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総裁記者会見要旨 2020年3月16日(月)
午後4時から約65分

2020年3月17日
日本銀行

(問)日程を前倒しして本日開催となりました、金融政策決定会合の決定内容につきましてご説明をお願いします。

(答)日本銀行は、本日の決定会合におきまして、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、金融緩和の強化を決定しました。具体的には、第一に、当面、積極的な国債買入れなどにより円資金の一層潤沢な供給に努めるほか、6中銀で協調して、米ドル資金の流動性供給にも万全を期す方針です。第二に、企業金融を支援するために、新たなオペを導入したほか、CP・社債等に追加買入れ枠を合計2兆円設け、それぞれ約3.2兆円、約4.2兆円の残高を上限に買入れを実施することとしました。更に、第三に、ETF、J-REITの資産買入れを、当面、これまでの約2倍のペース、すなわち、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行うこととしました。これらの措置は全員一致で決定しました。

今回の決定の背景ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響により、世界経済の不透明感が高まり、内外金融資本市場では不安定な動きが続いています。こうしたもとで、わが国の景気は、このところ弱い動きとなっています。金融環境も中小企業の資金繰りなど企業金融の一部で緩和度合いが低下しています。こうした情勢を踏まえ、企業金融の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持し、企業や家計のコンフィデンス悪化を防止する観点から、今回の措置を決定したものです。

なお、本日の決定会合では、長短金利操作のもとでの金融市場調節については、これまでの方針を維持することを賛成多数で決定しました。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。

日本銀行としては、本日の金融緩和措置が、新型コロナウイルス感染症拡大への政府の各種対策や各国の政府・中央銀行による様々な対応と相俟って、金融経済活動の下支えに貢献するものと考えています。

(問)新型コロナウイルスの感染拡大が経済に影響を及ぼす期間についてお伺いします。先行きについて弱い動きが続くとみられ、感染拡大の影響が和らげば、緩やかな拡大基調に復していくという見通しになっていますが、コロナウイルスの感染拡大の影響は一過性の短期的なものであるとみているのか、ハードデータは少ないと思いますが、一定程度の期間、日本経済に下押し圧力をもたらし得るものなのか、今の総裁の見解をお願いします。

(答)新型コロナウイルス感染症の拡大によって、わが国経済では、インバウンド需要や輸出・生産、個人消費などに影響がみられています。入国者数は、中国人訪日客を中心に大きく減少しているほか、輸出も中国向けを主因に減少しています。また、イベントや外出の自粛などに伴い、サービスを中心に消費活動が大きく落ち込んでいます。このため、今回の会合では、景気の現状について、「このところ弱い動きとなっている」というように判断を引き下げました。

感染が時間差で世界中に拡がっていることもあり、その影響は、今後も当面続くと予想しています。もっとも、感染拡大自体は、各国政府の対策の効果等もあって、いずれは収束すると考えられます。収束することに伴って、抑制されていた需要や各種経済対策の効果も現れてくることが見込まれ、そうしたもと、先行き、わが国経済は、緩やかな拡大基調に復していくと考えられます。

もちろん、新型コロナウイルス感染症の拡大の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさ、あるいは期間については、不確実性が大きいため、今後の内外経済の動向には十分注意していく必要があると考えています。

(問)本日、新日銀法のもとでは、日程を初めて前倒しをして決定会合を実施されました。前倒しをして開催した狙いについてお伺いします。今月3日にはFRB、あるいはその後、イングランド銀行、ECBが相次いで政策対応に乗り出しています。国内でも、日本政府が第一弾、第二弾と緊急の対応策をまとめています。日銀が日程を前倒しして実施したというのは、各国中銀あるいは政府と足並みを揃える協調の意味が強いのか、それとも、水曜日、木曜日の通常会合の日程を待っていられない、それくらい切迫した市場の動揺等々があるからと判断したのか、どのような理由からでしょうか。

(答)新型コロナウイルス感染症が今や世界中に拡大し、世界経済の不透明感が急速に高まっている中で、内外金融資本市場では不安定な動きが続いています。こうした状況を踏まえて、日本銀行としては、新型コロナウイルス感染症の拡大が、わが国の経済・金融情勢に与える影響を点検したうえで、本年度末を含めて、企業金融の円滑確保と金融市場の安定維持に万全を期すために、金融政策面から必要な措置を早急に検討して実施していくことが必要と判断しました。こうした対応は、国民心理の安定や金融市場の安定を確保するうえでも重要であると思います。このように考えたうえで、18日、19日の予定を前倒しして、本日の1日間に変更して行ったということです。

もとより、それぞれの国の金融政策というのは、それぞれの国の経済・金融情勢に応じて行っているわけですが、他方で、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大して、世界経済あるいは国際金融資本市場全体に影響を及ぼしています。こうしたもとで、各国の政府・中央銀行は、様々な対応を行っておりますし、またその中で、例えばG7財務大臣・中央銀行総裁会議の声明などにもあるように、協調・協力を進めていくということです。今回の対応も、そういった世界的なといいますか、主要国の協調の枠組みの中で行われたということです。

(問)ETFの買入れを6兆円から12兆円に倍増されたということですが、一方で6兆円の原則は維持しているという、この背景を教えてください。

また、今朝のFRBの緊急利下げもそうですし、各国が金利を引き下げて、このコロナに対応しようとしている中で、ECB然り、今回の日銀もそうですが、利下げではなくて、資金供給で対応したということです。これはマイナス圏に既に政策金利がある国とそうでない国とでは、適切な対応が異なるという意味なのか、マイナスを回避というか、今回選ばれなかった理由を教えてください。

(答)ETFについては、特に金融資本市場が不安定な動きをしており、リスクテイクの考え方が非常に弱くなってリスク回避的になっていますので、それを防ぐためにETFの買入れを倍増のペースで行っていくということです。これは、リスク・プレミアムに対して、これまでの倍の大きさ・スピードで働きかけを行っていくということです。

また、金利については、それぞれの国の様々な事情があると思いますが、現在のわが国の政策金利は-0.1%で、これは政策金利残高に-0.1%の金利を適用するということです。基礎残高には引き続き+0.1%の金利を払っていますし、状況に応じて拡大しているマクロ加算残高にはゼロ%を適用しています。従って、今-0.1%を政策金利残高にかけているので、これはもう限界でこれ以上はできないということはないと思います。更にマイナス金利の深掘りなり何なりを行うことは可能だと思いますので、必要があればそれを行います。ただ、今必要なのは企業金融、特に中小企業の企業金融について万全を期すことと、マーケットが不安定化してリスクテイクの考え方が非常に弱まっている中で、リスク・プレミアムに働きかけてそうならないようにすることです。また、従来から行っており今も更に行っている流動性の潤沢な供給を行うことです。これは、短期の資金供給に加え、国債買入れは長期・超長期まで80兆円をめどにということになっていますので、まだまだ必要に応じていくらでも国債の購入を増やすこともできます。円とドルの流動性、それから企業金融の円滑な遂行に万全を期すこと、また、市場の不安定化あるいはリスク・プレミアムの拡大を防いでリスクテイクを促進するという三つの面の対応が、今の日本の経済・金融にとって最も効果的かつ重要であると考えて実施したということです。

(問)今回前倒しした狙いについて総裁からお話がありましたが、マーケットの反応をみると、例えば今日も株が400円超落ちています。2日待たずに前倒しして実施した効果があるのかというところについての総裁のお考えをお聞かせください。

また、今回のコロナウイルスの話は、リーマンショックとは違って金融の話ではないということは散々言われていると思うのですが、金融政策を打つことによって何がしかの影響を食い止める効果があると総裁はお考えでしょうか。

(答)各国の中央銀行でも、様々な努力、工夫を凝らしており、金融政策決定会合を緊急招集してやっているところもありますし、そうでないところもあります。また、行っている手段や方法もそれぞれ違っているわけです。ただ、新型コロナウイルス感染症の拡大自体は一時的だとしても、またリーマンショックのように金融のバブルが崩壊して金融機関自体が非常に大きく傷むという状況とは違うとしても、一時的にせよ需要が減少し、あるいは生産が減少するということがあれば、企業の資金繰りやマーケットの機能の面で問題が出てきますので、それにできるだけ早期に必要かつ十分な対応をするということをいずれの中央銀行も行っていますし、日本銀行も行ったということです。

リーマンショックと違うというのはその通りで、リーマンショックは、あくまでも金融のバブルが崩壊して、特に欧米の金融機関が危機的な状況になったということです。今回は、新型コロナウイルス感染症が中国から世界に拡がっていき、それが消費需要や生産に大きな影響を与えています。それは、確かにそれぞれの地域では一時的かもしれませんが、生産や消費の減退を通じて企業や金融機関に影響を与え得るわけですので、そういうことがないように最大限の努力を中央銀行としてするということです。他方、もちろん政府は、新型コロナウイルス感染症をできるだけ早期に収束させるということと、様々な財政措置で経済の落ち込みを防ぐということもあろうと思います。ただ、中央銀行には中央銀行としての役割があり、新型コロナウイルス感染症の拡大による経済の影響を最小限にする、という効果はあると思っています。

(問)現状のアメリカのマーケットをみると、ダウの下落率はリーマンを上回る下落率になっていますが、今後、世界経済全体が景気後退に陥る可能性をどのように考えていらっしゃいますか。

また、マイナス金利の引き下げを今回見送ったわけですが、金融機関の資金繰り支援を強化してもらわなければいけない中で、マイナス金利の引き下げは金融機関の収益を悪化させるという副作用をかなり意識されたのでしょうか。

(答)基本的には、それぞれの国、中国や中国以外のアジアや欧米などの色々な国で、新型コロナウイルス感染症の拡大はいずれ収束していくと思いますが、その時期がずれています。それぞれの地域では、感染が収束すれば回復はかなり急速だろうということはみんな言っているわけです。これは、例えば地震や津波、洪水などによって、生産設備やインフラが破壊されるとか、そこに住んでいた人が離れてしまうということではなく、設備もあるし人もいるからです。ただ、新型コロナウイルス感染症を収束させるために、集会の抑制とか様々なことが行われるので、需要や生産が一時的に急速に減少するということが起こっています。従って、それぞれの経済にとっては、新型コロナウイルス感染症が収束する方向になれば経済も回復していくと思いますが、世界経済全体として回復がどういうテンポになるかは、今後IMFやOECDが新たな見通しを出されると思いますが、V字型の回復になるということはなかなか言い難く、一定期間、低成長が続く惧れがあります。ただ、それがリーマンショックのときのような非常に大きな実体経済の落ち込みになるかといわれると、現時点では、そのようには誰もみていないと思います。それは、危機の性格や性質が違うということもあると思います。新型コロナウイルス感染症の拡大が各地域でどういうテンポで収束していくのか、中国は既に収束に入っており生産も戻ってきているわけですが、まだその他地域、特に欧米などは、今が一番感染者が拡大している時期です。ですからその意味で、地域毎のずれというものを考えていかなければならないと思います。

それから、もちろんマイナス金利を深掘りした場合に直接的に金融機関の利鞘を圧縮するのではないか、という懸念があることは事実ですが、他方で、それによって経済が下支えされる、あるいはプラスになれば、金融機関にとっても、必ずしも収益のマイナス要因ではないと思います。ただ、今の時点で何が必要かというと、やはり企業金融の円滑を万全の措置をもって確保するということと、金融資本市場の不安定に対応してリスク・プレミアム等に働きかけるということが一番重要と考えたということです。

(問)世界経済の先行きが日本経済の見通しにも当てはまるというのはよく分かるのですが、総裁は国会でも1から3月は相当厳しくなるだろうというようなことに言及されていました。では日本経済がいつ回復に向かっていくのかというのを、総裁は現時点でどのようにみていらっしゃるのでしょうか。

加えて物価の見通しなのですが、経済・景気・物価に大きな影響を与える賃金や設備投資、春闘や設備投資計画を作る時期とこのコロナが重なっていますが、この辺りの影響をどのようにみられているのでしょうか。

(答)日本経済についてみますと、一つは、日本にとって最大の輸出先の一つである中国で、新型コロナウイルスの感染が収束に向かっています。新規の感染者は一桁だったり、退院してくる方がものすごく多いわけで、かなり収束に向かっていますし、生産も戻ってきています。ですから、多くの人が述べているように、第1四半期の中国の成長率は非常に落ちていると思いますが、第2四半期にはフルに回復していてもおかしくないと思います。日本にとって最大の輸出市場である中国が、あるいは中国から様々な部品等を輸入していますのでサプライチェーンに関する問題も、かなり改善される可能性はあると思います。もう一つは、日本自身の新型コロナウイルス感染症の収束がいつになるかということにかかっています。今、政府は最大の努力をして感染の拡大を防ぐとともに、感染者の医療にも最大の努力をしておられると思いますが、いつどんな形で収束するかは、まだ不確実という状況だと思います。収束に向かえば、需要や供給面でも回復に向かっていくというように思っています。

物価、賃金などにつきましては、賃金は、これまでのところ――最終的な集計はできていないようですが――一応7年連続のベアは基本的には続いているようですし、ベアをしない企業でもボーナスなどその他の手当てで対応するということで、賃金総額はプラスとなる見込みのようです。物価については、一番大きいのは、消費が今低迷しているということもありますが、その先を考えると、原油価格が大幅に下がっていることが、下押し圧力となってくる可能性があると思っています。マイナスになることはないと思っており、新型コロナウイルス感染症の収束により消費が戻ってきて、物価が再び上昇に向かっていく傾向はあると思いますが、そこに今のような原油価格の大幅な下落があると、足許の物価やインフレ予想に影響を与える可能性もありますので、その辺はよく注意してみていく必要があると思っています。

(問)ETFの買入れについて、「当面」積極的に12兆円を上限として買っていくとありますが、ただし書きのところに「原則的な買入れ方針としては」と書いてあります。要するに、コロナのリスク・プレミアムが高い状況であれば12兆円を上限に買っていくけれども、それが終わると今までのようなペースに戻っていくという理解でよろしいでしょうか。

(答)そういうことですが、ただ、「当面」といっても、どのくらいなのか私どもも分かっているわけではないので、まさに「当面」、必要がある限り12兆円ペースで買っていくということです。

(問)総裁はこれまでも副作用については注意深く注視していくということに再三言及されてきていますが、ETFを12兆円にして、これがどのくらい続くか分からないですが、この間国会でも19,500円とか副作用を懸念する声がありました。増やしたことに伴う副作用について、どのようにお考えになっているのでしょうか。

(答)ETFの買入れ自体は、リスク・プレミアムに働きかけるということですので、特定の株価水準を前提にして買っているわけではなく、あくまでもリスク・プレミアムの圧縮に向けて必要な限り12兆円ペースで当面買っていくということです。それが日本銀行の財務にどのような影響を与えるかということは、日本銀行の財務については全体としてみていかなければいけませんので、特定のこれだけをみて云々してもあまり意味がないのではないかと思っています。

(問)先程から収束までどのくらい時間がかかるのか分からないというのが大きな問題点だという話がありますが、これが長期化してより状況が悪化した場合、次の一手として日銀はどういったことを考えているのでしょうか。

(答)今具体的に何か申し上げることは難しいと思いますが、初めに新型コロナウイルス感染症が非常に大きく拡大した中国、それからその次の韓国をみますと、中国は収束に完全に向かっていますし、韓国も今や新たな感染者より治っていく人の方が多いという状況になっています。わが国も、全く同じ状況ではないと思いますが、そうしたテンポで収束に向かっていく、あるいはそうなるように、政府として様々な措置を講じているということだと思います。ただ、その他の国、特に欧米は、今一番感染者が加速度的に増えているところですので、世界的にみたときに、どの程度の期間で完全に収束するかというのは、なかなか予測しがたいところがあると思います。しかし、それぞれの国、地域については、一番激しく増加した中国、あるいは急速に増えた韓国などをみても、一定の期間が経つと収束に向かうということではないかと思います。ですから、日本にとって、ものすごく長期化した際にどうなるかというのは、そのようには現下では考えていませんが、いずれにせよ、新型コロナウイルス感染症にせよ何にせよ、経済・物価に対して下押し圧力が出てきた場合には、当然、それに対抗するための追加的な金融緩和措置を考えていくということになると思います。

(問)先程、リーマンショックのときとは違うというお話もありましたが、影響が長引いてきたときに世界的な金融システムがぐらつくという可能性は本当にないのかどうか、その可能性をどれくらいみていらっしゃるのか教えてください。

(答)リーマンショックは、そもそも金融の行き過ぎといいますか、バブルが金融システムの中に発生し、それが大規模に崩壊して、特に欧米の大手の金融機関の破綻が相次ぐといったような状況になったので、そうした金融機関を立て直して金融仲介機能を適正に果たしていくために、いわばリハビリテーションといいますか立て直すために、相当な期間がかかったわけです。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、そうしたものとは全く違った形で、経済・金融に対するショックが起きています。ただ、やはり企業や金融機関の資金繰りに影響が出る可能性はありますし、特に経済の先行きに対する不透明感が強いと金融資本市場の動きが非常に不安定になることも事実です。この辺りは、ある意味で共通している面もあるということだと思います。従って、日本銀行としては、国債買入れやドルオペを含む一層潤沢な資金供給を実施すること、新たなオペレーションの導入も含めた企業金融支援のための措置を図ること、それからETF、J-REITの積極的な買入れによってリスク・プレミアムに働きかけること、という三つの形で、金融緩和を強化することが適切だと考えました。

(問)なぜ前倒し会合の招集をしたのが今朝だったのでしょうか。先程、市場の不安定さが強まっているとおっしゃっていましたが、株価の下落というのは2月の下旬からずっと始まっていましたし、企業の資金繰り支援についても政府が無利子・無担保の融資制度を決めるなど、先週以前から分かっていたことだと思います。にもかかわらず、なぜ、今朝にやろうと思われたのか、その判断を教えてください。

(答)一つは、新型コロナウイルス感染症が世界的に急速に拡がっていることによる不透明性から来る市場の不安定性の増大です。また、企業金融についても様々なチャネルから様々な話を伺っていますが、特に中小企業を中心に企業金融が引き締まってきていると判断し、通常の予定されている金融政策決定会合を待つことなく、前倒しして本日行うことを決めたわけです。

(問)今日、シカゴのダウ平均の先物がストップ安になっております。日経平均も400円ぐらい下がっていますが、金融政策で本当にマーケットの下落というのは支えられるのでしょうか。巷間、もう財政政策頼みでないと無理なのではないかというような声もありますけれども、その点についてもう一度総裁のご見解をお願いします。

(答)それは様々な議論があると思います。新型コロナウイルス感染症の拡大の問題については、まずは感染拡大を防止して収束に向かわせなければなりませんが、これは政府の役割です。また、それによって生産が行われず、賃金が支払われない、あるいは消費が出てこないなど、様々なことに対応して政府が所得補償をするといったことなども、財政の役割です。ただ、そういった中でも、金融政策の役割もやはりあるわけです。特に日本の場合、企業金融について円滑を確保するための万全の措置をとることや、不透明性から生じる金融資本市場の不安定さを鎮めることといった面では、私は金融政策は一定の効果を持ち得ると思っています。

(問)前倒し会合の件ですが、パウエル議長は12日に、昨日の日曜日の臨時会合を決めた、という話がありますが、総裁が前倒し会合を決められたのは今朝の話になるのか、それとももう少し以前になるのか教えてください。

(答)今朝、前倒し会合をしますと公表しましたが、政府の出席者の方にも出て頂かなければなりませんし、何より政策委員全員が出席できるようにしなければなりませんので、当然そういう方々に通知すると同時に公表したということです。FRBは日曜日に開催することについて事前に公表していませんので、おそらく、いつ決めたのですかと聞かれたのだと思いますが、私どもは、こういう形で開催するときは事前に公表しますので、前倒しが決まったのは本日ということになるかと思います。

(問)リーマンと違うということが先程から何度かありますが、アメリカの金融機関がドルの調達で結構スプレッドが拡がってきているという話があります。リーマンのときも200bpsくらいスプレッドが拡がりましたが、足許、50bpsくらいということでドル調達が難しくなってきているという話がありますが、この辺りから金融機関の信用不安みたいなものにつながっていくリスクはないのでしょうか。

(答)ドル調達プレミアムの上昇がみられることは事実ですが、日本の金融機関については、かなり前広にドル資金の手当てをしているようであり、ドルオペの入札希望も出てこなかったわけです。ただ、全体としてリスク回避的であり、リスク資産からリスクのない資産――典型的には国債などですが、更に一部は現金――にシフトしている面もあるようです。国際的な取引の面では、ドルが圧倒的に使われていますので、世界各国の企業などがドルの手当てを早くしようとすると、ドルの需給がひっ迫する惧れもあります。リーマンショックのときは、欧米、特に米国の金融機関が大変なダメージを受けて、ドル資金をそれまでのように潤沢にマーケットに供給できなくなりました。今回は、むしろ企業や投資家がリスク資産からリスクのない資産、更には一部、現金にシフトしているといわれていますので、そうした状況に対応するために、日本銀行としても、円の流動性を潤沢に供給し、また、6中銀スワップを活用して、必要に応じて日本の企業なり金融機関なりにドルの流動性を潤沢に供給できるようにしたということです。

(問)本日金融政策決定会合を開いて、声明文を公表したにもかかわらず、実際に日経平均株価は400円ぐらい下がっていますが、この市場の反応についてどのようにみていらっしゃるのか教えて頂けますか。

(答)マーケットのことはマーケットに聞けというくらいで、あまり私からは申し上げるのはいかがかと思いますが、私はこういった形で、円もドルも潤沢に流動性を供給する、また企業金融が円滑に進むように万全を期す、そしてマーケットで若干リスクセンチメントが低下してリスク・プレミアムが拡大しようとしているところに働きかける、ということは、非常に効果があると思いますので、本日云々ということであまり悲観する必要はないと思っています。

(問)今朝にかけて、各国中銀によるドルオペの拡充やFRBの追加の緊急利下げ、日銀としても前倒し会合と、セントラルバンカーの皆さんにとっては忙しい週末であったと思いますが、黒田総裁はどのようにこの週末を過ごされたのでしょうか。例えば中銀総裁との連絡を密にされていたとか、今日の決定についても思慮されていたとか、可能な限りで教えてください。

(答)内部での打合せとか色々あり得たということはそうなのですが、基本的に最近あまり土日に外を出歩かないようにしていますので、床屋に行って、それから本屋で本をたくさん買ってきて、家で読んでいました。仕事については当然、色々な打合せというものが電話でもパソコンでもできますので、それは自宅にいてもできるということだと思います。

(問)本日決めた企業金融支援特別オペとCPの買入れなどは時限措置である一方で、ETFは「当面」となっています。先程総裁は日本の最大の輸出先である中国が収束に向かっているとおっしゃっていましたが、見方によっては、金融市場の不安定さよりも、時限で決めた今年の9月くらいには企業の資金繰りがだいぶ改善するのではないかとみえるのですが、この時限措置とそうでないものとを分けた理由も含めてご説明して頂けますでしょうか。

(答)ETF、J-REITについては、「当面」としていますが、その「当面」がどれくらいの期間かというのはマーケット次第であり、そこは必要な限り12兆円ペースで買い入れていくということに尽きると思います。他方、資金繰り支援については、新型コロナウイルス感染症の収束がいつ頃になるのかまだ分かりませんが、中国や韓国の状況をみていると、ものすごく長いということではなく、一定の期間で収束に向かうと思われます。ただ、その場合でも企業金融に対するプレッシャーは少し続く可能性もありますので、半年、6か月間は実施し、もし更に必要があれば当然延長もできると思います。延長もできますが、6か月は実施しますということに尽きると思います。

(問)今このままの状態を放置すればリーマンショック並みの危機が起こる可能性があったのか、そうではなくて、そういう危機は近くはないのだけれども、そういった状況を招かないために先手を打つ形での今回の措置なのか、そこについての総裁のお考えを教えてください。

(答)リーマンショックと性質が違うということがまず第一です。リーマンショックは、大規模な金融バブルが崩壊し、特に欧米の金融機関に大きなショックが及び、破綻の危機といいますか、実際に破綻した金融機関もたくさんあったわけです。欧米、特に米国の金融機関は、世界の経済取引に重要な影響を及ぼしますので、大変な影響が及んだわけです。今回の場合は、それと相当性質は違うのですが、新型コロナウイルス感染症の拡大が、中国から始まり、アジア、欧米とだんだん時期をずらしながら続いているため、それぞれの地域が収束次第回復するとしても、世界経済全体としては、一定期間下押し圧力が続き得るわけです。また、こうした中で、特に中小企業やサービス業などが大きな影響を受け、金融的にも問題をはらんでいくことは十分あり得るわけです。リーマンショックのような形の場合は、ショックといいますか、影響がどうしても基本的に長く続くのですが、今回は、それぞれの地域の新型コロナウイルス感染症の拡大自体は一定期間で収まっていったとしても、それが各地域に伝播していて、それから企業の資金繰りなどに対する影響は若干残りますので、相当注意して対応していく必要があり、できるだけ早期に必要にして十分な金融措置を講ずる必要があるということだと思います。

(問)現時点で、日銀としては、今必要な策は全て打ったという認識でしょうか。それとも、今後経済活動が停滞する期間が延びるなど、更に状況が悪化した場合に、また追加で対応することもあるのでしょうか。

(答)もちろん、現時点で必要にして十分な措置はとったつもりですが、そもそも感染の拡大テンポや、それがいつどのように収束するかには様々な不確実性があります。それはわが国だけではなく、今急速に感染が拡大している欧米の状況がどうなるのかということもあります。様々な不確実性があるということですので、当然、経済・物価に更なる下押し圧力が出てくることになれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置をとるということだと思います。

(問)為替についてお伺いします。これまでのショックとは少し違って、円高があまり進んでいないように思いますが、その理由について総裁はどのように考えていらっしゃいますか。

(答)為替については、私も昔財務省におりましたときに、為替政策の担当を長いことやりましたが、何を言ってもなかなか当たらないわけです。為替政策自体の権限と責任は財務省にありますので、私から何か申し上げることは僭越ですが、為替はやはりファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要です。大きく変動すると、企業としては収益計算上非常に不確実で困りますので、やはり為替レートというのはファンダメンタルズを反映したレベルで安定的に推移してほしいと期待しています。日本銀行は、為替政策を担当していませんし、為替の安定を図らなくてはいけないわけでもないのですが、仮に大幅な円高になりますと、それは当然経済や物価、金融市場に大きな影響を与えますので、そうなったときには、それなりに対応しないといけないということだと思います。為替自体については、やはり財務省にお任せするということです。

(問)ETFについて、今回上限が12兆円ということで、これまでの2倍、金額を明示されたわけです。18年7月だったかと思いますが、既に買入れについては弾力的にということを方針として示しているわけなので、あえて金額を明示したことの意味合い、つまり弾力的にという中でも増額が可能だったと思うので、その金額を明示したことの意味合いを改めて教えて頂けますか。

(答)弾力的にですから、6兆円の上に行ったり下に行ったり、マーケットの状況に応じてということではありますが、今回は6兆円ペースを倍増して2倍のペースで買い入れていくということで、それも当面、つまりマーケットのリスク・プレミアムに働きかける必要性がある限り行っていくということですので、リスク・プレミアムに働きかけるという意味でのかなり大きな金融緩和策だと思っています。

(問)ETFに関連して、先程、弊害などのお話の中で含み損の話が出ていましたが、もう一つ別の観点で、ガバナンスを歪めていないか、あるいはETFの市場の中で日銀の持っている保有額が大きくなり過ぎないかと、これはかねて指摘されていましたし、あるいは現状ではそこまでの規模ではないだろうというお話も伺っています。ただ規模が増えてくることで、改めてこういう問題も意識されるということではないでしょうか。

(答)その点については、もちろん、どんどん規模が大きくなっていったらどうなのか、ということはあり得るとは思いますが、時価総額でいえば東京の市場の5、6%というところですので、マーケットの株価水準に具体的に影響を与えようという話ではなく、あくまでもリスク・プレミアムに働きかけて株式市場が十全の機能を果たすようにするということです。ETFについては、当然ですが、管理している投資信託委託会社が適切な株主権の行使をしていますので、それ自身として企業のガバナンスにマイナスの影響が出るということではないと思います。もしそういうことを言われれば、日本銀行が買おうと買うまいとETFのようなファンドは良くない、という話になってきます。欧米ではこうしたファンドはものすごく大規模になっていますが、だからといって、コーポレートガバナンスにマイナスの影響が出ているという議論はあまり聞かれません。

(問)地方経済についてお伺いします。地方経済、中小企業や零細企業へのインパクトについて、現状の分析とどういった懸念があるかを教えてください。

(答)この点は現在でも様々なヒアリングなどをしていますし、次の支店長会議では一番大きなイシューになると思います。色々な統計などをみても、一番はっきりダイレクトに出ているのは、インバウンドの観光客が大幅に減っていることで、デパートやホテル、レストランなどのインバウンド需要がかなり落ちています。インバウンドがこれまで非常に多かった地域にかなり集中してマイナスの影響が出ている、ということだと思います。それから、特に中国に対する輸出がかなり弱い状況が続いていますので、そういうものを生産している工場の多い地域などは影響を受けています。更には、サプライチェーンという意味では、中国がグローバルなサプライチェーンの中心になっていますので、この第1四半期に生産がかなり落ち込んでいる影響も――日本の企業も部品の在庫はある程度持っていますので直ちにではないにしても――出てきています。地域毎のばらつきはあると思いますが、インバウンド、輸出、サプライチェーンの影響が出てきています。そして、全国的なイベントの中止の影響も、そういったものが多い都市部において出てきているのではないかと思っています。そういう意味では相当広く、地方の特にサービス業関係、それから中小企業関係の状況はこと細かくみていく必要があると思っています。

(問)総裁は先程、マイナス金利の深掘り余地もまだあるというお話でしたが、利下げ余地というのは非常に、少なくとも相当窮屈になっていると思います。FRBは、わずかとはいえ、利下げ余地を作っておけました。これを比べますと、6年以上に及んだ戦後最長景気のときに、出口を目指すなり、引き締めをして緩和余地を残すなり、そういうことをしておくべきだったのではないかというように総裁はお考えにはならないのでしょうか。そうでないと、カードを切り尽くしていると、こういう本当の危機のときに金融緩和余地が殆どないわけです。そういう反省はございませんでしょうか。

(答)こういう議論は様々な場で出てくるわけですが、各国の中央銀行の総裁とも、将来のそういった余地を作るためにprematureに金融緩和をやめたりするといったことは、むしろ逆効果になるという考えです。持続的な経済成長を支え、物価安定の目標をできるだけ早期に達成するという目標に向かっていくことで、長期的にみれば当然のことながらそういう政策の余地も出てくるわけですが、政策の余地を作るためにprematureに金融緩和をやめたり金利を上げたりするのは、私は適切でないと思います。

以上