマイナスで推移すると予想される。

 本日の決定については、賛成7名、少数意見が2名ということである。少数意見については、当座預金残高目標を少し引き下げてはどうかといった方向の意見であった。

【問】

 人民元について、マーケットでいろいろな見方が広がっているほか、米国の当局等でいろいろ動きがあったと思われるが、総裁は先日の講演等で人民元の問題について「人民元だけを柔軟にすれば全ての問題が片付くわけではない」といった発言があったかと思う。この発言の趣旨について改めて伺いたい。

【答】

 中国は近年急速な経済発展を遂げ、世界経済におけるプレゼンスは目覚しく大きくなっている。特に、高い成長率が持続しているということは、世界経済全体にとってもベネフィットになっているということだと思う。一方で、中国経済がグローバル経済の中により良い調和のとれた姿で迎え入れられる状況が望ましいと考えられる。つまりグローバル経済と一層調和のとれた姿というのは、基本的には、中国経済自身における経済循環の仕組みが市場メカニズムを一層活用したかたちで整えられ、グローバル経済との接点において資源配分のより効率的な働きが表に浮かび上がってくることを想定してのことである。従って、そうした姿を実現していくために、いろいろなことが中国経済に必要となるが、その一環として、より柔軟な為替制度への移行が位置付けられると思う。

 グローバル経済とより調和のとれた中国経済の姿を実現していくためには、為替・金融市場の整備はもとより、資本取引の自由化を含めた広範囲にわたるディレギュレーション(規制緩和)をさらに進める必要があるのではないかと思う。また、金融システムについても、安定性の確保および機能向上等々の条件整備が広範囲にわたって必要ではないかと考えられている。このほか価格統制というものも存在するとすれば、それを緩めていくことも含まれると思う。為替制度のより柔軟な仕組みへの移行も、広い意味では価格の硬直性に対する緩和ということであり、一連の必要な措置の中の重要な一環と位置付けられる。

 中国当局も、こうした考え方のもとに、最終的に柔軟な為替制度に移行していく方針を既に繰り返し表明し、そのために必要な環境整備を着々と進めているように窺われる。しかし、今後、中国が具体的にどのような為替制度を選択し、また、それをどのような手順のもとで導入するかといった点は、中国自身が判断することである。私どもとしても、中国が経済により柔軟な仕組みを植え付けていくこと、そして為替制度についても柔軟なシステムを円滑に取り入れていくことができるよう期待しつつ、情勢の推移を見守っていきたいと思う。

【問】

 もともと「程度」という表現が金融調節方針には明記されている。当座預金残高目標を一時的に下回った場合でも、「程度」で解釈できないのかどうか、なお書きを修正する必然性があったのかどうかを伺いたい。

 また、「目標を下回ることがありうる」とあるが、具体的にどの程度下回った場合でも、この中に解釈として吸収し得るのかについて伺いたい。

 さらに市場の一部には、今回の措置が技術的なものではなく、金融引締めの第一歩であるという解釈もあるが、この点について総裁の見解を伺いたい。

【答】

 「程度」という表現で、どのくらい読めるかという定義はない。しかし、常識的には、「30〜35兆円程度」といった場合、「程度」で読める範囲というのは極めて限定されたものであろうと言える。

 私どもの今回の措置は、基本はあくまでも「30〜35兆円程度」という従来のターゲットを維持しており、極力、オペレーション上の工夫を通じてこれを達成していくという根幹はいささかも変わっていない。

 しかし、金融システムの安定とともに、資金需要そのものが後退している。そういう背景で考えると、いくらオペレーション上の工夫を凝らしていくといっても、資金需要が著しく後退する局面で、市場機能を過度に封殺しないという前提のもとでの望ましいバランスということを考えた場合に、いわゆる「程度」で読める狭い範囲をいささか超えてフレキシビリティーを持つ必要があるだろうと思う。基本は量的緩和の大枠を堅持しながら、一方で、流動性供給目標を達成するためにオペレーション上の工夫を最大限凝らすとしても、他方で、市場機能に過度なダメージを与えないこととの現実的な調和を図るために、必要な最小限度のフレキシビリティーを得る、これが今回の措置である。

 どの程度まで下限を割って良いのか、何日間くらい割って良いのかといったことについて、あらかじめ数字的な概念でもって制約は置かないということである。基本は30〜35兆円程度を堅持するということであるので、目標を下回るといっても無制限に大きいものではないことはおわかり頂けると思う。極力、短期間のうちに元に戻るようにオペレーションをしていくということである。そこに数字上の機械的な制約を設けると、かえって、金融調節のフレキシビリティーを害することになって、「なお書き」を設けた趣旨を十分活かしきれないと思う。

 金融引締め方向への大きな転換ではないかという意見についてであるが、私どもは、量的緩和の骨格はそのまま維持し、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで堅持すると繰り返し約束している。今回のような措置をとることとしても、その点についてはいささかの揺るぎもない。従って、方向転換という解釈は当てはまらないのではないかと思う。

【問】

 今回の「なお書き」は、あくまでも資金需要の低下に対応する技術的な対応ということで大枠の目標値は変わっていないということはわかるのだが、実際に数字を引き下げていくということを検討するようなことがあるとすれば、それは日本銀行自身の景気判断が変わった、あるいは踊り場脱却を確信できた段階にならないとあり得ないという理解で良いのか。

【答】

 少なくとも本日の決定によって何かを積み残しているとか、次に何かを予定しているということは一切ない。毎回の金融政策決定会合において、経済情勢の見通しを常に再点検し、市場の変化というもの、具体的には資金需要の出方、オペレーションを遂行していく場合の現実的な困難度をきちんと判定する。困難度という意味は市場の機能をどこまで封殺するかということとの兼ね合いでのダイナミックな判断だが、そうしたことを毎回重ねながら、新しい判断が必要になる場合とそうでない場合があると思うが、先行きについては全くオープンである。

【問】

 2月の時点では当座預金残高が30〜35兆円程度を下回ることは全く見通していないと発言されていたかと思うが、今回「程度をいささか下回る」という表現で、マーケットを封殺することとのトレード・オフなのだろうが、下回る可能性があるとなったのはどういうことか。3月と6月を比べて6月のほうが厳しい状況という認識なのか。これについては3月のほうが厳しかったのではないかという指摘も聞くがどうか。そうでないとすれば3月の時点で市場を封殺し過ぎたという反省なり総括があるのか、その辺りについてどうお考えか伺いたい。

【答】

 3月も今回も非常に厳しい状況に私どもは直面していると言って良いと思う。ただ3月の場合には、おそらく下限を割らずに済むのではないかという蓋然性をここで申し上げた。少し賭けをしたような気持ちになっていた。結果的に下限を割らずに済んだのであるが、オペレーション上はかなり苦しい操作を用いたと率直に申し上げて良いと思う。

 これから目先6月の資金不足のピークにかけて、現実にどういう資金需要あるいはその資金需要の後退という状況に直面するか全くわからない。実際に動いてみないとわからないため予測めいたことは申し上げられないが、ペイオフ全面解禁後の全般的な金融市場あるいは金融機関の動向等を見ていると、やはり一段と落ち着く方向にあるので、資金需要そのものは引き続き緩やかに後退の方向にある。逆に言えば、オペレーション上の困難度は徐々に増していくであろうと想定している。従って、今回こういう措置をとったということである。

 「なお書き」を注意深くお読み頂ければと思うが、上限を突破する場合は上限を突破するような調節を行うとしっかり書いてあるわけであるが、今回設けた下限のほうは、「精一杯下限を割らない努力をする、そういうオペレーションをする」ということが前提で、しかし、結果的に下限を下回ることがあり得るという表現になっている。能動的にオペレーションで下限を割るようにもっていくという意図は全くないということが明確に読み取れるのではないかと思う。従って、これは結果が出てみないとわからない部分がある。

【問】

 今回の決定についてであるが、6月の税揚げの資金供給の難しい場面の前ということもあると思うが、そのための技術的調整ということであれば選択肢として「なお書き」の調整以外にも当座預金残高目標の引き下げということも技術的調整として説明しうるのではないかと考えられる。しかし、そこを選択肢として「なお書き」で調整するという判断に至った——賛成多数ということであるが——経緯をもう少し説明して頂ければと思う。

【答】

 いずれ政策委員会の議事要旨が公表されるので、その辺りの各委員の考え方、これをどのように戦わせたかということは明らかになると思う。それについて全部この場で申し上げることはできないが、先程も申し上げた通り、「限度額をこの時点で下げることが適当である」という意見は9名のうち2名であったということで、マジョリティーは、現在の最適の選択肢は「なお書き」対応、これが現実的な対応として必要かつ十分という判断に至ったということである。

 景気の情勢は着実に踊り場脱却に向けて動いている。その先も私どもの「展望レポート」によれば、標準シナリオ通りにいけば着実な回復過程につながっていくということであるが、もちろん内外の経済および市場、日本経済を取り巻く環境の中には様々な不確定要因がある。株式市場をはじめ、その他の市場は多かれ少なかれそうした不確定要因についても正直に反映して見せてくれているという状況である。そうしたことを十分頭に置きながら、これから直面していく資金不足、そしてオペレーションとの対応関係というようなことも具体的に照らし合わせた場合に、私どもとしては現実的な対応であり、また、必要最小限のことをやっていくという観点からも、今回はこれが最適な選択だということに、9名のうち7名までなったということである。

【問】

 総裁は、最近、量的緩和政策の副作用についても言及をし始めていると思うが、金融システムが安定化する中で、副作用がさらに出てくる可能性があるのかということと、財務大臣が、最近、量的緩和政策に対して発言していたが、この発言が今回の決定に何か影響を与えたことがあるのかどうかについて伺いたい。

【答】

 副作用について最近考え始めたとおっしゃったのは大変心外である。非常に深い緩和政策をやり続けている時は、常時、作用と副作用の関係を真剣に考え続けていると前々から申し上げている。しかも、それは紙の上にバランス・シートを書いてメリット、デメリットと判定できるほどスタティック(静態的)なものではない。実際、市場の中でオペレーションに入って、その手応え、市場の反応というものを感じながら、私どもがここまでオペに突っ込んだ時に市場の中に生じるデメリット、それが拡散していくデメリットというものをダイナミックに感じながら判定し続けていくというものである。従って、今回「なお書き」を設けて対応する場合にも、オペはとことんまでやるということであり、「とことん」という意味は、市場の中で市場機能を封殺する度合いがあまりに行き過ぎないかということを、現実にオペレーションをしつつ感じながら、ぎりぎりまで限界を追求する。しかし結果としていくらかはみ出るリスクがあるから「なお書き」を設けた、ということである。動きながら判定しているということをご理解頂ければと思う。

 金融政策決定会合の具体的な決定事項について、事前に財務大臣とご相談申し上げたことは一度もない。従って、この件について財務大臣がどういったご見解を抱いておられるかは、決定後私どもにお伝え頂けることであるかと思っているが、一般的に、私どもが従来国会でもお答えしているように、基本的な量的緩和の枠組みは堅持するという姿勢については、十分にご理解頂いていると思っている。

【問】

 恒常的に資金需要が極めて弱いという状態の時にどうされるのか。そうした長期的な下限割れを容認されるということを、この「なお書き」修正で読めるのか。また、これまで30〜35兆円程度というターゲットのもとでのオペについて、中央値33兆円程度を目安にオペをしていくということであったが、恒常的な資金需要の低下による下限割れが続いた場合、この中央値が下に落ちるということもありうるのか。そうだとすると、資金供給量が市場に対して減るということになると思うが、これまでターゲットを引き上げてきた過程で一段の量的緩和というご説明があったと思うが、これとの整合性についてはどうお考えか。

【答】

 恒常的という言葉をお使いになって、どういうことをイメージしておられるのか私には伝わらないところがあるので正確にはお答えできないが、私どもがイメージしていることは、今後とも30〜35兆円程度の枠をきちんとオペレーションによって達成できることが普通の姿だと認定しているので、それが通常達成できないというほど恒常的な資金需要の後退ということを今想定しているわけではない。「なお書き」適用というのは、あくまでテンポラリー(一時的)にそうした時期を迎えることがあるだろうということである。従って、テンポラリーに下限を割る時期を除けば、通常は従来どおり33兆円程度を中心とした金融調節の姿を結果としても出していけると思っている。

【問】

 量的緩和の枠組みを堅持すべきだというのは日本銀行も政府も見解は一致するところであると思うが、残高目標の引き下げというのは量的緩和の枠組みの修正にあたるのかどうかお考えを伺いたい。

【答】

 具体的に残高目標の修正に踏み切るようなことがあるかどうかは全く想定できないので、仮定の問題に対してコメントをすることはできない。もし将来そのような場面を迎えたら、この場できちんとご説明申し上げたいと思っている。

【問】

 先程のご説明では、大枠を堅持しながら必要最小限のことをやったとのことであるが、30〜35兆円程度の当座預金残高目標というのは、この「大枠」の重要な部分になっているのか。

【答】

 一般論と、今回のケースで、解釈の齟齬がないようにして頂きたい。量的緩和について、一般論として「枠組み」と言った場合には、この「枠組み」は2つの点によって成り立っている。すなわち、所要準備を大幅に上回る流動性を供給すること、それを消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで続けるというコミットメント、この2点がその場合の大枠の内容ということである。

 今回、「なお書き」に新たな措置を入れたが、この場合は、「30〜35兆円程度」というのが本体の部分で、「なお書き」というのがその例外部分である。例外部分の世界に実際に踏み込む場合には、本体の世界に極力早く戻ると言っているわけで、量的緩和の「枠組み」という場合と、今回の措置における「本体」と「なお書き」の区別ということとを混同しないで理解して頂きたいと思う。

【問】

 先程、「市場を見ながらオペをとことんまでやる」とのことであったが、経済情勢によっては「とことん」の部分が変わるのかどうか伺いたい。例えば、オペの期間について、6か月のオペはやるが、8か月のオペはやらないというような状況もありうるのかどうか伺いたい。

【答】

 期間の短いオペに比べてより長いオペをやったからといって、「とことん」になったと理解されるほど、記者の皆さんは市場の取材者としてアマチュアではないと私は理解している。あくまで、市場の機能との対比で、ダイナミックに物事を判断していくということである。記者の皆さんの取材先の答えも常にそうであろうと思う。何か月のオペをやったから日本銀行は「とことんやった」なんていう、そんな単純な答えを出すマーケット・プレーヤーないしマーケット・アナリストはそれほどいらっしゃらないのではないかと思う。それほど市場調節というのは、その時々の市場条件の中における私どものオペが働きかける作用、それに対する市場の反応を見極めつつ判定していかなければならない。「生きた市場」に対する私どもの「生きたオペ」というものは、答えも「生きた答え」ということであるから一律ではない。事前に一定の数字ないしパターンでもって判定できない性格のものである。

【問】

 3点質問がある。まず、1点目は、デフレ脱却まで、つまり3条件をクリアする時まで、当座預金残高目標の下限30兆円程度は声明文の中においても維持すると認識して良いのかどうか伺いたい。2点目は、2001年3月19日に量的緩和の導入を決めた際に、必要であるならば長期国債の買い切り額を増やすと書いてあるが、「オペをとことんやる」というならば、選択肢として長期国債の買い切り額を増やすということが念頭にないのかを伺いたい。3点目は、人民元が切り上げられるのではないかという観測が活発だった頃には、為替は円高方向に振れたが、人民元高の観測が出てくるとなぜ円高方向になりやすいのか、どのように分析したらよいか伺いたい。

【答】

 量的緩和の枠組みについて改めて申し上げると、これは所要準備額を大幅に上回る流動性を供給し続ける、それを消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで続ける、ということに尽きる。30〜35兆円程度という数字そのものということとは一応切り離した概念だと思う。さりとて、30兆円程度というのを軽々しく削減することがあるか、今から予定しているか、今回積み残しているのか、と言えばそういうこともない。すべて今後の情勢次第であり、金融政策決定会合できちんと正確に判断していく事柄だとご理解頂きたいと思う。

 長期国債買い切りの増額については、デフレ・スパイラルのリスクを含みながら経済情勢がどんどん悪くなっていく、そして市場の中における信用不安に絡んで資金需要がどんどん増えていくという中にあっては、日本銀行のバランス・シートを極端に歪めてでも対応しなければならないということが、おそらく暗黙のうちに前提となって行われてきたと思う。その点に関しては、今、明らかに状況が違っているわけである。日本銀行のバランス・シートに大きなディストーション(歪み)をもたらすと、将来のオペレーションの弾力性を著しく欠き、将来の金融政策に責任が持てなくなる。長期国債についてオペレーションの額を増やすという考えは、そういう観点から容易に出てこない考えだとご理解頂きたいと思う。

 最後のご質問に対する答えについては、私にはまったくわからない。人民元に関するルーマーによって動いているのか、実際に人民元が切り上げられた時にも円高になるのか、その方向性は私には残念ながら全くわからない。「市場に聞いて欲しい」という以外に何とも答えようがないと思う。

【問】

 先程の話では、日本銀行の景気判断として、基調としては回復を続けており、踊り場からの脱却への動きがあるということだったかと思う。1〜3月の生産は前期比+1.7%、実質GDPは年率+5.3%──10〜12月期と均すと+2%強程度になると思うが──で、さらに輸出も持ち直しているような状況にある。IT関連の生産調整とか言われているが、こうした状況の中で、景気が踊り場から脱却するということについて、また消費などの強めの計数に関して、総裁はどのようなイメージを持っているのか伺いたい。

【答】

 日本の景気が踊り場的な局面に入った基本的な背景としては、世界的なIT関連産業の生産・在庫調整の影響によるものだと判断してきた。従って、この先、踊り場的な局面から上手く脱却できるかどうかを見る場合には、あくまでその延長線上で、つまりIT関連の生産・在庫調整がこれまでのペースで今後ともスムーズに調整を終えるかということを基本にして見ていきたいと思っている。実際にもそのような見方をしているが、現在のところ、IT関連の生産・在庫調整は比較的順調なペースで進捗中であると見ている。まだ踊り場からの脱却宣言はできないが、踊り場脱却に向かって着実に進んでいると申し上げたのはそういうことである。

 ただ、さらにその先まで延ばしてみれば──あるいは踊り場脱却に至る過程についても言えることだが──、経済の循環について、企業の生産・投資・収益の増加という循環メカニズムのほかに、家計部門の所得の増加を伴って個人消費も着実に増えるというもう一つの循環メカニズムがある程度備わってくることによって、循環メカニズムが補強され、持続的な景気回復のパスというものがより確実になるということが大切だと見ている。

 そういう意味では、最近の家計部門の状況を見ていると、雇用が着実に増え、雇用者所得も明確に下げ止まったということは、将来に向かって頼もしい材料だと思っている。ただ、このことが、これから現実にどのように消費に結びついていくのかは、今のところやや不透明である。1〜3月の実質GDPに現われた消費の強さには、まだそうした要因があまり出ていないかもしれない、昨年の台風その他の影響で消費が落ち込んだ反動的プラスのような要因が非常に強い、という理解になっている。プラスであることは良いのだが、今後につながる姿としては、やはり家計部門の所得の増加が消費の着実な増加につながるという径路がもう少し確認できれば、より望ましいと見ている。

【問】

 従来からあった「なお書き」の明確なメッセージは、金融市場が不安定化している中で、それがさらに実体経済に波及するようなことを日本銀行は断固として防ぐという決意を、市場や国民に対して示すということであったかと思う。これに対して、今回付け加えられた「なお書き」は何がメッセージかということだが、今まで話を伺った範囲では──予防線を張っておくというか、やや言い訳めくということでないのであれば──、局面によっては、結果として残高という量よりも市場機能が死なないことのほうを重視する、というメッセージのように、少なくとも今までの発言からは受け取れるが、そういう理解でよいか。

【答】

 そういう理解では困る。私どもは、量的緩和の枠組みを消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで堅持すると言っている。もっとも、デフレ・スパイラルに陥るリスクが高まるという時とは違うわけだから、市場機能を封殺するにも限度があるわけで、そこの限界を見極めながら、適度な現実的対応を施すことによって、この枠組みを長持ちさせることができる。狙いはあくまでも量的緩和の枠組みの堅持であり、これが主たる課題である。そのために、市場機能を過度に封殺しないということが、金融システムの安定度合が増せば増すほど、もう一つの付帯的条件になってきている。この条件の兼ね合いをきちんと調整しながら、量的緩和の成果を上げることをまっとうしていきたい。狙いは量的緩和の維持ということである。

【問】

 そのためには、結果として当座預金残高の水準という量には拘らないということか。

【答】

 そこまで今申し上げるつもりはない。30〜35兆円程度という当座預金残高目標は、「なお書き」適用というテンポラリーな時期を除けば、十分保っていけるというのが今の判断である。

【問】

 従来は、テンポラリーなことも含めて守るという判断だったと思うが、そこをあえて変えたということは、過去との比較においては、やはりそこの部分は一歩変わったのではないか。

【答】

 市場の条件が変われば、同じことをやっていても、市場の機能を余計封殺するようになってきているということをおわかり頂きたい。

【問】

 その点を重視するということでよいか。

【答】

 それをやらなければ、量的緩和の効果を過不足なく適切に発揮させていくことが難しいのではないかということを申し上げているわけである。

【問】

 山一證券向け特融の問題について、結果として日本銀行に損失が発生したという点も踏まえて、バブル崩壊以降の金融システムの安定化に果たした役割の評価などを伺いたい。

【答】

 山一證券が自主廃業を決定し、発表したのは1997年11月と随分以前に遡るが、あの時点において、山一證券の自主廃業決定は日本の金融システムに対する内外の信認の大幅低下に結びついたということは、十分記憶されていることと思う。あれをあのまま放置すれば、国内の市場だけではなく海外の市場にも大きな混乱を引き起こしたことは間違いないわけで、そうした事態を回避しながら、金融システム全体の安定をひとまず確保し、その後より健全な姿に向かって努力をしていかなくてはならない大きな岐路であったと思う。日本銀行としては、特融実施にあたって損失覚悟というわけにはなかなかいかないため、最終処理について適切に対処するという趣旨の大蔵大臣談話を踏まえて、政府と協力しながら特融を行った。また、その後も、特融資金の最終的な回収に向けて努力を続けてきた。

 特融が最終的に一部でも返済されないということにならないように、返済期待を強くもちながら処理を続けてきたが、残念ながらそのリスクが一部見えてきたため、その段階から特融に対して引当金を積んで最終処理に備えてきた。最近、山一證券の最終処理という段階を迎えて、この貸倒引当金を一部回収不能になった特融債権の償却に当てる措置に至った。なお厳密に言うと、特融債権の毀損がなければ、その全額の5%に相当する法定準備金が日本銀行のバランス・シートに現状よりも多く積み立てられていたはずだということから、その該当金額分を法定準備金として積み立てることにつき、財務大臣に対して認可を申請した。日本銀行の帳簿に最終的に穴を開けるわけにはいかない、仮に特融が返ってこない場合でも、政府との協力のもとに少なくともバランス・シートの健全性は確保していく必要があるということで、この辺のことも十分担保しながら、金融システムの最大のリスクを救うために日本銀行として全力をあげて対処してきたというのが、これまでの軌跡だと思っている。

【問】

 先程、株式市場に不確実な要素が見られるという発言があったが、実際に最近の株式市場は内外とも軟調な地合いの中で、ヘッジ・ファンドの経営危機説とか、質への逃避という現象が起きているとの説があり、その背景として中央銀行による流動性供給がかなり絞られてきたことで金余り相場が終わりつつあるという見方もある。こうした見方について総裁はどう思うか。また、今回の政策判断ではあえて当座預金残高目標引下げまで踏み込まずに「なお書き」の修正に止めた背景には、そうした状況への配慮もあるのか。

【答】

 株式市場の動きをみると、日本だけではなく海外の市場においても、少し上値が重い展開が続いていることは確かだと思うが、これがヘッジ・ファンドの動きという単一の要因によってそうなっているかどうかは、必ずしも分析の行き届かないところだと思う。今は、世界的に、非常に高い成長率から潜在成長能力の水準に見合ったところに緩やかに調整していく過程にある。成長率が緩やかに下方修正をしながら安定的な軌道に移っていく過程にあるから、株式市場だけが逆に成長期待を高めながら株価を形成するということが難しい状況になっているということが、おそらく基本的な背景だろうと思う。その過程でそれほど世界の流動性が急激に吸収されているという判断にはなっていない。米国において緩やかな金利の引き上げの方向、ステップが踏まれているが、これもあくまで中立的な金利を目指しての前進ということであろうと思う。たまたまGM・フォードの格下げの問題等も絡んで、一部でそうしたヘッジ・ファンド筋の調整的な動きが入っているという話も聞くが、それが株価の形成にどれほど決定的な要因になっているかは明確に判定できないと思う。ごく僅かな要因になっているかもしれないという状況だと思う。

 日本銀行の今回の措置について、ご質問でおっしゃったような点を決定的な要因として考慮の対象に入れたということではない。ただ、経済全体の動き、それを取り巻く不確定要因、あえて不安定とは言わないが調整過程をいくらか含みながらの市場の動き、その中における微妙な市場心理とその変化といったことは、十分私どもの視野の中に入れて判断に結び付けているということは言えると思う。

【問】

 総裁は先週の講演で、量的緩和の効果は景気回復に向かえば向かうほど強まるが、その場合の効果は、量というよりも約束──これは時間軸効果のことだと思うが──に移っていくという趣旨のことを述べられたかと思う。これは、量の効果が一定だとしても、日本銀行が先行き金利を低く押えてくれると皆が思う、という時間軸効果がだんだん強まっていくというメッセージかと思う。そうだとすれば、量についての作用、副作用のうち、市場を過度に殺すという副作用の側面をより重視する局面が来れば、景気が展望レポートで示されたとおりの持続的な回復軌道を示していくという自信が持てた段階で、当座預金残高目標を減額するという行動になり得るのかどうかを伺いたい。

【答】

 今回の措置で何か積み残しているとか、次に何かを予定しているということは一切ない。従って、今のお答えに対しては、将来の私どもの対応については全てオープンだとお答えするしかないと思う。景気が回復する過程にあっては、量的緩和政策の効果がより強くなるという部分の説明については、量がとかコミットメントがとかいうかたちで分解して話をした覚えはない。量とコミットメントの効果を合わせて、相対的により長い金利についても抑止力が働くという意味で企業の採算性が向上すれば、それとの対比で緩和効果が強まるということを申し上げている。

 量とコミットメントの効果をやや分析的に述べた部分は、デフレ・スパイラルに陥るリスクが高まって信用不安が膨れていた過去の過程における量的緩和の効果と、景気が回復過程に入っている最近における効果とを比較対照したものである。どちらの場合にも量もコミットメントも効いているが、デフレ・スパイラルに陥りそうな時、特に信用不安が膨れる時には、量は信用不安の部分に対していわばミサイル攻撃的にレスキューの効果を働かせるから、その部分が目立つという意味で、量を相対的に強調していいのではないか、ということを申し上げた。景気回復過程になれば信用システム不安は後退していくから、何かそういうミサイルのようにピンポイント的に量が働きかけていく部分はあまり見当たらなくなる、そういう意味ではコミットメントの効果のほうがより強く出るようにみえる、という趣旨のことを申し上げたつもりである。

以上