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総裁記者会見要旨 2020年12月18日(金)
午後3時半から約60分

2020年12月21日
日本銀行

(問)本日の金融政策決定会合の決定内容について、ご説明をお願いします。とりわけ、物価安定目標の実現に向け、持続的な緩和政策の点検についてお願いします。この点検に当たっては、現状政策の枠組みを変更しない、とあえてうたっておられます。点検結果を、今後の政策運営にどのように活かしていかれるのか、また、なぜこのタイミングで決定されたのか、ご説明をお願いします。

(答)日本銀行は、新型コロナウイルス感染症の影響により、経済・物価への下押し圧力が長期間継続すると予想される状況のもとで、経済を支え、2%の「物価安定の目標」を実現する必要がある、との認識から、本日の決定会合において、次の二つのことを決定しました。

第一に、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」について、期限を半年間延長し、2021年9月末までとするとともに、運用面の見直しを行うことを全員一致で決定しました。見直しの具体的な内容は、CP・社債等の増額買入れについて、それぞれ7.5兆円ずつとしていた追加買入枠を合算し、市場の状況に応じて、CP、社債いずれにも配分し得る形とすること、また、新型コロナ対応特別オペの対象となる中小企業等向けの新型コロナ対応融資のうち、プロパー融資について、一金融機関当たりの上限1,000億円を撤廃すること、の二点です。今回の措置は、先行きの経済の改善ペースが緩やかなものにとどまり、企業等の資金繰りにも、当面、ストレスがかかり続けると予想されるもとで、引き続き、企業等の資金繰りを支援していく観点から決定したものです。なお、今後の感染症の影響を踏まえ、必要があれば、更なる延長を検討します。

第二に、本日の会合では、2%の「物価安定の目標」を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行い、来年3月の会合をめどにその結果を公表することを決定しました。以下、その趣旨について敷衍して説明します。2016年9月の「総括的な検証」を経て導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、現在まで適切に機能しています。感染症への対応についても、この枠組みのもとでの「3つの柱」による強力な金融緩和が効果を発揮しています。しかし、感染症の影響により、この先、経済・物価への下押し圧力は長期間継続し、2%の「物価安定の目標」の実現には時間がかかることが予想されます。こうした状況を踏まえ、2%の「物価安定の目標」を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行うこととしました。具体的には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを前提としたうえで、イールドカーブ・コントロールの運営や資産買入れなどの各種の施策について、点検を行います。これまでも随時見直しを行ってきましたが、点検の結果、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて効果的・持続的に金融緩和を行っていくうえで、更なる工夫ができるのであれば、実施したいと思います。なお、当然のことながら、これまで日本銀行がコミットしている点、すなわち2%の「物価安定の目標」やそれに向けたオーバーシュート型コミットメントを見直すことはありません。また、金利水準については、「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移する」という方針であり、マイナス金利を見直すということもありません。

以上が本日の決定のポイントです。なお、本日の決定会合では、長短金利操作のもとでの金融市場調節方針は賛成多数で、ETFおよびJ-REITの買入れ方針については全員一致で、これまでの方針を維持することを決定しました。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から、引き続き厳しい状態にあるが、持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、一部で感染症の再拡大の影響がみられますが、持ち直しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は増加を続けています。また、企業収益や業況感は、大幅に悪化したあと、徐々に改善しています。一方、設備投資は減少傾向にあります。雇用・所得環境をみると、感染症の影響が続く中で、弱い動きがみられています。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低水準となっていますが、全体として徐々に持ち直しています。金融環境としては、全体として緩和した状態にありますが、企業の資金繰りには厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっています。先行きのわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられます。もっとも、感染症への警戒感が続く中で、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられます。その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けると予想されます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、感染症や既往の原油価格下落、Go To トラベル事業の影響などにより、マイナスとなっています。予想物価上昇率は、弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落、Go To トラベル事業の影響などを受けて、マイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響などが剥落していくことから、消費者物価の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。

リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、きわめて不確実性が大きいと考えています。特に、このところの内外における感染症の再拡大による影響に注視が必要です。更に、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「特別プログラム」や、国債買入れやドルオペなど円資金および外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)いわゆるコロナオペの半年延長についてお伺いします。これまでのコロナオペの効果と延長の狙いに加えて、14日の短観でも示されました足許の企業の資金繰り状況をどのようにみていますか。

(答)日本銀行が、新型コロナウイルス感染症への対応として、企業等の資金繰りを支援するために行っている「特別プログラム」は、政府の施策や金融機関の積極的な取組みとも相俟って、効果を発揮しています。CP・社債の発行や銀行借入などの外部資金の調達環境は、緩和的な状態が維持されています。もっとも、12月短観の資金繰り判断DIは、感染症拡大前の水準をなお下回っており、企業等の資金繰りには依然として厳しさがみられます。先行きも、感染症への警戒感が続くもとで、経済の改善ペースは緩やかなものにとどまり、企業等の資金繰りにも、当面、ストレスがかかり続けることが予想されます。こうした情勢を踏まえて、今回の会合では、引き続き、企業等の資金繰りを支援していく観点から、「特別プログラム」の期限延長と運用の見直しを決定しました。日本銀行としては、今後も、企業等の資金繰りをしっかりと支援していきたいと思います。

(問)先月の通常会合で決定された「地域金融強化のための特別当座預金制度(特別当座預金制度)」についてお伺いします。一定条件を満たした地銀などに対する特別付利については、日銀は金融政策ではなくプルーデンス政策である、また政府の認可事業であるという立場をとっています。一方、市場では、マイナス金利政策の副作用を和らげる効果を狙っているとか、日銀の判断で金融機関を選んで、事実上の補助金を出すことは中銀の裁量を逸脱しているといった批判があります。こうした批判に対する総裁のご見解をお願いします。

(答)「特別当座預金制度」は、金融政策としてではなく、金融システムの安定確保という日本銀行の目的達成の観点から、地域金融の強化が必要と判断して実施するものです。そのうえで、本制度では、経営基盤の強化に向けた取組みを実際に行った地域金融機関に限って付利を行うこととしており、個別先への収益支援が目的ではなく、そうした前向きな取組みを行うインセンティブを与える仕組みです。従って、あくまでも、金融政策としてではなく、金融システムの安定確保という観点から地域金融の強化が必要と判断して、導入することを決めた制度です。

(問)金融緩和の点検なのですけども、総裁はYCCもマイナス金利も枠組みは変更しないということなのですが、では、各種施策を点検するということなのですが、今の時点でこれからということだとは思うのですが、こういうところを点検したいというものがあれば、教えてください。

次に、「特別プログラム」なのですが、今回の延長によって、最初決めたときよりも1年長引くということなのですけれども、いわゆるゾンビ企業の話ですね、本来なら廃業すべき企業の延命措置になるのではないかという指摘がありますけれども、この辺りについては改めてどのようにお考えでしょうか。

(答)まず、2%の「物価安定の目標」を実現するため、より効果的・持続的な金融緩和をもたらすために、現在行っている政策の点検を行うということです。あくまでも、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のフレームワークは変えませんし、2%の「物価安定の目標」などのコミットメントも変えるつもりは全くありません。ただその中で、具体的なイールドカーブ・コントロールの運営の仕方や資産買入れの方式などについて、これまでの経験、検討を踏まえて更に必要な分析を行い、一層の改善、より効果的かつ持続できる運営といいますか、資産の買入れの仕方などがあれば、そういったものを忌憚なく検討して、取り入れていきたいということです。従って、現在の金融緩和の出口を探るとか、金融緩和を弱めるなどといったつもりは全くなく、むしろ、より効果的に金融緩和ができるような点検を行っていきたいと考えています。

次に、「特別プログラム」については、半年延長していましたが、今回更に半年延長し、更にもし必要があればその後の延長も検討するとしています。新型コロナウイルス感染症の影響によって、一方で経済の供給面での制約が出ているとともに、他方で需要面での抑制も出ており、そういう中で、企業の資金繰りその他のための「特別プログラム」を行っており、これは今も必要ですし、当面も必要だろうということで、一部改善のうえで半年延ばすことにしたわけです。こういうことによって、ゾンビ企業の延命を助けるのではないかという議論は、私は全く当てはまらないと思っています。そう申しますのは、このプログラムは、金融機関による中小企業等への貸出を日本銀行がバックファイナンスするといいますか、有利な形で資金を供給する、あるいは民間で発行されるCP・社債等を購入するということで、あくまでも民間の金融仲介機能を助けるものであって、ゾンビ企業を助けるということにはならないと思っています。従って、今回半年延長しましたし、必要があれば更なる延長も検討するということです。

(問)今回の金融緩和の点検というのは、ECBやFEDのようなレビューと近いものになるのか、あるいは、伺っていると運営の仕方、買い方の工夫といったオペとか買入れのペースの調整のような、ファインチューニング的なもののようにも聞こえるのですが、どちらにより性質が近いものなのかという点を教えてください。

あと、本日の決定と少し離れてしまうのですが、最近菅総理が脱炭素社会の実現を目指すとか、他の中銀でもESGの考え方を政策のガイドラインに入れていこうとか、色々な気候変動を巡る取組みが高まっています。来年これが大きなテーマになる中で、日銀として、こういう気候変動、環境を意識した何か取組みを考える余地があるのか、その辺をお願いします。

(答)ご案内の通り、日本銀行は2016年9月に「総括的な検証」を行い、金融緩和のフレームワークを見直して、より効果的な仕組みにしました。そこで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のフレームワークを導入したわけです。その後の状況をみる限り、この基本的なフレームワークは十分機能していると思いますが、先ほど来申し上げている通り、新型コロナウイルス感染症の影響などもあって、2%の「物価安定の目標」の達成がやや遅れる可能性があるということは、こういった金融緩和措置が更に長く続けられるということになります。そうしたもとで、副作用があるのではないかということについて、イールドカーブ・コントロール自体は副作用も考えつつやるということになっていますので、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のフレームワークは変える必要がないですし、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて色々とコミットしていることも変える必要がないのですが、おっしゃるように、そのフレームワークのもとで、様々な資産買入れやイールドカーブ・コントロールの運営についても十分点検していく、より効果的、持続可能なものにするという観点から点検していきたい、ということです。FRBが政策のフレームワークをレビューし、ECBも今レビューしていますので、もちろんそうした情報は十分得ていくつもりですが、そういうものよりも、おっしゃったようなものだとお考え頂いた方が良いと思います。

それから脱炭素社会の話については、ご案内の通り、日本銀行も、気候変動リスク等にかかる金融当局ネットワークであるNGFS――Network of Central Banks and Supervisors for Greening the Financial Systemという大変立派な名前ですが――、これに既に参加して、各国の当局者と意見交換を進めています。もちろん、CO2削減や気候変動対策、環境対策自体は、どこの国でも政府が行う政策分野です。しかし、気候変動が実体経済、更には金融システムに影響を与える重要な要素になっていることは事実ですので、これは中央銀行としての使命にも関係してくるということで、NGFSにも加盟しましたし、引き続き、物価の安定と金融システムの安定という使命に即して、調査研究あるいは金融面のリスク把握など、必要な対応を行っていきたいと考えています。

(問)本日発表された11月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で-0.9%ということで、およそ10年ぶりの下落幅になったわけですが、今、第3波といわれている、このコロナの感染拡大状況が続いて、長引いてきている状況です。これによって物価は一段と下押しされるとみていらっしゃるでしょうか。また、この物価の下落というのは円の価値を実質的に高めることにもなりますので、為替市場で円高の圧力を招かないかどうかと、この辺りも気になるのですが、どうみていらっしゃるのか教えてください。

そして、12月ですので2020年を振り返って頂きたいのですけれども、コロナによって世界中の金融政策も大きく影響を受けて変化してきた1年だったと思いますが、日銀そして黒田総裁はコロナとこの1年間どう戦ってきたのでしょうか。教えてください。

(答)確かに消費者物価の前年比は、先ほど来申し上げたように、新型コロナウイルス感染症や既往の原油価格の下落、Go To トラベル事業の影響などによってマイナスとなっています。もっとも、エネルギー価格の下落やGo To トラベル事業による宿泊料の割引といった一時的な下押し要因を除きますと、このところ小幅のプラスで推移していまして、経済の落ち込みの大きさに比べると底堅い動きとなっています。先行きの消費者物価についても、当面、前年比マイナスで推移した後に、一時的な下押し要因が剥落して経済が改善していくもとで、前年比プラスに転じて徐々に上昇率を高めていくとみています。従って、物価が全面的、全般的かつ持続的に下落していくというデフレに陥る惧れは低い、ないと思っていますが、何といっても、この感染症の影響については、非常に大きな不確実性があります。一方で最近、このワクチンに関してかなり前向きの情報が流れており、ワクチンがスムーズに接種されていけば、感染症も収束に向かう可能性があります。感染症について不確実性が大きいというリスクは依然としてあると思いますが、必ずしもこういう状況がいつまでも続くということはないと思います。ただ、感染症がいつ収束するのか、その影響がどういうものかについては、やはり不確実性が大きいので、その物価に対する影響についても、十分注視してまいりたいと思っています。

それから、おっしゃったように、2020年は、新型コロナウイルス感染症が世界中に深刻な影響を及ぼした年だったと思います。金融・経済面では、春先にかけて、内外の金融資本市場が大きく不安定化しましたし、本年前半の世界経済は、リーマンショック時を上回る、大幅な落ち込みになっています。こうした状況に対して、わが国を始め、世界中の政府・中央銀行が大規模な措置を積極的に講じたことから、内外の金融市場は落着きを取り戻しており、また、世界経済も夏場以降は持ち直してきています。ただ、まだ世界的に感染症の拡大は収束していません。経済の水準は依然として低く、改善のペースも緩やかです。従って、日本銀行としては、引き続き強力な金融緩和措置により経済を支えていくことが重要だと考えています。来年のことを言うと鬼が笑うと言いますが、2021年の展望については、何よりもこの感染症の影響の収束を願っているわけであります。ワクチンに関する前向きな動きは明るい材料ですが、今後を見据えて、今回の危機の経験を将来の成長につなげていくことも重要だと思います。日本銀行としても、緩和的な金融環境を維持することで、企業等の前向きな取組みをしっかりと支援していきたいと考えています。

(問)先月、安倍前総理が議員連盟の会合で、物価上昇2%に達していなくても完全雇用に近い状況を作ったから、それは評価されるべきだと述べるなど、この2%という目標が持つ意味が改めて問われていると思います。新型コロナの状況も踏まえて、どういう目的のためにこの2%という目標が必要なのか、改めて教えてください。

(答)日本銀行の最大の使命は物価の安定であり、日本銀行法でも、日本銀行は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」となっています。当然、物価が安定すれば、他はどうでも良いというわけではなく、あくまでも物価の安定を通じて健全な経済の発展をもたらすということであり、当然、雇用とか企業収益といった点も重要なファクターです。ただ、そのために日本銀行ができること、最大の貢献は、物価の安定を通じてそういったことをもたらすということであり、現時点で2%の「物価安定の目標」は達成されていないわけですが、引き続き2%の「物価安定の目標」を目指して金融緩和を続けていくことが重要であると考えています。それによって、経済を支えて雇用も安定させるという効果ももちろんあり、日本銀行が2%の「物価安定の目標」を目指して行うことによって貢献できているということになると思います。なお、2%という数字自体については、消費者物価指数が過大表示の傾向があり、これは指数の見直しが例えば5年毎であるとかラスパイレス方式であるといった、各国でも同じような問題によるものです。もう一つは、金融政策の余地も必要です。そうした二つの点から、主要各国の中央銀行は、2%の物価目標を掲げて金融政策を運営しているわけです。そして、主要国が同じような金融政策の目標を掲げて金融政策を運営していることが、主要国間の為替の安定にも通じていると思います。日本銀行としては、2013年1月に決定した2%の「物価安定の目標」の実現を目指して金融政策を行うということを続けていく必要がありますし、続けていくということです。

(問)先ほど話題に上がりました、地域金融のための「特別当座預金制度」についてお伺いします。先ほど、総裁は、金融システム安定化のためのインセンティブというお話でしたが、日本銀行がこういう手段をとること自体が異例のことだと思われます。なぜ飴と鞭でいうところの飴を与えることとされたのか、長年地銀再編ということがいわれてきた中で、飴を与えないと事態が動かないと判断されたということなのでしょうか。また、なぜこのタイミングで制度を発表されたのか、きっかけは何だったのでしょうか。合併特例法なのか、コロナなのか、菅総理の発言なのか、黒田総裁のご見解をお伺いします。

(答)日本銀行は、物価の安定が最大の使命ですが、他方で、金融システムの安定も役割の中に入っています。一番極端な場合は、「レンダー・オブ・ラスト・リゾート」という形で、金融システムに潤沢な流動性を供給するといったこともあります。金融政策が、基本的には金融仲介機能を経由して経済に対して働きかけて物価の安定をもたらすというものですので、日本銀行として金融システムの安定が非常に今重要になってくるわけです。そうした観点から、特に地域金融の強化のための措置として、今回導入することを決めたわけです。この制度自体については、現在細部を詰めているところですが、概要については既にご説明している通りで、あくまでも地域金融機関が地域経済をしっかりと支え、金融仲介機能を円滑に発揮していくために経営基盤の強化を図ることが日本銀行として必要であり、そういう面にインセンティブをつけるということです。OHRという収益力や経営効率の指標の改善といった条件を具体的に挙げ、地域金融機関の経営基盤の強化を図るものです。経営統合や合併は、そのための一つの選択肢ではありますが、単独で行うかあるいは他業界とのアライアンスなどを活用していくか、その他様々な方法がありますし、それは各金融機関の経営判断であると思います。なぜ今こういうものを打ち出したかという点については、累次の金融システムレポートでも述べています通り、人口減少や高齢化、地域における企業数の減少など、更には低金利の長期化といったこともあって、特に地域金融機関の収益力には下方トレンドがあります。それを押しとどめて、地域金融機関として地域における金融仲介機能を十分発揮してもらいたいと、そういうことが日本銀行の金融政策がより地域経済に浸透していくよすがにもなるということであり、日本銀行として、金融システムの安定化のために、プルーデンス政策として実施する必要があると考えて行ったものです。

(問)今回の金融緩和の点検について、お伺いします。まず、今回大枠、フレームワークは変更しないということですけれど、その理由について伺いたいと思います。つまり、2013年1月に2%目標を決めてから、間もなく8年経とうとしているわけですけれども、その間2%が達成できなかったということもあるかと思います。となると、既存のフレームワークそのものが、2%を目指すうえで最適なのかというところから議論するということも発想としてはあり得ると思うのですが、それはせずにファインチューニングにとどめるといいますか、ファインチューニングということを目指されるのはなぜなのかについてお聞かせください。また、今回は既存のメニューを点検していくということかと思いますけれども、その結果として足らざる部分で、何か新しい施策ですね、新しいオペを追加するとか、資産購入の対象、範囲を拡大するとか、そういった新しいメニューを追加するということもあり得るのでしょうか。

(答)2%の「物価安定の目標」を2013年1月に掲げて以来、8年近く、7年以上経っています。ただ、2%が達成できていないということだけをとると、実は主要国の中央銀行はみんなそうなのです。それは、リーマンショックの影響があり、足許ではまたコロナショックがあり、様々なことが重なっている面もあります。2016年9月の「総括的な検証」でも述べたように、金融緩和政策自体は間違っていないので、それを更に効果的なものにするために、従来の「量的・質的金融緩和」に替えて「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にして、今日まで来ております。このフレームワーク自体は、特に新型コロナウイルス感染症の影響のもとでも十分機能していますし、基本的に間違っていないと思っています。ただ、そのうえで、諸外国も同様ですが、わが国も、この感染症の影響もあって、2%の「物価安定の目標」を達成する時期がかなり先になってきていることは事実であり、そのもとで、より効果的な持続可能な金融緩和手段・措置が何かということは、十分検討する価値があると思いますので、そういうことをしようということです。「総括的な検証」のようなフレームワーク自体を見直すものではありませんが、その中で、現下の状況に鑑みて、FRBやECBのレビューなども十分情報収集しつつ、必要な点検を行ってまいりたいと思っています。そうした中で、新たな政策手段を導入するかどうかは、点検した結果次第です。いずれにしても、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて金融緩和を行っていくうえで、更なる工夫ができるのであれば実施したいと思っています。

(問)まず、点検について、まだ発表されたばかりで何か具体的なことが決まっていることはないと思いますが、総裁が再三、超長期金利のところはもう少し上がってもいいとおっしゃっていて、日銀も「総括的な検証」でそういった結果を出されています。よくご存知のように、RBAなどは3年物をターゲットとして、FEDの議論もどちらかというと短いものの方が良いのではないかという議論がありました。総裁は、10年ではなくて、それよりも短いところをターゲットにするということについてどのようにお考えになっていますか。

もう一つは、ETFについてですが、もちろん、出口はまだまだということですが、ETFを買い続けることによって、残高はどんどん増えていきます。買入れを続けつつ、残高について、例えば個人に売ったりとか、GPIFに売ったりとか、ESGの投資に向けたりといった有効活用ができないのかという色々な議論がマーケットにありますが、総裁は、その点について、どのようにお考えになっていますか。

(答)イールドカーブ・コントロールは適切に機能していますので、枠組みを変更する必要はないと考えていますが、具体的な運営については、より効果的で持続的な金融緩和を実現する観点から点検の対象となります。イールドカーブの水準・形状については、これまで二つのことを述べてきました。うち一つは、「総括的な検証」で超長期金利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回りの低下などの影響を及ぼす可能性があると指摘したわけですが、現在でもこうした認識に変わりはありません。他方で、現在は、新型コロナウイルス感染症の拡大が経済に打撃を与える中で、債券市場の安定を維持して、イールドカーブ全体を低位で安定させることが大事な状況であるとも考えています。そうした中で、イールドカーブ・コントロールの運営の仕方について議論をしていくことになると思いますが、ご指摘のようなことを今考えているかというと、特に考えてはいません。

ETFについての売却などは、出口の議論の一つですので、全く時期尚早だと思いますし、そういうことは現在考えていません。

(問)景気の先行きのリスクについてまずお尋ね致します。足許ドル安という言い方の方が適切なのかもしれませんが、為替市場では円高が進んでおります。このほど発表された日銀の短観を拝見しますと、想定為替レートは106円79銭ということで、やや水準には乖離があるというふうにみております。今後そのドル安・円高が景気、企業業績の悪化につながるようなそうしたリスクについて、まずどのようにご覧になってらっしゃるのでしょうか。

また、先ほどのETFに関連した質問なのですが、ETFの購入を日銀、中央銀行が始めてから10年の節目を迎えました。この間、ETFの購入については効果を評価する一方で、やはり中央銀行がリスク資産を買い入れるということに対する副作用を指摘する声もあります。巷間いわれているのは、中央銀行が日本ではGPIFを抜いて日本一の大株主になっているというような分析結果もあります。こうした中央銀行がETFを購入するということのこの10年間の総括と、あと、バブルを招いているのではないかというような指摘もあるわけですけれども、そうした指摘にどのように答えられるのか、この会見でも議論はされているかと思いますけれども、改めてお伺いさせて頂ければと思います。

(答)為替レートの動向は、常に中央銀行として注視していますが、為替政策自体は、日本でも米国でも欧州でも財務省の仕事でありまして、為替について何か具体的なことを申し上げるのは差し控えたいと思います。ただ、ご指摘のように、今起こっていることは、実はドルも円も殆どの通貨に対して弱くなっています。ただ、ドルの弱くなり方が円の弱くなり方よりも少し強いので、狭いレンジではありますが、若干円高が進んでいるということです。今の時点でこれについて強く懸念する、あるいは景気に何か重大な影響があると考える必要はないと思いますが、為替レートは様々な要因で動きますので、引き続きその景気や物価に対する影響は注視して、注意していきたいと思っています。

ETFについては、東証の時価総額の6%ぐらいであり、それも個別の株を買うのではなく、ETF――市場のいわば平均的なバスケット――を購入しているということであり、何か企業統治等に問題が生じているとは考えていません。そもそも、ETFでは、資産運用会社が信託銀行を通じて株主権を行使しており、その際にはきちんとしたルールに沿って行われています。ETFは、日本だけではなく、欧米の場合、もっとたくさん大規模にあるわけですが、それが何かコーポレートガバナンスを阻害するといった議論はありませんし、日本銀行が買うことで、特にコーポレートガバナンスに影響があるとは考えていません。また、先ほど申し上げたような程度の購入であって、あくまでも株式市場のリスク・プレミアムが過度に拡大するときに、柔軟に対処しているということであり、株価を目的に行っているものでもありませんし、様々な指標でみても日本の株価が特にバブルになっているという状況にはないと思います。ただ、ETFの購入については、確かに中央銀行の中では異例のオペレーションであることも事実ですし、その効果や、こういう状況の中でより効果的に持続可能な形で行うための点検は必要だと思っています。

(問)まず、点検ですが、これまで総裁は、16年のような総括検証は必要ないとおっしゃってきました。今、なぜこのタイミングで点検が必要なのかについて、改めてお伺いします。足許で、物価上昇率が日銀の想定以上に下落しているということが影響しているのでしょうか。

もう一つは、持続可能な金融緩和を目指すということですが、現在のペースでETFを買い入れることは、ETFは償還がありませんので、それはつまり持続可能じゃないと考えていらっしゃることの裏返しなのかについて伺います。

(答)なぜ、この段階で点検かというのは、先ほど来申し上げているように、2%の「物価安定の目標」の達成がやや先になっているという状況で、これは新型コロナウイルス感染症の影響が大きいわけですが、そういうもとで、より効率的、効果的な金融緩和、持続可能な金融緩和というものを、現在のオペレーションを点検して必要なら改善していくことをしようということです。

ETFについては、先ほど来申し上げているように、各国の中央銀行の中では異例のオペレーションであることは事実ですが、何か今の買入れを行っていることが直ちに持続不能になるというようなことは全くないと思っています。東証の時価総額の6%程度を保有していますが、持続不能な状況になっているということではないと思っています。ただ、その中でも、今後、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて、より効果的で持続可能な様々な資産買入れの方式を、現状を点検し分析して改善すべきところがあれば改善を考えるということです。

(問)今回の決定内容と関係ないのですけれども、お尋ねしたいのですが、一昨日ですね、日銀は、いわゆる外為特会からドルを買い入れるという発表をされました。最終的に財務省はそこで獲得した円貨というのを、予算に盛り込まれた大学ファンドの原資にしようというお考えのようなのですけれども、昨今政府と日銀との距離というのも色々といわれている中で、例えば今回の取引というのは、そういう観点で何らかの問題があるのかないのか、総裁のご認識をお尋ねしたいと思います。

(答)結論を申し上げると、特に問題があるとは全く考えていません。日本銀行は、国際金融協力や金融機関に対する外貨資金の供給に備えるため、一定の外貨資産を保有しています。今般、コロナ禍を背景に不透明感がまだ続いていることを踏まえて、そうした業務のより円滑な遂行に備える観点から、外為特会が保有する米ドル資金を60億ドル程度買い入れることにより、日本銀行の米ドル資金の保有額を積み増すことにしました。外為特会では、この特会が保有する米ドル資金を日本銀行の円貨と交換のうえ、一般会計に金の買入れの対価を払うものと承知しています。今回の取引は、そうした双方のニーズが合致したもとで実施したということです。あくまでも、日本銀行として外貨資金供給あるいは国際金融協力の観点から、日本銀行の必要性に応じて行ったわけであり、財政ファイナンスでは全くありませんし、双方のニーズが合致したうえで実施したということです。なお、円資金をどのように使うかは、政府の一般会計において考えるものだと思っています。

以上