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総裁記者会見要旨 2021年9月22日(水)
午後3時半から約60分

2021年9月24日
日本銀行

(問)今回の金融政策決定会合の決定内容について、ご説明をお願い致します。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。

また、本日の決定会合では、7月の会合で骨子素案を公表した、気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション(気候変動対応オペ)について、対象先となる金融機関の範囲や、バックファイナンスの対象となる投融資の範囲などの詳細を決定しました。今後、貸付対象先の公募を開始し、初回のオペは12月下旬にオファーする予定です。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、一部に供給制約の影響を受けつつも、増加を続けています。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いています。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が依然として強く、引き続き足踏み状態となっています。住宅投資は持ち直しています。金融環境については、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にあります。先行きのわが国経済を展望すると、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に、感染症の拡大前に比べて低めで推移するものの、ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられます。その後、感染症の影響が収束していけば、所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるもとで、わが国経済は更に成長を続けると予想されます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっています。また、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格などの上昇を反映して小幅のプラスに転じていくと予想されます。その後、経済の改善が続くもとで、携帯電話通信料の引き下げの影響剥落もあって、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響といった点について、不確実性が大きいと考えています。更に、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)緊急事態宣言が延長され、新型コロナウイルスの感染状況は7月の日銀の見通しより悪化しています。改めてですが、感染拡大が経済・物価に与える影響をどうみていらっしゃいますか。また、これまでの経済見通しと何か変わる点がありましたら、お聞かせください。

もう一つは、中国の不動産大手・中国恒大集団が経営破綻のリスクにあると報道されています。現時点で、金融市場に与えるリスクについてどのように認識されていますでしょうか。

(答)まず前段のご質問ですが、感染力が強い、いわゆるデルタ株の急激な流行を背景にして、個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が依然として強く、引き続き足踏み状態となっています。もっとも、企業部門では、輸出や生産の増加を受けて収益が改善し、それが設備投資の持ち直しにつながるという、いわゆる前向きの循環メカニズムが働いています。このため、景気の持ち直し基調は維持されていると考えています。先行きは、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、わが国経済は回復していくと考えています。ワクチンの接種率は既に欧米並みに高まってきています。こうしたもとで、感染抑制と消費活動の両立がより容易になっていけば、個人消費は、ペントアップ需要にも支えられて、再び持ち直していく可能性が高いとみています。この間、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料やエネルギー価格などの一時的な要因を除いた、いわば実力ベースでみると、小幅のプラスで推移しています。経済活動の落ち込みの大きさに比べると、物価の基調は底堅く推移しているといえます。先行きについても、消費者物価指数の基準改定の影響を除けば、経済の改善に伴って徐々に上昇率を高めていくという、基本的な考え方に大きな変化はありません。もとより、以上のような見通しについては、感染症の影響を中心に不確実性が大きいということは認識しています。来月公表する予定の展望レポートに向けて、短観や支店長会議の情報も含め、内外の経済・物価の動向を丹念に点検していきたいと考えています。

二点目の中国の不動産大手企業の債務問題については、先行きの債務返済の帰趨を巡って市場の関心が高まっています。足許では株式市場を中心に国際金融市場で神経質な動きがみられており、そのリスクは認識されていると承知しています。日本銀行としては、同社の債務問題を巡る市場の見方の変化や、それが国際金融市場に及ぼす影響も含めて、引き続き状況を注視してまいりたいと考えています。

(問)二点お願いします。先ほどご指摘のように、企業部門は好調で、ワクチンの接種も進んで、消費は、今後行動制限も緩和されてくるのであれば、回復していくのでは、と思われます。外需と内需のバランスについて伺いたいのですが、これまでは外需が牽引して内需の落ち込みを補っていたと思うのですが、そこのバランスが、少し米中経済が来年減速していく見通しであれば、外需の力が少し弱まって逆に内需の支えを受けるという形になるのでしょうか。また、それが日本の回復、経済回復のタイミングにどう影響を及ぼすのかについて、ご見解をお願いします。

二点目はそれとちょっと関連するのですが、ご指摘のように企業部門では所得から支出への前向きな好循環がはっきりとみえて、先行きもそれが続くように思われるのですが、家計ではなかなかそれが進んでいないようにもみられます。企業から家計へのトリクルダウンというか、家計部門が支出にもっと前向きになるための条件、および消費が本格的に持ち直していくタイミング、これもなかなか読みづらいと思うのですが、現時点での見通しをお聞かせください。

(答)最初のご質問については、ご指摘の通り、また先ほど申し上げた通り、企業部門では比較的明確な好循環がみられるわけですが、消費、家計部門はやや弱い状況です。もちろん、ワクチンの接種率が国民全体で5割を超えていますし、高齢者では8割を超えているという状況で、次第に消費の回復に向けた基盤は整いつつあるとは思います。ご指摘の外需と内需のバランスは、なかなか難しいところです。まず、現在の外需の状況をみると、中国経済はワクチンの普及というよりも、むしろ新型コロナウイルス感染症の収束がかなり早かったこともあって、経済は順調に回復しています。また、米国も色々な指標でみる限り、急速に回復しています。他方、中国の急速な回復が、少し減速していくのではないかという議論はありますが、そもそも中国経済の足許の成長はかなりしっかりしていると思います。また、米国も、変異株の流行で色々な影響が出てきているのではないかと言われますが、実際、経済指標でみる限り、消費も生産もきわめて順調に伸びていますので、今の時点で米中の経済が非常に減速して外需が弱くなっていくという見通しを持つ必要はないと思います。ただ、今の高い成長率は、米中、それから欧州もそうですが、昨年の落ち込みからの回復で前年比が高めに出ているわけです。IMFの見通しでもあるように2022年や2023年も2021年と同じような高い成長率ではないとは思いますが、それでも米国経済は既に感染症流行前の水準に回復していますし、外需については引き続き、比較的しっかりしているのではないかと思っています。成長率自体は、来年、再来年と下がっていくと思いますが、経済全体の回復は比較的順調とIMFなどの国際機関もみていると思います。そうした中で、日本の内需については、企業部門は比較的しっかりしているのですが、家計の消費が、特に対面型サービスを中心になかなか回復してきません。これは、基本的には、感染症の流行に対して緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などがとられていることもありますし、国民全体が外出や外食を抑制するということで、消費が弱くなっているということです。多くのエコノミストも言われているように、ワクチンの普及あるいはその他の措置によって感染症のリスクが低下していくにつれて、消費も回復していくだろうと思っています。

これは二番目のご質問とも関連するわけですが、企業が比較的順調に回復していることの効果が家計に及んでいないのではないかというご意見についてです。日本の場合は、欧米の場合と違い、昨年来、新型コロナウイルス感染症の関係で生産などが落ち込んだ時も、企業は雇用を維持しました。雇用面では比較的しっかりしているわけですが、賃金面では、ベアは依然として続いていますし賃金の上昇はありますが、それが比較的小幅にとどまっている、ということはあると思います。ただ、それが消費の弱さを説明すると言いますか、主たる原因であるとは思いません。貯蓄が非常に増えており、収入が落ち込んだり、足りなくて消費できないということではなく、色々な形で政府の支援などもあり、それから雇用も確保されているということもあって家計の収入はあっても、消費に回らないということです。やはり感染症に対する国民の慎重な行動が消費を抑制しており、特に対面型サービスの外食・宿泊等を抑制しているということだと思います。従って、それが収束するにつれて、俗にいう強制貯蓄がわっと出てきてペントアップ需要で消費が爆発的に拡大する、とまでは言いませんが、ペントアップ需要はあると思っており、感染症が収束するにつれて、消費も力強くなっていくと考えています。

(問)まず、本日気候変動対応オペの詳細を決めたと思いますが、これについてどの程度の利用を見込んでいらっしゃるかということと、総裁としてどういった効果を見込んでいらっしゃるかということを改めてお伺いします。

次に、冒頭の質問にもあった中国恒大集団についてですが、これを過剰債務の問題ととらえた場合に、本当に中国の一企業の特殊な事例なのか氷山の一角なのか、という問題もあろうかと思います。また、世界の金融緩和が景気を支えている一方で、こういった過剰債務を膨らませるというなかなか悩ましい問題もあろうかと思います。そういったバランスについて、総裁がどのようにお考えになっているのか、当局はこういった金融緩和の継続と債務の抑制もしくは発散を抑えることについてどのように取り組むべきとお考えなのかについて、ご見解を伺えればと思います。

(答)最初のご質問について、どういったシステムもしくは形で行うかは、公表資料に詳しく書かれていますので、それでご理解頂けると思います。これに沿ってどの程度利用があるか、具体的にどの程度の規模の気候変動対応オペが実施されるかについては、あくまでも企業・金融機関の対応にかかっています。気候変動対応は、ある意味まだ始まったばかりですので、いきなり巨額のものが出てくるとは思いません。基本的に非常に長期的に必要となる投資もしくは融資をバックファイナンスするということで、今後10年間続けることになっていますので、最終的にはかなりの規模になるでしょうが、本年12月の最初のオペの規模が非常に大きなものになるとは考えていません。なお、その効果については、政府において、2030年度までに温室効果ガスの排出をほぼ半減し、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすると目標を立てて、様々な施策が展開されていく中で、この気候変動対応オペによって、具体的に金融機関が融資をして企業が温室効果ガスの排出を削減するようなプロジェクトを実行していくことで、まさに温室効果ガスの排出が削減されることが最も重要な効果であると思います。もちろん気候変動対応オペがなくても、政府の政策や市場からの様々な影響によって、気候変動対応の投融資は行われると思いますが、この気候変動対応オペがそれを後押しするという効果があるのではないかと期待しています。

二点目の中国恒大集団の影響については、現時点で、コロナ禍のもとでの企業債務の増大がもたらす問題の一例であるとは考えていません。かなり長い期間にわたって中国の不動産業の規模が大きくなってきている中で、この特定企業の債務がかなり膨大になっているということですので、あくまでもこの企業の問題であり、仮に同様の問題があり得るとしても、それはあくまでも中国の不動産業の問題であると思っています。先進国や様々な途上国をみると、不動産業が非常に急激に拡大し、不動産価格が上昇している国もありますが、全てがそうでもありません。これはあくまでもこの当該企業、そして中国の不動産業の問題としてとらえるのが適切ではないかと考えています。もちろん、何かをきっかけにして国際金融市場への影響が出てくるかについては注視していかなければならないと思いますが、今の時点でそういった全体の問題になるとは考えていません。

(問)先ほどから中国恒大集団、そして中国経済についてのお話がありますけれども、中国は今、不動産だけではなくてITですとか、学習塾、ゲーム関連など幅広い産業に対して規制を強化している状況です。この規制によって、中国経済に揺らぎが生じることで、どのくらい日本経済ですとか世界経済に影響があるとみていらっしゃるでしょうか。

次に、自民党総裁選についてですが、総裁選の論戦の中で、候補者から「日銀は雇用をもっとしっかりみてほしい」という意見が出ています。物価の安定に加えまして、雇用の安定も日銀の政策目標にする必要はあると考えていらっしゃるでしょうか。

(答)前段の問題につきましては、外からみての話ですが、中国当局も不動産市況や不動産業の状況について懸念する面もあったのでしょうが、様々な規制など政策的なことを行い、過大な問題が生じないように色々と実施してきておられます。これ自体はある意味で当然といいますか適切なことだと思います。それが何か中国経済全体の成長率、成長力を阻害するということは、あまり考えにくいかと思います。むしろ、一種のバブルみたいなものになり、それが崩壊して経済・金融に影響を及ぼすというようなことがないように、慎重に進めていること自体は好ましいことだと思います。ITやゲーム、学習塾など、最近出てきた話は私どももあまり知りませんし、それがどのような影響を経済全体に持つかということは、今のところはっきりしませんが、当面、日本経済を含む世界経済に何か大きな影響を及ぼすというふうには考えていません。ただ、中国経済は、今や米国に次ぐ経済規模ですから、その状況、動向には引き続き注目していきたいと思っています。

それから、自民党の総裁選につきましては、候補者の見解について何か私からコメントすることはあまり適当ではないので、差し控えたいと思います。そのうえで、日本銀行法は、金融政策運営の理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」と定めていますので、一義的な目標は物価の安定ですけれども、雇用を含めて国民経済が健全に発展するような状況を目指すということは、ある意味で日本銀行法も述べている通りだと思います。ただ、自民党総裁候補者の見解について、私から何かコメントすることは差し控えたいと思います。

(問)黒田総裁は9月29日に歴代総裁として任期最長を迎えられることになります。奇しくも自民党総裁選の投開票日ですが、就任当時アベノミクスを掲げる安倍政権の政治の後押しで就任されたということで、当時の安倍首相やその路線を継承する菅首相も政権を退くことになって、ある意味様々な節目の時期なのかなとも言えます。長期安定型とも言える執行体制のもとで物価目標の2%の達成が難しい中、残りの任期でどこまで効果のある金融政策を進められるのか、昨今の政治的な環境の変化へのご所感を含めて、改めてこれまでの成果の振り返りと今後の目標達成に向けた意気込みを確認できればと思います。

(答)日本銀行法では「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」と、決済その他の金融システムの安定を図ることが二つの大きな目的として掲げられており、日本銀行の金融政策は、あくまでもそれに沿って運営しています。そのもとで、私が2013年3月に就任する前に、同年1月の金融政策決定会合において、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを決定し、政府との「共同声明」にも盛り込まれたわけです。そういうことを踏まえて、これまでも努力してきましたし、今後も引き続き努力していくということに尽きると思います。現在、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」で非常に大幅な金融緩和を粘り強く続けているわけですが、今年に入ってお示しした点検において、これらの政策を実施していなかったらどうなったかということについて、マクロモデルなどを使ったシミュレーションで分析し、経済成長率も物価上昇率も更に低く、雇用もこれほど拡大していなかったということが示されました。これは、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて金融政策を運営してきたことが正しかったということであると思います。ご指摘のように現在の政策委員会の見通しでも、2023年度でも消費者物価上昇率は1%程度で2%に達しないとされています。ただ、粘り強く金融緩和を続けることによって、需給ギャップのマイナス幅を縮小、プラスに転化させ、実際に物価が上がっていけば、いわゆる予想物価上昇率も高まっていきます。この需給ギャップと予想物価上昇率の両者で、2%の「物価安定の目標」を達成できると考えています。

(問)米欧の中央銀行が資産買入れの縮小を表明しているわけですけれども、一方で日銀についてはYCC、長期金利を操作するという異例の形で金融政策を行っているわけです。これが今月でちょうど5年になるわけですが、総裁が振り返られて、その効果、他の中銀が行っていないことを実施しているわけですけれども、その辺りの評価をお伺いしたいと思います。

(答)金融政策の効果が出てくるチャネルは、どこの中央銀行も全て、基本的には名目金利が下がり実質金利が下がって経済の拡大を促し、需給ギャップが縮小していき、更にプラスに転化して、物価が上がっていくということです。それから、米国の場合は予想物価上昇率が2%に比較的アンカーされている一方、他の国ではさほどアンカーされていないわけですが、予想物価上昇率も上がってきて、両者で上がっていくということで、金融政策のチャネルとしては基本的に金利が多いわけです。もちろん、量による効果もあり得るわけですし、特に期待に働きかけるという意味で、資産買入れ額のような量をターゲットにすることも一定の効果がありますが、イールドカーブ・コントロールのように金利を目標にした政策が、金融政策のチャネルを無視したという議論ではありません。そういう中で、わが国の場合、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の形でイールドカーブをコントロールし、超長期金利を下げ過ぎて消費にマイナスの影響を与えない程度の適切なイールドカーブによって、経済を刺激するということを狙って始めたわけです。先ほどもお答えの中で申し上げたように、今年の3月にお示しした点検でも、このイールドカーブ・コントロールがかなり効果を発揮していたことが示されていると思います。世界の中央銀行の中で、金利をターゲットにしているところもありますが、さすがに10年物の長期金利をターゲットにしているのではなく、もう少し中期的な金利をターゲットにしているほか、金利をターゲットにするところは比較的少なくて、むしろ今のところ量をターゲットにしている中央銀行が主要国では多いわけです。かつては、長期金利はいわば短期金利の期待で決まっており、従って短期金利を操作すれば長期金利にも影響を与えられるので、短期金利操作でいいという考え方が比較的長く続いていました。しかし、短期金利が殆どゼロになる、あるいは欧州や日本の場合は政策金利がマイナスになっていますが、そうした中央銀行では、むしろ長期資産を直接買い入れて、長期金利を下げるということに政策の比重が移ってきているわけです。その場合も、長期金利自体を目標にするか、長期債券、国債などの買入れ額をターゲットにするかという違いはあると思いますが、いずれにせよ、かつてのように短期金利、政策金利を操作することによって長期金利も動いて、長期金利が設備投資その他に影響が出て効果が出てくるという考え方は、現実問題として、短期金利がゼロやマイナスになる世界では、あまり有効でなくなっていると思います。従って、それぞれの国の金融や経済の動向に合わせて金融政策がとられているとは思いますが、わが国の場合は、短期金利が非常に低くなっているもとで、直接的に、長期国債を買い入れることを通じて長期金利を低位にすることが有効であるということです。それから先ほど申し上げたように、「総括的な検証」でも点検でも明らかにしましたが、超長期の金利が下がり過ぎると、消費にもマイナスの影響が出得るので、そういう事態とならないような適切なイールドカーブを形成する観点から、今のイールドカーブ・コントロールを行っています。ある意味で、ここまでやっている中央銀行は他にあまり見当たらないのかもしれません。先ほど申し上げたように、中期的な金利をターゲットにしている中央銀行はあるのですが、欧米の主要な中央銀行は皆、量的な調節方針を立てて実施していますので、少しその点は違うかと思います。ただこれは、手段の違い、ターゲットの違いであって、金融政策のチャネルについて全然違うことを考えているわけではないことはご理解頂きたいと思います。

(問)まず、日銀がマイナス金利を続ける中で、コール翌日物の金利の上昇、ゼロに近づいているという指摘が市場の中であります。この点について、総裁はまずどのようにお考えになっているのか教えてください。

次に、ちょっと自民党総裁選と関連してしまうかもしれないのですが、一般論として、「共同声明」について、これは政府と日銀の間で交わされたものだと思うのですが、仮に政府の方から「共同声明」の修正について、総裁は再三2%の必要性というのをご説明されてきていらっしゃいますけれども、政府の方から議論をしようという打診があった場合に、総裁としてはどのようにお考えになるのでしょうか。

(答)前者につきましては、短期金利、コールレートやその他短期金融市場の金利の動きをご覧になって頂くと分かるように、確かに一時的にコールレートが0%に近いところまで上昇したこともありましたが、また下がっていますし、今の時点で何か困ったことになっているという感じは全くありません。短期国債のレートはずっと-0.1%程度で安定していますし、基本的に短期金利の動きが金融政策と矛盾する方向に動いているということは全くないと思います。

それから新総裁あるいは新首相がどうかということについては、やはり政治的な情勢を私からコメントすることは差し控えたいと思いますが、先ほど申し上げたように、「共同声明」自体は、2013年1月に、当時の政府と日本銀行で、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために、それぞれがそれぞれの役割を分担してしっかりと果たし、連携してマクロ経済政策の運営にあたるということを示したものです。この間の政府と日本銀行は、「共同声明」に沿って必要な政策を実施してきたと思いますし、そのことはわが国の経済を支えるうえで大きな役割を果たしてきたと思っています。「共同声明」云々について何か申し上げることはありませんが、日本銀行では引き続きこうした考え方に沿って適切に金融政策運営を行っていきたいと考えています。

(問)まず、景気認識、現状および先行きについて、もう少しお伺いします。7月の会合以降、特に8月、9月と、我々も取材をしている中で、緊急事態宣言の延長であるとか、それによって期待されていたようなペントアップ需要がなかなか起こらないという話、あるいは半導体の供給制約および東南アジアでの変異株等の拡大で生産面での影響も出ているという形で、7月の展望レポートの時に期待していたような回復が後ずれしていくのではないかというような見方を、日銀の中での取材でも伺いました。今日出てきた声明の中で、一部文言の修正や追加はありますが、概ね勝手にこちらが思っていたほど悲観的な内容ではないという印象を持ったのですが、総裁の見解をお願いします。

もう一点は、個別行になってしまうのですが、みずほ銀行のシステム障害が相次いでおりまして、先ほど金融庁の方でも業務改善命令の行政処分について発表があったかと思います。やはり利用者にとってみると、銀行のシステムというのは、基本的には安定して稼働していることが望ましくて、そういったものを期待して利用していると思うのですが、こういった銀行の大きなシステム障害、それから頻発するというところで、それが預金者の銀行というシステムに対する信頼感を損ねたり、ひいては金融システムというものに対する考え方に影響があるのかないのか、そこら辺をどういうふうに今回の問題をみられているのか、お伺いできればと思います。

(答)前段の景気に対する見方ですが、ご指摘の通り、デルタ株が流行する中、緊急事態宣言も延長されて、このようなことになっています。他方、半導体不足に加えて、東南アジアの一部で新型コロナウイルス感染症が拡大して、一時的な工場閉鎖などで部品の供給が滞ったりしたことは事実です。特に感染症が夏にかけてかなり拡大して、人々の外出や外食にかなり影響が出て、対面型サービスを中心に消費が低迷したということは、ある意味で予想外だったと思います。他方で、ワクチンの接種が非常に速く進んで、今や欧米の水準に匹敵するようなところまで来ています。更に、10月、11月には、希望する国民全てがワクチン接種を完了するという状況になるということも踏まえますと、7月、8月に感染症が急拡大して消費に大きな影響が出たことは事実ですが、今の状況をみると、その大きな影響が出たことのみでなく、むしろかなりポジティブな面が加わってきているということも考える必要があると思います。それから半導体不足は、実際は長引いているということはないのですが、加えて東南アジアでの感染拡大による工場閉鎖などで部品の供給が止まった部分があるとか、世界的にみて中国や米国、欧州経済の成長が急速で、自動車を含めてIT関係など需要が急拡大しており、それに生産がなかなか追いついていないという面があることは事実です。もっとも、水準を下げるという意味で問題であった点については、半導体の一部企業が火事にあったりしたものは戻っていますし、東南アジアの一部の国の工場閉鎖もだいぶ戻ってきており、部品の供給が滞っていることも、このまま何か月も続いていくということではないだろうと思います。そういう意味では一時的だろうと思いますが、ただ、東南アジアにおける感染症がどのように収束していくかが分かりませんので、いつまで続くかがはっきりとしないわけです。そういう意味では不確実性が高まっていますし、一部で経済見通しに関して修正したところもみられますが、基本的な循環メカニズムや「持ち直している」という傾向が変わったということではないということです。これは、政府やIMFなどの国際機関の見方も同じだと思います。足許、成長率も少し下方修正になっていますが、基本的な経済の持ち直しのメカニズムは変わっていないと思います。

それから、みずほ銀行は、個別行のことなのでなかなかコメントしづらいのですが、みずほ銀行の一連のシステム障害でかなり多くの顧客に影響が及んだということ、しかも何度も起こっているわけで、これは大変遺憾であり、改めて原因究明と再発防止の徹底が求められるということだと思います。日本銀行としても、金融庁と連携しつつ、実態の把握に努めており、今後とも適切に対応していきたいと考えています。

(問)気候変動対応オペについて伺いたいのですけれども、制度の趣旨として民間金融機関の取り組みを支援するものということで理解はしているのですが、今回公表された基本要領で、貸付対象先の範囲に、公的金融機関、具体的には政投銀が加えられていると思うのですけれども、その理由や狙いがもしあれば教えて頂ければと思います。

(答)これは、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペやその他でも要望があれば対象先に加えていますので、同様に、何か特別に排除すべき理由もありませんので、加えているということに尽きると思います。

(問)先ほどの「共同声明」の質問にも関わる話なのですが、最近、安倍前首相が講演会でこんなことを言っています。コロナ対策では政府・日銀連合軍でやっているので、政府が発行する国債は、日本銀行がほぼ全部買い取ってくれている、ということでした。そして、日本銀行というのは言ってみれば政府の子会社の関係なので、連結決算上、実はこれは政府の債務にもならない、というふうに安倍さんは言っていました。一方で、昨日、立憲民主党がアベノミクス検証委員会で、日銀の異次元緩和は出口戦略がなく、どうやってテーパリング、ソフトランディングをさせるのか見通しが全く立っていない、という指摘をしています。これは、誰が言ったとかどの党が提言したというのは関係なく、この見方というのは両側から存在して論者がいるわけですけれども、この両方の見立てはどちらが正しいのか、あるいはどちらも間違っているのか、総裁はどのようにお考えでしょうか。

(答)政治家の方の発言についてコメントするつもりはありませんが、日本銀行の金融政策は、あくまでも日本銀行法に定められている物価の安定と金融システムの安定を目指して行っているわけです。従って、政府の財政といいますか借金を助けるという目的で行っているわけではありません。他方で、現在行っているイールドカーブ・コントロールのもとで金利を低位においているということは、政府が財政政策という観点から支出を拡大する場合に金利が上がることが防がれるわけですので、そういう意味では、財政政策と金融政策の協調といいますかポリシーミックスが行われていることは事実だと思います。しかし、何度も申し上げますが、日本銀行の金融政策は、あくまでも物価の安定と金融システムの安定を目指している、それに尽きると思います。

(問)日銀が3月に政策を点検して、その後ETFの購入のやり方を大きく見直してからほぼ半年になりますが、この半年間日銀がETFを買ったのは2回、合計約1,400億円にとどまっているものと理解しています。その間の株価の動きを日経平均株価でみますと、いったん2万7千円を割り込む局面もありましたが、その後3万円近くまで回復するなど、こういった動きを見ると、見ようによっては日銀がそれほど買わなくても、株価というのは自律的に反発するものだというふうにも見えなくもないですが、一方で、日銀がいざとなれば年間12兆円を上限に買うと言っていることが、セーフティーネットとして安心感を呼んでいるという見方もあるかと思います。この政策修正をした半年間の株価およびリスク・プレミアムの動きについて、日銀が大きく手を引く中でどういう動きをしたのか、どのようにご覧になっているか、ご所見をお聞かせください。

(答)これは、点検を踏まえてETFの買入れについて述べたことに尽きると思います。要するに、ETFの買入れについては、3月の点検が示したように、市場が大きく変動した場合に、大規模にETF買入れを行うことが効果的であるという分析結果を確認したわけであり、それ以降はこの点検の結果を踏まえて、従来以上にメリハリをつけて実施しているということに尽きると思います。ETF買入れは現在の大規模な金融緩和の一環ですから、ETFの買入れのあり方についても、これだけを取り出して何か違ったことを考えるということはないわけです。あくまでも将来金融政策の目標が達成される、あるいは達成される状況が近づいてきて、金融政策の出口を議論する段階になれば、当然、その一環としてETFの買入れについても出口が検討されると思いますが、現時点ではそういった状況にないわけですので、あくまでも12兆円の上限の範囲内で必要に応じてメリハリをつけて買い入れていきます。これは、リスク・プレミアムが大きく拡大して、資本市場の機能が損なわれることがないようにする効果があると考えています。

以上