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総裁記者会見(4月28日)要旨

2006年5月1日
日本銀行

——2006年4月28日(金)
午後3時半から約55分

【問】

2点伺います。まず、本日の金融政策決定会合の結果、および本日公表された展望レポート(「経済・物価情勢の展望」)の内容についてご説明下さい。次に、原油価格が高騰している現状について、総裁の見解を伺います。

【答】

金融政策決定会合では、現在の金融市場調節方針の「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す」を維持すること、すなわち市場調節方針を現状維持とすることを決定しました。そして本日、展望レポートを決定・公表しました。これに沿って、先行きの経済・物価情勢の見通しや金融政策運営の考え方について申し上げます。

まず経済・物価情勢の見通しについては、日本経済は内需と外需、企業部門と家計部門のバランスが良くとれたかたちで息の長い拡大を続けると予想されます。景気回復局面に入って既に4年以上経過する中で、今後景気は成熟段階に入っていくため、成長率は潜在成長率近傍のペースへ向けて徐々に減速する可能性が高いと考えています。つまり、息の長い拡大を続けるがスピードそのものは減速する可能性が高いということです。

こうした先行きの経済の姿は、次のような前提ないしメカニズムに基づいています。第1は、海外経済の拡大が続くことを背景に、輸出は増加を続けると予想されること。第2は、企業部門の好調が続くとみられること。第3は、企業部門から家計部門への波及がより明確となってくるとみられること。そして第4は、極めて緩和的な金融環境が民間需要を後押しするとみられること。この4つが前提であり、息の長い景気の拡大を支えていくメカニズムであると考えています。

物価面では、まず国内企業物価は、原油価格をはじめとする商品市況や為替相場にも左右されますが、2007年度にかけても上昇を続けるとみています。また消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)については、幅をもってみる必要がありますが、前年比のプラス幅は次第に拡大し、2006年度は0%台半ば、2007年度は1%弱の伸び率になると予想されます。以上の経済・物価の見通しが、いわば標準的なシナリオですが、こうした見通しに対しては経済・物価それぞれについて上振れ・下振れ要因があります。

まず2007年度までの経済については、海外経済の動向、在庫調整の可能性、企業の投資行動の一段の積極化の3つが、上振れ・下振れ要因として考えられます。物価面の上振れ・下振れ要因としては、需給ギャップのプラス転化の影響、原油をはじめとする商品市況の動向、潜在成長率上昇の影響が考えられ、展望レポートの中でそれぞれ詳しく述べています。

次に金融政策運営については、3月に量的緩和政策を解除して以降、長めのターム物金利は幾分上昇しましたが、この間、短期金融市場では全体として落ち着いた動きが続き、金融機関相互間の資金取引は少しずつ活発化してきている状況です。日本銀行としては、引き続き短期金融市場の状況を十分に点検しながら、所要準備額に向けて当座預金残高の削減を進めていく方針です。

先行きの金融政策運営については、先般公表した「新たな金融政策運営の枠組み」に沿って、「中長期的な物価安定の理解」を念頭に置いた上で、2つの「柱」による経済・物価情勢の点検を行い、これに基づいて先行きの金融政策運営の考え方を明らかにすることにしました。

まず第1の柱、すなわち、先行き2年間の経済・物価情勢について、マクロ、ミクロの経済データや金融市場の動向などを踏まえながら、展望レポートの中で示している最も蓋然性が高いと判断される見通しについて点検すると、わが国経済は、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していく可能性が高いと判断されます。これが私どもの評価であり判断です。

次に第2の柱、すなわち、より長期的な視点を踏まえつつ、確率はそう高くなくても一旦発生してしまうとコストが大きいリスクについても意識しながら、金融政策を運営する。そういう観点から重視すべきリスクを点検すると、金融政策面からの刺激効果が一段と強まる可能性があり、その場合、中長期的にみて経済活動の振幅が大きくなり、ひいては物価上昇率も大きく変動するリスクを一応意識する必要があります。一方、経済活動や物価上昇率が下振れした場合でも、金融システムの安定性が回復し、設備、雇用、債務の過剰が解消されてきていることなどから、物価下落と景気悪化の悪循環が発生するリスクは小さくなっていると判断されます。

先行きの金融政策の運営方針については、今申し上げた2つの「柱」に基づく点検の結果として出てくる答えであり、現時点では、無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間の後も、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高いと判断されます。そうしたプロセスを経ながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられます。以上が最初のご質問に対する答えです。

次に原油価格の高騰についてですが、原油価格は、昨年夏に既往ピークをつけた後、一時軟化していましたが、最近再び上昇しており、足許ではWTIのベースで70ドルのレベルを超え、最高値を更新する展開となっています。こうした原油高の背景としては、エマージング諸国をはじめ世界経済が高成長を続ける中で、需給の逼迫が続いていることが第1の理由であり、それに加えて地政学的リスクが最近改めて意識されていることが指摘されていると思います。

先行きについても、世界経済の成長が続いていくとすれば——私どもは続いていくと思っていますが——、需給が逼迫した状況は、当面大きな変化はないと思われます。こうした原油高は、世界的にみてこれまでのところは幸いにも経済・物価に大きな悪影響を及ぼすには至っておりません。先般のG7でもこの点は確認されました。もっとも、今後も原油価格が高止まりした場合には、非産油国における実質購買力の減少や、世界的なインフレ心理の台頭などを通じて、世界経済の振幅を拡大させる可能性もあると考えられます。これも先日のG7において、原油価格の動向は、世界経済に対するリスク要因の一つと指摘されたことはご承知の通りです。

日本経済について申し上げれば、エネルギー効率が非常に高いこともあって、原油価格の高騰が実体経済面に及ぼす直接的なインパクトは相対的に小さいとみられますが、原油価格の動向や、その内外経済に与える影響については、今後ともしっかりとみていく必要があります。

【問】

展望レポートの2006~2007年度の政策委員の大勢見通しについて伺います。この中の脚注で、「政策金利について市場金利に織り込まれたとみられる市場参加者の予想を参考にしつつ」という表現があります。これまでの展望レポートでは先行きの金融政策運営について不変を前提にされていたが、今回このように改められた理由について、政策委員の中で本日どのような議論があったか伺います。

【答】

今回の展望レポートから、各政策委員は市場金利に織り込まれたとみられる市場参加者の政策金利に関する予想を参考にしながら、見通しを作成する方法に変更しました。これは考えてみればごく普通のことで、そうなるべくしてなったということです。見通しの前提となる他の長期金利あるいは株価等の金融変数は、先行きの経済・物価情勢やそのもとでの金融政策運営に関する市場の予想に基づいて形成されています。このため、政策金利についてだけ全く切り離して固定的な前提を置くこれまでの「先行き一定」とする方法よりも、政策金利についても前提となる金融変数に含まれている情報、つまり市場の情報を参考とする方法を採ったほうが、全体として整合性がとれ、適当と判断されました。

かねてより申し上げていますが、市場は金融政策運営の場であると同時に、私どもにとっては鏡でもあります。今回は、その鏡としての部分を日本銀行として経済・物価の見通しを立てるにあたり利用させて頂いたということです。市場で観察される金利は、先行きの金融政策運営に関する予想を反映していますが、具体的にどの程度反映していると考えるかはなかなか難しいところがあるのはご承知の通りです。先行きの金利のボラティリティやこれに起因するリスク・プレミアムの想定如何でもこの点は変わってきます。見通しの作成にあたって具体的にどのような政策金利の径路を想定するかについては、他の様々な変数と同様、これはそれぞれの政策委員に委ねられています。従って、どの時期に何回の利上げを織り込んでいるかといった細部について前提を統一しているわけではありません。これは非常に大事な点であり、ご承知置き頂きたいと思います。

なお、どのような前提であれ今回の方法による政策金利に関する想定は、あくまで市場金利を参考としたものです。鏡として利用させて頂いたものであり、各政策委員が望ましいと考える政策金利のパスではないという点は、明確にしておきたいと思います。

【問】

展望レポートの最後のところで、「無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間の後も、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い」とありますが、この「後も」というところは、日銀がゼロ金利を解除した後、いわゆる利上げをした後も、その金利水準は極めて低いという認識を示されたという理解でよろしいのですか。

【答】

3月の金融政策決定会合の公表文で発表した内容と、この点は変わっていません。現在、流動性を市場から回収中でありますが、回収が終わったからすぐゼロ金利が終わるわけではないことを申し上げました。その後の経済・物価情勢次第、つまり、しばらくゼロ金利が続く可能性があり、さらに、そのゼロ金利が終わった後も、極めて低い金利水準を背景とした緩和的な金融環境を続け得る可能性が高いという、お尋ねの通りのことを書いていると思って頂いて良いと思います。

【問】

「極めて低い金利水準」というのは、市場では解釈が分かれる表現だと思いますが、総裁としては、「こうだ」というような定義は示されませんか。

【答】

名目金利の水準について「数字的に一定のレベルまでは極めて低い金利だ」という想定の仕方はしませんが、経済・物価の動きとの相対関係で、企業や家計が感ずる金融緩和感、その度合いがかなり深い金融緩和感が実態的に維持されているような金利や、その他の金融環境ということです。

【問】

第2の「柱」の点検のところで触れられている2つのポイントは、表現からすると、ダウンサイドよりもアップサイドのリスクのほうに目を配りながら金融政策を運営するべきだ、という理解でよろしいのでしょうか。

【答】

私どもが意図的にアップサイド・リスクにバイアスをかけて見ているということではありません。この先2年間にわたる経済・物価見通しは、ごく自然に考えて、引き続き息の長い景気拡大が続き、そして物価上昇率についても緩やかながらも上昇率が少し加速するという方向を描いています。つまり、経済はあくまで緩やかだが右肩上りという想定に立っています。

その時に、一定の金利水準を前提とすると、時の経過と共に金利による経済に対する刺激効果は強まるということですので、それを念頭に置くと、すぐにではないが、少し将来や長い距離を置いて見た場合には、ダウンサイド・リスクよりもアップサイド・リスクの方が自然に念頭に置かれやすくなるであろうということです。つまり、右肩上りの経済、非常にゆっくりだが息の長い経済の拡大という前提に立って考えた場合には、客観的に見て、どうしてもアップサイド・リスクのほうにウエイトがかかるということです。意図的にバイアスをかけているということではありません。

【問】

2つの「柱」について、今の質問を裏側から聞き直すことになるかもしれませんが、先行き2年間の部分について第1の柱で点検した上で、更に長期的な部分について第2の柱で点検されているのですが、この先2年間について景気がアップサイドに強く跳ねるリスクについては、標準的なシナリオとしてはあまり想定していないと考えてもよろしいのですか。

【答】

標準的なシナリオは、景気は成熟局面に入って、回復というよりは拡大という感じで経済は動くというものです。拡大というのは、要するに需給ギャップが解消した後の経済としてむしろ需要超過の度合いが少しずつ強まるという感じの経済です。逆に経済の拡大のスピードという点から言えば、引力の法則のように潜在成長能力のほうに引き寄せられながら動いていくのが自然で、減速しながら拡大するというシナリオを出しており、これが標準形です。標準形の通り動いていけば、アップサイド・リスクの顕現は比較的少ないであろうということは言えそうです。しかし減速すると言っても、引き続き経済は拡大し、需給ギャップが解消した後の経済は物価の上昇スピードがつきやすい経済でもあるので、政策金利一定の前提を考えれば、時の経過とともにアップサイド・リスクが次第に高まる可能性はあります。2年の間にもあり得ないわけではないが、これはより長い先まで見たリスクであり、2年間の範囲内だけで完結するようなリスクとは必ずしも見ていないということです。予測は2年ですが、リスクはもっと先まで延ばしたものとして意識しています。

【問】

アップサイドのリスク・シナリオにおいて経済の振幅が大きくなると述べていますが、もう少し具体的なイメージを伺います。

【答】

あまり突飛なことを考えているわけでありません。非常に極端な場合はバブルの発生と皆さんは意識されているかもしれませんが、いきなりそこに直結するようなことを念頭に置いているわけではなく、経済が普通に回転していく姿の中で素直に考えて頂きたい。息の長い景気拡大が続く、企業収益も順調に上がる、設備投資も必要なもの、或いは先行きの企業の挑戦課題として全うしたいものについて積極的な設備投資計画を立て実行していくということは、経済が前向きな循環を続けていく中で自然な姿ではあります。しかし、経済が成熟段階に入ってくると、潜在成長能力の伸び方も減速していき、知らない間に設備投資計画が結果として過大であったり、実行した設備投資もやや過大でストック調整が必要になる。そうなると、その調整のために景気は一旦スローダウンせざるを得ず、事前の投資が行き過ぎれば行き過ぎるほど、その振幅が大きくなるということです。

従って、そうしたことが起こりやすいのは、政策金利一定ということがあまりに守られすぎた結果として起こる場合があるわけなので、政策判断は慎重にしなければなりませんが、やはり適切なタイミングで適切なレベルに金利をセットしていかなければなりません。ダイナミックな経済を前提にする限りは、金融政策もそういう意味での機動性を失ってはならないというインプリケーションが含まれているところです。

【問】

展望レポートの中において、実質短期金利が低下していることと、企業や家計などの物価上昇率見通しは短期・中期とも徐々に上方修正されていると記述されています。これを中立金利という概念で考えると、最近は中立金利が高まっているという認識でよろしいのですか。金融政策運営をしていく上で、中立金利をどのくらい意識し、もしくは今後どの程度意識していくつもりなのか伺います。

【答】

中立と考えられる金利水準、つまり経済・物価に対して中立的と考えられる金利水準は、金融政策を考え運営していく上で、理論的には非常に有益な概念であると思っています。今後とも研究を深めていかなければならないと思っていますが、実際には中立金利とは何かという定義そのものに非常に幅があるほか、ある一定の定義をとった場合でも、その測定にはかなりの不確実性を伴います。何よりも中立金利は技術革新とか人口動態など経済構造そのものの変化に伴って変動しますので、予めその水準を特定してそれを固定的なゴールとして金融政策が前進していくことは必ずしも適当ではありません。米国においても2年前からmeasured paceで金利を上げてきており、一般的に中立的な金利水準に到達することを目指していると言われています。しかし、FRB自身も何が中立的な金利水準か、予め固定的なゴールを持って前進してきているわけではないということを、きちんと説明しています。今、実際に4.75%という金利水準まできても、何が中立的な金利水準かを明らかにしていないことからも、この問題の難しさがわかると思います。私どもはまだゼロ金利に留まっており、ここからスタートする段階であり、将来におけるゴールめいたものを固定的な中立金利水準として意識する段階には到底ないと思っています。

【問】

先程、経済のリスク要因──上振れ要因、下振れ要因──を指摘している中で、設備投資が上振れした場合、将来の調整リスクが生じると指摘していましたが、現状の日本企業の設備投資は、減価償却とほぼ同水準のところではないかと思います。むしろキャッシュ・フローのレベルが過去と比べても非常に高いところにあるというところが1つ注目すべき点ではないかと思いますので、その点についてのご意見を伺います。また、好調な企業収益を背景としてキャッシュ・フローのレベルが将来的にも高水準で続く場合には、FRBが金融の引き締め過程で、measured paceで引き締めていく間にもなかなかキャッシュ・フローが吸収できずにいたのと同様に、日銀の金融政策が将来的になかなか浸透しないということが起こり得るのではないかと考えられます。そのあたりのご意見も伺います。

【答】

日本の企業は、かつての高度成長時代、あるいはその延長線上の時代、もっと端的に言えばバブル経済前は、キャッシュ・フローの範囲を超えて大幅な借入をバックにかなり積極的な設備投資をしてきました。展望レポートにおいては、そのような大きな設備投資が行われ、結果として大きな投資循環が引き起こされるということをいきなり想定しているわけではありません。日本の企業は、構造改革を経た後、かなり慎重な経営態度をとっていると基本的に認識しています。設備の過剰感が消え、稼動率が上がってきている中、相応に生産能力の増強も念頭にあるでしょう。しかし企業は新しいイノベーションをビジネスとしてきちんと活かして、収益をあげられるように、リスクを適正に評価しながら、かなり的を絞った投資を慎重にやっていこうという姿勢にあると思います。企業財務面から見て、出来るだけ借入をせずにキャッシュ・フローの範囲内でやっていくということは、無闇にリスクをとらない慎重な経営判断と裏腹な関係になっていると思います。ただキャッシュ・フローの範囲内とは言っても、投資の行き過ぎが生じないとは限りません。また経済全体として潜在成長能力がどれくらい上がっていくか、需給ギャップが消えた後の経済として自然に潜在成長能力に見合った水準に経済がうまくソフト・ランディングするメカニズムが常に働いていくかどうか。もしそれが完全に働くとすれば、かつての米国のニュー・エコノミーの理論のように循環なき経済になります。しかし、多分、経済から在庫循環や設備投資循環といった波が完全になくなることはなく、多かれ少なかれ波は避けられないでしょう。企業にとっても経済にとっても、なるべく調整負担を小さくしながら循環的な波をこなし、結果として息の長い景気の拡大が続くのが望ましい姿です。そういう範囲内で物事を考えても、金利一定という前提で考えれば、やや長い目で見てリスクを孕む可能性はあるだろうと、そういう意味では限定的な範囲内のリスクと理解して頂いて良いと思います。

【問】

ゼロ金利の後も極めて低い金利水準を維持できる可能性が高いという記述について、総裁は、政策金利について一定の水準を前提に置いているわけではなく、経済と物価の相対関係からみて緩和度合いが実態的に維持されていると人々が思えるような環境というような表現をされたかと思います。しかし、人々といっても、例えば大都市、地方、企業によって違っていて、大企業であれば、例えば0.25%あるいは0.5%の金利でも低いと思うかもしれないし、地方では0.25%利上げされただけでも実際の借入金利はもっと高く引き締めと思うかもしれません。つまり、国民が思う緩和度合いは一様ではないと思います。その意味で、名目金利で一定の水準を考えていないとのことですが、そうであれば、実質金利ということでお考えになっているのかどうか。展望レポートにおける政策委員の物価上昇率見通しは、2006年度で0.6%、2007年度で0.8%が中心値になっているが、こういう見通しあるいは足許の物価上昇率を金利水準が下回っている限りは、極めて緩和的な金融環境だと言えるのかどうか。あるいはそういう水準を上回っていけば、極めて緩和的な金融環境ではないと言えるのか。そうした実質金利で考えて極めて緩和的な金融環境にあるかどうかと考えておられるのか伺います。

【答】

個々の企業、個々の家計というように経済主体を個々にとると、金利のレベル感は違い、同じ金利レベルに対する反応係数も違っています。しかし、展望レポートでは全体を総合したマクロ経済全体として、与えられた金利水準に対する反応度合いというものを測りながらということです。そういう意味では、経済全体として実態的に今の金利水準がどの程度の強さの刺激効果を持ち続けているか、その刺激効果がさらに強まりつつあるのか、予め認識しているリスク要因に対してリスクを顕現化させる引き金になりかねないと考えるかどうかなど、色々なことを考えて判断しなければならないということだと思います。お尋ねの意味が、単に金利水準を物価上昇率あるいは期待インフレ率といった一つの指標で逆算した実質金利をもとに、機械的に判断するということだとしたら、必ずしもそうではありません。実質金利の水準は一つの参考資料になると思いますが、それで機械的に高すぎるとか、低すぎるという答えが出し得るほど簡単ではないと思っています。

【問】

昨日、金融庁から三井住友銀行に対して優越的地位の濫用による行政処分が出されました。これについて総裁の見解を伺います。また、そのような不当取引があった当時の役職員の責任問題についてどうお考えになるか伺います。

【答】

金利スワップ取引を巡って三井住友銀行が優越的地位の濫用による不公正な取引方法を行なったということで、金融庁から、同行の一部営業部門における金利系のデリバティブ商品の販売停止などの行政処分を受けたということであります。日本銀行としても非常に遺憾なことだと考えています。金融機関は、顧客の様々なニーズに応えて高度な金融サービスを積極的に提供していくことを通じた前向きなビジネス展開が求められるようになっていますが、そうした前向きの業務展開の場合にも、法令に基づいてルール、手続きを整え、これをきちんと守るために内部統制を機能させていくことが極めて重要なポイントであると思います。日本銀行としても考査、モニタリングを通じて金融機関の内部統制の状況を確認し、必要に応じてその強化を促していきたいと思っています。また、誰に責任があり、どういう責任を取るかということは、同行自身が自主的にきちんと決める筋合いのものだと思います。

【問】

本日、九州の第2地銀である豊和銀行の公的資金申請と西日本シティ銀行との統合について報道があり、与謝野大臣も資本の充実が必要だという発言を会見でされていますが、現時点で総裁にどのような報告がなされていますか。また、地銀の再編についてお考えを伺いたいと思います。景気回復の裾野が地方に広がる中で、地域の経済に与える影響を抑えるかたちでの金融機関の再編が今後促しやすい環境にあるのか、一方で地域の格差が広がる中で、取り残された脆弱な金融機関が淘汰されるようなかたちで再編されていく環境になっていくのか、また、地域金融の再編についての日本銀行の対応について、お考えを伺います。

【答】

構造改革がどんどん進む日本経済で、中央と地方で従来に比べると様々な経済構造や仕組みが変わっていき、それぞれの地域で金融機能を担っている金融機関自身の役割やビジネスの仕方等もどんどん変わっていくと思います。しかし、小さな金融機関が一律に不要になるというようなロジックのものではないと思います。従って、それぞれの金融機関の経営者は、地域の経済構造の変化、地域における新しい金融ニーズをきちんと捉えて、それを自らの金融機関経営の姿かたちに翻訳して、新しいサービスを提供し得るように組み立て直していかなければならず、これは金融機関の大小を問わない話だと思います。

過去の問題処理はそれぞれの金融機関において相当進んできていると思いますが、残された問題があれば、当然早く処理し、新しい体制作りによりエネルギーを注いでいくべきであり、その過程で単体のまま経営を行なうのが最も機能向上に適しているのか、あるいは合併・再編というかたちがより適しているのかについても、経営判断の中で出てくることだと思います。

今回の報道については、まだ詳しい事は聞いておりません。早晩、きちんとした発表、アナウンスメントがあるだろうと思いますので、私どもはその上で必要があればコメントをしたいと思っています。

【問】

昨日、中国人民銀行が企業向け貸出の基準金利を1年半振りに引き上げました。中国経済は足許で10%を越える高成長を続け過熱気味との見方も出ています。展望レポートでも、リスク要因として海外経済を指摘されていますが、中国経済の現状をどう認識されていますか。

【答】

一言で言えば、中国経済はかなりのスピードで成長を続けています。そして幸いにも、大きくバランスを崩さずに高成長を続けていると思っています。しかし今後とも──息長くという言葉が相応しいかどうかわかりませんが──、急にバランスを崩すことがないように、あるいはそういったリスクをマーケットに感じさせないように、バランスのとれた経済運営を行っていくことが望ましいと思います。第1四半期の経済成長率が10.2%という発表がありましたが、そういった数字に示されているように、何がしか適切なスピード・コントロールが必要だと、中国の政策当局自身が認識されたということではないかと思っており、必要な措置がタイムリーにとられることは望ましいと思っています。さらにそのやり方が、行政的な手法に偏って依存するのではなく、今回のように貸出金利を引き上げるといった市場メカニズムを利用した調整方法を採るというのは、手段としてもより望ましい方向であるのではないかと思っています。

【問】

いわゆるゼロ金利解除のタイミングについて、現時点でも、従前のオープンであるということと意図が変わらないのかどうか伺います。

【答】

まさに今後の経済・物価情勢次第ということになります。前回の会見時にも申し上げましたが、展望レポートで2006年度、2007年度とやや長い先行きにわたる経済・物価見通しを標準形としてお示しして、しかもこれが物価安定を伴った持続的な日本経済の拡大の方向性に沿ったものだと評価も加えて出しました。従って、今後、本当に日本経済がこの標準的な見通しに沿ってきちんと動くかどうかが非常に大事であり、そういう方向で動いていくのであれば、自然と、金利を調整した方がより望ましい経済の運航パスを確保できるという判断に、いつの日か至るだろうと思います。これは私どもが勝手に思っているだけではなく、市場は既に市場の見識で先行きの政策金利の変化を一応織り込んでいるという姿であり、その一部は今回の見通しを立てるにあたり、逆に鏡としてお借りしています。本日の展望レポートを市場自身がどのように評価し市場金利の中に織り込んでいくか、また今後、経済・物価が変化していく姿を見て、この標準的な見通しとの対比で市場がさらに評価を加え市場金利の中へどのように織り込んでいくか、つれて市場が練れたものとなっていくかどうか。より練れた市場の姿と、私どものこれからの経済・物価情勢に関する判断の積み重ねとの間に自然に接点が出てくると、そこに望ましい政策径路が浮かび上がってくるのではないかと思っています。これからの市場との対話は、そういったダイナミックなものになっていくと思っています。

【問】

量的緩和政策解除から1か月経ちましたが、依然としてゼロ金利政策が続いており、金利を下げる余地がないという意味で機動性が奪われている状態だと思います。本日公表された展望レポートの見通しを踏まえて、現状のゼロ金利政策についての認識、あるいは金利を下に動かせない点について改めてお考えを伺いたいと思います。

【答】

金利政策が引き続きzero lower boundという意味で、ゼロにへばりついていることは確かです。だからと言って、金利を下げる余地という意味でののりしろを持つために、無理して金利を引き上げて懐を深くするというものの考え方を、私どもは持っていません。やはり経済・物価情勢と政策判断がきちんと整合性がとれない限り、そういう懐── safety margin(のりしろ)──を持つために一歩先に政策を出しておこうという考え方は今後とも採らないということです。

幸い、私どもが本日公表した標準シナリオでは、この先2年間、物価安定のもとでの持続的な成長というパスを確保し得る蓋然性が高いということですので、なおさらのこと、決して焦らずに臨みたい。しかし遅すぎてタイミングを逸して大きな景気の波を呼んでしまい、金融政策が過大な負担を背負わざるを得ないという状況には持っていきません。今後とも最もライト・タイミングで政策を行う、という一言に尽きると思います。決して焦ってはいけないが、安心して遅すぎてもいけないという難しさは、これからずっと続くと思います。

以上