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総裁記者会見(12月16日)要旨

2005年12月19日
日本銀行

―2005年12月16日(金)
午後3時20分から約40分

【問】

 本日の金融政策決定会合の結果についてご説明頂きたい。また、本日公表された「金融経済月報・基本的見解」および14日公表の短観を踏まえた景気見通しを伺いたい。

【答】

 本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。また、「なお書き」についても変更しないこととした。日本銀行としては、消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、当面、金融緩和政策をしっかりと継続していく方針であること、を確認した。

 背景となる経済・物価情勢については、前回の記者会見から1か月が経過し、GDP統計の改定値、短観、10月の消費者物価指数、その他多くの経済指標が出ているが、本日の「金融経済月報・基本的見解」に示した通り、わが国の景気は回復を続けているということである。この先を見ても、緩やかながら息の長い景気回復が続くとの判断を全面的に裏付けるものであった。さらに言えば、10月末の展望レポートの中において標準的な経済・物価の見通しを出したが、これとの比較で見ても、経済はほぼ過不足なく標準的なシナリオに沿って順調に動いている、そういう判断が持てる経済の動きだと思っている。

 経済全体の動きをさらによく見ると、非常にバランスのとれた景気回復であるとの印象を強く持たざるを得ないような、好ましいかたちで経済の回復が進んでいる。需要面から見ると、景気回復をけん引する海外の需要(輸出面)と国内の需要(設備投資、個人消費)のバランスがより良くとれるかたちで進んでいる。経済部門別に見ると、例えば企業部門では、製造業と非製造業のバランス、大企業と中小企業のバランス、さらに企業部門と家計部門の間では、企業部門の好調ぶりが家計部門にも次第に着実に均霑しつつあるというかたちで、色々な角度から見てバランスのとれた景気回復との印象をより強く感じられる足どりになっていると思う。

 このように、景気回復はあくまで地味であるが着実であり、今申し上げた通りバランスがより良くとれてきているという意味で、裾野の広がりのある回復になってきていると言えると思う。

 また、循環的に見ても、在庫状況などは、IT関連だけでなくより広く素材も含めて、調整が徐々に進展している姿が指標によって裏付けられており、そうした意味では、あまり波を打たない持続的な回復のパスを、より明確に想定できそうだとも言える。

 それから、着実な景気回復が続く中、経済全体の需給バランスも改善してきており、短観を見ても設備の過剰感は完全に払拭された。雇用の過剰感は前回の短観から少し人手不足の領域に入ったが、今回の短観ではそれがさらに不足の方向に進んでおり、そうしたデータに象徴されるように経済全体の需給バランスがさらに改善している。これらを基本的な背景に、消費者物価指数(除く生鮮食品)は、10月の時点で前年比ゼロ%まで上昇してきた。

 景気の持続的でバランスのとれた回復、需給バランスの一層の改善、そして先ほど家計部門への均霑と申し上げた通り、賃金への還元が徐々にではあるが着実に進んでいて、年末のボーナスも今のところのアンケート調査では、夏よりも少し良い結果が出そうだと聞いている。先般、経団連もこれからの賃金抑制姿勢について、状況に合ったアジャストメント(調整)をしても良いのではないかという考え方を示されとの報道もあった。こうしたことから、ユニット・レーバー・コストも、これからは物価基調を改善する方向に動いていくと思う。

 従って、消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年比ゼロ%になったのに続き、これから先は少しずつプラスの領域に入っていくであろう、との見通しを維持している状況である。

 以上のことを背景に本日の措置を決定した。

【問】

 金融政策のスタンスについて伺いたい。8日の講演において、総裁は量的緩和政策の解除に向けて改めて意欲を示された。一方で、政府はそれを強くけん制する発言を続けている。今後の金融政策運営における政府と日本銀行の関係について改めて見解を伺いたい。

【答】

 意欲を示すとか、示さない、という話ではない。毎回申し上げている通り、あらゆる経済・物価の動きを冷静に点検して、経済の実勢に見合った金融政策を施すことによって、結果として、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していきたいという方向性に一切のブレはない。そして消費者物価指数(除く生鮮食品)が現実に前年比ゼロ%の水準になってきて、今後同指数が安定的にゼロ%以上になるかどうかを、冷静かつ真剣に見極めていかなければならない段階であるので、意欲先行ということは私にとっては全くない。今後とも冷静に判断していきたい。

 そして、政府と日本銀行の間で意見の相違があるのではないかと度々言われているが、これまでも申し上げている通り、物価安定のもとで持続的な成長を目指すという最も重要な点で、政府と日本銀行との間で認識の相違はありようがないと思っている。また、現実に経済や物価情勢についての判断・見通しについて、つまり情勢判断について政府と日本銀行との間で一切狂いはなく、冒頭に申し上げたような目指すところについても相違はない。それぞれの方々がどのような角度から経済・物価の動きを見るかによって表現の違いは当然あると思うが、基本的な認識において相違のありようがないと思っている。私どもは自分自身の判断をこれから一層しっかりと固めていくと申し上げたが、各方面の様々な経済についての観察、分析については、引き続き十分参考にさせて頂くし、政府との間では、日銀法の趣旨に則って十分意思の疎通を図っていくことも、従来と変わりのない方針である。

【問】

 先般、みずほ証券の株式誤発注に伴って、株式市場に大きな混乱が生じたが、これについての見解を伺いたい。これに関連して、この混乱の要因として東京証券取引所のシステムの不具合が指摘されているが、決済システムの一翼を担う日銀としては、今回の件を受けて日銀ネット等決済システムの見直しを進める考えがあるのか伺いたい。

【答】

 実感として、ネットワーク時代の恐ろしさといったものを強く感じる。今回は1社・1件の誤発注を契機として、大きな問題が起こった。発行済株式数を遥かに上回る売り付け超過が生じ、当日中の相場が不安定化した。その後3営業日にわたる売買停止措置がとられ、さらに異例の解け合いという事態に立ち至った。システム整備、あるいは異例な取引への対応といった面から、東京証券取引所の市場運営のあり方についても、見直すべき点があるということは確かである。

 個別銘柄で生じたことではあるが、市場の円滑な価格形成、安全な取引の場の提供、決済の安定性といった市場機能の根幹に関わる問題に、すぐに発展するということである。従って、普段から地道に見直すべき点はきちんと見直していくことが必要である。まさかネットワークに大きなリスクは潜んでいまいと、安心感をもって時を過ごすということが決してないよう、常々、点検を怠らないよう心掛けることが大事だと思う。日本銀行としては、金融市場参加者、そして特にこうした大きなシステムの運営主体との間で、今申し上げた意識で意見交換を繰り返してきているが、今回の件を契機にさらにそういう努力を強めていきたいと思っている。

 日本銀行自身も、ご指摘のように日銀ネットというわが国金融システムの基幹的なインフラストラクチャーを運営している主体であり、人のことに気を取られている間に、自分のところから水が漏れるということがあってはならない。オペレーションの面も含め、開発・運営全般にわたって万全を期していきたい。もちろんこれまでも期してきているが、今後とも万全を期していきたいと思っている。また、このように市場全体の様々なシステム運営主体と常時、意見交換、知識の交換をする過程で、自らのシステムについて様々なリスクの発生源を新しく見つけ得る機会もあるし、再発防止の努力とか措置等についても新しい工夫を発見し得るので、互いに「他山の石」と言うか、互いに参考情報を取り交わしながら、自らのシステムについても適切な運営に一層力を入れていきたいという気持ちである。

【問】

 先程、物価安定のもとでの持続的成長という点で、政府との間に認識のズレなどありようがないとおっしゃった。その物価安定の中身について、最近何人かの審議委員が、講演等で望ましい物価上昇率のあり方を示すことについてやや前向きの発言をしているように思うが、総裁はこの点についてどのようにお考えか。

【答】

 私自身と言うよりも、日本銀行においてももちろんであるが、どの国の中央銀行においても、金融政策運営の責任を担い、かつ実際に運営している立場からは、望ましい物価安定とは何かということを、その国の経済構造の変化等も下敷きにしながら、発見努力を常に行っている。経済がグローバル経済と密接な連関を持って動くようになっているということは、物価形成メカニズムにも刻々と新しい変化が織り込まれつつあるということであり、どの国の中央銀行も、望ましい物価安定とは何かということについて、一旦定義すればそれで終りではなく、常に頭の中を新しくしながら、発見努力を続けている。それを金融政策運営の透明性確保の観点からどういうかたちでうまく表現できるかという点で、金融政策運営上の新しい知恵と工夫がいる。一言でインフレーション・ターゲティングとか望ましい物価安定目標の定義とか言っても、そこに至る思考プロセスに、各中央銀行の創造的な過程が前提となっている。単に、他の国の中央銀行はこういう姿をとっているからといったテキストブック・アプローチでこれを持ってくれば良いというような軽い考え方で、インフレ率のターゲットを置いている中央銀行は一つもないと信じている。

 日本の場合はデフレ的な状況が長く、これから確実にそこから脱却していく過程にある。これからの日本経済の中でポジティブな物価上昇率がどのようなメカニズムで形成されていくか、特にグローバル経済により強くインテグレート(統合)されていく日本経済において、新しい物価形成メカニズムがどうなっていくかを分析する必要がある。企業部門や金融部門が大きく構造変化を遂げながら、これから新しい日本経済のダイナミックスを築いていく中で、家計部門の行動もおのずと変わっていく。そうした状況の下では、あまり先見的に数値のイメージを持たずに、物価形成メカニズムの新しいプロセスを深く分析しながら、私どもは次の新しい透明性の戦略に辿り着くほうが望ましいと思っている。インフレーション・ターゲットに積極的とか消極的とか言うことではなく、そういう事前のプロセスが大事な段階に日本経済は入りつつあると考えている。

【問】

 先日、FRBのFOMCで再び利上げが決定されて、ステートメントにも若干インフレ警戒的なトーンが出てきた。ECBも利上げをしており、世界的にインフレ警戒とか金利上昇傾向が出てきているように思う。こうした世界経済の環境について、総裁はどのようにお考えか伺いたい。

【答】

 世界経済も日本経済も本当にダイナミックな変化を遂げつつあり、これからますますダイナミックな変化を遂げていくであろう。このため、経済や物価情勢の変化を一層目を凝らして、見ていかなくてはならない段階に入ってきていると思う。世界経済が、特に米国経済を中心に、大幅な石油価格の上昇を、どのようにこなしながら前進していくのか。米国の場合は特にハリケーンの襲来があったが、そうした様々なショックを潜り抜けた後の今の米国経済や世界経済を見ていると、そういう原油価格や一次産品価格の上昇といった価格面のショックを相当程度吸収しながら、経済の持続的な拡大モメンタムを失わずに進んできている。一方でグローバル経済の進展のもとで、最終物価が上がりにくい経済になっているのではないかと言われてはいるが、やはりコスト上昇圧力、特に原油価格や一次産品市況の上昇は、最終的な物価にある程度上昇圧力をかけてきていることも事実であり、足許は、それが最終的に人々のインフレ心理にどう結びつくか、まだ十分見極めがついていない状況で経済が動いている段階である。従って、主要国の中央銀行においては物価情勢、なかんずく人々のインフレ心理の動向にかなりの関心を寄せながら、慎重な金融政策を運営している状況である。日本経済についても大きく言えば、こうした枠組みの中でインテグレートされながら動いていると思う。私どもも今後の物価情勢を見ていく場合には、そうした世界的な枠組みと日本国内の情勢を二重写しにして、最終的な日本の物価の姿をよく読み込みながら、金融政策の今後の姿を考えていかなくてはならない。

 米国について繰返せば、エネルギー高やハリケーンの被害はあったが、堅調に拡大している。FRBは物価について多少懸念を持っており、そうした慎重な姿勢のもとで極めて慎重なペースだが段階的な金利の引き上げ措置をとるなど、これまで適切な金融政策の運営がなされていることもあり、コア・インフレは落ち着いており、長期的なインフレ予想も引き続きコンテイン(抑制)されている状況にある。

 このように、内外経済一体となって進むダイナミックな姿、その変化ということを絶えず正確に捉えながら、それに最も適する金融政策を当てはめていくことが非常に大事である。そういう観点からは、最近の主要国の金融政策の運営の中からも多くのヒントが得られると考えている。

【問】

 政府・与党は、来年度の税制改正で増税色の強い方針を出している。消費者心理からすれば決して好ましくないと思うが、それが今後の日本経済にどのように影響していくかも含めて総裁の見解を伺いたい。

【答】

 国民の皆様も、過去10年以上にわたる大変苦しい日本経済の過程の中で、決して傍観者であったわけではなく、自らも多くの負担を被りながらこの苦しい過程を過ごし、今、先行きの展望が少しずつ開けてきている状況だということを十分おわかりのことと思う。それから、先行きの展望がただ明るいばかりでなく、公的部門に多くの宿題が残っていることもおわかり頂いていることなので、これに対してかなり時間もかけ、そして負担するべきものは負担しながら、残る課題をしっかり解決していかなければならないということも十分ご理解頂いていると思う。

 従って、これから財政再建の一環として政府がとる個々の措置については、将来にわたる政府のプログラムについて十分に国民の理解が得られ、そして刻々ととられる政策が、その全体のプログラムの中でどのような位置付けにあるかがよくわかる、さらに、個々の実施項目については、その時々の経済情勢、あるいはその時々に予見される先行きの経済情勢との関係で見て、十分実情に即したものだという感覚を常に持てるように政策運営がなされていくことが、非常に大事だと思う。

 そういう広い意味で、金融政策も、人々の予測可能性、期待の安定性というものを非常に大事に運営していけば──非常に難しい問題であるが──、私達一人一人が持っている潜在的な英知で、大きな波乱なく将来にわたってやっていける可能性があるわけなので、この可能性を大事にしていかなければならないと思う。

【問】

 安定的に物価を上昇させる現在のコミットメントがなくなった後、どのようなはっきりした目標を設定されるのか。インフレ・ターゲットのようなものは、量的緩和政策解除後すぐには導入されないということか。また、この10~15年の間に様々な国でインフレ・ターゲットの成功例があるが、その中には日本より経済規模の小さい国や、資源の輸出に頼るオーストラリア、ニュージーランド、カナダのような国があるが、そのような実績は日本にとってどのような参考になるのか。

【答】

 今後の金融政策の大きな方向性については、展望レポートの中でかなり克明に記述している。現在これ以上の情報を差し上げることは必ずしも透明性を補完することにはならないと私どもは思っている。従って、量的緩和政策の枠組み修正後、金融政策運営上どのような新しい透明性確保の工夫を凝らしていくかは、今のところオープンである。何ら前もって決め込んでいるものはない。引き続き政策委員会のメンバーでよく議論しながら、日本の実情に一番即したやり方を模索していきたいと思っている。

 世界では、インフレーション・ターゲティングというか、一つの大くくりで言えばその範疇に入るような色々なやり方をとっている国がいくつもあるが、仔細に見ると国毎にその性格は違っている。日本の場合、どこかにテキストブックがあって、それをそのまま模写すればよいということは絶対にない。よそ見をする前に日本の経済・金融の構造がどう変わるかといった足許の状況をよく見て、日本人特有の国民心理あるいは気持ちにぴったり沿うような透明性確保の方法でなければならない。隙間があれば、必ずそこに便乗した違った思惑が入ってくるので、真似事はいけないということだけは明確に申し上げておく。

【問】

 為替市場で荒い値動きが続いており、円相場も1週間で5円近く円高に振れている。今月初旬のG7で財務大臣が、円安の動きが続いているのは基本的にはファンダメンタルズを反映した動きと認識していると述べていたが、この円高の局面はこれまでと逆の動きとなっているが、総裁としてどのようにみているか伺いたい。

【答】

 為替の動きについて格別のコメントはない。円安方向に動く時も円高方向に動く時も、そのこと自体が経済にどういう意味合いを持つかを含めて注意深く見ていきたい。

【問】

 昨日、自民党の金融政策小委員会の初会合において、政府と日銀の間で名目成長率を目標として共有したら良いのではないかという議論があったが、この名目成長率目標を共有するという考え方についてどのようにお考えか。

【答】

 自民党の金融政策小委員会という新しいフォーラムが立ち上がったことは承知している。まだ始まったばかりであり、今の段階でコメントはない。

【問】

 今年最後の記者会見であるが、今年を振り返って特に印象に残っていることや積み残している課題を伺いたい。

【答】

 あまりうしろは振り返らないのが私の性分であるといつも申し上げており、振り返ってどうかという質問が最も苦手である。特に感想はないが、強いて言えば春のペイオフ解禁という関門を順調にクリアでき、その後日本経済の足取りが、リズム感のいいものになってきたと思う。その時点で、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になることが次の大きな関門、あるいは通過点だと申し上げた。その通過点も、4月の時点で想像していた状況よりは少し良い状況で近づいてきている。10月の展望レポートを、4月の展望レポートに比べ若干中身を上方修正して皆様にお示しすることができたので、そう申し上げている。次の通過点の展望が、遠ざかるよりはより近付いてくる方向で推移しているので、今後ともそうした方向性がより確実になるように十分目配りをしながら適切な金融政策を行っていきたい。私どもが正確な情勢判断を持つということが大前提であり、その情勢判断を基に市場とより濃密な会話を繰り返していきたい。これは非常に真剣かつ冷静なプロセスである。皆さんも、これをできるかぎり静かに見守って頂ければ、私どもとしては幸いである。

【問】

 先程来何度か質問が出ているが、昨日の自民党の小委員会でも、デフレを克服したということがきっちりとわかるように、わかりやすい数字を日銀と一緒に共有したいという考えをお持ちの先生方が多いように思う。政府と共有している目標という意味では、先ほど総裁がおっしゃったように、安定した物価のもとでの持続的な成長ということだと思うが、そこに至る手段はまさに日銀が担っており、安定的な物価のもとでの持続的な成長という目標が共有できれば十分である、という認識でおられるのか伺いたい。

【答】

 大きく言えば、おっしゃる通りだと思う。人々が物価の上昇や下落を心配し、そうした心配を織り込まなければ安心して企業活動や個人の経済生活ができないというようなことがない状況になるということである。このこと自体は、何かの指標を見て判断するというよりは、それぞれ企業活動の実感や生活実感の中で自然と共有されるものだと思っている。しかし、それに至る前の段階では、いろいろな指標を頼りに進み、とくに国民の皆様の生活実感に一番近くしかも比較的安定している生鮮食品を除く消費者物価指数を道標にしながら、判断していきたいと申し上げている。この道標が安定的にゼロ%以上になったと私どもが判断し、多くの国民の皆様もそのように思われた瞬間は、冒頭に申し上げたような、物価の大きな変動を前提としなくても安心して経済活動ができる状況に、ほぼ入ったのか完全に入ったのか、その程度はわからないが、少なくともそれに非常に近づいているということだけは明確に申し上げられるのではないかと思う。そういう道標を頼りに一つの大きな通過点を越えて、引き続き私どもは経済の持続的な回復を大事にする金融政策を施すことによって、より均衡の取れた経済に持っていこうというシナリオである。こうした点で、政府と基本的な認識の相違があるはずがないと私は申し上げており、私が申し上げた道筋以外に近道やバイパスがあるとはなかなか考えにくい。デフレの定義を議論すると、一般物価の下落をもってデフレという方や、資産価格の下落を非常に強調される方がいたり、あるいは物価にあまり関心がなく経済活動や収益の落ち込みそれ自体がデフレであるとか、さまざまな意味で用いられているので、一義的に皆で共有できるデフレの定義は、一見考えられそうで実際にはなかなか難しいと思う。

 デフレがいつ脱却したかという時点の観測についても、例えば景気の山谷に関し、今が山である、今が谷であるということを誰もわからず、山や谷を過ぎてしばらくしてから振り返って専門家が山谷を判断し、皆が納得する。なぜ納得するかといえば、専門家の分析に納得しているのではなくて、多くの人々が振り返ってみて、確かにあの頃は頂点だと感じながら私どもは経済活動をしていた、あの時はやっぱり谷底だったと納得がいき、合点がいく。デフレがいつ脱却したかは、経済が良い方向に進んでしばらく経って振り返ってみると、やっぱりあの時に脱却したと皆が納得できる時点というのはきっとあると思うが、前もって、これがデフレ脱却の時点だと言うと、それは嘘じゃないかという人が多いに違いないと思う。

以上