ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2005年 > 総裁記者会見要旨 ( 9月29日)

総裁記者会見要旨(9月29日)

2005年9月30日
日本銀行

──平成17年9月29日(木)
午後5時20分から約30分
於 大阪市

【問】

 第一点目として、今後の金融政策の運営に関する見解を伺いたい。中でも、本日の懇談会で「量的緩和政策の持つ意味は、次第にゼロ金利に近付いてきている」と述べられたが、これは量的緩和政策の出口が近付いてきていることを意味されているのか否かという点を伺いたい。第二点目として、関西経済の現状について、本日の懇談会で出た各界からの発言、それから本日にも決定する阪神タイガースの優勝効果なども踏まえて伺いたい。

【答】

 第一点目のお尋ねであるが、景気や物価の認識については、先程の懇談会の時にかなり詳しく申し上げた。景気については、着実に回復し、今後も比較的内外の需要がバランスのとれた形で、それほど派手な回復ではないが、持続可能性を人々に感じさせるような回復が続くだろう。物価についても、特殊要因を除いた消費者物価で見て、基調はデフレ脱却の方向に動いている。表面的な生鮮食料品を除くコアの物価指数を見ると、年末にかけて、ゼロないし若干のプラスの領域に入っていく可能性が強いということを申し上げた。

 それらを前提とした場合、金融政策のフレームワークをいつ修正できるかについては、現時点ではまだ予測できない。それは今後の状況次第であって、表面的に物価指数がプラスの世界に浮上してきたとしても、改めて景気回復の持続性の確からしさ、そして再びデフレに戻らないことについて、我々自身がしっかり確証を得るための詰めの段階を迎えることになる。具体的なことはまだ言えない。言えるとしたら、2006年度にかけて、そういう可能性が出てくるだろうということを申し上げた。従って、お尋ねの点である量的緩和政策の実態が次第にゼロ金利政策そのものに近付いていくという話と、タイミングをその手前に引き寄せるという話とは、一応切り離して考えて頂きたい。

 量的緩和政策の実態的な中身が、次第にゼロ金利政策そのものに近付いていくことを申し上げたのは、量的緩和政策の枠組みを修正する将来いずれかの時点で、金融緩和の度合いがガタンと階段をつけるように不連続に変化するわけではないことを申し上げたかったからである。つまり、今日に至るまでの段階でも、金融機関における信用不安を背景とした流動性の予備的需要は趨勢的に減ってきているわけで、それが最後の段階までずっと続いていく。そうだとすると、流動性の予備的需要が減衰する中で、量的緩和の枠組みで最後までコアとして残るものはゼロ金利そのものということである。そのように、量的緩和政策は、実行し続けている過程で中身が次第に煮詰まってきている。従って、将来のある時点で、金利を操作目標とする本来の金融政策に戻っても、その段階でガタっと階段がついて引き締まり色が急に強まるということではない。あくまで連続線上で考えられるようなシフトになるだろうと申し上げたのである。

 それから関西経済の状況について、当地の金融経済界を代表する方々から、実に行き届いたご説明を受けた。また、今の時期に適したご質問もたくさん頂き、私が全部にお答えできたかどうか自信はないが、私としては非常に有意義な意見交換をさせて頂いたと思う。

 財界との懇談の時にも申し上げたが、中央と地方の景気実態の格差については、我々の頭の中でずっと引っ掛かり続けている問題である。中央と関西との間ですら、そうしたギャップがあるだろうということを、頭の中にしっかり位置付けながら状況の変化を見てきたが、今日伺った話で、我々は多少勇気付けられたという感じがする。

 中央と関西地域の経済のギャップは、まだ完全に埋まったわけではないと思う。しかし、当地において、輸出、特に中国向け輸出がかなり明確に持ち直しているというお話があったほか、業種の拡がりを持って踊り場脱却と認識できる程度に回復感が出て来ているというお話もあった。また、中堅中小企業は、引き続き大変ご苦労なさっているというお話ではあったが、トップクラスの中小企業では、かなり特色のある技術を持ち、他の企業と差別化された色をきちんと身に付けた企業が出てきて活躍しているという雰囲気を感じた。さらには、もっと小さな企業でも、単に景気が良くなって旧来型のビジネスに戻るというよりは、金融機関との間で知識の交換をしながら、新しい価値の創出を目指すことをどのようにして実現できるかというお話を伺った。まさに、時代の流れの方向に沿った努力の展開がなされつつあると受け止めた。関西経済全体として非常に良い方向に進んでいる感じを受けた。

 こうした動きの中で、日本経済全体として、そう簡単に物価が上昇の方向で加速度をつける経済には当面なりそうもないと思っている。関西経済を見ても、金融政策で、アタフタと先手を打って動かなければいけないという感じよりは、引き続きじっくり企業の努力を後押ししていけるような金融政策が適応性があるのではないかと思った。

 ただ、新しい色々な動きがあり、今後の物価形成メカニズムがどうなるか、よく見ていく必要がある。一部には資産価格の動きに十分注意せよというお話もあった。大阪でも御堂筋を中心に、かなり不動産価格の変動が激しく、それには金融機関による融資が積極的に対応していて、注意事項ではないかというお話もあった。そうした点を含め、注意すべきところは注意していくが、基本は、企業のこれからの前向きな努力を引き続きサポートしていけるような金融政策となるよう上手くデザインしていかなければならないと思った次第である。

 なお、タイガースの優勝については、2年前と違って、非常に冷静に見守ろうという一貫した姿勢でいる。景気も非常に大事な局面であり、冷静に見守って我々の判断に誤り無きを期さなければならないと、緊張感を緩めないようにしている。野球を観ていても、皆さん優勝しそうだと言っているが、阪神ファンの1人としては、心配しているわけではないが、本当に優勝するまでは冷静に見守りたいということである。

【問】

 お話を伺っていると、今の枠組みが終わった後、まだゼロ金利政策があるということのようであった。しかし、海外の一部では、量的緩和が終わること自体がゼロ金利の終わりという見方がある。今の景気の底堅さがさらに増し、将来、量的緩和を解除した時に、純粋なゼロに近いゼロ金利政策というものより、もう少し乖離した形で、ややそれよりも高い金利を目指すということはあり得るのか。

【答】

 今のこの段階ではそこまでは予見出来ない。量的緩和の枠組みの修正のタイミングがいつ頃になるか、まだ明確に予想し難い段階にある。その先の金利の操作について、何か予断を持ち得る状況かと言うと、それは全くない。そういう予断は一切持たないで、今後の経済情勢・物価情勢にきちんと符合するような政策をしていかなければならない。それは非常に真剣な課題であり、「何かしたい」とか、「こうあるべきだ」とか、「こうなるだろう」という絵を予め画用紙に描いて、それに沿って我々が政策の中身を詰めていくという態度は採りたくないし、採らない。情勢判断に忠実でありたいと思っている。

 今のところ、情勢判断はともあれ、何か慌てて金利を引き上げる方向で対応しなければならない強いリスクを感じていないからである。つまり、インフレ期待が急に強まるリスクとか、先程、不動産の動きについて少し当地でご忠告を受けたが、全国の動きをみて、不動産価格が極めて心配になるような異様な動きの走りを強く感じているかというと、今はそういう段階ではないと思う。従って、経済全体の実勢判断はさておき、何か、先行き先手を打つような政策の構図が要るかというと、そうは考えていない。

 「海外で」とおっしゃったが、私も先日海外に行ってきたばかりだが、日本の経済について、何かそういう段差を設けて引き締め方向への金融政策が必要であるとか、そういうことを日本銀行は意図しているのではないか、というふうに日本経済、日本銀行の金融政策をご覧になっている方はあまりいらっしゃらないのではないかと思う。

【問】

 今の段階では、要するに、リザーブ・ターゲットというものを、インタレスト・レート・ターゲットでゼロ金利にするという大枠は変わらないということか。

【答】

 とりあえず、最適なタイミングで量的緩和政策の枠組みの修正を図る。そのタイミングを誤らずにきちんと掴みたいということであって、そこから先のことは、まだ今から予見をもって考えないということである。

【問】

 最近、政策委員の方々から量的緩和を解除する際のインフレ・ターゲティングについての発言が相次いでいる。以前から、この点についてお考えを示されているとは思うが、この局面で改めてお考えを伺いたい。

【答】

 インフレ・ターゲティングという特定の道具に特別の効能があるから、それを金融政策の色々な政策手段の中で、特別に色をつけてものを考えるという態度は、おそらく採らないだろうと思うし、現在も採っていない。その一方で、先の金融政策の枠組みを新しく考えていく時に、金融政策の透明性をしっかりと保っていくことは重要な柱である。その文脈の中で、インフレ・ターゲティング的なものの考え方がどの程度有用かということは、決して頭から避けて通るものではない。そうしたことも一つの道具立てとして考えながら、一体そうしたものが我々の金融政策を行っていく場合に使う道具になるかどうか。インフレ・ターゲティングといっても一定の定義があるわけではない。どのような洗練された使い方が可能なのかということまで幅を広げながら、最適な使い方をしなければならない。あるいは、全く使わないほうが良いという可能性も大いにあると思う。量的緩和の枠組み修正後の金融政策については、金利を操作目標とするオーソドックスな金融政策に変えるわけだが、期待の安定化を保つために、どのように透明性という装いを用意していくかは、非常に幅広く検討しなければならない領域だと思う。そういう幅広い検討は十分行っていく。

【問】

 講演の中での質疑応答で、将来のある時点で金利政策に変わっても、急に階段を飛び上がるような金融政策になるわけではなく、あくまで連続線上でやると述べられた。その後も物価が上がり難い状況が続くということであれば、かなり緩和的な環境を維持できる可能性も残っていると述べられたが、期待の安定化を図るという意味でも、言葉の定義をできればもう少しはっきり教えて頂きたい。この「急に階段を飛び上がる」とか、「段差」とは、ゼロ近傍の金利を、例えば0.25%引き上げるということも含まれることになるのか伺いたい。

【答】

 あらゆる微細な動作について、それは含まれる、含まれないということを今の段階で言える材料は全くない。それを言うこと自体が、予断をもって臨むということの典型に該当する。そういう意味で、今のご質問に的確に答えることはできない。ただ、量的緩和の枠組み修正に入った途端に、中立的な金利を目指してトントントンと金利が上がっていくという想定をお持ちであれば、それほど不連続なことを我々はおそらく考えないで済むだろうという程度のことは言える。急に引き締め方向に加速度的に動くということは明確に否定させて頂いたが、それ以上に細かくお答えすることは、根拠なくお答えすることになると思う。今後の経済・物価情勢の実態に合わせて、我々は正直に行っていく。今後の動きをよく見て頂ければ、我々は決して嘘をつかない。そういう意味では、透明性をきちんと保ちたいと思う。

【問】

 加速度的に動くことはないということだが、一方で、市場では、量的緩和が解除された後、ゼロ金利がかなりの期間にわたって続くという期待が少しずつ形成されているようにもみえる。こういう期待が形成されていることについても、違和感がないか伺いたい。

【答】

 そういう期待が強く形成されているとは思っていない。CPIが安定的にゼロ%以上になるまでこの枠組みを続けるということは、かなり固定的なコミットメントだが、枠組みの修正の過程に入った後は、そういう機械的な枠組みで期待の安定を図るという考え方は、日本経済に対して次第に害が大きくなってくると思う。物価がプラスの世界になった後、経済の変動を一定の軌道でなかなか測定できないわけで、金融政策の生命線である機動性に傷をつけるようなコミットメントはやはりできない。

 しかしながら、日本経済は今後とも構造改革をとげながら潜在成長能力を上げていくという苦しい努力を底流で続けながら、外からのコスト上昇圧力を吸収していくという難しい過程の中で、経済のバランスをとっていかなければいけない。金融政策が、何か先走りすぎて、人々も、金融政策が先に先に行くのだから、自分たちの方も経済実態や地道な努力以上に、さらに何か考えなければいけないという不安感を持って頂かないような金融政策をしたい。

 何か機械的なことで縛ることで期待の安定を図るという時期は、量的緩和のフレームワークが修正されればもう終わりになる。その後のパスは経済の回復が緩やかであり、人々の構造改革の努力に引き続き苦労を要する。しかし、その結果としてコスト吸収力が強く、物価上昇が起こり難い経済であれば、我々は金利が上昇の方向であっても、それほど慌てて行う必要はないというシグナルは十分送りながら、そういう意味で期待の安定化を図りながら行っていくことができる。

【問】

 金融政策の話ではないが、改めてタイガースについて、今日、優勝を直前に控えているが、このような時に大阪に来られたというタイミングについて、どう感じているか伺いたい。また、今日は、試合の観戦はどのような形でされるのか。

【答】

 たまたま今日になったというだけに過ぎない。私は、海外関係も含め、随分事前に日程を詰めなければならない。事前に決めていても、どうしても実行できない場合もある。大阪に来るにしても、海外に出張するにしても、発表するのは直前だが、日程の詰めは随分以前から行っている。大阪に来る日程についても、もう半年以上も前から詰めており、まさかその時にこういう日になるとは全く想像できないわけである。偶然そういう日程になっているということだ。今日、野球を観るという予定は半年前には入れられないので、入れておらず、野球は観に行かない。

【問】

 試合結果はどういう形で知るのか。随行の方から随時連絡を受けるのか。

【答】

 私も、携帯電話は名手なので、これでいつでもリアルタイムで把握できる。

【問】

 総裁は、以前に政策のフレームワークと当座預金残高は一応切り離して考えると述べられた。本日の講演では、量的緩和の効果が、金融不安が遠のいたことで、意味合いがゼロ金利に近付いていると述べられた。仮に、そのゼロ金利を実現するのに、量がそれほど必要でなければ、下げられる可能性もあるという理解で良いか。また、先日、能動的な引き下げと、受動的な引き下げに関して、両者を分けて話されていたが、その点を絡めて伺いたい。

【答】

 今でも、フレームワーク修正の前に、残高を修正する可能性が全くないかというと、それは全くないわけではないと思っている。ただし、以前と違って、先ほど申し上げた金融機関の流動性に対する予備的需要というのは趨勢的に減っているが、景況感の良い方向への変化を反映して、市場の中でのイールドカーブが微妙に変わっており、別の意味で、やや長い期間の流動性に対する金融機関の資金需要が出てきている。我々が流動性を供給する場合の30兆円~35兆円程度という当座預金残高のターゲットを満たしていく困難さは従来より薄れている。いわゆる札割れ現象は減っているわけで、どうしても、流動性ターゲットを減らさなければならない必然性は、従来に比べて少し薄れてきていると思う。しかし、こういう状況は刻々と変わっているので、残高そのものを、今の言葉を借りれば、受動的に変える可能性というのが全くなくなったわけではないと思っている。

【問】

 英語で報道する時に非常に困るが、おそらく日本語で書いている方もそうだと思うが、「2006年度にかけて」とはどういう意味か。今、この時点から2006年度が始まるまでも含めて、ずっと2006年中という、そういう言い方で良いのか。

【答】

 先程から、我々のかなり蓋然性の高い見通しとして、生鮮食料品を除く消費者物価指数が、年末ごろ、ゼロないし若干のプラスに転じていくだろうと申し上げた。また、先刻の財界との懇談の時も、その後も持続的な景気の回復、つまり潜在成長能力を少し上回るような景気の回復が続いていけば、CPIが、またマイナスに直ぐ戻るというよりは、プラスの世界でゆっくり上がっていく蓋然性の方が強いかもしれないという話もした。これを下敷きに考えて頂いて、2006年度にかけてということになると、「かけて」という意味は2006年度に入る以前の段階を全く否定していない。しかし、2006年度以前の段階に確実に、とも言っていない。つまり、2006年度に入る前か、あるいは入って数ヶ月かというふうに普通は読めると思うが、しかしそこは少し幅を見ておいて頂かないと、約束違反と言われても非常に困る話である。

【問】

 量的緩和解除の判断をする時期を言っているのか。

【答】

 決断する時だ。つまり、条件が3つあるが、分かりやすく言えば、足許の物価が、数か月プラスで推移していることと、政策委員会の多数の見通しが先行きプラスだという、2つの条件が満たされないと話にならない。これらが満たされた段階から、第3の条件、本当に景気の持続性があり、この物価の基調というものが再びマイナスにならないという、そういうしっかりした動きであるかという実態的判断を加えていく。つまり、最初の2つの条件が満たされた段階から、そういう真剣な判断をする努力の期間が始まるということである。始まってから確信を得れば、量的緩和の枠組みの修正に踏み切らなければならない。それが2006年度にかけてということである。

以上