ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2005年 > 福間審議委員記者会見要旨(9月14日)

福間審議委員記者会見要旨(9月14日)

2005年9月15日
日本銀行

―2005年9月14日(水)
福井市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約45分間

【問】

 本日の金融経済懇談会において、どのようなことが話題になったのか。また、そこでの議論を踏まえ、福間委員は福井県の金融経済情勢についてどのような印象を持たれたか、お聞かせ頂きたい。

【答】

 山本副知事から県経済の現状と課題を伺ったほか、地元経済・金融界の代表の方々からも色々とお話を聞かせて頂いた。私の印象を一言で申し上げれば、当地経済は非常に元気であり、企業の経営姿勢は東京の企業とあまり「時差」がないということだ。お会いした経営者の方々が皆さん、自己改革、経営改革を頭の中ではなく現実に実践されていることについては正直驚いた。これだけ経営者の意識が高いとは思わなかった。金融経済懇談会では通常様々な要望が寄せられるが、当地では、要望というよりも、むしろ前向きな発言やグローバルな視点からの意見が多かった。こうした意識の高さは、1970年の日米繊維交渉、1971年のニクソンショック、その後のオイルショック、さらに1980年代の第2次オイルショックの過程で繊維業を中心に苦労され、その都度、経営革新を続け、自助努力で難局を打開してきた長年の積み重ねの結果ではないかと推察している。

 また、昨日来、当地の経営者の方々から「レスポンス」という言葉が多く聞かれた。これは要するに「顧客本位」ということだと理解しているが、当地においても、IT技術を駆使し、中国、米国、欧州をひとつに繋いだグローバル経営を展開することで「顧客本位」の経営を実現されている。この点は、まさに今の日本の企業全体にも求められていることであり、そのことを当地企業がしっかりと実践されていることは、率直に申し上げて素晴らしいことだと感じた。

 建設業、あるいは繊維業の中でも新しいビジネス・モデルをなかなか見い出せない企業においても、「現状を打開するためにリスクに果敢に挑んでいきたい」といった、通常はあまり聞かれないような発言もあった。もとより、日本の景気全体が改善していることも影響しているとは思うが、こうした前向きなスタンスは一朝一夕に身に付くとも思えず、やはり日米繊維交渉以降、打たれても打たれても絶えず革新を続けてきた「福井魂」のなせるところなのではないかと思っている。

【問】

 福間委員はかねてより当座預金残高目標の減額を提案されてきたが、量的緩和政策の枠組みの変更については「焦らずゆっくりと漸進的に」と発言されている。そうした中で、本日岩田副総裁が、「量的緩和の出口にきわめて近い状態にある」と発言した旨報道されているが、福間委員は、量的緩和政策の解除のタイミングとその後のイメージについてどのようにお考えか。

【答】

 岩田副総裁の発言については、報道でしか承知しておらず全体を見ていないので正確なコメントはできない。仲間が増えてくれれば良いなという程度の気持ちはあるが、それ以上のことは申し上げられない。

 当座預金残高目標については、ご指摘のとおり私は4月の金融政策決定会合以降、27~32兆円程度に引き下げるべきだと提案してきた。同時に、この残高目標の引下げと量的緩和政策の枠組みの変更は別であるということも申し上げてきた。私が残高目標の引下げを提案するのは、量的緩和政策の先にある金利政策、あるいはゼロ金利を通っての金利政策に移行する前に環境整備を行っておく必要があるからである。かつて金融機関は流動性危機への備えという予備的な流動性需要に基づいて当座預金を所要準備額以上に積み上げていたが、ペイオフ全面解禁を経てそういう段階はひとつ達成した。都市銀行の預貸率が7割、地方銀行では5割を割る先もあるなど、ただでさえ金融機関の手元資金が潤沢にある中で、予備的な流動性需要も後退するとなると、金融機関にとって最早当座預金を所要準備額以上に積み上げておく必要はなくなる。そういう状況の下では、日本銀行が現在の残高目標に基づいて金融機関に流動性を供給することは非常に難しくなっている。

 ただ、残高目標を引き下げるに当たっては、5月の議事要旨にも書いてあるとおり、「慎重にゆっくりと減額していく必要がある」と考えている。本日の講演では、この考え方がもう少し具体的に伝わるように、「焦らずゆっくりと漸進的に」という表現で申し上げた。私がなぜこうしたことを申し上げるかと言うと、残高目標を一気に落とすと市場にショックを与えるので、市場と並走しながら漸進的に落としていく必要があるからである。私としてはできるだけ市場に痛みを与えず継ぎ目のない形で金利政策に移行していきたいと考えている。

 残高目標の引下げについては、3条件が達成してからでも遅くないのではないかという意見も聞かれるが、CPIがプラスになったからといって焦って残高目標を引き下げると、市場にショックや痛みを与える惧れがある。そうならないようにするために残高目標を金融機関の当座預金需要の減少に合わせて引き下げておくことが、過去の経験に照らしても適当なのではないかと考えている。FRBもBOEも過去の経験に学びその教訓を活かしながら、ディス・インフレ下での金融政策あるいはディス・インフレが一応止まった後の金融政策を行っている。その教訓とは、金融政策は追い込まれてから対応するのではかえってリスクを大きくするということである。これはわが国も例外ではない。

【問】

 福間委員は講演において、「年末にかけて消費者物価がプラスに転化することが視野に入りつつある」との見通しを示され、また、4月の展望レポートにあるように、「来年度にかけて量的緩和政策の枠組みを変更する可能性が徐々に高まっていく」と発言されたが、この枠組み変更の時期は、もう少し具体的に言うと、来年の前半であると理解してよいのか。

【答】

 来年の前半かどうかは分からない。方向としてはそちらの方へ行っているとしても、具体的な時期については実体を見極めながら考えていく必要がある。枠組みの変更は今はまだ将来の問題であり、先行き外的なショックが発生する可能性もある。予想をするとそれが一人歩きする惧れもあるので、お尋ねの点に関し私は大胆な予想は行わない。

【問】

 「焦らずゆっくりと漸進的に」というスタンスが重要ということだが、現在の残高目標を徐々に引き下げて金利政策が遂行できる段階に至るまで、どれ位の時間を掛ける必要があるとお考えか。また、福間委員の主張は未だ少数派であり、多数派は量的緩和政策を解除するまで現在の当座預金残高を維持した方がよいと主張しているように思われる。仮に量的緩和政策を解除した後に残高目標の引下げを開始した場合、金利政策が遂行できるまでにはかなりの時間を要すると考えられるが、そのように捉えてよいか。

【答】

 まず申し上げたいことは、量的緩和政策の枠組みを変更するまで現在の残高目標を維持し、3条件を達成してから残高目標を引下げるのは、私としては最も採りたくない政策であるということだ。本日の講演の図表でもお示ししたように、既に市場の景況感は変化し金利先高観が出始めている。キャッシュ・マーケットでもイールド・カーブが立ち始めている。このように市場は先取りしながら動くため、金融政策が後追いになると、結局は景気拡大が加速し、市場の景況感も急激に変化することで、市場金利とオペ金利の乖離はますます大きくなる。

 こうしたリスクを回避するためには、不要となった当座預金を事前に取り除いていく必要がある。残高目標を引き下げる前にあれこれと心配するよりも、現在のようにまだ余裕がある時期に引き下げ、それに対する市場の反応を見て行き過ぎがないかどうかを判断し、さらにその時の景気実体や市場動向を見極めながら次のアクションを考えていく、そういうアプローチが現実的ではないかと思う。3条件を達成してから一気に引き下げるというのは、色々な意味で市場に痛みをもたらすし、長期金利に与える影響も大きいと思う。講演要旨に当面の望ましい金融政策は「二刀流」と書いたが、これは残高目標の引下げという刀とゼロ金利という刀の2つを持ちながら進んでいき、やがて金利が反応し始めたら少し考え方を変えるというものである。3条件を達成して初めて残高目標を引き下げるというのは、私のような実務上がりの人間からすると、あるいは市場との対話を重視する観点からすると、理想論に過ぎる。

 いずれにしても1つだけはっきりしていることは、景気・物価動向、市場動向が我々を導いてくれるということだ。そのためには不必要な当座預金を積んで金利機能を動きにくくし、市場との対話ができない状態にしておくよりも、市場が反応できる状態、息のできる状態にしておくことが必要と思っている。

 金利政策への移行に要する期間については——この移行が最も難しい局面であるが——、予め残高目標を軽くしておけば、移行が間近に迫った段階で市場の方から移行後の金利水準を示し始めるはずである。そうでなければ金利政策には移れない。かつてのように日本銀行が裁量的に金利水準を決めるという時代ではない。市場との対話を通じて市場が示す金利を参考にしながら金融政策あるいは金利政策は動くべきだと思う。市場におもねる必要はないが、市場の考えを表象している金利がどういう動きをしているのかを注視する必要はあるし、その前提として金利が動く状態にしておかなければならない。そういう面では、市場の実態に即して残高目標を落としていくことがまずは必要だと考えており、本年4月から主張しているところである。

【問】

 地価についての認識を伺いたい。先日発表された議事要旨の中でも地価が上向く兆候を指摘する声もあり、それを示すような数値も、今後、出てきそうであるが、福間委員はこの地価の現状についてどうご覧になっているか。また、今後、地価がどのように推移していくと予想し、それが金融政策、量的緩和にどう影響を与えるかについてお聞かせ頂きたい。

【答】

 地価に対して全く無警戒というのは中央銀行としておかしいと思うが、現段階においては、地価の動向によって金融政策を動かすというところまでは来ていないように思う。今はプルーデンスの観点から収益還元法に基づいてREITの価格形成やノンリコース・プロパティ・ローンが行われているかどうかを点検することが大切である。一部にバブル的な現象もあるとの報道も見られるが、現状はまだバブルが発生しているとは言い難く、現実に上昇している地価も全体として見れば正当な収益期待を表現した価格形成になっている。それを潰してしまうというのは個人的にはまだ早いと思う。バランスシート調整が終わり、実体経済が良くなるに従って、リスクを取ろうとする動きが出てくること自体は健全なことである。ただ、過度にリスクを取るようになると、「いつか来た道」になってしまう。その点は警戒しながら見ていかなければならない。しかし繰り返しになるが、現状、地価が警戒水域に入ってきているとか、何か対策が必要だとか、そういう段階ではない。

【問】

 現在の量的緩和政策の下で不動産にお金が向かい易い状況になっているという認識が政策委員会の間にも広がっているのか。

【答】

 政策委員会としてこうだと言う特定の問題意識がある訳ではない。私としては過剰な注意は要しないが、さりとて全く無視するのも適当でないという考えである。

【問】

 地域経済について2点お伺いしたい。1点目は、福井県には繊維産業のほか、眼鏡産業など日本のモノ作りを大切にしてきた伝統的製造業が非常に多い。福間委員は福井県の経営者を高く評価されたが、今後福井県のさらなる経済発展は期待できると見ているのか。2点目は、地元金融機関から何か要望はあったか。または、地元金融機関に対して日銀から要望した点はあるか。

【答】

 福井県のモノ作りの水準の高さについては、大きな驚きであった。私自身、日本のモノ作りを大切にする伝統は今後とも重要な点であると思っている。当地には、その元祖のような方がたくさんいらっしゃって、モノ作りに対するこだわり、さらに、それを時代に合わせて変革しようとする意欲が高い。繊維産業や眼鏡産業でも、福井県をベースに世界を見ている。こういうことを可能にしたのは、やはりITの発達だと思う。インターネットを通じて顧客一人ひとりのニーズを汲み取りながらそれに合わせた製品を造って、日本のみならず米国、中国等世界に発信している。こういうことになると、地元経済というよりはグローバル経済が相手になるので、まだまだ発展するだろうと思っている。その代わり、次から次に競争相手が出てくるので、なかなか安心は出来ないだろう。

 金融機関については、不良債権比率が改善するなど経営は安定化している。また、リスク管理という点においても、信金に至るまでバーゼルIIへの対応にしっかり取り組もうとするなど、経営姿勢の健全さを感じた。リスク・マネージメントをやりながら、業容拡大を図る体制はでき上がりつつあり、実際、毎期段々と良くなってきているが、そのペースは全国平均を上回るピッチだと思う。また、中小企業の方からも、金融機関からの与信スタンスは積極的であるとの評価の声が窺われた。私が日本銀行に入って、そういう言葉を中小零細企業から伺ったのは初めてであり、量的緩和政策の効果が企業金融面に波及していることの証左であろうと受け止めている。

【問】

 「年末にかけてCPIがプラスに転化することが視野に入りつつある」という点であるが、具体的には何月位にプラス転化を想定されているのか。また、原油高がCPIに与える影響についてはどのようにお考えか。

【答】

 CPIについては、特殊要因が剥落するというテクニカルな面もあるし、石油関連製品の価格高騰の影響が見極めがたいこともあり、具体的に何月になればプラスに転化するのかは申し上げられない。これまで原材料価格が高騰したときには、ユニット・レーバー・コストの引下げ等で対応できたが、今回それがどこまで通じるのかも見定めていかなければならない。

 原油や石油関連製品の価格安定については、ひとつは原油の供給能力の増強という手段もあるが、開発に時間やコストが掛かるという問題がある。最近はリビア、インドネシア等、開発権をやや開放気味に切り替えようとしている国もあるが、そういう国が増えても、開発に時間やコストが掛かるという問題とか、必ずしも採掘出来る保証はないとか、そういうリスクは残るので、なかなか開発ラッシュ・供給増ということにはならない。このほか石油関連製品の価格高騰の背景には精製能力の不足問題もある。日本の場合は、精製能力はピーク時に比べて減っているとは言っても、依然として中国の委託精製を請負える位の精製能力は維持している。もっとも、欧米では不採算な川下業界の統廃合を進めてきたので、精製能力はタイト化した状態にある。

 ガソリン等石油関連製品の価格高騰が家計の消費に響くのは事実であるが、公共交通機関が発展している日本の場合と、車社会のアメリカとでは、与える影響も多少は異なる面もあると思う。

【問】

 福間委員は、ユーロ円金先のフォワードレート・カーブ等を通じて示された市場の金利観を参考にしながら金融政策や金利政策を行うべきであると発言されたが、実際、講演資料の中にある市場の金利先高観を示す図表を見ると、市場は来年の9月頃には3ヶ月物金利が0.3%程度まで上昇する姿を予測している。こうした金利観を前提とすると、来年度にかけて量的緩和政策を解除し、その後、当座預金残高の減額に着手し始めても遅くないのではないかと思うが、如何か。

【答】

 残高目標の引下げ時期を後にずらせばずらすほど、ユーロ円先物金利のフォワードレート・カーブはスティープ化していく可能性がある。今後、市場の景況感がさらに強まり、それに伴い金利先高感も一段と強まれば、時間の経過分だけカーブの傾きがシャープになる。したがって、3条件をクリアした後に残高目標を引き下げるのはリスクが大きいと考えている。ご指摘のグラフでお示ししたのはあくまで市場の現時点での見方であるが、そうした市場の金利観やその背景にある景気や物価動向の変化を従来以上にきめ細かく分析し、金融政策が過度に後追いになることがないようにしなければいけない。

 かつてのように、残高目標をいくら引き上げても景気や物価が上向かないといった局面は最早過ぎており、先物金利やユーロ円等のキャッシュ・レートは上昇し始めている。市場に振り回されるつもりはないが、無視する訳にもいかない。講演でも述べたように、金融経済情勢や市場の動向を確認しながら漸進主義で一つひとつ進む、できればそういう余裕が欲しい。市場と付き合うということは、結局、そういうことではないかと思う。日本銀行が市場を無理に押さえ込むことはできない。寧ろ大切なことは景況感を真ん中にして、市場との間で相場観を対話していくことではないかと思っている。

以上