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水野審議委員記者会見(3月13日)要旨

2006年3月14日
日本銀行

日時:平成18年3月13日(月)
滋賀県金融経済懇談会終了後、午後2時30分から約30分間
場所:滋賀県大津市

【問】

本日の金融経済懇談会では地元経済界の方々とどのような意見交換を行われたのか伺いたい。

【答】

今回、滋賀県で初めて金融経済懇談会を開催したが、京都支店が日頃から調査を行っており、調査内容については適宜報告を受けていた。また、今回ご出席頂いた方の中には、かつて京都での金融経済懇談会に出席頂いた方もいらっしゃる。本日は、滋賀県の土地勘をある程度もって臨んだつもりだったが、それでも色々と興味深い話を伺った。

まず、滋賀県は大手製造業の製造拠点が集積しているという地域的な特徴がある。最近の製造業を中心とする業績の向上から、雇用面での改善が続いている、逆に企業の側からいえば、人手不足感が強まっているというお話が幾つかあった。滋賀県全体の有効求人倍率は1.2倍台に入っており、全国の1.03倍を上回っている。その中で、特に地元の中堅・中小企業では、人手不足感が強く、人材を確保することにやや危機意識をもっておられ、「大手企業に人材を奪われてしまう」といった話や、「新卒者の採用が厳しくなってきた」といった話があった。また、製造業の経営者の方からは、これまで人件費の変動費化を進めてきたが、長い目でみた技術伝承や品質向上を考えて、正社員比率をもう一度引上げていく方向で検討しているとの話をお伺いした。

そして、個人消費について、小売業界は相変わらず競争が激しいため、新しい事業戦略を次々と進めていかなければならないという話であったが、挨拶要旨に書いてあるような、消費者の高級品に対するニーズが強くなっているという動きが、全国と同様に滋賀においても、また、百貨店に限らず一般の小売店でも出てきたということであった。

滋賀県の経済については、地域間や産業間でのばらつきは多少あると思うが、全国同様回復しているという認識を皆さんと共有することができたと感じている。

また、その他にも興味深いお話があったので、2つほど紹介する。

  1. ひとつは、長浜の「街づくり」についてである。これまで非常に上手くブランド価値を高めてこられた。今年はNHK大河ドラマの舞台ということもあって、観光客の入り込みは多いようであった。昨日、短い時間であったが訪問した際には、雨にも拘らず観光客が結構多かったとの印象である。お話をお聞きすると、「更にビジネスとして成功させていくためにはどうすべきか」、「地元にお金を落としてもらうためには、もう一歩努力が必要である」という声も聞かれた。こうした長浜の「街づくり」は、全国ベースでも、地域活性化の成功例の一つとして挙げられるのではないかと思った。

  2. もう一つは、産業構造や経済構造が変化していく中にあって、地場産業の経営が非常に厳しい状況にある点は変わっていないということである。大企業と中小企業──末端の企業という表現もあったが──とでは経営環境が大きく異なっているという話であった。それに対しては、金融政策で対応できることは限られているということを素直にお話させて頂いた。

【問】

滋賀県を訪問されたのは初めてか。また、滋賀県を訪問された感想を伺いたい。

【答】

2、3年前までは、多賀大社には毎年来ていた。寒いところであるとの印象があったが、昨日も急に寒くなった。東京から米原に入って北から南へ移動してきたのだが、「北は雪が降っているが、南は暖かい」という地理的な違いがあり、経済圏も異なっていると感じた。大津市の皆さんは京都、大阪を向いている一方、北部の長浜市や彦根市の皆さんは東海地方を向いている。県知事がリーダーシップを発揮される際にも、地域がそれぞれ向いている方向が違うので、なかなか大変であろうと思った。

【問】

量的緩和政策の解除が滋賀県経済に与える影響をお聞きしたい。

【答】

懇談会にご出席頂いた皆さんに聞いたが、特に影響はないとの回答が多かった。私は、挨拶要旨にも書いたが、量的緩和政策の解除は金融政策の正常化の通過点と位置付けている。景気が良くなっている中で、金融政策が超緩和状態から徐々に正常な状態に戻っていくことはおかしなことではないとの認識を皆さんとも共有できたと思う。席上、小売業の方からは、「ある程度預金金利が上がってきた方が、小売業全体にとっては良いのではないか」との声が聞かれた。一方、設備投資について、ある程度大規模な投資をグローバルな競争の中で行わなければならないため、金利がどの程度上昇するのかと若干の不安を感じている方もいらっしゃった。

私からは、日本の潜在成長率等を考えると、大幅な金融引締めを行う必要はなく、長期金利も、今後、急上昇していく状況にはないとの話をさせて頂いた。日本の物価上昇率は諸外国の物価に比べても低いということについて、今回の政策決定の背景になっている「物価の安定についての考え方」でも説明した通りであるとお話しさせて頂いた。

【問】

滋賀県の経済界の方から、量的緩和政策の解除を特に不安視する声はなかったということか。

【答】

2つの見方があったと思う。金融政策の影響にはそれ程関心が無いと言う方がいらっしゃった。金融政策に多くのことを望んでも仕方がないということであった。他方、金融機関の方からは、金利が正常化していくことは、お金を貸す方、借りる方の双方にとって、規律ある経済構造になっていくために必要であるとの声も聞かれた。多くの方からは、経済のファンダメンタルズが良くなっていくのであれば、金利の正常化を是非進めて欲しいとの前向きな話が聞かれた。

【問】

委員は、以前から当座預金残高目標の引き下げを主張されていた。そして、9日の金融政策決定会合では量的緩和政策の解除という大きな決断をされたわけであるが、現在の心境をお聞かせ願いたい。

【答】

まだ、これからやることが多いというのが正直な感想である。また、現時点では、マーケットの混乱もなく非常に安定しているので、ほっとしている。

もう1点付け加えると、異例と言われる量的緩和政策を解除するまでに、量的緩和政策が導入された背景、その後の金融経済情勢における効果を総括すべきだとの議論もあった。量の効果、金利の効果をきれいに分けて考えることは難しいが、今後、過去のゼロ金利政策の解除や量的緩和政策について、功罪、副作用等を含めて総括しなければならない。大変な仕事が将来的には待っていると感じている。

【問】

挨拶要旨の中で、「一般的に、実質金利の低位安定が長期化すると、資産価格の上昇につながりやすい」と主張されており、ゼロ金利が長く続かない方が良い、金利が上がっていった方が良いと認識されていると理解した。一方で、「国内経済の過熱感や資産価格の行き過ぎた上昇の予防的措置として政策金利を引上げることは、政府や市場参加者の理解をえられにくい」とも書かれている。それでは、軟着陸するためにはどうすればよいとお考えかご説明頂きたい。

【答】

資産価格バブル─資産価格の行き過ぎた上昇─に関する記述については、ゼロ金利の状態あるいは低金利の状態が長期化するという期待があまりにも強くなると、資産バブルを起こしやすい環境になるということである。今回、量的緩和政策を解除したが、これで終わりでないというメッセージ、すなわち景気のファンダメンタルズが我々の見通しどおりであれば、二の矢、三の矢の量的緩和解除のプロセスが続いているというメッセージを出していかなければならない。挨拶要旨の中で、あえて主要国の中央銀行の抱える悩みを挙げた。一般物価がなかなか上がらない一方、グローバルな資本移動の自由化の進展を受けた海外からの資金流入などから、資産価格が上がりやすいという状態には、どの国の中央銀行も非常に苦労していると思う。

量的緩和政策の解除の次はゼロ金利の解除に関心があると思うが、フォワードルッキングな金融政策運営の中では、将来のリスクバランスという観点から、いつまでも低金利にあるという期待が強まり過ぎないように、丁寧に説明していかなければいけない。私は、こうしたことを意識して、年明け以降、資産バブルの懸念について表明してきたつもりである。

【問】

「『物価の安定』についての考え方」では、「中長期的な物価安定の理解」として、審議委員の見方が消費者物価指数の前年比が0~2%程度の範囲で収まったということであるが、水野審議委員ご自身はどの程度と理解しているのか。また、「0~2%」が示す意味合いについて改めて伺いたい。インフレーションターゲティング、インフレ参照値ではないということであれば、これを示していく意味はどういうものか。

【答】

「中長期的な物価安定の理解」は、まさに政策委員が考える物価安定の大勢のレンジであるから、全員が0~2%程度と考えているという訳ではない。私自身が物価安定をどの程度の上昇率と理解しているかを申し上げるのは適切ではないと思う。

総裁が3月9日の会見で言ったように、「中長期的な物価安定の理解」によってルール・ベースの金融政策運営をする訳ではないし、インフレ・ターゲティング、あるいはインフレ参照値のようなもの─すなわち、簡単に言うと一つの物価の目標や定義を示したもの─ではない。これを示したのは、若干の透明性の拡大に繋がるであろうという考えからである。

「0~2%程度」と言うと当たり前ではないかと思われるかもしれないが、海外の中央銀行をみると「2%より高い水準でもいいのではないか」というところもある。それと比べると、「0~2%程度」の意味は、「『物価の安定』についての考え方」の中でも説明しているが、日本では諸外国に比べると平均的な物価上昇率が過去非常に低いところで推移してきて、かつ、これからもそういう状況が続く可能性が高いだろうという認識をもって政策運営に臨むということを示したということである。

透明性の観点からは、9人の政策委員の「中長期的な物価安定の理解」はそれぞれ異なるだろうが、「0~2%程度」のレンジをとれば、だいたいその中に入るということである。

なお、「今後原則としてほぼ1年ごとに点検していく」としているが、これは、「中長期的な物価安定の理解」は絶対的なものではなくて、経済構造の変化等に応じて、その数字自体も若干の修正があり得るということである。

私自身は、インフレ・ターゲティング導入に対して消極的なことを言ってきたが、「中長期的な物価安定の理解」はインフレ・ターゲティング的なものでなく、政策の透明性につながるものであり、金利の正常化において非常に重要な柔軟性・機動性は担保されているので、これを公表することに賛成した。

【問】

挨拶要旨の中で「機動的に対応できるマクロ経済政策として、金融政策を位置付けるのであれば、『政策金利の糊しろ』は不可欠」という言葉が出てくる。この点をみると、早目のゼロ金利解除を想定しているのではないかと思うのだが、どういう意味合いなのか、教えて欲しい。

また、ゼロ金利解除という状況が、業種間とか地域間の格差がある中で、地方経済にどのような影響を与えるとお考えになっているのか、教えて欲しい。

【答】

2つ目のご質問については、地方経済あるいは産業間格差に対して中央銀行が直接できることは特になく、金利機能を通じた資源の適正配分に若干資するという程度である。地方経済に仮に何らかの悪影響が及ぶという政治的判断があるとすれば、それは政治的に対応されるべきことだと思う。我々は、あくまでもマクロ経済をフォワード・ルッキングな観点からみて、経済・物価情勢についてベストと考える判断を示して、それに基づいて最も適切だと思われる政策をやっていくということに尽きると思う。

それから、政策金利の「糊しろ」についてであるが、最初に主張したいのは、財政政策と金融政策だけでなく、マクロ経済政策のそれぞれに持ち場があるということである。財政再建というのは、現在、日本が直面している最も大きな問題の一つだと思う。プライマリーバランスの均衡が2011年度と言っているが、それで終わりではない。財政再建は10年単位、20年単位の話である。一方、金融政策というのは、デフレスパイラルという状況でなくなると、本来は、景気循環に応じて、2~3年あるいは長くても4~5年のサイクルで景気循環の変動幅を小さくするために行っていくというものであるが、金利のゼロ制約下では金融政策の自由度は基本的に殆どない状況が続いている。経済情勢がバブル崩壊以降最も良い状況の中では、漸進的なアプローチによって、ゼロ金利解除をゆっくりとやっていけばよいと考えている。仮に政策金利の「糊しろ』がなければ、次の景気減速局面のときに金融政策が果たせる役割は非常に限られたものになるだろう、という意味合いである。もう少し付け加えると、金融政策に対する期待は、量的緩和解除に関する政府要人の発言などをみていると相当幅があると感じた。長期金利は、総裁も言っているようにマーケットで決まるものであって、政府を含めて我々にできるのは、財政・金融政策に関わるリスクプレミアムをできるだけ小さくしていくことである。そのためには、金融政策については金融規律、財政政策については財政規律を重んじることがおそらく一番効果的である。「日本の財政再建問題は深刻だから金融政策は財政再建に対して一定の配慮をすべきだ」という主張は、理解できるかもしれないが一定以上の理解を示してしまうと、金融規律がない世界になり、最終的には長期金利はリスクプレミアムが乗ってくるし、それが景気に悪影響を与える可能性がある。したがって、景気判断に自信があれば、素直にそれに従って政策を決めていきたい。それだけの気持ちで書いたものである。

【問】

政策金利の「糊しろ」が不可欠と挨拶要旨で主張されているが、実際、金融政策として自由度がある適切な政策金利の「糊しろ」はどの程度であると委員はお考えになっているのか。

【答】

「糊しろ」は特に何ベーシスポイント、何%というものではないと思っている。ただ、半年前の経済情勢の中で、何%の政策金利がいいですかと問われれば、ゼロ金利と答えていたと思うが、現時点ではもう少し高いところにあると思う。ただ、政策というのは連続的なものであるので、すぐにゼロ金利を解除してプラス金利の世界に行くべきと言うつもりは全くない。量的緩和政策の本質は、ゼロ金利政策あるいはゼロ金利政策を続けることに対するコミットメントであった。量的緩和政策の枠組みにもう一度戻ることがなかなか難しいことを考えると、ある程度金利の余裕がないと政策運営は難しい。挨拶要旨の後半部分では均衡実質金利の話をしているが、私は景気に中立的な短期金利の水準を意識して政策を運営したいと考えている。現在の景気に中立的な金利水準を潜在成長率から計算すると、現在の政策金利は明らかに低すぎる。ゼロではなくてそれが何%かは皆さんでお考え頂ければよい。非常に簡単なテーラー・ルールなり、均衡実質金利なりから計算できると思う。先行き2006年度、2007年度の景気に対してある程度自信を持てるのであれば、政策金利に「糊しろ」があるべきであるし、仮になければ、その後の政策運営は非常におかしなことになってしまう。結局、ゼロ金利のまま景気の後退局面に入り金融政策でサポートするという話になった場合には、当然、資産バブルは高い確度をもって大きなリスクとして出てくる、ということを含めて考えている。

【問】

量的緩和政策の解除時期については、市場予想として、当初4月28日と言われていたが、それが徐々に前倒しになった。3月の期末に解除するリスクについて、マーケットに詳しい委員の見解はどうだったのか。

また、「物価安定についての考え方」の中で、「中長期的な物価安定の理解」は、消費者物価の前年比が0~2%程度、中心値1%前後との見方を示しているが、これはインフレ参照値ではないと言っている。実際のところ、1%が分水嶺となって事実上のインフレ参照値のような受け止め方をしているマーケットの方もいると思うが、こうした受け止め方についての委員はどう思われるか。

【答】

2つ目の質問から答えるが、何らかの透明性を高めるのに資するのであれば良いという判断でやったということであり、量的緩和政策の解除にあたって、新しい政策への枠組みを出すというときに、「今日から金利ターゲットを導入する」とか「概ねゼロ金利にする」というだけでは説明責任として十分ではないと言われる中で、プラスアルファとして何を出すかという面があった。また、物価安定の議論については2000年10月頃に日銀からペーパーを出しているが、この時は「良いデフレ」と「悪いデフレ」などと話が逸れてしまい、議論自体も下火になった。最近になって、「デフレが脱却していないにも拘らず、量的緩和政策を解除すべきではない」との意見が出たほか、「量的緩和政策の解除とデフレとの関係」について質問が出るなど、議論が相当混乱していたが、「物価の安定についてどう考えているか」についてペーパーを出すことによって若干理解が進むのではないかと考えている。総裁も言っているが、デフレの定義は論者によって異なる一方、量的緩和解除の条件は明らかであり、それが満たされたので解除したというだけのことである。それでは量的緩和政策の解除はデフレ脱却の見通しとは関係ないのかというと、そうではなく、こうしたギャップを埋める意味で出した方が良いと思い、私としては前向きに考えた。

最初は、消費者物価前年比0~2%程度、中心値1%前後という数字が一人歩きすると、「1%を超えないと政策金利は上げられない」という人がいるはずであり、こうしたことは避けたいと思っていた。総裁記者会見を受けてこれら計数がインフレ・ターゲッティングやインフレ参照値等を日本銀行として組織決定したものではないということを皆さんに理解してもらいつつあり、こうした状況を受けて、むしろ質問としては本日のように「どうしてこうしたものを入れたのか」という話が多い。

期末に量的緩和政策を解除すべきだったかどうかとの点については、これまで総裁が言ってきたように、「量的緩和解除の条件が整った」とボードメンバーの大勢が考えたから解除したということである。マーケットでは4月28日解除説が多かったと思うが、私自身としては、マーケットの予想時期が後ズレするよりも前倒しされる方がよかった。私は数週間前の時点では4月解除が良いと思っていたが、この理由としては、仮に期末に様々な問題が発生すると、引き下げることができる当座預金残高が限られてくること、期末に発生する様々な問題に対して日銀に全責任が集中するリスクがあること、が挙げられる。ただ、その後、3月解除説が出てきた。マーケットの意見が割れてきたこと、また、10~12月期の実質GDPの年率が5.5%であるとの公表を受けて、政治サイドの雰囲気が相当変わったとマーケット参加者が感じとったことなどを踏まえ3月解除説が出てきたと思う。海外の投資家の話を聞いていると、量的緩和政策の解除については既に消化が相当進み、イールドカーブの手前の部分をショートしてくる、あるいはイールドカーブがフラットニングするポジションにかけてくる、あるいは株のショートポジションを膨らませている、あるいは逆に3月か4月のどちらかわからないから日経平均先物のショートカバーをしないといけないという動きがみられたため、これは大丈夫だなという感じを抱き、私自身は3月9日時点では解除しないリスクの方が解除するリスクより高いという判断をした。ただ、期末にどうして解除したかという議論については、もう少し時間をかけて説明した方が良かったという気がする。期末に対する思いは、金融機関は強すぎるということもあるし、今後の政策運営を考えても、期末には何も手を打てず決算のために金融政策が縛られるということになると、長い目で見ると良くないと思う。結果的にマーケットの反応も良かったという面もあるが、適切なタイミングで解除できたと思っている。

【問】

景気に中立的な金利について質問したい。先ほど潜在成長率から計算するとゼロではない、現状明らかに低すぎるということをおっしゃった。具体的にいくつかと数字を挙げるのは難しいかと思うが、挨拶要旨を読む限り、少なくとも定義として景気に刺激的でもない抑制的でもない中立的な政策金利というのが均衡水準の実質金利、言い換えると「潜在成長率」と「望ましいインフレ率」の合計だとすると、望ましいインフレ率が、仮に、先日日銀が公表した「物価の安定についての考え方」での「中長期的な物価安定の理解」における消費者物価前年比0~2%程度のレンジの0%だとしても、潜在成長率が委員の言う1.5%~2.0%だとすれば、委員がここで指摘している金融緩和的である政策金利の上限、これは言い換えれば中立金利の下限ということだと思うが、これは少なくとも1.5%を下回らないとの理解になると思うがこれについての見解はどうか。

【答】

そうした理解で違和感はない。潜在成長率について、日本銀行は1%程度、あるいは1%程度強という言い方をしてきた。これはこれから再計算をしないといけない中で議論を始めているが、まだ日本銀行としての公式見解を出すには至っていない。過去4年間を見る限り、2003、2004、2005、2006年度と平均で2%程度の成長をしそうだと考えると、潜在成長率は1.5%程度はあると考えている。少し幅をもってみないといけないと考えて、1.5%~2.0%として、それに対しゼロから若干のプラスの望ましいインフレ率があると仮定すれば、2%台の政策金利というのは中長期的にみれば十分正しいと考えている。そういう意味では今の金融政策は非常に緩和的である。挨拶要旨でも書いたが、今後我々が注目しないといけない話としては、潜在成長率の分析も大事だが、端的にわかりやすい指標として、名目金利からマーケットが思っている期待インフレ率を引いた実質金利や、我々が06年度に0.5%と予想しているインフレ予想から算出した実質金利があまりにも下がってしまうと、資産価格に対してあまりにもフレンドリーすぎる状況になってしまうということを考慮に入れながら政策運営をやっていくべきであると私自身は考えている。ただ、足許ゼロ%の政策金利がいきなり1.5%にワープするのではない。だから漸進的と言っている。また、漸進的というのは何か月とか何年とか言っている訳ではないという点はご理解頂きたい。

以上