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西村審議委員記者会見(2月16日)要旨

2006年2月17日
日本銀行

──平成18年2月16日(木)
高松市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約45分間

【問】

  1. 3点お伺いしたい。1点目は、香川県における現在の経済情勢について、大都市圏との違いを含めてどのように認識しているのか。

  2. 2点目は、量的緩和政策について、挨拶要旨の中でも「コミットメントで示した条件が満たされたかどうかを慎重にチェックしていくことになる」と言われているが、先般の金融政策決定会合の後、3月にも枠組みの見直しがあるとの憶測も拡がっている。現時点での変更の見通しについて、どのように考えているか。

  3. 3点目は、量的緩和の解除後を想定した場合、四国などの地方にどのような影響を及ぼすのか伺いたい。

【答】

今日は真鍋県知事をはじめ、12名の方々にご出席を頂き、香川県の景気状況について、様々な忌憚のないご意見を伺った。意見交換の内容を踏まえ、香川県経済をみると、一言で申し上げれば、「緩やかではあるが、持ち直しの動きを続けている」、もう少し強く言えば、「しっかりと回復してきている」ということではないかと思っている。

香川県の現在と将来について少し説明したい。香川県は、面積でみれば「全国で一番小さな県」である。しかし、日本経済の平均に一番近い地方経済である。すなわち、指標的にバランスがとれているほか、様々な分野で世界一・日本一の企業が多く存在している。また、四半期毎に実施している短観や、本日の懇談会の席上でも披露されたが、各金融機関が行っている色々な景気動向調査からみても、しっかりとした回復を続けていると判断して良いと思っている。ただ、二極化あるいは地域間の格差があるので、その点については今後よく考えていかなければならない。

次に量的緩和政策の解除に関しては、一切予断を持って動いているということはない。何かスケジュールがあって、それにあわせて何かの方向に向かっていることはない。すなわち、これから出てくる様々なデータや見通し、アネクドータルなエビデンスを総合的に調べながら、一つ一つチェックして、適切な時期に判断をする形になると思う。コアCPI前年比のゼロ%以上が3か月続いているので、判断という点では、非常に重要な時期に差し掛かっているのは間違いない。従って、これから出てくる色々なデータを精査してみていくことになる。将来を見据えてコアCPI前年比が安定的にゼロ%以上になるのかどうかが基本的な判断基準となり、その点は全くブレていないので明確にしておきたい。特に、我々が足もとでみているデータは、ラグを伴って入ってくるため、少し前のデータである。しかし、我々がみなければならないのは将来の動きであるので、過去からみられるデータと将来の動きを予想できるエビデンスを組み合わせながら、現在、判断していくという形となる。

量的緩和の解除が地方にどういう影響を及ぼすかについてであるが、これは何度も申し上げているように、量的緩和の解除は金融引き締めではない。基本的には量的緩和によって時間軸という効果が生まれ、コアCPI前年比が次第にプラスに安定していくことによって、そうした効果が消えていき、最後に不必要となった量的緩和を解除する形となるので、決して不連続なものではない。デフレ脱却は、時の流れのある一点ではなく、幅を持った時期だと考えるのが正確であり、その幅を持った時期の始まりの一点を通過するのが量的緩和の解除であり、それ以上のものではない。

そのように考えると、量的緩和の解除が地方に対して非常に大きな影響を与えるとは考えられない。基本的には今までの量的緩和からくる時間軸がなくなっていく連続性の中で金融政策が決まっていくのであり、不連続なことが起こるということではないので、特段の大きな影響があるとは考えられない。

【問】

1点目として、デフレから脱却しつつある状況の中で、ここにきて格差の問題がクローズアップされているが、今後の金融政策運営上、どのように分析して運営されていくのか伺いたい。2点目として、全国的に各地方経済では活性化に向けて様々な取り組みを行っているが、中央からみて香川はどのような可能性があり、どのような方向性に進むべきとお考えか。

【答】

  1. 1点目の格差に関しては、挨拶要旨の中で具体的に説明している。そこでもあるように、経済活動が着実に回復していることは確かである。しかし、地域間、その地域の中でも──サブ地域とでも言うか──色々な差が出てくる形となっている。金融政策は全体をみて動くことになるが、それ以上に日本銀行としては、もっと肌目の細い色々な働き掛けなどを考えなければならない。それが我々にとってみれば一つのチャレンジであって、金融の高度化サービス、いわゆる中央銀行サービスで対処していきたい。

    中央銀行はどちらかと言えば、全国だけをみていると考えられがちだが、香川でも高松支店で情報を収集し、かつ、それを県の方々と共有していく形で、我々は地方経済に対して積極的な貢献をしていかなければならないと考えている。その一環としての金融高度化センターという動きがこれから出てくるところである。金融高度化センターは、リスク管理などについて単純にこちらからお教えするという話ではなく、色々な情報を得て、その情報を我々なりに咀嚼して、皆さんと共有していくことが非常に重要な点であると思っている。これが本当の意味での格差の是正になると考えている。

  2. 格差の是正というのは、ゼロサムゲームで、たくさん取っている者から、少ない者にお金を渡すという移転ではなく、本来ならば、例えば、弱いところがあれば弱いところの中にある、しかし本当に強いところを引上げることによって地域全体の活力を高めていくことが、本来の地域経済に対する対処、格差に対する対処だと思う。

  3. 2点目の香川県についての私の印象として、非常に印象深かったのは、香川の人の繋がりである。人の繋がりが非常に濃厚で、ビビッドかつダイナミックに動いている土地柄だと思った。この人の繋がりの力を如何に使うかが、おそらく香川の今後、そして四国の今後を決める非常に重要な要素だと思う。今日伺ったが、香川県の皆様がご尽力されている県内の美しい風景と芸術を通して——例えば、「四国歴史文化道」といったこともお聞きしたが——人と人の繋がりをつけること。観光といえば、単純に物見遊山の観光のように聞こえるかもしれないが、実は観光というのは新しい人と人の出会いである。人と風土の出会いでもある。そして、風土の中に自己を同化するような創造的なプロセスである。そうしたプロセスの「きっかけ」をつくるような色々な方策として、この「四国歴史文化道」といったプロジェクトがみられるのは、重要な点である。

    それから本年3月に「高松国際ピアノコンクール」が開催されるとお聞きしたが、これも重要なイベントであり、まさに人と人との繋がり、しかも人と人の繋がりを、地域が東京を通して外国と繋がるのではなくて、地域が直接他の外国の地域と繋がる形になる訳であり、これは非常に重要なインパクトを香川県にも与えるし、国際的にも与えるのではないかと思っている。

    それから、今日午前中の懇談会で説明をさせて頂いたが、私が近年提唱してきた「社会投資ファンド」という考え方がある。この考え方は、要するに「志のある投資」を地域で創っていく、正確に言うと、「志のある事業」を創って、それに「志のある投資」を付けていく。こうしたことを地域が考えて、しかも地域が日本全体、つまり全国区でそれをやっていくことが重要なことだと思う。特に、地域再生法でこれが活用できるようになってきている。地域再生税制というのは、「志のある事業」に対する寄付を事実上、税額控除できる仕組みになっている。今までは、地方交付税もそうだが、国が税金をとり、その税金を国が箇所付けするスタイルであった。ところが、「志のある投資」という形にすると、それぞれの家計や個人が、自分に本当に重要だと思われる「志のある事業」に箇所付けしていくことが可能になる。国が何かするのではなく、自分達が何かをすることが非常に重要な点だと思う。

【問】

  1. 先行きの景気をみた時に、持続性が強まり、需給ギャップの縮小等を反映して、物価も今後プラス幅が拡大していくということであるが、8月のCPI改定で一般的には、0.1%とか、0.2%下がると言われているが、直接、量的緩和の解除にはあまり影響しないと考えてよいか。

  2. 2点目は、先行きデフレに陥らないということが、2003年10月のコミットメントに入っているが、よく言われるリスク・マネジメントの観点から、今後、物価が下がる可能性は相当低いと理解してよいのか。

【答】

まず、CPIの基準改定についてだが、これは総裁も既に明確にしているように、CPIの改定によって何か左右されることはない。もちろん、改定された新しいCPIの数字でその時点その時点で判断していく形になる。当然のことであるが、デフレに再び陥らない、戻らないという点については、改定を取り込んだ形の新しい8月の数字になったら、その新しい8月の数字で考えていくことになる。

今の日本は、死角がないという状況である。私はこういう表現が好きなのだが、大艦巨砲主義ではなく、ヒットをたくさん積み重ねながら、日本経済がしぶとく成長している、というのが現在の状況であると思っている。そのように考えると、今の状況では全体のトレンドの動きというものが大きく転換するようなことは考え難い。ただし、何度も言っているように、これはその時点その時点で判断すべきことである。それについて予め予断をもって何かをするということができる状況にはないし、今は非常に不透明性の高い時代なので、慎重に考えなければならないと思っている。

【問】

先程の「社会投資ファンド」について、おそらく本日の懇談会の中でも、香川県内で色々な地域を盛り上げるスポーツや、文化芸術の取り組みの紹介があったかと思うが、香川県内で現在取り組んでいるもので、ファンドを適用できそうな事例はあるか。

【答】

一つ一つについて精査をした訳ではないので分からないが、私は沢山あると思う。社会投資ファンドは、基本的にゼロではない、つまりフローベースでコストよりもある程度高い収益が得られれば、このスキームの中に入るため、様々な分野で応用可能だと思っている。具体的に地域再生本部で作った例では、クリニックを集団でつくるとかがあるし、LRT(Light Rail Transit)を活性化するといった事業にも使えるので、十分検討できることだと思っている。

例えば、これを使ったスキームと言えば、諏訪市では、(株)SUWA-KENを設立しようとしている。諏訪湖畔の工場跡地を「観光」と「ものつくり」の2つを一緒にするようなコンセプトとして、新しい拠点をつくるというのが、(株)SUWA-KENの役割となっている。こうしたことは、昔は想像できなかったことであるが、今まさに色々なところで行われているので、香川県でも十分に可能性がある。香川県は人の繋がりが重要視されているので、逆に言えば、こうしたスキームをつくるのに非常に相応しいところではないかと思っている。

【問】

  1. 先程も3か月連続でコアCPI前年比がゼロ%以上になったという話があったが、前回の2月の金融政策決定会合では、まだ安定的にゼロ%以上になったとは言えないという判断になった。西村審議委員は、何故まだ安定的にゼロ%以上と言えないと考えておられるのか。例えば、端的には足もとの数字が物足りないということなのか、その辺りの考えについて伺いたい。

  2. 2点目として、今後の物価動向をみる際に、政策委員の一部の方には、一時的な要因を除いたベース——実力のベースとおっしゃる方もいるが——そういったCPIの中身を分析して考えていく、といったスタンスについては基本的に賛同されるか。

【答】

基本的に我々がみなければならないのは、足もとの状態ではなく、将来どういう状態になるのか、である。つまり、コアCPI前年比が足もとプラスになったからといって、将来それが安定的にプラスになるかどうか、ということまで判断する材料になるかどうかを、みなければならない。そのように考えると、当然であるが、単一の数字だけでそのような判断をすることはできない。経済活動の状況、そしてそもそもデータがどのように作られるか、というところまで遡って判断しなければならないということになる。そういった意味での総合判断と言わざるを得ない。総合判断と言う意味は、簡単に言えば、その時その時に何が重要かというのは、その時の経済の状況によって変わってくるため、それを予め何かを言ってしまうことはできない、ということであり、それが今の状況である。

そういうことから考えても、2番目の議論に関して、私の個人的な意見であるが、いわゆる特殊要因を除いた数字に過度に依存するのは正しくないと思う。なぜかというと、いま特殊要因、特殊要因というが、特殊要因を本当に除いているのではなくて、特殊要因があるその財のカテゴリーを全部取ってしまっている訳である。どういうことかと言えば、特殊要因にあるカテゴリーにあって、そもそも我々が考えているような特殊要因以外の重要な情報も取ってしまっている訳である。将来をどう変化していくかをある程度みる場合には非常に都合のいいフレームではあるが、政策判断をするのには問題が多いと思う。従って、あくまでも、そもそもの判断基準であるコアのCPI、すなわち生鮮食品を除く全国総合という形で判断するのが望ましいと思う。これは、審議委員としての私の個人的な意見である。

【問】

まず、午前中の講演で量的緩和の解除の時点での「道しるべ」の導入について触れられたが、この「道しるべ」について、FRB型の文言で示すということなのか、もう少し数値的なイメージをお持ちなのか、もう少し敷衍して頂きたい。

もう一点、CPIについて、日本ではバイアスはそれ程ないと午前中に触れられたが、今後の日本の望ましい物価上昇率について、どのようなイメージをお持ちかを伺いたい。

【答】

「道しるべ」というのは、色々な人が色々なことを言っているので、何が本当に「道しるべ」かということについては、分かりづらいところがあるが、私の解釈では、「道しるべ」は極めて簡単に言えば、政策委員会を含めて日本銀行が市場それから世論と対話する時に、お互いに誤解がないようにするための手段と考えている。つまり、日本銀行が持っている政策判断に必要な情報を誤解のない形で、できるだけ説明していく。これが私は「道しるべ」の基本だと思っている。

従って、FRB型とか何とか色々な議論があるが、そういったことは抜きにして虚心坦懐に、日本銀行が市場や世論と対話するときに、誤解のない形で日本銀行の政策意図、政策方針なりを明確にするためにはどうしたらいいのかということを、これから「道しるべ」という形で入れていくということになると思う。

まだ、どういう形になるかはこれから検討していかなければならない。何か成案があるかと言われると、まだはっきりしたことは言えないが、基本線はその時点その時点で日本銀行が何らかの政策判断をする時に、その政策判断の意図に対して、誤解を生まないような対話の手段として「道しるべ」というものを考えているということである。

それから、望ましいインフレ率という話であるが、これは理論の世界では当然のことながら望ましいインフレ率を考えることは可能である。しかし、我々の経済は、簡単に言えば、1990年代から2000年代の最初の時期というのは非常に危険な時期であった。特に、1990年代後半の時期は危機的であった。この危機的な状況から漸く段々と普通の状態へ戻りかけてきたという状況である。その中で、経済政策を考えなければいけない。その時に、望ましいインフレ率の基本は、将来に対して日本銀行がどういうことを考えているかということを明確にするための方策であるので、望ましいインフレ率も、危機的な状況から普通の状態に戻るという状況のコンテクストの中で考えなければいけない。そう考えると単純ではない。言い方を変えると、今までベッドで寝ていた人に対して、医者が量的緩和というモルヒネを打っていた訳だ。そして、その人がベッドから大体起き上がっていいだろうという状況になった時、その人に、あと1年半後には健康体になるので、健康体の人は一日一万歩を歩くのが望ましいから一日一万歩を歩きましょう、がんばりましょう、と言って本当にそれでいいのか。その人、その人の体の状態、気分の状態に合わせて、やはり過度にプッシュするのでもなく、できるだけ良い状態に引き上げていく、という非常に細心の対処が必要になる。そういった形で「道しるべ」を考えなければいけないと思っている。

とは言え、もう病人ではなくなってきつつあるので、やはりあまり病人扱いしてもいけない。モルヒネはもう止めた方がいいという時期に段々と近づいているということが現在の状況ではないかと思う。

【問】

  1. 2点確認させて頂きたい。挨拶要旨の中で、GDPデフレータについて、改定が頻繁にあり、機動性に劣るとの指摘があったが、中身については、政策を判断するうえで重要なものであるとの考えなのか。

    また、エネルギー価格をCPIの中に含めるかどうかという点について、「両睨みで総合的に判断するのが望ましい」とおっしゃっているが、この「両睨み」というのは、エネルギー価格を含むものと含まないものの両方という意味なのか、それとも含めてという意味なのか。

  2. それともう1点は質問であるが、最近の特に2年債、5年債の長期金利の上昇をどのように受け止めておられるか。

【答】

まず、最初の2点についてだが、GDPデフレータの中身については、最終的な結果を判断するうえでは非常に重要なものだと思っている。ただし、その結果が決まるのは、おそらく5~6年後になる。1次QE、2次QE、1年経って確報、2年経って確々報、5年経って基準改定という形になるので、この基準変更に至るまでのうちにかなり大きな変更がある。成長率が5~6%の時代では大した大きさではないが、成長率が0.5~1%の時代では、結構大きな変更となってしまう。従って、出来上がりで我々が判断すべきは——個人的な考えで他の委員と違うかもしれないが——私は、PCE(Personal Consumption Expenditures)のフィッシャー指数で考えるのが、出来上がり、つまり評価という点では望ましいと思う。しかし、これが分かるのは、下手すると3~5年先になるということであれば、当然、政策に使うことはできない。従って、CPIを依然として使うべきだと思っている。

それから、「両睨み」というのは、エネルギー価格を含むものと含まないものの両方をみるという意味での「両睨み」、ということである。

また、2年債、5年債の金利上昇については、マーケットが次第に新しいシステムというか、普通の経済のシステムへ移行するステップを少しずつ踏み始めていると考えるのが一番自然ではないかと思う。

量的緩和というのは、一種の護送船団である。流動性マネジメントに長けている所も長けていない所も、一様にゼロ%、0.001%の金利である。ところが、量的緩和が解除になると、平均ではゼロ金利の状態であるが、流動性のマネジメントに関して言えば、上手いところと下手な所では差が出てくる。もはや世の中ではどこも護送船団をやっておらず、今はやはり、その意味できちんとした管理をされている所には、それなりのrewardがあるという経済になってきているので、金融もやはりそういった普通の経済に持っていくべきだと思う。

しかし、もちろん全体としては、非常に緩和的な今の状況と変わらない。マクロのアベレージでみれば変わらない状態が続き、余裕をもって対処できるであろう。これは、先ほど申し上げたとおり、全て今の状況に立ってみてわかることであり、全てコンディショナルなので、状況が変われば大きく変わる。いつも我々はデータをみて、そしてデータを越えたいろいろなアネクドータル・エビデンスを含めながら判断していく形になると思う。

【問】

リスクの点で4つ挙げた中に、「個人消費の回復の持続性」ということをおっしゃった。これは、これまで個人の金利所得が減少を続け、銀行等のリストラなどに主に使われてきたということだと思う。金利所得はいずれプラスになってくると思うが、これを個人消費の回復とどのように結び付けて考えているのか、あるいはあまり関係ないと考えているのか伺いたい。

【答】

これも非常に難しいテーマである。基本的に利子所得が増えるということは、所得が増えるということであるから、当然のことだが個人消費に対してプラスの影響があるというのは、おそらく誰にも否定できない事実だと思う。ただし、その際に金利が上がることが、他の経済活動にどういう影響を及ぼすか、ということも考えなければならない。現在、日本経済は、ある意味でovercautiousともいえるぐらい皆さん病み上がりの状況にあるということから考えれば、この利子の問題というのも患者の状態を診ながら、少しずつ今後どのようにもっていくかを検討していかなければならない状況だと考えている。

従って、足もとの状況では、十分に余裕を持って対処しなければいけないと考えている。十分に余裕を持って対処できるので、要するに大きなショックを与えるようなことは、できるだけ避けなければならない。そして、そのショックに金融政策がなるということは、できるだけ避けたいということだと思う。

繰り返しになるが、我々はスケジュールを持って何かをやっている訳ではない。従って、これからの金融政策は、全てこれから出てくる様々なデータ、そしてこれから色々なところでみられる様々な動き、特に労働市場の動き、それは要するにresource utilizationの動きというのは、今後の政策判断に非常に重要な役割を果たしていくと思うので、こういうことに関しては、十分注意していかなければならないと思っている。

【問】

1点目は、今後のリスク要因に関し、土地を含めた資産価格の上昇について挨拶でも言われていたが、どうみられているのか。2点目は、昨年の就任会見時に、「モルヒネは痛みをわからせながら段々止めていく」とおっしゃり、本日は「もう大分患者の病気も治ってきた」とおっしゃっているが、経済の状況は昨年から今年で痛みに耐えられる状況に変わったのか伺いたい。

【答】

詳しくは挨拶要旨に書いておいたが、今の状況をみると、資産価格の間でも、二極化が進んでいる。東京のある一部では、住宅地価格が20%、30%上昇している所もある。ところが、例えば同じ区の中でも違う場所では全然動いていないところもある。そういった形で、いわば二極化というか、多極化が進んでいる状況にある。こういう状況では、一般的なインフレ状態が今後予想させる、とはちょっと考えにくい。

そもそも資産価格が上昇しているものも、よくみてみると、いわゆるコンバージョン、つまり商業ビルを住宅にするといった、資産の効率的な利用という形で動いていることから考えれば、まだ特段、金融政策で全般的にアラートしなければならない状況だとは思っていない。

しかし、当然のことであるが、これはリスク要因になる。どのようなものでもそうであるが、リスクを考えなければならない。特に土地、住宅といったものは、先ほども申し上げたように、個別性を含めたリスクが十分勘案されなければいけないものである。従って、そうしたものに対して、きちんとしたリスク管理がなされているのかどうか、ということを我々はみなければいけない。特に、金融機関は流動性を担っているわけであるから、金融機関に関しては我々は十分な目配りをしなければならないということになる。

その点に関していえば、日本銀行は、従来から不動産を含めたきちんとしたリスク管理をしなければならないということを、考査を通じて十分金融機関とコミュニケートしてきたと思う。従って、急に何かをしているということでは無いが、しかし、十分なリスク管理がなされているかどうかは、やはり我々がみていかなければならないし、そこに何か問題があるようなことがあれば、できるだけ相談をしながら、そういう問題を早い段階で摘んでいくということが必要ではないかと思う。

モルヒネに関しては、昨年4月の就任会見から1年ぐらいになるが、あの時と比べると、やはり、全般的にみるならば、経済情勢はかなり良くなったと考えてよいのではないかと思う。モルヒネが本当に必要なくなったかどうかは、これから判断していくことになる。

以上