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総裁記者会見要旨 2020年1月21日(火)
午後3時半から約50分

2020年1月22日
日本銀行

(問)本日の決定内容と展望レポートについて、ご説明をお願いします。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを行います。

また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し得るとしています。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きや、金融政策運営の基本的な考え方について説明します。

わが国の景気の現状については、「海外経済の減速や自然災害などの影響から輸出・生産や企業マインド面に弱めの動きがみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している」と判断しました。

やや詳しく申し上げますと、海外経済の減速の動きが続くもとで、輸出は弱めの動きとなっているほか、鉱工業生産は自然災害などの影響もあって、足許では減少しています。企業マインドも、製造業で、はっきりと慎重化しています。一方、企業収益が総じて高水準を維持するなかで、設備投資は増加傾向を続けています。個人消費も、消費税率引き上げなどの影響による振れを伴いつつも、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、緩やかに増加しています。このように、家計・企業の両部門において、引き続き、所得から支出への前向きの循環が働いています。また、住宅投資は横ばい圏内で推移しているほか、公共投資は緩やかに増加しています。この間、労働需給は引き締まった状況が続いています。金融環境については、極めて緩和した状態にあります。

先行きについては、当面、海外経済の減速の影響が残るものの、国内需要への波及は限定的となり、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとみられます。輸出は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が成長率を高めていくもとで、緩やかな増加基調に復していくと考えられます。国内需要は、足許では消費税率引き上げや自然災害などの影響から減少しているものの、極めて緩和的な金融環境や積極的な政府支出などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。今回の成長率の見通しを、従来の見通しと比べますと、政府の経済対策の効果を背景に、2020年度を中心に上振れています。

次に、物価面では、消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。中長期的な予想物価上昇率も横ばい圏内で推移しています。

先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、既往の原油価格の下落の影響などを受けつつも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。今回の物価見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。

ただし、リスクバランスは、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きいほか、物価の見通しについても、経済の下振れリスクに加えて、中長期的な予想物価上昇率の動向の不確実性などから、下振れリスクの方が大きいとみています。

海外経済を巡る下振れリスクは、米中間の通商交渉に進展がみられるなど、ひと頃よりも幾分低下したものの、中東情勢を巡る地政学的リスク等を含め、依然として大きいとみられます。海外経済の動向を中心とした経済の下振れリスクが顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶ可能性があると考えられます。こうしたことから、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについては、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にあると考えています。

なお、展望レポートについては、片岡委員が、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対されました。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じます。

(問)年明け早々、中東情勢が緊迫化しましたが、米国とイランの軍事衝突までには至らないだろうという見方で今は落ち着いていると思います。更に、昨年世界経済を混乱させていた米中貿易摩擦についても、先日第1段階の合意・署名で、市場はリスクオンの方向になっていると思います。総裁はこの二つの問題が世界経済を下押しするリスクについて現時点でどのように評価されているのか、改めてお願いします。

(答)海外経済を巡る下振れリスクは、米中通商交渉あるいは英国のEU離脱問題の進展などによって、ひと頃よりも幾分低下しているということは事実だと思います。こうしたもとで、国際金融市場でも、投資家のリスクセンチメントは改善しており、多くの国で株価や長期金利が上昇しています。

もっとも、米中通商交渉については、両国間になお対立点が残っていますし、第2段階の合意に向けた道筋はまだ不透明であると思います。また、ここへきて中東情勢を巡る地政学的リスクも高まっています。中国を始めとする新興国・資源国経済の動向あるいはグローバルなIT関連財需要の動向などにも引き続き、注意が必要であると思います。従って、先程申し上げた通り、ひと頃よりも幾分低下しているとはいえ、海外経済を巡る下振れリスクは依然として大きいと考えています。

(問)昨年12月、スウェーデンの中央銀行がレポ金利を0.25%引き上げて約5年振りにマイナス金利を解除しました。2%の物価目標に迫ってはいるのですが、まだ安定的に到達しているとはいえない段階で、むしろ家計の債務膨張であったり、マイナス金利政策が長期化するとの認識が広まることで人々の行動様式が変わるのではないかと、そのような副作用への懸念で解除したのではないかと思っています。そこで、今回のスウェーデン中銀の政策判断をどのように評価されるのかということと、日銀は引き続き2%の物価安定を達成するまでは強力な金融緩和を維持するということですが、本当にマイナス金利政策が長期化したときに深刻な副作用はないのか、そして2%にこだわり続けなければならない理由は何なのか、改めてご説明をお願いします。

(答)スウェーデン中銀は先月、政策金利のレポレートを-0.25%からゼロ%に引き上げてマイナス金利をやめたわけですが、その背景として、家計債務が高いことなどから、マイナス金利が恒常化した場合の金融・経済の不安定化リスクに対する警戒感も指摘しています。もっとも、指標を見て頂くと、基本的にはスウェーデン経済は2017年以降、物価上昇率がターゲットである2%に近い水準で推移していますし、経済活動も望ましい状態にあることが背景にある、ということも指摘しています。

このようにスウェーデン中銀を含め、先進国の中銀は2%の物価安定目標を目指して金融政策を行っているわけですが、わが国でも、統計上のバイアス、将来における政策対応力の確保、そして、いわばグローバルなスタンダードになっているということから、長い目でみた為替レートの安定にも資するだろうということで、2%の「物価安定の目標」を設定して、これに向けて金融政策を運営しているわけです。

確かに、低金利が長期化する場合に、金融仲介機能に及ぼす影響など、政策のコストと言いますか副作用に留意は必要ではありますが、現時点では、政策の効果がコストを上回っていると私どもは判断しており、日本銀行としては引き続き、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、強力な金融緩和を推進していく方針です。

(問)今のマイナス金利で、金融仲介機能が損なわれている状況ではないということですが、一方で、低金利で、年金や生保の運用を通して家計にも痛みを強いることになっています。そこもまだ看過できないような状況には至っていないというご認識ということでよろしいでしょうか。

(答)マイナス金利を含めた低金利環境が長期化しますと、利子所得が下押しされることを通じて、家計に一定の影響を及ぼしていることは十分認識していますが、他方で、金融緩和の効果というものは、経済全体に与える影響を踏まえて評価する必要があるとみています。実際にも金利低下が経済活動を刺激して、雇用・所得環境の改善、あるいは資産価格の上昇などを通じて、家計全体にとってもプラスの効果を及ぼしていると考えています。当然、低金利環境が家計に及ぼす影響には注意が必要ですが、やはりマクロ経済の改善を通じてそのメリットが国民全体に及ぶように、金融政策運営面から努めていく、という考え方です。

(問)今回、成長率は上げて物価は下げたということで、これまでですと、需給ギャップが改善すれば物価にもプラスだというご説明をされてきたのとやや齟齬があるようにも感じられるのですが、相当成長率が高くならないと物価は反応しにくくなっている、感応度が薄れている、そういった認識でよろしいのでしょうか。

(答)今回の成長率見通しは2020年度を中心に上振れていますが、その一つの重要な要素は、政府が決めた経済対策の効果ということだと思います。特に、復旧・復興、あるいは防災関連の事業を中心とした公共投資の増加、それから教育関連等の政府消費の増加が挙げられます。更には、インフラの整備、あるいはイノベーションの促進に向けた各種施策などを通じて、設備投資などの民間需要の増加にも寄与します。そうしたことが、緩和的な金融環境と相俟って、景気の拡大基調を維持するために大きな効果を持つと考えていまして、そういう意味で、成長率を上方修正したわけです。確かに成長率の上振れは、需給ギャップの押し上げなどを通じて、物価に対してプラスの影響を与えるということはその通りなのですが、タイムラグや感応度なども考慮しますと、見通し期間中にあらわれる効果はやや小幅にとどまります。他方で、既往の原油価格の下落の影響などもありますので、物価見通しは実際殆ど変わっていません。成長率が上方修正される中で物価の見通しが上方に修正されなかったということは、今申し上げたようなことではないかと思います。

(問)物価の見通しを下方修正したのは、原油安の影響が相当大きいとみていらっしゃるのでしょうか。

また、このままだと総裁の任期中に2%の目標を達成することが難しいのではないかと感じるのですが、そのことについてどうお考えでしょうか。

(答)今回の物価の見通しについては、0.1%ポイントの下方修正ですので、従来から概ね不変と言っていますように、統計上の微小な振れの範囲だと思います。ですから、本格的に物価上昇率が下方修正されたということではないと思っていますが、その中には、既往の原油価格の下落やその他の影響、例えば、自然災害などがあったということです。こうしたことから、物価の基調が変わったとはみていません。展望レポートの見通しにもあるように、需給ギャップがプラスの状況が2021年度まで続き、成長率もむしろやや加速するぐらいの形で、潜在成長率を上回る状況になるということですので、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、徐々に進んでいることは事実だと思います。

2023年の任期の終了時までに2%を達成できるかどうかという点については、任期と絡めて何かどうこう言うつもりはありませんが、私どもは、徐々にではありますが、着実に2%に向けて物価上昇率は高まっていくとみています。

(問)政策委員の見通しをみてみますと、成長率と比較して、今年は消費税のポイント還元制度も6月で終了しますが、弱めの消費と成長率との乖離というのはないのでしょうか。

(答)消費の動向については、消費税率引き上げによって、駆け込みの反動減などの影響があることは認識しています。他方で、最近の状況をみてみますと、非耐久財の消費はもう底堅く推移していますし、耐久財の中でも家電の販売は徐々に持ち直してきています。また、そもそも消費を支える良好な環境は維持されていまして、雇用者所得は実質ベースでみて増加を続けていますし、消費者マインドも持ち直しているようです。また、新年の売り上げなども含めた全体でみますと、消費の減少というのは一時的なものであって、個人消費の増加基調は維持されているとみています。物価上昇についても、基調が変わったとはみていません。2%に向けて徐々に上昇率を高めていくという状況には変わりありませんし、物価上昇に関するモメンタムは維持されているとみています。

(問)中国の新型肺炎の感染が拡大していますが、過去のSARSの例を踏まえまして、世界経済への影響というのはどう考えていらっしゃいますか。また、春節で中国人観光客も日本にたくさん訪れるかと思いますが、日本経済への影響というのも教えてください。

(答)現時点で、予想のようなことを申し上げるのはまだ早いというか、SARSや鳥インフルエンザなどのような非常に深刻な感染症かどうかはまだ分かっていないわけです。また、既に発生源の中国でも対処・対応を進めていますし、日本その他各国とも感染が拡がることがないような様々な予防措置を講じていますので、今の時点でSARSや鳥インフルエンザのような影響があり得るとか、その可能性が高いとはみていませんが、いずれにせよ、よく動向を注視していきたいと思っています。

(問)振り返ってみますと、2019年は7月、9月、10月と総裁の発言も警戒モードがだんだん強くなっていって、いつ追加の緩和に踏み切るのかというような緊張感も高まっていたと思います。今の総裁のスタンス、緩和方向のスタンスというのは、ひと頃と比べると警戒モードに変化はあるのでしょうか。

(答)ひと頃に比べると海外経済の下方リスクというのはやや低下したとは思いますが、水準としてはそんなに低いものではありません。引き続き海外経済その他のリスクを十分に注視して、緩和方向を意識した金融政策をとっていく、リスクには十分注意していくということには変わりがないということです。

(問)今年はオリンピックイヤーですけれども、アナリストの中には五輪後の需要の低迷、落ち込みを懸念する声もあります。総裁は五輪後の景気については、どのような見通しを持っていますか。

(答)最近かなり多くのエコノミストやアナリストも言っていますが、オリンピック・パラリンピック前に色々な施設の建設とか改修といったいわば公共投資がたくさん行われて、全体として人手不足ですから、民間の色々な建設投資がやや先送りになっている面もあると言われています。その分がオリンピックの公共投資が減った部分をむしろカバーしていくのではないかと言われています。あまりオリンピック前後で建設投資が大きく減少するという可能性は薄いと、今は言われており、私もそういうことではないかと思っています。日本銀行の短観ですとか、支店長会議でのミクロの情報も含めて、今申し上げたようなことで、オリンピック前後で大きく建設投資が減少する、景気に大きなマイナスが出るというようなことは考えられないと思います。

(問)海外経済の下振れリスクが幾分低下しているとのことですけれども、今後日銀の見通しに沿って海外経済が持ち直していった場合、現在の緩和方向を意識した政策スタンスとか政策金利のフォワードガイダンス、こういったものが修正されていくと考えてよろしいのかどうかお願いします。

(答)今のこの政策スタンスというのは、あくまでもメインシナリオに沿った展開ということを考えているわけです。リスクが顕在化しないというかどんどん低下していく、経済や物価の持ち直しあるいは経済の成長率がメインシナリオで考えているよりももっと急速に加速していくといったことがあれば、何か見直しということも議論になるかもしれません。しかし、今のところ、私どもの経済・物価の見通しのもとでは現状の金融政策を維持することが適切であり、海外発のリスクが、若干低下したとはいえ依然として色々残っていますので、やはり緩和方向を意識した金融政策というものが当分続いていくということだと思っています。

(問)長期金利についてちょっとお伺いしたいのですけれども、足許で久しぶりにプラス圏に浮上する局面がみられています。投資家需要とか、超長期金利の低下の回避という観点では、長期金利はプラス圏で推移した方がいいのではないかと、そういう声が市場では多いのですが、総裁は適正なイールドカーブとか市場機能とかを踏まえた場合、長期金利はマイナス圏よりも、やはりプラス圏で推移する方が望ましいとお考えなのか、また、超長期金利は引き続きもっと上がった方がいいと今でもお考えなのかどうか、ご所見をお願いします。

(答)現在のイールドカーブ・コントロールのもとで、政策金利は-0.1%、そして10年物国債の操作目標がゼロ%程度ということで金融政策を行っておりますので、ゼロ%程度の中で10年物国債の金利がある程度上下するというのは問題ないと思います。20年、30年、40年という超長期物については、イールドカーブ・コントロールを導入した後、もう少し立っていたのですが、その後だいぶフラット化して、また少しスティープ化してきました。現在でも、超長期の金利はもう少し上がってもおかしくはないと思っていますが、基本的には政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度という中で、適切なイールドカーブが形成されていくのを期待するということに尽きると思います。

(問)国債買入れについてお願いします。去年の国債買入れ額は年間16兆円程度にとどまったかと思います。政策の軸足をYCCに移してから、こういう低下傾向が続いていますが、一方で80兆円めどという目標があるかと思います。この傾向が続くのかどうか、今後の見通しを教えてください。

(答)80兆円というのはあくまでもめどであって、金融調節方針自体はイールドカーブ・コントロールに移行していますので、金融政策の調節の目標は、政策金利と10年物国債の金利に移っています。そのもとで国債の買入れを弾力的に行うということですので、何か80兆円を何がなんでも購入しないといけないということではないのですが、必要があれば80兆円まで買っても全然おかしくないということで、あくまでもこれはめどになっています。現在のイールドカーブ・コントロールのもとでは、国債買入れ額はある意味でいうと内生変数になっていて、政策変数は政策金利と10年物国債の調節目標ということになっていると思います。

(問)最近、先進国の間で低インフレ・低成長・低金利という状況が続く中で、欧米中心にJapanificationという議論が依然続いています。また、政策の枠組みやインフレ目標のあり方についても議論が活発になってきています。日本が長い間、経験してきた低インフレ・低成長という状況にこうした議論が行われていることについて、日銀の総裁としてどのようにご覧になっていますか。また、例えば、グローバルスタンダードが今後、インフレ目標のレンジ化になっていく場合は、日銀の政策判断、インフレ目標達成への政策スタンスにどういう影響を及ぼし得るのかその辺りをお願いします。

(答)確かに日本は1990年代にバブルが崩壊して、90年代の後半から低インフレ・低成長、そして特に2000年代に入って低金利といった状況が続いてきたわけです。そういったことを踏まえて、デフレからの脱却を目指して2013年1月に、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという決定を日本銀行として行い、そして、4月に「量的・質的金融緩和」を導入して、大規模な金融緩和を行ってきたわけです。そうしたもとで、デフレではない状況になっていますし、経済成長も戻ってきています。ただ、まだ2%の「物価安定の目標」は達成されていない段階で、金融政策としては、低金利によって経済の成長拡大を刺激するという観点から、低い金利を維持しているということです。

日本の経験からいえることは、低インフレとかデフレが長引くと、そこから抜け出すのがなかなか容易ではない――よくデフレマインドといわれますけれども――、やはり賃金・物価が上がりにくいということを前提とした慣行が家計や企業に残っていることが、わが国の場合、なかなか2%に達していないことの一つの理由だと思います。そういうことからいうと、他の国でも、低インフレ・デフレが続くと、なかなかそこからの脱却が難しくなるということです。そうならないように、機動的に財政・金融政策を運営することが重要だと思います。

また、そもそもわが国の場合に、そういうことに陥った一つの大きな理由が、バブルが巨大なものになって、それが崩壊して、その後の金融危機によって経済の落ち込みやデフレがもたらされたということですので、金融が行き過ぎた振幅をもたらすことは、やはり経済の安定性にも望ましくないということです。この点、日本銀行はその教訓を踏まえて、金融機関のモニタリングや金融システムレポートで、資産市場とか金融機関の行動をかなりきめ細かく把握・分析しているほか、金融政策の運営でも、金融面での不均衡が発生するリスクがないかということを常に点検しています。諸外国はそういう私どもの教訓もしっかりと理解しているのではないかと思います。

最後に、低インフレ・低成長というときに、単に金融政策あるいは財政政策で需要をつけるというだけでなく、やはり成長力というか潜在成長率を引き上げ、それによって自然利子率も引き上げることが、長期的にみて、こういった状況の回避や脱却のための一つの重要なファクターだと思います。Japanificationと称して、議論されていることは色々なことがあると思いますけれども、今申し上げた三点はかなり理解されているのではないかと思います。

(問)金融政策の世界的な状況と資産価格についてです。アメリカの株価が過去最高値圏で推移しています。日経平均株価は、今日は下がっていますが、昨年来の高値圏となっています。人によっては、企業収益が今一つ伸び悩んでいる中での株価の状況ということなので、そこに心配はないか、バブル的な要素がないかという危惧もなくはないと思うのですが、この点についてどのようにお考えでしょうか。

(答)少なくともわが国の株価については、企業収益の増加に応じて上がってきた面が非常に大きいわけですので、そういった面からは特に心配はしていませんが、いずれにせよ資産市場の動向については今後とも行き過ぎではないかどうか注視していくということだと思います。外国の株価については、コメントするのはあまり適切ではないと思いますので、差し控えます。

(問)金融政策の枠組みの見直しの議論について、アメリカのFRBは、6月までですかね、枠組みの見直し――インフレ目標とか政策手段とか、あるいはコミュニケーションについて――を何かまとめるというように言っているようです。それからECBも、今年1年かけて着手するということです。こういった海外の主要な中銀の動きがどのようにみえるか、そして日銀もこういうことが必要になってくるのか教えてください。

(答)ご指摘のようなことが今議論になっていることは事実ですが、金融政策の議論というのは、それぞれの国の経済・物価・金融情勢に応じて行われるわけです。米国の場合は、何といっても先進国の中で一番進んでいるわけでして、経済の成長も好調ですし、物価上昇率も個人消費デフレーターでみるとまだ2%に達していませんが、消費者物価指数は2%に達していますし、賃金も3%以上上昇しています。そういった、いわば正常化が進んだ中で今後の金融政策の枠組みを議論しようということであろうと思います。ECBの場合はまだそこまで行っていないとは思いますが、様々な国々を抱えているユーロ圏ですので、色々な議論をしようということだと思います。残念ながら、わが国の場合は、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率が0.6%といった段階で、2%にはまだ遠いわけです。実体経済の状況は適切な成長が続いているほか、雇用情勢も極めてタイトになっているわけですけれども、それに比べると若干賃金の上昇が弱く、物価はまだ0.6%くらいということですので、今の段階で金融政策の枠組みを変更するための見直しを行うのは、時期尚早ではないかと思っています。

(問)ちょうど4年前の2016年1月末、今頃マイナス金利の導入を決められて、来月の半ばで丸4年ということになると思うのですが、総裁は先程、政策の効果がコストを上回っていると考えられているとおっしゃいました。このいわゆるコスト、副作用について、金融機関の収益の悪化とか――日本ではそれが今メインで言われているかと思うのですが――、今副作用と言った場合、総裁として気に掛けられているポイントを教えてください。どういう副作用が実際みられていて、金融の仲介機能とよくおっしゃっていますが、損なわれていないというのはどういう事態を言うのか、ちょっと詳しくご説明頂けますでしょうか。

(答)これは、政策委員会でも金融システムレポートなどでも指摘していますが、一方で低金利が長く続いた場合に金融面で行き過ぎが起こらないか、資産価格が行き過ぎた上昇を示すとか、特定のセクターへ資金が集中し過ぎるとか、行き過ぎがないかという面があります。他方で、金利が低い状況で利鞘も縮小することを通じて、金融機関の収益がだんだん低下していき、その結果赤字になる金融機関も出てきて、資本を蚕食するということになってくると、貸出その他金融仲介機能が損なわれる惧れがあります。ですから、行き過ぎになる可能性と、仲介機能が損なわれて貸出が減ってしまうといった状況ということだと思うのですが、金融システムレポートでも半年毎に示しております通り、金融の行き過ぎというのは見当たりません。他方で、金融仲介機能はどうかというと、金融機関の貸出は2%程度で推移しており、これは「量的・質的金融緩和」導入前のように、デフレの中で金融仲介機能が十分発揮されていなかったというときと比べますと、ある意味で順調に金融機関の貸出は伸びているということで、金融仲介機能が今の時点で損なわれるような状態にはなっていないと思います。従って、金融緩和が長く続いたときの金融システムに対する影響という意味での副作用という点では、今のところ大きな副作用が起こっているようには考えていません。それはマイナス金利も含めてそのように考えています。ただ、別にスウェーデンのことをどうこう言うわけではありませんが、スウェーデンはかなり長く-0.5%のマイナス金利をかけていて、それを半分の-0.25%にして、今回ゼロにしたわけですが、わが国の場合は-0.1%のマイナス金利を日銀当座預金のごく一部にかけているわけでして、金融機関の収益に対して直接的に非常に大きなマイナスにならないように注意しながら運営しているということです。

(問)総裁の会見への姿勢についてお伺いしたいと思います。現在のように金融政策決定会合が年14回開催から8回になったのは、2016年からです。それを発表したのは2015年6月19日の総裁の記者会見ですが、そのときに、1998年に施行された新日銀法では、日銀の政策の透明性や情報公開の徹底を図るという狙いになったのに、それに対して後退しているのではないかという質問が出ました。それに対して、総裁がこうお答えになっています。説明責任という意味では、一層高度なものになる、と。あらゆる面で透明性、情報発信については充実したものになる。あるいは対話や情報発信が少なくなったり、内容が薄くなるということは全くない、と総裁ご自身がおっしゃっています。しかし、最近日銀の総裁会見は45分、次の日程を総裁が入れられて45分で終わろうとしている、まだ記者の手が挙がっているのに会見を打ち切る、これは明らかに後退ではないかと思うのですが、その点いかがでしょうか。

(答)そういうふうには全く考えていません。

以上