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岩田副総裁記者会見 (6月8日) 要旨

2006年6月9日
日本銀行

——2006年6月8日(木)
秋田県金融経済懇談会終了後
午後2時から約40分間

【問】

本日の金融経済懇談会の感想と印象に残った出席者からのご意見をご披露頂きたいと思います。また、それらを踏まえて、秋田県の景気の現状と展望についてどのようなお考えをお持ちなのか、お聞かせ下さい。

【答】

本日は金融経済懇談会を秋田市で開催し、寺田秋田県知事、佐竹秋田市長をはじめ、多くの財界の方々から色々なご意見を伺いました。

懇談会の場では、「全国と地方の景気にかなり差があることを良く考えて金融政策を運営して頂きたい」というご意見がありました。また、これは中央銀行というよりは政府に対してということかと思いますが、「地方経済の発展について、もう少しきちんと統合した形での政策を展開して頂きたい」というお話もありました。景気の状況については、一部の方々から「改善しつつあるのではないか」というお話を伺いました。印象に残った点は以上です。

秋田県の景気の現状については、懇談会の冒頭挨拶でも申し上げましたが、一言で申しますと、「全国的な景気回復の流れが続く中で、徐々に持ち直している」と判断しました。懇談会でもご意見を伺いしましたが、県内景気の判断はそういうことであったと思います。ただ、秋田県の景気は、全国の景気に比べ回復テンポが緩やかで、全国との格差が残っておりますし、秋田県の中でも、地域間あるいは業種間での格差があるとも感じました。また、景気の回復感に乏しいというご意見もあったように思います。しかし、生産活動をみますと、緩やかな増加傾向にあり、労働需給もひと頃に比べると改善しております。完全失業率は6.3%と高い水準にあり、有効求人倍率も全国より低い水準ですが、改善の方向には向かっていると思います。以上が秋田県の景気の現状についての評価です。

【問】

中央と地方で景気格差が生じているというお話でしたが、この格差をどのようにお考えでしょうか。また、全国に比べて産業構造のバランスが悪い秋田県では、どのようにすれば全国並みの景気回復に追いつけるとお考えかお伺いします。

【答】

1点目の景気の格差については、様々な理由が考えられますが、1つは、全国と秋田県の産業構造の違いがあると思います。秋田県の産業構造をみますと、需要面では、公共投資が削減されていますので、建設業はその影響を受けていますし、建設業のウエイトが全国と比べても高いという点が挙げられます。一方で、全国的な景気回復を産業別にみますと、自動車に象徴されます輸送機械、あるいは一般機械、不動産業などに業況の改善傾向がみられ、そのような業種が景気を引っ張っていますが、秋田県の場合には、そうした業況が好調な業種のウエイトが全国と比べると低いという産業構造の違いが大きく影響していると思います。また、もう1つは、秋田県は事業所数が全国を上回るペースで減少し、こうした中で県外に就職先を求めて人口流出が続いており、人口減少率は全国の中でもパフォーマンスの良くないところに位置しています。こうしたこともあって、家計部門の需要増加に弾みがついていないという需要面と、さらには労働市場の状況が全国に比べると今ひとつ力不足というところがあるかと思います。

2点目の秋田県の景気が、全国並みの景気回復に追いつけるのかという点は、産業構造の改革に向けた取り組みを強化し、地域経済の活性化を図っていくことが重要と思います。これは他の地域についても言えることですが、私が今回訪問して印象深く思いましたのが、秋田県はお米が優れており、「あきたこまち」を利用したアグリビジネスについて──これは、昨日私が大潟村という八郎潟を埋め立てて干拓された地区を見学させて頂きましたが──、活発な活動を展開されているのではないかと思いました。それから、清酒についても、「秋田酒こまち」を使用した清酒の出荷が増加しているということでした。これらを総じてみますと、今後お米を中心とした食品加工の分野で新しいビジネスモデルを展開していくということが期待できるのではないかと思います。また、電子部品・デバイスでも──秋田県では、製造業の中でその割合が高いですが──、新しいビジネスモデルを展開するという中で、事業を発展させていくことが可能ではないかと思います。さらに、個別企業のイニシアティブが基本にありますが、地方公共団体、経済団体、金融機関のバックアップも欠かせないと思います。金融経済懇談会でもご指摘がありましたが、そうした新しい取り組みを実現していくには、有能な人材を確保するという取り組みが必要ではないでしょうか。県内に限らず県外の出身者であっても新しい試みをやってみようという幅広い視野をもった企業家を招聘したり、女性の起業支援も重要ではないかと思います。

【問】

株価と金融政策との関係についてお伺いします。冒頭挨拶の中で、「投資家のポートフォリオ調整の動きが一段落すれば、金融資本市場も新たな均衡と安定を取り戻すであろう」というご見解がありました。一方、本日も株価が15,000円割れとなっており、株安の不安が出ていますが、それに対するご見解と、ゼロ金利解除について、目下の株安がそのハードルになるのではないかという見方が一部にありますので、株安とゼロ金利解除との関係についてお聞かせ下さい。

【答】

1点目の株価については、本日も大きく動いていますが、私が冒頭の挨拶で申し上げたとおり、主要国のファンダメンタルズをみますと、例えば、企業部門の財務面で何か大きな変化が起こっているかと言えば、それは起こっていません。それから、新興国の株価や為替レートは、ボラティリティが最近やや高まっていますが、そうした新興国の政府部門や企業部門の財務面で大きな変化が起こっているのかと言えば、それも起こっていません。

現在、株式あるいは為替といった資産市場、それから商品相場について──商品相場もこのところボラティリティがやや高まっていますが──、これらが経済のファンダメンタルズが大きく変化して、それにより価格が変動しているとは必ずしも考える必要はないと思っています。勿論、世界の金融環境は少しずつ変化しており、その中で様々な資産価格が変化しています。従って、現在起こっている資産価格の変化は、経済の基礎条件が変化して大きく変動しているということではありません。むしろ、グローバルな投資家がリスクをやや取り過ぎてしまったと考えている部分について、そのポジションの調整を行っている、あるいは米国や欧州における金融政策変更など金融環境が変化する中で、実体経済の動きがそれに応じて平仄のとれた形で新しい均衡点を見付けていくというプロセスの途中にあるのではないかと考えています。纏めて申し上げますと、資産価格の変動は、基本的には投資家のポジション調整のプロセスであり、やがて新たな均衡点と安定性を取り戻していくのではないかと思います。

2点目のゼロ金利解除と株価との関係については、量的緩和政策を解除した時点で、金融政策の対象は日銀当座預金残高という量から金利に移った訳です。金利の方向性については、ベストのタイミングで考えていくことに尽きると思っており、量的緩和政策を解除した時点で申し上げたこと、あるいは展望レポートで申し上げたことに尽きています。もう少し具体的に申し上げますと、量を減らす過程では、事実上ゼロ金利という状態が続いていますが、量の調整と金利の変化を機械的に結び付けることはしませんし、金融環境は極めて緩和的な状況が続くであろうと考えています。そして、金利の調整プロセスに入る場合も、経済と物価の情勢を良く点検して、特に短期・中長期のリスクの点検を的確に行っていくということを申し上げており、そうした考え方に基づいてゼロ金利の解除といった問題も考えていくことだと思います。

【問】

先程の質問に関連しますが、日銀幹部の方が最近、日銀当座預金残高を所定の水準まで減らすというプロセスとゼロ金利解除とは全く関係ないということを強調されています。マーケットが描いていたイメージというのは、総裁、副総裁もおっしゃっていたように、日銀当座預金残高がある程度まで減っても、しばらくの間はまだゼロ金利が続き、それからゼロ金利解除ということになると思いますが、それは変わっていないのでしょうか。日銀当座預金残高が例えば12兆円ぐらいで、所要準備額の6兆円までいかなくても10兆円ぐらいになれば、日銀当座預金残高を徐々に減らしていくというプロセスが終わったのではないかということが日銀内部から聞かれますが、日銀当座預金残高とゼロ金利解除が関係ないとすると、技術的には今ゼロ金利を解除しても良いということになりますし、先程のお話のように経済の実態を点検していくということであれば、ゼロ金利解除は大分先になるかもしれないのではないか、といった点をご説明下さい。

【答】

先程申し上げたとおりではありますが、「日銀当座預金残高という量が例えば10兆円になったから、もうこれは良い状況なのでゼロ金利を解除します」というように、機械的に量の動きと金利の調整を結び付けることはしないということは、総裁も繰り返し申し上げていますし、私もそのように思います。つまり、量の動きをみて、それで金利調整が直接その影響を受けるということはないと考えています。ただし、量を減らしていくプロセスで金利が摩擦的な原因で反応することは今後も起こり得ることです。もっとも、ロンバート金利が──これは現在0.1%ですが──事実上の上限金利として機能しており、それが短期の金融市場の安定した動きに繋がっているのではないかと思います。

それから、リスクの点検として重要な点は、新しい政策のフレームワークの下での物価安定の理解という点を念頭に置きながら、短期および中長期のリスクを点検していくことです。その中で、現在のグローバルな金融資本市場の動きも当然注意すべき点であり、本日の冒頭挨拶でも申し述べたとおり、こうしたこともしっかりと点検しながら金利調整の問題を考えていくということだと思います。

【問】

日銀としては、日銀当座預金残高をある程度満足いくところまで下げた段階でアナウンスされるのでしょうか。それとも、後で振り返ってみたらそういう状況だったということになるのかお伺いします。

【答】

繰り返しになりますが、私どもとしては、日銀当座預金残高を金融政策運営の操作対象とは考えておりません。量的緩和政策を解除した時点で、私どもは「これからは金利をみて金融政策運営を行います」ということにしましたので、「日銀当座預金残高が10兆円になったから、これは満足すべきものである」というようなことを特に申し上げる必要はないと考えています。

【問】

短期・中長期のリスクを丹念に点検されていくとのことですが、そのリスクを点検したうえで早ければ6月あるいは7月にも、量的緩和政策解除の際に示された方向性に沿ってゼロ金利を解除することもあり得ると考えてよろしいのでしょうか。

【答】

金利の調整プロセスについては、私どもが打ち出した新しい政策のフレームワークの下で、大きな流れと方向性は既にお示ししたとおりです。それを言葉を換えて申し上げますと、今の日本経済は、デフレ状態から次第に正常な経済に向けた移行期にあります。正常な経済に戻っていく過程で、当然、市場の金利形成も──今も事実上のゼロ金利が続いていますが──次第に正常な姿に調整されていくといった流れに変わりはないと考えています。また、最近、色々な資産市場で変化が生じていますが、そうした基本的な考え方について変化はありません。それから、実体経済の動きをみますと、日本経済は展望レポートを発表してから、私どもが考えていたシナリオから大きく逸れるようなデータが出ている訳でもありません。むしろ、私どもが考えていたラインにほぼ近い形で実体経済は推移していると思います。

【問】

展望レポートに沿って日本経済が動いているということであれば、リスクを点検して大丈夫ということになれば6月あるいは7月のゼロ金利解除もあり得ると考えて良いのかどうかお聞かせ下さい。

【答】

具体的に何月であればゼロ金利を解除するのかについては──これは金融政策の宿命に近いと思いますが──、次々に新しい情報が入り、新しい情報の下で最も的確な判断を行っていくということが重要なことだと考えています。前もって何月になればゼロ金利を解除するのかということは、事前に何らかの答えと予断を持って申し上げることはできないと思います。

【問】

冒頭挨拶では、リスクとして5点挙げられ、これらのリスクは4月の展望レポートでも触れられていましたが、4月時点と比べて不確実性やリスクが現実となる蓋然性が高まっているとお考えでしょうか。それが高まっている、あるいは高まる可能性があるとしますと、金融政策が変更される可能性があるのかどうかお聞かせ下さい。

また、日本経済新聞社が調査した2006年度の設備投資が前年比2桁増となり、かなり好調ではないかと言われています。法人企業統計の1〜3月をみてもかなり良い数字が出ておりますが、どのようにお考えかお伺いします。

【答】

基本的には、私どもが4月の展望レポートでお示ししたとおりに日本経済は動いていると思いますが、世界経済をみると、先行きについてやや不透明感が生じていると思います。この背景には、米国経済が住宅投資などで減速の姿が窺われる一方、インフレも懸念されていることが挙げられます。

もっとも、米国の労働生産性の伸びは2.5%〜3.0%と力強く、そうした生産性の伸びが維持されている限り──経済学者によってはスタグフレーション的な様相が強まるのではないかということを議論する人もいますが──米国のファンダメンタルズは強靭だと思います。何故なら、短期的にインフレ懸念が多少あったとしても、現状は、生産性の伸びが十分高い中で、単位労働費用がどんどん上昇することはなく、むしろ安定しているからです。生産性の伸びが高く、また単位労働費用が落ち着いているということは、企業収益も底堅く維持し得るというメリットもあります。

冒頭挨拶の図表でお示しした米国の期待インフレ率をみましても──これは、5年、10年それぞれの国債利回り・物価連動債利回りより算出した5年先スタートの5年物ブレークイーブン・インフレ率であり、長期のインフレ期待を図るには良い指標だと思いますが──、最近は2.4%〜2.6%と若干高まっていますが、これが大幅に動いているという訳ではありません。短期的なインフレ期待は多少動いていますが、長期的なインフレ期待というのは大して振れてはおりません。また、生産性の伸びが維持できるということになりますと、短期的には若干の調整プロセスがあるかもしれませんが、やがて潜在成長率に復帰していくというソフトランディング・シナリオが実現されると、マーケットも次第にこの点を確信するようになると思います。現在、世界の金融市場が大きく変動していますが、やがてあるべきところに落ち着いていくと考えています。

日本の設備投資について、大企業は、日本経済新聞社の調査結果でも示されたようにやや強めの数字であり、短観の3月調査結果でも、2006年度の計画は年度当初は昨年度よりもやや強いところでスタートしています。短観の6月調査結果──これは7月初に公表予定ですが──の設備投資計画がどのような姿になるのか注目していますが、その他の指標をみますと、資本財の出荷や機械受注などは、3月にやや減少した後、4月は我々が考えているようなところへ収束したのではないかと思います。各種の指標を点検しながら設備投資の計画が上振れの方向へいくのか、下振れの方向へいくのか見極めたいと思います。

【問】

原油価格上昇が世界経済に与える影響を教えて下さい。また、為替相場へのインパクトと、それを通じた日本経済への影響についてもお考えをお聞かせ願います。

【答】

原油価格は、かなり大きく変動しながら上昇してきていると思います。原油価格上昇が世界経済にどのような影響を与えるかについては、これも金融経済懇談会の冒頭挨拶で申し上げたとおりですが、物価に対しては上昇要因になると考えています。一方、経済活動に対しては低下させる方向に作用し、特に石油の輸入国については経済活動を低下させると思います。冒頭挨拶要旨の脚注にも示してありますが──これは、昨年11月に鹿児島県で開催した懇談会でも同じことを申し上げましたが──、石油を輸入している国から輸出している国へ所得がどのくらい移転しているかは、GDPデフレータの変化率と国内需要デフレータの変化率の差がその近似値となります。つまり、GDPデフレータが1.3%のマイナス、国内需要デフレータが0%とすると、その差1.3%分の所得移転が起こり、交易条件が悪化する結果、経済厚生が下がっているということになります。これは、日本に限らず他の国でも同様に起こっていることだと思います。米国経済についても、インフレ懸念が幾分高まっているのは、やはり原油価格の上昇が影響していると考えられます。昨日のグリーンスパン氏のご発言の中にも、原油価格の上昇が個人消費とか、実体経済に少し影響を及ぼしつつあるのではないかとのお話がありましたが、こうした原油価格の上昇は米国の経済活動を鈍化させる働きがあると思います。

為替レートとの関係については、為替レートはもう少し金融的な側面の影響を受けるのではないかと思います。金融面をみますと、これも石油輸入国から石油輸出国へ向けて、かなりの資金が動いていると思います。その資金のアロケーション(配分)がどういう形をとるのかという点が、実体経済や金融資本市場に影響を与えるのではないかと考えられます。私の印象では、過去1回目、2回目の石油ショックがありましたが、その時にはどちらかというと産油国は国内の投資にあまりお金を使わず、世界経済全体としても成長率が下がるようなインパクトが大きかったのではないかという議論が行なわれたことがあります。今回の場合、産油国は、原油価格上昇のかなりの部分を国内の投資に使っているのではないかと思います。オイルマネーと言われる大きな国際的な資金の流れがこれまでに比べ急に変わっているかというと、決してそのようにはなっていないと思います。その限りでは為替レートに与える影響というのは、大きなものにはなっていないのではないかと思います。

【問】

8月に実施される消費者物価指数の基準改訂により、前年比上昇率が下方改訂されると言われていますが、ここまで経済がしっかりしてくると、こうした動きはあまり気にしなくてもよいのでしょうか。

【答】

消費者物価指数の基準改訂については、展望レポートの中で既に示しており、注意深く読まれた方はお気付きかと思いますが、消費者物価指数の改訂でどの程度の変化があり得るのかということを詳しく説明しています。品目の入れ替えや基準年の変更によって、消費者物価の前年比上昇率を押し下げる方向に作用することがあり得ますし、その大きさについても、前回改訂時と同じくらい──前回改訂時は比較的大きく、−0.2%〜−0.3%ポイントですが──ということを展望レポートの脚注に示しています。コアの消費者物価については、ご承知のとおり本年入り後3月まで前年比+0.5%で推移し、4月は+0.5%から少し下がる可能性があるという見方もありましたが、実際にはそのようにはなっていません。つまり、基調としてコア消費者物価の前年比上昇率は明らかに正の領域に入っており、仮に指数の改訂が8月に行われたとしても、その傾向に変化はないと考えています。

以上