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総裁記者会見要旨(8月9日)

2005年8月10日
日本銀行

―2005年8月9日(火)
午後3時半から約40分

【問】

 本日の金融政策決定会合の結果および本日公表の「金融経済月報・基本的見解」での景気認識について伺いたい。

【答】

 本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標30~35兆円程度を維持することを決定した。また、「なお書き」についても変更しないこととした。日本銀行としては、引き続き消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策をしっかりと継続していく方針である。

 この決定の背景となる情勢判断については、内外経済は、経済・物価の両面で私どもが公表している展望レポートに基づくシナリオに概ね沿って順調に動いているというのが基本的な判断である。

 当面の経済の動きについては、IT関連分野における調整が進むもとで、日本の景気は回復を続けている。先行きについても、海外経済の拡大が続くもとで、輸出の伸びが次第に高まっていくとみられるほか、国内民間需要も、高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を背景に、引き続き増加していく可能性が高い。こうしたことから、緩やかながらも息の長い景気回復が続くとみられる。これが基本的な判断である。

 物価面では、前回の記者会見で申し上げたところと基本的に変わっていない。特に、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は、電気・電話料金引き下げの影響もあって、小幅のマイナスとなっており、先行きも、当面、小幅のマイナスで推移すると予想される。もっとも、本年末から来年初にかけて、米価格の下落や電気・電話料金引き下げといった特殊要因の影響が剥落していく過程で、プラスに転じる可能性が高くなると判断している。

【問】

 前回の記者会見で、総裁は「踊り場から脱却しつつある」という認識を示されたと思うが、その認識は現在どうか伺いたい。また、今後デフレ脱却に向けての景気判断のポイントとなる点や金融政策の運営のポイントとなる点を伺いたい。

【答】

 ポイントとなる点はあまり特別なことではない。いくつか認識されているリスク要因が大きく顕現化しないで、今好ましい方向に動いている経済が、さらに持続可能性を強めながら回復を続けていき、それに伴って、物価の基調的な動きがデフレ脱却の方向へさらに着実に進んでいく。そのことをきちんと判断することである。

 金融政策についての私どもの基本スタンス、すなわち今の量的緩和の枠組みを堅持するという姿勢は、かねてより示している3つの条件──これは今申し上げたこれから見ていくべき大事なポイントと符合している──が成就したと判断されるまで、これを堅持する。

【問】

 「踊り場を脱却しつつある」という認識については、どうお考えか。

【答】

 日本経済は、実体経済面を見ても物価面を見ても、じわじわと良くなっている。じわじわだが確実に良い方向に進んでいる。従って、前回、「踊り場局面から脱却しつつある」と言ったが、今回も同じかというと同じではなく、少し前進している。なかなか難しいのは、じわじわと良い方向に進む経済がいつ明確に踊り場から脱却したのかということについて、その瞬間を正確にとらえて完了形できちんと判断するのは非常に難しい。少し過ぎてから振り返ってみて、「もう脱却していました」となりかねないのが今の経済の実態の姿だと思う。おそらく今の瞬間はそんなに正確にはわからない。特にIT関連の在庫調整は着実に進展しているが、生産・在庫などの統計で、特に電子部品とかデバイス関連の在庫循環の絵を描いてみると、在庫調整が終了したかあるいは終了するごく直前という感じになり、明確に終了したと断定できるぎりぎりのところにあり、大変微妙な状況になっている。そうしたことも含めて考えると、今の時点で写真判定すれば、少しぼやけた写真判定において、大方踊り場的な局面から脱却したと言えないこともないという感じである。私は文学者ではないので、これ以上うまく言えない。

【問】

 郵政民営化法案の参議院での否決と衆議院の解散という局面になって、そのことが短期的あるいは中・長期的に日本経済にどのような影響があるのか、あるいはあり得るのか伺いたい。前回の記者会見では、郵政民営化法案について、明示的にはおっしゃっていないが、総合して受け止めれば「成立に期待する」との発言があったかと思う。結果として否決されたが、経済財政諮問会議の一員でもあるので、どのようにお考えか伺いたい。

【答】

 参議院として非常に慎重に審議を重ねられた結果があのような結論になったわけであるので、この点について、私から具体的にコメントすることは差し控えたい。

 一方、経済との関係でこうした政治情勢の変化をどのようにとらえるかについては、ご指摘の通り大変重要な問題である。いつの時点をとらえても、政治の変化が経済に対して具体的にどういう影響を及ぼすかということは、なかなか事前に判断することは難しい。今回の場合も同じだと思っているので、あまり軽々なことを申し上げるつもりはない。

 ご承知の通り、日本経済は過去10年以上もの苦しい過程を経て、過去の問題──少なくとも民間部門においては過去の問題──の処理という点について、かなりの進展をみてきた。言い換えれば、ショックに対して脆弱性をもっていた経済が、その脆弱性をかなり脱却し、ショックに対して比較的強い経済に生まれ変わってきている。今回の政治的な変化がさらにどのように発展するかわからないが、このことによって目先すぐ具体的に目に見えるようなかたちで悪い影響が及んでくるかというと、そこまでは言えないような気がする。しかし、今後の政治情勢の展開如何によっては、やはり人々の心理に微妙に悪い影響が染み込んでくるリスクはないとは言えない。このように心理面を通じてボディーブローのように染み込んでくる悪い影響に十分注意を払いながら、今後の経済の動きを判断していく必要がある。その程度の注意深さは必要である。

 さらに長期的に考えれば、日本経済の新しいダイナミズムを確立するためには、民間部門だけではなく、公的部門のリストラ、構造改革がしっかり伴っていって初めて完成形に近づいていく。将来の課題は非常に明確である。従って、今後の政治情勢の展開が、公的部門の構造改革推進という国民の期待にしっかりと沿うようなかたちで進展していくことが、経済にとって非常に重要である。

【問】

 金融市場調節について伺いたい。8月上旬に下限割れが3日間続いたということで、これが一時的なものと言えるのかどうかという点に疑問がある。また下限割れの幅について、28兆円台まで落ち込んでおり、現在の30~35兆円程度という数字の意味合いが薄れてしまう、ないし意味がなくなってくるのではないかという気もする。この点についてはどうお考えか伺いたい。

【答】

 十分ご承知の通り、このごく短期間の下限割れに、市場が格別動揺を示しておらず、市場は「なお書き」適用の範囲内と冷静に受け止めている。このような事実からもわかる通り、日本銀行と市場の間のこの点に関するコミュニケーションには、一切ほころびがない。従って、今回は、下限割れについての日本銀行の理解、つまり資金需要が著しく後退する局面における一時的な下限割れという文字通り定義の範囲内にしっかり入っている。金額的にも、時間的な長さもしっかり入っている。3日間とおっしゃったが、資金需給の振れというものは、特に財政の要因等を考えると、その振れの姿を絵に描くとV字型のように底辺が尖って動く場合と、U字型のように動く場合がある。その変化を無理に歪めて下限割れの姿に投影させるというよりは、U字型かV字型かの姿はそのまま反映させるほうが、市場としてもずっと理解しやすいのではないかと思っている。

【問】

 水準について、28兆円台でも「なお書き」で対応できるとなると、一体どの額まで「なお書き」で対応するのか、というのが気になるところである。その点の水準感──28兆円台で良いなら27兆円台はだめなのか──について、どうお考えか伺いたい。

【答】

 その点についても、毎日市場の中で現実に取引をしておられる市場参加者が、より真剣に判断しながら市場の中で行動しておられると思うが、一時的な下限割れが短期間の内に戻るという範囲内であれば、市場は十分受け入れ可能であり、それに対する市場自身の備えも十分であると思う。今回程度の下限割れが、こうした想定を超えて定義を逸脱するようなものであったという感触はいささかもない。

【問】

 当座預金残高目標30~35兆円程度の中心線は33兆円程度であるという考え方は、変わっていないのかどうか。また、7月27日の全店手形オペの金利が0.002%となり、最近では0.005%まで上昇しているほか、TBのレートも上がっているが、これは多少なりとも市場機能の正常化に向けて動き出したと見てよいのか、それとも一時的な弾みでなったものと見るべきなのか、あるいは何らかのリスクが出てきていると見るべきなのか、伺いたい。

【答】

 最初の質問であるが、その点については「なお書き」を今のように修正した5月の金融政策決定会合後の記者会見でご説明した通り、下限割れをしているごく短い期間を除き、通常の状況においては、従来通り33兆円程度を中心に市場調節を行えるであろう、また行っていこうということであり、従来と変わっていない。

 それからごく最近の動きとして、ご指摘のように全店手形オペについて応札が少し増えてきており、応札倍率も上がっている。また応札される方の金利の面での札の入れ方も変わってきている。私どももその変化に十分注目している。今のところ私どもの受け止め方は、経済・物価情勢に関する私どもの基本的シナリオと、世間一般の方々、そして市場参加者の方々の情勢判断について、従来いくらかあったかもしれないギャップが段々と縮まってきており、情勢判断を共有しうる範囲が少し広くなってきている。それに伴って市場参加者の行動が変わり、イールド・カーブの形成のされ方が少し変わり、それが次のオペの機会における応札の態度にも微妙な変化を与えてきている。これは、経済・物価情勢の変化、それに対する認識の変化、そして市場参加者の行動の変化、市場のコンディションの変化、それがまた市場関係者の次の行動を促す、というような新しい循環を生み出し始めている可能性があると見ている。まだ始まったばかりのことであるので明確なことは言えないが、そのような循環の走りと受け取れるものではないかと見ている。これらすべては今後の経済情勢次第であるし、先程のお尋ねのように、政治情勢の今後の展開如何によって、それが人々の心理状況の中にどのように染み込んでいくかということとも複雑に絡んでくる問題である。今後の変化を注意していくべきであるが、重要な最初の変化であると思う。

【問】

 2点伺いたい。1点目は昨日の衆議院解散について、参議院での否決をもっての解散という決断であったが、これについての総裁の感想を伺いたい。2点目は、前回の総選挙のマニフェストで、日本銀行の量的緩和政策やゼロ金利の解除などについて言及があったが、今回の総選挙も政権交代の可能性が指摘されており、政府と日本銀行の関係、日本銀行の独立性の観点から、マニフェストでの日本銀行の金融政策への言及をどのようにお考えか伺いたい。

【答】

 まず衆議院解散について、これは一から十まで完全な政治的プロセスであり、私からのコメントは差し控えたいと思う。

 それから、マニフェストと金融政策の関係については、ご承知の通り日本銀行法では、金融政策は、これも一から十まで完全に日本銀行政策委員会・金融政策決定会合で決定するもので、100%日本銀行の責任の範囲内にある。マニフェストとは切り離して理解されるべき性格のものだと思う。

【問】

 2点お伺いしたい。先程、踊り場脱却の判断について多少ぼやけた言い方をされたと思うが、踊り場から完全に脱却するかどうかの見極めの中で、政治的混乱による個人や企業に対する心理面の影響を見極める必要があるのか。また、構造改革を金融面から支援するというかたちで量的緩和の継続を行ってきたと思うが、今後、公的部門の構造改革、リストラが本番を迎える中、郵政民営化法案が参議院で否決され、それを受けて衆議院が解散された。こうしたことを受けて、公的部門のリストラが遅れることに対する懸念について伺いたい。

【答】

 「ぼやけた写真判定のようなものだ」と、例え話として申し上げたわけで、私どもが今持っている判断は比較的明確に申し上げたつもりである。つまり、踊り場をほぼ脱却したと判断し得るのではないかと申し上げた。鉱工業生産や在庫の動き等、経済指標で全部クリアカットに描けるかというと、少しぼやけた写真判定のようなところがあるという意味で申し上げた。

 心理的な影響についてはまだわからない。今後の政治情勢の展開如何によって、心理的影響が人々の経済活動に及んでくる可能性が全くないということはないかもしれない。可能性があるという目でよく見ていった方が良いと思われる。心理的影響がどうかということを見るのではなく、経済の今後の動きそのものの中にそれは染み込んで出てくるので、引き続き経済・物価の分析をきちんとしていけば、その判断に狂いはない。それとは全然別に心理的影響云々ということを考える必要はないと思う。

 今後の政治情勢の展開は私どもに予期できないが、どういう展開になろうとも、日本国民には過去10年間の構造改革の苦しみと意味合いが、きちんと蓄積されて来ているので、これからの国民の投票行動や新しい民主主義の形成プロセスの過程で、その経験は必ず生きてくると、私は信じている。従って、短期的に見て多少時間の前後があるとしても、長い目で見て公的部門の構造改革の進展と民間部門におけるさらなる活力の向上は、おそらく平仄の合うかたちで進んでいくのではないか、私はそういう目で将来を見たいと思っている。

【問】

 今度の衆議院選挙を経済面等から見ると、最大の争点は何とお考えか伺いたい。

【答】

 全く予測できない。これから各政党において、マニフェストがきちんと打ち立てられていく。このマニフェストに対して候補者がきちんとコミットしていくか、そこを判定していかなくてはならない。それを見る前に無責任なコメントをするのは民主主義に反すると思っている。

【問】

 公的部門のリストラが良い方向に向かうことが経済にとっても良い、と先程総裁はおっしゃったが、短絡的に考えると、今の政権が再び政権の座に就くことが良いとおっしゃっているのか。また、どの政権でも公的部門のリストラは避けられないし、やらなくてはいけないと考えているのか伺いたい。

【答】

 短期的な政治予測は一切していない。私は非常に長い目で見て、公的部門の構造改革が民間部門の努力と平仄が合って来ること、これが生命線だと申し上げている。私だけでなくて、日本経済の中で真剣に努力をしておられる一人ひとりの皆様が、過去10年以上の苦しみの過程で築き上げた蓄積の中から十分引き出せる材料をたくさん持っておられる、そのことだけを申し上げている。

【問】

 総裁の長い中央銀行生活の中で、過去にも解散、総選挙という局面があったかと思う。一方でメディアは政治的空白という指摘もしているが、こういう解散があり、総選挙後に新しい内閣が決まるまでの間、中央銀行として何か心がけていくことはあるか伺いたい。

【答】

 金融政策が効果をあげていくためには、情勢判断や私どものとる措置が的確であり、市場が期待を乱さないようにそれを受け止めながら、望ましい市場条件ができ上がっていくという組み合わせが必要である。今、政治の空白や不安定、混乱等、様々の事態を想定した場合、それらの事態が市場の期待を著しく乱さないように、私どもも、できることには限りがあるが努力をしていく。市場、経済が良い方向に動いているので、市場の期待の安定性を害するような動きに対して、どういう対応ができるか、そこは非常に重要な点だと思っている。

【問】

 最近日本の市場──株、為替、そして最近では債券も──では、外国人投資家がかなり増えているようである。こうした方々の期待がどのようなところにあって、その期待を安定させるためには中央銀行としてどのようなことが必要であると思うか。

【答】

 今、世界の市場がばらばらに動いているというよりは、主要な国々の株式、債券、為替市場の動きをご覧になっても、そんなに不規則な動きは出ていないと思う。各国中央銀行が抱いている経済見通しの方向が、時の経過とともに市場の観測者から、ある意味で共感を得られるようになってきていて、そういう方向で市場条件が着実に形成されてきている。世界的に株価は基調として堅調である。債券市場を見ると、長期金利がごく僅かずつ上がってきているが、リスク・プレミアムが上がっているとか、期間プレミアムが上がっているというような不安定な状況は出ておらず、市場は落ち着いている。為替市場も比較的安定した動きが続いている。

 結局、中央銀行としてできることは、情勢判断を的確にするということと、自らの情勢判断に忠実に政策対応をきちんととるということである。そして、予想外の変化に対して新しい分析をなるべく早く的確に出していき、必要があれば必要な措置を講ずるということである。この絶えざる循環である。「これで終わり」という瞬間がない大変辛い商売である。グローバル化の時代で市場が一緒に動くようになっているので、少なくとも主要国の中央銀行が揃って、呼吸の乱れがないように緊密に協力していくということが欠かせない点だと思っている。

【問】

 先般、日銀が公表している「生活意識に関するアンケート調査」の調査委託先が、非常に不適切な対応をした。この案件については、日銀はむしろ被害者ではないかとの印象も持っているが、日銀が委託した組織を調べてみると、内閣府所管の社団法人ということで、政府関係の重要な消費関連統計なども委託されており、かなり公的な性格が強い組織だったと思う。そうした組織が、こうした対応をしていたということは、非常に憂慮するべき事態だと思う。最近GDP統計でも計算ミスが起きる等、政府の経済統計の作成現場のモラルが下がっているような印象もある。日銀の金融政策も、政府側の統計に依拠して進められているということも考えると、こうした事態について日銀総裁としてどのようにお考えになっているか伺いたい。

【答】

 先般の「生活意識に関するアンケート調査」は、発表した通り、また今ご指摘の通り、調査委託先において適切でない取り扱いがあり、結果的に公表済み計数を大幅に訂正するということがあった。大変遺憾なことであると感じている。ご迷惑をおかけした方々に対し、私どももお詫びをしなければならないと思っている。当然、委託先には、業務委託契約に基づいて損害賠償を求めたし、厳正な措置をとった。

 日本銀行の場合は、ほとんどの統計類は自賄いというか、自分のスタッフで作っており、これは委託していた統計としては唯一の統計である。しかも、今までは一貫して同じ先に委託してきたものを、最近入札制度を導入して前回から異なる委託先になり、その矢先の事故ということで、私どもも多少戸惑っている。入札制のメリットとデメリットというようなものも、この経験で感じ取りながら──だから今後どうするとにわかに申し上げられる訳でもないが──、個別契約の場合も入札の場合も、委託先に対して私どもがどのような注意を払っていけば良いか、さりとて多大なコストをかけるぐらいなら自賄いでやったほうが良いことになると思うので、コストの限界も測りながら、今回の経験も踏まえて従前以上にきちんと対応していきたい。

 この委託先が政府関係のどのような仕事まで手を広げられているかということを、私は十分に承知していないが、関係のある官庁には、「私どもはこういう経験をしました」という情報を差し上げている。

【問】

 今回、「生活意識に関するアンケート調査」が、先月の中・下旬には、統計データがかなり怪しいということがわかっていながら、先日の発表時期までホームページでデータを公開し続けた。後から見るとタイム・ラグがあったように見えてしまうが、それについてはどのようにお考えか。

【答】

 たまたまデータをフィードバックした一人の方から、「私はそういう調査に応じたことがない」という申し出があったことから始まった話である。そのことですべてのストーリーを築いて、直ちに統計修正あるいは統計のホームページからの削除を行なうのが本当に適切かどうか、なかなかそうはいかないであろうとおっしゃって頂けるかと思う。私どもとしては、委託先が本当にどのような仕事をしたのか、そして今回の問題がどの程度の広がりがあるか、今回初めての経験であるから、ほとんど悉皆調査に近いぐらいの再調査を行い、問題の範囲を正確に把握した上で発表させて頂いた。このようなことが何回も経験があれば──そのような不幸な経験は今後したくないが──、もっと早くできたかもしれないが、今回初めての経験であるし、極めて慎重に対処させて頂いたということはご理解頂きたいと思う。

【問】

 原油価格について教えて頂きたい。昨日、海外で1バレル64ドル台をつけたが、常々、総裁は原油価格を注意深く見ていきたいとおっしゃっていた。この原油価格急騰の経済・物価に与える影響を特殊要因として見ているのか、それとも、今後の見通しに織り込んでいかなければならないものとして見ているのか、見解を伺いたい。

【答】

 ハリケーンや特定の油田の事故であるとか、特殊要因が全くないというわけではもちろんないと思う。しかし、基本的には世界経済の成長に伴う需要の増加と、それに対して供給が十分にキャッチアップできるかどうか、ということだと思う。また、結果的にキャッチアップしていても、事前にキャッチアップできるかという読みが市場の中に入る。その過程で多少のスペキュレーションが入る。そのようなことで原油価格が高騰したり、あるいは不規則な動きになったり、あるいは高止まりしたりという現象が生じていると思う。一方で、米国の経済も含めた各国経済において、成長が高ければ高いほど良いというような経済運営がなされているわけではなく、潜在成長能力に沿ったかたちで長続きするような経済成長にソフトランディングする方向へ懸命な政策努力が続けられている。中国のように市場メカニズムによってそれを全うするということがまだできていない体制の中にあっても、様々な行政的手法等を加味しながら、経済が過熱に走らないようにコントロールしている。原油価格の高騰を眺めて、そういう経済の円滑な運営のモメンタムは一層強まっていると思う。その相互の関係の中で、最終的にこれが均衡点であるというものをなかなか認定できないと思うが、方向としては新しい均衡点を探りながらの経済運営が続いていると理解して良いと思う。

 同時に、同じ高成長あるいは潜在成長能力の範囲内での成長の中での原油の消費であっても、原油の消費のされ方が効率的であるか否かがもう一つ重要なファクターである。日本などの先進国では、原油の消費効率が非常に高いところにあるが、さらに効率的に使う。私どもがクールビズをやっているのも、そのささやかな方法の一つということだが、そういう努力を先進国は続ける。一方、エマージング諸国においては、エネルギー効率を引き上げる方向への努力が必要であることが、これまでの原油価格高騰によって、明確に例証されつつあると思う。

【問】

 東京三菱銀行とUFJ銀行の統合を巡って、合併時期が、当初の10月から数か月程度延期されるという報道があったが、その背後に金融庁から厳しい指摘があったと言われている。システム統合については、念には念を入れてと言えばキリがないが、どのようにチェックされるべきであるのか、その判断基準から見て10月1日の統合は再検討されるべきものであるのか、総裁の見解を伺いたい。

【答】

 最終的には個別行の判断であり、私どもが立ち入ったコメントはできない。いずれにせよ合併・統合にあたって、預金者あるいは利用者の信認を維持し確立していく上では、コンピューター・システムの円滑な統合が重要なポイントの一つである。過去にいくつかの厳しい事例もあり、そのことは関係者に強く意識されていると思う。東京三菱銀行、UFJ銀行の両行の間でも、こうしたシステム統合の重要性について、早い段階から強い認識をお持ちのようであり、かなり力を込めた取り組みを進めていると伺っている。最終的にどのような追加的なテストが必要かどうか、最終段階に入っていると思うが、そこを十分に確認して頂いて、万全の準備作業を終えた上で、実施に踏み切るということが、誰の目からみても望ましいことだと思う。金融庁がどのようなアプローチをされているか私どもは存じ上げていないが、おそらく見る目は同じだと思う。

【問】

 今後どのような政権になっても、財政収支の均衡が大きな課題になってくると思う。来年からの定率減税の縮小や、その後2013年度でのプライマリー・バランスの黒字化が目標として掲げられているが、これらが景気の先行きにどのような影響を与えるか。それなりにデフレ要因になると思われるが、そのあたりの影響について、現時点でどのようにお考えか伺いたい。

【答】

 民間企業、民間金融機関は、新しい局面に入りつつあるとの認識を強めて、長い時間的距離をもった先行きの展望に立って新しい戦略を生み出す段階に入ってきている。財政再建、社会保障制度の改革、郵貯、政府系金融機関のあり方、いずれについても、今後の長期を展望した改革のプログラムを明確に認識した上で行動していく必要もあり、そうでなければそれらと民間部門の新しい戦略との平仄が合ってこないことになる。今後どのように政治が形成されていくかに関係なく、政治に対しては経済の面からそういう意味での強い要請が出てくることはおっしゃる通りだと思う。その改革のプログラムがしっかりしたものであり、特にその根底に財政規律がきちんと強化されていき、さらに世代間の利害対立が民主的なプロセスを経てきちんと調整される、といった認識が非常に重要である。また、その改革のプログラムの実行の過程においては、その時々の経済情勢に応じて、ある程度弾力的にこれを実行に移していく、このような認識が国民の皆様の間で共有されていくことが非常に重要であると思う。

以上