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総裁記者会見要旨 2021年12月17日(金)
午後3時半から約60分

2021年12月20日
日本銀行

(問)今日の会合についてご説明をお願いします。

(答)日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、引き続き、中小企業等の資金繰り支援に万全を期す観点から、来年3月末に期限を迎える「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」の一部について、期限を来年9月末まで半年間延長することを全員一致で決定しました。

新型コロナウイルス感染症は、引き続き内外経済に大きな影響を及ぼしていますが、わが国の金融環境は、全体として改善しています。大企業についてみると、CP・社債市場は良好な発行環境となっているほか、貸出市場でも予備的な流動性需要に落ち着きがみられます。中小企業の資金繰りについては、総じてみれば改善傾向にありますが、対面型サービス業など一部には、なお厳しさが残っています。こうした情勢を踏まえ、新型コロナ対応金融支援特別オペ(コロナオペ)のうち、中小企業等向けの資金繰り支援に相当する部分を、半年間延長することとしました。具体的には、コロナオペのプロパー融資分については、現行の取り扱いのまま、期限を半年間延長するとともに、制度融資分についても、付利金利を0%、マクロ加算残高への算入は利用残高相当額としたうえで、バックファイナンス措置として期限を半年間延長します。コロナオペのうち、大企業向けや住宅ローンを中心とする民間債務担保分については、期限通り終了します。また、CP・社債等の買入れ増額措置についても、期限通り終了し、来年4月以降は、感染症拡大前と同程度の買入れペースに戻します。

また、本日の決定会合では、長短金利操作のもとでの金融市場調節方針、長期国債以外の資産の買入れ方針について、これまでの方針を維持することを決定しました。

次に、経済・物価情勢について説明します。わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響による弱い動きが残っているものの、基調としては増加を続けています。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境をみると、感染症の影響から弱い動きが続いています。個人消費は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が幾分和らぐもとで、徐々に持ち直しています。先行きのわが国経済を展望しますと、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられます。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、0%程度となっています。また、予想物価上昇率は、持ち直しています。先行きについては、目先、エネルギー価格の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大していくと予想されます。その後は、一時的な要因による振れを伴いつつも、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調としては徐々に上昇率を高めていくと考えられます。

リスク要因としては、引き続き感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要です。特に、感染抑制と経済活動の両立が円滑に進むかどうか不確実性が高いほか、一部でみられる供給制約の影響が拡大・長期化するリスクにも留意が必要です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)今日の決定会合で、資金繰り支援のコロナ対策について一部見直ししたわけですが、中小企業向け資金繰り支援コロナオペについては、来年9月まで延長ということでして、対面型サービスに一部厳しさが残っているとご指摘されていますけれども、具体的にどのような点をご懸念されているのかご説明ください。

また、米国や英国の方で、物価の上昇を踏まえて金融引締めの動きがありますけれども、日本も原材料高や円安ドル高の進展で原材料価格の上昇が指摘されており、その物価上昇を背景に、日銀としては2%目標を掲げているわけですが、今後どのように政策運営をしていくお考えかを教えてください。

(答)中小企業の資金繰りは、先ほど申し上げたように、総じてみれば改善傾向にありますが、対面型サービスなど一部になお厳しさが残っているということだと思います。例えば、今週公表した12月短観の資金繰り判断DIをみますと、中小企業全体では+8とプラスになっているわけですが、中小企業のうち、感染症の影響を受けやすい「宿泊・飲食」と「対個人サービス」については、それぞれ-33、-11と、なお大きめのマイナスとなっており、改善が遅れています。こうした状況を踏まえ、引き続き、中小企業等の資金繰り支援に万全を期す観点から、コロナオペのうち中小企業支援に相当する部分を半年間延長することとしたわけです。最近では、オミクロンという新たな変異株が発生するなど、感染動向を巡って不確実性の高い状態が続いています。こうした中、年内のこのタイミングでなるべく早く延長を打ち出すことが、感染症の影響を受けやすい中小企業やそれを支える金融機関の安心感につながると考えています。

次に、各国の金融政策に関することですが、各国の金融政策は、自国の経済あるいは物価の安定を目指して行っていますので、経済・物価情勢の差異に応じて金融政策の決定内容や方向性に違いが出るのは当然だと思います。ご指摘の通り、今週、FRBは、資産買入れの減額のペースを加速する決定を行ったほか、ECBは、パンデミック緊急買入れプログラムのもとでの資産買入れの終了を決定しました。また、BOEは、政策金利の引き上げを決定しました。もっとも、これら海外中央銀行の決定が直ちに日本銀行の政策スタンスに影響を及ぼすことはありません。海外のインフレ率をみますと、米国では7%程度、ユーロ圏や英国では5%程度に高まっています。一方、わが国の消費者物価の前年比をみますと、全体として0%程度となっています。もちろん、その中には、携帯電話通信料の引き下げの影響が-1.5%程度の下押し要因になる一方で、エネルギー価格の上昇、昨年のGo To トラベルの裏要因など押し上げ要因が重なっているわけですが、これら一時的な要因やエネルギーを除いたベースの物価上昇率をみても+0.5%程度ということになっており、目標の2%とはなお距離があります。また、先行きの消費者物価を展望しても、前年比上昇率は、日本銀行の現在の見通し期間の終盤である2023年度にかけて徐々に高まっていくとはいえ、1%程度の伸びにとどまると予想しています。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくという方針です。

(問)今の質問に関連してお尋ねしたいのですが、日本と欧米の金融政策の違いが、来年からまた更に鮮明になってくるわけですが、改めて、日銀として金融政策運営上特に注意しなければいけない点、配慮しなければいけない点というのはどういった点にあるか、お考えをお聞かせ頂けますでしょうか。

(答)従来から申し上げているように、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することが日本銀行の物価安定の責務であると認識していますので、それに向けて、必要な金融緩和を粘り強く続けていくということに尽きると思います。その際に、私どもとして重視しているのは、単に物価が上がればよいということではなく、賃金、物価がともに上昇していく中で、物価上昇率が2%に収斂していくことが望ましいと考えています。このため、当然のことながら、経済全般の状況、雇用の状況、雇用者所得、そして特に賃金の動向といったものに十分配慮しながら金融政策を運営していくということに尽きると思います。目標は2%の「物価安定の目標」の達成に尽きますし、その過程で賃金、物価がともに上がっていく、経済全体としてもいわゆる好循環が実現することが、やはり安定的に物価目標を達成するために重要です。そもそも日本銀行法上、日本銀行の使命として、物価の安定を通じて経済の健全な発展をもたらすように努力するということになっていますので、それに沿って、しっかりと必要な金融緩和を続けていきたいと考えています。

(問)今の質問にちょっと重なる部分があるのですが、来年以降、欧米の中央銀行と政策のスタンスの差ができると、どうしても、最近の円安が金利差で更に進むとか、輸入物価の上昇につながったりとか、そういう必需品、一般の人への副作用みたいなものが膨らむ惧れもあるのではないかと考えますが、その辺りはどういうふうにお考えでしょうか。

(答)現在の輸入物価上昇の大きな要因として、石油、天然ガス、その他のエネルギー資源価格が国際的に非常に上昇している点があります。わが国は、エネルギー、石油や天然ガスを殆ど輸入に頼っていますので、それが企業物価の動向にかなり反映されてきています。更に、今、エネルギーだけではなく、鉄鋼などの価格も国際的に上昇し、それが影響しているということがあります。その資源高の原因をみると、やはり世界的に経済活動の再開が進んで需要が大きく拡大する中で起こっており、今のところ、輸出の増加あるいは海外収益の拡大といったプラスの効果の方が、原材料コスト上昇によるマイナスの効果を上回っていると考えています。

それから円安云々についてですが、現在の交易条件の変化に円安が大きく影響していることはないと思いますが、もし為替相場が円安の動きになると、円建ての原材料コストを押し上げる一方、同時に、輸出金額あるいは海外子会社の収益を押し上げることもあります。最近の企業収益の改善動向、あるいは消費者物価の落ち着きを踏まえると、若干の為替の円安は、これまでのところわが国経済にプラスに作用していると思います。今後為替がどのように動くかは色々な状況によりますので、欧米が金融引締め、あるいは金利の引き上げを行ったとしても、必ず円安になるとも限りませんし、また、そうした状況で仮に若干円安になっても、先ほど申し上げたように、現在の状況をみると、むしろわが国経済にプラスに作用すると思います。ご指摘の欧米と日本銀行の金融政策スタンスの違いについては、確かに、欧米はかなりのインフレになっていますので、金融引締め、金融緩和の正常化に動き出しているわけですが、わが国の場合は、物価上昇率は0%程度、色々な一時的な要因やエネルギー価格を除いても+0.5%程度と、2%にはまだ相当遠いわけです。従って、現在の大規模な金融緩和を粘り強く続けていくことは、わが国の経済・物価にとって必要なことだと思いますし、先ほど申し上げたように、それが交易条件の悪化を通じて、日本経済に大きなマイナスになるというような状況ではないと思っています。

(問)先ほどから世界の金融政策のお話が出ていますが、まさに今週世界の中央銀行は政策ウィークだったと思います。その世界の中央銀行、特にアメリカの動向を受けて、日本経済にどのような影響があるとみているか教えてください。

また、もう12月ですので、今年一年を振り返って、特に印象深かった出来事はどういうことでしょうか。経済的なこと、それ以外のことでも結構ですので、教えて頂ければ幸いです。

(答)他国の金融政策についてコメントすることはやや気が引けるのですが、最近の米国経済はきわめて強い回復基調で、既にGDPはコロナ前の水準を超えています。更に、現在の見通しでもかなり強い成長が今後も続くもとで、物価上昇率が7%弱まで上がっています。そしてFOMCの見通しでも、従来の見通しよりも、来年あるいは再来年の物価上昇率が少し引き上げられています。いつまでも今のような上昇が続くとは誰もみていないと思いますが、それにしてもかなりの物価上昇ですから、ここで資産買入れの減少を加速させるわけです。あるいはFOMCのメンバーのドットチャートをみると、多くの人が来年3回の金利引き上げがあるのではないかとみています。これは決まった話ではないのですが、メンバーの多くがそのようにみているということは、逆に言うと、しっかりした経済成長が続き、インフレが抑制されるという、ある意味、より好ましい米国経済の成長経路を実現しようとされていて、おそらくそういうことになると思います。従って、米国の金融政策の調整がわが国経済にとってマイナスになるとは全く考えていません。よく言われている話は、米国のそういう動きが、途上国の金融などに影響を及ぼさないかということです。現状、そのような問題は、よく議論になる特定の途上国において、その国の問題としてはあると思いますが、特にアジアの途上国などはマクロ経済も金融状況もしっかりしていますので、何か今の時点で大きな影響が出てくるとも思えません。全体として、わが国経済にとっても、マイナスということではなく、むしろポジティブにとらえてよいのではないかと考えています。

それから、今年を振り返って――まだ御用納めにはなっていないのですが――、今年の経済は、やはりコロナの影響があって、その中で国・地域毎にばらつきを伴いながら、総じてかなりしっかりとした回復をしています。特に先進国を中心に良い方向に向かっていますが、他方で、欧州を中心に新型コロナウイルス感染症が再び拡大しているということがあります。これが経済活動に大きな影響が出てくると懸念材料になるわけですが、今のところ欧州も、公衆衛生上の措置を限定的なものにとどめ、経済活動の再開は継続していますので、欧米経済はしっかり回復しています。それから新興国でも、特にアジア、ラテンアメリカでは、新規感染者数は概ね抑制されて内需や生産も拡大し、輸出の増加もあって持ち直しているということです。色々議論になる中国経済も、改善ペースは確かに鈍化していますが、基調としては回復を続けています。色々ありましたが、基本的に回復しつつあるということは言えると思います。そういう中で、今年を振り返ってどう思うか、なかなか難しいところではありますが、一言で言えば、わが国でも感染防止と経済活動の両立が進んできて、コロナ克服と経済正常化に向けて、薄日が差してきたというところではないかと思います。欧米の方がもっと強いのですが、そういう感じを持っています。2022年を展望すると、もちろん不確実性はあると思いますが、何よりも感染症の影響が収束して、景気回復が本格化することを願っています。一方で、ポストコロナを見据えて、デジタル化、あるいは脱炭素化へ向けた対応は、政府も相当力を入れていますが、今回の危機を契機に将来の成長につなげていくことも重要かと思います。日本銀行としては、緩和的な金融環境を維持することで、企業等の前向きな取り組みを支援していきたいと考えています。

(問)まず、物価見通しについてですが、メインシナリオは基本的に変わっていないということかと思いますけれども、海外ではインフレの圧力が一段と強まっています。日本の物価も、このメインシナリオよりも上振れるリスクが高まってきているのかどうか、また想定以上にインフレが上振れた場合は、政策対応の備えがあるのかについてお聞かせください。

次に、資産購入についてですが、昨年4月に、長期国債については80兆円の上限を設けない形に修正しましたけれども、最近をみると、前年と比べた増加額は20兆円を下回ってきていまして、短期国債も合わせると、残高は前年同月よりも少ない状況になっています。ETFも同様に、今年の春以降、購入は大きく減っています。総裁は粘り強く緩和を続けるとおっしゃっていますが、実態としては、量的緩和は大きく縮小していると言えるかと思います。2%の目標の達成が遠い中で、こうした購入額の減少について、どういった判断によるものなのか、購入の考え方を教えてください。

(答)まず、物価の上昇について、確かにわが国の場合は、ご承知のように、企業物価は相当に上がってきています。11月には前年比+9%と41年ぶりの上昇になり、基本的に先ほど申し上げた国際的なエネルギーその他の商品価格の上昇を反映しているわけですが、そうしたもとで日本銀行の短観や民間の様々な物価の見通しなどをみますと、従来よりも見通しあるいは予想物価上昇率が少し上昇してきていることは事実です。来年1月の金融政策決定会合は、展望レポートをまとめる機会ですので、その際に政策委員会のメンバーから、経済・物価の見通しやリスクバランスを聞くことになります。前回の展望レポートですと、物価上昇率については、ダウンサイドリスクの方が大きいという見方が多かったわけですが、中心的な見通しがどのくらい上がるのか上がらないのか、仮に上がらないとしてもダウンサイドリスクよりもアップサイドリスクの方が大きいのか、あるいはニュートラルになるのか、今後の動向をみながら政策委員会で十分議論していくことになると思います。先ほど申し上げた、足許、実力ベースで+0.5%、携帯電話通信料の引き下げやエネルギー価格の上昇その他全部を入れたところで0%程度というものが、少しずつ年度末にかけて上がっていき、更に新年度からは、携帯電話通信料が今年4月に下がった分が剥げ落ちますので、その分、引き上げに効いてくる可能性もあります。他方で、エネルギー価格はどんどん上がっていくのではなく、だんだん上昇率も下がってきています。あるいは、Go To トラベルが再開されると消費者物価の引き下げの方に効いてくるなど、様々な要素がありますので、今から決め打ちはできません。ご指摘の通り、これまでのように常に下振れるというダウンサイドリスクばかりではなく、アップサイドリスクがあるかもしれませんが、2%に及ぶもしくは超えるといった欧米のようなことになる可能性はまずないと思います。従って、欧米のように金融政策の正常化に向けて動き出すということにはならないと思います。

資産買入れについては、ご承知のように「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」ということで、英語でイールドカーブ・コントロールと言っていますが、短期の政策金利を-0.1%、10年物国債金利をゼロ%程度で適切なイールドカーブを描くということで実施してきています。そのために必要なだけ国債を購入することにより、現時点で適切なイールドカーブが実現されていると思いますので、金融緩和を縮小している、もしくは正常化のプロセスに入っているといったことは全くありません。従来通りの金融緩和を続けているということです。また、ETFやJ-REITについては、政策決定後の公表文などでも申し上げている通り、大きく変動したときに大量に買い入れることが非常に効果があると分かっていますので、そういったときには思い切った購入をしますが、そうでないときにはメリハリをつけた形で購入していくということが一番適切だと思います。それによって、リスク・プレミアムの拡大を防ぐということで、現実にもリスク・プレミアムの拡大は防がれていますし、今後ともリスク・プレミアムが上昇するようなときには、もちろん思い切って大幅なETFやJ-REITの買入れも行うということに尽きると思います。

(問)まず、今回、社債とCPの買入れについては、4月以降は感染症拡大前の水準へと徐々に引き下げていくとのことですが、どういうペースで、大体どれぐらいの期間でコロナ前の水準に戻していくのかについて、少し具体的に教えてください。

次に、この間、総裁から国会で、消費者物価の伸びが2%に近づく可能性があるとの言及がありました。短観の企業物価見通しでも、1年後の物価見通しが1%を超えるなど、少し企業の物価観にも変化がみられるように思います。とはいえ、先ほど来おっしゃっているように、物価と賃金の好循環がしっかり実現しないのであれば、仮に消費者物価が2%に近づいても、緩和の修正はしないということでよいのか、また、コロナオペについて、こうして部分的とはいえ一部終了している中で、コロナ対応から物価目標の実現へ政策の議論が戻っていく期待もあるのですけれども、そうなると例えばフォワードガイダンスを見直すということが来年視野に入ってくるのか、その辺りをお願いします。

(答)CP・社債の買入れについては、購入を大幅に拡大したものをコロナ以前に戻すということですので、買入れのペースは緩やかなものになります。CPは短期ですので半年くらいでコロナ前のレベルに戻ると思いますが、社債は5年までの社債を買っていますので、元のレベルに戻るには5年くらいかかると思います。非常に緩やかに残高が収斂していくということだと思います。

短観の販売価格判断DIあるいは仕入価格判断DI、それから民間の様々な物価見通しや予想物価上昇率の動きなどをみると、全体としてじわっと上がってきていることは事実です。ただ、それで2%がもう間近になっているというものではありませんので、従来から続けている「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」はしっかり粘り強く続けていきますし、現在のフォワードガイダンスも維持していくということです。更に言えば、先ほども申し上げた通り、必要に応じて躊躇なく追加的な金融緩和措置も講じますし、政策金利については、現在の長短金利の水準またはそれを下回る水準で推移することを想定していることも全く変わりません。それ自身は、実は「特別プログラム」で資金繰り支援を大量に実施していた際も続いていたわけです。そのうえに資金繰り支援の臨時的な措置を講じたところ、これは日本銀行の努力だけではなくて、政府の努力、それから金融機関の努力もあって成果を上げて、資金繰りは非常にスムーズにいきました。ご承知のように企業の倒産等もむしろ歴史的にみて非常に低い水準で推移しており、非常にうまくいったと思います。そして、そのニーズが減ってきた分、もちろん今回のようにCP・社債の買入れを元に戻す、あるいは大企業を中心としたコロナオペの一部を来年3月で終えるといったことはしますが、あくまでも2%の「物価安定の目標」に向けて行っている「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」やフォワードガイダンス、先ほど申し上げたような躊躇なく追加緩和をする用意があるということは一貫しており、それが今後も続いていくということであって、何か金融政策の焦点が変わるといったことではないと思います。

(問)先ほど総裁から、薄日が差してきた、というお話がありましたが、やはり気になるのはオミクロン株だと思います。オミクロン株の新たな不確実性のもとで、今回、コロナオペは、中小企業向けはなるべく早く打ち出すことで安心感につながるというお話もありました。今後、まだ影響が顕在化していないと思うのですが、オミクロン株の日本経済に与えるリスクシナリオをどう考えていらっしゃるか、それから、どういった点を注意して日銀としてみていきたいかをお願いします。

(答)オミクロン株については、ご承知のように、感染力が高い一方で重症化率は低いという指摘が聞かれていますが、ワクチンの効果等も含めて、現時点ではまだ未解明なところが多いわけです。従って、これが経済に及ぼす影響を見極めることは難しいと思いますが、これまでのところ、消費関連企業からは、オミクロン株の発生によって消費者の行動に大きな変化が生じているという話はまだ聞いていません。日本銀行としては、オミクロン株も含めた感染症の動向、それが内外経済に与える影響について、引き続き注視していくということに尽きると思います。そのうえで、先ほど来申し上げているように、必要と判断すれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるという考えに全く変わりありません。

(問)資金繰り支援の延長に関して、新型コロナオペのプロパー分の取り扱いについてなのですが、今回のインセンティブの見直しでも、従来通り0.2%の付利ですとか日銀当座預金への優遇措置を維持して延長しました。この判断は、その制度の趣旨通りといいますか、金融機関やコロナの影響が残る企業に対して、自らリスクを負った資金手当てを日銀としても促したいというように受け止めてよいのか、プロパー分の条件を据え置いた背景ですとか、狙いを伺えればと思います。

(答)まさにその通りです。ご案内のように、政府の支援制度のサポートによる融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」は、基本的に今年の3月で新規受付けが終わっているわけですが、プロパー融資の方は、まさに金融機関がリスクを取って、中小企業の資金繰りを助けている、あるいは企業の存続を助けているというものです。特に中小企業の一部、対面型サービス業を中心に、資金繰りの厳しいところが残っているわけですので、引き続き、金融機関にリスクを取ってもらい企業の資金繰りを助けてもらうことは重要だと考えています。このため、プロパー融資分は、来年の3月までではなく9月まで半年間延長して、引き続き支援していきたいと考えています。オミクロン株の不確実性がまだ残っていますので、特にその影響を受ける可能性のある対面型サービスの中小企業のことを考えると、やはり、この際、あと6か月、今からですと9か月ですけれども、延長して金融機関による資金繰り支援をサポートするということは非常に重要だと考えて決定しました。

(問)先ほどの質問と少し重なるところもあるのですが、総裁にお伺いしたいのは、来年にかけて仮に物価がコストプッシュで上がっていって、CPIが色々な要因で動く中で、家計の実感が物価上昇を嫌悪するとか消費活動に影響するようなことになって、例えば消費が減少するとか弱まるといったときに、なかなか賃金はすぐには上がってこないと思うので、そういった状況になった場合は、日銀として対応する余地があるのか、それとも政府が対応すべきところなのか、お願いします。

(答)それは大変微妙なところであり、例えば、米国のFRBは、物価の安定とともに雇用の極大化も目標に入っています。他方で、殆どの中央銀行は物価の安定は目標に入っていますが、雇用の極大化は入っていませんし、日本銀行も入っていません。ただ、先ほど来申し上げているように、日本銀行法が「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を使命としていることから言って、ただただ物価が上がればよいということではなく、あくまでも賃金、物価の両方が上がっていく中で、2%の「物価安定の目標」が実現されることが好ましいわけです。ここからは日本銀行政策委員会としての公式の議論ではありませんが、2%の「物価安定の目標」が実現されて、日本経済の成長率といいますか労働生産性上昇率が1%強あるとすれば、賃金は3%程度上がっていかないといけません。そのように物価が上がり、賃金も上がっていって、実質賃金も上がっていくという形で、2%の「物価安定の目標」が達成されることが望ましいわけで、それに向けて私どもも努力しますが、やはり何といっても、賃上げ企業に対する法人税の減税など政府が様々な形で賃上げを促進しようとされていることは、非常に好ましいことだと思っています。それから、ごく一時的な要因で物価が上がっているときに、すぐに金融を引き締めることは好ましくないと思います。やはり金融緩和によって経済活動が活発になり、企業収益も増えて雇用も増え、雇用が増えるところで賃金も上がっていくわけですから、そういう意味では、私どもとしては、やはり賃金、物価の両者がいわば好循環の中で上がっていくという形になるように、金融政策として最大限の努力をし、他方で、もちろんご指摘のような政府の政策も大変有効だと思いますので、それはしっかりと実施して頂くと有り難いと思っています。

(問)今週レポマーケットの方で、日銀としても対応というかオペをしていますけれども、改めて総裁の短期金利についてのコントロールや短期金融市場の動きについて教えて頂けますでしょうか。

(答)久方ぶりに実施したので、皆さんびっくりされたのかもしれません。レポ金利が少し急激に上がったので――そうは言っても別にプラスになったわけではないですが――、マイナスの範囲内でもかなり急激に上がったので、適切でないということであのような措置をとったということです。今のイールドカーブ・コントロールのもとで、短期金利を-0.1%程度、10年物国債金利をゼロ%程度とすることが政策の要諦ですので、短期金利が上がり過ぎるということが仮にあれば、今後も必要に応じてそうした措置をとるということだと思います。

(問)金融政策、経済の話ではなく、日銀の理事の話なのですが、今、枠が6個あって、そのうちの一つに必ず財務省の方が来られていると思います。別に日銀法で決められているわけではないし、優秀な方が来ているというのは承知しているのですけれども、専門家でない方が来て、調査統計局担当の理事をされていると思うのですが、やはり、現状の日銀のプロパーの方のインセンティブを高めるということから考えれば、財務省の枠を日銀に譲る、やはりプロパーの総裁にはできないので、財務省出身の黒田総裁にしか決断できないと思うのですけれども、その辺をどういうふうにみられているかお伺いします。

(答)現在の6人の理事の任命権は財務大臣にあります。もちろん、私どもからこういう人が望ましいとか色々なことは申し上げられますが、これはあくまでも財務大臣が決めることですので、私が何かそれ以上のことを申し上げるつもりはありません。

(問)円安につきまして、総裁、先ほど、プラスの効果がマイナスの効果を上回っているとおっしゃいました。確かに、企業収益が上がる側面はあると思いますけれども、賃金が上がらない中で、家計の方に着目しますとマイナスの効果の方が大きいという議論もあり得ると思います。そこで、政策委員の皆さんが円安はプラスの効果が大きいということで見解が一致しているのか、それとも、他にも意見を持っていらっしゃる方がいるのか、委員会内部の議論についてご紹介頂ければと思います。

(答)委員会内部の議論は、ご承知のように、議事要旨や、その前の「主な意見」で議論になったポイントが公表されますので、それをご覧になって頂くとよいと思います。いずれにしても、為替については、第一に、為替政策や介入政策は政府の役割です。私どもとしては、もちろん、為替レートのチャネルを通じて経済・金融に様々な影響が出ますので、その動きを十分フォローしていく必要があるとは考えています。先ほど申し上げたように、そうした面では、現時点で、円安が経済全体にとってマイナスになるような状況ではないと考えています。企業収益が縮めば賃上げの余地も縮んでしまいますし、円高になり輸入する財の価格が下がったとしても、賃金、物価その他様々な要素に影響が出ますので、家計に必ずプラスになるわけでもありません。従って、そういうものを全体としてみると、今のところ円安は経済にマイナスというよりもむしろプラスの面が大きいということだと思います。

(問)イールドカーブ・コントロールについてお伺いしたいと思います。この政策を導入してから既に5年以上経過したわけですけれども、この間、パンデミックの危機対応みたいなものもありましたが、欧米の中央銀行でこの政策を採用したところはありません。このイールドカーブ・コントロールがむしろ長期にわたって低金利予想を定着させて、それがその低成長・低インフレ・低金利のいわゆる「日本化」のようなものを深化させているという、そういう見方もできるわけですけれども、だから欧米の中央銀行は導入しなかったのではないかという見方もできるわけです。これについて総裁はどうお考えなのかということと、こういう問題意識で日銀の中で議論されていることはないのかお伺いします。

(答)まず、ご指摘のようなことは全く考えていません。今言われたようなことは、各国の中央銀行にせよ、様々なエコノミストでもそういう議論をしている人はいないと思います。それから、世界の中央銀行の中にはイールドカーブ・コントロールを入れたところもありました。ただ、その国の物価が非常に上がってきたので、金利を上げ、イールドカーブを低位に置くことをやめています。それはその国の経済・物価情勢に合わせて行われたということであり、イールドカーブ・コントロールが異常な政策ということでは全くないと思います。ちなみに、量的緩和は日本銀行が始めて、その後、殆ど世界中の中央銀行が導入しました。それから、フォワードガイダンスも日本銀行が最初に導入して、世界に拡がりました。ただ、最近になって、途上国や一部の規模の小さなオープンエコノミーの中で、あまりフォワードガイダンスでコミットするのもどうかという議論が出ていることは事実です。従って、様々な金融政策のツールについて色々なことが言われることは当然だと思いますけれども、今言われたようなこと、つまり金利を下げると経済成長率や物価上昇率が下がるという議論をする人はあまりいないかと思います。

以上