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総裁記者会見要旨 2019年12月19日(木)
午後3時半から約50分

2019年12月20日
日本銀行

(問)本日の決定内容について、改めて総裁から教えてください。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施します。

また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し得るとしています。

なお、本日の決定会合では、ETF市場の流動性向上を図る観点から、本年4月の会合で検討することとされたETF貸付制度の導入を決定しました。また、貸出増加支援資金供給について、本制度のもとで貸出を増加させてきた金融機関を引き続き支援する観点から、一定の条件で借り換えを認めるための見直しも決定しました。

次に、経済・物価動向について、説明します。わが国の景気の現状については、「海外経済の減速や自然災害などの影響から輸出・生産や企業マインド面に弱めの動きがみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している」と判断しました。

やや詳しく申し上げますと、海外経済の減速の動きが続くもとで、輸出は弱めの動きとなっているほか、鉱工業生産は自然災害などの影響もあって、足許では減少しています。企業のマインドも、製造業は、はっきりと慎重化しています。一方、企業収益が総じて高水準を維持する中で、設備投資は増加傾向を続けており、個人消費も、消費税率引き上げなどの影響による振れを伴いつつも、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、緩やかに増加しています。このように、家計・企業の両部門において、引き続き、所得から支出への前向きの循環が働いています。また、住宅投資は横ばい圏内で推移しているほか、公共投資は緩やかに増加しています。この間、労働需給は引き締まった状態が続いています。金融環境については、極めて緩和した状態にあります。

先行きについては、わが国経済は、当面、海外経済の減速の影響が続くものの、国内需要への波及は限定的となり、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は、消費税率引き上げなどの影響を受けつつも、極めて緩和的な金融環境や積極的な政府支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も、当面、弱めの動きが続くものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられます。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%台半ばとなっています。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。

リスク要因としては、保護主義的な動きの帰趨とその影響、中国を始めとする新興国・資源国経済の動向、IT関連財のグローバルな調整の進捗状況、英国のEU離脱問題の展開やその影響、地政学的リスク、こうしたもとでの国際金融市場の動向などが挙げられます。こうした海外経済を巡る下振れリスクは引き続き大きいとみられ、わが国の企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要があります。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じます。

(問)米国と中国が貿易協議で部分的な合意をしました。海外経済のリスクというのは少し減少したというようにお考えでしょうか。また、国内経済についても10月のときと景気認識に変化はございますでしょうか。

(答)確かに、米中の貿易協議の部分的な合意であるとか、英国の総選挙の結果として合意なき離脱のリスクが低下したとか、その他海外のリスク要因について若干明るい方向への動きがあることは事実ですが、やはり依然として海外経済のリスクは全体としては高い水準にあり、警戒を要すると思っています。特に、米中の貿易協議の進展を受けて、15日に予定されていた米国による対中追加関税が見送られることによって、米中貿易摩擦が一段と拡大する事態が回避されたことは結構なことだと思います。国際金融市場でも好感されており、投資家のリスクセンチメントはひと頃に比べて改善していると思います。今後、グローバルな通商関係が安定化して、現在縮小している世界貿易が再び活性化していけば、世界経済にとって大きなプラスになると期待されます。ただ、今後の米中通商交渉の行方については、両国の間になお対立点が残っていることもありますので、引き続きその帰趨を注視していく必要があると思います。また、英国のEU離脱の問題につきましても、来年1月31日に合意なき離脱になる可能性はほぼゼロになったと思いますので、離脱して1年間の経過期間にEUとの新しい経済関係の構築を図ることになると思いますが、これも1年間の経過期間の間にどこまで新しい経済関係が構築されるかといった点にまだ若干不透明な点も残っています。このため、海外のリスクがひと頃に比べて若干低下したというか、やや明るい兆しがみえてきたことは事実ですが、依然としてかなりリスクは高い水準にあり、引き続き注意していく必要があると思います。日本経済そのものについては、緩やかな拡大が今後も続いていくとみています。

(問)FRBが3回続けてきた利下げを休止して、ECBもこの間の会合では現状維持でした。10月頃と比べるとだいぶ海外の金融政策の状況が変わってきていると思いますけれども、総裁自身の追加緩和への心持ちというか気持ち、考え方は、10月の会合時点と比べて変化はございますでしょうか。

(答)FRBにしてもECBにしても、特にFRBは昨年、正常化に向けてバランスシートの縮小や短期金利の引き上げを行いましたが、今年に入って、世界経済の不透明性その他に鑑み、政策金利を3回にわたって引き下げました。その後、おそらく米国経済が比較的堅調に推移しているといったことを踏まえて、今回、金利については変化させずに、当面、米国経済の状況や金融市場の動向を見守るということになったのだと思います。

ECBの場合は、正常化に向けた準備が行われていたのですが、やはり今年に入って、EUの経済がやや減速したことを踏まえて、金融緩和をもう一度行いました。その後の状況をみて、今回は、特別な変更を行わなかった、ということだと思います。

わが国の場合は、経済は、比較的緩やかながら拡大を続けていますが、物価は、依然として、0%台半ば前後というところですし、様々な海外のリスク等を踏まえて、ずっと大幅な金融緩和を続けてきました。特に、海外経済の動向を中心に、下振れリスクが大きくなったということで、7月の金融政策決定会合以降、金融緩和方向への意識を強めて政策運営を行うスタンスを明確にしてきました。このところ、世界経済には前向きな動きもみられていますが、引き続き不確実性が大きいので、やはり経済・物価の下振れリスクには注意が必要な情勢が続いています。従って、引き続き、緩和方向を意識した政策運営を行っていくことが適当ではないかと考えています。

(問)今日、スウェーデンの中央銀行がおそらくマイナス金利政策を解除する見通しです。ECBの先立ってのマイナス金利の深掘りの後のマーケットのリアクションであったり、FOMCの議事録とかを見ていても、マイナス金利の有効性に対する懐疑的な見方というのが拡がっているようにも思われるのですが、改めて今、日銀として行っているマイナス金利政策への評価を総裁からお聞きしたいと思います。

次に、東証と金融庁によるTOPIXの改革についてです。今日、ETFの制度について発表されていますが、だいぶ銘柄が絞り込まれる方向で検討が進んでいると、今も浮動株の相当な部分を日銀が持っているというような銘柄も出てきている問題が、更にその懸念が強まる惧れもあると思うのですが、このTOPIX改革についてご見解があれば教えてください。

(答)スウェーデンのことについては、まだ私から具体的に申し上げる段階ではないと思います。スウェーデン経済は、比較的順調・堅調に推移しており、成長率の面からも物価上昇率の面からも、好ましい状況が既に実現していますので、金融政策についてそういったことが考えられ得るとは思いますが、具体的なことについてはまだ私から何か申し上げるのは僭越だと思います。なお、ECBは、以前の金融政策決定会合で、ユーロ圏経済の減速が著しかったことを踏まえて、様々な緩和措置をとる一環としてマイナス金利も更に深掘りしました。ただ、その際に、当座預金の全てにマイナス金利を適用するのではなく、わが国と同様に階層化し、一部にマイナス金利を適用する形にしたうえで、マイナス金利を更に深掘りしたということだと思います。マイナス金利だけを取り出して議論するというよりも、経済・物価・金融情勢に応じてどのような金融緩和を行うか、ということの一環として行われているということではないかと思っています。わが国については、日本銀行の当座預金のごく一部に-0.1%の金利を適用するという金融調節方針は、適切だと思いますし、今回の金融政策決定会合でも維持することが決められました。

次に、TOPIXの件につきましては、今、見直しが行われている最中ですので、具体的なコメントは差し控えたいと思いますが、わが国の株式市場が企業の資金調達の場としての機能を高める、また資産運用の対象としての魅力を増すという観点から、様々な改革を議論しておられると承知しており、私どもとしても有意義な提言がなされることを期待しています。そのうえで、今、金融審議会で議論しているわけですので、お尋ねの日本銀行が行うETF買入れにつきましては、その結果などを踏まえて対応の要否も含めて検討していきたいと思っています。

(問)先程、海外経済のリスクについて、やや明るい兆しという言い方をされましたが、例えばその場合、世界経済の持ち直しというか回復の時期も前倒しが期待できるということなのでしょうか。一方で、日本経済について、マインドがはっきりと慎重化していると総裁は先程おっしゃいましたが、こういったものが世界経済のそうした動きとはまた別に日本経済を更に下押すようなリスクになり得るのでしょうか。

また、政府が先般、事業規模26兆円の経済対策を決めたわけですけれども、ポリシーミックスの観点からこれは十分な措置だとお考えなのかということと、成長率をどれくらい押し上げる効果が期待できるのかについてお願いします。

(答)海外経済のリスクについては、その大きな要素であった米中の貿易摩擦について一定の合意に向けた前進がみられたこともありますし、英国のEU離脱の不透明性もかなり減殺されたということもあります。また、実際の経済データでみても、米国経済は極めて順調で、雇用も大きく伸びているということです。中国経済も、減速のトレンドは続いていますが、非常に大きく経済が停滞方向に向かうリスクは見当たらず、むしろ様々な対策が打たれて、IMFの見通しなどでも今年、来年と6%程度の成長が続く見通しになっています。また、欧州は、減速が続いてはいますが、いくつかの指標で前向きなものも出てきています。こうしたこともあり、数か月前よりも世界経済の見通しがやや明るくなっていることは事実ですが、まだ具体的に世界経済の回復の時期が非常に前倒しになるといった感じまでには至っていないと思いますので、前向きの兆候もある一方で引き続き様々なリスクがあることを十分に認識しながら、注意深くみていきたいと思っています。日本経済については、企業マインド、特に製造業のマインドに慎重な面がみられるほか、輸出・生産に弱めの動きがみられることは事実です。しかし、需要側からみた設備投資の計画や意欲も十分高い水準にありますし、消費も、消費税率引き上げの影響や台風19号などの自然災害の影響などが絡みあってはいますが、全体として緩やかに増加するというトレンドに変化はないと思います。

次に、政府の経済対策については、自然災害からの復旧・復興を加速させる、経済の下振れリスクを確実に乗り越える、そして生産性や成長力の強化を通じて民間需要中心の持続的な経済成長を実現するという観点から、各種の政策を取り纏めたと承知しています。今後、国会の審議を経て経済対策の予算が成立し、これらの政策が実施されれば、当然、政府支出が国内需要を下支えするあるいはその伸びを高める効果もあるでしょうし、更には成長の基盤となるインフラの構築やそれに伴う生産性向上などを通じて日本経済の持続的な成長にもつながることが期待されます。物価に対しても、需給ギャップの押し上げなどを通じてプラスの影響を与えると考えています。ただ、現時点では経済対策の内訳あるいは実施時期などが私どもには十分判明していませんので、先行きの経済・物価に対する具体的な影響については、今後判明するより詳細な情報を踏まえたうえで、1月の展望レポートに織り込んでいくことになるのではないかと思っています。

(問)マイナス金利に関連する質問なのですが、今、一部の銀行で口座維持手数料の導入を検討するような動きも出始めているということなのですが、こうした動きについてはどのようにご覧になっていますでしょうか。マイナス金利政策を導入した当初から、こうしたことは想定されていたのでしょうか。

(答)口座維持手数料云々というのは、いずれにせよ各金融機関の経営判断にかかることなので、具体的な個別案件のコメントは差し控えたいと思います。一般論としては、そもそも最近は金融機関において、ATMによる公共料金の支払いやインターネットバンキングの普及など、決済サービスの高度化が図られています。一方で、個人情報保護、マネロン対策などの社会的な要請に応える取組みが進められており、そういったことに伴って、一定のコストというのは当然かかるわけです。このように、社会インフラである決済システムをより向上させていく観点からは、提供される決済サービスの内容とこれに対する適正な対価としての手数料をどのようにバランスさせていくかということについて、考えていくことが重要だと思います。マイナス金利と直結して、こういうことが起こるということではなく、そもそも金融機関の提供するサービスについては、当然そのコストに見合った手数料というものが徴求されることは普通のことだと思います。ただ、具体的にどういう形でどのようにコストをカバーするかというのは、それぞれの金融機関の経営判断に任せられていると思います。

(問)そうしますと、この先も金融緩和の手段としてマイナス金利の深掘りというのは選択肢の1つであるということでしょうか。

(答)それはその通りです。もちろん、マイナス金利というのも、いくらでもマイナス金利にできるという話でもありませんし、マイナス金利が非常に大きなものとなり、それが金融機関の収益に大きな影響を与えるということになれば、金融仲介機能にもマイナスの影響があり得ます。今のところ、そういう水準では全くありませんので、マイナス金利の深掘りというのも、金融政策として必要な事態になれば十分あり得るとは思います。いずれにせよ、金融政策についてはマイナス金利だけでなく、あらゆる金融政策手段についてその効果と副作用を常に点検していく必要があると考えています。

(問)総裁はかねてから、政策運営に当たってはコストとベネフィットを比較しながら決めていくというようにおっしゃっています。昨今、手数料を設けるという話もありますが、地方銀行の経営状況をみてみますと、中間決算でも減益になる金融機関が多かった、あるいは年金運用にしても、予定利率を見直して事実上減額になるような制度変更をするような企業も出てきております。ベネフィットを上回るようなコストになっていることはないから、現状維持をしているのだと思うのですが、そのコストをみてみますと、今のところ少し以前よりも増えつつある、あるいは注意が必要な情勢になっているというようにお思いでしょうか。

(答)その点は、私どもも十分に認識しており、「総括的な検証」でイールドカーブ・コントロールを導入した際にも申し上げたように、短中期の金利引き下げは内需を刺激する効果が非常にあるわけですが、特に超長期の20年、30年、40年といったところの金利の引き下げは、むしろ年金や生命保険の運用利回りの低下を通じて、消費者のマインドにマイナスの影響を与える惧れがあります。金融緩和は必要な限り続けるわけですが、その場合にも、そういった副作用には十分に注意しなければならないということで、イールドカーブ・コントロールを導入し、適切なイールドカーブを形成してきたわけです。そういった意味では、コスト面にも十分配慮していく必要があり、配慮してきていると思いますし、今後も更にそういう必要性が高まっていく可能性はあると思っています。

また、金融機関に対する影響という意味では、常に金融システムレポートでも書いています通り、低金利の状況が続く中で金融機関の収益にマイナスの影響を与える可能性があるということですが、その一方で、地域における人口減や企業数の減少ということもあって、やや構造的に貸出業務に基づく収益が低下してきているというトレンドもあります。今の低金利の状況だけでなく、そういった構造問題もあって影響が出ているという中で、確かに、低金利環境が長く続くと金融機関の収益にマイナスの影響が出てくる可能性があるわけですし、そうなった場合に金融仲介機能が損なわれると、まさに金融緩和の効果が損なわれることになりますので、そうならないように留意する必要があります。他方で、そうしたもとで過剰なリスクをとった結果として金融機関にダメージが生じれば、これも金融仲介機能が損なわれることになりますので、低金利環境が続くもとでの金融機関への影響を十分注視していかなければならないですし、注視しているわけです。

特に、ここ6、7年、地域金融機関も、英語で言うとrespectableと言うのでしょうか、相応の収益、利益水準を保ってきたのですが、貸出に基づく通常の金融機関のビジネスの利益はずっと減少し、それが株式や債券の売却益と信用コストの低下で埋め合わされ、ある意味で相応の収益水準、純益が保たれてきました。しかし、今後もそうたくさんキャピタルゲイン、益出しができるようなものがあるわけではないでしょうし、信用コストもここまでくると若干底打ちと言いますか、反転の兆しもありますので、ますますこういった金融機関への影響、金融緩和や低金利環境が長続きすることの副作用に十分注意していく必要があるということは、私どもが前から言っている通りです。

ただ、現時点で、信用仲介機能が損なわれているかと言われると、金融機関の融資は2%台半ば程度の増加が続いていますし、ヒートマップでも赤信号がたくさん点いているわけではありませんので、信用仲介機能が衰えるということにもなっておらず、過剰なリスクをとって何か行き過ぎになっているということも今のところありません。このため、直ちにどうということではありませんが、やはり注意していく必要があるということはその通りだと思っています。

(問)総裁が先程言及された今後の政策運営について、海外経済のリスクを踏まえてお聞きします。総裁は秋の記者会見では緩和に前向きだと発言され、前回の10月の会合ではフォワードガイダンスを変更されて、警戒モードを高めていたと思うのですが、現状、その警戒モードがやや和らいだと考えていいのか、総裁のお考えをお聞かせ頂けますか。

(答)様々な海外発のリスクについて若干明るい兆しもみえていることは事実なので、そういう意味で、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが失われる惧れが高まってきたということはありません。ただ、依然として様々なリスクはありますし、そうしたリスクがまだ比較的高い水準でありますので、そういう意味では、金融政策については緩和方向を意識したスタンスを依然として維持する必要があると思っています。

(問)先程の副作用の発言に関連するものですが、先日IMFから、日銀の採り得る政策として、10年物よりも短い金利をターゲットとしてやってみたらどうかという提言があったと思うのですが、その点についてお願いします。

(答)IMFの提言はいくつかあったわけですが、私どもとしては、2%の「物価安定の目標」は堅持する必要があると思っていますし、できるだけ早期の実現に向けて、引き続き、大胆なといいますか大幅な金融緩和を粘り強く続けていくということに変わりはありません。また、そのもとでの現在のイールドカーブ・コントロール、短期政策金利を-0.1%、そして10年物国債の操作目標ゼロ%程度、ということが適切であると思っています。本日の金融政策決定会合でもそれが維持されたわけですので、ご指摘の、10年物でなくもう少し短めのところをターゲットにするということは考えていません。ただ、将来、そういうことが絶対ないかと言われますと、それは今後の経済・物価・金融情勢によって、金融政策決定会合において決めていくことであると思いますが、今、そういうことをする必要もないし適切でもないと思っています。

(問)総裁は、少し前になるのですが、イールドカーブのフラット化について懸念を表明されていたと思います。それから少し時間が経って、超長期金利も上がってきて、今のイールドカーブの形状についてどういうふうにご覧になっているのか、一部では超長期がフラット化していることについて少し懸念もあるようですが、その点についてもお願いします。

(答)私も、超長期のところはもう少しスティープになってもいいのではないかと思っていますが、私どもの金融政策の操作目標は、当座預金の政策金利残高について-0.1%の政策金利を適用し、10年物国債の操作目標をゼロ%程度にするというもので、そのもとで適切なイールドカーブの形成を期待するとしています。また、必要があればそれぞれの年限の国債の買入れ額について調整を行ってきているわけです。ですから、今のイールドカーブが非常に困るということではないと思いますけれども、私自身は、もう少し超長期のところが上がってもおかしくはないと思っています。

(問)政府の経済対策は、今後の景気・物価にそれなりに良い影響があるということだと思うのですが、今、ほぼ完全雇用に近い状態かつ景気の拡大が続いている中で、日本のように債務残高が大きい国でこうした大規模な財政支出をすることは、財政再建の流れを後退させるのではないかという見方もあると思うのですが、その点についてお願いします。

また、安倍首相のブレーンである浜田宏一内閣官房参与が、弊社のインタビューで、マイナス金利は銀行の経営体質を低下させて、金利が下がり過ぎると却って経済にマイナスに働くという「リバーサル・レート」の発生を招く惧れがあるので、避けるべきであるという発言をされました。かつて日銀の大胆な緩和を支持していた、かつ安倍首相のアドバイザーである浜田氏から、こうした日銀の政策の副作用についての発言が出たことについてのご所見をお願いします。

(答)私自身は、政府の今回の経済対策は、先程申し上げた3つの目的をもって決定されたもので、適切なものだと思っています。一方で政府は、財政の持続可能性を高めるための、いわゆるプライマリーバランスの回復と、政府債務残高対GDP比を次第に引き下げていくという財政再建の目標も堅持しておられます。そうしたもとで必要な経済対策を講じられることには問題はないと思いますし、経済にとってもプラスの影響が出るのではないかと思います。私どもも、イールドカーブ・コントロールという形で大幅な金融緩和を継続していますので、一種の相乗効果で、ポリシーミックスとしてもより大きな効果があるのではないかと期待しています。

次に、浜田先生の発言について、詳細は存じませんが、マイナス金利は金融緩和政策のパッケージの中で行われているわけですし、浜田先生自身も今のマイナス金利をやめろとか、金融緩和をやめて正常化しろといったことをおっしゃっているのではないと思います。私どももマイナス金利に限らず、金融緩和、特に低金利環境が長期化するもとで、金融システムにどのような影響が出るか、あるいは副作用が大きくならないかということは十分注視していますので、私どもの政策を批判されたとは思っていません。

(問)消費税率引き上げの影響についてですが、12月の短観でみたところ、影響は比較的軽微だったのかなとみているのですけれども、総裁の現時点の受け止めを改めてお願いします。

(答)消費税率引き上げ後の消費の動きをみますと、やや大きめに減少していますが、これは台風など自然災害の影響による下押しがかなり影響していると思われます。そういった影響も考慮しつつ、企業からの情報なども踏まえて総合的に判断すると、これまでのところ消費税率引き上げによる需要減は、2014年4月の前回の消費税率引き上げのときほどは大きくはないということに変わりはないと思います。ただ、消費税率引き上げの影響は、消費者マインドや物価の動向などによっても変化し得ますので、個人消費の動向については引き続き注意深くみていきたいと思います。

(問)最近中央銀行の間で出ている議論で、気候変動に関する議論ですが、フランス中銀のヴィルロワ・ド・ガロー総裁が、フランス中銀として気候変動問題にストレステストを実施する方針を打ち出しているかと思います。一方で、欧州中銀、ECBのラガルド総裁から、いわゆるグリーンQE、気候変動の抑制に役立つ債券等について買いオペの対象にするというようなご発言があったりしていると思います。それらの動きについて、総裁としてどうご覧になっておられるのかという点、および、日本銀行として、例えば考査の対象として判断するかどうかという点を含めてお話をお伺いできればと思います。

(答)気候変動の問題、特にそれが実体経済や金融システムに与える影響については、最近、中央銀行や金融規制当局の間で関心が高まっており、国際会議などのテーマとして取り上げられる機会も増えています。また、この関連で、気候変動の金融機関へのリスクについて検討するグループであるNGFSに、最近、日本銀行も参加しました。こういったNGFS等の様々な国際会議への参加を通じて、各国の分析方法や知見を参考にしながら、気候変動リスクについて理解を深めていきたいということです。欧州の中央銀行総裁は、気候変動のリスクについて、ストレステストなど色々なことを幅広く検討していく必要があるとおっしゃっています。その一方で、欧州の中央銀行総裁の中には、中央銀行自体が気候政策と言いますか、気候変動に対する緩和策や適応策を策定するわけではなく、あくまでも政府や議会の役割であるということをおっしゃる方もおられます。そういうことに関心を持つことも必要である一方で、あくまでも中央銀行としては、それが金融機関のリスクにどのような影響を与えるのかをよくみていきたいということであって、気候変動への対応策といったもの自体を中央銀行が検討することではないということは皆さんの共通認識ではないかと思っています。

(問)ETF貸付制度の導入について、財務大臣および金融庁長官への申請が必要だと文章にありますが、既に申請しているのか、大体いつくらいからといった目安は現時点でおありでしょうか。また、改めてこの制度の導入の狙い、効果ですが、流動性向上とありますが、市場参加者を主に念頭に置いていることなのか、あるいは今、現実に行っている金融政策、ETF買入れが非常にやりやすくなるということも含んでいるのか、併せていえば、そのETFの量が拡大していることの出口等もにらんでいるといった要素もあるのか、目的について改めてお聞かせください。

(答)基本的に、ETFの市場については、流動性の低さというものが1つの課題として指摘されてきたわけで、その背景の1つがETFの貸借市場での取引が非常に限定的である、ということです。そのため、金融機関がマーケットメイク機能を発揮しにくいということがあると言われていますので、この際、国債の場合と同様に、日本銀行がこのETF貸付制度を導入すれば、ETFの貸借市場の活性化を通じて金融機関がマーケットメイク機能をより発揮し得るようになり、ETF市場の流動性の向上に資するのではないか、ということです。日本銀行としては、今年4月に、金融政策決定会合において強力な金融緩和の継続に資する諸措置の1つとして、ETF貸付制度の導入を検討することとしました。その後、市場関係者その他と意見交換を行いながら検討を進めてきて、制度の設計が整ったということで、今回導入を決定しました。政府の認可を得る必要がありますので、できるだけ早く認可を得て開始させたいと思っています。

以上