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総裁記者会見要旨(10月31日)

2005年11月1日
日本銀行

─2005年10月31日(月)
午後3時半から約45分

【問】

 本日の政策決定会合の結果について、総裁より趣旨を説明頂きたい。また、本日公表の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示された情勢判断を踏まえて、現時点での日銀の景気・物価見通し、ならびに金融政策運営方針について伺いたい。

【答】

 本日の決定会合では、現在の当座預金残高目標30~35兆円程度を維持することを決定した。また、「なお書き」についても変更しないこととした。日本銀行としては、消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策をしっかりと継続していく方針を確認した。

 前回の金融政策決定会合以降あまり日数が経っていない。その後7~9月の経済指標がほぼ出揃った状況であるが、それをみても短期的な経済・物価の動きは、前回の基本的見解の中でお示しした通りのシナリオに沿っている。これが本日の決定の基本的な背景である。

 また、本日、ややロングランな私どもの見解を示す展望レポートを決定・公表した。そのポイントは、今年度後半から来年度にかけてのわが国経済を展望すると、潜在成長率を幾分上回るペースで、息の長い成長を続けると予想されるということである。

 こうした先行きの経済の姿としては、海外経済が引き続き拡大するもとで輸出は増加を続けるとみられること、企業部門の好調が続くとみられること、企業収益の好調が家計部門にも波及していくと予想されること、極めて緩和的な金融環境が民間需要を後押しするとみられることを前提ないしメカニズムとして想定している。

 物価面については、国内企業物価は、内外の商品市況にも左右されるが、2005年度はやや大幅な上昇となり、2006年度はそのテンポが鈍化するもののなお上昇を続けるとみられる。消費者物価指数の前年比は、2005年度はゼロ%近傍、2006年度はプラスとなるとみている。

 なお、経済活動についての下振れ要因としては、原油価格の動向と米国をはじめとする海外経済の動向の2つを明確に挙げている。上振れ要因としては、慎重な企業行動が変化する可能性など、国内民間需要の動向が挙げられる。このほか、物価固有の上振れ・下振れ要因としては、原油価格をはじめとする国際商品市況の不確実性、需給改善が続くもとでのインフレ心理の台頭、規制緩和などに伴う競争環境の強まり、などが挙げられる。

 展望レポートの中では、金融政策の運営についても触れている。まず、量的緩和政策の効果についてみると、現状、金融システム不安は大きく後退しているほか、物価が下落から上昇に転じるとの見方が増加し、やや長めの金利形成において、私どもの「約束」の果たす役割は徐々に後退する方向にあるため、次第に短期金利がゼロであることによる効果が、この量的緩和政策の枠組みの中心的な命題になってきている。

 先行きの金融政策運営については、今回の展望レポートに示された経済・物価見通しが実現することを前提とすると、2006年度にかけて、量的緩和政策の枠組みを変更する時期を迎える可能性は高まっていくとみられる。これまでも繰り返し申し上げているが、政策の枠組みの変更自体は、政策効果について非連続的な変化を伴うものではない。展望レポートの中でもこの点を改めて強調させて頂いている。量的緩和政策の枠組みの変更やその後のプロセスについても、展望レポートの中で概念的に整理をしているが、枠組み変更後、極めて低い短期金利の水準を経て、次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に向けて調整していく──そういう順序をたどる──としている。こうした枠組みの変更やその後の短期金利の水準については、申すまでもなく、先行きの経済・物価の展開、金融情勢に大きく依存するのであって、現状においては全くオープンということである。ただ、これも繰り返し申し上げているが、今後とも経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価が反応しにくい状況が続いていくのであれば、全体として、余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられる。

 また、量的緩和政策の導入と同様、枠組みの変更も先例のないものであるだけに、金融市場において経済・物価情勢に応じた価格形成が円滑に行なわれていくように配慮することが重要である。日本銀行としては、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現していくため、金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を一層丁寧に説明し、期待の安定化に努めるとともに、今後の情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応していく方針であることを確認し、展望レポートの中にも明記した。

【問】

 長期金利について伺いたい。先日、国会で「長期金利は非常に低い」と答弁されていたが、あらためて最近の長期金利の動き、水準についての見解を伺いたい。また、デフレ脱却と量的緩和政策の解除が徐々に展望されつつある中、先行きの長期国債買入れオペのあり方についての見解を伺いたい。

【答】

 国会では、「長期金利は世界的に低い水準で推移している」との問答の中で、日本の長期金利についてもお答えした。このところの長期金利の動向をみると、本年6月頃にかけて一旦低下した後、足許では1.5%程度まで上昇し、今日は1.5%を若干上回っているが、総じてみれば安定的に推移している。

 長期金利は、基本的には、将来の経済や物価に対する人々の見方を反映して決まるものであり、やや長い目でみれば、物価動向と密接に関連している。最近の長期金利の動向については、国内経済指標の改善や堅調な株価の推移などを受けて、経済・物価情勢に関する人々の見方が、どちらかと言えば良い方向に変化してきていることが影響していると考えられる。

 今申し上げたが、先日の国会では、「長期金利は世界的に低い水準で推移している」と説明したが、その背景としては、エマージング諸国の市場経済化によりグローバルな競争が激化していることや、各国中銀の適切な金融政策運営のもとで物価やインフレ心理が安定していることなどが挙げられる。こうした長期金利の安定に象徴される緩和的な金融環境が、世界経済の拡大を支えている。今後、原油価格の高騰など何らかのきっかけによって、こうした構図が崩れることは重要なリスク要因であり、今回の展望レポートでも記述した。

 長期国債の買入れについては、現在の量的緩和政策のもとでは、円滑な資金供給を実現する上で必要と判断される場合に、これまでも増額を行ってきており、現在も月々多額の国債オペを実施している。しかし、その際に重要なことは、金融調節の柔軟性を確保する観点である。その観点から、銀行券発行残高を上限としてオペレーションの額に制限を設けてきた。引き続き、こうした考え方に沿って実施していく方針である。先程少し触れた量的緩和政策の枠組み変更後における長期国債買入れの運営については、解除時点での金融情勢に即して判断すべきものであり、現時点では、具体的なことは申し上げられない。

【問】

 本日の展望レポートの表現について伺いたい。量的緩和政策の枠組みの変更にあたって、当座預金残高を所要水準に向けて削減していくという記述があるが、これは、当座預金残高を削減していった結果、量的緩和政策解除を明言されるのか、それとも予め量的緩和政策解除を宣言した上で残高を削減していくのか、この点について伺いたい。

【答】

 ご質問の点は、具体的な枠組みの変更の仕方そのものであり、実際に枠組み変更を具体的に政策委員会で議論する段階で決めていくことだと思う。ここで申し上げられるのは、量的緩和政策の枠組みから金利を操作目標とする金融政策の枠組みへ移行する過程において、今の当座預金残高目標を所要準備額の水準に向けて減らしていく、いずれにしてもこの過程なしではすまされないということであり、そのことは展望レポートで記しているが、どういう順番で、どの程度の時間をかけて、どういうやり方でということまでは論じていない。すべて、これからの将来のある時点における政策措置の中身だとご理解頂きたい。

【問】

 展望レポートの後半で、先行きの政策運営について、「日本銀行としては、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、全体として、余裕を持って対応を進められる可能性が高い」ということが述べられている。ユニット・レーバー・コストの低下幅の縮小や賃金の上昇などを反映して、急にインフレ懸念が強くなり、金融政策が早め早めの対応をしなければならない状況にはならないと思うが、ユニット・レーバー・コストの下げ止まりと賃金の上昇によって、以前よりは物価の上昇圧力が強まっていると思う。その辺りの見方や判断を伺いたい。

【答】

 これまでこの場で何度か、消費者物価指数が前年比マイナスの状況から、ゼロ、さらにはプラスの方向に変わっていくプロセスにおいて、賃金上昇率の変化、生産性の変化、ユニット・レーバー・コストの変化は、消費者物価上昇率の変化の要因をきちんと探るための非常に重要なポイントである、と申し上げてきた。その点は今後も変わらない。このように、ユニット・レーバー・コストの状況等が変化することによって、消費者物価指数のマイナスが消えプラスになっても、プラスの傾向がどの程度しっかりとしたものなのかということは、きちんと判断していくことになると思う。しかし、そのことと先行きのインフレ期待が急速に強まるかどうかということを直結してお話申し上げたことは、まだ一度もない。

 消費者物価指数を中心に、物価がプラスになった以降の経済環境はどうか。世界的にインフレ懸念が起こりやすい環境であるかどうか。日本も物価がプラスの世界になった状況の中で、インフレ期待が高まりやすい心理状況に人々が置かれるようになるかどうか。また、消費者物価指数がプラスに転じた以降の日本経済の動きが、今回の展望レポートで提示した、極めて緩やかながらも息の長い景気回復という基本シナリオに比べて、どこかでより強いトレンドに乗り移っていく、つまり息の長いと言うよりは非常に成長力に加速がつく、そして人々が将来の物価予測を少し急いで上方修正するのが妥当であるという環境になるかどうか。そうしたことにかかっていると思う。しかしながら、私どもの今回の展望レポートは、そこまでは予見できないという前提で発表した。

【問】

 先程の質問の関連で「枠組みの変更、すなわち量的緩和政策から金利をターゲットにした政策に移行していく過程で、量を減らしていかなければならない」とおっしゃったが、量を所要準備まで減らしてから漸く金利政策に行けると理解して良いか。

【答】

 先程、そこまでは書いていないと明確に申し上げた。概念整理として、量的緩和政策の枠組みから金利をターゲットとする政策への転換の過程では、必ず流動性の額の削減が起こるが、その順序やどのように具体的に組み込まれていくかということは、全くオープンである。すべては今後の政策措置である。本日の金融政策決定会合でも、流動性削減を今からでも少しずつ行うべしという少数意見が出ており、今後そうしたやり方の可能性が全くないということを申し上げるのは、私としては越権行為である。そうしたことも含めて今後の具体的な政策は、情勢にあわせて柔軟に、最も適切に組み立てていくことであり、今から具体的な順序立ては一切想定していない。皆さんもそこはスペキュレーションしないで欲しい。必ず間違える。

【問】

 展望レポートで、インフレ予想が進むというリスク要因も指摘されているので改めて伺いたい。総裁は経済の持続的成長にとって望ましい物価水準はどういうものであるとお考えか。数字でなくてもいいので、基本的な考え方を伺いたい。

 また、展望レポートの末尾に「金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明し、期待の安定化に努める」という表現があるが、総裁ご自身としては、こういう目的を達成するために必要な具体的な措置について、どのようなことをお考えか。

【答】

 望ましい物価水準について具体的なイメージを持っているかと言われれば、持っていない。これから、物価がある時点以降プラスの世界に移った後、ダイナミックかつ均衡のとれた日本経済の姿がどのように形成されていくのか、その中で安定的な物価水準とは一体どういうものかということは、さらに検討が進められていかなければならないと思う。世界的にグローバル化の著しい進展のもとで、世界全体あるいはどこの国の経済をとってみても、価格形成メカニズムはまだ変容を遂げつつある過程であると思う。それを忠実に分析し日本経済にあてはめた場合に、今後の望ましい均衡のとれた日本経済の姿、その中における物価形成メカニズム、そして場合によっては望ましい物価水準というように、順を追ってきちんと物事を追及していく必要がある。将来の課題であると考えている。

 大事なことは、インフレ方向であれデフレ方向であれ、人々が物価の変化を常に念頭におかなければ安定した事業計画や安定した家計部門の経済生活ができないということがあってはならない、という点であると思う。あまり物価変動リスクを念頭におかず、事業計画をきちんと立てることができ、人々の生活設計もできる、ということでなければならない。それが物価安定の一番基本的なエッセンスであるという点は、時代がどう変わろうと、経済構造がどう変わろうと、どこの国であろうと、普遍的という言葉は少し言い過ぎかもしれないが、共通項であると思っている。

 期待の安定化については、具体的に姿かたちがあるものではないと思うが、ここから先の日本経済は、よりダイナミックで前向きの構造変化を遂げながら新しい経済を作っていく過程に入ったということであるし、物価形成のされ方もこれからどんどん変わっていくと思う。また、金融市場を見ても、かなり長い間、金利機能を封殺しながら金融政策をやってきたが、これからは金利機能をどんどん活かしていかなければならない方向に変わってくる。このように、経済、物価あるいは金融資本市場も、定常状態に行くまでに様々な変化を経過しながら次の望ましいプロセスに移っていくという、非常に重要な過程である。従って、この間の金融政策は通常の局面以上に、日本銀行がその時々の時点で、何を目的にどのような意図で政策運営をしているか、その目的ないし意図に沿ってどのような行動をしているか、またそれらを如何なる表現で説明していくかということが、市場関係者の方々に少しでもクリアに理解され続けていくことが、市場機能が一層活きていくためのひとつの大きな前提条件である。また、それらのことは、最終的に市場の中で金利その他の市場条件が決定される時に、人々が共通して認識する将来の日本経済・物価の姿にフィットするかたちで、金利その他の市場条件が決定される基になると考えられる。

 それが市場の安定化という最終的に望ましい解であるが、人々の期待の安定化があって、安定した市場条件が形成される。人々の期待の安定化ということは、日本銀行の力だけではできるものではないということは良く承知しているが、日本銀行は人々の期待の安定化に努めることができるポジションにいると思っている。期待は自由に操作できるというおこがましいことは全く考えていないが、期待の安定化のためには全力を尽くさせて頂きたいという強い意思表明である。何か具体的なやり方を今念頭に置いているわけではない。コミュニケーションは大事であるが、そのコミュニケーションを前提として、私どものものの考え方が明確であり、私どものとる行動がそれと平仄がとれて一貫性があり、説明との間にも齟齬がないということは念頭に置いている。

【問】

 現時点ではまだ具体的な名前が挙がっていないが、本日改造される新内閣に期待されることがあれば伺いたい。

 また、今後量的緩和政策の枠組み変更が視野に入ってくる中、中央銀行と政府の関係についてどう考えているか。5年前のゼロ金利政策解除の際、政府から議決延期請求権を行使され、それでも日銀はゼロ金利政策解除に踏み切った経緯があるが如何か。

【答】

 まだ組閣が完了したと聞いていないので、現時点で新内閣に向けてコメントをするのは少し早すぎるのではないか。この段階で私がコメントしたということになれば、大変歪んだ受け取り方をされるリスクが大きいと思うので、コメントできない。

 しかし、どのような内閣ができようと、今後の日本銀行の金融政策は、私どもが100%責任を持って決定し、かつ実行していかなければならない。従って、私どもとしては、経済を見通す力を一層身につけながら、判断の誤りなきを期し、その上で政策を最も適切なタイミングで実施しなければならない。これから経済は、非常に大事な局面であるので、純粋な経済・物価情勢の判断と金融政策のものの考え方以外の夾雑物を入れることによってタイミングをずらすということだけは、絶対避けなければならないと思っている。

【問】

 量的緩和政策の枠組み変更について、意味するところを文章で表現されたが、この枠組みの変更の時期と、デフレから脱却したと判断することとは、ほぼ同時であると考えて良いか。それとも若干前後するということがあるのか伺いたい。

【答】

 デフレ脱却とは、経済・物価情勢全体の判断の中で、人々が将来再び経済がデフレに逆戻りするという心配を持たなくなる状況だと思う。従って、ある時点で、カレンダーの上で「いつだ」ときちんと見極めるのは、今後とも難しいと思う。経済分析家が用いる分析ツールによっても、その判断はかなり違ってくると思う。

 私どもは、少なくとも、経済がデフレ脱却の方向に向かって間違いない歩みを続けているという確信だけは持ちたい。それを前提とすれば、量的緩和政策の枠組みは異常な事態に対する異常な金融政策対応なので、ある時点で明確にここから卒業していくことが、今後の望ましい経済を実現していく上でも必要であると考えている。そのタイミングについては、消費者物価指数の動きを基準に通過点だけは明確に判断するし、皆様と共通のものさしで判断するということであり、私ども自身の課題として課している。従って、通過点としての量的緩和政策の枠組み変更は、消費者物価指数の動きを中心に判断していくということである。

【問】

 米国のFRBの次期議長にバーナンキ氏が指名された。同氏がかねてからインフレ目標を提唱しているということも含め、バーナンキ氏が次期FRB議長に指名されたことについて、感想があれば伺いたい。

【答】

 バーナンキ氏には私もお会いしたこともあるし、お話しもしたことがある。大変学識の高い方であり、書かれた書物も読んだ。それを全部理解できたかは怪しいが、理解できるところは理解したつもりである。その立派な理論立て、そして経済を見通す力を感じさせる鋭い分析から、私自身はバーナンキ氏に対して初めから尊敬の念を抱いている。

 来年からFRB議長として正式に任命された後、バーナンキ氏がどのような金融政策の方向性でリーダシップを発揮されるかは私にはわからない。おそらく米国経済・世界経済の実態というものをよく踏まえ、彼の理論的なナレッジ(知識)は無理に活かそうと思わなくても自然に活かされていくと思う。しかしながら、FRB議長として直面するのは、米国経済の現実と将来の予測、そして世界経済の現実と将来の予測であり、これらから瞬時とも目を離した金融政策をなさるはずがないと思う。いかに理論家であっても、金融政策のコックピットに入れば、目に映るのは現実と将来という生々しい経済だと思う。

【問】

 今日の展望レポートの採決自体に反対した委員がいるのか伺いたい。また、量的緩和政策解除の第2条件だが、展望レポートにおいて、2005年度、2006年度とも物価がこのような見通しになったことで、第2条件は満たしたと考えられるのか伺いたい。

【答】

 展望レポートは全員一致で決定し、少数意見はない。

 次の質問については、繰り返し答えていることだが、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上との条件を満たしたかどうかの一点に尽きる。その一点を判断するために、強いてブレイクダウンして、よりわかり易くすれば、3つのファクターに分かれるということである。各ファクターはそれぞれ事実として受けとって頂ければ良いことであるが、消費者物価指数の判断そのものには一つ一つのファクターは直結しない。あくまで3つの条件を満たさなければ、判断はできない。束ねて一つとご理解頂きたい。

【問】

 経済財政諮問会議で民間委員から、政府系金融機関の見直しに関して、民営化できるものは民営化し、廃止できるものは廃止し、残りは一つにまとめるという案が出ている。現在諮問会議の議論が続いているので、コメントできる部分は限られていると思うが、見直しの方向性についてどのように見ているか。中には、一つにすることによって必要な機能が損なわれるのではないかという指摘もあるが、組織と機能の面についてどう見られているか伺いたい。

【答】

 郵政民営化の場合も同じであったが、政府系金融機関の改革も、これから先のダイナミックな日本経済の実現に、改革をきちんと結び付けていかなければならない。そうなると、日本の持っているリソースを極力民間経済の中で効率的に活用することによって実現していく、ということに論理必然的になり、これに沿って政府系金融機関の機能を見直していくことになる。より端的に言えば、今後のダイナミックな日本経済の展開の中で、民間の信用仲介機能がより一層の広がりと機能度向上をもって展開していき、最終的にどうしても政府が面倒を見なければならない部分に限定していく方向で、具体的にデッサンしていこうという諮問会議での大きな議論の方向性について、大きな異議はないのではないか。従って、今の段階で数を幾つにしようかとか、どこの政府系金融機関をどうしようかという具体論までには行っていない。時間もあまりないと言われているので、相当急いで検討しなければならないだろうが、数をどうするといった議論よりは、本質の議論から始まっていると理解している。

【問】

 最近、都心部などにおいてミニバブルと言われるような不動産価格の上昇や取引が見られるが、総裁は、足許そのような高値での取引について、懸念するような状況にあるとみられているかどうか伺いたい。

【答】

 私どもも資産価格の動向については、将来の物価情勢の判断との関連もあり、非常に関心の強い事柄である。従って、今質問されたような都市部、特に東京の都心部の地価の動きにはもちろん関心を持っている。しかし、それだけではなく、全国ベースでも地価の形成にどのような変化が起こっているかについて、具体的に情報収集を行いながら判断している。都心部とその他周辺地域、さらには全国に目を転じると、かなり土地の価格形成のされ方に相違が出てきているということを、私どもも認識している。しかし、今のところはかつてのバブルの時と違って、それぞれ土地の利用価値ということが確認され、その割引現在価格に引き直しながら価格形成が行われている。こうした新しい資産価格の形成メカニズムの枠組みの中での地価の変化だと理解している。そういう意味では、質問されたような厳しい問題が目前に迫っているという判断をまだ持っていない。ただし、注意深く見ていきたい。

【問】

 バーナンキ氏は、個人的な意見であったと思うが、2年程前に物価水準目標導入を日本に対して提唱したほか、日銀による国債買切増額等の具体的提言をした。バーナンキ氏と総裁の考えとは距離があると思うが、その違いのよってきたる理由は何か伺いたい。

【答】

 デフレ問題の厳しさの認識や、一度デフレに陥った場合にそこから脱却するには、伝統的な常識の枠組みを超えた政策対応が必要であるという点について、これまでも私はバーナンキ氏と全く違和感なく議論してきた。現に日本銀行の金融政策は、全く異例な方式をとっている。具体的にどのようなやり方をとらなければならないのかについては、それぞれ国の実情に則して設計するものだという点について、バーナンキ氏に異論があるはずがないと思っている。

【問】

 展望レポートの「政策の枠組みの変更自体は、政策効果について非連続的な変化を伴うものではない」との記述について、この「非連続的な変化」を言う時に0.25%程度の金利引き上げは排除されるのか。

 また、次の文章の「枠組みの変更後のプロセスを概念的に整理すると、極めて低い短期金利の水準を経て」となっているが、ここで敢えてゼロ金利と書かずに、「極めて低い短期金利」と書いているのは、明確にゼロ金利ではないと意識しているのか。

 最後に、「次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に調整していくという順序をたどる」とあるが、「経済・物価情勢に見合った金利水準に調整する」ということは、現状は、経済・物価水準に見合った金利水準ではないと考えているのか。すなわち、実質ゼロ金利が続いているが、今この経済・物価情勢というのはゼロ金利に見合っていないと考えているのか。以上の3点を伺いたい。

【答】

 具体的に何%の金利が経済の実勢に見合っているかは、事前にはなかなか判定できない。米国も中立的な金利水準を目指してmeasured pace(慎重なペース)で金利を引き上げているが、事前に中立的な金利水準が何%と設計して政策をやっているわけではない。刻々と変化する経済・物価情勢との相関関係でなければ、最終的に均衡のとれた金利水準というものは確認できない。この点はおそらく、日本経済についても当てはまるのではないかと思う。

 次に金利水準については、私どもは量的緩和政策の枠組みの変更で、所要準備額を上回る当座預金残高が削減され、その終着点は少なくともゼロ金利そのものだと認識しているが、そのゼロ金利が瞬間的に終わるのか、ある期間続くのか、あるいはその後の金利水準はどの程度となるのかについては、全くオープンだと言っている。逆に言えば、オープンでなければならない理由は、すべてのプロセスを連続的に進めていくためには、あまり一定の金利水準を想定してそれに固執するような期間をおかない方が良いのではないか。つまりそのような期間を設けると、その後の金利の径路が実体経済と合わなくなればなるほど段差を設けて調整しなければならない時期がその先に待っていることになってしまう。従って、金利水準については全くオープンである。金利水準については人々が非連続で急に来たなという感じにならないように調節していく。従ってタイムリーでなければいけない。しかし、そのタイムリーというのも、想定される範囲内で言えば、経済・物価に上押し圧力がかかるという状況でなければ、余裕を持って対処できるということである。こういうことは画用紙に書いてみせろと言ってもなかなか書けない。寝ているか寝ていないかわからないような一本の線しか、今のところ画けないと言うことである。

以上