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総裁記者会見要旨 2021年4月27日(火)
午後3時半から約60分

2021年4月28日
日本銀行

(問)本日の決定内容について、展望レポートを含めてご説明頂けますか。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITは、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する保有残高の増加ペースを上限に、必要に応じて買入れを行います。CP等、社債等については、2021年9月末までの間、合わせて約20兆円の残高を上限として、買入れを行います。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明致します。

わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は増加を続けています。また、企業収益や業況感は全体として改善しています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いています。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力の強まりから、持ち直しが一服しています。金融環境については、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にあります。先行きについては、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に、感染症の拡大前に比べて低めで推移するものの、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられます。その後、感染症の影響が収束していけば、所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるもとで、わが国経済は更に成長を続けると予想されます。

次に、物価ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比をみますと、感染症や既往の原油価格下落の影響などにより、小幅のマイナスとなっています。また、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響などを受けて、小幅のマイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善が続くことや、携帯電話通信料の引き下げの影響が剥落することなどから、消費者物価の前年比は、プラスに転じ、徐々に上昇率を高めていくと予想されます。予想物価上昇率も、再び高まっていくとみています。

前回の見通しと比べますと、成長率については、内外需要の強まりを背景に2022年度を中心に上振れています。物価については、2021年度は携帯電話通信料の引き下げの影響により下振れているものの、2022年度は概ね不変です。ただし、こうした先行きの見通しは、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響によって変わり得るため、不透明感が強いと考えています。今回の見通しでは、感染症の影響は、先行き徐々に和らぎ、見通し期間の中盤に概ね収束していくと想定しています。加えて、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されると考えていますが、これらの点には大きな不確実性があります。そのうえで、リスクバランスは、経済の見通しについては、感染症の影響を中心に、当面は下振れリスクの方が大きいですが、見通し期間の中盤以降は、リスクは概ね上下にバランスするとみています。物価の見通しについては、下振れリスクの方が大きいとみています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。 また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)東京都や大阪府などに緊急事態宣言が発令されています。今回の宣言下では、酒類を提供している飲食店や大型商業施設などが休業を余儀なくされています。こうした緊急事態宣言が、物価もしくは経済に与える影響をどう考えていらっしゃいますか。

(答)新型コロナウイルス感染症の再拡大を受けて、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの公衆衛生上の措置が講じられています。当面、個人消費は、対面型サービスを中心に低めの水準で足踏みした状態が続くとみています。一方で、財消費は堅調なほか、世界経済が総じてみれば回復しているもとで、輸出は増加を続けています。また、企業の収益が改善し、設備投資が持ち直すなど、所得から支出への前向きの循環メカニズムも徐々に働き始めています。こうしたもとで、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に感染症の拡大前に比べて低めで推移するものの、その後は、回復していくとみています。ただし、以上の見通しについては、感染症の影響を含めて、不確実性が大きいと認識しています。特に、当面は、変異株を含めた感染症の動向や、その経済活動への影響に注意が必要であり、下振れリスクが大きいとみています。また、経済のリスク要因が顕在化すれば、物価にも相応の影響が及ぶ可能性があります。日本銀行としては、引き続き、経済・物価の動向をしっかりと注視してまいりたいと考えています。

(問)今回、展望レポートで、初めて2023年度の数字が公表され、物価上昇率は1.0%が中央値となっています。総裁は就任当初、2年で2%を達成すると宣言していましたが、大規模緩和から10年が経過しても2%を達成できない現状をどう受け止めていますか。また、金融政策で、そもそも物価を上げるということは可能だと現在も考えていらっしゃいますか。

(答)2%の「物価安定の目標」の実現には時間がかかっており、そのこと自体は残念なことであります。3月の点検で確認した通り、この主たる理由は、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムが根強いということにあると思います。もっとも、このことは、人々が実際に物価上昇を経験すれば、物価上昇が徐々に人々の考え方の前提に組み込まれていくことも意味しています。また、点検でも確認されたように、これまで、大規模な金融緩和は、金融環境を改善させ、需給ギャップのプラス幅拡大とプラスの物価上昇率の定着という効果を発揮してきています。実際、新型コロナウイルス感染症の影響を受けるもとでも、物価上昇率は、一時的な下押し要因を除けば小幅のプラスで推移しており、経済の落ち込みに比べれば底堅い動きが続いています。先行き、経済の改善が続くもとで、徐々に物価上昇率が高まっていくと考えられます。日本銀行としては、3月の点検を踏まえた政策対応によって、持続性と機動性が増した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」により、強力な金融緩和を粘り強く続けるもとで、見通し期間を超えることにはなりますが、2%の「物価安定の目標」は達成できると考えています。

(問)2021年度の物価見通しを下方修正されて、これは携帯電話の影響が大きいということは認識しているのですが、足許、世界を見渡すと、アメリカとか欧州、カナダ等はかなり強い物価上昇率になっておりまして、この彼我の違いといいますか、例えばワクチンの接種の遅れみたいなものが日本は響いて、景気・物価の見通しに差が出てきているのかとか、海外と日本の物価上昇率の違いというものを総裁がどのようにご覧になっているかを教えてください。また、2%の物価上昇を目指していくときに、金融緩和だけで十分なのか、政府の成長戦略であったり、日銀以外の主体がどのようなことをしていけば、物価上昇率が高まっていくとお考えになっているのかについても、教えてください。

(答)一点目の2021年度の物価見通しについては、携帯電話通信料の引き下げがかなり大きく下押ししていることは事実です。一定の仮定を置いてモデル価格を試算してみますと、携帯電話通信料の引き下げは、消費者物価の前年比を-0.5~-1%ポイント程度下押しすると見込まれています。従って、それがなければ2021年度の物価上昇率は上方修正であっただろうと見込まれます。なお、米国等の景気回復のテンポあるいは物価上昇につきましては、一つには景気の回復が著しい、その背景にはもちろんワクチンの接種がかなり進んでいるということもあるでしょうし、大規模な経済対策を打ったということもあるかもしれませんが、そもそも、わが国の物価の上昇率は、予想物価上昇率が非常に粘着的で、適合的期待形成に基づいて、物価・賃金が上がることを前提とした経済行動になかなかなりにくいということもあろうかと思います。ただ、そうしたもとでも、粘り強く大規模な金融緩和を続けることによって、これまでも経済が回復してきましたし、また、物価上昇率にもプラスに影響してきたわけですので、今後とも引き続き粘り強く金融緩和を続けていく必要があると考えています。

二点目のご質問にも関係しますが、2%の「物価安定の目標」は、2013年1月に日本銀行の金融政策決定会合において、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを決めて、それが政府と日本銀行の「共同声明」にも盛り込まれているというものです。この2%の「物価安定の目標」を達成することは、日本銀行としての物価安定の使命に関わるものであり、何としても達成しなければならないと思います。その際、もちろん他の要素が影響することは事実であり、例えば原油価格がかなり大幅に下落して物価上昇率を押し下げたこともありましたし、様々な要因、政府の構造政策、成長戦略、あるいは機動的な財政運営等も、物価に一定の影響を与えるということはその通りだと思います。しかし、何としても、この2%の「物価安定の目標」を達成するということは、日本銀行としての物価安定という第一の使命に関わることですので、最大限の努力をして達成していかなければならないと考えています。

(問)2%の達成は見通し期間を超えるというお話を今されたわけですが、では、総裁はいつ頃達成できると今の時点でお考えでしょうか。

また、長期金利について伺いたいのですが、前回の会合で変動幅を明確化しましたが、その後1か月余りが経過して、総裁は長期金利の変動や市場機能の確保の効果について、どのように評価されているのでしょうか。市場では、変動がその後あまり大きくないということで、日銀が更に国債の買入れオペを減額するのではないかという見方もあるようですが、そういう措置の必要性について、総裁はどのようにお考えでしょうか。

(答)まず2%の「物価安定の目標」を達成しなければならないということは、これは日本銀行としての使命でありますので、引き続き最大限の努力を払っていくことに尽きると思います。現時点での展望レポートにも示されています通り、政策委員の大勢見通しでは、2023年度でもまだ2%に達しないという状況ですので、あと2年でもまだ2%に達しないということが政策委員の中央見通しだということは、その通りだと思います。私の個人的な見解を何かこれと別に述べるといったことは差し控えたいと思いますが、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は非常に強力な金融緩和措置ですので、これを粘り強く続けることによって、GDPギャップのプラスをできるだけ長く続け、それによって実際の物価上昇率も徐々に上昇していくことを実現し、そうしたことを背景に予想物価上昇率も上昇していくプロセスによって、2%の「物価安定の目標」を達成できると考えています。

次に、長期金利の変動幅の明確化ですが、これは3月の金融政策決定会合で、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取る観点から、長期金利の変動幅について上下にプラスマイナス0.25%程度ということを明確化したわけです。こうした観点から、国債買入れオペの実務的な対応として、事前に示す買入れ予定額について、レンジから特定の金額に変更するとともに、長期金利が変動幅の上限または下限を超える惧れがある場合以外は、買入れ額を調整しないことに変更したわけです。こうしたもとで、長期金利については、経済・物価情勢等に応じて、この明確化された範囲内で変動することを想定しています。もっとも、日本銀行が意図的に長期金利を変動させるということではなく、経済・物価情勢に応じて、この明確化された範囲内で変動することを想定しているということです。

(問)いわゆるK字回復と言われている中での金融政策のあり方についてお伺いしたいと思います。今回の展望レポートでも、2021年度、2022年度の実質GDP成長率については、従来予想よりも改善が進むという見通しを示されています。一方で、飲食や宿泊など、対面個人サービスについては、相当期間、現状を考えれば、下押し圧力というか厳しい状態が続くと思います。先般、総裁は企業の資金繰り支援を柱とするコロナ対応策に関して、必要があれば更なる延長を検討するというご発言を講演の中でもされていました。こういう全体として改善傾向にありながら一部に相当厳しい状況が集中してしまっているという中で、こういったコロナ対応策を含めた金融政策はどういうことができるのか、どういうことがあるべき姿なのか、その点についてご見解をお伺いしたいと思います。

(答)もちろん金融政策は、マクロ経済政策ですので、特定のセクターだけに絞って対応するということではないわけですが、ただ、新型コロナウイルス感染症のもとで、企業の資金繰りに厳しさが増したことを受けて、現在の「3つの柱」で企業の資金繰りを支援するとともに、金融資本市場の安定を図っています。ご指摘のような形で、全体として改善していっても、対面型サービス部門等のかなりの部門で資金繰りの厳しさが残るのであれば、当然、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペの延長もあり得るといいますか、考えることになると思います。そういう意味で、マクロ経済全体をみつつも、今回の感染症の影響によってかなり深刻な影響を受けている、対面型サービス部門等の資金繰りは、やはり引き続きしっかり支援していく必要があると考えています。

(問) 2022年度のGDPの成長率予測、随分上方修正されていますが、──2021年度は1月対比ではそれほど修正されていません──この割と強めな2022年度のGDPの予測の背景について伺いたいと思います。

また、特にFRBを中心に主要中銀の中では、世界経済の回復見通しは、ワクチンの接種が順調に進んでいる中、インフレの期待、成長率の強まりを受けて、市場の一部で早めに出口を見据える動きもあります。すぐに出口には向かえないというのはFRBのパウエル議長も明確にしていますが、一方で、各国、成長やコロナ後からの回復にばらつきがみられると、金融政策の方向性も少し変化が出てくると思われます。そうした場合、これまでは割と同一方向で緩和姿勢だった中銀の姿勢によって為替が安定していたと思うのですが、市場の動きにこうした変化、各国中銀の動きの違いがどう影響を与えるのか、総裁のご見解をお願いします。

(答)成長見通しは2021年度、2022年度と上方修正しており、特に2022年度の成長見通しは、前回の見通しに比べますと+0.6%ポイント上方修正ということで、かなり上にいっているわけですが、それでも+2.4%の成長ですので、非常に強い見通しをしたというよりも、かなり自然な形でこのようになっていくとみていると思います。冒頭申し上げたように、世界経済の回復の傾向がかなり明確になってきて、世界貿易、あるいは世界生産は新型コロナウイルス感染症前の水準に達しているわけですが、そうしたもとで、わが国の輸出、生産は増加を続け、企業収益も改善し、設備投資も底堅い状況が続いています。このため、2021年度は2020年度のマイナスからの回復ということもあって+4%の成長になっており、2022年度は+2.4%になっています。いわば2020年度に落ち込んだ分を2021年度に取り返して、そして更に+2.4%の成長と見込んでいます。それは、今述べたような世界経済の回復状況、あるいはわが国の生産、企業の設備投資等の動向を踏まえて見通したものと考えています。

それから、FRBの金融政策の動きについては、私から何か申し上げるのも僭越ですが、確かに、昨年来感染症が世界的に拡がる中で、主要国の中央銀行は皆、大幅な金融緩和を続けてきたわけです。もちろん、それぞれの金融政策は、それぞれの国の経済・物価動向にあわせたことを行っているわけですので、それぞれの国の経済動向に応じて金融政策は展開していくと思います。仮に、回復や成長のスピードの違い、物価上昇率の違い等に応じて主要国の間で金融政策に若干の違いが出てきても、典型的には金利格差で為替が動くという議論だと思いますが、ご案内の通り、主要国の間の為替レートは、このところずっときわめて狭いレンジで動いて安定しています。それは金利格差よりも、2%の「物価安定の目標」を目指して各国の中央銀行が金融政策を運営している、いわば収斂して同じ状況になっていることが、より効いているように思います。このため、もちろん十分注意しなくてはいけないとは思いますが、それぞれの経済状況に応じて金融政策が変わったときに、主要国の為替について大きな影響が出るとはみていません。

(問)2%の物価目標についてお聞きしたいのですが、相当長く、総裁が就任してから8年達成できなくて、本日の展望レポートでも2%に届かないということで、長期化が予想されます。そうした中で3月、点検して、副作用に対する対策も打ったということなのですが、2023年度以降となると、総裁の任期が終わった後達成するということになるのですけれども、3月に手当てした副作用対策で、もう暫く今の金融政策を粘り強くやることで、2%達成できるのでしょうか。その辺りのお考えをお願い致します。

(答)金融政策は、その時々の経済・物価動向に応じて金融政策決定会合で決定するわけですので、2%の「物価安定の目標」の達成のために必要となれば、先ほど申し上げたように、躊躇なく追加的な金融緩和を講じます。そうしたことができるような機動性、持続性を高める点検も行いました。そのうえで、現在の政策委員見通しの中央値では、確かに2023年度でもまだ物価上昇率が2%に達しないことは事実ですので、この見通しの通りであれば、2%の「物価安定の目標」の達成は、2023年度ではなくて2024年度以降になると思います。私の任期は2023年の4月と思いますが、任期内かどうかということではなく、いずれにせよ、最大限の努力を払っていきますし、その結果として達成が2024年度以降になったとしても、それは致し方ないというように思います。

(問)成長率見通しについてお伺いしたいのですが、4月6日に公表されましたIMFの世界経済見通し、これでみてみましても、イギリスやアメリカといった他の先進国と比べて、日本の成長率見通しというのは力強さがないといいますか、弱めに出ています。この理由というのをどう分析していらっしゃるのか、これはワクチン接種の進捗というのも影響してくるとみていらっしゃるのか、その辺りも含めて教えてください。

そして、物価目標2%の達成というのが、なかなか黒田総裁の任期中難しそうだという見通しが出たわけなのですが、では、この任期満了後、物価目標2%の達成を見届けるためにも、もう一期続投する、こういうことは頭の片隅におありかどうかもお伺いします。

(答)成長見通しについては、IMFの見通しで非常に明確なのは、中国と米国がかなり急速に成長率を回復していくというシナリオになっていることです。ただ、その他は区々であり、例えば、欧州諸国も、それからわが国も、米国、中国に比べると回復のテンポがかなり遅いです。そうした中で、確かにワクチンの影響というのはあって、接種が進めば、人々が安心して外出できるということで対面型サービス消費の回復につながりますので、ワクチンの接種が進むことが、回復を加速させたり前倒しにするといった効果があることは事実と思います。もっとも、IMFの見通しをみても分かるように、例えば、英国は非常にワクチンの接種が進んでいるわけですが、IMFの見通しだと他の欧州諸国の成長見通しとあまり違わないというか、ドイツなどよりも回復時期がやや遅くなっていますので、ワクチンだけで何か決まってくるというわけではなく、やはりそれぞれの国の潜在成長力と落ち込んだところからの回復と、両方の面があるのだと思います。その点、わが国の場合は、潜在成長率が従来から+1%前後と──リーマンショック後は+1%を割っていたわけですが──米国などに比べるとかなり低いということがまずあります。また、米国の場合は、確かにワクチンの接種が進んでいて、対面型サービスがかなり急速に回復していることが、成長率の急速な回復に効いていることもあろうと思います。

2%の「物価安定の目標」については、日本銀行の物価安定の使命に関わることであり、私が総裁になる前の時代に既に2%の「物価安定の目標」が決められていたわけです。私は、これ自体はきわめて正しい決定であると思っていますし、今後もこの目標の達成を目指す形が続いていくと思いますが、ご指摘のような、もう一期総裁を務めたいか、ということについては、そもそも総裁の任命は、ご案内の通り、国会の同意を得て内閣が任命するものですので、私の個人的な云々は全く関係ないと思います。

(問)総裁は、常々、金融緩和の出口に向けた議論は時期尚早であるというふうにおっしゃっておられます。今回、展望レポートで2023年度の物価見通しが目標の半分程度、届かないという中で、かつ総裁の任期が2023年の4月という中において、黒田総裁のもとで急拡大した日銀のバランスシート、大規模な金融緩和の出口戦略については、その後の体制といいますか、任期の後に議論することになるのか、それとも黒田総裁のもとにおいてこの急拡大したバランスシートの、その日銀の金融政策の正常化に向けた議論、ある程度の道筋をつけたいとの思いがあるのかどうかをお伺いしたいと思います。

また、日本経済の先行き、この持ち直し基調を続けるかどうかというシナリオの前提として、海外経済の回復基調というのがあると思います。他方で、今、アメリカと中国の対立が激しくなっているのはご案内の通りかと思います。こうした米中対立が世界経済に与える下押し圧力あるいはリスク等について、総裁はどのようなご所見をお持ちでしょうか。

(答)出口戦略については、従来から申し上げている通り、どういうことがあり得るかというのは、どこの国でもそうですが、拡大したバランスシートをどのように縮小するか、政策金利をいつどのような形で引き上げていくか、この二点が出口の場合に必要になってくるわけですので、そういったことを議論することになると思います。現時点では、具体的な出口戦略を議論するのは時期尚早であり、あくまでも2%の「物価安定の目標」の達成が目に見えてきた段階で、具体的にどういった手順で出口を迎えるかという出口戦略を金融政策決定会合で議論し、それを適切に対外発信することになると思います。

先行きの経済について、確かに世界の最大の経済である米国と二番目の中国が、コロナ禍からの回復をリードしており、これ自体は結構なことだと思います。ご指摘のように米中の間に貿易その他様々な対立点があることは承知していますが、だからと言って、米中の経済回復に大きな障害になるような事態が発生するとはみていません。ただ、リスクとして色々なことがあり得る中で、様々な地政学的リスクも展望レポート等で指摘していますが、その一つとしてあり得るとは思いますけれども、今の時点で、米中が世界経済の回復をリードしている状況に何か大きなマイナスとなる事態が発生するというようにはみていません。

(問)今回の決定会合から、金融機構局から金融システムの状況とか金融仲介機能の報告があったと思います。基本的に金融システムとか金融の不均衡は、プルーデンス政策で対応ということかと思います。その中でやはり通常会合とは別に、決定会合で金融機構局から報告を受けるというのは、将来、金融政策の決定にも影響し得るのかと思いますが、どういう状況になると金融政策の修正が求められるのか、その辺の話をお願いします。

(答)ご指摘のように、金融システムの安定という観点からはプルーデンス政策で対応するというのが筋ですし、物価の安定という日本銀行の最大の使命に対応するのは、金融政策決定会合における金融政策の決定と実施であると考えています。ただ、そのうえで、金融政策が十全の効果を発揮するためにも、金融システムが安定していて金融仲介機能が円滑に発揮されていることが前提です。その意味で従来から様々な形で金融システムの議論もしてきましたし、展望レポートでも色々述べています。金融機構局が作成した金融システムレポートは、かなり詳細に政策委員にブリーフされていますし、プルーデンスの観点からの様々な問題等についてはそちらで議論をします。それでも、やはり金融政策決定会合においても、金融仲介機能が円滑に発揮されているかどうかは、みていく必要があるだろうということで、今回から金融機構局から説明を受けることになったわけです。その結果として、今回、委員は、金融システムは全体として安定性を維持しており、金融仲介機能が円滑に発揮されているという認識を共有したと思います。また、金融面の不均衡については、現在、経済規模との対比でみたマクロ的な与信量が過去のトレンドを上回っていることは事実ですが、これは、新型コロナウイルス感染症の影響による運転資金需要の高まりに金融機関が積極的に応えた結果であり、金融活動の過熱感を表すものではないとの見方も共有されました。もちろん、長期的な観点からは、金融機関収益の下押しが長期化しますと、金融仲介が停滞方向に向かうリスク、他方で、利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性がある点も確認しました。議論の詳細は、後日公表される「主な意見」や議事要旨でお示ししますので、そちらをご覧頂きたいと思いますが、私自身、金融政策決定会合において、金融機構局から金融仲介機能の状況について話を聞くということは、非常に有益だったと思っています。

(問)2%の目標達成が見通せない中で、まずは、もう少し現実的な目標を再設定する必要性はないのでしょうか。やはり欧米の中央銀行が同様の目標を設定する中で、日本銀行だけが引き下げるというのはなかなか難しいのでしょうか。

(答)2%の「物価安定の目標」については、従来から申し上げている通り、第一には消費者物価指数が実態よりも高めに出る傾向があるため、その点を考慮しなければならない、つまり消費者物価指数の上昇率がゼロでも実際はデフレなのかもしれないということです。もう一つは、金利政策を円滑に運用するためにも、ある程度の政策の余地が必要であるため、日本銀行のみならず主要先進国の中央銀行は全て2%の「物価安定の目標」を掲げて金融政策を運営しているのが現状です。その結果として、主要国の中央銀行が全て2%の「物価安定の目標」を掲げて政策運営していることが、結果的に主要国間の為替レートを中長期的にみて安定させているという効果があることも事実と思います。いずれにせよ、今申し上げたような理由から、2%の「物価安定の目標」は適切であると考えておりまして、これを引き下げるといったことは考えていません。

(問)金融システムに関連してなのですが、昨今話題になっていますファミリーオフィスの問題も含めてですけれども、ノンバンクに対する金融当局の視線が、特に欧米を中心により厳しくなっているようにみられるのですが、金融システムに与える影響ですとか、総裁の現状認識を伺えればと思います。

(答)最近、FSB、IMF等が、金融システムに関して、特にノンバンクの金融機関がかなり大きなシェアを占めるようになり、その活動、行動が、様々な影響を与え得ると指摘しているのはその通りです。わが国の場合、欧州の大陸諸国とよく似ていて、金融システムにおいて銀行が非常に大きな役割を果たしており、ノンバンクの金融機関が大きなシェアを占めるという形にはなっておりませんが、わが国の金融機関も様々な投融資を行っており、そうした観点から、諸外国のノンバンク、金融機関の活動あるいはその動きが、間接的にわが国の金融機関に影響を与える可能性も高まっています。最近の分析でも示されているように、いわゆる連環性が高まっていることもありますので、単にわが国のノンバンクの動きをモニターするだけでなく、諸外国のそういった動きも十分注意してみていく必要があります。そういう意味で、諸外国の中央銀行との情報交換、意見交換も、密に行っていく必要があると考えています。

(問)2%の目標についてなのですけれども、時間はかかるけれども、物価目標は達成できると考えているとおっしゃっているのですが、既に8年、残りの任期を合わせて10年で政策を総動員しても困難であるということが分かってきたという中で、今後、更に、コロナの下押し圧力があったり、政策の幅も今までよりも限られてくるであろう中で、今までよりももしかしたら困難ではないかという気もするのですけれども、それでも達成できるというふうにおっしゃる、その根拠がどこにあるのかということの説明をお願いします。

また、ETFの買入れの方針を見直されていますけれども、その後のマーケットの動きについてどうみておられるか、あと、これが事実上の出口への一歩なのではないかという受止めもあるようですが、それへのコメントをお願いします。

(答)2%の「物価安定の目標」についてですが、これまでの金融緩和政策がどのような効果を持ってきたかは、点検でかなり定量的に詳しく分析しており、一定の効果を持ってきたことははっきりしていますので、金融緩和策を粘り強く続けることによって、2%の「物価安定の目標」を達成できると考えています。2%に達していないことだけでいえば、リーマンショック後、10年程度経っても、主要国の多くで2%に達していなかったわけですが、だからといって、2%の目標をやめようとか、金融政策の効果がないという議論は全くありません。

それから、ETFについては、市場が大きく動いた時に大規模な買入れを行うことによって、市場の安定を回復できることが点検ではっきりしました。従って、12兆円という新型コロナウイルス感染症の影響が始まったときに拡大した上限を感染症の収束後もずっと続けて、その範囲内でメリハリをつけてETFの買入れを行うということであり、ETFの買入れの出口では全くないということです。

(問)2%目標についてお伺いしたいと思います。今日、たくさんの記者の方から既に2%目標の質問が出ていますが、ここで重ねて質問するのは、総裁が2%を達成できなかった理由として挙げられている根拠というか理由が、あまり説得力がないと思うからです。例えば、原油価格の下落とか、携帯料金の値下げというのは、2、3年の間にそれが理由として挙げられるのだったらともかく、10年間達成できない理由にはならないと思うのです。10年間あれば、その間に携帯料金の値上げもあれば、値下げもあれば、原油価格の下落もある。パンデミックの1回は起きる。10年あれば色々なことがあって、それを前提にした政策決定だったはずです。全くそれが10年間できない理由にはなっていないのと、もう一つは粘着的で適合的な期待形成があるということも理由に挙げられていますが、これも、そんなことはとっくの昔から皆分かっていたよ、という話だと思うのです。それは、黒田総裁が着任される前の白川日銀時代から既にそういうものはあったわけです。それを突破して、黒田バズーカで風穴を開けるというのが異次元緩和だったはずなのに、今更それを粘着的で適合的な期待形成を理由に挙げられても、あまり説得力がないというふうに思います。そもそも、2年で2%を達成するという目標そのものが、無理があったのではないかということと、2013年の4月4日の記者会見で、総裁は、質的・量的緩和でマネタリーベースを目標にするのはなぜかといえば、分かりやすいからだとおっしゃったのですが、結果的には今、イールドカーブ・コントロールやマイナス金利も含めて、これだけ複雑で難解で、とても普通の国民では理解できないような政策枠組みになっているわけです。最初の2013年4月4日の記者会見のときのお考えに立ち戻って、改めてそこに無理があったのではないか、見立てに間違いがあったのではないか、振り返ってどうお考えでしょうか。

(答)演説でなくてご質問だけをお受けしますが、点検の中でもかなり明確に申し上げているように、やはりこの粘着的な適合的期待形成というのは、かなり明確になったということは事実です。これが根っこにあって、様々な一時的な要因が起こったときに、実際の物価上昇率が下落して、それが粘着的な適合的な期待形成と相俟って、一時1.5%程度の物価上昇率、予想物価上昇率になったわけですが、その後低下して、今現在に至っているということでありまして、ご指摘のことは全く当たらないというように考えています。

(問)ETFについてですが、4月はまだ買入れが1回だけということ、今まで続けていた設備投資・人材ETFも買わなくなってきているというのが現状だと思います。マーケットの観測ではあるのですが、TOPIXが0.5%とか1%とか超えた日には今までの例では買っていたものが、4月にはそうではなくなったということで、何らかの方針変更があったかと思われるのですが、その辺りのお考えをお聞かせください。

あと国債の買入れ方針についてですが、4月は3月に比べて買入れ額が減額されています。市場機能の観点から減額したということはあると思いますが、また金利が低下してきている現状、5月以降も減額していくということはあるのかどうかということを併せてお聞かせください。

(答)ETFの買入れにつきましては、点検後の記者会見でも申し上げている通り、12兆円の上限のもとでメリハリをつけた買入れを行うということに尽きます。

国債につきましても、先ほど申し上げたように、基本的に、プラスマイナス0.25%程度の変動幅を明確にして、そのもとで国債市場の機能度が高まるということを期待して行っているということに尽きます。

以上