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総裁記者会見要旨(9月17日)

IMFC終了後の福井総裁・渡辺財務官記者会見における総裁発言要旨

2006年9月18日
日本銀行

―於・シンガポール
2006年 9月17日(日)
午後7時50分から約30分(現地時間)

【冒頭発言】

 昨日のG7に続いて、本日IMFCが開催されました。まだIMF総会、世銀総会が残っていますが、本日までの一連の国際会議や個別の面談を通じて得られた感想について申し上げます。
 世界経済の状況については、比較的バランスのとれた高い成長を続けていることが改めて確認されました。先進国の経済相互間、すなわち米国・欧州・日本経済のバランスや、先進国の経済とエマージング諸国の経済とのバランスが改善するという動きを伴っており、世界経済は全体として過去との比較でもかなり良い状況となっています。
 ただ、同時に多くの参加者が、こういう時こそ自己満足に陥ってはならない、先々をよく見てリスクや課題に前向きに取り組みながら経済運営をしていくことが必要である、と繰り返し強調されました。世界経済には、引き続き原油などのエネルギー高や一部経済におけるインフレ懸念といったリスク要因が存在していますし、また、全般的にそこはかとなく保護主義の動きが台頭してきているように感じられます。こうした中でも自由貿易体制をどのように堅持していくかという課題が重要だと認識されるようになっています。これらに対しては、各国が対応を続けてきていますが、今後とも取り組みをさらに強めていく必要があることが確認されました。
 なお、今回はシンガポールでの一連の国際会議の開催ということもあって、アジア経済について、世界経済の中で成長の大きな原動力となっていますが、経済の仕組みとしても有機的なつながりを深め、重要度を増しつつあるという認識が改めて確認されました。先進国、アジア以外のエマージング諸国、そしてアジア諸国自身がそのことを改めて認識したということは、大変有意義であったと思います。

(以下質疑)

【問】

 先ほど、世界経済は過去との比較でもかなり良い状況にあるとおっしゃいましたが、具体的に過去何年くらい遡って良い状況にあるとお考えでしょうか。また、今後の先行きの世界経済の情勢について、日本を含めアジアが果たしていく役割について、改めてお伺いします。

【答】

 世界経済全体の成長率について、過去10年、20年遡って平均3%前後ということであれば、現状は比較的良好な状況と認識できると思います。最近は4%、さらにここ数年は5%前後で推移していますので高成長であります。同時にインフレが猛烈に起こっているかというと、石油価格や商品市況の高騰にもかかわらず、インフレあるいはインフレ期待は制御され続けている状態にあります。そして、先進国もエマージング諸国も——等しくと言えるかどうかはわかりませんが——、それぞれに経済の順調な動きを享受しています。こうした状況は、過去と比較しても相当に良い状況にあると言えると思います。
 アジアの状況については、本格的に市場経済に参加したというだけでなく、世界経済の成長の一つの大きな原動力として明確に組み込まれたという点が特徴だと思います。これから先は、世界経済全体のマーケット・メカニズムがより良く作動して、世界の隅々まで望ましい資源配分がなされることによって、世界経済全体がより効率の良い経済になっていき、このようなメカニズムを整えるために、先進国やエマージング諸国の経済は、経済構造や市場構造をそのようなメカニズムがより作動する方向に改善していく努力が必要である、ということが確認されたと思います。

【問】

 (IMFCにおける日本国の)ステートメントには、「過去30年間で最も好調」と記述されていますが、どうでしょうか。

【答】

 経済をみてきた立場から、私としても20年、30年といった感じの意識は持っています。

【問】

 保護主義に関するG7、IMFCを通じての議論について、狭い概念として米国議会の動きやドーハの膠着があると思いますが、それよりも広げて、例えばFTA合戦による経済ブロック化という概念まで含めた議論になっているのでしょうか。

【答】

 特におっしゃったような具体的な姿かたちを浮き彫りにしながら、議論されたということではありません。先ほど申し上げたように、世界経済を今後もより順調に運営していくために、G7、IMFCの会議に参加した多くの人々が共有した基本的なものの考え方は、世界経済全体として市場メカニズムがきちんと貫かれて、有限である資源が十分有効に再配分されながら使われていく、これが基本メカニズムであるというものです。しかし、国と国の間、地域と地域の間、あるいは同じ国の中であっても、そのようなメカニズムを一挙に貫徹させるには、現実には色々な支障があります。そのような時に、経済全体の運営の成果がより多くの人々に感じられるという状況が続かないと、やはり人間社会ですので、少し動きを制御するという感覚がどうしても出てきてしまいます。そういうことを広く保護主義の動きと捉えています。つまり市場メカニズムがより貫徹され多くの人々が結果としての経済的福祉をより多く享受するという流れに対し、そうした一時的な制約を加えることによりかえって結果が悪くなるということをどのように認識していくか、この難しさを議論しました。一時的にもせき止めようとする動きを全て保護主義の動きと理解したと思います。もちろん、貿易の問題を議論していく時には、ドーハ・ラウンドが一時中断していることを、具体的に念頭におきながらの議論であったと思います。

【問】

 ゼロ金利解除後の日銀の金融政策の現状について、どのように説明され、どのような反応があったのか教えて下さい。また、昨日の会見で、金融政策について、日本経済だけでなく、世界経済の情勢を見ながら行っていく必要があるとの趣旨の発言がありましたが、改めてこれからの金融政策と世界経済の関係についてお伺いします。

【答】

 昨日は、今後のグローバル経済の運営について、先進国もエマージング諸国も、世界経済に参画している限りは、この先の世界経済のパフォーマンスに責任があるという意識を共有したということを申し上げました。それぞれの国の実際の経済政策、金融政策は、それぞれの国の固有の目的を実現するために行っていくということには変わりありませんが、やはり世界経済のパフォーマンスを良くすることによって自国の経済も良くなるという仕組みが、時の経過とともに益々強まってきているので、各国の経済政策、なかんずく市場を通じて効果を発揮する金融政策は、自国の持っている目的に加えて、対外的にどのようなインパクトを及ぼすかを常に念頭において行っていく必要があるという認識が共有されたということを申し上げました。
 量的緩和政策の枠組みからの脱却、そしてゼロ金利からの脱却というところまできた日本の今後の金融政策は、通常の金融政策の枠組みに戻ったわけですが、他の国と同じように、金利を如何に経済・物価の情勢に即して適正なレベルに適正なタイミングで移していくかという点で、今申し上げたものの考え方が当てはまる状況に、日本の金融政策もなってきたという趣旨です。そのような言葉でG7等の場で話したわけではありませんが、私の説明について、会議の参加者はそういう構図を頭におきながら聞いて頂けたのではないかと思っています。

【問】

 本日のステートメントの中で、世界の不均衡問題について特定の国の問題に矮小化すべきでないとの趣旨の文言がありますが、これは人民元問題を意識したものなのかどうか。また、昨日、FRB・バーナンキ議長と会われたと聞いています。日米ともに金融政策が難しい局面に来ていると思いますが、どのような話があったのか差し支えない範囲で伺いたいと思います。

【答】

 G7が開催される都度、IMF関連の会議が毎年繰り返し開催される都度明確に強まってきているのは、グローバル・インバランスの問題については、為替相場の運営だけでは容易には解決に繋がらないという認識です。それぞれの先進国もエマージング諸国も、そしてエマージング諸国の中で最も大きい中国についても、それぞれが明確に宿題を持っています。先進国もさらに構造改革を進める必要がある、エマージング諸国は、為替その他のメカニズムにおいて未だフレキシブルでない部分についてできる限りフレキシブルにしていく、そういう組み合わせの中で、問題は解決されていく、全体の経済のパフォーマンスが良くなるように適切な経済・金融政策が行われていくという前提のもとに、加えて構造的あるいはメカニズムの面で着実にメスを入れていくことが、最終的によりバランスのとれた世界経済に繋がっていく、という認識を積み重ねてきていると思います。今回もそういうことであったと思います。
 FRB・バーナンキ議長と個別にお会いしましたが、個別の会談の内容について申し上げることはできません。私としては、バーナンキ議長は、インフレ期待を今後とも十分制御しながら米国経済のソフトランディングを実現していくという方向での金融政策の今後の運営に自信を持っておられた、という感じを抱きました。

以上