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総裁記者会見(3月9日)要旨

2006年3月10日
日本銀行

―2006年3月9日(木)
午後3時半から約75分

【問】

本日の金融政策決定会合での議論と量的緩和政策解除に至った経緯について、ご説明を頂きたい。

【答】

本日の決定会合では、大きく分けて2つのことを決定した。1つ目は量的緩和政策の枠組みを解除した。つまり、金融市場調節方針を変更したということである。もう1つは、今後、いわゆる金利を軸とした金融政策を行っていくにあたって、新たな金融政策運営の枠組みを導入した。すなわち、透明性確保を意識しながら、新たな枠組みを導入した。

最初の金融市場調節方針については、操作目標を日銀当座預金残高から無担保コールレート(オーバーナイト物)に変更した上で、これを概ねゼロ%で推移するように促すことと決定した。量的緩和政策の枠組みからの脱却についての主たる内容はこういったことであるが、併せていくつかのことがある。

1つ目は、これから当座預金残高を所要準備額に向けて削減していくが、削減していくにあたり、数か月程度の期間を目途とし、短期金融市場の状況を十分点検しながら進めていく。2つ目は、当座預金残高の削減は短期の資金オペレーションにより対応する。長期国債の買入れは当面これまでと同じ金額、頻度で実施する。3つ目は、補完貸付について、適用金利を据え置いた上で、利用日数に関して上限を設けないという臨時措置を当面継続することとした。なお、皆様ご承知の通り、補完貸付は借り手側のオプションにより、担保の範囲内で自由に借り入れできる制度である。そういう意味では、金融機関が躊躇なく、これを活用できる仕組みである。

量的緩和政策の枠組みの解除を本日決定した背景、つまり経済・物価情勢の判断について若干触れさせて頂くと、現在、日本経済は、内外需のバランスが取れたかたちで着実に回復を続けている。輸出は、海外経済が拡大する中で増加している。国内民間需要の面でも、高水準の企業収益を背景に設備投資は増加を続けている。そして、企業部門の好調は家計部門にも波及しており、個人消費は底堅く推移している、あるいは底堅さを増している。先行きも、息の長い回復を続けると予想される。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比はプラスに転じている。経済全体の需給ギャップが緩やかに改善を続けており、ユニット・レーバー・コスト(単位当たり労働コスト)の動きを見ても、下押し圧力は基調として減少している。加えて、企業や家計の物価の先行き見通しも上振れてきている。このもとで、消費者物価指数の前年比は先行きプラス基調が定着していくとみている。こうしたことを踏まえて、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を継続する」というかねてからの約束の条件は満たされたと判断した。

次に大きな決定内容の2つ目は、新たな金融政策運営の枠組みであるが、今回、量的緩和政策の枠組みから脱却し、金利レジームに移るにあたり、金融政策の透明性を引き続きしっかりと確保するという観点から、新たな運営の枠組みを導入することとした。

物価の安定についての考え方を明確化した。それから、何を柱に経済・物価情勢の点検を行っていくかということと、当面の金融政策運営の考え方を整理した。

まず、物価の安定についての明確化は、日本銀行としての物価の安定についての基本的な考え方を、この際改めて整理するとともに、金融政策運営にあたり、現時点において政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率、すなわち「中長期的な物価安定の理解」を示すこととした。わが国の場合、もともと海外主要国に比べ、過去数十年の平均的な物価上昇率が低いということのほか、90年代以降、長期間にわたって低い物価上昇率を経験してきたことから、物価が安定していると企業や家計が考える物価上昇率は低くなっている可能性がある。金融政策運営にあたっては、そうした点にも留意する必要があると考えている。このため、「中長期的な物価安定の理解」も、現時点では海外主要国よりも低めになるという筋合いにある。なお、これに関する背景説明を加えた資料を明日お示ししたいと考えている。今日は公表文というかたちで比較的短いものをお渡ししたが、物価安定についての考え方、その背景説明というものを、明日お示ししたいと考えている。

次に、金融政策運営方針の決定に際し、2つの「柱」に基づく経済・物価情勢の点検を行っていくこととした。そうした点検を踏まえた上で、当面の金融政策運営の考え方を整理し、定期的に公表していくことを決定した。

「中長期的な物価安定の理解」を示し、それを念頭に置いてこれから金融政策を行っていくが、いわゆるインフレーション・ターゲティングというものと違って、ルール・ベースの金融政策の運営をするわけではない。物価についての理解を念頭に置いて金融政策を行っていくが、金融政策運営そのものはフォワード・ルッキングであり、総合判断でやっていく。その場合に経済・物価情勢をどのような「柱」で判断しながらやっていくかについて、2つの「柱」でまとめている。

具体的に、第1の柱では、先行き1年から2年の経済・物価情勢について、最も蓋然性が高いと判断される見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路を辿っているかどうか、といった観点からきちんと点検する。第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するとの観点から、金融政策運営に当たって重視すべき様々なリスクを点検する。リスクを点検しながら、十分保険をかけた金融政策をやっていく、そのように言ってもいいかと思う。

最後に当面の金融政策運営の考え方の整理という点であり、この点については公表文に示した通りである。昨年10月の展望レポートでこのあたりは概念整理として若干の記述をしていたかと思う。金利を操作目標とする金融政策運営の体制に切り替えたこの時点で、概念整理というものを現実のメッセージに切り替えたのが、この部分である。つまり、先行きの政策運営としては無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間を経過した後、経済・物価情勢の変化に応じて徐々に調整を行うことになる。この場合に経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高いと考えていることを明示したわけである。これからもおわかり頂ける通り、日本銀行としては、引き続き物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて、金融政策面でしっかりサポートさせて頂く所存である。

【問】

物価の部分であるが、政策委員の意見の中で、こうしたかたちで消費者物価の上昇率の数字を示していくことについて意見の食い違いはあったのか。またはどのような調整があったのか伺いたい。

【答】

本日お手許にお配りした「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」の中に、「物価安定」の明確化の部分が入っている。この公表文は出席者全員一致で決定した。従って、本日の公表文の範囲内において、意見の不一致はない。ただし、この部分を詳しく見て頂くと、一番最後に数値を示しているところ、すなわち「消費者物価指数の前年比で表現すると、0~2%程度であれば、各委員の『中長期的な物価安定の理解』の範囲と大きくは異ならないとの見方で一致した」というところは全員で一致した。その後に「委員の中心値は、大勢として、概ね1%前後で分散していた」の部分は「大勢として」となっており、やはり、「物価安定の理解」の中心値というところでは「1%前後」と言うには散らばりが大きかった。その点もこの文章でも明示している。その部分も含めてこの文章は全員一致で決めたということである。

【問】

先程、ターゲティングと違ってルール・ベースの運営をするのではないとおっしゃっていたが、そうすると例えば、物価安定の理解と現実が食い違った場合、中長期的なものとのズレが生じている場合において、日本銀行として何らかの達成責任みたいものを負うものと理解できるのかどうか。また、細かいことであるが、消費者物価指数というのは、いわゆる生鮮食品を除いたものではなく総合指数でいいのか伺いたい。

【答】

後半の質問については、「中長期的な物価安定の理解」ということであるので、生鮮食品を除くことは短期的な変動要因を除くということであり、中長期的な物価の概念の時にわざわざ何かを除くのでは意味がない。かつまた最終的に企業、家計が直面する物価は、全てを含む、いわゆるヘッドラインの物価指標である。それがインフレ期待の形成にも繋がるということであるので、何かを除くという発想は存在しない。

それから先程、皆様のご理解を頂くためにわざわざ、ルール・ベースの政策運営をするわけではない、フォワード・ルッキングで総合判断でやっていくとわかりやすく申し上げた。各国の中央銀行の政策運営のやり方をみても、ルール・ベースに近い運営とか裁量による運営など、概念的な整理を試みることはある程度可能である。しかし実際には、例えば、インフレーション・ターゲティングを採用している国の中央銀行でも、文字通り、機械的なルール・ベースの政策運営をしている中央銀行は殆ど存在しないと認識している。具体的な金融政策の運営方法は、それぞれの中央銀行が置かれた経済環境や制度的枠組みの違い等を反映して相当異なっている。インフレーション・ターゲティングを採用している中央銀行の中でさえ、実際の運営はかなり違っているという状況である。日本の場合、かねてより何回もお伝えしてきたが、量的緩和政策の枠組みから脱却した後の金融政策については、透明性の確保と機動的な運営──金融政策運営の柔軟性──が両立するような枠組みを考えるとお約束してきた。そこで、その道筋を政策委員会のメンバーが知恵を絞って懸命に考えたのが、今日の結論である。従って、何らかのルールで強く縛りを受けるという点を排除した新しい枠組みを作った、という意味のことを申し上げたわけである。

【問】

今の点をもう少し詳しくお聞かせ願いたい。ルール・ベースではないということであるが、今回、市場への政策の透明性という観点から作られた面があると思うが、そうすると市場からみた場合、0~2%ないし1%前後に概ね寄っているという数字だが、政策運営との連関性でこの数字をどのように見たらいいのか、わかりやすい説明を伺いたい。また、総裁は各国で既に採用されているインフレーション・ターゲティング、インフレ参照値などという言葉とは別のものだとおっしゃっていたが、これはECBなどが採用しているインフレ参照値と概念的に大きく異なるものなのかどうか伺いたい。

【答】

概念的に大きく異なるものである。ターゲティングの場合はもちろんのこと、ECBのようなインフレの定義、あるいは望ましいインフレの定義のように、定義とか参照値とか言う場合には、政策委員会の意見、討議を経て1つの数字、ないしは1つの物価上昇率のレンジ、1つのことを決めるということであるが、そういったことはしていない。物価安定について、一人一人の政策委員がどのように認識し、それを仮に数字で表せばこういうものであるということを、みんなで表明し無理に集約はしていない。無理に集約はしないで自然に表明した数値を客観的に眺めると、ある範囲内のところにまとまりがあって、そこから大きく離れていないレンジがこういったものであるということを映し出している。従って、今後、日本銀行の金融政策の運営は、常に金融政策決定会合の議論を経て物事が決まってくるが、その物事を決める会議に参画する政策委員一人一人がそういう認識で物事を決めていくのだということが、市場が金融政策を読み取る時のひとつの大きな前提として材料になると考えている。

【問】

発表文にはデフレという言葉が一言もなかったが、現時点でのデフレの状況に関する認識を伺いたい。また、政府が盛んに言っている、今後政府と一体となって「デフレ完全脱却」に向けてどのように政策運営にあたりたいと考えているか、政府との協調というのはどのようなかたちでできるのか伺いたい。

【答】

重ねて申し上げるが、どのような表現を用いるかという表現の相違を別にすれば、経済情勢とその見通し、物価情勢とその見通しについて、政府と日本銀行との間で、過去にみられないほど一致していると私は認識している。従って、政府と認識が違っているところをいかに埋めるのかというご質問であれば、私は答える必要がまったくないということになる。

それを申し上げた上で、改めて申し上げれば、人々がデフレとおっしゃる時には、論ずる人によって随分観点が違う。従って、これを一律に論じることは難しいと、引き続き考えている。日本銀行の立場から見て大切なことは、景気が持続的な回復を続けるもとで、物価が基調として下落することを脱して、安定的にプラスに転じていくと見込まれる状況であるかどうか、そこを的確に判断することが大切だと思っている。繰り返しになるが、日本経済は景気が着実に回復を続ける中、消費者物価指数の前年比は現在プラスに転じており、先行きもプラス基調が定着していくと見られるので、今申し上げたような方向に向けて着実に歩を進めていると判断している。

【問】

市場関係者や政界などからは、期末を控えているため3月の政策変更は控えて欲しいとの声も出ていたが、なぜ3月の金融政策決定会合で政策変更を決断されたのか。4月には金融政策決定会合が2回予定されているが、そこまで待てなかった理由を伺いたい。

また、「中長期的な物価安定の理解」が導入されることによって、日本銀行の政策の機動性なり柔軟性が制約されることはないのか。

【答】

量的緩和政策の枠組みは、消費者物価指数を基準とする条件が満たされるまで続けるという約束であった。従って、その条件が満たされたかどうかを、これまでも金融政策決定会合の都度議論してきた。私が決断したというわけではなく、本日の金融政策決定会合での議論の結果、この条件は満たされたということになった。満場一致ではなかったが、圧倒的多数でそのような判断に至った。判断に至った以上は直ちに実施するのが金融政策の常道である。判断に至ったものをわざわざ何かの理由で次回まで持ち越すということは、確定要因をわざわざ不確定要因として市場にハング・オーバーする(未解決のまま残す)ことになり、これは非常に無責任な政策になる。そのようなことはしなかったというだけのことである。

政策を縛ることになるかどうかについては、透明性と機動性の確保の両立を完全に狙える新しい枠組みとして考え出したつもりである。私どもは自信を持って、機動性、透明性の両方向を追求していけると考えている。

【問】

これまで量的緩和政策の解除自体は、一つの通過点あるいは連続的な変化ということをおっしゃっていたが、一つの大きなパラダイムの転換であると思う。一般の国民、特に普段金融政策を意識していない方々にとっても量的緩和政策の解除で何が変わり、どのような影響があるのかという疑問を持たれている方もかなりいらっしゃる。そうした方々に向けて、総裁の言葉でわかりやすく、量的緩和政策の解除ということはどのようなものか、説明頂きたい。

【答】

これはなかなか難しいが、「何回ご説明してもわかりにくい量的緩和政策から、今度は非常にわかりやすい金融政策に変わりました。今後は私の説明は皆様にとってよりわかりやすくなるでしょう」というのが答えだと思う。幸いにも、非常にわかりにくい金融政策をこれ以上続けなくても良い状況になったというのは、これまでのかなり長い期間にわたる国民の皆様方の大変な努力の賜物だと思う。金融政策はわかりにくかったかもしれないが、わかりにくい金融政策で今までの苦しい過程を及ばずながらサポートさせて頂いた。これ以外にはなかなか説明しにくいように思っている。

【問】

先行きの政策運営として、無担保コールレート(オーバーナイト物)を概ねゼロ%として、その後、経済・物価情勢の変化に応じて徐々に調整していくということであるが、論理的には超過準備を吸収するのに数か月かかり、所要準備額が6兆円ということから考えると、当座預金残高がそれより上にある間は経済・物価情勢がよくなっても、なかなかコールレートを上げにくいと思う。つまり、超過準備が吸収されて当座預金残高が6兆円近辺に近づくまでは無担保コールレート(オーバーナイト物)はゼロ%近傍が続くという理解で良いか。

【答】

所要準備を上回る流動性残高が存在する限り、基本的にはゼロ%が続く。量的緩和政策が長く続いたもとで、市場参加者の行動パターンがどのように変わっているかということは、今の段階で完全には読み尽くせないが、いわゆる超過準備を持ち続ける金融機関が存在した場合には、所要準備額よりももう少し上のところから金利が付き始めるかもしれないと思う。それは多分一過性のもので、概念的には所要準備額を上回る当座預金残高が存在する限りは基本的にはゼロ%であろう。

それでは、所要準備額までの調整が終わったらすぐゼロ%でなくなるのかというと、私どもはそういうことを言っているわけではない。つまり、準備を削減していく過程は基本的にゼロ%で、おそらくその後もしばらくはゼロ%で、その次に極めて低い金利となり、さらには経済・物価情勢に見合った金利水準への調整過程となろう。大体そんなプロセスである。それがどの期間、どれくらいかということは、今後の経済・物価情勢次第であり、まったくオープンであると思う。

【問】

本日、福間委員が欠席だがその理由と、物価安定についての考え方について、福間委員が出てきた際にはもう一度確認し直すのか伺いたい。

また、長期国債の買入れの維持について、2001年3月に量的緩和政策に踏み切った後、4,000億円から増やしていく際に、札割れ対策の名目で開始したと思うが、今回当座預金残高を下げていく中では札割れはどんどん減っていくと思う。それにもかかわらず1兆2,000億円をオファーし続ける理由はどこにあるのか伺いたい。

【答】

福間委員は体調を崩して残念ながら本日は欠席されたが、おそらく短期的なものですぐに復帰されると思う。福間委員は本日は欠席だが、政策委員会の議事規則第4条2項に「会議を欠席する委員は、議長を通じて、当該会議に付議される事項につき、書面により意見を提出することができる」旨の規定があり、本日は意見を提出しておられる。これは最終的には議事録に添付されることになるが、議事要旨の中にもある程度の反映ができると思う。

長期国債については「金融市場調節方針の変更について」という公表文の「金融市場調節面の措置」の中で「長期国債の買入れについては、先行きの日本銀行の資産・負債の状況などを踏まえつつ、当面は、これまでと同じ金額、頻度で実施していく」と書かせて頂いた。その主旨は勿論、当面、流動性を吸収していく過程でできる限り短期資金のオペで吸収していくほうが、市場にとっては円滑に流動性収縮のショックを吸収しやすいということを念頭に置いたものである。もう少し長い目で見ると、長期国債の買入れについては、いずれ縮減過程に入っていかざるを得ない、これは当然のことだと私どもは思っている。現在の日本銀行の資産・負債の状況、銀行券の発行残高の状況等から見て、いの一番にこれに着手しなくてはならない緊要性はないということである。将来的には必要性が出て来る。十分予見可能性を持って市場にショックウェーブが走らないように、私どもとしては適切な対応を持って、これに臨んでいかなければならないと思っている。

【問】

「中長期的な物価安定の理解」の部分のECBとの関連について、私の理解したところでは、ECBは政策委員の間で望ましい物価上昇率を決めて評価している。一方で、日本銀行の今回の「中長期的な物価安定の理解」は、あくまで各政策委員の方々が、個別に出されたものを集約している。そこには評価的な要素を窺われていないので、政策の機動性は担保されると理解して良いか。

【答】

そういう意味では、他律的・自律的な縛りのルールとして入れたわけではない。日本銀行は物価安定を軸に金融政策を行う。物価安定とは、人々が物価の上下を心配することなく、経済活動に勤しめる状況をいう。それに尽きているわけだが、現実には、将来、例えば経済・物価情勢に見合った金利水準に向けて調整するとも言っており、その時に、物価安定について数字的に政策委員がどのような考えを持っているのかということは、あるいは有用な材料になるかもしれないという意味で敢えてお示しした。おそらく経済構造の変化等で、将来政策委員が頭の中に抱かれる物価安定のイメージは、いくらかは変わり得ると思う。従って、年に1回点検しようということになっているが、「中長期的な物価安定の理解」だから、おそらくそれほど変わるものではないだろうと思う。しかし、経済構造の先行きはまだ読めないので、いくらか変わり得る余地はあると思っている。

【問】

量的緩和政策の解除を決定して、今月が解除後最初の3月末決算であり、景気は良く、株価もそこそこの状態であるが、市場では果たしてどうなるのだろうという不安もなきにしもあらずで、政府の中にも同様の懸念があると思う。市場がそのように思っている以上、地合いを見ながらだと思うが、どうようなイメージで3月末の調節を行っていくのか。昨日までは30~35兆円になっているが、市場の地合いがやはり30兆円ないし25兆円くらい欲しいというようなイメージであれば、それを大事にしながら3月末を通過していくと考えて良いのか。

【答】

期末の要素がそれ程に大きなものかという基本的な問題があると思う。金融政策というものは、やはり確定したものを不確定要因として市場に残さないことが大原則である。米国も3月中にさらなる金利の引き上げがあるのかどうか観測を呼んでいるが、もしFRBが決断すれば月内であってもきちんと出していくだろうし、ECBは既に出した。日本銀行が量的緩和政策の枠組みからの脱却について決断がついた以上、期末だからといってこれをキャリー・オーバーすることは市場にとっては大変迷惑なことである。確定要因を不確定要因として市場に抱かせることは、期末について云々という以上に、はるかに市場に対して無責任な対応である。そのことをまず申し上げなければならない。その上で、期末に対する技術的な対応を私どもは十分念頭に置いて、具体的な金融調節を行っていく。当座預金残高の削減についても、現在は30~35兆円だが、おそらく3月中は削減ペースは極めて緩いだろう。30兆円前後のところで月内は推移する可能性が強いのではないかと私は一応思っている。多分、実際に調節を担当する金融市場局においても、私と同じようなことを念頭に置いてこれから作業を始めるのではないかと思う。

【問】

「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」の第1の柱の部分で、「先行き1年から2年の経済・物価情勢ついて、最も蓋然性が高いと判断される見通し」とあるが、これは具体的な数値で公表されるのか。また、何らかの数値を公表しない場合、あるいはする場合でも、政策委員の間で意見を集約して取りまとめることになるのかどうか。さらに、展望レポートで消費者物価指数の見通しを出しているが、その位置付けとの関係はどうなのか伺いたい。

また、ディレクティブに関して反対票が1票出ているが、反対理由はどのようなものなのか教えて頂きたい。

【答】

繰り返しになるが、経済・物価情勢を点検していく場合の2つの柱のうち、第1の柱については、経済・物価情勢について、先行き1年から2年というレンジで私どもとして最も蓋然性が高いと判断される見通しを出していくが、その見通しが物価安定のもとでの持続的な成長の径路を辿っているかどうか、価値判断、評価を加えた点検をしっかり行いたい。

第2の柱については、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するという観点から、金融政策運営にあたって重視すべき様々なリスクは何かということも点検したい。これはその時にならないと具体的にわからないが、例えば発生の確率が必ずしも大きくなくても、バブルやデフレ・スパイラルなど、もし発生した場合には、経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスク要因、発生確率が低くてももし起こればコストが高い要因や、それとはまた別に金融環境、資産価格、インフレ期待といったような、中長期的な経済・物価情勢に影響を与える要因などをそれぞれ点検していく。いわば保険をかけた、つまり、起こる確率は低くてもダメージが大きい部分については、きちんと保険をかけた金融政策をしなければならない、このような点検をしたいということである。

これらを従来やっていなかったのかというと、それはそうでもない。従来から、金融政策運営にあたっては経済・物価情勢を点検する際にある程度意識していた。それを今回明確にしたと理解して頂きたいと思う。展望レポートでは、これまでも先行き1年から2年の経済情勢の見通しを出してきており、それに対して上振れ、下振れ要因ということも申し上げてきた。今申し上げたこうした2つの柱による点検の内容と、それらを踏まえた金融政策運営の考え方を整理して、今までのやり方に上乗せして公表していく方針である。

【問】

そうすると、展望レポートで示している中央値が最も蓋然性の高い見通しになるのか、それとも必ずしもそうとは言えないということなのか。

【答】

数値はあくまで個々の政策委員が持っている見通しの数値であり、私が申し上げた標準的な見通しは、経済のメカニズムとしてどのように動いていくかということをきちんと記述しているところである。展望レポートの私どもの経済・物価情勢の見通しのコアになっている部分は、どういうメカニズムで今後経済が動くか、物価がどのように動くか、ということを述べている部分である。

【問】

3点伺いたい。先程、政府との間に経済情勢についての認識の不一致はないという話があったが、量的緩和の解除について慎重論をおっしゃる政府・与党の幹部もおられて、政府側からの反対を押し切って行ったという印象を与えかねない面もあると思う。これについて政府と一体でやっていくという意味において何らかの懸念を持っていないか伺いたい。

2点目は、「委員の中心値が概ね1%の前後で分散」とあり、これは参照値ではないということだが、竹中大臣や中川政調会長は物価上昇率は2%くらいが望ましいとはっきりおっしゃっている。これについては差異がはっきりしたような面があるが、政府・与党との差について懸念や考えがないか伺いたい。

3点目は、議決権はないが政府から出席された方々の意見は、こうした点についてどうだったのか伺いたい。

【答】

反対を押し切ってやったという気持ちは全くない。かねがね申し上げている通り、基本的な情勢判断は一致している。先般の国会で私も答弁したが、小泉総理のご発言を伺って、見解の相違はないと思いながら聞いていた。日本銀行が無理をして決めたという印象は持っていない。情勢判断が一致している限り、そのようなことは起こり得ないと、かねてより思っていた通りに、今日は素直に決めさせて頂いた。

それから、物価を数値で表示するやり方等については、広く各方面の識者から私どもにとっても参考になるような考え方、意見をたくさん出して頂いている。これからも出し続けて頂けるだろうと思っているが、私どもは海外の例も参考にし、各界の識者の意見も十分参考にし、しかし日本銀行として責任を持った金融政策を行っていくために、日本の実情に合っていること、そして日本銀行の政策運営の透明性と機動性の両立が叶うというクライテリア(基準)で、きちんと私どもが進むべき道を選んだということである。そうした範囲内で参考にできる意見は、今後ともどんどん吸収していきたい。私どもは殻の中に閉じこもった立場にいないので、各方面から色々な意見が出ることに対して格別違和感はない。

それから、政府の意見はそれぞれ今日担当大臣が会見をされるようであり、食い違いがあるといけないのでそちらのほうに委ねたいと思う。

【問】

先程総裁が指摘された、消費者物価指数で0~2%という「中長期的な物価安定の理解」を勘案すると、足許消費者物価指数が0.5%で推移しているが、今後の金融政策は、超緩和ないし緩和なのか、あるいはそれ以外なのか、どのように表現されるのか。

【答】

本日公表した「金融市場調節方針の変更について」をご覧頂きたいが、「当面の金融政策運営の考え方」に3つのことを書いている。量的緩和政策は解除したが、これによって非連続的な変化が生じるものではないということ。そして、先行きについて2つ書いている。先行きの経済・物価情勢については、物価安定のもとでの持続的成長を実現していく可能性が高いと評価しているが、100%その可能性の通りに実現するかというとそうではなく、企業収益が改善し、物価情勢も一頃に比べ好転している状況のもとで、金融緩和政策を採り続けることによって金融政策面からの刺激効果が一段と強まる。中長期的にみると経済活動の振幅が大きくなるリスクには留意する必要があると、私どもはきちんとリザベーションを置いている。

リスクは上にも下にもあるわけで、私どもは両方のリスクにきちんと対処する。そう申し上げた上で、3つ目のパラグラフに、今申し上げたような経済の振幅が大きくなるという方向のリスクが抑制される、「経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い」とあり、当面の蓋然性はそうみている。しかし、中長期的にみると、双方向のリスクにきちんと対応しなければならない。これが私どものスタンスである。量的緩和政策の枠組みをそのまま維持していると、このような対応が取れないが、金利レジームになった以上、当面の見通しは緩和であっても、ずっと先に行くと、上にも下にも機動性を持って対応できるということを述べている。

【問】

「『物価の安定』についての考え方」のところで、「『物価の安定』とは、概念的には、計測誤差(バイアス)のない物価指数でみて変化率がゼロ%の状態である」とあるが、このバイアスについてはわが国では大きくないとみられるという記述がある。米国の場合、私の理解ではFRBは、1%くらいのバイアスがあるので1%を下回らないように政策運営をしてきたと理解しているが、これはそれを意識しているのかどうか。委員の間でバイアスは1%よりもかなり小さいというコンセンサスがあるのか、もしくはどの程度のバイアスがコンセンサスとしてあるのか。あるいはこのバイアスについては、委員の間でもかなり認識の違いがあるのか伺いたい。

【答】

委員のコンセンサスはここに書いた通り、日本の消費者物価指数に関する限り、今はバイアスは大きくないという判断である。バイアスを正確に計測することはどこの国においてもなかなか困難であるが、日本においてはまず物価指数の作成プロセスそのものが、政府のご努力で非常に良くなっている。諸外国よりも優れた物価指数となっているので、上方バイアスが生ずる余地が物価指数作成過程において減ってきている。実際にバイアスの計測技術も私どもの金融研究所でも研究しているが、ある程度腕を磨いていることもあり、数年前に計測したバイアスよりも最近計測すると明らかにバイアスが下がっていることがある。従って、政策委員共通の認識として、わが国の消費者物価指数のバイアスはあまり大きくないとみている。

もう1つは、いわゆるのりしろという部分はいくらか意識しながら、今後とも物価安定の理解を頭に置いていくということである。

【問】

5年にわたって続けてきた量的緩和政策の意義、日本経済に与えた効果をどのようにお考えか伺いたい。また、今回、政策転換をされた率直な気持ちを伺いたい。

【答】

先ほども申し上げたが、日本経済がデフレ・スパイラルのリスクに陥りかねず、信用不安を巻き込んで厳しい状況に陥りかねない局面を、国民の皆様と一緒に大変辛い思いをしながら経験してきた。しかし、国民の皆様方の努力が非常に優れていて、日本経済がここまで健全な歩みを示すところまで前進してきた。私どもの金融政策はわかりにくい、わかりにくいと言われながら、及ばずながら幾らかそれをサポートし続けさせて頂いたと思っている。量的緩和政策は、根っこはゼロ金利であるが、日銀当座預金残高という量を大量に供給することと、消費者物価指数の前年比が安定的にゼロ%以上になるまでこれを続けるというコミットメントをゼロ金利に上乗せして政策効果を補強したものである。量の部分について言えば、もちろん金利に対し文鎮のような重みで金利を押し下げる効果をしっかりと持った。それだけでなく、特に信用不安との関連から言えば、金融機関に流動性を必要以上に供給することによって、金融市場において不安が増幅し、それがデフレ・スパイラルにつながるリスクの糸を遮断する効果が非常に強かったと思う。また、コミットメントの効果は、やはり数年前の事を思い出して頂くと、当時は非常にこのやり方が長く続くと誰しも思ったため、いわゆる時間軸が長い間は単にオーバーナイトといった一番短い金利だけではなく、やや長い期間の金利に対してもかなりの押し下げ効果を持ち、かなりの金融緩和効果としてリストラに励む企業、やはりコストのかかる復旧作業をなさった企業にとって、非常に好ましい金融環境を提供し続けることができたと思う。そういうかたちでは、私どもは支援する事ができたと思う。

【問】

当座預金残高の削減ペースについて、予断を持っていないとおっしゃるかもしれないが、短期金融市場の情勢や経済・物価情勢によって削減のペースや幅に、ある程度余裕を持ってみられているのか。所要準備高の6兆円に到達するまでにある程度長い期間になるのか、短いのか、削減のペースについて伺いたい。

【答】

特に私どもの方から促さなくても、短期金融市場の市場参加者は、量的緩和政策の枠組み解除後をある程度想定しながら、色々なトレーニングをしてきてこられた。そうしたことを考えると、量の削減過程について非常に大きな摩擦が生じるとは一応は考えにくいが、私どもは不測の摩擦が生じる可能性を十分に念頭に置きながら、注意深くプロセスを行っていきたい。今後、3月、4月、5月、6月と近いところの資金需給の見通しや、過去に我々が行なった資金供給オペレーションの期日がいつ来るか、つまり期落ちがいつどのように来るかということを併せて考えると、極めてスムーズにいけば、3か月も経てば概ねいいところまで吸収できると常識的には考えられる。しかし、先ほど申し上げた通り、3月中は比較的高めの残高を維持することになるだろうとか、4月以降、本当にスムーズにいけるかどうかは動いてみないとわからない。特にRTGSという即時決済の仕組みなどは流動性が豊富な時期にしかテストされていないこともあり、円滑にこなされるかどうかをきちんと見ながら、やはり幅を持って対処していきたい。

【問】

配布された「新たな金融政策運営の枠組みの導入について」の中の、「消費者物価指数の前年比」というのは生鮮食品も含む指数と理解してよいか。

【答】

中長期的な見通しであるから、短期的に振れがある要因を除いてみる必然性がないわけである。だからこれはヘッドラインの消費者物価指数であり、全部を含む消費者物価指数である。

【問】

2点質問したい。1点目は、今日、政府の出席者の方々から議決延期の請求があったのかどうかを確認したい。2点目は、先日、国会の答弁の中において総裁は、量的緩和政策解除後の金利について、中立的な水準に向けて段階的に修正していくという趣旨の発言をされたかと思う。今回の枠組みでは、その中立的な水準に到達するまでの間に仮に何らかのショックがあった時は、緩和的な政策を採ることを排除していないということでよいか、伺いたい。

【答】

議決延期請求権の発動はなかった。今日の発表文でご覧頂くと、先行きの金融政策運営としては、無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間を経た後、経済・物価情勢の変化に応じて徐々に調整を行なうことになる。もちろん、金融政策の機動性ということを先ほどから強調している通り、経済に波を打たせないことが基本であるが、経済には予期せざるショックが外からいくらでも及んでくる。日本経済のショックに対する脆弱性は少なくなってきているが、しかしショックはショックとしてどのくらいのリパーカッションが日本経済に起こるかわからない。金融政策は、その痛みの度合いに応じて当然調整しながら行なっていくことになると思う。

【問】

今後市場ではゼロ金利解除の時期に注目すると思うが、総裁としてどのようなイメージを持っているのか。またゼロ金利解除に注目している市場に対する目安というか道しるべというのは、結局は、委員が0~2%という数字をもって議論するというのが目安になるということか。

【答】

これから市場と日本銀行のコミュニケーションは非常にダイナミックになる。ある意味では本来の姿になる。市場は市場の見方を市場レート、特に先物の市場レートの中に反映するだろうし、私どもは毎月の金融政策決定会合の後、あるいは展望レポートの中で私どもなりの先行きの見通しを出していく。それが市場の見通しと合っているか合っていないか、合っていない部分については市場が改めてレビューしながら、市場金利の変動というかたちで映し出してくる。私どもはそれを読み取りながら、私どもの情勢判断を更に磨いていく。こういう市場金利の動きを仲介項としながらのコミュニケーションになっていく。量的緩和政策のもとでは、市場機能を封殺していると申し上げていたが、封殺している限りはそういう仲介項がないために、さかんに日本銀行の言葉のみを探るということがあった。これから先はそういうことはなくなり、よりダイナミックになっていくと思う。

【問】

中長期的に日本経済はどうなるかわからないと思うが、量的緩和という金融政策のオプションは、中央銀行において今後採ることがあり得るのかどうか、もう量に戻ることはないのかどうか、伺いたい。

【答】

天変地異まで予測して私がここで申し上げることは非常に危険なことであるので、申し上げない。極めて異例な政策を採り続けてきたということからお察し頂ければ、通常想定し得る範囲内で、そういうことはオプションの中に入らないのが当然で、もしそれ以上のお尋ねであれば天変地異を予測しているのかという質問になるので、そういうことには答えられない。

【問】

先程双方向のリスクとおっしゃったが、ディレクティブを読む限りでは、刺激効果が一段と強まる方向のリスクについてしか言及されていないと思う。今の質問にも関連するが、もうデフレに戻るリスクは無視し得るものになり、3条件を満たしたということであるから、そういうことであるのかということを改めて確認したい。また、先程期末に配慮して当座預金については実際30兆円くらいでいくのではないかとおっしゃったが、そうであれば現在の量的緩和政策のディレクティブも満たしていることになり、何のための解除だったのかという素朴な疑問が生じ得ると思うが、それに対するお答えをお願いしたい。

それともう1点、これはお答え頂けないかもしれないが、「中長期的な物価安定の理解」について、総裁自身のレンジと中心値をお教え頂きたい。

【答】

量的緩和政策そのものも、極めて大幅なビハインド・ザ・カーブの金融政策である。量的緩和の枠組みを脱出してゼロ金利からスタートするが、消費者物価指数がプラスの領域に動き、実質経済成長率がかなりのプラスを続けている状況のもとでは、これはかなりビハインド・ザ・カーブのところを出発点にした金融政策である。この金融政策との組み合わせで、緩和のしすぎのリスクが中長期的にあるということを指摘しており、一方を強調しているということにはならない。ビハインド・ザ・カーブの金融政策であっても、物価上昇率にプレッシャーがかからない限りは、なお当面かなり緩和的な環境が維持される可能性が高いと言っている訳であり、両面をフェアに記述していると思う。一方にウェイトをかけて書いていると理解しないで頂きたい。

私自身がどういう数字を出したかについては、特に今の時点では申し上げないほうが、統一的なイメージを持って頂くために良いと思うので、申し上げない。

【問】

先程期末ということで当座預金残高30兆円が維持されるだろうとおっしゃったと思うが、現実的対応として、少なくとも期末までは量的緩和の状況は変わらない訳で、3月に解除した意味というのは何であったのか、ややわかりにくさが残るのではないか。

【答】

それは量を削減する事実行為としてのプロセスを申し上げた。もっと大きな意味のところをしっかり受け取って頂きたいと思う。つまり金融政策の操作目標を量から金利に切り替えたということである。つまり量について実質的な意味が失われた以上、これが意味のある操作ターゲットであるかの如く出していくことは金融政策の透明性の自己否定であると、私どもは理解している。こういう段階に至った状況では、金融政策の透明性を主張する以上、日本銀行の操作目標というものは、真に意味あるものを出していく必要がある。従って、ゼロ金利というところに意味があるのであって、もう量は意味がなくなった訳である。その量を事実上吸収していくプロセスのことを申し上げた。これは事実行為であって、政策的意味が失われたものの後始末と理解されるべきものである。

【問】

決定が全会一致ではなかったことの意味付けについてどうお考えか。また、反対票の1票の内容についてお話頂きたい。

【答】

反対票1票の内容は、消費者物価指数にかかる条件がまだ満たされていないという判断であった。少数票が時として残るのは、非常に民主的なプロセスをとっている金融政策決定会合としては起こり得ることであり、必ずしも満場一致でなければいけないのだろうか。満場一致が実現するところまで議論を煮詰められるのが望ましいと言えるとは思うが、しかし合議体という性格上いつも満場一致とはなりにくいところがある。それ以上の意味はない。

【問】

小泉総理は、「デフレ脱却はまだ」と繰り返し述べられていると思うが、総裁としては、今日解除したということでデフレは一応脱却したという認識でよいのか。

【答】

先程も申し上げたが、物価がプラスで安定的な状況で推移し、そういう方向に向かって経済は着実に前進していると申し上げた。小泉総理もデフレ脱却の兆しはだんだん強まっているとおっしゃっておられ、表現の違いはあるが実態的な認識において相違はないと思う。

【問】

解除の決定にあたって色々と与党側から、特に目標設定に対して要望があったと思うが、柔軟性の確保と低金利の継続等といった与党側、政治家からの要望との調整について、どのようにお考えか。

【答】

私どもは情勢判断を研ぎ澄ましながら、情勢判断に自信がある限り、私ども自身の責任で金融政策を行わなくてはならない。政府の方でも、あるいは世の中の識者の方々も、それぞれしっかりとした情勢判断を持って色々な提言をしてくださるので、私どもの頭の中で十分に擦り合わせながら、今後とも政策に過りなきを期したい。繰り返し申し上げるが、国会でもお答えした通り、日本銀行の政策委員会で決定すべき決議事項の具体的な内容を、個々に取り出して事前に誰かと擦り合わせをするということは、合議体の基本精神に反し、議長としての私の責任に反する。従って、そういうことは行わない。

【問】

金利機能の回復についてお話しされたが、量的緩和政策の間封殺されていた金利機能が今回の解除によって生き返り、コミュニケーションは金利をして語らしめる状態になったということか、あるいはまだその道半ばか。また、物価の理解のところで、柔軟性を縛るものではないとの説明は理解できるが、日本の場合、そうした数字を出すと硬直的に取られ柔軟性を損なうとの指摘もあるが、その懸念はなかったか。

【答】

後の問からまずお答えする。政策委員の認識を数字で表すと、こういうことになる、ということである。これは金融政策の透明性と機動性の両立を真剣に考えて出てきた新しい知恵のようなものであり、私ども自身が出した知恵を私ども自身が活かしていくことによって、おっしゃるような懸念を払拭していくことができると思われる。そのためにも、「理解」というものの概念を、皆さん方からもきちんと報道して頂きたい。「参照値」と同じようなものだと報道されると、世の中に混乱をおこすと思われる。「理解」については、英語で言えばunderstandingという言葉を私どもは使用していく。そういうunderstandingを政策委員会のメンバーでbroadlyshared(広く共有)するというものである。新しい概念なので、日本だけでなく海外においてもきちんと理解してもらうためには、しばらく努力がいると思うが、こうした新しい知恵がきちんと理解されれば、そういうリスクは減っていくであろう。数字が一人歩きする心配を私どもも持っているが、それを打ち消していく努力をこれからもやっていかなくてはならない。

最初の問は、非常に重要な質問である。量的緩和政策の枠組みからの脱却によって、イールドカーブのショーターエンド(オーバーナイト物)以外のところにまで強い下方プレッシャーをかけるというディストーション(歪み)は一応なくなる。この意味では、金利機能を封殺している度合いは少し緩和されると思う。しかし、経済・物価情勢に見合った金利水準という意味では、まだかなり離れた状況にあるのではないのか。これから相当時間をかけて、ギャップを埋めていくことになるので、本当の意味での金利機能が生きて、資源再配分機能を本来金利が持っているキャパシティの通りに機能を発揮していくということと比較すると、極めて低い金利を続けている以上は、そこに何がしか犠牲が生じていることは否めない。

以上